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私を守る人 貴方を守る人」(2023/03/06 (月) 23:00:24) の最新版変更点

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『私を守る人 貴方を守る人』 私は今、家路を急いでいる。 別に特別なことがあるわけではない。この現実をはやく忘れてしまいたい。 「ただいま!」 「お帰り~」 のんびりした声で、同居人のこなたが言う。 「ふぅ…外で軽く食べてきたから、ご飯は少しでいいわ」 「ほ~い」 私は今、とある法律事務所で弁護士として働いている。 法律が改正され、法科大学院が多くの大学に新設された。私の母校の場合、もともと司法試験の合格者を輩出することに力を入れていたせいか、 かなり合格率が高い大学院として有名だった。 もっとも、授業はとても厳しく、挫折しそうになったことは一度や二度ではない。 だがそんな時、励ましてくれた人がいた。 「かがみが弁護士になって活躍するの、楽しみにしてるよ~」 「あれだけ私にイジられてキレなかったんだから、メンタル面は強い方だと思うよ」 「もしダメだったとしても命まで取られるわけじゃないし、何とかなるよ」 その人は、こなただった。 こなたの励ましが無かったら、私は実家に逃げ帰っていたかもしれない。こなたがいてくれたから合格できたと今でも思っている。 本人に言うと調子に乗りそうなので、黙っているのだが。 今、こなたは私と同居している。 こなたの勤務先と私の事務所が近いので、一緒に暮らそうということになった。 最初は家事の分担や、生活習慣の違いなどでケンカになったこともあったが、今はお互いに妥協点を見つけ、仲良くやっている。 「ごはんと、煮物と…あとはビールでいいかな」 「あぁ…ありがと…」 こなたの手作りの食事に箸をつける。 「…おいしい」 「ねぇねぇ、ちょっとダシ替えてみたんだけどさ、口に合うかな?」 「うん…すごく、いい…」 黙々と箸を動かす私。 やはり、こなたの作る食事が一番美味しい。 実家の食事も大好きだが、今はこなたが作ってくれた料理のほうが気に入っている。 単純に料理の腕がいいだけでなく、気持ちがこもっている。これは食べた人間にしか分からないだろう。 キンキンに冷えたビールを喉の奥に流し込んだ。 「…ふぅ」 「かがみ~ん、どうしたの、今日はなんか元気ないよ~」 「…ねぇ、こなた、この世に正義って本当にあるのかな?」 「え?」 個人情報の保護など、頭には全くなかった。 私は今日起きたことを、こなたに打ち明けた。 結論を言うと、本来は救われるべき人がさらに傷ついて、裁かれるべき人間が、堂々と表を歩いて、 遊んでいられる身分のまま放置される、ということになってしまった。 正直、若手の私に、こんなきつい案件が来るとは思っていなかった。とは言え、仕事を選べる身分でもないので、やれるだけのことはやった。 決して仕事に間違いがあったわけではない。こうするしか選択肢はなかったのだ。 「そんな事が…」 「これ、全部実話なのよ。信じられる?この日本で実際に起こってる事なのよ」 こなたは呆然とした表情で、私の説明を聞いた。 「依頼人からの仕事をきっちりやるのがプロなんだけど…でも、今日ほど世の中間違ってるって思ったことは無いわ…」 「…」 「…ふぅ」 しばらく沈黙が続く。こなたは私の話がショックだったのか、空になったグラスをぼんやりと見つめている。 「…本当に、これで良かったのかな?」 「ん?」 こなたが顔を上げた。 「私はね、弱い人を守る立場になりたいって思って、司法試験を受けたんだ。お金儲けとか、社会的地位とか、どうでも良かったの。 ドラマみたいな理由だけど、あの頃は本気でそう思ってたわ」 「毎日かなーり勉強してたんだよね」 「うん…恋愛とか遊びとか、かなりのものを犠牲にしたわ。絶対に合格するんだって心に決めて、勉強漬けの生活だった。朝も夜も関係なくね」 「で、一発で通っちゃったんだからさ、素晴らしいじゃなーい」 「…嬉しいわ。そう言ってくれて」 私は瓶に残ったビールをグラスに注ぎ込むと、一気に飲み干した。 「ぷはー!!」 「かがみぃ、それじゃおじさんだよ…」 「ん、あぁ、気にしない気にしない」 そう言って、ぼんやり天井を眺めた。 「ねぇ、こなた?」 「ん?」 「私さ、本当にこういう生き方でよかったのかな?」 何となく聞いてみた。 「ん…、私はね…かがみには今の仕事続けて欲しいって思ってるんだ。きれいごとばかりの世界じゃないんだろうけど…」 「…」 「かがみが合格したときさ、真っ先に私に教えてくれたじゃん。あれ、結構嬉しかったんだよ」 「あぁ…そう言えば」 「最近のかがみを見てるとすごく生き生きしてるから、私も元気になってくるんだよ。週末仕事がある日でも、 かがみも頑張ってるんだからって思って会社に行ってるんだ」 「そうなの…」 「かがみは優しすぎるんだよ。そこがいいところでもあるんだけどさ、今の世の中、モラルも人情も無いろくでなしが 権力やお金持ってたりするから、そういう連中からいいように扱われないためにも、いい意味での無神経さも必要だと思うんだよね~」 「…あんたって、アニメやゲームしか興味ないと思ったら、結構色々考えてるのね」 「む、失礼だな。私だっていつまでも子供じゃないよ」 そう言って頬を膨らませる。こういうところは子供のままだ。 「…まぁ、今日は遅いからもう寝ようか。明日も早いんでしょ?」 「え、あ、うん…そうね」 「じゃあお風呂沸いてるから入ってきなよ。私は先に寝てるから」 「うん…わかった。おやすみ…」 「おやすみ~」 こなたはそう言うと、目をこすりながら寝室へ入っていった。 (優しすぎる、か…) こなたが言った事を思い出しながら、私は机の上にある食器をぼんやり眺めていた。 (あいつ、どんどん人間として成長しているな…私の方が子供なのかな…) 次の日も、その次の日も、仕事はどんどん舞い込んできた。 ひとつの問題が片付くと、また別の問題がやってくる。そんな事の繰り返しだ。 (こうやって年を重ねていくのかな) ふとそんなことを思った。仕事一筋で生きている人間もいるが、私はそういう生き方は望んでいない。 自分を支えてくれる、必要としてくれる、そんな人の為に生きたい…。 だが、人は簡単には変われない。朝から夜まで仕事に追われる毎日が続いた。 こなたとも必要最低限の会話しかなく、互いに仕事のことで精一杯だった。 家に帰っても、こなたは先に寝ていたり、残業で遅くなったり、二人で食事する時間もほとんど取れなかった。 休日は二人とも寝ていることが多く、時々近所の本屋へ行く程度だった。 そして、数ヶ月の月日が流れた。 「ただいま~」 「おかえりぃーーー!かがみ様ーーーー!!!」 こなたの大声と同時に、クラッカーの爆発音が鳴った。 「うわっ!何よいきなり!!」 「ふふ~ん、今日は何の日か覚えてないのー?」 「え?あ…」 今日は、私の誕生日。 昔は家族がプレゼントをくれて、ケーキを食べたりしてお祝いしてもらった。 それがごく普通のことだったのに、大学へ行ってからは、ほとんど一人で誕生日を迎えていた。 お祝いのメッセージや、プレゼントをくれた友人もいたが、彼女たちとは卒業後、一度も顔を合わせていない。 今考えると、それほど深い付き合いではなかったと思う。 社会人になってからは、誕生日があったことすら忘れていた。 「こなた…覚えていてくれたの?」 「当然じゃん。かがみが私の誕生日を覚えてくれていたんだから、このくらいしなきゃ罰が当たるよ」 「あぁ…そう言えば。でも、私はハンカチ一枚あげただけだし、ここまでは…」 「かがみん…あのハンカチ、どれだけ嬉しかったと思う?辛い仕事漬けの生活の中、ふっと優しくしてくれるかがみん… これで落ちない奴ぁ人間じゃなあぁい!!」 「そ、そうなんだ……買ってきた甲斐があったわ」 「普段はデキる女、ときどきツンツン、ときどきデレる。そんなかがみん激萌え~~」 「何度言われても慣れないわ、それ…」 こなたらしい言い回しに、口では不満を言いながらも、内心ちょっとカワイイと思った。 テーブルの上には、豪華な料理が並べられ、いい匂いが漂っている。 「本当に、嬉しいな…」 「ささ、冷めちゃう前に早く食べましょー」 その日の夜は、お互いに色々話して盛り上がった。 仕事の愚痴、会社の悪口、アニメやラノベの話題、ゲームの話…。 気がつけば、あっという間に寝る時間になってしまった。 「あ…もうこんな時間…」 「そろそろ寝ましょうか…」 そう言ってお皿を持って立ち上がった。 「ストーップ!!片付けは私がやっておくよ!お風呂入ってきなよ」 「え…いいの?」 「当然、今日の主役を働かせちゃ悪いよ…」 かがみがシャワーを浴びる音が聞こえてくる。 私は流しで食器を洗いながら、ぼんやりと考え事をしていた。 (私って、かがみからどう思われているのかな) 私よりいい大学を出て、私より高収入で、おそらく職場でも頼られているだろう。 美人で頭が良くて、性格もいい。 でも完璧じゃない。どこか抜けている。しかもツンデレ。 (男だったら、惚れてただろうな…なんで女に生まれてきたんだろう) どうしようもないことを考えてしまった。今の自分を否定したところで、何も解決しないのに。 劣等感を感じやすい性分なのだろうか。 かがみは立派だと思うし、尊敬している。でも心のどこかで嫉妬しているのかもしれない。 私と一緒にいてくれる、友達として接してくれる、優しいかがみ…。 何だろう、この気持ち…。 「ふぅ…さっぱりした!」 かがみがお風呂から上がってきた。 頭と体にタオルを巻いて、細くて長い足がヒザの上まで見えている。 「湯上りのかがみん…1000ポイント!」 「あ~…おもしろいおもしろい」 「あぁん、もっとツンデレなリアクションしてくれなきゃ!かがみの商品価値が下がっちゃうよ~」 「はいはい、ご期待に沿えず申し訳ございませんでした。ツッコむ気力もございませ~ん」 「そうですか…ま、倒れないようにね。私も時々仕事抜けたりしてるし」 「相変わらず要領いいな…怒られても知らないわよ」 「大丈夫だよ~」 「ま、いいけど。とりあえず今日は寝るわ。おやすみ」 「おやすみ~」 かがみと一緒に過ごしているときが、一番楽しい。 片づけを終えた私は、キッチンでぼんやりしていた。 もう少しゆっくり出来る時間が欲しい。二人っきりで色々としたいのに…。 部屋の隅に、最近買った漫画が置いてある。二人の女の子が互いを守り、助け合いながら世知辛い世の中を生きていくという話だ。 パラパラめくっていくと、夫婦にしか見えない女の子達の世界が描かれている。 (私、何かあったら、かがみを守れるのかな…) 夜は更けていく。 (続く) **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
『私を守る人 貴方を守る人』 私は今、家路を急いでいる。 別に特別なことがあるわけではない。この現実をはやく忘れてしまいたい。 「ただいま!」 「お帰り~」 のんびりした声で、同居人のこなたが言う。 「ふぅ…外で軽く食べてきたから、ご飯は少しでいいわ」 「ほ~い」 私は今、とある法律事務所で弁護士として働いている。 法律が改正され、法科大学院が多くの大学に新設された。私の母校の場合、もともと司法試験の合格者を輩出することに力を入れていたせいか、 かなり合格率が高い大学院として有名だった。 もっとも、授業はとても厳しく、挫折しそうになったことは一度や二度ではない。 だがそんな時、励ましてくれた人がいた。 「かがみが弁護士になって活躍するの、楽しみにしてるよ~」 「あれだけ私にイジられてキレなかったんだから、メンタル面は強い方だと思うよ」 「もしダメだったとしても命まで取られるわけじゃないし、何とかなるよ」 その人は、こなただった。 こなたの励ましが無かったら、私は実家に逃げ帰っていたかもしれない。こなたがいてくれたから合格できたと今でも思っている。 本人に言うと調子に乗りそうなので、黙っているのだが。 今、こなたは私と同居している。 こなたの勤務先と私の事務所が近いので、一緒に暮らそうということになった。 最初は家事の分担や、生活習慣の違いなどでケンカになったこともあったが、今はお互いに妥協点を見つけ、仲良くやっている。 「ごはんと、煮物と…あとはビールでいいかな」 「あぁ…ありがと…」 こなたの手作りの食事に箸をつける。 「…おいしい」 「ねぇねぇ、ちょっとダシ替えてみたんだけどさ、口に合うかな?」 「うん…すごく、いい…」 黙々と箸を動かす私。 やはり、こなたの作る食事が一番美味しい。 実家の食事も大好きだが、今はこなたが作ってくれた料理のほうが気に入っている。 単純に料理の腕がいいだけでなく、気持ちがこもっている。これは食べた人間にしか分からないだろう。 キンキンに冷えたビールを喉の奥に流し込んだ。 「…ふぅ」 「かがみ~ん、どうしたの、今日はなんか元気ないよ~」 「…ねぇ、こなた、この世に正義って本当にあるのかな?」 「え?」 個人情報の保護など、頭には全くなかった。 私は今日起きたことを、こなたに打ち明けた。 結論を言うと、本来は救われるべき人がさらに傷ついて、裁かれるべき人間が、堂々と表を歩いて、 遊んでいられる身分のまま放置される、ということになってしまった。 正直、若手の私に、こんなきつい案件が来るとは思っていなかった。とは言え、仕事を選べる身分でもないので、やれるだけのことはやった。 決して仕事に間違いがあったわけではない。こうするしか選択肢はなかったのだ。 「そんな事が…」 「これ、全部実話なのよ。信じられる?この日本で実際に起こってる事なのよ」 こなたは呆然とした表情で、私の説明を聞いた。 「依頼人からの仕事をきっちりやるのがプロなんだけど…でも、今日ほど世の中間違ってるって思ったことは無いわ…」 「…」 「…ふぅ」 しばらく沈黙が続く。こなたは私の話がショックだったのか、空になったグラスをぼんやりと見つめている。 「…本当に、これで良かったのかな?」 「ん?」 こなたが顔を上げた。 「私はね、弱い人を守る立場になりたいって思って、司法試験を受けたんだ。お金儲けとか、社会的地位とか、どうでも良かったの。 ドラマみたいな理由だけど、あの頃は本気でそう思ってたわ」 「毎日かなーり勉強してたんだよね」 「うん…恋愛とか遊びとか、かなりのものを犠牲にしたわ。絶対に合格するんだって心に決めて、勉強漬けの生活だった。朝も夜も関係なくね」 「で、一発で通っちゃったんだからさ、素晴らしいじゃなーい」 「…嬉しいわ。そう言ってくれて」 私は瓶に残ったビールをグラスに注ぎ込むと、一気に飲み干した。 「ぷはー!!」 「かがみぃ、それじゃおじさんだよ…」 「ん、あぁ、気にしない気にしない」 そう言って、ぼんやり天井を眺めた。 「ねぇ、こなた?」 「ん?」 「私さ、本当にこういう生き方でよかったのかな?」 何となく聞いてみた。 「ん…、私はね…かがみには今の仕事続けて欲しいって思ってるんだ。きれいごとばかりの世界じゃないんだろうけど…」 「…」 「かがみが合格したときさ、真っ先に私に教えてくれたじゃん。あれ、結構嬉しかったんだよ」 「あぁ…そう言えば」 「最近のかがみを見てるとすごく生き生きしてるから、私も元気になってくるんだよ。週末仕事がある日でも、 かがみも頑張ってるんだからって思って会社に行ってるんだ」 「そうなの…」 「かがみは優しすぎるんだよ。そこがいいところでもあるんだけどさ、今の世の中、モラルも人情も無いろくでなしが 権力やお金持ってたりするから、そういう連中からいいように扱われないためにも、いい意味での無神経さも必要だと思うんだよね~」 「…あんたって、アニメやゲームしか興味ないと思ったら、結構色々考えてるのね」 「む、失礼だな。私だっていつまでも子供じゃないよ」 そう言って頬を膨らませる。こういうところは子供のままだ。 「…まぁ、今日は遅いからもう寝ようか。明日も早いんでしょ?」 「え、あ、うん…そうね」 「じゃあお風呂沸いてるから入ってきなよ。私は先に寝てるから」 「うん…わかった。おやすみ…」 「おやすみ~」 こなたはそう言うと、目をこすりながら寝室へ入っていった。 (優しすぎる、か…) こなたが言った事を思い出しながら、私は机の上にある食器をぼんやり眺めていた。 (あいつ、どんどん人間として成長しているな…私の方が子供なのかな…) 次の日も、その次の日も、仕事はどんどん舞い込んできた。 ひとつの問題が片付くと、また別の問題がやってくる。そんな事の繰り返しだ。 (こうやって年を重ねていくのかな) ふとそんなことを思った。仕事一筋で生きている人間もいるが、私はそういう生き方は望んでいない。 自分を支えてくれる、必要としてくれる、そんな人の為に生きたい…。 だが、人は簡単には変われない。朝から夜まで仕事に追われる毎日が続いた。 こなたとも必要最低限の会話しかなく、互いに仕事のことで精一杯だった。 家に帰っても、こなたは先に寝ていたり、残業で遅くなったり、二人で食事する時間もほとんど取れなかった。 休日は二人とも寝ていることが多く、時々近所の本屋へ行く程度だった。 そして、数ヶ月の月日が流れた。 「ただいま~」 「おかえりぃーーー!かがみ様ーーーー!!!」 こなたの大声と同時に、クラッカーの爆発音が鳴った。 「うわっ!何よいきなり!!」 「ふふ~ん、今日は何の日か覚えてないのー?」 「え?あ…」 今日は、私の誕生日。 昔は家族がプレゼントをくれて、ケーキを食べたりしてお祝いしてもらった。 それがごく普通のことだったのに、大学へ行ってからは、ほとんど一人で誕生日を迎えていた。 お祝いのメッセージや、プレゼントをくれた友人もいたが、彼女たちとは卒業後、一度も顔を合わせていない。 今考えると、それほど深い付き合いではなかったと思う。 社会人になってからは、誕生日があったことすら忘れていた。 「こなた…覚えていてくれたの?」 「当然じゃん。かがみが私の誕生日を覚えてくれていたんだから、このくらいしなきゃ罰が当たるよ」 「あぁ…そう言えば。でも、私はハンカチ一枚あげただけだし、ここまでは…」 「かがみん…あのハンカチ、どれだけ嬉しかったと思う?辛い仕事漬けの生活の中、ふっと優しくしてくれるかがみん… これで落ちない奴ぁ人間じゃなあぁい!!」 「そ、そうなんだ……買ってきた甲斐があったわ」 「普段はデキる女、ときどきツンツン、ときどきデレる。そんなかがみん激萌え~~」 「何度言われても慣れないわ、それ…」 こなたらしい言い回しに、口では不満を言いながらも、内心ちょっとカワイイと思った。 テーブルの上には、豪華な料理が並べられ、いい匂いが漂っている。 「本当に、嬉しいな…」 「ささ、冷めちゃう前に早く食べましょー」 その日の夜は、お互いに色々話して盛り上がった。 仕事の愚痴、会社の悪口、アニメやラノベの話題、ゲームの話…。 気がつけば、あっという間に寝る時間になってしまった。 「あ…もうこんな時間…」 「そろそろ寝ましょうか…」 そう言ってお皿を持って立ち上がった。 「ストーップ!!片付けは私がやっておくよ!お風呂入ってきなよ」 「え…いいの?」 「当然、今日の主役を働かせちゃ悪いよ…」 かがみがシャワーを浴びる音が聞こえてくる。 私は流しで食器を洗いながら、ぼんやりと考え事をしていた。 (私って、かがみからどう思われているのかな) 私よりいい大学を出て、私より高収入で、おそらく職場でも頼られているだろう。 美人で頭が良くて、性格もいい。 でも完璧じゃない。どこか抜けている。しかもツンデレ。 (男だったら、惚れてただろうな…なんで女に生まれてきたんだろう) どうしようもないことを考えてしまった。今の自分を否定したところで、何も解決しないのに。 劣等感を感じやすい性分なのだろうか。 かがみは立派だと思うし、尊敬している。でも心のどこかで嫉妬しているのかもしれない。 私と一緒にいてくれる、友達として接してくれる、優しいかがみ…。 何だろう、この気持ち…。 「ふぅ…さっぱりした!」 かがみがお風呂から上がってきた。 頭と体にタオルを巻いて、細くて長い足がヒザの上まで見えている。 「湯上りのかがみん…1000ポイント!」 「あ~…おもしろいおもしろい」 「あぁん、もっとツンデレなリアクションしてくれなきゃ!かがみの商品価値が下がっちゃうよ~」 「はいはい、ご期待に沿えず申し訳ございませんでした。ツッコむ気力もございませ~ん」 「そうですか…ま、倒れないようにね。私も時々仕事抜けたりしてるし」 「相変わらず要領いいな…怒られても知らないわよ」 「大丈夫だよ~」 「ま、いいけど。とりあえず今日は寝るわ。おやすみ」 「おやすみ~」 かがみと一緒に過ごしているときが、一番楽しい。 片づけを終えた私は、キッチンでぼんやりしていた。 もう少しゆっくり出来る時間が欲しい。二人っきりで色々としたいのに…。 部屋の隅に、最近買った漫画が置いてある。二人の女の子が互いを守り、助け合いながら世知辛い世の中を生きていくという話だ。 パラパラめくっていくと、夫婦にしか見えない女の子達の世界が描かれている。 (私、何かあったら、かがみを守れるのかな…) 夜は更けていく。 (続く) **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-03-06 23:00:24)

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