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「私はこなたの事が好きっ!」  身を引き裂かれるんじゃないかという程の悲痛な声で、彼女はそう告げた。  思えば、コイツとは物心付いた頃からずっと一緒にいた。  気が強くて、なんだかんだ言いながらも世話を焼きたがる存在で、周りからは夫婦だなんだのとからかわれたりもした。  友達というよりも親戚や兄弟に近い付き合いをしていたが、一応、男と女という一定のラインを弁えて付き合って来たという自負はある。  だから、俺とコイツの関係が幼なじみから恋人へと変化するという可能性も大いにあったのかもしれない。――アイツと出逢うほんの一ヶ月前までは。 「…ごめん。俺はお前の気持ちに応える事は出来ない」 「…やっぱり、好きなんだ? あの娘のこと」 「…ああ」  俺が静かにそう告げると、彼女は少し顔を伏せる。 「…そっか。じゃあ、仕方が無いよね…」 「……」 「…ずっと、ずっと好きだった。あんたは気付いていなかったのかも知れないけど、好きな気持ちじゃ誰にも負けないって自信があった。だって、ずっとあんたと一緒に居たんだもん。…でもね、あんたがあの娘と会った時に『運命の出逢いだ』って私に言った時に、初めて私はあんたの事で焦りを感じた。あの娘が私にあんたの事が好きなんだって伝えて来た時には、私の何もかもが奪われるって思った。あんた自身も。私の大好きな日常も…。だから、私は今ここに居るの。…でも、やっぱりダメだった。どれだけ仲が良くても、どれだけの時間を一緒に過ごしても、運命には敵わないんだよ…」  彼女の顔から大粒の涙が零れ落ちる。  だが、今の俺に彼女を抱きしめる資格は無い。 「…ごめん。本当にごめん…」  だから、俺はこうして謝る事しか出来なかった――。     「ふとしたことで~崩れ始めたもの~」  そこまでが私の限界だった。  私は手早くこのシーンをクイックセーブすると、即座にウィンドウを閉じた。  ようやく念願だったメインヒロインの攻略ルートに入ったというのに、私の気分は最悪だった。  正直言って、見るんじゃなかったなと思った。  今の私は、あの幼なじみの娘と同じだから。  どれだけ仲が良くても、どれだけ一緒に過ごしても、運命には敵わない。  それ以前に、私達は同性だ。  ゲームや二次元の世界ならともかく、現実世界でそんな想いが叶うハズが無い。  そんなの分かってる。  そのジレンマの中で、私はかがみと“親友”としていられる道を選択したんだ。  …だからこそ、私はこの局面を、いつもと変わらぬ素振りで乗り越えていかなければならない。  そう思い直した私は、先程終了させたばかりのゲームのプログラムを再び起動させた。 §  かがみがあの人から告白され、私が並々ならぬ決意の元に、あの例のメインヒロインの攻略を終えた翌日。  まぁ、案の定というか、考えてた通りの展開というべきか…。  その日は、朝からかがみの機嫌が最高に良かった。 「あー、かがみんや、悪いんだけど今日の英語の宿題写させてくれない?」 「もう。仕方が無いわね。たまには自分でやるように努力しなさいよ?」  …とまあ、こんな感じで私に釘を刺しながらも、かがみはすんなりと宿題のプリントを手渡してきた。  その表情は、私を憂鬱にさせるぐらいにニッコニコとしている。 「…なんか、いつもとテンションが違うね」 「え、ええっ? ま、まぁ…。昨日の今日だしね…」  私のやっかみに対しても、かがみは顔を赤く染めながらも満更でもないといった様子を見せる。  …こんな素敵な表情が、私の為に作られた物じゃないと思うと、ほんの少し嫉妬したくなる。 「聞いてよ、こなちゃん。お姉ちゃんったら、昨日けんちゃんになんて言われたのか教えてくれないんだよ~」  そんな私の劣情を知らないつかさは、やや不満そうな顔を見せて、私とかがみに訴えかける。 「ほー、恥ずかしがらずに言ってごらんよ。かがみ~」 「なっ、なんで、あんた達に伝えなきゃいけないのよ!」 「良いじゃん。別に減るもんじゃないんだしさ」  …本当はそんなの聞きたくないけれど、“親友”という役割を通し切るのなら、“今まで通りの私”を続けるのなら、避けては通れない選択肢だと思った。  かがみは、登校中なのにも関わらず、その場に立ち止まってまで、その時のレポートを期待するつかさと、同じような素振りを見せている私の姿をしばらく見比べ続けると、観念したかのように小さく言葉を紡ぎ始めた。 「…引っ越す前は、俺もまだ幼くて、そんな勇気も無かったから伝えられなかったけれど、離れ離れになって始めて後悔したんだ。後悔しても仕方が無いのにな…。でも、あの日にふとしたことで再会出来た事で、これはそういう運命なんだと思ったんだ。だから、今なら言える。…ずっと好きだった。俺と付き合って欲しい…って」  そこまで言い切ると、恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、自分が着ている制服の色と同じぐらい真っ赤に顔を染めたかがみがコンクリートで舗装された道路に視線を落とした。 「けんちゃん、それすっごくかっこいいよ!」  つかさが驚嘆の声を挙げる。  確かに、リアルでそんなギャルゲーのようなドラマティックな告白をするとは…。  不本意ながら私もつかさと同じ事を思ったぐらいだから、直接言われたかがみにとっては相当なインパクトがあっただろう。  やっぱり、私の敵う相手じゃないや…。  そんな諦めと羨望の感情がひしめく中で、私は必死に“いつもと変わらない”表情を作っていた。 § 「じゃあ、私、ここであいつと待ち合わせてるから…」  放課後、糟日部駅に着くや否や、かがみが私達にそう告げてくる。 「うん。頑張ってね! お姉ちゃん」 「頑張って下さい。かがみさん」 「頑張ってって…。どういう意味で頑張れば良いのよ?」 「それはもうアレだよ。18禁的な意味でだね」 「いきなりするかっ! そんなこと!!」  そんなやり取りを交わした後、かがみは私達に別れを告げて、商店街の方へと歩いていった。  私はそんなかがみの後姿を寂しく見つめていた。  朝の一件ですっかり吹っ切れてしまったのか、それ以降のかがみは恋人に関する事に対してそれほど恥ずかしがらなくなっていた。  それどころか、昼休みになると、今度の日曜日にデートに行くけど場所はどこが良いかだの、着て行く服はどうしようかだの、自信は無いけどやっぱりお弁当を作ってあげるべきかどうかといった事を、つかさやみゆきさんはおろか、端から見れば、そういう事にとても疎そうな私にさえ聞いて来る程のノロケっぷりを見せ付けられた始末である。  当然私としては、それが全くといって言いぐらいに面白くない。  仮に、私がかがみに対して抱いている好意を抜きにして、友達という立場から見たとしても、ずっと彼氏の話をされ続けるのだ。それが面白いと感じる訳が無い。  …まぁ、初めて男女のお付き合いというのを経験しているのだから、そっちに集中し過ぎて、つい他の人間関係を蔑ろにしてしまいがちになるなんて事もあるのかもしれない。  頭では一応それも理解している。  でも、それと同時に私の頭の中には恐ろしい未来予想図が描かれつつあったのだ。  ――もしかしたら、これから先もかがみはずっとあのままで、私達の間にあった筈の深い絆が徐々に薄れていって、最後には結局消えてなくなってしまうんじゃないかって…。  通信手段が電話や手紙しか無くて、一度でも音信不通になれば再会するのが難しかった昔と違い、メールやネットが生活の中に当たり前のように定着している今の時代からすれば、それは馬鹿げた話なのかもしれない。  …でも、現に私は、中学時代に凄く仲の良かった例の友達とすら、今では連絡を取り合っていない。  ひょっとしたら、何年か先には、携帯電話のメモリーに登録された「柊かがみ」という名前が、かつて通っていた学校の卒業名簿のように、「その時その場にそんな人が存在していた」という証明にしかならない文字列へと成り果てているんじゃないだろうか?  …だとしたら、それで私は幸せなんだろうか?  そこまで考えて、ようやく私は気づき始めたのだ。  私の望んでいたハッピーエンドが、私にとってのハッピーエンドじゃないという可能性に――。  そんな恐ろしい考えを振り払おうと、私は電車の四角い窓から空を見上げた。  普段なら見える筈の西の夕焼け空は、私の不安を煽るかのように、黒い雲が全ての光源を遮断していた。 -[[最も甘美な過ち>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1071.html]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 切ない… -- 名無しさん (2010-04-11 20:33:40) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3()
「私はこなたの事が好きっ!」  身を引き裂かれるんじゃないかという程の悲痛な声で、彼女はそう告げた。  思えば、コイツとは物心付いた頃からずっと一緒にいた。  気が強くて、なんだかんだ言いながらも世話を焼きたがる存在で、周りからは夫婦だなんだのとからかわれたりもした。  友達というよりも親戚や兄弟に近い付き合いをしていたが、一応、男と女という一定のラインを弁えて付き合って来たという自負はある。  だから、俺とコイツの関係が幼なじみから恋人へと変化するという可能性も大いにあったのかもしれない。――アイツと出逢うほんの一ヶ月前までは。 「…ごめん。俺はお前の気持ちに応える事は出来ない」 「…やっぱり、好きなんだ? あの娘のこと」 「…ああ」  俺が静かにそう告げると、彼女は少し顔を伏せる。 「…そっか。じゃあ、仕方が無いよね…」 「……」 「…ずっと、ずっと好きだった。あんたは気付いていなかったのかも知れないけど、好きな気持ちじゃ誰にも負けないって自信があった。だって、ずっとあんたと一緒に居たんだもん。…でもね、あんたがあの娘と会った時に『運命の出逢いだ』って私に言った時に、初めて私はあんたの事で焦りを感じた。あの娘が私にあんたの事が好きなんだって伝えて来た時には、私の何もかもが奪われるって思った。あんた自身も。私の大好きな日常も…。だから、私は今ここに居るの。…でも、やっぱりダメだった。どれだけ仲が良くても、どれだけの時間を一緒に過ごしても、運命には敵わないんだよ…」  彼女の顔から大粒の涙が零れ落ちる。  だが、今の俺に彼女を抱きしめる資格は無い。 「…ごめん。本当にごめん…」  だから、俺はこうして謝る事しか出来なかった――。     「ふとしたことで~崩れ始めたもの~」  そこまでが私の限界だった。  私は手早くこのシーンをクイックセーブすると、即座にウィンドウを閉じた。  ようやく念願だったメインヒロインの攻略ルートに入ったというのに、私の気分は最悪だった。  正直言って、見るんじゃなかったなと思った。  今の私は、あの幼なじみの娘と同じだから。  どれだけ仲が良くても、どれだけ一緒に過ごしても、運命には敵わない。  それ以前に、私達は同性だ。  ゲームや二次元の世界ならともかく、現実世界でそんな想いが叶うハズが無い。  そんなの分かってる。  そのジレンマの中で、私はかがみと“親友”としていられる道を選択したんだ。  …だからこそ、私はこの局面を、いつもと変わらぬ素振りで乗り越えていかなければならない。  そう思い直した私は、先程終了させたばかりのゲームのプログラムを再び起動させた。 §  かがみがあの人から告白され、私が並々ならぬ決意の元に、あの例のメインヒロインの攻略を終えた翌日。  まぁ、案の定というか、考えてた通りの展開というべきか…。  その日は、朝からかがみの機嫌が最高に良かった。 「あー、かがみんや、悪いんだけど今日の英語の宿題写させてくれない?」 「もう。仕方が無いわね。たまには自分でやるように努力しなさいよ?」  …とまあ、こんな感じで私に釘を刺しながらも、かがみはすんなりと宿題のプリントを手渡してきた。  その表情は、私を憂鬱にさせるぐらいにニッコニコとしている。 「…なんか、いつもとテンションが違うね」 「え、ええっ? ま、まぁ…。昨日の今日だしね…」  私のやっかみに対しても、かがみは顔を赤く染めながらも満更でもないといった様子を見せる。  …こんな素敵な表情が、私の為に作られた物じゃないと思うと、ほんの少し嫉妬したくなる。 「聞いてよ、こなちゃん。お姉ちゃんったら、昨日けんちゃんになんて言われたのか教えてくれないんだよ~」  そんな私の劣情を知らないつかさは、やや不満そうな顔を見せて、私とかがみに訴えかける。 「ほー、恥ずかしがらずに言ってごらんよ。かがみ~」 「なっ、なんで、あんた達に伝えなきゃいけないのよ!」 「良いじゃん。別に減るもんじゃないんだしさ」  …本当はそんなの聞きたくないけれど、“親友”という役割を通し切るのなら、“今まで通りの私”を続けるのなら、避けては通れない選択肢だと思った。  かがみは、登校中なのにも関わらず、その場に立ち止まってまで、その時のレポートを期待するつかさと、同じような素振りを見せている私の姿をしばらく見比べ続けると、観念したかのように小さく言葉を紡ぎ始めた。 「…引っ越す前は、俺もまだ幼くて、そんな勇気も無かったから伝えられなかったけれど、離れ離れになって始めて後悔したんだ。後悔しても仕方が無いのにな…。でも、あの日にふとしたことで再会出来た事で、これはそういう運命なんだと思ったんだ。だから、今なら言える。…ずっと好きだった。俺と付き合って欲しい…って」  そこまで言い切ると、恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、自分が着ている制服の色と同じぐらい真っ赤に顔を染めたかがみがコンクリートで舗装された道路に視線を落とした。 「けんちゃん、それすっごくかっこいいよ!」  つかさが驚嘆の声を挙げる。  確かに、リアルでそんなギャルゲーのようなドラマティックな告白をするとは…。  不本意ながら私もつかさと同じ事を思ったぐらいだから、直接言われたかがみにとっては相当なインパクトがあっただろう。  やっぱり、私の敵う相手じゃないや…。  そんな諦めと羨望の感情がひしめく中で、私は必死に“いつもと変わらない”表情を作っていた。 § 「じゃあ、私、ここであいつと待ち合わせてるから…」  放課後、糟日部駅に着くや否や、かがみが私達にそう告げてくる。 「うん。頑張ってね! お姉ちゃん」 「頑張って下さい。かがみさん」 「頑張ってって…。どういう意味で頑張れば良いのよ?」 「それはもうアレだよ。18禁的な意味でだね」 「いきなりするかっ! そんなこと!!」  そんなやり取りを交わした後、かがみは私達に別れを告げて、商店街の方へと歩いていった。  私はそんなかがみの後姿を寂しく見つめていた。  朝の一件ですっかり吹っ切れてしまったのか、それ以降のかがみは恋人に関する事に対してそれほど恥ずかしがらなくなっていた。  それどころか、昼休みになると、今度の日曜日にデートに行くけど場所はどこが良いかだの、着て行く服はどうしようかだの、自信は無いけどやっぱりお弁当を作ってあげるべきかどうかといった事を、つかさやみゆきさんはおろか、端から見れば、そういう事にとても疎そうな私にさえ聞いて来る程のノロケっぷりを見せ付けられた始末である。  当然私としては、それが全くといって言いぐらいに面白くない。  仮に、私がかがみに対して抱いている好意を抜きにして、友達という立場から見たとしても、ずっと彼氏の話をされ続けるのだ。それが面白いと感じる訳が無い。  …まぁ、初めて男女のお付き合いというのを経験しているのだから、そっちに集中し過ぎて、つい他の人間関係を蔑ろにしてしまいがちになるなんて事もあるのかもしれない。  頭では一応それも理解している。  でも、それと同時に私の頭の中には恐ろしい未来予想図が描かれつつあったのだ。  ――もしかしたら、これから先もかがみはずっとあのままで、私達の間にあった筈の深い絆が徐々に薄れていって、最後には結局消えてなくなってしまうんじゃないかって…。  通信手段が電話や手紙しか無くて、一度でも音信不通になれば再会するのが難しかった昔と違い、メールやネットが生活の中に当たり前のように定着している今の時代からすれば、それは馬鹿げた話なのかもしれない。  …でも、現に私は、中学時代に凄く仲の良かった例の友達とすら、今では連絡を取り合っていない。  ひょっとしたら、何年か先には、携帯電話のメモリーに登録された「柊かがみ」という名前が、かつて通っていた学校の卒業名簿のように、「その時その場にそんな人が存在していた」という証明にしかならない文字列へと成り果てているんじゃないだろうか?  …だとしたら、それで私は幸せなんだろうか?  そこまで考えて、ようやく私は気づき始めたのだ。  私の望んでいたハッピーエンドが、私にとってのハッピーエンドじゃないという可能性に――。  そんな恐ろしい考えを振り払おうと、私は電車の四角い窓から空を見上げた。  普段なら見える筈の西の夕焼け空は、私の不安を煽るかのように、黒い雲が全ての光源を遮断していた。 -[[最も甘美な過ち>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1071.html]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-06-21 08:10:18) - 切ない… -- 名無しさん (2010-04-11 20:33:40) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3()

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