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ひたひた、ひたひたと裸足で歩く少女。 すでに街は眠りに着き、人通りもなくなっている。両手に持った高いヒール靴は、少女が履くにはひどく不釣り合いで、手に持つくらいが調度いい。 - 一体私は何をしてるんだ。 彼女は心底思った。 この寒空の下、裸足で歩くという暴挙。 もう子どもなんて言える歳でもないのに。あろう事か、まさか終電で降りる駅を寝過ごすとは。まさか、家まで歩く事になるなんて。酔った頭で思考を散らかしながら、覚束無い足取りを辿る。 いつまでたっても、歳に追いつかない幼い外見。高いヒールを履いても、似合う呼び名は未だに少女。 「やってらんないよ。」 吐き捨てるように呟く。 彼女は疲れているのだ。思い描いた日々に追いつけない、モノクロな毎日に。 § 私は高校を卒業してから、逃げるように一人暮らしを始めた。過ごしていた日々が楽しかったほど、劣等感は染みだしてくる。 ほら、私ってばこんなだからね。 君に見合うような人間じゃないのよ。 こんな言い訳をして、私は自分の気持ちを伝える事すらできず、彼女から逃げた。 そして、自分の理想に溺れ、流され、足を掬われたままにもうすぐで4年が経とうとしている。 -君は今、何をしているのだろう。誰を愛して、誰のために傷つくのだろうね。- 冬の寒さに身を縮めながら、彼女から遠ざかった日々を思い、長い道のりを、暗く、街灯の少ない道を歩く。 そして、不意に躓いた。 -…!? 私、今何か踏んだ。大きな物を蹴った気がする。無理矢理に弾まさらたバスケットボールのように混乱しながらも、恐る恐る振り向くと、そこにはオレンジ灯に照らされながら眠る、捨て猫のような女がいた。 あぁ、同類か。一変に冷めた頭で考えながらも、見覚えのあるその女性を揺り起こす事はできなかった。 …かがみだ。 いや、私の妄想かもしんないし。てゆーか、あのかがみがこんな所にいるわけないじゃん。 思わず、しゃがみこんで〈暫定かがみ〉を穴が空くほどに見た。美しく通った鼻筋に、長く影をさす睫毛。間違いなく、私の愛しい女の子だ。 大きな驚きと少しの期待が胸をかすめる。とりあえず運ばなくては。頭を瞬巡させながら、声をかけても返事のない屍を肩に担ぐ。 あぁ軽いな。意気込んでかついだ彼女はとても軽かった。 私の知らないかがみがここにいる。手放した日々の重さに反するように、かがみは軽い。私はただ、背伸びをして大人になろうと、たった一つの小さな恋を忘れようとしているだけなのだ。私はかがみに置いていかれている。 しかし、それでも彼女の髪からは風に乗って、あの日と変わらない懐かしい香りがするのだ。伝わってくる温もりに、まるで高校時代に戻ったようにただ心が踊る。かがみが起きたら、何を話そう。上手くしゃべれるかな。 また、逃げてしまうのだろうか。予期せぬ事態に戸惑う心と弾む心を置いてきぼりにして、そんな途方もない事を考えた。 今でも好きなんだ。そっと呪文のように大切に呟く。 とりあえず今は、今はね。望んでいた瞬間がここにあるよ。二人でこんな風に歩いて行けたら、どんなにいいか。 歩きづらいヒールを再び履いて、私はもう一度歩き出す。 あぁ、私は夜明けを見た。 (fin) **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - かがみに何があったのか… 続きが気になりますね -- 名無しさん (2010-05-10 21:27:21) - これは是非とも続編が読みたいです。 -- kk (2009-02-12 18:33:38) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(2)
ひたひた、ひたひたと裸足で歩く少女。 すでに街は眠りに着き、人通りもなくなっている。両手に持った高いヒール靴は、少女が履くにはひどく不釣り合いで、手に持つくらいが調度いい。 - 一体私は何をしてるんだ。 彼女は心底思った。 この寒空の下、裸足で歩くという暴挙。 もう子どもなんて言える歳でもないのに。あろう事か、まさか終電で降りる駅を寝過ごすとは。まさか、家まで歩く事になるなんて。酔った頭で思考を散らかしながら、覚束無い足取りを辿る。 いつまでたっても、歳に追いつかない幼い外見。高いヒールを履いても、似合う呼び名は未だに少女。 「やってらんないよ。」 吐き捨てるように呟く。 彼女は疲れているのだ。思い描いた日々に追いつけない、モノクロな毎日に。 § 私は高校を卒業してから、逃げるように一人暮らしを始めた。過ごしていた日々が楽しかったほど、劣等感は染みだしてくる。 ほら、私ってばこんなだからね。 君に見合うような人間じゃないのよ。 こんな言い訳をして、私は自分の気持ちを伝える事すらできず、彼女から逃げた。 そして、自分の理想に溺れ、流され、足を掬われたままにもうすぐで4年が経とうとしている。 -君は今、何をしているのだろう。誰を愛して、誰のために傷つくのだろうね。- 冬の寒さに身を縮めながら、彼女から遠ざかった日々を思い、長い道のりを、暗く、街灯の少ない道を歩く。 そして、不意に躓いた。 -…!? 私、今何か踏んだ。大きな物を蹴った気がする。無理矢理に弾まさらたバスケットボールのように混乱しながらも、恐る恐る振り向くと、そこにはオレンジ灯に照らされながら眠る、捨て猫のような女がいた。 あぁ、同類か。一変に冷めた頭で考えながらも、見覚えのあるその女性を揺り起こす事はできなかった。 …かがみだ。 いや、私の妄想かもしんないし。てゆーか、あのかがみがこんな所にいるわけないじゃん。 思わず、しゃがみこんで〈暫定かがみ〉を穴が空くほどに見た。美しく通った鼻筋に、長く影をさす睫毛。間違いなく、私の愛しい女の子だ。 大きな驚きと少しの期待が胸をかすめる。とりあえず運ばなくては。頭を瞬巡させながら、声をかけても返事のない屍を肩に担ぐ。 あぁ軽いな。意気込んでかついだ彼女はとても軽かった。 私の知らないかがみがここにいる。手放した日々の重さに反するように、かがみは軽い。私はただ、背伸びをして大人になろうと、たった一つの小さな恋を忘れようとしているだけなのだ。私はかがみに置いていかれている。 しかし、それでも彼女の髪からは風に乗って、あの日と変わらない懐かしい香りがするのだ。伝わってくる温もりに、まるで高校時代に戻ったようにただ心が踊る。かがみが起きたら、何を話そう。上手くしゃべれるかな。 また、逃げてしまうのだろうか。予期せぬ事態に戸惑う心と弾む心を置いてきぼりにして、そんな途方もない事を考えた。 今でも好きなんだ。そっと呪文のように大切に呟く。 とりあえず今は、今はね。望んでいた瞬間がここにあるよ。二人でこんな風に歩いて行けたら、どんなにいいか。 歩きづらいヒールを再び履いて、私はもう一度歩き出す。 あぁ、私は夜明けを見た。 (fin) **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b &br()隠れたメッセージがあるのかな? -- 名無しさん (2023-07-24 20:54:48) - かがみに何があったのか… 続きが気になりますね -- 名無しさん (2010-05-10 21:27:21) - これは是非とも続編が読みたいです。 -- kk (2009-02-12 18:33:38) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(2)

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