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何気ない日々:温かい手」(2023/06/26 (月) 08:11:24) の最新版変更点

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何気ない日々:温かい手  私は、なんでこんな物を買ってしまったのだろうか。  そんなことを思いながら片手に持った袋の中身を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。近くのコンビニでチョココロネを何故だか買ってしまったのだ。 「風邪をひいている人間にこういう重いものをもっていくのってなんだかおかしいわね、私・・・何を考えてるんだろう」 袋に入ったチョココロネをしげしげと見つめながらため息を吐く。 ◆ 「こなたおねーちゃーん、大丈夫―?」 律儀にドアノブにかけて置いた書置きを守ってドアの外から叫んでるゆーちゃんがおかしくて笑ってしまった。 「大丈夫だよ、まだ熱は下がってないけどネ~」 掠れた声で何とか叫び返す。まぁ、なんというか、比較的すぐに治ると思っていたんだけど、ドアノブに書置きを引っ掛けた後、そのままベッドに倒れて布団もかけずに寝ちゃったのが災いして、熱が上がってしまった。  雨の音がまだ聞こえる。起きてからさすがに寒気で服は着替えたけど、その後はさすがにベッドに戻って布団にもぐりこむだけで精一杯、もう一歩も動けませんよ。  この調子じゃ明日も皆に会えないかも。それはすごく寂しい・・・そんな風に思えるだけ、私は変わったのかもしれない。明日はネトゲができるくらいには治るかもしれないのにあんまり嬉しくなくて、寂しさのほうが強いくらいかもしれないなぁ。  せめて後でかがみに電話してみようかな?今何時だろ、そういえば深夜アニメの録画ずれてないかな。色々したいことはあるけど、また眠たくなってきちゃったな。 「ゆーちゃん、私、少し寝るから返事が無くても入ってきちゃ駄目だよ~?ただの風邪なんだから」 「う、うん。わかったよ、こなたおねーちゃん」 目を閉じると薬のおかげカナ、意識がすぐに薄れていく。 ◆  着いてしまった・・・というのは間違いよね、だって目的地に着いただけなんだし。何も緊張することじゃないのに、何でだろ、つかさがいないだけでこんなに心細いとは。  このインターフォン押したら、こなたの奴、実は仮病で休んでて元気にひょっこり現れて「あれー、かがみってそんなに私がいなくて寂しかった?」なんて、思いっきりからかって着たらどうしよう。  ええい、ままよ!押してしまうしかない。 インターフォン特有のピンポーンという電子音が鳴って、トタトタとたとえるのが正しいのだろうか、そんな足音が聞こえてから、ゆたかちゃんが出てきた。 「あ、かがみ先輩、いらっしゃい」 「ゆたかちゃん、こんにちは」 こなたが出てこないところを見ると、本当に風邪で寝込んでるのかしら? 「こなたのお見舞いにきたんだけど、大丈夫そう?」 「こなたおねーちゃんはもしかしたら寝てるかもしれません。私、部屋に入っちゃ駄目だって言われてるから入れなくて」 ゆたかちゃんに見せられない如何わしいゲームをヘッドフォンつけて遊んでるんじゃないだろうな。 「そう、こなた寝てるのね。いいわ、前の仕返しをしてやろうじゃない。お邪魔するわね、ゆたかちゃん」 「えっと、よくわかりませんが、どうぞー」 中に入ると、ゆたかちゃんは花瓶を探して奔走していた。  しかし、泉家に花瓶があるとは思えないのだけれど・・・ってそれは失礼な考えかもしれないか、さすがに。 「えっと、ペットボトルもってきてるから大丈夫よ、ゆたかちゃん。さて、こなたがどうしているのか様子を見に行きますか」 私は、ゆたかちゃんに花瓶が要らないことを告げて、こなたの部屋に向かい、中に入った。予想は全て外れて、こなたはちゃんとベッドに横になって眠っていた。 「本当に風邪をひいてたのね・・・随分、熱高いわね」 額に手を当てるとしっかりと熱かった。仮病じゃなかったのね・・・しかし、起きてる時は、いつもからかってきたり、抱きつかれて振り回されたりするけど・・・こうやって眠ってる顔は、人の事いえずに、あんたも可愛いじゃないの。苦しそうじゃなかったら、尚のことそう見えそうだけど。  あんたじゃないけど、いい寝顔を見せてもらったわ。さて、前の仕返しに携帯で一枚とらせてもらおうかしら。 「ん・・・かがみ?」 私が携帯をだして、まさに写真を撮ろうとした瞬間、こなたは目を覚ました。 「うわ、なにしてんの?まさか・・・夜這いとか?」 「いや、携帯で写真を撮ることを夜這いとは言わないだろ!てか、夜這いとか言うな」 熱っぽい所以外は、いつもの表情で寝起きそうそうからかってきやがった。それもすごく楽しそうだ。そんなに私をからかうのが楽しいのか、泉こなた・・・。 「おー、かがみ様がお見舞いに来てくれるとは、槍でも降ってこなけりゃいいけど」 「あんたねぇ、そんなに私がお見舞いに来たのが残念か!」 何でだろう、どうしてなんだろう。こなたが急に元気になった気がするような。 「ゲホゲホ、いつも苦労をかけてすまんのぅ、かがみ様」 「えぇいッ、かがみ様言うな!というか、あんたにしちゃありふれたネタだな、おぃ」 声は掠れてるし、熱も高いのになんでこいつはこんなにテンション高いんだ。というかすごい楽しそうだな。 「あれ、そういえば、つかさはどしたの?」 「つかさは、ちょっと風邪のひき始めっぽかったから、一緒にこれなかったのよ」 そういえば、つかさは大丈夫かしら。 「ふーん、そっか。つかさまで学校休んじゃうことにならないといいねぇ」 「人の心配より自分の心配しなさいよ。なんか、こんなに熱が高い人の食べ物じゃないけど、一応、どうぞ」 「お~、我が至高の食べ物チョココロネ」 「いや、喜んでもらえるのは嬉しいけど・・・そこまで大げさに喜ぶものか?」 「いやーふんどし一丁で走り回るほどじゃないけどね」 「また、そのネタか」 さて、何処に花を置いたらいい物だろう。 「こなた、お見舞いに花もってきたんだけどさ、何処なら置けそう?」 見渡す限り置けそうなところは見当たらないのだが。 「あー、そこの窓のところにでも飾っておいてよ。でも、かがみやつかさの髪の色と同じ色の紫陽花だねぇ。そんなのあるんだ」 「あぁ、うちの境内の紫陽花はこの色しか咲かないのよ。詳しくは知らないけど、遺伝的にそういう株らしいわ」 「ふーん」 私はこなたの言うとおり、窓の近くに紫陽花を飾った。向きとかも気にしたいけど、何かやけにこなたの視線が気になる、というかそんなに何を見つめてるのだろう。 「な、なによ?」 「いやー、部屋に花ってのもいいもんだなぁと・・・そんなこというと私らしくないけどサ」 「そうね、あんたらしくないわね。そういうのあんまり興味ないかと思ってたけど」 「うん、まぁ、興味は無いんだけど、なんかこう、んー・・・言葉にできないけどほっとするような・・・」 急にこなたが言葉を止めてしまったので、静かになってしまった。なんというか、急に静かになるとどうしてだか、気まずくなってしまうのはどうしてだろう。  こなたは、私が渡したチョココロネを食べ初めて、私はといえば手持ち無沙汰で何をするわけでもなく、そんなこなたを見たり、雨脚の強くなった窓の外を見たりしていた。 ◆  目を開けると携帯電話を構えたかがみがいた。どれくらい眠っていたのか、そもそもまだ夢の続きなのか、ふわふわしていて良くわからなかった。  試しにかがみをからかって、突込みが帰ってくるのが楽しくて、なんだかとても楽しい時間だった。  まぁ、かがみにしてみれば、からかわれていい迷惑だったかもしれないけれど。なんとなくこれは夢なんじゃないかなと思った。つかさがいないのもあったけど、かがみがお見舞いに来てくれるなんて願ってはいても、思ってはいなかったからだ。  次第に意識がはっきりしてきたけど、相変わらず頭は熱でふわふわしてる。  かがみが花を窓に飾ってるあたりから、その花を見た辺りから、私の頭はふわふわしている所為なのか、おかしなことを考え始めていた。そして、危うくそれを全て口にしてしまいそうなって、慌てて続きの言葉を飲み込んだ。  きっとそれは、言ってはいけない言葉に違いないと思ったから。  今まで、名前の無かった感情は今日一日でつぼみにまで成長してしまったらしい。それは、自分でも言うのは恥ずかしいけれど、恋とか好きとか、友人に思う感情とは違う感情だったから。  甘いはずのチョココロネが少し苦く感じた。  気づかなければ、幸せだったのに。 “気づいてしまったら、気づかなかった頃にはもう戻れない。”そんなセリフが何かの漫画にあった気がする。 「かがみ、薬とジュースとって~」 「えっと、これね。コップはこれでいいのよね?」 聞きながらも、テキパキと動くかがみを見ていた。それから薬とジュースの入ったコップを受け取って、それを口にした。  今は何を口にしても苦いとしか思えなかった。それは私の今の心そのものだから。  ついでにさっき騒いだツケが回ってきたらしく、空になったコップをかがみに渡したら、やっとのことで起こしていた上体をベッドに預けることになってしまった。我侭をいえば、気づいてしまったこの感情をかがみにも持っていてもらいたい・・・けれどそれは、ありえないことだ。  気づいた自分が驚くほど、信じられないことだったから。 「ど、どうしたの?こなた」 かがみがすごい驚いてる、何でだろう。 「どうしたって?」 聞き返した声が掠れた上に鼻声だった。それに思わず苦笑いをして目を細めると、熱よりも熱いくてしょっぱい物が頬を伝って零れていた。目を細める前からどうやら零れていたらしい。 「何であんた泣いてるのよ。どっか痛いとか?もしかしてやっぱり、チョココロネじゃ重くて気持ち悪いとか・・・我慢しなくていいわよ?あ、でも吐くならこの袋にしたほうがいいわね。ベッドや服が汚れたら困るだろうし」 すごい慌ててるかがみ。まさか、涙が出るとは思わなかったよ。せめて、かがみが帰ってから流れてくれればいいのに・・・なんて言い訳すればいいのか思いつかないよ。 「大丈夫だよ、目にゴミが入っただけだからサ。ちょっと、かがみ落ち着きいたほうがいいよ」 涙は一回ゴシゴシと拭う、それだけで止まった。あんまり、かがみを驚かせ続けるのも心が痛むしねぇ。 「まぁ、あれだよ、かがみ。普段風邪とかで寝込まないから、急にこうやって風邪でいきなり寝込んだりすると滅入っちゃうものなのさ」 「いや、普通それで泣かないでしょ。どうしたのよ、全く」 これじゃ、心配で帰るに帰れじゃない。そんなことを呟いていた。 「いやいや、かがみ様、心配御無用。本当に目にゴミが入っただけだからね」 「そうやって茶化すな。人が本気で心配してる時にも茶化してうやむやにするのはあんたの悪い癖だと思うわよ」 そんなこと言ったって、本当のこと言えるわけないし・・・茶化すしか私には残された手段がないのになぁ。困った、どうしよう。 「じゃぁ、かがみは、私が寂しいから今日は傍にいて欲しいって言ったら、どうするのサ」 ‥やってしまった。これは言ったらマズイ部類のセリフだよ。どうやって煙に巻こうか、そんなことを考えていると、また涙が溢れてくる。ど、どうすりゃいいんだよ、もういいわけ思いつかないよ。  しかし、かがみが言った言葉は私の予想だにしないものだった。 ◆ 「いいわよ、いてあげるわよ」 な、何言ってるんだろう、私。売り言葉に買い言葉のように即答してしまった。  何故だかわからないけど、こいつの涙でぐしゃぐしゃになった顔をみて、その叫びを聞いて、肯定以外に返答が思いつけなかった。 「へ?か、かがみ、今なんて・・・」 「心細いから傍にいてほしいんでしょ。だから傍にいてあげるわよ」 「おぉ、デレ期ですな、かがみ様」 「茶化すな、それからかがみ様言うな!」  ここに来るまでにずっと名前が無かった感情。いや、もっと前から・・・その感情はあった。名前を知らなかったんじゃない。知ろうとしなかっただけだ。  初めから気づいてたはずなのだから。だから、ずっとこの手に温もりが残り続けているのだろう。  私は多分、こなたが好きなんだろう。それは、友達に向ける感情とは少し違う。だから、この気持ちを知られることは怖かった。もちろん、今はまだ知られてはいないはずだ。 「・・・ほ、本当に傍にいてくれるの?」 「い、嫌なら帰るわよ」 だから、名前をつけなかったのだ。私は嘘が得意ではないから。名前をつけてしまえばいつかは見破られてしまう。  そんなことになれば、もう、きっと友達ではいられないのだから。  でも、名前をつけてしまった。だから見破られるまでは、せめて見破られるまでは今まで通りでいられるようにしよう。  それが、ほんの少しの星の煌く間だけだとしても。  それが、ほんの少しの太陽と月が入れ替わる間だけだとしても。  今まで通りに。 ◆ 「かがみさ、少しだけでいいから。胸貸してくれる?」 「へっ?」 かがみの返事を聞かずに私は抱きついた。そしてそのまま気持ちのままに涙を流した。  枯れた砂漠に水溜りができるのではないかと思うくらいに涙はあふれ続けた。 「こ、こなた・・・」  枯れた砂漠にオアシスができるくらいに泣いてしまいたかった。二度とかがみの前で涙を流さないように。今まで通りでいられるように。  そんな私の頭をかがみは、戸惑いながらも優しく撫でてくれる。それが嬉しくて、悲しかった。  どれほど時間がたっただろうか。涙は枯れはて、かがみから体を離す。 「本当にどうしたのよ。何かあったの?」 「もう大丈夫。ところで、本当に傍にいてくれるの?」 「それについてはさっきも、言ったじゃない。確かに寝込んでる時って急に寂しくなったりするしね、傍にいてあげるわ」  本当はそういう意味で傍にいてほしいって言ったんじゃないんだけどね。でも、本当の気持ちなんていえるはず無いから。  涙が枯れたら、すごく眠たくなってきた。 「もう一個だけさぁ、我侭言ってもいいカナ?カナ?」 「ん?いいわよ」 あの日、繋いだ手をかがみの前に出す。たぶん、私のこの気持ちはあの日に生まれたんだと思うから。 「ずっとじゃなくてもいいからサ、手を握ってて欲しいなぁ・・・ってなんか今日はすごく私らしくないネ」 「そうね、あんたらしくないわね。しおらしいこなたってのも似つかわしくないわよ。重病じゃないんだから・・・でも、我侭聞いてあげるわ」 そう言って、かがみもあの日繋いだほうの手で、握ってくれた。  もしかしたら、なんて、ありえないことを思ってしまう。でも、期待すればするほど、誤魔化せなくなる。   そんなことになれば、もう、きっと友達ではいられないのだから。  でも、気づいてしまった。だから、嘘で塗り固められる間は、嘘で隠しとおせる間は今まで通りでいられるようにしよう。  それが、ほんの少しのこの雨が青空に入れ替わる間だけだとしても。  それが、ほんの少しのお見舞いの紫陽花が枯れる間だけだとしても。  今まで通りに。 -[[何気ない日々:膝を抱え込むように悩む二人>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1034.html]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 心に染み渡る素晴らしい作品ですね。続編も楽しみにしています。 -- 20-760 (2009-02-09 07:40:49) - 久々に心に染みる作品に出会えた感じがします!!! -- チハヤ (2009-02-09 06:24:03) - 作者様、あなたの作品に出合えて、毎日更新をチェックする様になってしまいました。続編を楽しみにしています。GJ!! -- kk (2009-02-08 23:45:57) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(4)
何気ない日々:温かい手  私は、なんでこんな物を買ってしまったのだろうか。  そんなことを思いながら片手に持った袋の中身を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。近くのコンビニでチョココロネを何故だか買ってしまったのだ。 「風邪をひいている人間にこういう重いものをもっていくのってなんだかおかしいわね、私・・・何を考えてるんだろう」 袋に入ったチョココロネをしげしげと見つめながらため息を吐く。 ◆ 「こなたおねーちゃーん、大丈夫―?」 律儀にドアノブにかけて置いた書置きを守ってドアの外から叫んでるゆーちゃんがおかしくて笑ってしまった。 「大丈夫だよ、まだ熱は下がってないけどネ~」 掠れた声で何とか叫び返す。まぁ、なんというか、比較的すぐに治ると思っていたんだけど、ドアノブに書置きを引っ掛けた後、そのままベッドに倒れて布団もかけずに寝ちゃったのが災いして、熱が上がってしまった。  雨の音がまだ聞こえる。起きてからさすがに寒気で服は着替えたけど、その後はさすがにベッドに戻って布団にもぐりこむだけで精一杯、もう一歩も動けませんよ。  この調子じゃ明日も皆に会えないかも。それはすごく寂しい・・・そんな風に思えるだけ、私は変わったのかもしれない。明日はネトゲができるくらいには治るかもしれないのにあんまり嬉しくなくて、寂しさのほうが強いくらいかもしれないなぁ。  せめて後でかがみに電話してみようかな?今何時だろ、そういえば深夜アニメの録画ずれてないかな。色々したいことはあるけど、また眠たくなってきちゃったな。 「ゆーちゃん、私、少し寝るから返事が無くても入ってきちゃ駄目だよ~?ただの風邪なんだから」 「う、うん。わかったよ、こなたおねーちゃん」 目を閉じると薬のおかげカナ、意識がすぐに薄れていく。 ◆  着いてしまった・・・というのは間違いよね、だって目的地に着いただけなんだし。何も緊張することじゃないのに、何でだろ、つかさがいないだけでこんなに心細いとは。  このインターフォン押したら、こなたの奴、実は仮病で休んでて元気にひょっこり現れて「あれー、かがみってそんなに私がいなくて寂しかった?」なんて、思いっきりからかって着たらどうしよう。  ええい、ままよ!押してしまうしかない。 インターフォン特有のピンポーンという電子音が鳴って、トタトタとたとえるのが正しいのだろうか、そんな足音が聞こえてから、ゆたかちゃんが出てきた。 「あ、かがみ先輩、いらっしゃい」 「ゆたかちゃん、こんにちは」 こなたが出てこないところを見ると、本当に風邪で寝込んでるのかしら? 「こなたのお見舞いにきたんだけど、大丈夫そう?」 「こなたおねーちゃんはもしかしたら寝てるかもしれません。私、部屋に入っちゃ駄目だって言われてるから入れなくて」 ゆたかちゃんに見せられない如何わしいゲームをヘッドフォンつけて遊んでるんじゃないだろうな。 「そう、こなた寝てるのね。いいわ、前の仕返しをしてやろうじゃない。お邪魔するわね、ゆたかちゃん」 「えっと、よくわかりませんが、どうぞー」 中に入ると、ゆたかちゃんは花瓶を探して奔走していた。  しかし、泉家に花瓶があるとは思えないのだけれど・・・ってそれは失礼な考えかもしれないか、さすがに。 「えっと、ペットボトルもってきてるから大丈夫よ、ゆたかちゃん。さて、こなたがどうしているのか様子を見に行きますか」 私は、ゆたかちゃんに花瓶が要らないことを告げて、こなたの部屋に向かい、中に入った。予想は全て外れて、こなたはちゃんとベッドに横になって眠っていた。 「本当に風邪をひいてたのね・・・随分、熱高いわね」 額に手を当てるとしっかりと熱かった。仮病じゃなかったのね・・・しかし、起きてる時は、いつもからかってきたり、抱きつかれて振り回されたりするけど・・・こうやって眠ってる顔は、人の事いえずに、あんたも可愛いじゃないの。苦しそうじゃなかったら、尚のことそう見えそうだけど。  あんたじゃないけど、いい寝顔を見せてもらったわ。さて、前の仕返しに携帯で一枚とらせてもらおうかしら。 「ん・・・かがみ?」 私が携帯をだして、まさに写真を撮ろうとした瞬間、こなたは目を覚ました。 「うわ、なにしてんの?まさか・・・夜這いとか?」 「いや、携帯で写真を撮ることを夜這いとは言わないだろ!てか、夜這いとか言うな」 熱っぽい所以外は、いつもの表情で寝起きそうそうからかってきやがった。それもすごく楽しそうだ。そんなに私をからかうのが楽しいのか、泉こなた・・・。 「おー、かがみ様がお見舞いに来てくれるとは、槍でも降ってこなけりゃいいけど」 「あんたねぇ、そんなに私がお見舞いに来たのが残念か!」 何でだろう、どうしてなんだろう。こなたが急に元気になった気がするような。 「ゲホゲホ、いつも苦労をかけてすまんのぅ、かがみ様」 「えぇいッ、かがみ様言うな!というか、あんたにしちゃありふれたネタだな、おぃ」 声は掠れてるし、熱も高いのになんでこいつはこんなにテンション高いんだ。というかすごい楽しそうだな。 「あれ、そういえば、つかさはどしたの?」 「つかさは、ちょっと風邪のひき始めっぽかったから、一緒にこれなかったのよ」 そういえば、つかさは大丈夫かしら。 「ふーん、そっか。つかさまで学校休んじゃうことにならないといいねぇ」 「人の心配より自分の心配しなさいよ。なんか、こんなに熱が高い人の食べ物じゃないけど、一応、どうぞ」 「お~、我が至高の食べ物チョココロネ」 「いや、喜んでもらえるのは嬉しいけど・・・そこまで大げさに喜ぶものか?」 「いやーふんどし一丁で走り回るほどじゃないけどね」 「また、そのネタか」 さて、何処に花を置いたらいい物だろう。 「こなた、お見舞いに花もってきたんだけどさ、何処なら置けそう?」 見渡す限り置けそうなところは見当たらないのだが。 「あー、そこの窓のところにでも飾っておいてよ。でも、かがみやつかさの髪の色と同じ色の紫陽花だねぇ。そんなのあるんだ」 「あぁ、うちの境内の紫陽花はこの色しか咲かないのよ。詳しくは知らないけど、遺伝的にそういう株らしいわ」 「ふーん」 私はこなたの言うとおり、窓の近くに紫陽花を飾った。向きとかも気にしたいけど、何かやけにこなたの視線が気になる、というかそんなに何を見つめてるのだろう。 「な、なによ?」 「いやー、部屋に花ってのもいいもんだなぁと・・・そんなこというと私らしくないけどサ」 「そうね、あんたらしくないわね。そういうのあんまり興味ないかと思ってたけど」 「うん、まぁ、興味は無いんだけど、なんかこう、んー・・・言葉にできないけどほっとするような・・・」 急にこなたが言葉を止めてしまったので、静かになってしまった。なんというか、急に静かになるとどうしてだか、気まずくなってしまうのはどうしてだろう。  こなたは、私が渡したチョココロネを食べ初めて、私はといえば手持ち無沙汰で何をするわけでもなく、そんなこなたを見たり、雨脚の強くなった窓の外を見たりしていた。 ◆  目を開けると携帯電話を構えたかがみがいた。どれくらい眠っていたのか、そもそもまだ夢の続きなのか、ふわふわしていて良くわからなかった。  試しにかがみをからかって、突込みが帰ってくるのが楽しくて、なんだかとても楽しい時間だった。  まぁ、かがみにしてみれば、からかわれていい迷惑だったかもしれないけれど。なんとなくこれは夢なんじゃないかなと思った。つかさがいないのもあったけど、かがみがお見舞いに来てくれるなんて願ってはいても、思ってはいなかったからだ。  次第に意識がはっきりしてきたけど、相変わらず頭は熱でふわふわしてる。  かがみが花を窓に飾ってるあたりから、その花を見た辺りから、私の頭はふわふわしている所為なのか、おかしなことを考え始めていた。そして、危うくそれを全て口にしてしまいそうなって、慌てて続きの言葉を飲み込んだ。  きっとそれは、言ってはいけない言葉に違いないと思ったから。  今まで、名前の無かった感情は今日一日でつぼみにまで成長してしまったらしい。それは、自分でも言うのは恥ずかしいけれど、恋とか好きとか、友人に思う感情とは違う感情だったから。  甘いはずのチョココロネが少し苦く感じた。  気づかなければ、幸せだったのに。 “気づいてしまったら、気づかなかった頃にはもう戻れない。”そんなセリフが何かの漫画にあった気がする。 「かがみ、薬とジュースとって~」 「えっと、これね。コップはこれでいいのよね?」 聞きながらも、テキパキと動くかがみを見ていた。それから薬とジュースの入ったコップを受け取って、それを口にした。  今は何を口にしても苦いとしか思えなかった。それは私の今の心そのものだから。  ついでにさっき騒いだツケが回ってきたらしく、空になったコップをかがみに渡したら、やっとのことで起こしていた上体をベッドに預けることになってしまった。我侭をいえば、気づいてしまったこの感情をかがみにも持っていてもらいたい・・・けれどそれは、ありえないことだ。  気づいた自分が驚くほど、信じられないことだったから。 「ど、どうしたの?こなた」 かがみがすごい驚いてる、何でだろう。 「どうしたって?」 聞き返した声が掠れた上に鼻声だった。それに思わず苦笑いをして目を細めると、熱よりも熱いくてしょっぱい物が頬を伝って零れていた。目を細める前からどうやら零れていたらしい。 「何であんた泣いてるのよ。どっか痛いとか?もしかしてやっぱり、チョココロネじゃ重くて気持ち悪いとか・・・我慢しなくていいわよ?あ、でも吐くならこの袋にしたほうがいいわね。ベッドや服が汚れたら困るだろうし」 すごい慌ててるかがみ。まさか、涙が出るとは思わなかったよ。せめて、かがみが帰ってから流れてくれればいいのに・・・なんて言い訳すればいいのか思いつかないよ。 「大丈夫だよ、目にゴミが入っただけだからサ。ちょっと、かがみ落ち着きいたほうがいいよ」 涙は一回ゴシゴシと拭う、それだけで止まった。あんまり、かがみを驚かせ続けるのも心が痛むしねぇ。 「まぁ、あれだよ、かがみ。普段風邪とかで寝込まないから、急にこうやって風邪でいきなり寝込んだりすると滅入っちゃうものなのさ」 「いや、普通それで泣かないでしょ。どうしたのよ、全く」 これじゃ、心配で帰るに帰れじゃない。そんなことを呟いていた。 「いやいや、かがみ様、心配御無用。本当に目にゴミが入っただけだからね」 「そうやって茶化すな。人が本気で心配してる時にも茶化してうやむやにするのはあんたの悪い癖だと思うわよ」 そんなこと言ったって、本当のこと言えるわけないし・・・茶化すしか私には残された手段がないのになぁ。困った、どうしよう。 「じゃぁ、かがみは、私が寂しいから今日は傍にいて欲しいって言ったら、どうするのサ」 ‥やってしまった。これは言ったらマズイ部類のセリフだよ。どうやって煙に巻こうか、そんなことを考えていると、また涙が溢れてくる。ど、どうすりゃいいんだよ、もういいわけ思いつかないよ。  しかし、かがみが言った言葉は私の予想だにしないものだった。 ◆ 「いいわよ、いてあげるわよ」 な、何言ってるんだろう、私。売り言葉に買い言葉のように即答してしまった。  何故だかわからないけど、こいつの涙でぐしゃぐしゃになった顔をみて、その叫びを聞いて、肯定以外に返答が思いつけなかった。 「へ?か、かがみ、今なんて・・・」 「心細いから傍にいてほしいんでしょ。だから傍にいてあげるわよ」 「おぉ、デレ期ですな、かがみ様」 「茶化すな、それからかがみ様言うな!」  ここに来るまでにずっと名前が無かった感情。いや、もっと前から・・・その感情はあった。名前を知らなかったんじゃない。知ろうとしなかっただけだ。  初めから気づいてたはずなのだから。だから、ずっとこの手に温もりが残り続けているのだろう。  私は多分、こなたが好きなんだろう。それは、友達に向ける感情とは少し違う。だから、この気持ちを知られることは怖かった。もちろん、今はまだ知られてはいないはずだ。 「・・・ほ、本当に傍にいてくれるの?」 「い、嫌なら帰るわよ」 だから、名前をつけなかったのだ。私は嘘が得意ではないから。名前をつけてしまえばいつかは見破られてしまう。  そんなことになれば、もう、きっと友達ではいられないのだから。  でも、名前をつけてしまった。だから見破られるまでは、せめて見破られるまでは今まで通りでいられるようにしよう。  それが、ほんの少しの星の煌く間だけだとしても。  それが、ほんの少しの太陽と月が入れ替わる間だけだとしても。  今まで通りに。 ◆ 「かがみさ、少しだけでいいから。胸貸してくれる?」 「へっ?」 かがみの返事を聞かずに私は抱きついた。そしてそのまま気持ちのままに涙を流した。  枯れた砂漠に水溜りができるのではないかと思うくらいに涙はあふれ続けた。 「こ、こなた・・・」  枯れた砂漠にオアシスができるくらいに泣いてしまいたかった。二度とかがみの前で涙を流さないように。今まで通りでいられるように。  そんな私の頭をかがみは、戸惑いながらも優しく撫でてくれる。それが嬉しくて、悲しかった。  どれほど時間がたっただろうか。涙は枯れはて、かがみから体を離す。 「本当にどうしたのよ。何かあったの?」 「もう大丈夫。ところで、本当に傍にいてくれるの?」 「それについてはさっきも、言ったじゃない。確かに寝込んでる時って急に寂しくなったりするしね、傍にいてあげるわ」  本当はそういう意味で傍にいてほしいって言ったんじゃないんだけどね。でも、本当の気持ちなんていえるはず無いから。  涙が枯れたら、すごく眠たくなってきた。 「もう一個だけさぁ、我侭言ってもいいカナ?カナ?」 「ん?いいわよ」 あの日、繋いだ手をかがみの前に出す。たぶん、私のこの気持ちはあの日に生まれたんだと思うから。 「ずっとじゃなくてもいいからサ、手を握ってて欲しいなぁ・・・ってなんか今日はすごく私らしくないネ」 「そうね、あんたらしくないわね。しおらしいこなたってのも似つかわしくないわよ。重病じゃないんだから・・・でも、我侭聞いてあげるわ」 そう言って、かがみもあの日繋いだほうの手で、握ってくれた。  もしかしたら、なんて、ありえないことを思ってしまう。でも、期待すればするほど、誤魔化せなくなる。   そんなことになれば、もう、きっと友達ではいられないのだから。  でも、気づいてしまった。だから、嘘で塗り固められる間は、嘘で隠しとおせる間は今まで通りでいられるようにしよう。  それが、ほんの少しのこの雨が青空に入れ替わる間だけだとしても。  それが、ほんの少しのお見舞いの紫陽花が枯れる間だけだとしても。  今まで通りに。 -[[何気ない日々:膝を抱え込むように悩む二人>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1034.html]]へ **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (๑>◡<๑)b -- 名無しさん (2023-06-26 08:11:24) - 心に染み渡る素晴らしい作品ですね。続編も楽しみにしています。 -- 20-760 (2009-02-09 07:40:49) - 久々に心に染みる作品に出会えた感じがします!!! -- チハヤ (2009-02-09 06:24:03) - 作者様、あなたの作品に出合えて、毎日更新をチェックする様になってしまいました。続編を楽しみにしています。GJ!! -- kk (2009-02-08 23:45:57) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(4)

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