ノゾムハダレガタメ

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「だよね~、秋ってついつい食べちゃうわよね」
「そうですね。過ごしやすい季節ですし美味しい物も多いですし、つい食も進んでしまいますね」
「まぁ、おかげであっちの方も大変なことになるのよね……」
「そ、そうですね……。気を付けないといつの間にか、なんてことになりかねませんね……」
「でもやっぱり食べたいよねぇ~。色々食べたいから、私はお姉ちゃんと半分こにしてるよ~」
「食べないようにって思ってはいるんだけどね……」
朝、いつも私は通りつかさのクラスに来ていた。
みゆきやつかさと話しながらも、ちらちらと入り口と時計、そしてある空席を順番に見る。


後1分―――。
まさか、遅刻してくるってことはないと思うけど……。


待ってるのに来てくれなかった。
朝からここにいれば絶対会えると思った。
卑怯だけど、どんな手段を使ってでも私は会いたかった。
それなのに、まだ会えていなかった。


もしかして、休みなのかな……。


「そう言えば、こなちゃんまだ来てないね」
「そうですね。どうされたのでしょうか」
不意にその名前を出されて、内心驚いたけれどなんとか平静を保つ。
「め、珍しいわよね」
「そうですね。泉さんが遅刻することはあまりありませんでしたからね」
「どちらかというと、私のほうが多いかもぉ……」


――キーンコーンカーンコーン。


チャイムが校舎全体に、そして私の心にも虚しく響き渡る。

「……それじゃ、私は戻るね」
「うん、お姉ちゃん、ばいばーい」
「はい、またお昼に」


結局、私の願いは神様にも、こなたにも届かなかったらしい。

ため息をひとつこぼしながら、私はとぼとぼと教室に戻った。






つかさのクラスでお弁当を食べてる最中、私は2人にそのことを知らされた。
「えっ!?こなた遅刻してきたの!?」
「ええ、3時間目と4時間目の間の休み時間にいらっしゃいましたよ」
「昨日も夜中までゲームやってたんだってさ~」
「な、なら、今はどこいるの?」
「なんかお昼買い忘れたとかで、学食行ったよ」
「そう……なんだ……」

―――本当に……そうなの……?

私に会いたくない……だけじゃないの……?

遅刻したのも、学食にいったのも、全部―――。

私はこなたを裏切った……。
初めてのデートの時、こなたに約束したのに……。
それなのに、私はその約束をやぶったんだ………。
あんなにも喜んでくれたこなたを、私は背信したんだ……。




私から誘った最初デート。
こなたはずっと暗そうな顔をしていた。
服やアクセサリーを見てる最中も、ご飯を食べてる最中も、ずっとそれが気になっていた。

いざデートするとなると、女同士で歩いてたらやっぱり周りの視線が気になるのかな……。
………それとも、私だから……?


そんな不安を抱きながら、暗くなってきた道一緒に歩いていると、小さな公園を見つけた。
誰もいない、寂しそうな場所。
あるのは、ちょっとした遊具とベンチだけ。
でも、不思議と雰囲気が気に入った。
『こなた、ちょっと休んでいかない?』
『うん……そうだね』
少し不安だったけど、こなたは小さく頷いてくれた。


静かだった。
聞こえてくるのは、私の鼓動だけ。
他に音は何もない。
まるで、ここだけ世界から切り離されてるよう。
世界には私とこなただけしかいない、そんな錯覚すら覚えるくらいに。
でも、決して不快に感じない。
むしろ、心地よくすら感じる。
今なら普段素直になれない私でも、どんなことでも言える気がした。

『こなた……』
この世界にいる、私以外の唯一の存在に話しかける。
『今日、つまらなかった?』
『えっ………?』
驚いたような顔をするこなた。
『だって、ずっと暗い顔してたし……。嫌ならそう言ってくれていいのよ?
私だって、無理してもらってまで一緒にいてもらおうとは思ってないから……』
なるべくいつもの調子で言ったつもりだった。
だけど、無理だった。
声が、少し震えていた。
嫌なのに無理強いさせたくはない。
それは確かに私の本心。
でも、やっぱり………。

私は本心と本心の間でぐちゃぐちゃになったまま、こなたの言葉を待った。

『違うよかがみ、そんなんじゃないって!』
『えっ……?』
こなたの慌てた顔を驚いて見つめる。
『私、デートとか初めてだから……どんなこと話したり、一緒にしたりすればかがみが喜んでくれるのかわかんなくて……。それでかがみが私に愛想つかしちゃって、嫌われたらって思っちゃって……』


そうだったんだ……。
こなたも不安を抱いてたのね……。
……ごめん、気付いてあげられなくて………。


『バカ……。変わろうなんて思わなくていいのよ……』

『え……?』
こなたは、驚いた顔をしていた。

『私は……今のままのこなたが好き……』

『かがみ―――ッ』
こなたは涙を浮かべて、私に抱きついた。
その体は、小さく震えていた。

こんな小さな体の中に、そんな大きな不安を抱えてたんだ……。
教えてもらえてよかった……。
それを払ってあげられてよかった……。

『かがみ……ごめん……私、かがみのこと、信じてなかった……』
『私も気付いてあげられなくて………ごめんね』
『ううん………ありがと………』
『こなたも、私と一緒にいてくれてありがとう』
『うん……。いつもの私に戻るまで、もう少しこうして待っててくれる………?』
『ふふ、いくらでも待ってあげるわよ』
『かがみ……ありがと』
『いえいえ』
『大好き……』
『私もよ……』



あの時、私は言った。
『いつものこなたが好きだ』と。
いまのままのこなたであって欲しいと。


―――望むは誰がため―――?


そんなの、決まってる。

なのに、私はいつものこなたの冗談にあんな大声を出した。
―――それはこなたへの裏切り。

……こなたに嫌われてもおかしくない。
私はこなたを騙したも同然のことをしてしまったんだから。

……もう私に信頼なんてないのかもしれない。
だから会ってくれなかったり、メールも返してくれなかったりして、私を避けてる。

……こなたは迷惑してるかもしれない。
私みたいな詐欺師からつきまとわれて。


すぐ俯いちゃったからほんの一瞬だったけど、あの時のこなたの顔を忘れられない。
今まで見たことがないくらい驚いていた。
その後、こなたは私と目すら合わせてくれなかった。
そして今、もう会ってくれない。


私は言った。
『私だって、無理してもらってまで一緒にいてもらおうとは思ってないから……』って。
つまりは、そうゆうこと………なんだよね。


「お、お姉ちゃんどうしたの!?」
つかさが驚いたような顔をしている。
「えっ……?」
「ご飯の中に、なんか変なの入ってた!?」
「ううん、そんなことないわよ。ちょっと塩っぽいかなって気はするけど……」
流石に農薬なんかは入ってないだろうし、そんな大げさにすること……?
「かがみさん、お気づきになっていませんか?」
みゆきも心配そうに私を見る。
二人が何をそんなに言っているのか、私には全く分からない。
「どうしたのよ、二人とも―――あ……っ」


手の上にぽつんと小さな水滴が落ちた。
それは、昨日の雨のように冷たかった。



「あはは、私どうしたんだろ……。目にゴミでも入ったのかな……」
笑いながら拭う。
誤魔化しきれた自信はない。
声が震えていたから。

でも、二人は何も言わなかった。
だから、私もそのまま気にしないようにした。






帰り道、つかさと二人で歩いていた。

こなたは出れなかった分の授業のプリントなどを受け取りに行ったらしい。


『こなちゃんのこと、待つ?』
つかさの言葉に、私は首を横に振った。
『………ううん、帰ろ』
プリントを受け取りにいくなんて大した時間がかかるわけじゃない。
先生がみつからなくても、せいぜい15分程度。
それなのに、先に帰って欲しい、とこなたは言った。

それはつまり、私に会いたくないってことなんだよね……。


『無理してもらってまで一緒にいてもらおうとは思ってないから……』。
せめて、これだけは嘘にしないようにしよう……。

『……わかった、じゃあ帰ろっか~』
『うん………』



電車を乗り継いだ、地元の道。
秋の太陽は真っ赤に輝きながら、その身を街へと隠し始めていた。

「ねぇお姉ちゃん、こなちゃんってさ……」
不意につかさがこなたのことを切り出した。
「こなたがどうかした?」
私は少し躊躇いを感じながら、その名前を呼んだ。
「……小さい頃にお母さんが死んじゃったでしょ?」
「そう………ね」
それは、こなたの前では暗黙の了解で禁句とされているもの。
こなた自身、気にしてないって言ってるけど、やっぱり軽々しく話題に出していいものなんかじゃ到底ない。
この場にこなたがいないとしても、この話題を出すというのは普段なら出来ないこと。
でも、この話題を出した。
私にはその意図が汲み取れなかった。


つかさは少し間を置いてから、こう言った。

「こなちゃん……誰かに甘えられた………のかな……」

暮れかかった真っ赤な太陽の逆光になっているつかさの顔は、どこか悲しげだった。


つかさの疑問の答え。
私は知っていた。

「――――――」

「そう………なんだ」

私たちは少しの間、そのまま黙って歩き続けた。

太陽はもうほとんど暮れていて、あたりは暗かった。
空は群青が広がる中、別れを惜しむような赤が幻想的だった。



「でも、突然どうしたの?」
私の言葉に、不意につかさは立ち止まった。
「ど、どうしたの?」
私も立ち止まりながら振り返る。
その時のつかさの表情は、やけに大人びて見えた。


「ねえ、お姉ちゃんは甘えたこと、ある?」


「甘えたこと……?」
「私がこう言うのもなんなんだけどね、私はいっつもお姉ちゃんに甘えてた。甘えられた。けど、そのせいで、お姉ちゃんって誰にも甘えられてなかった気がして……」


―――私、誰かに甘えたっけ……?

―――その答えは―――。

「………どうかしらね」

私は呟いた
向かい合ったつかさだけがなんとか聞こえるくらいの声で。

「お姉ちゃ―――」
「ほら、早く帰るわよ」
つかさの言葉を遮り、背を向けて私は歩き出した。



――――それは、【拒否】の意思表示。
これ以上その話はしたくない、という。


「あ、待ってよお姉ちゃん~」
そうよ、つかさ。
私はアンタのお姉ちゃんなの。
だからね、それ以上聞かないで。
私がお姉ちゃんであるために。
私が私であるために。


光のなくなった空。
それは、まるで私の心を表しているようだった―――。



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