負けるな! マイノリティ

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「かがみん、あーそーぼ?」
「ちょっと待ちなさいよ……あと考えてる文章打ち終わるまで待って……」
「ちぇっ。つまーんないの」

最近かがみが冷たい。私の気のせいでは無いはずだ。

「ぶつぶつ」

文句も言ってみる。しかし かがみには こうかがない みたいだ……。

「大体遊ぶったって、今何時だと思ってるのよ。もう11時過ぎてるのよ?」
「だーかーらー、夜の二人の営みだってば」
「明日早いのよ。起きられなくなると困るからまた今度ね」

顔は相変わらずディスプレイに向けたまま。のぞき込むと、私には理解できない「民法○条」などの法律用語が垣間見える。
私より仕事の方が大切か?!何だか泣けてきましたよ?

「だからさ、明日早く起きてご飯作ってよ。私じゃそういうの出来ないし……」
「うーん、わかったヨ。かがみは料理できないから仕方ないね」

しかし!かがみはこの策略に気づいていないのだ!かがみがなぜ、二十歳過ぎても料理が出来ないか?それはきっちり私が料理を作って、かがみに作らせないようにしてたからなのだ!!
こうすれば、かがみも私からは離れられないという作戦。

「じゃあ先に寝てるね」
「お休み」
「おやすみー」

……結局こっち振り向いてすらくれなかったよ……。
私はとぼとぼとベッドに向かった。



翌朝、かがみの起き出す前に起きた私は、早速朝食の準備に取りかかった。
同棲を始めて5年ほど経った。高校を卒業して、かがみと同じ大学へ意地で合格した私は、自分の気持ちをかがみに打ち明けた。
そう、「好き」だと。「愛している」と。
かがみもその気持ちに応えてくれた。嬉しかった。
そんな気持ちもあって、表向きは「生活費安くて済むから」という理由で、かがみと同棲を始めたのだった。
実際に一人当たりの負担は安くて済んでいるので、周囲にふれているこの理由も嘘ではない。が、第一の理由でもない。
お父さんには同棲を始める前から本当のことを伝えてある。
お父さんは

「うん、そうか。かがみちゃんと仲良くね」

とだけ言って送り出してくれた。
実はお父さんは、私がかがみのことが好きだと言ったとき、少し、少しだけ、困った顔をしていた。

お父さんも、お母さんと結婚する少し前は、ごく少数しかいないオタクの一人だった。
きっと社会的マイノリティのつらさを知ってるんだ。あんなおじさんだもの。お母さんの実家からの反対は容易に想像できる。
今はオタクは別にマイノリティじゃない。しかもオタク市場は、日本経済の一部を支えてしまっている。経済学部を専攻してきたのだ。卒論だってそのテーマで書いた。
今は、そうして学んだことを活かして、コスプレ喫茶を支えている。
高校時代からのバイト先。
パティは留学を終えて帰国した後、結局また日本の大学を受けて入学してしまった。今もバイト先で顔を合わす。

今朝は典型的な「日本の朝ご飯」だ。
昨日特売だからって買いすぎたアジのひらきを早めに消費しようって魂胆は無いですヨ?
人参、大根。まな板からお鍋へ。

「おはよう、こなた」
「あ、かがみ。おはよん。もうちょっと待ってね、すぐ出来るから」
「そう。サンキュー」

連日、仕事仕事で忙しかったからか、かがみがなんだか細く見えた。
……しっかり食べさせないとなぁ。



「じゃあ行ってくるわね」
「行ってらっしゃーい。私も今日は仕事だから」
「でも私より帰ってくるの早いでしょ」
「そうだけどさ。一応」

数秒、ホンの数秒の間の筈だった。
でも永遠とも思える時間……

「……ごめんね。最近どうしても仕事断れないクライアントが居てさ……」

そんな顔しないでよ……かがみだって大変なんだから……

「かがみには仕事頑張って貰わないと。私、かがみのおかげで暮らしてるようなもんだし」
「あんただってしっかり稼いできてるじゃない。繁盛してるんでしょ、コスプレ喫茶」
「まあね。もしかしたら店長になっちゃうかもよ?」
かがみの言う通り、実は結構繁盛している。私の給料も、月30万円に届きそうな感じ。ほとんどグッズの為に消えていくけどね。

「期待してるわ」


この瞬間を、私はねらっていた。
唇を重ねる。

「ん」
「!……」

ちょっと驚いてたけど、かがみは応えてくれた。
私たちの気持ちを確かめ合える、短い時間。

「じゃあ今度こそ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」



かがみが家を出てすぐ。私は受話器を握った。

「もしもし、みゆきさん?」
『泉さん。今日は早いですね』
「これから仕事だから、今しか時間無くて」
『そうでしたか』

早速本題だ。

「どぉ?お願いできそう?」
『申し訳ありません。現在海外出張に行ってらっしゃるとのことで……』
「その人帰ってくるの、いつ頃になりそう?」
『来週には帰ってくると……』
「じゃあ、そのときにまたお願いして貰って良い?」
『はい。……かがみさんはお元気ですか?最近お話していないものですから』
「連日仕事続きで疲れてるみたい……何とかしてあげたいんだけど」
『そうですか。では、よろしくお伝え下さい』
「うん。じゃあ、そろそろ出ないといけないから」
『わかりました。それでは』
「じゃーねー」

受話器を置く。
やっぱり時間かかりそうだな……。

「うん、順調順調」
「すごいね!こなたが経営に乗り出してから、右肩上がりデスよ!」

営業時間が終わった後は、簿記を付けなくちゃいけない。いつもパティが横に張り付いて
計算を手伝ってくれるから、有り難い。

「バイトの身なのにこれだけお給料が良いと、ツイツイいろんな買い物してしまいまーす」
「学費とか大丈夫なの?今の内に貯めこんだ方が将来のためだよ」
「それより先に卒業論文ですヨ」
「あー、そっちの方については口出しできないや。ま、頑張ってー」

喫茶の売り上げは右肩上がり。利益も良い感じにでている。
あと半年ほどこの調子なら、店内改装も夢じゃない。


「ただーいまー」

誰もいない部屋。
私は買い物袋をさげて、靴を脱いだ。

「さて、かがみが居ない内に……」

私にはしておくことがあった。
テレビを付けてDVDプレーヤーにディスクをセット。
語学教材のオープニングが流れ始めた。



「ただいまー」
「おかえり、かがみ。ご飯出来てるよー」
「お、サンキュー」

夜8時頃、最近かがみが帰ってくる時間はここまで遅くなっている。
前は6時半位には帰ってきてくれてたのに……。

「じゃーん、今日は肉じゃがー」
「良いわねー。じゃあ着替えてくるから」
「お待ちしておりますよ。かがみ様」

テーブルの準備を整える。ご飯をよそって、味噌汁をつぐ。

「あー、今日も疲れたわ」
「仕事順調?」
「まあね。……この案件が終わったらさ、休暇取ることにしたから」
「え、取れるの?!」
「長くないけどね。2日くらい」
「じゃあ、かがみにはゆっくり羽を伸ばして貰わないとね」

ホントは旅行とかに行きたかった。でも2日じゃ無理か。まだ就職したてだもん、それくらいが限界だよね。


「二人でどこか行かない?」

え!まさかっ!

「日帰り温泉とかさ」

あー、そうなるよねぇー……。

「今度、そこの所に大型スパ出来たの知ってる?」
「うん。広告入ってたヨ」
「平日なら安いからさ、今度行きましょうよ」
「良いねー。じゃあ私も休み取ろ」
「そんな簡単に取れるの?」
「ふふふー、私を誰と心得る!実質あの喫茶の経理を握っているのは私ですぞ!」
「経理と人事は別じゃないの?」
「古株だしね。融通利かせてくれるよ」

かがみとスパかぁ。そう言えば行ったこと無かったかな?



やってきましたよ、待ちに待ったかがみの休日!!

「やー、でかいねー」
「これくらいないと温泉にならないからねー」

浴場で並んで歩くかがみと私。端から見れば確実に親子連れだろう。
さっきおばさんに「お嬢ちゃん、お母さんと一緒?良いわねー」とか言われたし。

「あふー、良い湯じゃー」
「なーに年寄りみたいなこと言ってんのよ」

……

……

何この沈黙。
まるで、しばらく使ってなくて埃被ってたファミコン発掘してきて電源入れたは良いけど
何も映らなかった時、みたいな空しさ。沈黙。
誰もサイレスの呪文使ってませんよ?


「あのさ、かがみ」

やっとのことで重い口を開く。

「ん?」
「今度さ、オランダ行かない?」
「何よ、藪から棒に……」
「オランダなら同性結婚おkなんだよ」
「……」
「私たちさ……こういう間柄なのに、……何も残せない?っていうのあるじゃん」
「止めてよ……そういうこと言うの……」
「解決策を探してたんだよ」
「……」
「最近新聞とかで見つけたんだけど、普通の細胞の遺伝子使って卵核を作る技術が出来たんだって」
「だから何よ……」
「みゆきさんに問い合わせてみたら、その技術開発した人って、みゆきさんの知り合いなんだって。
だからさ、今問い合わせして貰ってる」
「よくもまあ、そんなこと思いついたわね……」
「だからオランダに移住して、子供作れれば、なんら普通の夫婦と変わりないよ」
「それはそうかもしれないけど……オランダへ引っ越すって、そんなお金どこにあるのよ?
言葉は? 向こうに行ったら仕事は? 大体、子供作るってどっちが……妊娠するのよ……」
「資金はあるよ。私の貯金。もうそろそろ200万円に届きそうだから」
「!あ、あんた何時の間に?!」
「最近グッズ買ってないしさー。アフィリエイトやってたら儲けがこれだけ」
「最近CDとか増えてないと思ったら、そういう訳だったのか……でも、それだけじゃ足りないわよ。
家とか探すならもっと大金が必要じゃない」
「今すぐ、って訳じゃないからね。まあ、4、5年後位にさ。オランダ語は心配しないで。私ばっちり勉強中」
「い、何時の間に……」
「仕事は問題ないよ。向こうでコスプレ喫茶開くから。需要あるし」
「どうやって調べたのよ。ソースは信頼できるんでしょうね?」
「パティの友達でオランダ行ってる子が居て、その子に調べて貰ってる。心配ないよ」
「……なんか都合の良い情報しか来ない気がするんだけど。その子がオタクなら同好の士だけ集めて
『需要ある』って言ってたりして……」
「それはないよ。その子オタクじゃないって」
「……ならまあ少しは信頼するとして……」
「で、どっちが、って話だけど。かがみよろしく」
「なぜ」
「だって私がコスプレ喫茶で働いてたら、そう言うわけにも行かないぢゃん」
「……わかったわよ」
「おお、かがみがこうもあっさり飲んでくれるとは……」
「何よその目は。……だってこなたと私の子よ?」
「じゃあ後でみゆきさんにはそう言っておこう」
「……でもこなたがこんなに用意周到だったとはね。高校時代から見てると無計画な印象が強いから」
「むぅ」

ヒヒヒと笑うかがみ。顔をしかめる私。
まるで高校時代に戻ったみたいだった。



月日は流れて。

「もうそろそろ?」
「あと2ヶ月くらいで出産予定日なんだ」
「元気に生まれてくると良いですね」
「当然よ、私とこなたの子供だもん」

久しぶりに二人で日本に戻ってきたついでに、久しぶりに4人で会おうか、という話になり、
こうして懐かしい顔ぶれがそろっていた。

「向こうではどうなの?」
「業績は右肩上がりだよ。私経営の才能あるね、絶対」
「でも少しでもお金があればすぐにオタグッズ輸入して来るじゃないの」

いやー、ネットの力は偉大だね。個人輸入もすぐ出来ちゃうよ。
で、多めに買い込んで喫茶で売ってたりもする。結構良い値段でも、飛ぶように売れるんだよね、これが。

「泉さんらしいですね」
「お姉ちゃんは弁護士やめちゃうの?」
「この子が大きくなってきたら向こうの事務所を探そうと思ってるんだけど。
それに……この子の籍の問題もあるしね」
「大丈夫だよ。かがみなら絶対国に認めさせてくれるって信じてるから」
「……うれしいこと言ってくれるじゃない」

頬を朱に染めてほほえむかがみの姿が、私をドキッとさせた。
ああ、このかがみに私は惚れたんだなぁ……。

心霊写真を撮ってしまったときの事を思い出す。
うん。私は誰よりもかがみを愛してる。
嘘偽りの無いこの気持ちを持っている限り、マジョリティなんかにゃ負けないぞ!
二人の、ううん、三人の幸せを掴み取るのだ!!

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  • 下らないマジョリティなんかに負けないで欲しいです。
    なんて、ありきたりなことしか言えない…orz -- 名無しさん (2012-12-26 18:36:08)
  • ↓このスパ野郎! -- 名無しさん (2009-12-08 19:24:24)
  • ↓↓成る程、部外者だが勉強になったっす。
    こういう(スパも知らない)マイノリティもいるって事よ。 -- 名無しさん (2008-08-10 00:17:42)
  • スパしらないって··すげえ環境で育ったんだね
    -- 名無しさん (2008-08-08 10:40:06)
  • http://www.spa-navigator.com/
    上記のリンクで検索できるような場所のことだよ、文中に出てくるスパって。 -- 名無しさん (2008-03-11 16:18:13)
  • スパってなんだよ。スパゲティかよ -- 名無しさん (2008-03-11 13:47:56)

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