チン!加熱完了を告げる小気味良い音がオーブンから響く。
 蓋を開けると、焼きたてパンの香ばしい香りが当たりに漂った。
 その匂いに、製作者、私――泉かがみは一人、満足して頷いた。
「よし、上出来♪」
 火傷しないようにパンを慎重に取り出すと、人数分、4つに切り分ける。
「お、良い匂いだなぁ」
 と、そう言ってキッチンに入ってきたのは泉そうじろうさん。私の義父に当たる人物だ。
「あ、お義父さん。おはようございます」
「おはよう、かがみちゃん。いやぁ、かがみちゃんが家に来てくれてから色々と助かってるよ、ありがとう」
 そういって頭を下げるそうじろうさんに、私は慌てて手を振り返す。
「そ、そんな、私、大したこと出来ませんし……」
 すると、そうじろうさんは頭を上げ、ニカッと笑って、
「いやいや、謙遜すること無いぞ?こなたと俺じゃ、あまり身の回りを気にしないし、ゆーちゃんには負担をかけられないからなぁ、本当に、ありがとう」
 もう一度頭を下げるそうじろうさん。こちらこそ、そうじろうさんには感謝している。こなたとの結婚を認めてくれたのもそうじろうさんのおかげだし……。
 そう、私はこなたと結婚した。しかし、まだ高校は卒業していない。所謂学生結婚というやつだ。
 学生、しかも同性と言うことで当然、非難は集中した。だけど、私とこなたの熱意、つかさとみゆきの後押し、そしてトリプルKと言う謎の団体が世間に直訴してくれたために結婚は実現した。
 そうじろうさんと私の実家はその団体の名誉会員らしい……何のための団体なのか、草葉の陰から見守られているらしいので詳しいことは分からない。
「お、そうだ、かがみちゃん、そろそろこなたを起こしてきてくれないかな?」
 時計を見ると7時を少しまわったところ、全く、しょうがないわね。


「こなた~、もう起きなさい!」
 こなたの部屋に行ってみると、案の定、こなたはまだ布団に丸まっていた。
 私の声にもぞもぞと反応するとこなたは、
「昨日も徹夜でネトゲだったから……」
 そう言って再び布団に潜り込む。だが、そうは私の問屋が卸さない。
「自業自得よ!さぁ、起きた起きた!!」
「あぁっ!?かがみ様!!!?」
 反論を無視し、一気に布団を剥ぎ取る。こなたは意地でも布団にへばりついていようとしたのか、布団と一緒に宙を舞った。
「きゃぁ!?」
 そして、私は降ってきたこなたの下敷きになる……いつものことだ。
「お姉ちゃん、かがみお義姉ちゃん、どうしたの!?」
 物音に気がついたのだろう、ゆたかちゃんが飛び込んできた。もう一度言おう、私はこなたの下敷きになっている。
「ご、ごゆっくり~!!」
 そう言って部屋から飛び出すゆたかちゃん。これもいつものことだ。だけどあの子にはそろそろ学習して欲しいな、と思う。

「こなちゃん、お姉ちゃん、おはよ~」
「おはよ、つかさ」
「おはよ~」
いつもの待ち合わせの駅でつかさと朝の挨拶を交わす私たち。以前はつかさと一緒にこなたを待っていたのだけど、今はつかさを待たせる側になってしまった。
「こなたが中々起きなくてね、ごめんねつかさ」
謝る私に、この妹は健気にも首を振った。
「気にしなくていいよ、私はこなちゃんとお姉ちゃんが幸せなら、それでいいんだ」
「いやぁ、つかさは本当に良い子ですなぁ。お義姉さん、感心だ」
「って、あんたはもうちょっと早く起きろ」
そんなやり取りをしている間にバスが来た。こなた、私、つかさの順に空いてる席へと座る。
「あ、そうだ。ねえ、二人とも、子どもは出来た?」
「「ぶふぅっ!?」」
吹いた……二人同時に。
「出来たら言ってね。名付け親になりたいから。それにね、私の事を‘おばさん’じゃなくて‘つかさお姉ちゃん’って呼ぶ良い子に育てるんだ」
「つ、つかさ……」
つかさの中では結婚=子どもが出来る、事になるらしい。そ、そりゃ、出来れば欲しいけど……そんなの、無理だし。
「心配ないよ、かがみん。例の技術を使うから」
「例の技術って何だよ!!」


『次は、陵桜前、陵桜前~』


学校に着いた。バスを降りようとするこなたに向かって手を差し出す。それを見た途端、こなたの顔がにやぁっと緩んだ。
「あれぇ?その手はもしかして、一緒に手を繋ごうね、ってお誘いですか?」
く……こいつ、分かってて言ってるな。こなたにこのまま弄られるのは悔しいので、思い切って言い返す。
「そ、そうよ。あんたと手を繋いで学校に行きたいの!悪い?」
途端、こなたの顔が火を噴いた――と思うくらい真っ赤になった。キシシ、思い知ったか。
「……ズルイよ、かがみ」
俯いてボソボソ言い返してくるこなたが可愛くて、思わず抱きしめる。ギュッとね。学校?ちょっとぐらいなら遅れてもいいでしょ?

「じゃあね、お姉ちゃん」
「じゃね、かがみん。後で会いに行くよ」
「うん、じゃあ、また後で」
B組の教室の前で別れる私とこなた、つかさ。こなたは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら、教室に入っていく。私も、後ろ髪を引かれる思いを持て余しながら、自分の教室へと向かう。
結婚しても私とこなたのクラスはやっぱり別だ。同じクラスにして欲しいとは思ったが、散々わがままを通したのだ、これ以上は譲歩するしかない。

「オッス、柊」
「おはよう、泉ちゃん」
日下部と峰岸と朝の挨拶を交わす。ちなみに、日下部は私の事を旧姓の‘柊’で呼び続けている。
「ちょっと日下部、私の姓はもう柊じゃなくて泉なんだってば」
「ん~、でもなんか言いにくいんだよな、泉ってさ。柊はずっと柊だったわけだし」
「まぁ、言いにくいかもしれないけど、泉って呼んで欲しいのよね、私は。泉って姓は私とこなたが結婚した証だし」
私がそう言うと日下部は頭の後ろで腕を組みながら、
「それが気に入らないんだよなぁ、私だってちびっ子の事お気に入りなのにさ。柊ばっかしずるいよ」
じろりとこちらを睨んだ。そ、それってどういう意味よ……。
「わかんね~の?私もちびっ子が好きだって言ってんの」
「んなっ……!!」
警戒する私と、挑戦的にこちらを見る日下部。双方を見やりながら峰岸はただただ苦笑しているだけだ。
「こ、こなたと私が結婚した時点で、こなたは私のものなんだから、い、今更あんたがこなたを好きになっても遅いわよ!」
「ふっふ~ん、そいつはどうかな?」
ニヤリとした日下部。な、何よその余裕の態度は……?
「私は‘みさきち’ってあだ名もらってるけど、柊はもらって無いじゃん?」
「だ、だからって……それに何の関係があるって言うのよ?」
我ながら覇気の無い返事だ。まぁ実際、それは少し気がかりなわけで、‘かがみん’は呼んでくれる時ばかりじゃないし。
や、やっぱり新婚なんだし、二人だけに通じる呼び方とか……欲しい、と思う。
そんな私の様子を見やって、日下部は調子付いたのか、
「つまり私もまだ脈ありって事なんだってヴァ。そだ、ちびっ子に柊から乗り換えるんだったら、いつでもいいって言ってこなくちゃな」
! ぐ……コイツ……月夜ばかりと思うなよ。

お昼休み、こなたの教室に顔を出す、そして一緒にご飯食べる。
パンばかりで、こなたの栄養が心配になるけど、私料理が苦手……。
「つまり、今日もかがみんの愛妻弁当は無しってことなんだよ……orz」
「わ、悪かったわね。そう思うなら、あんたが作ってくれればいいじゃない」
「いやいや、いつもネトゲで忙しいからね、朝が遅くなってしまうのですよ」
「威張るな!」
いつもと変わらないやり取り、こんな日常を、結婚した後も変わらずに続けられるのが、嬉しい。この日常を守る為に尽力してくれた、つかさ、みゆきにはどれほど感謝をしてもし足りないくらいだ。
私がそう言うと、みゆきは、緩やかに首を振りながらいつもこう言う。
「こなたさん、かがみさんが気にすることは無いですよ。お二人の幸せが、私たちの幸せです。それに、私個人としては、お二人に感謝しているくらいですし」
何で?と聞くと、みゆきの答えは、
「お二人から、勇気をもらいました。後々の為に前例が出来ることはいいことです」
そして必ずつかさの方をチラッと見るのだ。こなたは「あ~、成る程ねぇ」なんて言って頷いているけど、私にはその意味が分からない。

「オッス、ちびっ子、遊び来たゼ」
と、日下部と峰岸がこちらの教室にやってきた。日下部の目的は多分、こなただろう。
案の定、日下部はこっちに来ると私の許可も得ず、こなたの隣へ腰を下ろした。しかもさり気なく椅子をこなた側へ寄せている。コラ。
あ、ちなみに峰岸はつかさの隣へ落ち着いた。
「なぁ、ちびっ子、今度の休みに一緒にどっか遊び行かね?そんで、私に萌え~ってヤツを教えてくれよな」
日下部はアクティブな奴だ、目標を定めると行動が素早い。このままではNTRエンドへ一直線。
そう思った私は、こなたが肯とも否とも言う前に素早く会話へ割り込んだ。
「こ、こなた、はい、あ~ん」
一瞬、驚いたこなただったが、すぐに表情を崩すと、口を開けて待機状態へ移行。その口へ間髪入れずコロネの欠片を押し込む。
もっきゅ、もっきゅと口を動かすこなたは幸せな子猫のようだ。髪を撫でてやると頬が紅潮し、体を預けてくる。
ジト目の日下部と目があった。口だけで「覚えてろよ、柊」と言っているが、今の私はそんな脅しに屈したりはしない。
今朝の仕返し、とばかりに、ニヤリとしてやる。コレが新妻の実力ってヤツよ。ふふん。

放課後になり、こなと一緒に下校する。そしてアニメ○トに寄り道を……させるかぁっ!
「な、なんで!?ひどいよかがみ様!!」
抱きついてくるこなたの、泣きそうに潤んだ瞳から必死に目をそらしながら、私は現実を突きつける。
「今月の出費がどれだけか分かってるの?家計の為にあんたもちょっとは自重しなさい」
そう、今の泉家の財布の紐は私が握っている。以前、お義父さんにこなたとお義父さんのクレジットカード明細を見せてもらった時は、飛び上がった。趣味に糸目をつけないこの二人に任せておいたら大変なことになる。
「え~、でもオタクに自重の二文字は無いんだよ」
「私だって欲しいラノベがあるのに我慢してるのよ?」
「でも、かがみぃ……」
うるうると見開かれたこなたの瞳。ヤバイ、目が合っちゃった……
「ね?かがみ、お願い……」
こなたのうるうる攻撃!いかん!耐えろっ、私!!


「お会計、5000円になりまーす」
あぁ……やっちゃった……
ほくほく顔のこなた。両眼から滝を流す、赤いバイザーの店長。後悔している私。
三者三様をもって、本日のお買い物、終了。


「まったく、今回だけだからね?」
帰り道、二度とこんなことの無いよう、こなたと自分に釘を刺す。
こなたは「分かってるよぉ」と言っているが、怪しいもんだ……勿論、自分も。
「ところで、今日のお金使っちゃったけど、晩御飯どうしようか?かがみ。買い物に付き合ってもらったから、私が作るけど、何食べたい?」
お金のことに突っ込みたいのを自制しながら、今晩の献立を考える。折角こなたが作ってくれると言ってるんだし、どうしようかな……あ、そうだ。
「……こなたがいい」
「……へ?」
「だから、こなたが食べたいって言ってるの!」
言うと同時に、唇を重ねる。息が続く間、味をじっくりと堪能する。
「ぷはぁっ、かがみ、つまみ食いはダメだよ?」
潤んだ瞳で注意してくるこなただが、そんなんじゃ説得力無いぞ。
「いいじゃない……ね?」
今度は私がこなたにお願いする番。こなたは頷くと、目を閉じた。
夕暮れの中、二つの影はゆっくりと、一つに重なった。

――ピピピッ、ピピピッ。
う~ん、何よ、今、こなたといい所なんだから邪魔しないでよ……。
ピピピッ、ピピピッ!
あ~、これ目覚ましの音ね。ハイハイ、起きればいいんでしょ、起きれ……ば?
あれ……?
ゆっくりと意識が覚醒してくる。すると、今、自分がぼんやりと見つめているのが自室の天井だということを認識した。
当然、こなたの顔なんかどこにも無くて……。
夢……だったんだ。
「そう……よね。同級生、しかも同性と結婚してるなんて、どう考えてもありえないわよね……」
ははは、と力の無い笑いがこぼれる。力が入らないのは笑いだけじゃない、体全体が妙な倦怠感に包まれていた。
何分そうして笑っていたのだろう、不意に、目から熱い物が流れ、仰向けになった顔を伝って髪を濡らしていくのを感じた。
「――あれ?涙?おかしいな……」
何で涙なんて零れるんだろう。なんでこんなに……悲しいのだろう。
ううん、理由は分かってる。今までのことが、夢だったから。
――夢だったらなんで悲しいの?
こんな状況でも、心の隅で疑問の声を投げかける冷静な自分がいた。問われて、初めて悲しい理由を考え、気がついた。
――私は、こなたが好き。
好きで好きで好きで好きでたまらないくらい、好き。だから、結婚したって言う夢を見たんだ。
……絶対に叶わない‘夢’なのに。
「うぅ、こなたぁ……」
身を震わせ、声を上げて泣こうとした時、自分の横に丸まっている青い塊を発見した。
塊はもぞもぞと動くと、うみゅぅ、と声を上げる。
「……あんまり動くと寒いよ。かがみ」
……え?


私たちの新婚生活は始まったばかりだ。



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コメント:
  • 忘れがちだけど、
    店長おめでとう店長 -- 名無しさん (2012-10-16 20:26:17)
  • かが×こな最高 -- かがみ (2009-04-28 21:12:18)
  • えーと?つまり「かがみは私の嫁」ではなく「こなたが私の嫁」と言うオチですか?(違
    ぶっちゃけ二人が幸せならどっちでも良いんですけどね(をい
    所で、こなたが「寒い」と言ったのは、季節が冬だからですか?それとも一糸纏わぬ姿or裸パジャ(ry -- こなかがは正義ッ! (2009-03-01 12:19:47)
  • ↓そして同時にやんでれかがみでもあるなw -- 名無しさん (2009-03-01 09:26:00)
  • まぁそれなら相手パティやけど -- 名無しさん (2009-01-15 05:45:46)
  • 途中、「愛しのこなたが振り向かない」の一部があるwww -- 名無しさん (2008-12-30 02:14:40)
  • 夢だと言うことに気づいて、泣き出しちゃうかがみに萌えました -- 名無しさん (2008-09-07 07:59:36)
  • まさかのダブルオチwww -- 名無しさん (2008-09-06 22:36:50)

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