こなかが観察日記!~一日目~

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田村さんからノートを受け取った私は、胸にしっかりとそれを抱えながら教室に戻った。
「みんな、ごめんねー」
椅子を引いて席に座って、ノートをカバンの中に入れると、いったんお姉ちゃんとゆきちゃんとの話の
区切りを付けたこなちゃんが話しかけてきた。
「いやいや、それでどしたの?」
え、えーとなんて言おう。まさかこなちゃんにこなちゃん達のことを日記に書いて欲しいと
言われたなんて言えないし、もし気づかれてしまったらそのことを意識してしまって普段のこなちゃん達に
ならないかもしれない。秘密にしておこう。そう心に決めて小さく頷いた。
「え、えーとね、田村さんに頼まれたことがあるの!」
「へ?ひよりんがつかさに?珍しいね?」
こなちゃんが目を丸くしてびっくりしている。それはお姉ちゃんもゆきちゃんも同じで
どれくらい意外なことかということが表情だけで伝わって来た。
そうだよね…。私もびっくりしたし、驚かないわけがない。

「そうなの!なんだか田村さん、孫の手も借りたいぐらい忙しいみたいで!
…んと、なにか思いついたことがあったらこれに書いて欲しいって!」
「孫の手を借りてどーすんのよ…」
「つかささん、孫ではなくて猫ですよ」
「みゆきさん、野暮なことは言いっこなしだよ。天然なつかさが可愛いんだから」
「そんなこと言って、この先ずっと間違えたまんまだったらあんたのせいよ?」

一度しまったノートを取り出して説明すると、みんな納得してくれたみたいだった。
嘘を吐くことは苦手だからなるべく本当のことを話して、知られたくないことだけは
少しだけぼかして言う。いつの間にか話はノートや田村さんの話から
逸れていて、ほっと息をつくのと同時に、授業があと5分で始まる
という合図のチャイムが鳴ってお姉ちゃんはC組に戻って行った。


金曜日。今日から本格的に日記を書き始めようと思う。あのノートはあんまり出していると
変に思われるから、出来る限りのことを覚えておいて家に帰ってから書くことにした。

学校に来るまでには特に何もなかったから書かなくても大丈夫なはず。
それよりも、ちょうど午前中の授業が終わったからこれからお昼ごはんと
昼休みがある。ちゃんと見ておこうと、決心しつつ鞄から今日のお弁当を取り出していると
こなちゃんがこっちに来るのが見えた。
「あー…つかさ?今日のお昼なんだけどさ、買ってくるの忘れちゃったから
かがみといっしょに食堂行ってくるね?」
「あ…うん…わかったよー。いってらっしゃい」
ど、どうしよう?笑顔で送り出しちゃったけれど昼休みくらいしかお姉ちゃんとこなちゃんを見る機会は
ないし…。昼休みはあっちで過ごしちゃうかもしれないし…。…そうだ!

「ゆきちゃん!」
「は、はい!なんでしょうか?つかささん」
突然私が大きな声を出したせいか、ゆきちゃんも同じように大きな声を出して
答えた。箸の先から掴んでいたプチトマトが滑ってお弁当箱の上に落ちて転がった。
謝ろうとする前に質問をされてしまってタイミングを逃してしまった。
「えぇ、と…ごはん食べたらちょっとつき合ってほしいんだけれど…駄目、かな…?」
「いえ、大丈夫ですよ。どうかされたんですか?」
「うん、ちょっとやらなきゃ無いことがあって…」


いつもよりも頑張って早くご飯を食べ終えた私たちは、廊下を早足で進んでいた。もちろん食堂に向かうために。
こっちから動かないと、田村さんにあんなに必死に頼まれたことをできずに終わってしまう。だから
私は自分から動くことにした。食堂に行ってこっそり覗くぐらい大丈夫、だよね?ゆきちゃんも
一瞬困った顔をしたものの何も言わずに付いてきてくれた。覗く理由は言ってないから本当にびっくりしたと
思うけれど、それがゆきちゃんの優しさかもしれない。

食堂は廊下の一番端の階段を降りた先で、お昼時には何人もの生徒でいっぱいになってしまう。私たちも
たまに使うけれど、普段お弁当を持ってきているせいかその頻度は普通の生徒よりはちょっと少ないくらい。
だけど、そのたまに食べる学食は値段の割に量も多くて味も結構美味しくて、生徒だけじゃなくて
先生たちも頻繁に利用しているみたいだ。だから、私たちが隅の方にいたとしても気づかれないはず――。
そんなことを考えながら歩いていると、廊下の先、10メートルぐらいの所に蒼い髪がちらりと
踊るのが見えた。
「こ、こなちゃん!?」
「ひゃぁっ!?つかささん!?」
慌ててゆきちゃんのセーラー服の裾を引っ張って抱きしめるみたいにして縮こまって
一緒に目の前にある柱に身を隠した。顔は見えなかったけれど
この学校にあんなに綺麗な蒼くて長い髪の持ち主はこなちゃんしかいない。
トイレはちょうど今進んでいる方の正反対にあるから、もし見つかっちゃったらなんて言い訳したらいいんだろう?
焦りでうまく働かない頭を懸命に働かせながら出来る限り体を小さく折りたためる。
けれど、いつまでたってもこなちゃん、そして一緒にいるはずのお姉ちゃんは廊下を進んでこなかった。
「あれ…?」
不思議に思って少しだけ顔を出してみると、廊下にはこなちゃんどころか誰一人歩いていなかった。
「つ、つかささん…、あの…苦しい…です…」
ぽんぽん腕を叩かれて下を見るとお腹のあたりに抱きしめたままのゆきちゃんがいた。
「わぁっ!!ご、ごめんねゆきちゃん!!」
絡めていた腕を離すと酸欠のせいかゆきちゃんの顔は真っ赤になっていた。しかもなんだか息まで荒い。
「本当にごめんね!!」
「それはいいんですが…むしろ…。ぁ、いえ、なんでもありません!
…それより、泉さんたちは屋上に行ったのではないでしょうか?
他に行く場所もありませんし…」

屋上…。考えてみればそうかもしれない。これより上の階には音楽室やパソコンルームとかの
特別教室しかないし…。まだ午後の授業までは時間があるから…。ひとつ頷いて、ゆきちゃんと
一緒に私はまた歩きだしたのだった。


きいい、と油を差していない金属製の扉が音を立てる。二人がいるはずだから気づかれないように
なるべくゆっくり押したけれど、どうしても耳障りな音を鳴らさないように開けることは不可能だった。
それでも、二人には聞こえなかったみたいで私はほっと胸を撫で下ろした。ゆきちゃんとそっと顔を少しだけ覗かせると、
屋上の校庭側、つまり私たちとは反対側にこなちゃんとお姉ちゃんが並んで座っているのが見えた。
背中をこっちに向けているから見つからないはず――。そう思ってもう少しだけ頭を出して聞き耳を立てることにした。

「――でさ、それがまた――」
「――そうよね。だけど――」
とぎれとぎれだけど何とか内容が分かる程度には聞こえる。お姉ちゃんの隣には食堂で食べてきたらしい
お弁当箱が置いてあった。…ふと気付くと、いつの間にかあんなにさっきまで楽しげだった会話は
止んでいて、校庭の向こうにある桜の木の枝を揺らす風の音だけが聞こえてくる。

少し何かがあれば崩れてしまいそうな空気の中、先に動いたのは――こなちゃんの方だった。ぴくりと
左手が動いて、床に置いてあったお姉ちゃんの右手に重ねられる。びくりと大きく肩を震わせたお姉ちゃんは
それでもその手を振り払わずにされるがままになっている。そのままこなちゃんがより強く
握り締めるのが見えた。ふわりと、暖かい風が吹いて翻った菫色の長い髪からちらりと覗いた
お姉ちゃんの耳は、真っ赤に染まっていた。

「わぁ…。なんだかドラマみたいだねー。ねぇ、ゆきちゃん?」
「え…あ、はいそうですね!」
私の上で二人を見ていたゆきちゃんを見上げると、なぜだかゆきちゃんもおねえちゃんに
負けないくらい赤くなっていて、私は首をかしげた。
「ゆきちゃん…?顔、赤いけどどうしたの?」
「え!?あの…その、少々、熱くて…」
「そうだねー。今日はちょっと暑いかも」
セーラー服の襟をぱたぱたさせながら私はゆきちゃんの言葉に同意した。確かに今日は5月にしては
汗ばむほどの陽気で、風が吹かなければ衣替えがまだ済んでいない冬服では暑苦しいと感じたかもしれない。
視線を元に戻すと、お姉ちゃんとこなちゃんは肩が触れ合うほどお互いの距離を詰めていて
また、ドラマみたいでいいなぁと心の隅で思う。いつだってお姉ちゃんとこなちゃんは
仲良しで、それが少し羨ましく思ったりもするけれど、私としてはもう一人お姉ちゃんが出来たみたいで
嬉しくあったりもした。
そんなことをぼんやり考えていると、視線の先でこなちゃんがゆっくり顔をお姉ちゃんの方に近づけるのが見えた。
「…!!いけません!つかささん!」
「ふぇ!?ゆきちゃんどうしたの!?」
焦ったようなゆきちゃんの声が突然降ってきたと思ったら、手で目隠しをされてしまった。なにも見えないことに
混乱して、どうしたの?と聞いてみるけれど、ゆきちゃんはもう少しだけ待って下さい、
とだけ言って全然放してくれる気配がない。それから、5分か10分が経ったころ、5時間目の予鈴がなって
漸くゆきちゃんは手を放してくれた。
「ど、どうしたの?ゆきちゃん、いきなり…」
「…その、少し…教育上良くない光景が繰り広げられていたものですから…」
「?…ふーん…?」
ゆきちゃんの言葉がよく意味がわからなくて曖昧な相槌を打つのと同時に顔の前に長い影が落ちた。

「およ?どしたの?つかさにみゆきさん。こんなところで」
見上げると、こなちゃんとお姉ちゃんが不思議そうな顔をして立っていた。まさか、二人を
観察しに来たとは言えず、なんて言おうか迷っているとゆきちゃんが口を開いた。
「えぇ、と…予鈴もなりましたし、中々お二人が帰られないので呼びに来たところなんです」
「そ、そうそう!もう少しで授業が始まっちゃうよー。
…そういえば、さっき何してたの?」
ゆきちゃんのフォローを有難く思いつつ、ついでにさっき目隠しをされてたせいで
見えなかったことを聞いてみた。
「な、ぁ…っ!!つかさ、あんたさっきの見てたの!?」
聞いたとたん、お姉ちゃんの顔はぼん!と音が出るぐらいに急激に朱に染まった。それがなんでだか
分からなくて、小さく首をかしげるとお姉ちゃんは今度は怒り始めた。
「こなたぁ!だからこんなところでするのはやめようって何度も言ったじゃない!」
「えー?かがみんだって本気で拒否しなかったくせにー」
「ぐ…!それ、は…そうだけど…」
「?見てないけど…どうしたの?」
このままだと本気の喧嘩に発展しそうだったから、慌てて言うと今までお姉ちゃんの方を向いて
話していたこなちゃんが、私の方に向き直っていつもみたいな猫さんみたいな口で笑いながら言った。
「見てないのならいいのだよー。ただ睦みあってただけだし」
「ちょ!おま…!!」
むつみちゃんと会ってた?でも、二人のほかには誰もいなかったみたいだけど…。それに、
この学年にそんな子いたかなぁ…?記憶の糸を手繰り寄せて今まで聞いたことのある
女の子の名前を順に並べていると、遠くから鐘の音が聞こえてきた。
「――だからっ!何であんたはそんなに軽率に…って、これ本鈴じゃないの!?」
「わ!次世界史だよ!黒井せんせーに怒られちゃうヨー!つかさ、みゆきさん
ダッシュだー!!」
「い、急ぎましょう皆さん!」
「わぁぁ!皆待ってよー!」

―――こうして、私のこなちゃんとお姉ちゃんの観察日記は始まったのでした。


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コメント:
  • wktk全裸待機ですな! -- 名無しさん (2010-08-30 13:26:22)
  • 期待大ッスねぇ -- 名無しさん (2010-08-13 16:18:18)
  • いろいろと期待しています -- 名無しさん (2010-05-18 20:27:18)
  • 首を長くして 続き待ってます -- 名無しさん (2010-04-21 07:59:04)
  • 面白いです -- 名無しさん (2009-05-01 11:25:50)
  • やっぱり純粋で天然なつかさは良い!!

    続編楽しみです -- 名無しさん (2008-08-07 09:05:22)

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