何気ない日々:お見舞いには花束を用意して

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 物足りない帰路、さびしんぼウサギなんてからかわれているけれど、かなり的を射ているのかもしれないわね。・・・認めたくないけど。
「お姉ちゃん、こなちゃん家にお見舞い行くんだよねー?」
「一応そのつもりなんだけど、この雨だと自転車はどう考えても無理そうよね」
雨は学校にいたころより酷くなっていた。
「そうだねー、帰らないでそのままお見舞いに行けばよかったかも」
つかさが言うのも一理あるんだけど、お見舞いに行くのだから何か持っていこうかと思っていたから、こうして一旦帰ってきたのだけれど・・・どうも裏目にでたらしい。
「やっぱりお見舞いなんだから、何かもっていった方がいいかと思っんだけど」
律儀なことを言ってる気もする。前に、私が風邪でこなたがお見舞いに来たときには、宿題を写しにきただけっぽかったし・・・。
「境内の紫陽花がそういえば綺麗に咲いてたわね。あれを少し拝借して花束を作ってもっていこうかしら」
「あ!それいいね。今年はちょっと時期が早いけど綺麗に咲いているよ」
もって行くものは決まった。でもさすがに勝手に切ってしまうわけには行かない。確か、紫陽花の手入れをしているのは、母だったはずだから、母に聞いてみないと。
「おか~さ~ん。こなちゃんのお見舞いに紫陽花の花を持っていきたいんだけど、いいかなぁ?」
「お見舞いに紫陽花を?いいわ。ちょっとまってて、綺麗なのを見繕って持ってくるから」
今日のつかさはなんというか行動が素早い気がする。
それについて、感心しているうちに紫陽花の花束を母が持って戻ってきた。
それは、綺麗なライトパープルの紫陽花。土の成分で紫陽花の色は変わるというけれど、うちの境内に咲いている紫陽花は毎年、この色の花をつける。株自体がこの色の花をつけるタイプらしくて、遺伝なのだそうだけど、詳しくはよくわからない。
 私とつかさが生まれたときに、新しく植えた株だそうなんだけど、どういうわけか私達姉妹と髪の色と同じ色の花が咲くらしい。今年は、例年になく綺麗なライトパープルだった。
「わぁ、今年のは一段と綺麗にないたね~」
「本当ね。凄く綺麗」
二人して褒め称えると、母が少し得意げだった。
「そうでしょう、今年は去年より綺麗に咲いたのよ、これもお母さんの努力の賜物ね、ふふふっ」
母の嬉しそうな笑みにつられて私もつかさも同じように笑顔になる。
 それから、服を着替えて、さて出かけようかなというタイミングのことだった。
「くしゅんっ」
玄関にて、いざ出かけようとした所でつかさが盛大にくしゃみをしたのだ。
「つかさ、大丈夫?」
風邪のお見舞いに行こうというのに、それだけ盛大なくしゃみをされては連れて行ってよいものか迷った。
「あら、少し熱っぽいわね」
母の手がつかさの額に当てられていた。つかさはしきりに「大丈夫だよ、お母さん」と繰り返していたが、つかさがお見舞いへ行くことは却下されることとなった。
「私もやめとこうかな」
まだ、こなたとは少し気まずい。嫌な気まずさとは違う・・・けれど、どう表していいのかわからない気まずさが残っている。
 胸の奥に芽を出した名もない感情は少し成長して、それが私の心をほんの少し乱しているのもその原因の所為だろう。
 こなたの事を考えると胸がざわざわして、どうしてか、物凄く悲しくなってしまう。いや、悲しいのとは少し違う・・・どう言い表せばいいのだろう。
「私もこなちゃんのお見舞いにいきたいよ、お母さん~」
私もつかさという口実がなければ、なんか育ってはいけない感情が名付く程に成長してしまいそうでとても、怖かった。
「だめよ。でも、せっかく花束を作ったから、そうね・・・かがみ持っていってあげたら?」
しかし、母は行けという。その言葉に・・・何故でだろう、あの日繋いだ手がほんのりと温かみを浮かべていた。
「へ?な、なんで、わ、私だけで・・・つかさに熱があるならそっちのほうが心配だし。・・・私もいかないわよ」
何故か声が上ずってしまう。虚勢にしては余りにも滑稽な弁明だった。
「お姉ちゃんは、とってもこなちゃんが心配なんだね」
つかさの言葉に心臓が跳ね上がった。きっと何か特に意図があるわけじゃない。
 でも、つかさはどうしてだか、こういっては何だけれどいつも鈍いのに突発的に心の自分でも気がつかない程、奥の何かに触れるような発言をすることがある。
「そ、そんなことないわよ。さっ、傍にいてあげるからベッドで横になったほうがいいわよ」

頭を振って、考えを切り替えて母の後ろにいるつかさの手を引いて部屋に連れて行こうとするが、つかさが動かなかったので、私はつんのめってこけそうになってしまった。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんは、私の分までお見舞い行ってきてよ。その方が嬉しいな」
つかさは表情は笑顔で、でも目だけは心配そうな真剣な、そんな不思議な感じの目をしていた。
「じゃぁ、さっと行ってすぐに帰ってくるから」
私は母から紫陽花の花束を受け取りながら、つかさにそう告げた。
「きっとこなちゃん、喜ぶよ」
そういうつかさの額に手を当てると少し熱い。微熱程度だろうけど、風邪のひきはじめには違いなかった。
「あいつのことだから、きっと元気にゲームしてるわよ」
じゃぁ、行ってくるから、ちゃんと寝てるのよ?なんて言うと母が苦笑していた。
 つかさがしっかりと頷くのを見届けてから、私は家をでた。
 雨は相変わらず降っていた。こんな中、お見舞いだなんて馬鹿げているわね・・・そんな事を思いながら、あの空が青一色に染まってくれる事を願う。
 しかし、紫陽花の花言葉ってどんなのだったかな。考えを巡らせていると、前にみゆきから聞いた、日本とフランスの二つの花言葉を思い出した。
 日本のは移り気又は心変わり、冷たい人だったかな?でもフランスのは元気な女性だったはず。
 フランス流で行けば、十分にお見舞いの花としては間違っていないかな。
 言葉なんて、捉える言葉の意味によって変わるのだからここはフランス流で行こう。

 ・・・この時、私は心変わりという花言葉がほんの少しだけ胸に染込んだ気がした。


 目を覚まして、時計を見ると学校が終わった時間になっていた。空は相変わらず重たい色で染まっている。相当汗を掻いたのかべっとりとしたパジャマの感触と前髪の感触に嫌悪感を感じる。
 今頃、かがみ達は学校の帰りかな。私がその場にいたら、かがみにしがみ付いて、それから、からかって顔を真っ赤にして怒ってるのにどこか楽しそうな彼女を見ながらつかさやみゆきさんと笑うのだ。そしたら、かがみも笑って・・・それはとても楽しいに違いないのに、どうして私はその場にいられないのだろう。
「あれ?」
ふと呟いた声は随分と掠れていた。それよりも声を出す程、驚いたのは頬を伝うたった一滴の涙。一滴から始まり、頬を伝い零れる。
 私はいつからこんなに、寂しがりに、孤独に弱くなってしまったのだろう。
「ゆーちゃん帰ってきても部屋にいれるわけにはいけないよネ」
ゆーちゃんはつい此間、風邪をひいていたのだから部屋に入れるわけには行かない。きっと感染ってしまうから。
 みゆきさんは家が遠いから無理だろうけど、かがみやつかさならお見舞いに来てくれるだろうか?
 そんな事を考えがら、重い体を起こして昼間に作っておいたホテルみたいにドアに引っ掛けられる“ゆーちゃんは感染るかもしれないから立ち入り禁止”というカードをドアノブに引っ掛けてベッドに倒れこむ。本当は、着替えたいけどそんな元気ないや。
 もしかしたら、かがみなら前の仕返しにお見舞いに来てくれるかなぁ。
 そんな何の保障もない期待をして、私は目を閉じる。誰もお見舞いに来なくたって早く元気になって学校へ行けば、皆に会えるのだから。



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  • 全作品をいっぺんに読ませていただきました。
    文章がとても上手で、特に心理描写が秀逸ですね。
    続編を楽しみにしています。GJでした。 -- 20-760 (2009-02-03 07:40:25)


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