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泊まった日・夜」(2010/05/14 (金) 08:04:37) の最新版変更点

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お風呂で火照った体に、扇風機の風が心地よい。 窓からは、徐々に秋へと移り変わっていく涼風。 それでも、こなたの部屋は暑かった。 二つずつ向かい合うように並んだ四つの布団の一つに、座り込む。 今、この部屋には誰もいない。 かといって、もうあんな危険を冒すようなことをしようなんて思わなかった。 こなたは、男となんてメールしていない。 受信ボックスを隅から隅まで見たわけじゃないけど、多分そうだ。 そもそも、こなたが男とメールするなんて考えられない。 相当失礼だけど、普段のこなたを見ているとそう考えるのが普通だ。 でも、でももし、私の知らないこなたがいるのだとしたら……。 何も学校内だけとは限らない。 ……コスプレ喫茶。 あのこなたが可愛い格好をして接客しているのだから、何人もの男がアプローチをしていても全くおかしくない。 いや、こなたがそんな奴等に振り向くわけがない。 考えすぎだ。忘れよう。 あれから。 あれから、みんなでいつも通りの会話をしたり、ゲームをしたり、色々と楽しかった。 時間はすでに十一時半を回っている。 微かな空虚感を覚えた。祭りの後の空しさのような、そんな感じだ。 「ふ~。あ、お姉ちゃん。いたんだ」 振り向くと、ドアの前につかさがいた。 つかさも私の前にお風呂に入ったので、頭が僅かに上気している。 そういえば、前にこなたの家に泊まった時、つかさと髪型を入れ替えたんだっけ。 ふと、そんな昔のことが頭に浮かんできた。 二度ネタになるから、またやろうとは思わないけど。 ……あれから、もう一年か。 去年は、どんな気持ちでこの家に泊まったんだろうか。 今となっては、もう分からない。 去年と今では、確実に何かが違っているから。 「そういえば、こなたとみゆきは?」 「こなちゃんは今お風呂に入ってるよ~。ゆきちゃんは、戸締りするって」 「普通逆じゃないのか、それは……」 昔と今で、何が変わってるんだろう。 考えたけど、答えは見つからなかった。 ● しばらくして、こなたとみゆきが一緒に部屋に戻ってきた。 それからもう遅いから寝ようということで、四人で布団に入って、電気を消した。 こなたもベッドを使えばいいのに、態々布団を敷いてその中に入っている。 律儀なのか、そっちの方が楽しいのか。多分後者だろう。 豆電球の明かりのみとなった部屋の中、全員で円を描くように顔を寄せ集めた。 修学旅行みたいだな。 ふと、そう思った。 「じゃあ、みんなで泊まる夜だし、恒例の本音トークでもしますか」 「え~? なにそれ~」 「皆で隠し事をせずに本当のことを言い合うんだよ。修学旅行のときやらなかった?」 「あー、やったやった~」 「修学旅行の夜は、誰しもテンションが上がって大胆になりますからね」 そういえば、こなたは今までの学校生活をどうやって過ごしてきたんだろう。 親しい友達はいたのかな。一人いたっていうのは聞いたけど……。 もしかしたら、修学旅行のときも独りだったのかもしれない。 ……こなた……。 いや、そんな何の確証もない過去のことなんて関係ない。 私たちと過ごすこの日々が。 今が、こなたにとって一番幸せな時間でありさえすれば。 自信はないけど、そうであって欲しい。 こなたの楽しそうな笑顔を見て、強く、そう思った。 だからこそ、押し殺してひっそりと処分したいものもある。 そこまで考えていると、 不意にこなたの声が聞こえてきた。 「うーん、ベタだけど、まずは恋話で行ってみようかー!」 ……はあ? ● 「じゃあ、一番気になる大本命は置いといて、まずはみゆきさん!」 「は、はい」 「みゆきさんは、好きな人いる?」 大本命って何なのよ。私のことか? 「わ、私は、特にそういう人は……」 「えー? 本当? 本音で答えてよー」 「ゆきちゃん、嘘は駄目だよ~」 「いえ、嘘というわけではなくて、本当にいないんですよ……」 「あー、そうかー。大体分かってたんだけどね。じゃあ、次はつかさ! いい話期待してるよー」 「え~、私も好きな人とかいないよ~」 壁として並んでいた会話が、凄い速さで壊されていく。 落ち着け落ち着け落ち着け……。 平静を装わないと。 心臓の鼓動が早くなってくる。 体が熱くなっているのは、お風呂上りで布団に入っているからだろうか。 とにかく、簡単なことだ。 ただこう言えばいいだけ。 ――私も好きな人なんていないわよ……って。 こなたが食いついてくるかもしれないけど、そこはうまく誤魔化すんだ。 いないの一点張りで。悟られないように。 「う~ん、やっぱり予想通りかー。よく考えたら、私たちの中でそういうのがありそうなのって……」 こなたがにやにやとこちらを見てくる。動揺しないように。平常心を保って。 「かがみは好きな人いるの?」 ――来た。 自分が何に怯えて、何を隠そうとしているのか。 多分分かってるんだろうけど、今は押し殺そう。 ●●● かがみはいるにしてもいないにしても、絶対いないって言う。 でも、かがみは嘘をつくときどうしても動作に現れる。 言葉に詰まったり、目をきょろきょろと動かしたり、視線をそらしたり、必要以上に強く否定したり。 もう長い付き合いだもん。これくらい分かって当然だよ、かがみ。 かがみから目を離さないように、じっと見つめる。 かがみは視線を左上に向けて、少し口をもごもごさせて、 「わ、私も好きな人なんて、い、いないわよ……」 あー、かがみは正直だな。それとも天邪鬼っていうのかな。 ――かがみの好きな人って誰なんだろう。 「かがみ、これは本音トークだよ。ちゃんとほんとのこと言わないと」 「な、ほ、ほんとだって。好きな人なんているわけないじゃない!」 「かがみ、隠してるつもりかもしれないけど、もうばればれだよ」 「え、何で、え、や、何、あ、わ、ななな……」 すごい動揺だな。自分で好きな人がいるって言ってるようなものだよ。 「かがみの好きな人って、誰なの?」 「そ、それは、その……」 かがみは顔を赤く染めて、私から顔を背けようとする。 もう好きな人がいるって言うのは確定だな。 顔が自然とにやついてくる。 誰なんだろうなー。突き止めたいなー。 かがみは何か言いたそうで、でもそれは言葉になっていなかった。 「お姉ちゃん、もしかして、本当に好きな人いるの?」 「い、いや、その……」 「それは気になりますね」 「だ、だからそんなんじゃ……」 「かがみ~ん、正直に言った方が楽だよ~」 もうかがみの顔はりんごのように真っ赤で、いつ頭から蒸気が吹いてもおかしくない状態だった。 顔を枕にぎゅっと押し込んで、上目使いで私たちを見回している。 まるで怯えている子犬のようだ。 可愛いなあ~。かがみは子犬っていうのもありかな? 「も、もうその話はやめてよ。なんでもいいじゃない」 ある意味好きな人はいるって認めてるともとれるけど、相当焦ってるんだろうな。 「お姉ちゃん、教えてくれたっていいじゃない。私たち、応援してあげるからさ~」 「言いたいことが言えないというのは、体に悪いですよ」 「誰なのさー。教えてよー」 「だ、誰だって関係ないじゃない! ほっといてよ」 そう言ってかがみは布団の中に潜り込んでしまった。 ……どんどん墓穴を掘ってるなあ。 でも、ちょっとやりすぎちゃったかな。 あの中で、かがみはどんな表情をしてるんだろう。どんな気持ちでいるんだろう。 ――そうだ。 ゆっくりと、かがみの布団の前まで這っていく。 つかさとみゆきさんに人差し指を立てて、喋らないように合図を送る。 布団の端っこから、するすると中に入り込んだ。 頭が何かに触れる。 かがみの足かな? その上に馬乗りになって、顔の方へと進んでいった。 「……な、ちょ、こなた?」 かがみが体を左右に揺らして私を振り落とそうとする。 でも抱きついて我慢だ。 薄暗くて、まだ目が慣れていない布団の中、かがみの体温が服越しに伝わってくる。 相変わらず枕に顔をうずめて、俯いているかがみの後頭部が目に入った。 必死に布団の端を掴んでいる。あ~、愛らしいなぁ……。 後ろから、かがみの首に両手を回す。 「か~がみん」 「や、やめてよ。離れなさいってば!」 「いや~、さっきはちょっと調子に乗っちゃったかなって。かがみはいじりがいがあるっていうか」 「な、何よそれ」 「だってかがみの反応見てると、本当に可愛いんだよ~」 「ば、馬鹿! 何言ってるのよ……」 「うんうん、それだよ~」 かがみの顔を横から覗き込む。 よく見えないけど、たぶん予想通りになってるだろうな。 見ても分かんないから、肌で感じてみよう。 かがみの頬に、自分の頬をくっつける。 柔らかくて、熱い感触。 ふにゃふにゃしてて気持ちいいなぁ~。 「ちょ、な、何するのよこなた!」 急にかがみが顔を上げる。 あー、照れてる照れてる。 「それで、かがみん」 一息。 しつこいなと思うけど、やっぱり気になる。 「好きな人って、誰なの?」 「ま、まだその話なの? もういい加減にしてよ。誰だっていいじゃない……」 やっぱり簡単には言ってくれないかー。 でも、なんとしてでもかがみの口から言わせたい。 これくらいじゃ、諦めないよ。 かがみの耳に、そっと息を吹きかける。 「ひゃっ!」 かがみはこそばゆさに耐え切れないのか、何度も背中を揺らした。 効果は抜群だ。やっぱりこういうのには弱いのかな? 本当にかがみは……。 今度はかがみの耳たぶを甘噛みしてみた。 おもちみたいに柔らかくて、溶けそうで、食べてみたいな、なんて変なことが、一瞬頭に浮かんだ。 「くっ、や……」 かがみは肘を上げたり、体を揺らしたり、凄い力で私を引き剥がそうとする。 でも、ぴったりかがみにくっついてるから、そんなのじゃ落ちないよ。 「ほらほら、早く好きな人言わないと、もっと色々やっちゃうよー」 「そ、それは……でも……」 むー。まだ駄目か。どうしようかな。 両手を離して、腰の方まで後退する。 これをしたら、かがみはどんな反応をするだろう。 想像するだけで、顔が自然とにやついてくる。 でも、早く言ってくれないのがいけないんだからね。 服の中に手を突っ込む。 かがみの肌は相当に火照っていた。冷や汗までかいている。 やっぱりやりすぎちゃったかな。でも……。 両手の指の一本一本で、撫でるように、かがみの脇腹に触れる。 「ひゃっ、く、くすぐったいってば! やめなさいよ」 「わははは、かがみん! もはや、のがれることはできんぞ」 そのまま指で背中を上るように這わせていく。 「ふっ、ひっ、うぅ……」 かがみの体が小刻みに震え始めた。 「かがみが好きな人を言ってくれるまで、やめないよ」 「だ、だから、それは、言、えないっ、て……」 かがみも相当強情だな~。私たちに言えないような人を好きになったのかな? ますます知りたくなったよ。 左手でうなじの辺りをくすぐる。 「や、やめ、やめてって。もういいでしょ!」 体を激しく動かして抵抗してきた。 まだまだいくよー。 落ちないように気をつけながら、体を前に倒して、かがみのうなじを舐めた。 「――っ!」 かがみは声にならない声を出して、全身をびくんと震わせた。 「かがみ~ん、いい加減に本当のことを言いなよ。減るもんでもないんだからさ。それとも、もっとこういうのされたいのかな~?」 「わ……、分かったわよ。言えばいいんでしょ言えば。だから、は、早くやめてよ!」 動きを止めた。 少しの沈黙。ただかがみの洗い息遣いだけが聞こえてくる。 「言ったね! 約束だよ。絶対に好きな人が誰か告白するって」 「う、うん……」 かがみから降りて、布団から出る。 「こなちゃん、一体中で何やってたの?」 「かがみさんの悲鳴も筒抜けでしたよ」 「うーん、ちょっと色々といたずらをね」 ていうか、すっかり二人の存在を忘れてたよ……。 呆気にとられたような顔をしている二人に、とりあえずVサインを送る。 誰なんだろうな。誰なんだろうな。 気になりすぎるのか、好奇心が限界を超えたのか、胸の動悸がすごく早くなってきた。 しばらく待っていると、かがみが布団から顔だけを出した。 頭に乗った布団を両手で下に引っ張って、出来るだけ小さくなろうとしている。 「かがみー。じゃあ、みんなの前で言ってみようかー」 「わ、かってるわよ……」 かがみの顔は、イチゴのように赤く赤くなっていた。 ●●● 周りを見ると、こなたとみゆきとつかさが、興味津々といった表情で、こちらを凝視している。 私が喋るのをじっと待ってるんだろう。 あの時は本当に苦しくて、あんなことを言っちゃったけど、今では相当後悔してる。 じっと我慢してればよかったのに。どうしても耐えられなかった。 くすぐったいのもあるけど、こなたに色々されているということ、そのものが。 私の背中に乗って、私の死角から。 頬を擦り付けてきたり、息をかけてきたり、くすぐってきたり。 それから、首とか耳たぶを、舐めてきたり……。 なんだか変な気持ちだった。 やめてもらいたいのか、もっとやって欲しかったのか。 嬉しかったのか、嫌だったのか。 ……今となっては、もう分からないことだけど。 何にしても、何か、大事な何かがおかしくなりそうで、つい条件を飲んでしまった。 私にとって、最悪の条件を。 誰か適当な男子の名前でもあげるか、それとも、本当のことを言うのか……。 でも、こなたと約束したんだから、本当のことを言うしかないかな。 それに嘘をついても、こなたには簡単に見透かされそうな気がする。 だけど、こんな、みんなの前で。 私の好きな人を告白するなんて……。 恥ずかしさに、体が病気にでもなったみたいに熱い。 ……どうしよう……。 誰も何も喋らない。動きもしない。 時が止まったかのように、全てのものが静止している。 口を噤んでいても、全然時間が進まない。 言うしかないのかな。 妹が見てる中、親友が見てる中、 ……好きな人の目の前で。 私がこれを言ったら、どんな反応をするだろうか。 出来れば言いたくなかった。知られたくなかった。 こんなの、おかしいから。 女同士なんて、普通じゃない。絶対に変だ。 言いたくないのに。 幸せになってもらいたいから。 こんな感情、相手に迷惑をかけるだけだから。 それなのに、全然気づかないで、私に好きな人を言わせようとして……。 なんで、分かってくれないんだろ。いや、分かってくれない方がいいのかな。 「かがみ? 早く言ってよ」 時が動き出した。 もう言うしかない。言って、その後は、もうどうにでもなってしまえ。 あんたが悪いのよ。言いたくなかったのに。このままの状態が続いていけば、それでよかったんだから。 「い、一回しか言わないわよ。わ、私が好きな人は……」 口ってこんなに重かったっけ。 呼吸ってこんなに難しかったっけ。 たった三文字を言うだけ。 それが、本当に難しい。 つかさがじっとこっちを見てくる。みゆきも好奇心に溢れた眼差しを向けてくる。 そして、当のこなたも、わくわくした楽しそうな目でこちらを見つめてくる。 この三文字が。 普段は普通に言ってる三文字が。 今だけは重くて、禁断の呪文のように思えた。 こなた。 こなたこなたこなたこなたこなたこなたこなた。 「―――― ●●● 」 ……えっ? 今、何て言ったの? 聞き取れなかったよ。 いや、分かるけど、分からないって言うのかな。 確かに、かがみは今、はっきりと、 私の名前……。 いつの間にか、かがみは泣いていた。 どういうこと? 全然わかんないよ。 かがみが好きな人が、私? それってうまい逃げ口なの? それとも、本当に私のことが……。 「お、お姉ちゃん、今、何て……」 「本当に、泉さんのことが……」 「そ、そうよ。私は、こなたのことが好き。大好きよ。悪い?」 「い、いえ、そういうわけでは……」 「でもゆきちゃん、それって同性愛なんじゃ……」 かがみは私と目を合わせないようにして、ずっと左上の方を見ている。 もうその顔は、世界中で一番赤いものになってるんじゃないかと思うほど。 それは多分、私も……。 「こなた!」 すごいスピードで、かがみが私の目の前まで来る。 肩を掴まれて、びっくりするほどの力で後ろに押し倒された。 「こなた、ごめんね。こんなこと言われて迷惑かもしれないけど、私、こなたのことがずっと好きだったのよ」 泣きじゃくって、 「本当はこんなこと言いたくなかったのに……。押し殺しておきたかったのに……。こなたのせいなんだからね。こなたがあんなことするから……」 かがみの目から零れ落ちた涙が、私の頬に落ちる。 かがみはこんなに悩んでたのに、私は、無理矢理言わせようと、面白がって色々しちゃって……。 ごめんね、かがみ。謝るのは私の方だよ。 「ごめん、かがみ。そんなこと思ってたなんて、知らなくて……」 でもね、今だから分かるけど、私だって、かがみに好きな人がいるんじゃないかもしれないって、怖かったんだよ。 だから、どうしても聞きたかった……。 多分、今までのことは、全部その為だったんだよ。 私がこの本音トークを始めたのも、もしかしたら、家に泊まらないかって言ったのも。 どうしても、確かめたかったこと。 でも、今では普通に聞いたりは出来なくなっていたこと。 昔はふざけあいながら、言えてたのにな。 いつからだろう。それを言うことに、恥ずかしさというか、ためらいを感じるようになったのは。 ――かがみは、好きな人いるの? 本音トークっていう場じゃないと、そういうのは言えなかったから。 でも、ようやく言えたし、ようやく聞けた。 何なんだろう。 よく分かんない、変な気持ち。 本当に、反応が可愛いだけなのかな。 さっきみたいに、色々いじってたのも。 私にとって、かがみは何なんだろう。 友達かな? それとも親友かな? ……どっちとも、何かが違う気がする。 確かに、かがみは私の親友だけど、それだけじゃないっていうか……。 料理を作るときも、考えていたこと。 あの時は、適当に理由をつけて流してたけど、あれは、逃げてただけだったのかな。 何で好きな人がいるかなんて聞いたんだろう。 親友として気になるから? 興味本位とか好奇心で。 それは……違う。そんなんじゃない。 それなら、いつも通りに、普通の会話の中で聞けるから。 それに、親友に好きな人がいるのを、怖いなんて思うはずがない。 かがみには、普通に好きな人が出来て、普通にその人と付き合って、普通に幸せになって欲しい。 だけどやっぱり、それは私には辛いこと。 もしそうなったら、私の気持ちはおかしくなっちゃう。 多分哀しくて哀しくて泣き続けちゃうよ。 私にとってのかがみと、かがみにとっての私は違うんだなって。 怖かったんだ。それが分かっちゃうのが……。 だけど、そうじゃなかったよね。 かがみは、好きな人は私だって、言ってくれた。 ほっとしたし、とっても、嬉しかったよ。 今でも信じられない。 こんな日が来るなんて思わなかった……。 妄想がそのまま現実になったような、夢物語のような。 これって、現実だよね。夢なんかじゃないよね。 私もね、押し殺しておきたかったんだよ。 かがみのせいなんだから。かがみがあんなこと言うから。 多分この気持ちは、かがみと一緒だと思うから……。 私も、正直にならないとな。かがみも、勇気を出したんだから。 それに答えないと。 「こなた、私のことどう思ってる? 嫌いになった? 引いた?  私はそれでも構わないわよ……。こんな気持ちを、あんたが無理に受け入れる必要はないんだから」 頬に、いくつもいくつも熱い雨が降ってくる。 あー、これが、かがみの気持ちなんだね。 「わ、私は……」 さっきかがみが通った道。 みんなの前で、自分の好きな人を言うっていう。 そういえば、私だけ言ってなかったな……。 今度は私の番かな。 「私も、かがみのこと、好きだよ」 「え? 本当? 本当に私のこと……」 「……うん。大好きだよ」 「うぅ……こなたぁ!」 「わ、ちょ、ま」 かがみが私の体をきつくきつく抱きしめてくる。 私もかがみをきつくきつくきつく抱きしめた。 「え? こなちゃんもお姉ちゃんのことが……好き? も、もう訳わかんないよ~」 「つかささん、私たちはもう蚊帳の外みたいですね。別の部屋で寝ましょうか」 「う、うん……」 視界の端っこ、つかさとみゆきさんが部屋を出て行こうとしてる気がする。 その二人が、外に出る間際に、頑張ってくださいとか、応援してるよとか、言ったような気もする。 ああ、もうそんなことも分かんなくなってきちゃった……。 かがみが私の唇にキスをしてくる。 私もそれに応える。 まるで時間が止まったように、 風は吹かず、ただただ室内は暑くなっていく。 太陽が止まって、この夜がずっと続いていけばいいのにな……。 -[[泊まった日・朝>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/201.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
お風呂で火照った体に、扇風機の風が心地よい。 窓からは、徐々に秋へと移り変わっていく涼風。 それでも、こなたの部屋は暑かった。 二つずつ向かい合うように並んだ四つの布団の一つに、座り込む。 今、この部屋には誰もいない。 かといって、もうあんな危険を冒すようなことをしようなんて思わなかった。 こなたは、男となんてメールしていない。 受信ボックスを隅から隅まで見たわけじゃないけど、多分そうだ。 そもそも、こなたが男とメールするなんて考えられない。 相当失礼だけど、普段のこなたを見ているとそう考えるのが普通だ。 でも、でももし、私の知らないこなたがいるのだとしたら……。 何も学校内だけとは限らない。 ……コスプレ喫茶。 あのこなたが可愛い格好をして接客しているのだから、何人もの男がアプローチをしていても全くおかしくない。 いや、こなたがそんな奴等に振り向くわけがない。 考えすぎだ。忘れよう。 あれから。 あれから、みんなでいつも通りの会話をしたり、ゲームをしたり、色々と楽しかった。 時間はすでに十一時半を回っている。 微かな空虚感を覚えた。祭りの後の空しさのような、そんな感じだ。 「ふ~。あ、お姉ちゃん。いたんだ」 振り向くと、ドアの前につかさがいた。 つかさも私の前にお風呂に入ったので、頭が僅かに上気している。 そういえば、前にこなたの家に泊まった時、つかさと髪型を入れ替えたんだっけ。 ふと、そんな昔のことが頭に浮かんできた。 二度ネタになるから、またやろうとは思わないけど。 ……あれから、もう一年か。 去年は、どんな気持ちでこの家に泊まったんだろうか。 今となっては、もう分からない。 去年と今では、確実に何かが違っているから。 「そういえば、こなたとみゆきは?」 「こなちゃんは今お風呂に入ってるよ~。ゆきちゃんは、戸締りするって」 「普通逆じゃないのか、それは……」 昔と今で、何が変わってるんだろう。 考えたけど、答えは見つからなかった。 ● しばらくして、こなたとみゆきが一緒に部屋に戻ってきた。 それからもう遅いから寝ようということで、四人で布団に入って、電気を消した。 こなたもベッドを使えばいいのに、態々布団を敷いてその中に入っている。 律儀なのか、そっちの方が楽しいのか。多分後者だろう。 豆電球の明かりのみとなった部屋の中、全員で円を描くように顔を寄せ集めた。 修学旅行みたいだな。 ふと、そう思った。 「じゃあ、みんなで泊まる夜だし、恒例の本音トークでもしますか」 「え~? なにそれ~」 「皆で隠し事をせずに本当のことを言い合うんだよ。修学旅行のときやらなかった?」 「あー、やったやった~」 「修学旅行の夜は、誰しもテンションが上がって大胆になりますからね」 そういえば、こなたは今までの学校生活をどうやって過ごしてきたんだろう。 親しい友達はいたのかな。一人いたっていうのは聞いたけど……。 もしかしたら、修学旅行のときも独りだったのかもしれない。 ……こなた……。 いや、そんな何の確証もない過去のことなんて関係ない。 私たちと過ごすこの日々が。 今が、こなたにとって一番幸せな時間でありさえすれば。 自信はないけど、そうであって欲しい。 こなたの楽しそうな笑顔を見て、強く、そう思った。 だからこそ、押し殺してひっそりと処分したいものもある。 そこまで考えていると、 不意にこなたの声が聞こえてきた。 「うーん、ベタだけど、まずは恋話で行ってみようかー!」 ……はあ? ● 「じゃあ、一番気になる大本命は置いといて、まずはみゆきさん!」 「は、はい」 「みゆきさんは、好きな人いる?」 大本命って何なのよ。私のことか? 「わ、私は、特にそういう人は……」 「えー? 本当? 本音で答えてよー」 「ゆきちゃん、嘘は駄目だよ~」 「いえ、嘘というわけではなくて、本当にいないんですよ……」 「あー、そうかー。大体分かってたんだけどね。じゃあ、次はつかさ! いい話期待してるよー」 「え~、私も好きな人とかいないよ~」 壁として並んでいた会話が、凄い速さで壊されていく。 落ち着け落ち着け落ち着け……。 平静を装わないと。 心臓の鼓動が早くなってくる。 体が熱くなっているのは、お風呂上りで布団に入っているからだろうか。 とにかく、簡単なことだ。 ただこう言えばいいだけ。 ――私も好きな人なんていないわよ……って。 こなたが食いついてくるかもしれないけど、そこはうまく誤魔化すんだ。 いないの一点張りで。悟られないように。 「う~ん、やっぱり予想通りかー。よく考えたら、私たちの中でそういうのがありそうなのって……」 こなたがにやにやとこちらを見てくる。動揺しないように。平常心を保って。 「かがみは好きな人いるの?」 ――来た。 自分が何に怯えて、何を隠そうとしているのか。 多分分かってるんだろうけど、今は押し殺そう。 ●●● かがみはいるにしてもいないにしても、絶対いないって言う。 でも、かがみは嘘をつくときどうしても動作に現れる。 言葉に詰まったり、目をきょろきょろと動かしたり、視線をそらしたり、必要以上に強く否定したり。 もう長い付き合いだもん。これくらい分かって当然だよ、かがみ。 かがみから目を離さないように、じっと見つめる。 かがみは視線を左上に向けて、少し口をもごもごさせて、 「わ、私も好きな人なんて、い、いないわよ……」 あー、かがみは正直だな。それとも天邪鬼っていうのかな。 ――かがみの好きな人って誰なんだろう。 「かがみ、これは本音トークだよ。ちゃんとほんとのこと言わないと」 「な、ほ、ほんとだって。好きな人なんているわけないじゃない!」 「かがみ、隠してるつもりかもしれないけど、もうばればれだよ」 「え、何で、え、や、何、あ、わ、ななな……」 すごい動揺だな。自分で好きな人がいるって言ってるようなものだよ。 「かがみの好きな人って、誰なの?」 「そ、それは、その……」 かがみは顔を赤く染めて、私から顔を背けようとする。 もう好きな人がいるって言うのは確定だな。 顔が自然とにやついてくる。 誰なんだろうなー。突き止めたいなー。 かがみは何か言いたそうで、でもそれは言葉になっていなかった。 「お姉ちゃん、もしかして、本当に好きな人いるの?」 「い、いや、その……」 「それは気になりますね」 「だ、だからそんなんじゃ……」 「かがみ~ん、正直に言った方が楽だよ~」 もうかがみの顔はりんごのように真っ赤で、いつ頭から蒸気が吹いてもおかしくない状態だった。 顔を枕にぎゅっと押し込んで、上目使いで私たちを見回している。 まるで怯えている子犬のようだ。 可愛いなあ~。かがみは子犬っていうのもありかな? 「も、もうその話はやめてよ。なんでもいいじゃない」 ある意味好きな人はいるって認めてるともとれるけど、相当焦ってるんだろうな。 「お姉ちゃん、教えてくれたっていいじゃない。私たち、応援してあげるからさ~」 「言いたいことが言えないというのは、体に悪いですよ」 「誰なのさー。教えてよー」 「だ、誰だって関係ないじゃない! ほっといてよ」 そう言ってかがみは布団の中に潜り込んでしまった。 ……どんどん墓穴を掘ってるなあ。 でも、ちょっとやりすぎちゃったかな。 あの中で、かがみはどんな表情をしてるんだろう。どんな気持ちでいるんだろう。 ――そうだ。 ゆっくりと、かがみの布団の前まで這っていく。 つかさとみゆきさんに人差し指を立てて、喋らないように合図を送る。 布団の端っこから、するすると中に入り込んだ。 頭が何かに触れる。 かがみの足かな? その上に馬乗りになって、顔の方へと進んでいった。 「……な、ちょ、こなた?」 かがみが体を左右に揺らして私を振り落とそうとする。 でも抱きついて我慢だ。 薄暗くて、まだ目が慣れていない布団の中、かがみの体温が服越しに伝わってくる。 相変わらず枕に顔をうずめて、俯いているかがみの後頭部が目に入った。 必死に布団の端を掴んでいる。あ~、愛らしいなぁ……。 後ろから、かがみの首に両手を回す。 「か~がみん」 「や、やめてよ。離れなさいってば!」 「いや~、さっきはちょっと調子に乗っちゃったかなって。かがみはいじりがいがあるっていうか」 「な、何よそれ」 「だってかがみの反応見てると、本当に可愛いんだよ~」 「ば、馬鹿! 何言ってるのよ……」 「うんうん、それだよ~」 かがみの顔を横から覗き込む。 よく見えないけど、たぶん予想通りになってるだろうな。 見ても分かんないから、肌で感じてみよう。 かがみの頬に、自分の頬をくっつける。 柔らかくて、熱い感触。 ふにゃふにゃしてて気持ちいいなぁ~。 「ちょ、な、何するのよこなた!」 急にかがみが顔を上げる。 あー、照れてる照れてる。 「それで、かがみん」 一息。 しつこいなと思うけど、やっぱり気になる。 「好きな人って、誰なの?」 「ま、まだその話なの? もういい加減にしてよ。誰だっていいじゃない……」 やっぱり簡単には言ってくれないかー。 でも、なんとしてでもかがみの口から言わせたい。 これくらいじゃ、諦めないよ。 かがみの耳に、そっと息を吹きかける。 「ひゃっ!」 かがみはこそばゆさに耐え切れないのか、何度も背中を揺らした。 効果は抜群だ。やっぱりこういうのには弱いのかな? 本当にかがみは……。 今度はかがみの耳たぶを甘噛みしてみた。 おもちみたいに柔らかくて、溶けそうで、食べてみたいな、なんて変なことが、一瞬頭に浮かんだ。 「くっ、や……」 かがみは肘を上げたり、体を揺らしたり、凄い力で私を引き剥がそうとする。 でも、ぴったりかがみにくっついてるから、そんなのじゃ落ちないよ。 「ほらほら、早く好きな人言わないと、もっと色々やっちゃうよー」 「そ、それは……でも……」 むー。まだ駄目か。どうしようかな。 両手を離して、腰の方まで後退する。 これをしたら、かがみはどんな反応をするだろう。 想像するだけで、顔が自然とにやついてくる。 でも、早く言ってくれないのがいけないんだからね。 服の中に手を突っ込む。 かがみの肌は相当に火照っていた。冷や汗までかいている。 やっぱりやりすぎちゃったかな。でも……。 両手の指の一本一本で、撫でるように、かがみの脇腹に触れる。 「ひゃっ、く、くすぐったいってば! やめなさいよ」 「わははは、かがみん! もはや、のがれることはできんぞ」 そのまま指で背中を上るように這わせていく。 「ふっ、ひっ、うぅ……」 かがみの体が小刻みに震え始めた。 「かがみが好きな人を言ってくれるまで、やめないよ」 「だ、だから、それは、言、えないっ、て……」 かがみも相当強情だな~。私たちに言えないような人を好きになったのかな? ますます知りたくなったよ。 左手でうなじの辺りをくすぐる。 「や、やめ、やめてって。もういいでしょ!」 体を激しく動かして抵抗してきた。 まだまだいくよー。 落ちないように気をつけながら、体を前に倒して、かがみのうなじを舐めた。 「――っ!」 かがみは声にならない声を出して、全身をびくんと震わせた。 「かがみ~ん、いい加減に本当のことを言いなよ。減るもんでもないんだからさ。それとも、もっとこういうのされたいのかな~?」 「わ……、分かったわよ。言えばいいんでしょ言えば。だから、は、早くやめてよ!」 動きを止めた。 少しの沈黙。ただかがみの洗い息遣いだけが聞こえてくる。 「言ったね! 約束だよ。絶対に好きな人が誰か告白するって」 「う、うん……」 かがみから降りて、布団から出る。 「こなちゃん、一体中で何やってたの?」 「かがみさんの悲鳴も筒抜けでしたよ」 「うーん、ちょっと色々といたずらをね」 ていうか、すっかり二人の存在を忘れてたよ……。 呆気にとられたような顔をしている二人に、とりあえずVサインを送る。 誰なんだろうな。誰なんだろうな。 気になりすぎるのか、好奇心が限界を超えたのか、胸の動悸がすごく早くなってきた。 しばらく待っていると、かがみが布団から顔だけを出した。 頭に乗った布団を両手で下に引っ張って、出来るだけ小さくなろうとしている。 「かがみー。じゃあ、みんなの前で言ってみようかー」 「わ、かってるわよ……」 かがみの顔は、イチゴのように赤く赤くなっていた。 ●●● 周りを見ると、こなたとみゆきとつかさが、興味津々といった表情で、こちらを凝視している。 私が喋るのをじっと待ってるんだろう。 あの時は本当に苦しくて、あんなことを言っちゃったけど、今では相当後悔してる。 じっと我慢してればよかったのに。どうしても耐えられなかった。 くすぐったいのもあるけど、こなたに色々されているということ、そのものが。 私の背中に乗って、私の死角から。 頬を擦り付けてきたり、息をかけてきたり、くすぐってきたり。 それから、首とか耳たぶを、舐めてきたり……。 なんだか変な気持ちだった。 やめてもらいたいのか、もっとやって欲しかったのか。 嬉しかったのか、嫌だったのか。 ……今となっては、もう分からないことだけど。 何にしても、何か、大事な何かがおかしくなりそうで、つい条件を飲んでしまった。 私にとって、最悪の条件を。 誰か適当な男子の名前でもあげるか、それとも、本当のことを言うのか……。 でも、こなたと約束したんだから、本当のことを言うしかないかな。 それに嘘をついても、こなたには簡単に見透かされそうな気がする。 だけど、こんな、みんなの前で。 私の好きな人を告白するなんて……。 恥ずかしさに、体が病気にでもなったみたいに熱い。 ……どうしよう……。 誰も何も喋らない。動きもしない。 時が止まったかのように、全てのものが静止している。 口を噤んでいても、全然時間が進まない。 言うしかないのかな。 妹が見てる中、親友が見てる中、 ……好きな人の目の前で。 私がこれを言ったら、どんな反応をするだろうか。 出来れば言いたくなかった。知られたくなかった。 こんなの、おかしいから。 女同士なんて、普通じゃない。絶対に変だ。 言いたくないのに。 幸せになってもらいたいから。 こんな感情、相手に迷惑をかけるだけだから。 それなのに、全然気づかないで、私に好きな人を言わせようとして……。 なんで、分かってくれないんだろ。いや、分かってくれない方がいいのかな。 「かがみ? 早く言ってよ」 時が動き出した。 もう言うしかない。言って、その後は、もうどうにでもなってしまえ。 あんたが悪いのよ。言いたくなかったのに。このままの状態が続いていけば、それでよかったんだから。 「い、一回しか言わないわよ。わ、私が好きな人は……」 口ってこんなに重かったっけ。 呼吸ってこんなに難しかったっけ。 たった三文字を言うだけ。 それが、本当に難しい。 つかさがじっとこっちを見てくる。みゆきも好奇心に溢れた眼差しを向けてくる。 そして、当のこなたも、わくわくした楽しそうな目でこちらを見つめてくる。 この三文字が。 普段は普通に言ってる三文字が。 今だけは重くて、禁断の呪文のように思えた。 こなた。 こなたこなたこなたこなたこなたこなたこなた。 「―――― ●●● 」 ……えっ? 今、何て言ったの? 聞き取れなかったよ。 いや、分かるけど、分からないって言うのかな。 確かに、かがみは今、はっきりと、 私の名前……。 いつの間にか、かがみは泣いていた。 どういうこと? 全然わかんないよ。 かがみが好きな人が、私? それってうまい逃げ口なの? それとも、本当に私のことが……。 「お、お姉ちゃん、今、何て……」 「本当に、泉さんのことが……」 「そ、そうよ。私は、こなたのことが好き。大好きよ。悪い?」 「い、いえ、そういうわけでは……」 「でもゆきちゃん、それって同性愛なんじゃ……」 かがみは私と目を合わせないようにして、ずっと左上の方を見ている。 もうその顔は、世界中で一番赤いものになってるんじゃないかと思うほど。 それは多分、私も……。 「こなた!」 すごいスピードで、かがみが私の目の前まで来る。 肩を掴まれて、びっくりするほどの力で後ろに押し倒された。 「こなた、ごめんね。こんなこと言われて迷惑かもしれないけど、私、こなたのことがずっと好きだったのよ」 泣きじゃくって、 「本当はこんなこと言いたくなかったのに……。押し殺しておきたかったのに……。こなたのせいなんだからね。こなたがあんなことするから……」 かがみの目から零れ落ちた涙が、私の頬に落ちる。 かがみはこんなに悩んでたのに、私は、無理矢理言わせようと、面白がって色々しちゃって……。 ごめんね、かがみ。謝るのは私の方だよ。 「ごめん、かがみ。そんなこと思ってたなんて、知らなくて……」 でもね、今だから分かるけど、私だって、かがみに好きな人がいるんじゃないかもしれないって、怖かったんだよ。 だから、どうしても聞きたかった……。 多分、今までのことは、全部その為だったんだよ。 私がこの本音トークを始めたのも、もしかしたら、家に泊まらないかって言ったのも。 どうしても、確かめたかったこと。 でも、今では普通に聞いたりは出来なくなっていたこと。 昔はふざけあいながら、言えてたのにな。 いつからだろう。それを言うことに、恥ずかしさというか、ためらいを感じるようになったのは。 ――かがみは、好きな人いるの? 本音トークっていう場じゃないと、そういうのは言えなかったから。 でも、ようやく言えたし、ようやく聞けた。 何なんだろう。 よく分かんない、変な気持ち。 本当に、反応が可愛いだけなのかな。 さっきみたいに、色々いじってたのも。 私にとって、かがみは何なんだろう。 友達かな? それとも親友かな? ……どっちとも、何かが違う気がする。 確かに、かがみは私の親友だけど、それだけじゃないっていうか……。 料理を作るときも、考えていたこと。 あの時は、適当に理由をつけて流してたけど、あれは、逃げてただけだったのかな。 何で好きな人がいるかなんて聞いたんだろう。 親友として気になるから? 興味本位とか好奇心で。 それは……違う。そんなんじゃない。 それなら、いつも通りに、普通の会話の中で聞けるから。 それに、親友に好きな人がいるのを、怖いなんて思うはずがない。 かがみには、普通に好きな人が出来て、普通にその人と付き合って、普通に幸せになって欲しい。 だけどやっぱり、それは私には辛いこと。 もしそうなったら、私の気持ちはおかしくなっちゃう。 多分哀しくて哀しくて泣き続けちゃうよ。 私にとってのかがみと、かがみにとっての私は違うんだなって。 怖かったんだ。それが分かっちゃうのが……。 だけど、そうじゃなかったよね。 かがみは、好きな人は私だって、言ってくれた。 ほっとしたし、とっても、嬉しかったよ。 今でも信じられない。 こんな日が来るなんて思わなかった……。 妄想がそのまま現実になったような、夢物語のような。 これって、現実だよね。夢なんかじゃないよね。 私もね、押し殺しておきたかったんだよ。 かがみのせいなんだから。かがみがあんなこと言うから。 多分この気持ちは、かがみと一緒だと思うから……。 私も、正直にならないとな。かがみも、勇気を出したんだから。 それに答えないと。 「こなた、私のことどう思ってる? 嫌いになった? 引いた?  私はそれでも構わないわよ……。こんな気持ちを、あんたが無理に受け入れる必要はないんだから」 頬に、いくつもいくつも熱い雨が降ってくる。 あー、これが、かがみの気持ちなんだね。 「わ、私は……」 さっきかがみが通った道。 みんなの前で、自分の好きな人を言うっていう。 そういえば、私だけ言ってなかったな……。 今度は私の番かな。 「私も、かがみのこと、好きだよ」 「え? 本当? 本当に私のこと……」 「……うん。大好きだよ」 「うぅ……こなたぁ!」 「わ、ちょ、ま」 かがみが私の体をきつくきつく抱きしめてくる。 私もかがみをきつくきつくきつく抱きしめた。 「え? こなちゃんもお姉ちゃんのことが……好き? も、もう訳わかんないよ~」 「つかささん、私たちはもう蚊帳の外みたいですね。別の部屋で寝ましょうか」 「う、うん……」 視界の端っこ、つかさとみゆきさんが部屋を出て行こうとしてる気がする。 その二人が、外に出る間際に、頑張ってくださいとか、応援してるよとか、言ったような気もする。 ああ、もうそんなことも分かんなくなってきちゃった……。 かがみが私の唇にキスをしてくる。 私もそれに応える。 まるで時間が止まったように、 風は吹かず、ただただ室内は暑くなっていく。 太陽が止まって、この夜がずっと続いていけばいいのにな……。 -[[泊まった日・朝>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/201.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - かがみがこなたのメールを覗いちゃうのが かわいかったです -- 名無しさん (2010-05-14 08:04:37)

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