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「彼方へと続く未来 プロローグ」(2023/01/03 (火) 22:53:07) の最新版変更点
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別れ。それはいつか必ずやってくるもの。
想い。それは誰かに伝えるもの。
――た。それは私が大好きな人の名前。
だけど、私はそれを全て拒絶することになる。
二月のある日に訪れた出来事によって。
だから、この時の私はまだそれを知らない。
一月一日という時の中を過ごしていた、この時の私は――
『彼方へと続く未来 プロローグ』
「お姉ちゃん、あけましておめでと~」
「うん、今年もよろしくね~、つかさ」
例年通り初詣客でおおいに賑わっている鷹宮神社の
境内の一角で、私はつかさと新年の挨拶を交わしていた。
赤と白に彩られた巫女服を着込んでいつも通りの会話を
続ける私たちは、今年もお母さん達を手伝う為に、受験勉強を
一時中断して境内を巡回していた。
「そういえば、今年はまだ来てないわね、アイツ」
「うん。多分もうすぐ来るんじゃないかなぁ」
かじかんだ両手にハァ~ッと息をかけながら、
少し遠回しに呟いた『アイツ』と呼ばれた人物。
しかし、実を言うと既に私たちのすぐそばで、アイツは
五分近く気づいてくれるまでじ~っと立ち続けていたらしい。
私とつかさがそれに気づかなかった原因は、その本人が
青いニット帽を頭に深々と被っていた為であった。
「まっ、気長に待ちましょ。ほっとけばすぐに来るわよ」
「そうだね~。じゃあ、一旦お母さんの所に戻ろっか」
「うん。そうしましょ」
そうして、私とつかさが本殿に向かって歩きだそうとした
まさにその時。『アイツ』はほんの少し口元を緩ませながら、
「やふ~。かがみ、つかさ、あけおめ~」
「のわぁっ! こっ、こなたぁ!?」
「こ、こなちゃん!?」
青いニット帽を取って私たちに新年の挨拶をしていた。
こぢんまりとした体格に長く伸びた青い髪。
加えて頭頂部にあるぴょこんと突き出たアホ毛。
色々な意味で特徴のあるオタク少女――こなたの登場だった。
「まったくもう、また二人とも同じパターンに
引っかかっちゃったね~。去年だって……」
顔をにやつかせながら、他の初詣客達の喧騒に
負けないくらいの勢いで次々にまくしたててくるこなた。
それに対して、私はいち早く反応し、言い訳をした。
「しょ、しょうがないでしょ。今日は人でいっぱいだし、
アンタの方もそのアホ毛が見えないとやっぱり見分けが……」
「うん。私も全然分からなかったよ~」
新年早々からこなたに奇襲を受けてたじろいでしまった。
既にこの手のパターンはお馴染みになってきているハズなんだけど、
やっぱり年始の特別な雰囲気の中で油断しちゃったのかな。
……なんか無性に悔しい。
「まっ、それはそうと……。明けましておめでとっ、こなた」
「明けましておめでと~、こなちゃん」
いちはやく気を取り直した私が先陣をきってこなたに
新年の挨拶をし、つかさがそれに続く。 一方、こなたは――
「あい、ことよろ~。それにしても、いつ見ても巫女服ってのはいいねぇ。
この色の組み合わせなんかがもう……」
挨拶も早々に私たちの巫女服をまじまじと見つめるこなた。
その光景にあきれる私と軽く笑みを浮かべるつかさ。
やっぱりこなたは、こなただった。
「全く、今年は大学受験もあるのに緊張感ゼロね、アンタは。
ていうか、まさかアンタ昨日……」
頭の中によぎった嫌な予感をこなたにぶつけてみる。
だけど、こなたの返答の内容は良い意味で予想に反したものだった。
「いや~、流石に今回のコミケは自重したよ。
夏の時はまだ少し余裕あったんだけどさすがにね」
「そうそう。こういう状況の時くらい行くのやめて正解よ」
「コミケ……! はわわっ……」
半ばほっとした感覚にとらわれている私の横で、
何かを思い出しながらブルブルと怯えているつかさがいた。
どうやら、またコミケの『トラウマ』が働いているらしい。
そんなつかさを慰めると同時に、私は去年の初詣の時とは
何かが違っていることに気づき、こなたに質問した。
「そういえば、おじさんは? 去年は一緒に来てたのに」
「ん~、家でのびてるよ。何せ今回は私の分まで
コミケに行ってきたもんだからクタクタになってたねぇ。
ちなみに、ゆーちゃんはみなみちゃん達と初詣に行ったよ」
「よかった。ゆたかちゃん達は巻き込んでなかったのね。
だけどアンタ、自分の親でも容赦ないな……」
さっきよりも一段とあきれてこなたをガン見する私。
そんなことよりも勉強はちゃんとしてるのかしら?
私が再びこなたに問いつめようとした矢先――
「ところでこなちゃん。お祈りはもう済ませたの?」
ふと、先程のトラウマからようやく脱出していたつかさが、
何事もなかったかの様にこなたに話しかけていた。
しかし、次のこなたのひと言によって、私の体の動きが
ピタリと止まることになろうとは、想像もしていなかった。
「うん、もう済ませたよ。これからもつかさやみゆきさんと
仲良く出来ますように~……ってね。それに合格祈願も」
「えっ……?」
最初は、ただの聞き間違いだと思っていた。
だけど、今のこなたの言葉を何度繰り返してみても、
そこに私の名前は無かった。
どうして、私の名前だけないんだろう?
今の発言の意図について私がこなたに
食って掛かろうとしたまさにその時、
「こ、こなちゃん。お姉ちゃんは?」
と、またもやつかさが先にこなたに質問していた。
これはチャンス、といわんばかりに私がそれに続く。
「そうよ! なんで私だけ……」
正直、ちょっぴりショックだった。
こんな気持ち、去年のクラス替えの時以来よ。
……ねぇ、こなたは私のことどう思ってるわけ?
そんなに私とは仲良くできないってことなのかな。
私のネガティブ思考が頭の中でグルグルと
回転を始めようとした次の瞬間。
「んっふっふぅ~~!」
こなたの表情が変わった。みんなで海に行った時に浴場で
見たニヤニヤ顔を遥かに上回った表情を浮かべながら、
私とつかさに右手の人差し指をびしっと向けると、
「んふふ~、ダメだよ二人ともぉ。特にかがみん。
そこは『へぇ~、アンタも意外にかわいい所あるのね』
って返してくれなきゃあ」
と、私の声真似をしながら再び満面のニヤニヤ顔を浮かべるこなた。
一方、いきなり指を差された私たちの方は言葉の意味が分からず、
あたふたしながらこなたに事の真意を問いただすことにした。
「……どういう意味よ、それ」
「忘れちゃったの? 自分が去年ここで何て言ったのかさ」
去年? ここで? 何かあったかしら。
私が去年この場所でこなたに話したことと言えば、
自分の名前の由来とか、おみくじについてとか、
後はつかさのおかげで教えることになっちゃった私の……あ。
「どう、そろそろ思い出したでしょ?
あの時のかがみのツンデレぶりには萌えたよ~」
ええ、思い出しましたとも。あんた、去年の私のお祈りの内容を
少しいじって返してきたってわけね。顔が熱くなってきちゃったわよ。
思わず顔を下に向けて恥ずかしがる私。
同時に、吐いた息が白い湯気となって私の顔を覆っていた。
……今年も主導権はこなたにあるようだ。
「あんたねぇ。人をからかってる暇があったら真面目に……あれ?」
巫女服の袖を振り上げて説教しようと顔を上げた時、
既にこなたは本殿の方に向かって歩き始めていた。
しかし、私の声は届いていたらしく、途中で歩くのを止めて
くるりとこちらを向くと、
「じゃあ私、これからおみくじ引いてくるからさ。
今年は凶以外のものを引かなきゃね」
「ちょっ、待ちなさいよ。 まだ話は……」
「すぐ戻ってくるからさぁ。 だからっ……、また後でね。
“かがみ”、つかさっ」
「あっ……」
もう。そこで名前呼ぶの、反則じゃない。
なんにも言えなくなっちゃうじゃないのよ。
小さな歩幅でおみくじ売り場の方に歩くこなたの
背中めがけて、そう心の中で突っ込んでやった。
一方、つかさの方はというと――
「う~ん、どういう意味なのかな。 お姉ちゃんはわかった?」
「え!? ううん、私にもぜんっぜんわからなかったわよ!」
「……? どんだけ~」
案の定話が理解できてないようだった。
だけど、こんなことを話すわけにはいかないので、
誤魔化すことにした。ごめんね……つかさ。
「でも、今日のこなちゃんどうしたのかなぁ。どうして……」
「どうしたのよつかさ? また考え事?」
「ううん。何でもない、何でもないよ……」
今思うと、この時の私は何も気づいていなかった。
つかさだってちゃんと気づきはじめていたのに。
もしかしたら、気づこうとしなかったのかもしれない。
――こなたが伝えようとした、別れへのカウントダウンに。
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別れ。それはいつか必ずやってくるもの。
想い。それは誰かに伝えるもの。
――た。それは私が大好きな人の名前。
だけど、私はそれを全て拒絶することになる。
二月のある日に訪れた出来事によって。
だから、この時の私はまだそれを知らない。
一月一日という時の中を過ごしていた、この時の私は――
『彼方へと続く未来 プロローグ』
「お姉ちゃん、あけましておめでと~」
「うん、今年もよろしくね~、つかさ」
例年通り初詣客でおおいに賑わっている鷹宮神社の
境内の一角で、私はつかさと新年の挨拶を交わしていた。
赤と白に彩られた巫女服を着込んでいつも通りの会話を
続ける私たちは、今年もお母さん達を手伝う為に、受験勉強を
一時中断して境内を巡回していた。
「そういえば、今年はまだ来てないわね、アイツ」
「うん。多分もうすぐ来るんじゃないかなぁ」
かじかんだ両手にハァ~ッと息をかけながら、
少し遠回しに呟いた『アイツ』と呼ばれた人物。
しかし、実を言うと既に私たちのすぐそばで、アイツは
五分近く気づいてくれるまでじ~っと立ち続けていたらしい。
私とつかさがそれに気づかなかった原因は、その本人が
青いニット帽を頭に深々と被っていた為であった。
「まっ、気長に待ちましょ。ほっとけばすぐに来るわよ」
「そうだね~。じゃあ、一旦お母さんの所に戻ろっか」
「うん。そうしましょ」
そうして、私とつかさが本殿に向かって歩きだそうとした
まさにその時。『アイツ』はほんの少し口元を緩ませながら、
「やふ~。かがみ、つかさ、あけおめ~」
「のわぁっ! こっ、こなたぁ!?」
「こ、こなちゃん!?」
青いニット帽を取って私たちに新年の挨拶をしていた。
こぢんまりとした体格に長く伸びた青い髪。
加えて頭頂部にあるぴょこんと突き出たアホ毛。
色々な意味で特徴のあるオタク少女――こなたの登場だった。
「まったくもう、また二人とも同じパターンに
引っかかっちゃったね~。去年だって……」
顔をにやつかせながら、他の初詣客達の喧騒に
負けないくらいの勢いで次々にまくしたててくるこなた。
それに対して、私はいち早く反応し、言い訳をした。
「しょ、しょうがないでしょ。今日は人でいっぱいだし、
アンタの方もそのアホ毛が見えないとやっぱり見分けが……」
「うん。私も全然分からなかったよ~」
新年早々からこなたに奇襲を受けてたじろいでしまった。
既にこの手のパターンはお馴染みになってきているハズなんだけど、
やっぱり年始の特別な雰囲気の中で油断しちゃったのかな。
……なんか無性に悔しい。
「まっ、それはそうと……。明けましておめでとっ、こなた」
「明けましておめでと~、こなちゃん」
いちはやく気を取り直した私が先陣をきってこなたに
新年の挨拶をし、つかさがそれに続く。 一方、こなたは――
「あい、ことよろ~。それにしても、いつ見ても巫女服ってのはいいねぇ。
この色の組み合わせなんかがもう……」
挨拶も早々に私たちの巫女服をまじまじと見つめるこなた。
その光景にあきれる私と軽く笑みを浮かべるつかさ。
やっぱりこなたは、こなただった。
「全く、今年は大学受験もあるのに緊張感ゼロね、アンタは。
ていうか、まさかアンタ昨日……」
頭の中によぎった嫌な予感をこなたにぶつけてみる。
だけど、こなたの返答の内容は良い意味で予想に反したものだった。
「いや~、流石に今回のコミケは自重したよ。
夏の時はまだ少し余裕あったんだけどさすがにね」
「そうそう。こういう状況の時くらい行くのやめて正解よ」
「コミケ……! はわわっ……」
半ばほっとした感覚にとらわれている私の横で、
何かを思い出しながらブルブルと怯えているつかさがいた。
どうやら、またコミケの『トラウマ』が働いているらしい。
そんなつかさを慰めると同時に、私は去年の初詣の時とは
何かが違っていることに気づき、こなたに質問した。
「そういえば、おじさんは? 去年は一緒に来てたのに」
「ん~、家でのびてるよ。何せ今回は私の分まで
コミケに行ってきたもんだからクタクタになってたねぇ。
ちなみに、ゆーちゃんはみなみちゃん達と初詣に行ったよ」
「よかった。ゆたかちゃん達は巻き込んでなかったのね。
だけどアンタ、自分の親でも容赦ないな……」
さっきよりも一段とあきれてこなたをガン見する私。
そんなことよりも勉強はちゃんとしてるのかしら?
私が再びこなたに問いつめようとした矢先――
「ところでこなちゃん。お祈りはもう済ませたの?」
ふと、先程のトラウマからようやく脱出していたつかさが、
何事もなかったかの様にこなたに話しかけていた。
しかし、次のこなたのひと言によって、私の体の動きが
ピタリと止まることになろうとは、想像もしていなかった。
「うん、もう済ませたよ。これからもつかさやみゆきさんと
仲良く出来ますように~……ってね。それに合格祈願も」
「えっ……?」
最初は、ただの聞き間違いだと思っていた。
だけど、今のこなたの言葉を何度繰り返してみても、
そこに私の名前は無かった。
どうして、私の名前だけないんだろう?
今の発言の意図について私がこなたに
食って掛かろうとしたまさにその時、
「こ、こなちゃん。お姉ちゃんは?」
と、またもやつかさが先にこなたに質問していた。
これはチャンス、といわんばかりに私がそれに続く。
「そうよ! なんで私だけ……」
正直、ちょっぴりショックだった。
こんな気持ち、去年のクラス替えの時以来よ。
……ねぇ、こなたは私のことどう思ってるわけ?
そんなに私とは仲良くできないってことなのかな。
私のネガティブ思考が頭の中でグルグルと
回転を始めようとした次の瞬間。
「んっふっふぅ~~!」
こなたの表情が変わった。みんなで海に行った時に浴場で
見たニヤニヤ顔を遥かに上回った表情を浮かべながら、
私とつかさに右手の人差し指をびしっと向けると、
「んふふ~、ダメだよ二人ともぉ。特にかがみん。
そこは『へぇ~、アンタも意外にかわいい所あるのね』
って返してくれなきゃあ」
と、私の声真似をしながら再び満面のニヤニヤ顔を浮かべるこなた。
一方、いきなり指を差された私たちの方は言葉の意味が分からず、
あたふたしながらこなたに事の真意を問いただすことにした。
「……どういう意味よ、それ」
「忘れちゃったの? 自分が去年ここで何て言ったのかさ」
去年? ここで? 何かあったかしら。
私が去年この場所でこなたに話したことと言えば、
自分の名前の由来とか、おみくじについてとか、
後はつかさのおかげで教えることになっちゃった私の……あ。
「どう、そろそろ思い出したでしょ?
あの時のかがみのツンデレぶりには萌えたよ~」
ええ、思い出しましたとも。あんた、去年の私のお祈りの内容を
少しいじって返してきたってわけね。顔が熱くなってきちゃったわよ。
思わず顔を下に向けて恥ずかしがる私。
同時に、吐いた息が白い湯気となって私の顔を覆っていた。
……今年も主導権はこなたにあるようだ。
「あんたねぇ。人をからかってる暇があったら真面目に……あれ?」
巫女服の袖を振り上げて説教しようと顔を上げた時、
既にこなたは本殿の方に向かって歩き始めていた。
しかし、私の声は届いていたらしく、途中で歩くのを止めて
くるりとこちらを向くと、
「じゃあ私、これからおみくじ引いてくるからさ。
今年は凶以外のものを引かなきゃね」
「ちょっ、待ちなさいよ。 まだ話は……」
「すぐ戻ってくるからさぁ。 だからっ……、また後でね。
“かがみ”、つかさっ」
「あっ……」
もう。そこで名前呼ぶの、反則じゃない。
なんにも言えなくなっちゃうじゃないのよ。
小さな歩幅でおみくじ売り場の方に歩くこなたの
背中めがけて、そう心の中で突っ込んでやった。
一方、つかさの方はというと――
「う~ん、どういう意味なのかな。 お姉ちゃんはわかった?」
「え!? ううん、私にもぜんっぜんわからなかったわよ!」
「……? どんだけ~」
案の定話が理解できてないようだった。
だけど、こんなことを話すわけにはいかないので、
誤魔化すことにした。ごめんね……つかさ。
「でも、今日のこなちゃんどうしたのかなぁ。どうして……」
「どうしたのよつかさ? また考え事?」
「ううん。何でもない、何でもないよ……」
今思うと、この時の私は何も気づいていなかった。
つかさだってちゃんと気づきはじめていたのに。
もしかしたら、気づこうとしなかったのかもしれない。
――こなたが伝えようとした、別れへのカウントダウンに。
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- GJ!! -- 名無しさん (2023-01-03 22:53:07)
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