幕間その1


 マシュ・キリエライトは、八神マリアの部屋の前で立ち尽くしていた。

「気持ちいい? アルテラさん」
「あっ、ぅん・・・・・い、いいぞ、我がマスター」

 なんとも艶めかしい声が漏れているアルテラの声が原因だ。

(二人ともな、何をやってるんでしょうか!?)

 サーヴァントとはいえ、年頃の少女の脳内ではさぞやピンクな妄想が繰り広げられているであろう。
 が、事が事だけにすぐにハッとして部屋へと入った。

「な、何をしてるのですか! 先輩達!?」

 そこでマシュが見たものは、マリアがアルテラを膝枕して耳かきをしている姿だった。

「あ、マシュちゃん。どうしたの?」
「騒がしいな。マシュ・キリエライト」
「あ、み、耳かきしてらしたんですか……」

 「驚きましたよ」と、呟く様に付け足した。

「なにやら慌てていたようだが、よもやマスターの部屋の前でいかがわし―――」
「ストップ!ストップです!アルテラさん」

 からかう口調でもなく淡々と見ていたかのように告げるアルテラを、顔を赤くしながらマシュは必死に制した。
 当のマリアは何のことかわからず疑問符だけを浮かべていた。

「それで、私に何か用かな? マシュちゃん」
「え…あ……その、その前にいいですか?」
「うん」
「なんで耳かきを?」
「あぁ、それはアルテラさんが耳が痒かったみたいだから、耳かきしてあげてたの」
「耳かきは良い文明。とりわけマスターの耳かきは極上の気持ちだった」
「そう? ありがとう」

 とにかく艶めかしい声の正体が耳かきの気持ちよさからきてるものだと分かったマシュは安心した。
 しかし、マリアの耳かきはそんなにも気持ちいの良いものなのか?
 そう考えたら妙に気になってしまってモジモジし始める。

「マシュちゃんもやってあげようか?」
「え? そ、そんな私……」
「いいからいいから」

 と、太ももに促すマリアにマシュは自然と吸い込まれた。

「う~ん、あ、ちょっと溜まってるね」
「うぅ……」

 改めて言われると恥ずかしい。
 普段、あまり気にしたことせいか、最後に耳かきをやったのが覚えてないくらいだ。

「とりあえずまずは耳の周りをウェットティシュで拭いてね。冷たいけど、ちょっと我慢してね」
「は、はい」

 マリアは側に置いてあったウェットティシュを一枚抜いて、マシュの耳をマッサージするかのように拭いていく。
 冷たさと耳をマッサージされる感覚が押し寄せてマシュは思わず「ふわぁぁ」という声を出してしまった。
 やがてウェットティシュの冷たさがなくなると、今度は耳が暖かくなってきた。

「こうやって、耳の周りの汚れを落とすと同時に、マッサージで耳をほぐしていくの」

 2、3度、それを繰り返してからマリアはまず綿棒を手にした。

「いきなり耳の中に突っ込むんじゃなくて、最初は耳の内側からやっていくね。ここも耳垢が溜まってるんだよ?」
「そ、そうなんです――――っ!」

 瞬間、マシュはなんとも形容しがたい感覚に襲われた。
 ただ、内側を優しく撫でられているだけなのに気を抜くと思わずあられもない声が漏れそうになる。

「特にこの溝。意外に耳垢が溜まってたりするんだよ」

 綿棒がそこへ入った瞬間、マシュは一瞬、ビクンとしてしまった。

「あ、痛かったかな?」
「い、いえ、大丈夫です」

 先程までの撫でるだけとは違い、溝は穿り返すかのように少し捩じっては、撫で。捩じっては撫でを繰り返えされていた。
 よほどそこに溜まっていたのだろうか、マリアは一旦、綿棒を新しいのに変えて同じことを繰り返した。

「ふぅ、こんなものかな?」
「あ、あの先輩。そんなに汚かったですか?」
「う~ん、汚いというより、粉状のものが結構あったね。でも、もうほとんど取ったから大丈夫だよ」

 屈託ない笑顔を向けられて、マシュはますます羞恥心で顔を赤らめた。
 でも、不思議とマリアの太ももから離れようとは思わなかった。

「さてと、そろそろ耳の中をやっていくよ」
「よ、よろしくお願いします」

 綿棒から竹の耳かきに変えたマリアの目つきが変わった。

「痛かったらすぐ言ってね」
「はい・・・・・」

 恐る恐るとマシュの耳に耳かきが入っていくマシュも緊張するが、すぐにそれは変わっていく。

「っ――――!?」

 全身に電流が走った。まだ手前をかかれている状態だが何とも言えない気持ちよさだろうか。
 普段、無機質なあのアルテラがあんな艶やかな声を漏らすのもわかる。

「少し奥にいくよ」

 そっと、耳かきが奥に入っていくが抵抗はしない。
 むしろ、マシュは望む所だった。

 ペリッという音が聞こえた。
 どうやらマリアの耳かきは、大物に出くわしたようだ

「ちょっと動かないでね」

 カリ、ペリ、という音が響く度にマシュは快感に身動ぎしたくなる。
 耳の奥がゴロゴロと鳴いてきて、それが痒みを帯びていく。
 早く取って欲しいと思うと同時に、この耳かきが終わって欲しくないという相反する思いが芽生え始めていく。
 少しして、ベリッ!という大きな音が響いて、マシュはピクンとした。

「あ、痛かった? ごめんね。でも、大きなのが取れたよ」
「い、いえ、大丈夫です」

 痛みはほんの一瞬だった。耳かきが耳の中から出た後は、以前よりスッとした感じだった。

「えっとマシュちゃん、よだれ出てるよ?」
「え、あ、す、すみません!」

 マシュにとってこれは不覚だった。
 あまりに気持ちがいいとはいえ、いつの間にか間抜けにも口を開けて、あまつさえマリアの膝に涎を垂らしそうになっていたのだ。
 一気に耳かきの気持ちよさから羞恥と申し訳なさに変わる。

「ふふ、大丈夫だよ。そんなに気持ち良かったんだね」

 なんだか嬉しいなぁと付けたしてマリアは笑った。

「じゃあ、仕上げに……」

 言うなりマリアは、マシュの耳の穴に息をフーッと吹きかけた。

「■■■■ーーー!?」

 驚きもあるが、なにより敏感になっている耳に吹きかけられてマシュは思わずバーサーカーが発するような声が出て

しまった。
 そしてすぐに顔を真っ赤にしてしまう

「すみません、マリア先輩。変な声が出してしまって・・・・・」
「こっちこそゴメンね。くすぐったかな?」
「あ、いえ、その……」

 自分が味わった感覚を上手く言葉に出来ずに、マシュはそのまま黙り込んでしまった。
 そして気づく。耳はもう一つあることに。

「あ、あの、マリア先輩。もう片方もお願いできますか?」
「え、うん。任せておいて!」

 その場でゴロンと向いたマシュだが、それがマリアのお腹の辺りを見る感じに向いてしまった事に気がついた。
 しかし、マリアの耳かきはもう始まっている。動こうにも動けないでいた。
 いや、正確には動くことはできた。だが、すぐに耳の快感に酔いしれてしまったのだ。
 先程と同じくウェットティシュで耳の周りをマッサージされ、綿棒で耳の内側を擦られて……
 いつしか、マシュはどうしようもない眠気に襲われた。

「はい、終わりっと。・・・・・あれ? マシュちゃん?」

 先程から反応がないな、と思っていたが、マシュはすっかりリラックスして寝息を立てていた。

「やはり耳かきは良い文明だな」

 アルテラがそう言うと、マリアは笑顔を見せて、マシュが起きるまで膝を貸すことにした。


 幕間 完