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グラウンド・ゼロ 第18話

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匿名ユーザー

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 シンヤは廊下を歩いていた。
 どうにもここ数日、何事も手につかないのはツカサキの言葉が頭から離れない
せいだった。
 自分は自分の命などどうでもよいのだろうか?家族のもとに戻るのを諦めてし
まっていたのだろうか?リョウゴに向けて引き金を引くことを望んでいるのだろ
うか?自問すれども、自答は出来ていなかった。
 ぼんやりとした頭のまま角を曲がる。すると、向こうがわから歩いてきた誰か
にぶつかった。
 驚きながらも謝り、改めてその人物を見ると、それはユイ・オカモトだった。
彼女は手のひらで口元を押さえている。
 どうかしたのか、そうシンヤが問う前に、彼女は何も言わずシンヤに背を向け
て、廊下を早足で進んでいく。
 いつもと違う様子に思わず目で姿を追うと、彼女は女子トイレへと消えていっ
た。
 ああ、なんかそういう系のアレか。そう勝手に納得して再び歩き出そうと体の
向きを変えた時だった。
 カン高い音が廊下に響いた。続いて、何か重く柔らかいものが床に落ちる音も
する。シンヤは音のした方を見た。女子トイレがあった。
 何かあったのかもしれない。心配になってトイレの入り口まで歩き、軽く中を
覗く。
 何か白く大きなものが床にあった。ああ、音の正体はあれか。いや待て、あれ
は――
「――オカモトさん!?」
 思わず叫んだ。そこに倒れているのはユイ・オカモトだった。
 シンヤは一瞬女子トイレに入ることを躊躇ったが、すぐに無視して中に踏み込
み、彼女の傍らに駆け寄る。その時、ぬるりとしたもので足を滑らせかけた。
 不意のことに驚きつつ足下をみる。踏まれて床に擦り付けられたそれは赤い液
体だった。鉄臭くもある。血だ。
 彼女の着ている白い服の胸元は赤く染まっていた。口元と、片手の平も同様だ
った。シンヤはそれらから彼女が吐血して倒れたのだということを覚った。
「オカモトさん、オカモトさん!」
 名前を呼ぶが、反応は薄かった。顔は蒼白で、目に力は無くどこを見ているの
かわからない。
 狼狽えるあまり、シンヤが医務室に連絡をとるまでには少し時間がかかった。


「本当に、ごめんなさい……」
 オカモトは医務室のベッドに仰向けになったまま、か細い声で言った。
 そのそばの椅子に座るシンヤは首をふる。
「あんまり喋っちゃ駄目だって、医務室の人が。」
 彼女は小さく頷いた。
 ベッドの脇には点滴があって、それはオカモトの体に繋がっている。
 彼女の顔色は悪いままだったが、大分良くなっているようにシンヤには見えた

 大したことなかったのだろうか。いや、そんなはずない。これはきっと……
「……私……」
 オカモトの声は、本当に小さかった。
「大丈夫、すぐに良くなる。」
 ――嘘だ。
「……たくない……」
 ――末期症状だ。
「死なないよ、オカモトさんは。」
 シンヤの言葉はオカモトの耳に入っていないようだった。
 彼女の奥歯は小さく鳴っていた。彼女は力無く片腕を持ち上げ、顔を隠す。そ
の指先もわずかに震えている――怖いんだ。
「……私、まだ……」
 シンヤには何を言っていいのかがわからない。
「まだ……なにも……」
 ……どんなに忘れていても、どんなに望まなくても、確実にやってきて、全て
を、本当に全てを一掃する。
 これが、死か。



 ハヤタ・ツカサキは歩行要塞のAACVドックを闊歩していた。
 様々な国から集まったゴールデンアイたちとギフテッドたち、彼らと一通り顔
を合わせ、それから自分が乗るAACVがどんなものかを確認しにきたのだった

 このドックはつい最近に無理矢理つくられたものだった。歩行要塞は今までA
ACVを持っていなかったのだが、連合と戦うにあたってさすがにAACVが一
機も無いのでは懐に潜り込まれた時に困るというので、歩行要塞がわは亡命の際
の手土産に優秀なパイロットであるゴールデンアイたちと、彼らの分のAACV
を各国に要求してきたのだった。
 なのでツカサキが乗る機体は、北米生存同盟所属だが、コロニー・ジャパン仕
様のものになる。しかしそれでもツカサキがドックに来たのは、あることをする
ためだった。
 ツカサキは生存同盟共通仕様の、グリーンを中心とした塗装を今まさに施され
ている最中の、中量型AACVの前に立つ。
 それから腕を組んでしばらく何か考えるそぶりを見せた後、近くを通りかかっ
た整備員に声をかけた。
「なぁ、コレって今バラしたりできる?」
「は?」と整備員は間の抜けた返答をした。
「いやだから、分解とかできるかってきいてんの。」
 整備員は顔をAACVに向け、ザッと機体を見渡してから頷いた。
「んじゃあさ、あの機体の装甲、構造上無理な箇所以外全部外してくれない?」
「何故ですか?」
「俺なりにカスタムするからだよ。今のままじゃ、反応遅すぎるだろーからな。

 ツカサキは腕を組む。整備員は不満そうだったが、担当チームのリーダーに連
絡をした。


 ツカサキの指示に従い、中量型AACVは装甲が外され、フレームと内部機構
を露にした。
 その機体に彼は手を加えていく。その手際は今まで整備していた男たちが舌を
巻くほどに良いものだった。
 わずか一時間強で各部のチューンアップを終えたツカサキは機材を整備員に返
す。
 だが未だAACVに装甲は戻されていなかった。
 整備員が訊く。
「まだ外装が戻ってませんが。」
 作業着の前を開けたツカサキは顔の前で手を振った。
「戻さなくていいぜ。俺はこのまま出るから。」
 整備員は驚いた。
「正気ですか」
「さぁ、わかんね。」
 彼は悪戯っぽく笑う。
「いいんだよ、別に。耐火布を羽織らせるからそれが装甲の代わりさ。」

「しかし、これでは……」
 もし弾丸一発でも命中したら、それだけでその部分は使い物にならなくなって
しまう。それだけでなく、空から降る灰が中に入り込んで機能障害を起こす可能
性がぐんと高まりもする。
 こんな機体で戦うなんて、自殺行為とかそういうレベルじゃない。
「問題ねー。」
 しかしそう言い切る彼の顔には不思議な説得力があった。
 ……本当に、問題ないのかもしれない。整備員がそう感じたとき――
「ところでさ、名前は何がいいかな。」
「は?な、名前ですか?」
「やっぱり専用機だしさ、カッコいい名前が要るだろ!」
 そう言って笑う彼の目は輝いている。
 そんな彼の様子を見て、整備員は思った。
 ――ああ、バカなんだ、この人。


 歩行要塞は闇の中を歩み続ける。それが一つ歩む度に大地が震え、積もった灰
がまきあがる。動きは非常にスロウではあったが、力強かった。
 その、山と見紛う程の巨体はグラウンド・ゼロを目指している。そこにあるで
あろう、世界の覇権を握る資格を得るために。
 させてたまるか。そう思った各国首脳は連合を組み、そして自分たちの持つ戦
力を歩行要塞の予想進路の約300キロメートル前方、かつてのインド北東部に
展開させていた。
 しかしその戦力は彼らのほんの一部である――それでも大規模と言えるが――
戦闘用アッシュモービル数隻だけだった。連合が消耗戦に持ち込む腹積もりなの
は、それだけ見ても明らかだった。
 歩行要塞司令官ジェイムズは常に先行し、進路上の安全を確認しているティル
ローター機からの報告でそれを知っても表情を変えなかった。彼はこの歩行要塞
の弱点は把握している。
 連合がそういった戦法でくるというのは当然に予想ができていた。
 そして、そのために自分たちは『彼ら』を得たのだ。
「『ゴールデンアイズ』AACVにてスタンバイ、ひとりも生きて帰すな。」


「……月……日、午前、零時をお知らせします……」
 いくつかの電子音のあと、ブザーが鳴った。
「作戦スタート。」
 対北米連合がわ、第一回目の攻撃を任された、ゲルマン系の戦闘用アッシュ
モービル艦長は静かに言った。
 ブリッジにてモニターを見つめる女性オペレーターが報告してくる。
「被我間の距離約150キロメートルです。」
「敵主砲の有効射程は約55キロだ、しかも恐ろしく正確な……。改めて警告、
アッシュモービル全鑑へ、敵との距離が65キロを切ったら後退しろ。」
「各鑑より了解サイン受信しました。」
「よし。全艦の1から4番までのミサイル発射準備、できてるな?」
 艦長は別の男性オペレーターへ言う。
「完了してます。」
「よし、確認と連絡。テンカウント後にミサイル一斉発射。発射後速やかにAA
CV攻撃部隊全機出撃、高度300以下で敵に接近後、各自の判断で攻撃を開始
しろ。同時に5番以下のミサイルを順に発射だ。カウント開始!」
 艦長の指令を復唱、伝達したオペレーターたちは、カウントを開始した。
「9!8!7!6!……」
 ミサイルの発射ボタンに手がかかる。
「5!4!3!2!」
「1!」
「ミサイル発射!」
 艦長が叫んだ。
 ボタンが押し込まれ、展開した各アッシュモービルの発射口からミサイルが次
々と空へ向かって飛び出し、歩行要塞へと向かっていく。
 遠方の歩行要塞では、ミサイルが向かっているのを感知して自動で起動したミ
サイル迎撃装置が、小型ミサイルの発射準備にかかった。
 ついに連合側から飛んできたミサイルが歩行要塞の姿を斜め上空から見下ろす
形になった時、迎撃装置から放たれた小ミサイルによって、そのミサイルは空中
で爆破される。
 しかし攻撃は失敗したわけではなかった。
 爆破されたミサイルの内部から、多量の薄いプラスチックフィルムがばら蒔か
れ、さらに同時に強力な電磁パルスが発生し、歩行要塞を襲った。
 電子機器を破壊する電磁パルスは歩行要塞に施された防護フィルムによって防
がれ、効果が得られなかったが、プラスチックフィルムには関係ない。これでレ
ーダーは正確さを失い、主砲は封じられた。
 プラスチックフィルムによってレーダー網に空いた穴からは、既に発進してい
た数十機の連合AACVの攻撃部隊が歩行要塞に肉薄しようとしていた。
 歩行要塞は自動機銃、自動砲を向けるが、それよりも早く連合のAACV部隊
の迎撃を開始したのは、今まさに格納庫から飛び出してきた、機体カラーだけは
グリーンに統一されたがそれ以外の機体や装備はいまだばらばらなままな、ゴー
ルデンアイとギフテッドによってのみ構成された『ゴールデンアイズ』のAAC
Vだった。
 連合のパイロットたちはしかし彼らを見ても動じない。各国から出た北米生存
同盟への亡命者たちの多くが、パイロットとAACVを手土産にしたのはすでに
聞いていたからだ。
 続く一撃は避ける。連合のパイロットも優秀だ。
 だがそうして避けた先には既に別のゴールデンアイズが待ち構えていて、超高
熱剣で機体を両断する。爆発が起こった。
 出ているゴールデンアイズの機体数は十機にも満たない。だがそれでも彼らは
数倍の数の敵たちと互角以上に立ち回っていた。
 その中に一機、異様な機体が飛んでいる。
 その機体には本来あるべき装甲が施されておらず、内部構造が露出していた。
その代わりか、地味な色の大きな耐火布をマントのように半身に引っかけている

 そして装甲が無い分、速い。ベースとなった中量型では不可能なはずの速度と
軌道で飛んでいた。
 しかしそんなことは普通の人間にはできっこない。少しAACVに詳しい人間
になら誰でもわかる。
 AACVの装甲は単なる防御だけでなく、重石の役割もしているのだ。もし装
甲が無いと、空中での姿勢制御は著しく困難になる。スラスターが強力すぎて機
体が振り回されてしまうのだ。
 だがその魔改造AACV『ネイキッド』のパイロット、ハヤタ・ツカサキは難
なくそれをやってのけ、さらに連合のAACVたちに歩行要塞に近づかないよう
牽制をかけると同時に、こちらもやはり軽量化加工を施したライフルで、飛来す
るミサイルを次々と撃ち落としていた。
 人間業じゃない。コクピット内で彼のすさまじい飛行を目にした連合のパイロ
ットの思考は衝撃のあまり一瞬だけ停止する。瞬間にメインモニターを破壊して
『ネイキッド』の高熱ナタが飛び出してきて、連合パイロットの身体を上下半身
に分断した。
 墜ちていく味方を見て我にかえった別のパイロットがツカサキを下方からバズ
ーカで狙うが、ロックオンが完了する前にツカサキは『ネイキッド』の半身を覆
うマントを掴み、自機の真下に広げ、それでロックオンを妨害する。続けてツカ
サキはそのマント越しに、こちらはノーロックでライフルを発砲し、マントを貫
いて、見えていないはずの連合AACVのコクピットを正確に撃ち抜く。
 爆風で舞い上がるマントを片手でひっつかみ、また羽織る間にも別の敵機の足
を撃ち抜いてバランスを崩させた。その敵機は要塞の機銃に蜂の巣にされる。
 機能停止して自由落下を始めたそのAACVのコクピットをだめ押しに撃ち抜
いて、それが爆発する間にツカサキは弾倉を交換した。
 レーダー画面をチラリと見て、妨害が弱まっていることを確認したツカサキは
、通信機のチャンネルを回す。
「出番だぜ!」
 返事を聞いて、直ぐ様チャンネルを戻しつつ、さらに一機をロックオン、銃撃
をかわして撃墜する。
 スラスターを吹かして、要塞の出撃ハッチに近づいた。
 ハッチが開き、中から一機のバズーカを持った重装型AACVが姿を現す。
「リョウゴ、行けるな?」
「ああ。」
 リョウゴは操縦レバーを握り直した。
「飯の分は働けよ?お膳立てしてやったんだから」
「わかってる!」
 リョウゴはスラスターを点火し、ハッチから飛び出す。
 ツカサキはリョウゴのそばに滞空する。
「これから敵艦をぶっつぶす!デストロイゼムオール!」
「お願いします!」
「ついてこい!」
 ネイキッドがマントを翻らせて飛行を始めた。リョウゴと、さらに二機のゴー
ルデンアイズのAACVがそれに追随していく。
 高度を低くして飛んでいくと、遠方から敵が防御のために展開していたAAC
V部隊が迎撃のために向かってくる。
 リョウゴが彼らの存在に気づいた時には、既にツカサキとゴールデンアイズが
5機ほど数を減らしていたが、まだ2機ほど残っていた。
 そしてその2機はリョウゴがバズーカを構える前に、自機たちの後方から飛ん
できた何かの直撃で同時にバラバラにされる。歩行要塞の主砲が復活したのだ。
今のAACVたちはその射程距離に踏み込んでしまったのだ。
 ということは自分たちも今、連合の艦の砲に狙われている可能性が十分にある
、とリョウゴが考えた直後、まさにその砲から発射された弾が機体をかすめた。
後方の地面に着弾して大きな灰煙があがる。

 通信機からピュウ、と口笛が飛んできた。ツカサキだ。まだそこまでの余裕が
あるのか?
 敵艦の姿が見えてくる。ツカサキが散開指示を出した。
 リョウゴはバズーカを構え、敵艦の射撃を胸部装甲に受けつつもその機銃を潰
す。
 ツカサキが彼の背後に回り込んでいた連合AACVを撃墜。さらに他のゴール
デンアイズが邪魔になる機銃と敵機を破壊し、敵艦への道を開けてくれた。
「頼んだ!」
 ツカサキが叫ぶ。リョウゴはAACVの脇を締め、右腕の大型超振動剣のトリ
ガーへ指をかけた。
 最大速度で敵艦に近づき、ついに艦の壁面へと辿り着く。
 リョウゴはレバーを倒しつつトリガーを引いた。
 右腕の超振動剣が展開しながら艦の外壁を貫き、超振動によって内部機構をズ
タズタに破壊する。さらにそれに連鎖して火器管制システムの回路にもダメージ
があったらしく、周囲の自動機銃がうなだれた。
 さらにレバーを倒しペダルを踏み、艦の壁を蹴って機体を再び空中へ。それと
同時にバズーカを、敵艦の、超振動剣でつけられた大きな傷に撃ち込む。見事に
命中して、艦内が炎に包まれたのがリョウゴにも分かった。
 とどめにツカサキがリョウゴの一撃のおかげで無防備になった艦の懐に潜り込
み、艦橋のある部位の上に高熱ナタを突き立て、そこからの爆風と破片からマン
トで機体を守る。
 これで一隻、アッシュモービルが死んだ。
 それを見た他の連合の艦たちは撤退することに決めたらしい。もともと長期戦
に持ち込むつもりだったのだ。すでに大損害と言っても差し支えないが、これ以
上の損害を避けようとするのは当然だろう。
 だがツカサキは叫んだ。
「一隻も逃がすな!」
 その時、空の向こう、歩行要塞方面から次々と飛んできたのは残りのゴールデ
ンアイズのAACVだった。要塞を攻撃していた連合の数十機のAACVは全滅
させられていた。
 そこからは一方的だった。
 AACVたちは次々と艦にとりつき、まずは無限軌道を狙う。敵艦がこれ以上
逃げられなくなったところで機銃を潰しにかかり、最後にちゃんと銃弾を節約す
るために、高熱ナタで艦橋を潰した。
 あっという間に全ての戦艦が煙をあげ、動かなくなった。
「どんくらいやられた?」
 空中でホバリングしながら、既に操縦桿から手を離しているツカサキはそう全
員に訊いた。
「完全生存、損耗軽微」
「同じく、全機の完全生存を確認。全機損耗軽微。」
「よし!」
 彼は既に鉄屑と化したアッシュモービルの上にAACVを着陸させる。
 通信を外部への拡声モードへと切り替えた。
「生き残ったみなさーん、聞こえますかー?」
 ツカサキの声が辺りの闇に響く。その声は今まさにビニールの大きなチューブ
やゲートから這い出てきているアッシュモービルの搭乗員たちに向けられたもの
だった。
 すでに脱出している者たちは空を見上げ、脱出半ばの者は急ぐ。
「これから皆さんを捕虜にしますから、一ヶ所に集まってくださーい!」
 その指示を受けて、連合のメンバーたちは諸手をあげながら、寒いのか、炎に
包まれている瓦礫のそばに集まっていった。
 他のゴールデンアイズとリョウゴはその集団を囲むように着地し、自衛のため
に備え付けの小銃や拳銃を持ってAACVを降りる。
 ツカサキはネイキッドのコクピットから這い出し、ヘルメットのライトを点け
て、彼らを見下ろした。
 全員集まりきるのを待ってから、彼は無言でコクピット内を漁って、シートの
横にガムテープで貼り付けてあったあるものを手にとる。
 握りこぶし大のそれについているピンをおもむろに抜いて、素早く下方に見え
る集団の中心に向かって投げ込んだ。
 直後に爆発音と共に、光と炎と悲鳴が彼らの中からまきおこった。
 すかさずツカサキは通信機のスイッチを入れ、叫ぶ。
「自爆だ!応戦しろ!」
 その通信を受けた、彼らを取り囲むゴールデンアイズは一斉に手に持つ銃器を
向け、手当たり次第に発砲を始めた。
 リョウゴはいきなりの展開に驚き、何をすればいいのかわからないまま右往左
往していたが、組みかかってきた男の頭を銃底で思い切り殴り付け、倒れたその
男の額が血まみれになったのが炎に照らされているのを見てからは、他のゴール
デンアイズと同じようになった。
 彼がしたのは虐殺だった。


「全滅だと?」
 執務室で歩行要塞攻撃第一陣の戦闘結果報告を受けた対北米連合のタクトウ・
トウはそう聞き返した。その声からは平静を装おうとしているのがはっきりと伝
わる。
 全滅。
 重すぎる二文字だった。
「本当に誰一人生き残らなかったのか?」
 部下は頷いた。
「そんな馬鹿なことがあるか、誰一人だと?虐殺でも起こらない限りそんなこと
は……そうだ、虐殺は?無かったのか?」
 部下は首を振る。
「通信記録には、こちらの人間が結託して捕虜になることを拒否し、自爆と抵抗
を行ったので北米がわの人間が応戦した、ということはありましたが。」
「自作自演ということは?」
「こちらの映像が無いので……。北米がわに提供を呼び掛けても、軍事機密を理
由に拒否されるでしょうし、提供されても役に立たないのは確実でしょう。」
「……そうだな。」
 トウは顎に手をやりながら革張りの椅子に腰を下ろし、そして沈黙した。
 やられた。北米生存同盟がこんな手で来るとは……。
 『誰一人戻れない』、この結果が二度、三度と続けば、戦闘に出たがるものが
居なくなる。そうしたらそのうち戦力を供出できなくなる国が出て、連合を脱退
せざるを得なくなる。
 いやもしかしたらもう既に連合を見限った国も――
 その時、デスクの上の電話が鳴った。
 部下が駆け寄り、応対する。
「コロニー・インドのパーティル大統領からです。」
 差し出された受話器を受けとる。
 敗北は既に始まっていた。

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