創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<1,望まぬ用心棒>

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sousakurobo

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遠い遠い未来のお話。
とても大きな戦争があった。それはそれは大きな戦争で、大地の殆どが焼き畑になったと言っても、過言ではない程に。
何時だっただろうか。各国の代表者達が軒並み亡くなった事で、戦争は唐突に終わりを告げた。最早戦争など出来ぬ程、世界は、人々は力を無くしたのだ。
戦争は人々を不幸せにした。その代わり、戦争は格段に工業技術を進歩させた。そして、それらの技術は全て兵器に費やされた。
兵器の中にはもちろん、ロボットも存在する。しかしロボット達がもたらしたのは幸福ではない。

自動人形と呼ばれたそれらは、人々の記憶と心に癒せぬほどの傷跡を残した。そしてその記憶は、何世代にもわたって受け継がれるだろう。

これは、その自動人形と旅をする一人の男の物語である。

星空も無い、濁った夜空をその飛行船は飛んでいる。まるでどこかに着地するかを選んでいる様にゆっくりと。
「ここら辺だな……本当にあるのだろうな?」
「あぁ、我々の情報に狂いは無い」
ブリッジで眼鏡を掛けた男が、小型の通信機を片手に訝しげな表情で何者かと話している。片手には地図を見ながら。
地図の図上を見る限り、何の変哲も無い山々が並ぶ土地であるが一か所だけ赤く十字でサインされている。それが何を意味するかは分からない。
「近くに村がある様だが……」
「貴方の判断に任せる。後始末は我々が行っておく。貴方は目標物を見つけ出し、起動させてくれれば良い」
「……本当だな? 好きにやらせてもらうぞ」
「期待している。シュワルツ・デルト」

広い広い、どこまでも広大な野原を、一人の男と奇妙な物体が行く。
色褪せた赤いシャツと所々擦り切れているジーンズ、それに腰からぶら下げたペットボトル大の水筒が何とも言えない哀愁を漂わせている。
その表情には凛とした物は無く、顔立ちは良いものの、髪と髭の手入れの無さからだらしがなく見えて良さを打ち消している。
そして男の側には、キャタピラを転がしながらゆっくりと、緑色系の物体が走っている。軽自動車並みの大きさだ。
工業製品を思わせる無機質で角ばったパーツによって形成されたその姿は、どこかユーモラスだが不思議な威圧感も兼ね備えている。
男は腰にぶら下げた古びた水筒を取り、キャップを開けて水を飲むと、その物体に眠そうな目を向けて、言った。
「今度こそ働けるといいなぁ、タウ」

<1,望まぬ用心棒>

男と物体が行く遥か先、閑散とした一つの村がある。日が落ちて暮れなずむ村は、ピンと張った水面の様に静かだ。
立ち並ぶ民家の中で一点、外壁が錆びれていて如何にも老朽化が激しい酒場がある。明かりはついているが、そこには酒場特有の賑やかさは無い。
中には軍服の様な服を着た男が、両脇に屈強な2人の大男を従えて椅子に座っている。テーブルには高級な銘柄の酒と料理が並んでおり、男はグラスの中の酒をグイッと飲みほした。

「それで……正直に教えて下さい。農作物の売り上げはどうなっているのですか? 
 駄目なら駄目で、他の方法があると思いますがね。私は納期を伸ばすことは嫌いなのです。納めるべき物はきっちりと納めてもらわないと」
男は目前で、肩を震わせている青年に冷徹な声でそう言った。
青年は男に目を合わせる事も出来ず俯くばかりだ。青年と男の周囲には料理にも飲み物に口も付けず黙ったままの客達が座っている。
無論カウンターの店主とウェイトレスも、そしらぬ素振りで男と青年のやり取りを黙認している。
男は足を組んだまま、青年の動向を待つ。と、青年は意を決したように拳を握り、男に青ざめた顔を合わせた。

「ふざけるな。何が納期だ。あんた達がく、来る前からこの村は……」
青年がそこまで言った瞬間、男は組んでいた足を解いて、思いっきり床を叩いた。場の雰囲気が一層凍りつく。
付き添いの大男たちが前に出るのを制し、男は青年を見下しながら言葉を発した。

「平和。と言いたいのでしょうか? やれやれ、貴方は何も分かっていませんね」
猫背になり両手を組んだ男は、青年に対して言い聞かせるように二言を続ける。
「先の大戦で嫌というほど分かったはずですよ。自分達には関係ない、戦争はよそでやっている。被害などあり得ない。
 そう思い込んだ末で全てを奪われた、愚かな人々は大勢いるのです。だから我々は、そのような人々を守る為にこの村を守ってあげているのです」
「誰がそんな事を頼んだ……あんた達のやってる事は……」
「安全はタダでは無いのですよ? 私達が貴方達の身を守り、貴方達が私達にその分のお返しをする。至極当然だと思いますが」

男の台詞に、青年は体の震えを無理やり押さえながら、切迫した表情を浮かべて怒りの籠った叫び声を上げた。
「何言ってるんだ! そんな事言って、俺達の農作物や金品を好きなだけ搾取しやがって!
 シュワルツ……あんたが毎回言う危険だの、被害だの、ただの脅しである事くらい分かってるんだよ! あんた達の存在こそが!」

青年が言いかけたとたん、外で巨大な爆音が鳴った。客達は耳を塞ぎ、青年は驚いて転倒した。
男は青年の方から出口に顔を向けた。そこには黒色で、西洋の鎧を彷彿とさせる3メートル程の物体が数機待ち構えている。
「遅いから迎えに来たんだね。すぐ終わるよ」

男はそれらにそう言うと、青年に顔を戻した。その時の男の表情にはサディステックな笑みが浮かんでいる。
物体が現われた時、客たちは皆怯えた表情で俯いたり、歯ぎしりをする等各々のリアクションを取った。男には悟られぬ様に。
男は立ち上がり、顔面蒼白の青年に歩んでしゃがむと、一転優しい声で呟いた。
「確か……貴方には婚約者の女性がいましたね。自分の身の振り方をもう少し考えましょうよ。大人なんだから」
そう言い残して、男は大男達と共に店を出ていった。鎧達はいつの間にか姿を消していた。

「大丈夫か? トニー……」
男が去った後、転倒した時に腰を抜かした為、立てなくなった青年――――トニーに、茶髪の青年が手を差し伸べた。
「くっ、すまない、ギーシュ……」
ギーシュと言う名の茶髪青年の手を取り、トニーは立ち上がる。その目には失望感と屈辱感が入り混じっていた。
「ごめんな、皆。俺がもう少し上手く言いたい事を言えれば……」
トニーが客達にそう言うと、皆口々にトニーを気遣った。ギーシュが声を掛ける。
「気にするな、トニー。正直俺達もあいつには腹が立っていたのさ。だけど……」
「……どうしても我慢出来なかったんだ。俺は」
小さくため息をついて、トニーはギーシュに返答した。
「ホント、あいつらが来るまでは平和だったよな……何でこうなっちまったんだ」
両肘をテーブルにつけ、頭を抱えてそう言うトニーを、誰も責める事はしない。何故かと言えば皆、同じ事を思っているからだ。

数か月前、この辺鄙で静かな村に彼らがやってきた。飛行船に乗って。
彼らは村での名物である、広大な丘の上で飛行船を離陸させた。明朝、突然空から舞い降りた飛行船に、何事かと村人達は集合した。
戸惑う村人達の前に、飛行船の主と名乗る男が現れた。茶色い縁の眼鏡を掛けたその男は、自らをシュワルツ・デルトと名乗った。
シュワルツは村人達を一瞥すると、感情を感じさせない冷たい笑みを浮かべて、こう言った。

「怯える事はありません。私達は貴方達の安全を守る用心棒として、ここに参ったのです。
 ですが無償で引き受けるほど、私達はお人よしではありません。取引をしませんか?」

シュワルツの言葉に、村人達は当然の如く反対した。だが、その態度はすぐに軟化してしまった。
何処からか現れた、得体を知れぬ鎧達がシュワルツを守る様に囲っているのだ。その鎧達が何かを知らぬ村人はいない。
それから事態はスムーズに進んだ。シュワルツの思惑通りに。
村長であるロッファは平和主義者な為、シュワルツの考案を飲む事にした。村人達は不満を抱えてはいたものの、ロッファに従う事にした。
だが村人達は底知れぬ不安を抱いていた。それは……。

シュワルツ達、自称用心棒が増長しないかと。

不安は現実となった。後日、村人達を集めたシュワルツは彼彼女らにこう告げた。

「先日、自動人形をご覧になりましたね? あれらがどれだけ優秀かつ強固な兵器なのはご存じのとおりです。
 ですが恐れる必要はありません。あくまで私の意思によって動きますので、有事の際にはこれ以上ないほど心強い存在となるでしょう。

 しかし……しかしですね、非常に心苦しいのですが、これらを動かすには多大な維持費が掛かってしまいます。
 私が言わんとしている事が……理解していただけますか?」

誰が聞いても、村の護衛を建前にした体の良い圧政である事は理解できる。しかし、ズラリと並んだ鎧達の姿は村人達に有無を言わせる事はさせなかった。
「自動人形なるロボットの維持費」と云う名の搾取は村人達の生活を常にギリギリまでに切迫させていった。
しかし逆らえば何をされるか分からない。実際、不満をシュワルツにぶつけた村人の何人かはその翌日、家族もて含め行方が知れない。
一度はシュワルツ達に反旗を翻そうという動きもあった。だが自動人形の姿を見ればすぐにその考えは消える。
自動人形――――あの大戦で主兵器として生み出された、ロボットを。

今でもシュワルツの飛行船は丘の上で悠然と待ち構えている。周囲には常に鎧達が警備をしており、村人達は全く近づけない。
何時になれば丘から彼らが消え、元の美しい景観が戻るのか。
誰にも、分からない。

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