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グラインドハウス 第6話

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匿名ユーザー

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 画面は格納庫の内部に移る。マコトの視点はAACVのコクピットの高さにあ
り、かなり高い。足下ではCGの隊員たちがマコト機の発進をサポートしてくれ
ている。
 目の前のゲートが開くとその向こう側には真っ白な雲海が広がっていた。
 カタパルトにAACVの足が乗せられる。その軽い衝撃をシートが振動して、
再現する。
 懐かしいな、このムービー。
 マコトの耳にはもう周りの歓声は聞こえなくなっていた。
 カタパルトから自機が発進する。視界が雲海に埋もれたところでムービーは終
わった。
「さぁいよいよ始まった『グラウンド・ゼロ』!今回のステージはぁ――!?」
 口だけ男の実況の直後、ロードが終わって視界が開ける。
 上空から投下された自機の足下から迫るのは――
「――『グランドキャニオン』だ!」
 茶色い荒野に完全に着陸するまえにスラスターを吹かし、衝撃を殺す。基本テ
クだ。
「こいつはクセのあるステージだぜぇ!かつての北米の地形を再現したココは、
高低差がハンパねぇ!おまけに風が強くて砂埃で視界はわりーし、機体もブレる
!まずは自分に有利なポジションをとることから勝負が始まるぜ!」
 口だけ男の解説は的確だ。たしかにこのステージはかなりの高低差があり、自
らに有利な位置をとることから勝負が始まる。
 だがしかしその前に、やることが。
 マコトは素早くボタンを押し、画面左下に表示されているレーダーの範囲を最
大にまで拡大した。
 すると、遥か前方に移動する光点がある。敵は、これか。
 確認して、次にマコトは辺りを見渡す。自分が着陸した場所は、階段のように
段々になっている崖のちょうど半ばのところだった。
 レーダーを見ると、敵は自機より高い場所をこちらに向かって移動している。
ならば、とペダルを踏んで、AACVの両肩と腰に装備されたスラスターでグン
と上昇する。
 崖の一番上まで上がると、まずは周囲を見渡した。
 崖の上は視界を遮る切り立った岩山が乱立しているが、さらにその岩山の上に
行こうとするとエリアオーバーになり、その時点で負けになってしまう。
 ということはつまり、その岩山を背にすれば背後をとられることはない。
 マコトは手近な岩山に、機体をそのように密着させた。
「おおっと、いきなりチキン戦法かぁ!?」
 実況は無視して、マコトはレーダーを注視する。光点は消えていた。動体が映
るこのレーダーから消えている、ということは相手はどこかで静止しているのだ
ろう。
 ……ん?だけどちょっと待て。まだ自機までかなり距離があるはずなのに立ち
止まってるってことは……。
 危険を直感して、マコトは勢いよくペダルを踏み込んだ。シートが振動して急
加速のGを再現する。
 レバーを倒し、機体を敵機が居るであろう方向に向けて、視界を上方に向けた

 舞い上がった砂ぼこりの向こう、抜けるような青空を背景に小さく黒点となっ
て見えたのは、マコトの予想通りのものだった。
 それは高速でまっすぐにこちらに飛んできている。
 ロックオンサイトがそれを捉えた。
「先に仕掛けたのはナカジマ!こいつは予想外だろうぜぇ!」
 まったくだよ!マコトは口に出さず叫んだ。
 空から接近するそれに急いでライフルを向け、乱射する。一発でもいい、当た
れ――!
 直後、被弾したその黒点――飛来していた大型ミサイル――が大爆発を起こし
、空に小さな太陽を作り出す。真下にあった岩山の一部が崩れ、爆風に耐えるた
めに両足を踏ん張っていたマコト機の上にゴロゴロとした岩が降り注ぐ。
 連続するシートの振動に耐えながら、マコトは実況を聞いていた。
「ナカジマが装備していたのは『核ミサ』ァッ!攻撃力と範囲はトップクラスだ
が、装弾数4っつーロマン溢れるウェポンだ!タイマン勝負でこいつを選ぶとか
、アホかっつーの!」
「本当だよ!」
 今度は声に出す。
 大型ミサイル――通称『核ミサ』は本来ならチーム戦で使用する武器だ。他の
味方に気をとられている敵に対して、不意討ち的にぶちかますのが王道なのだが
、それを1対1で持ち出してくるなんて、よほど腕に自信があるか、状況に合わ
せた武器選択もできない初心者かのどちらかだ。おそらく相手は前者だろう。
 岩石の落下も落ち着いて、視界は砂煙に覆われる。
 自機のHPを確認すると、爆風と岩石で2割ほどが失われてしまっていた。
 舌打ちして、気づく。
 動体レーダーには光点が映っていた。しかもその距離はかなり近い――遅かっ
た。
 自機の側面から立ちこめる砂煙を切り裂いて現れたのは、敵機だった。
 マコトはスラスターを噴射し、逃れようと試みるが間に合わない。
 マコト機の胸部装甲に大きな、白熱する切り傷がついた。
「これは強ッ烈ッ!ナカジマは予想以上にテクニシャンだったぁ!」
 口だけ男が叫ぶ。
「核ミサは相手の動きを止め、視界をふさぐためだけに使い、そこから相手が立
ち直る前に死角から接近しての、強力な超高熱ナタによる一撃ッ!シビレるぜぇ
!」
 マコトはそんな解説は聞いていなかった。
 ペダルを目一杯に踏み込み、なんとか視界を確保しようと、ライフルを撃ちつ
つ空中に後退する。
 今の一撃でかなりのHPが持っていかれた。これ以上のダメージは危険だ。
 砂煙から脱し、レーダー範囲を縮小して索敵すると、敵はマコトから離れてい
っているようだった。
 しかしなぜだ?
 今この状況でまたミサイルを打ち込めば、相手はほぼ勝ちが確定するのに。
 そこでマコトははっとした。
 数秒前、近接武器での一撃をもらったときに一瞬視界の端に見えた敵の姿を思
い出す。確信して、AACVを後退から前進へと転換させた。
 この『グラウンド・ゼロ』というゲームはリアリティーをとことんまで追求し
たゲームだ。そのため、プレイヤーが操るAACVは部位ごとに細かく当たり判
定や、個別のHPが設定してある。
 例えば腕ばかり攻撃されれば腕が破壊されて武器が持てなくなったり、飛行時
の機体バランスが変化するし、頭ばかり攻撃されれば頭が破壊されて、一時的に
行動不能になったりもする。
 そしてそういった設定は、AACV本体だけでなく、武器にもあるのだ。上級
プレイヤーはそれを利用して、遠距離から相手の銃を叩き落としたりもする。
 今、相手プレイヤーが腕に装備しているはずの大型ミサイルもその例外ではな
く、当たり判定が存在する。しかもなんといってもミサイルなので、さっきマコ
トが飛来するそれに行ったように、被弾すれば大爆発を起こすようにもなってい
る。いわばダイナマイトを腕に巻き付けているようなものだ。
 果たして、そんな危険を抱えながら、近接戦闘を行うプレイヤーは普通いるだ
ろうか?
 答えは、居ない。もしマコトが敵だったら、一度ミサイルをどこかに置いて、
それから接近する。
 そして、さっきの敵はそうしていた。
 つまり今、敵がこちらに背を向けて逃げているのは――
「――丸腰だからか!」
 マコトは砂煙を抜けた先に、全速で逃げ去ろうとする敵機を見つけて、思わず
そう言った。
「おぉーとコレは大ピンチィ!ナカジマは核ミサを置いていたぁ!アマギがナカ
ジマの後方からライフルを撃つ!撃つぅー!……あぁっと!ナカジマ機の足から
煙が!」
「よし!」
 マコトはガッツポーズをしたくなったが、こらえた。
 マコトが撃ったライフル弾はナカジマ機の脚に、装甲の薄い背面から命中し、
そこに装備されているスラスターにダメージを与えたようだった。メインスラス
ターは両肩にあるほうで、脚にあるのはサブスラスターだが、それでも、これで
かなりの機動力を奪うことができた。
 その証拠に、本来マコトの乗る重装型はナカジマの中量型に速度で大幅に劣る
のだが、だんだんとその間の距離は詰められている。
 マコトはライフルの弾倉を入れ換え、また狙いを定めた。
 その気配を感じたのか、ナカジマ機は肩のスラスターの噴射口を上方へ向け、
崖下に飛び込み、進行方向を180度転換してマコトの真下を突っ切るような軌道を
とった。
 マコトは機体を反転させ、上方から後を追って射撃しようとするが、予想して
いた空間に敵機の姿は見当たらない。フェイント――!
 慌てて正しい方向に機体を向けると、やはり敵機はまだ逃げていた。が、その
距離はだいぶ離されてしまった。
 ライフルを向ける。しかし、ロックオンサイトが現れない。射程距離外だ。ク
ソッ!
 おまけにダメージを受けた状態で全力でスラスターを吹かし続けていたため、
自機の機体温度が危険域に達しているのに気付いて、マコトは追跡を諦め着陸す
るしかなかった。
 スラスターを切って、自由落下する。
 その時だった。
 横殴りの突風が吹く。前触れもなしに荒野を吹き抜けたそれはマコト機を煽り
、バランスを崩させた。
 そうだ、忘れていた――!
 後悔してももう遅い。落下地点は大幅にずれ、マコトは崖下へ。
 一瞬だけスラスターを吹かし、衝撃を殺して着地する。それから大地を滑るよ
うに、とりあえず移動した。
「マズイぜアマギィ!崖の下は圧倒的に不利なポジションだ!」
 わかってる。だがしかし今はスラスターを冷やさないと。
「おまけに相手は核ミサ装備!くるぜくるぜ……キタァ!」
 実況を聞いて上を見る。また、空にあの黒点!しかも今度は2つ!
(キメに来やがったな……!)
 マコトはライフルを向ける。高速移動ができないこの状態ではとても避けるこ
とはできそうにない。ならば撃ち落とすしかない。
 ロックオンする。発砲するが、マコトは違和感を感じていた。
(何故『2発』なんだ?)
 敵のミサイルの装弾数は『4』のはずだ。その内すでに1発は使ってしまって
いるから、残りは3発のはず。
 もし今この状況で3発全弾を撃ち込まれたなら、マコトにはとても対処しきれ
ないだろう。撃ち落とすにも間に合わないだろうし、マコトが避けられない状態
であるのは、あのレベルのプレイヤーならマコトが崖下に落下したのを見れば勘
づくはずだ。
 なのに、『2発』――?
 マコトの銃弾が近い方のミサイルに命中する。上空に再び小さな太陽が産まれ
る。
 直ぐ様もう1発にも狙いを定めるが、やはり遅い。このままでは爆風をもらっ
てしまう。もう1発、ミサイルが来てれば、やはり敗北は確実なのに……。
 2発目が爆発する。マコトは機体の足を踏んばらせ、爆風に耐えていた。
 画面上のHPの数値が勢いよく下がっていく。耐えきれるか――
 ――その時、マコトの脳細胞が弾けた。
 パズルのピースが嵌まるように、一瞬にして強固な思考が組み上げられる。
 と同時に、マコトの指は勝手に動いていた。
 爆発の炎と光で画面が埋め尽くされる。
 その向こうから飛び出してきたのは――
「――ナカジマ機ィ!」
 口だけ男の絶叫。
 炎の向こうから現れたのは敵機だった。その腕には近接戦闘用の超高熱ナタが
握られていて、しかもそれはすでに振りかぶられている。
 ――だがそれはマコトも同じだった。
 マコトの重装型AACVはしっかりと腋をしめ、大地を踏みしめ、右腕の大型
超振動剣を今にも相手に向けて突き出そうとしていた。
 2本の刃が交錯する。先に相手の胸を貫いたのは――
「大ッ!逆ッ!転~ッ!!」
 ――リーチの点で分があったマコトだった。
 会場が大きく沸く。
 マコトは敵機が爆散するのを見ていた。
 そして、画面に『Win』の文字が出ると共に――
「――っしゃあッ!」と叫んでガッツポーズをする。
 それは勝利そのものより、『読み』が当たったことへの喜びによるものだった

 あの一瞬――マコトの頭が冴えた一瞬――彼の脳内で組み立てられた予測は完
璧だった。
 なぜ、敵機が『2発』しかミサイルを撃たなかったのか?それはこの『タルタ
ロス』という会場が関係していた。
 マコトの脳裏に閃いたのは、ゲームが始まる前のコラージュの言葉だった。
『重要なのはどう戦うか』
『プロレスと一緒』
 さらに、最初の口だけ男の『ルーキー同士』という言葉。ルーキーなら、向こ
うも同じ説明を直前にされたはず――。
 相手は、ナカジマは、欲をかいたのだ。
 『相手不利・自分圧倒的有利』の状況で、『より観客を楽しませた方が報酬が
上がる』のなら、自分の勝利をなるべく派手に演出しようとするのは当然だ。
 だからナカジマは、あえてミサイルを3発ではなく2発だけ撃ち、それらをあ
えて撃ち落とさせ、巻き起こる爆風の向こう側から剣で相手を貫く、という『カ
ッコいい』止めを刺そうしたのだ。
 もしそれが完璧に決まっていたなら、特撮ヒーローのフィニッシュのように、
本当に派手な決着だったろう。
 だが、マコトはそれを読み切り、一撃必殺の大剣で、見事に返り討ちにしたの
だ。
 皮肉にもナカジマの演出はマコトを引き立たせることになってしまったが、お
かげで会場のテンションは最高潮だった。
 鼓膜が痛くなるほどの歓声!
「ウィナアアア!マコト・アマギィイイイッ!」
 実況が裏返り気味になっている。
「ワンチャン逃さず一発の逆転を掴んだのはマコト・アマギ!実力か悪運かはワ
カンネーが、とにかくサイコーッ!濡れるぜッ!」
 マコトはシートベルトを外し、椅子に身を預けた。
 目を閉じて息を吐くと、強烈な疲労が痺れた腕から体の中心に染み出してくる
のが感じられた。
 こんなに集中したのはいつ以来だったか。強烈な緊張感も手伝って、今までの
人生で最高レベルの集中だったかもしれない。
 だが、思い出す。
 ああそうだ。この感覚が、グラゼロプレイヤーを惹き付けてやまない、魅力だ
ったんだ。
 懐かしくなって、自然とマコトの頬が緩んだときだった。
「――だがしかし、これで終わりじゃねぇぜ!」
 聞いて、頭を持ち上げる。
「ってかむしろこっからが本番っつーか!?これがなきゃ『タルタロス』に来る
意味ねーっつーか!?このためだけに来てる奴らもたくさんいるっつーか!?」
 なんだ、何が始まるんだ――?
「とりあえず折角賭けた金を0にされたムカつきを、本人に向けてぶっつけちま
いな!」
 天井から何か機械が動く音がする。鎖が擦れる音がして、マコトの『檻』の向
かい側にあるナカジマの『檻』が、揺れる。
 不安になってマコトは立ち上がり、自分の檻の、ナカジマの檻がよく見える位
置の金網に指をかけた。
 どうやらナカジマも理解が追い付いていないらしく、立ち上がってキョロキョ
ロと周囲の金網と観客たちを見渡している。
 わけがわからないまま、それは始まった。
 突然、ナカジマの檻が引き上げられて、ナカジマと観客たちを遮るものが無く
なる。とたんに勢いよく観客が舞台に上がってくる。
 そして、マコトは見た。
 観客たちの先頭にいたスキンヘッドの男。彼が手に持つ金属バットを思い切り
振りかぶり、タケシ・ナカジマの側頭部を捉えたのを。
 思ったより、軽い音だな――マコトは、なぜかそんなことを思った。
 ナカジマが舞台に倒れる。吹き飛ばされたメガネがグラウンド・ゼロの筐体に
当たった。
 倒れたナカジマの背中を誰かが蹴りつけている。雄叫びで頭が痛い。鉄の棒が
腕を叩き伏せる。腕ってあんな方向に曲がるんだ。大きな瓶がナカジマの体で割
られる。中の液体にライターが落とされる。炎が彼の体を包んだ――

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