創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

the Strange dream 上(後編)

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ParaBellum

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<やはり見られてましたね、マスター>


突然杖から声がして、遥は短い悲鳴を上げて後ずさりする。今更驚く事も無いとは思うが。
どこかにテープレコーダーでも仕込まれているのかと周囲をキョロキョロと探すが、無論そんな仕掛けなど無い。
一条は杖を立ててちょっと失敗した、みたいな表情を浮かべながら遥に言う。

「驚かしちゃってごめんなさい。この子は意思を持っていて、自由に喋るんです。それで……言われたとおり、ロボットに変身します」
<リヒタ―・ペネトネイターと申します。宜しくお願いします>

甘く中低音で、人であればカッコ良さそうな男性の声が、遥にそう挨拶する。こ、こちらこそと動揺しながら、遥はお辞儀する。杖にお辞儀というのも変だが。
それにしても、世界を巡る少女に、随伴する喋ってロボットになる杖。ますますもって状況が不可思議すぎる。
だが、遥自身は吹っ切れたのか、惑いも恐怖も感じていない。むしろ、この状況下にどこかワクワクしている自分が居る。

「私達は最初、この町じゃなくてもっと……自然が多い、そんな所に来たんです。この、リヒタ―に乗って」
<私はマスターを乗せ、人々に気付かれぬ様にひっそりと、この世界の事を探る為に町から町へと移動してきました>

……アレで気付かれない様にか。と、唐突に遥の脳裏に、朝のニュースが過ぎる。
確か……田舎町で自動車が複数、田んぼに転倒するという事件があった。だが不思議な事に乗っていた人は全員無傷という。
それに、居眠り運転でトラックが高速道路から、パーキングエリアに突っ込む寸前で何かに食い止められたというニュース。まさか……いや、そんなまさか。

そういえば後もう一つ、物騒な事件があった気がするが、そっちはちょっと思い出せない。

「それで今日……この町に来たって事は偶然なの? それとも目的とかあって?」
「正直偶然です。ちょっと疲れたからここで一休みしようって事になって」
<幾度かトラブルはありましたが、まさかこの町で同一存在に出会えるとは思わず、幸運でした>

「同一……存在?」

遥がそう呟くと、一条はまた難しそうな顔つきになりながらも、今度は悩まずに説明し始める。

「私の仲間……というか、協力してる、なごみさんって人が居て、その人が教えてくれた事なんですが……」

「私が住んでいる世界の他に、私と同じ存在というのが私が知らない世界には沢山いるんです。並行した世界や、時間軸に。
 それで本来の目的は師匠を探す事なんですけど、なごみさんから出来たら自分と同じ存在を探しておいた方がい言って」
「それで私が……貴方が言う、同一存在って事?」

一条が頷く。いや、頷かれても困る。もう何が何やらで遥の頭はパンクして爆発しそうだ。
自分が居る世界の他の世界には、自分と同じ顔と声と髪型――――というより、私自身がいるらしい。それがどんな事をやっているかは分からない。
分からないけど、今、目の前に何よりも自分と似ている存在がいる事が何よりの説得力だ。大分背は小さいが。

「それでその同一存在って言うのは……何人、居るの? で、同一存在に出会う理由は?」
「神守さんを入れて6人の私と出会いました。理由は一度通じ合うと感覚が共有できるようになるから……だっけ、リヒタ―?」
<その通りです、マスター>
「へぇ……で、感覚を共有ってどういう事?」
「……私もそれはちょっと分からないです。共有した事無いんで」

と言って一条ははにかむ様に笑う。笑える様な事では無い気がするが、この子は強いんだなと遥は今更ながら思う。
自分がもし同じ状況になったら、こんな明るい雰囲気じゃいられないのに。そう考えると、遥は一条が羨ましく思える。
取りあえず冷静に我に帰って思うのは、今日はお母さんがいなくて良かった。

「じゃあ聞くけど……私の名前、分かる?」
「神守遥さん、であってますか?」
「やっぱり分かってるんだ……」
「この世界に入る前に、なごみさんから聞いてたんで」

そのなごみさん、とやらも只者じゃなさそうだ。……と、ちょっと待って。
ふと、聞いては良いか迷うものの、遥は一条に遠慮がちにその事を聞いてみる。

「ちょっと変な質問だけど……一条さんの仲間というか、家族とかは? 嫌なら……無理に答えなくても良いけど」
「私の家族も仲間も、私が居た世界で元気に暮らしてます。師匠にはまだ会えませんけどね」
「そっか……」

悪い事を聞いた。と、遥は思う。
やっぱりここまで来るのには平坦な道では無かったんだろう。一条さんなりに、辛い事や苦しい事とかを経験してきたと思う。

「けど、師匠には必ず会えます! 私、まだまだあの人に教わりたい事、沢山ありますから」

そう言って、一条は明るく、そして元気にニコっと笑ってみせる。
自分では想像も出来ない境遇を送ってきたんだろうに、こんなに明るく元気なのは凄い、と遥は思う。こうして見ると可愛らしい、ちっちゃな女の子なのに。
というか、別世界の自分がこんなに逞しいんだからしっかりしなきゃ、と遥は自分に渇を入れた。


「それで……一条さん、これからどうするの?」

遥にそう聞かれると、一条は直ぐに答えた。答えは最初から決まっていた様に。

「改めて、ご飯凄く美味しかったです。お皿を洗ってちょっとだけ寝たら出発します。だからもう少しだけ居させてください」

出発……って、またどこかに行くつもりなのだろうか。あれだけお腹が空いていたのにまた出かけたら……。

「出発するってもう夜よ? それにどこか泊まる所からあるの?」
「まぁ、もうちょっとこの世界を回ったら次の世界に行くんで、何とかなりますよ」

と、一条自身はあっけらかんと言うが、やっぱり心配だ。
というかあれだけの食べっぷりを見ると、この世界に来てから何も食べてないんじゃないかって気になる。

「だから心配しないでください、これでも体は丈夫なんですよ、私。じゃ、お皿、洗ってきますね」
「ちょっと待って」

立ち上がりお皿を持っていこうとした一条のローブの裾を、遥は少しだけ強く引っ張る。
何か照れ臭い、照れ臭いけど、言わなきゃ後悔する、そんな気がする。

「今日……と明日明後日は、この家には私以外、誰もいないの。だからその……その間だけ、家で休まない?」

遥の申し出に、一条の表情は戸惑っているに見える。
他の世界でどう生きていたかは分からないが、このリアクションを見るに本当に何とかなるみたいな感じで逞しく生きてたんだな、と思う。
出発をどうしても急ぐというなら無理にとは言わない。だけど――――。


こんな予期せぬ出会いは、多分二度とは訪れない。そう考えると、どうしても一条を引きとめたい。遥は切実にそう思う。


<マスター、私も彼女の、神守さんの意見に賛成です>

意外な意外、先程まで沈黙を守っていたリヒタ―が、遥の意見を援護してきた。

<ここ数週間の間、マスターは満足な休暇を取れていないと思います。その為、取らず知らずのうちに疲労が溜まっているのではないかと。ですから>
「けどリヒタ―、もし私達の様に移転してきたオートマタが居たとしたら……」
<先程から気配を伺ってますが、その反応は見られません。……私からもお願いです、マスター。少しでも休んでおかないと……>
「……うん」

一条とリヒタ―が何か話している様だが、その内容までは分からない。それに一条の顔が笑顔からシリアスになってるのも気になる。
話し合いが終わったのか、一条は深く頷くと、遥の方を向くと歩いてきて、お皿をテーブルの上に置いた。
そして照れ臭そうに遥を見上げると、ぼそぼそと、言った。

「それじゃあ……神守さん、少しの間だけど、お世話になります」

一条の答えに、遥の顔が自然に笑顔になると、優しい声で答える。

「はい。少しの間、宜しくね」


実を言うと、三日間一人でいるのは心細いからというのは秘密だ。




「お湯加減、大丈夫?」
「はい!とっても気持ち良いです!」

モザイクガラスの先、たっぷりと注いだ湯船に浸かっている一条に、遥がそう聞いた。
よほど気持ち良いのか、小声ながらも一条の口から鼻歌が聞こえてくる。丁寧に折り畳められたローブと服を見ると、どんな所を巡っていたんだろう。
目立ちはしないが結構汚れが目に付く。遥は一条に聞いた。

「一条さん、服、洗って良い?」
「あ、ちょーっと待って下さいな」

湯船から出てくると、一条がドアをちょっぴり開け、遥に言った。

「ローブの中にペンダントが入ってるから、それを取ってから洗って下さい」
「ペンダントね。うん、分かった」
「すみません」

一条が湯船に戻る。一条の服を探ると確かに小さい、卵型のペンダント……というより、ロケットだ。写真を入れるロケットが出てきた。
どんな写真が入ってるんだろう? 遥は思うが、流石に本人の許可無しに開けるのは不躾だろうと思い、置いておこうとした、と。
するりとロケットが手をすり抜けてそれが落ちてしまった。軽い音がして蓋が開き、ロケットの中の写真が出てくる。

いけないと思い、遥は拾い上げ閉じようとするが、どうしてもロケットの中の写真に目が向いてしまう。

入っていた写真には、一条と仲睦まじそうに肩を寄せ合っている、一条とよく似た面影の少女が映っていた。
多分一条の……双子? いや、顔つきは一条よりも幼い。恐らく妹だろう。こうやって身に付けてるって事は、凄く大事な人なんだろうな。
パチン、とロケットの蓋を閉じる。遥はますます、一条にシンパシーを感じる。まさか妹が居る所まで同じとは思わなかった。

「今着替え用意してくるね」
「あ、お願いします」

ロケットを籠の中に置いて、一条の着替えを持ってくるため遥は浴室から出ていった。



「ごめんね、ちょっと大きいサイズで」
「いえいえ、大丈夫です」

と一条は言っているが袖が余りまくってるわダボダボだがで大丈夫には見えない。
妹が寮で暮らしている為、この二段ベッドでは普段下で寝ている。だが今日は久々に、上で寝る事になる。妹が帰ってきた時以来だ。

「それにしても本当、すみません、ご飯から寝る所まで……」
「ううん、良いの良いの。一人だとちょっと心細いし、それに……」
「それに?」
「……何でも無い、ごめんね」

一瞬、一条が妹の様に見えて遥は恥ずかしくなりシーツを頭に被る。
だが、一条を見てるとなぜだろうか、可愛いというか……自分で自分を可愛いと言ってる様で変な感じだが。


シーツから少しだけ顔を出して、遥は一条に質問する。

「あのさ、一条さん」
「何ですか?」
「一条さんって、妹さんとか弟さんっている?」

遥のその質問に、一条は即答する。

「いますよ。私より背がおっきくて……甘えん坊な」
「へぇ~、私と同じだね。私も妹がいるんだ。今はちょっと、遠い所に居るけど」
「そうなんですかー。……同じですね、私達」
「そりゃ私も同じ遥だもん。……同じだね、ホントに」

そう言って、一条と遥は笑った。何が可笑しいのか分からないが、なんか、可笑しい。
自分で口に出していて訳が分からない。今だって全てを理解している訳ではないが、別の世界の私が今、私と一緒に居る。
それだけは遥は理解している。それにしても予期せぬ出会いというのがこんな形だとは、神様というのはよっぽどお茶目な様だ。


「ねぇ、一条さん」
「何ですか?」
「明日、ご飯買いに街に出かけるけど一緒についてきてくれないかな?」
「買い物ですか? 良いですけど、その……」
「あ、大丈夫。服なら私が昔着てたのがあるから、多分サイズは」
「あ、いえ、そうじゃなくて……」

一条の様子がちょっと困ってそうなのに気付き、遥は聞く。

「無理にとは言わないよ。家でゆっくり休みたかったら」
「いえ、出かけるのは良いんですけど……」

「あの、リヒタ―も連れていって良いですか?」
「リヒタ―さんも? 良いけど」
「ありがとうございます。出来るだけ、一緒に居たいんで」

一緒に居たい……? 一条のその言葉に、遥の中の乙女センサーがピクッと反応した。
気になる、かなり気になる。

「聞きそびれてたんだけど……一条さんとリヒタ―さんってどんな関係なの?」

「関係ですか? 私にとってリヒタ―は……、大事なパートナーです」
「一緒に旅してきたから?」
「それもあるんですが……リヒタ―には色々助けて貰って、一緒に苦労して……要するに、一緒に成長してきたから、みたいな理由です」

そこで遥はニヤりとすると、少し悪戯っ気が入った声でいう。

「恋人、みたいな?」

「恋……人……?」

素でキョトンとしている。茶化したつもりで、というか……。
ロボットが恋人って! みたいな突っ込みを期待していたが、口調からして一条は本当にキョトンとしているらしい。

「……率直に聞くけど一条さん、恋人とか居る?」
「うーん……興味が無いというか、考えた事も無いというか……」

こういう部分でも――――異性関係に縁が無い所でも同じとはちょっとショックな気がしないでも無い。
だけどまぁ、ある意味健全という事にしておこう。うん、そうしておこうそうしよう。
急な用事が入ったからから、明日は部活を休もう。悠子には悪いが。

「それじゃあ明日ね。おやすみなさい、一条さん」
「おやすみなさいです、神守さん」



寂びている路地をダラダラとおぼつかない足元で、だらけた服装の若者が一人、歩いている。
その顔はよほど酒を煽ったのか真っ赤で、かなり出来あがっている様だ。目線はふらついており、右へと左へとまともに歩けていない。

「どいつもこぉいつも~……馬鹿ヤロ―!」

誰もいない事を良い事に、というより悪酔いしているせいか、男は周囲も顧みず声を荒げてそう叫んだ。
視線が下を向いて足がもつれ、男はそのまま真っ直ぐ、頭から何かにぶつかった。
間抜けにも転がり、頭を掻きながら男はそのぶつかった何かに向かって叫んだ。

「いてえなばぁか! 何処に目を付けてやがんだクソったれ!」

そう叫び男は顔を上げた、途端、赤くなっていた男の顔が見る見るうちに青ざめていく。

酔っぱらった男を見下ろしている、二つの無機質な赤い目と、月明かりに照らされて不気味な光沢を放つ、黄金色の巨体。
その巨体には何をしてきたのか、斑点状の赤い液体が渇いて付着している。何より男を最も青ざめさせているのは――――カギ爪。
左腕のアンバランスに巨大な右腕の先には、ギラついた銀色のカギ爪が、男の怯えきった表情を鈍く映している。

「ま……待て!」

瞬間、男の視界が真っ逆さまになった。

次に男の視界に映ったのは、血溜まりの中に横たわる、首から止まる事無く血を噴出している、自らの肉体だった。
それが男が見る、この世で最後の光景。

美しき弧を描く満月を、少女の静かな瞳が見つめてる。
少女の瞳は静謐で深く透き通っており、それでいてどこか――――人ならざる、神秘的な雰囲気に満ちている。
と、少女は何かを感じたのか、自らの腕を強く握り締めた。頭の中をゾクリとした、不愉快な何かが過ぎる。

「紫蘇?」

少女の傍らでポケットに手を入れて月を眺めていた青年が、少女へと声を掛ける。


「寒いのか? 腕押えてるけど……」

「……ヤスっちさん、今、何か感じませんでしたか?」

紫蘇と呼ばれた少女は青年にそう聞くが、青年はいや……と小さく首を振る。

「いや……特に。紫蘇、大丈夫か?」

「そうですか……いえ、気のせいです」


改めて、少女は夜空を見上げて満月を見つめる。




このセカイに何かが起こっている。このセカイを崩すかもしれない、何かが。





                          the Strange dream



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