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"Hollow"een

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匿名ユーザー

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 ハロウィーン。
それは欧州起源の宗教行事の一つであり、年末に訪れる死者がどうのだとかあるが、それはさておき。
宗教の壁を気にせずにとにかく祭りに乗りたがる日本人の目を通せば、仮装した子ども達がお菓子を求め家々を訪ねるという部分のみが映っていることが多いだろう。
人を伝えば伝うほどに元の形から離れていくというのはよくある事。
そしてここに集まる者共も然り。

いつの時代、どこの場所か。
それが分からない以上、このハロウィーンという一つの単語が、偶然にも音だけ一致したまったくの別物とも思えるほどに、今目の前で起こるカオスは原型から激しく逸脱しているのだがどうしたものか。

「トリック! オア! トリィトオォォォォ!!!!」

怒号を通り越し雄叫びの域まで達した、行事内の決まり文句が一帯に響く。
それに付随する爆砕音は、大地を抉る巨大なる一撃を元とする。
絵に描いたような正円(といっても実際はいびつであるはずだか)の月に照らされる、土砂だけが重ねて出来上がったような暗い墓場。
そのスケールは地平線に続くまでに広がるというとんでもないものなのだが、さてそれ以上の非日常であるこの爆裂。
凄まじい運動エネルギーを受けてたまらず反対方向、重力に逆らい上方へと噴き上がる土の雨がやんだ時、そこにあるのは叫びの主、一撃の主。
月光を背に受けて鈍く光る、巨大な鉄巨人。あえて意味を重複させて強調する程に巨大であり、さらに威圧的な、あおりの掛かった逆三角形マッスルボディー。
このフィールドの大きさで打ち消され、遠目では実感できぬであろう20メートル超という全高を知らずとも、人が着込む鎧でないことが一目で分かるアンバランスさを持っている。
なんとも奇怪な事に、このハロウィーンを名乗る催しに参加しているのは霊とは真逆と言っても差し支えない科学の結晶的存在、ロボットであった。

「チョコマカ動きやがって!」

 鉄巨人――折角のハロウィーンなのでその特徴的な二本角を以ってミノタウルスとでもしておこうか――から再びシャウト。
 振る拳が空を切るからと言ってシャドー・ボクシングをやっているわけではない。
 相手はなんだ。
 それはミノタウルスよりも遥に小さい、しかし人よりは遥に大きい、丁度平均値といったサイズ。もう一体の参加者である。
 豪腕のラッシュを、のらりくらりと回避する。
 風圧をも利用して行うその運動は、裏を返せば一撃で粉砕されかねない重量の差を証明していると言えるだろう。
 見ている側は冷や汗ものだが、当の本人――本機と言い換えると意味が変わるか――は至って冷静。
 喩えるなら狼男といった姿の機械と獣の要素を併せ持つ毛むくじゃら、見事に巨体を翻弄す。


「もらったァー!!」

 エネルギーを度外視に振るい続けた執念の拳が、狼男の退路を塞ぐ。
 針穴に糸を通すが如くと僅かな隙間から抜けようとするが裏目、それこそミノタウルス操る男の望む所であり、正面から渾身のストレートが伸びる。

 だが男、興奮し考慮すべき問題への解答がおろそかになっていた。

 Q.何故狼男は回避しか取らないのか。
 A.受け止めるだけの防御力を持たないから。

 Q.何故狼男は攻撃を行わないのか。
 A.回避に手一杯であるため。

 ベターな答えである。しかし本当にそうなのか?
 答えあわせをしてみよう。

 地形をゆがめるだけの破壊力を持った、右拳が狼男を捉える。
 捉えた。
 そこまでは良かった。
 しかし一方で、拳も捉われていたのである。
 だったらどうしたと思う質量差であるはずだが、互いの接触が運動エネルギーを生むまでの刹那、脳に浮かぶのは一つ目のQと自分の解。
 相手は本当に攻撃を受けきれないのか?
 疑念の種となったのは、狼男の待ち受けていたと言わんばかりに堂々とした構え。
 衝撃走る。

 次の瞬間に、確かに拳は狼男を後方へと弾き飛ばした。
 だがそれを見送るミノタウルス、乗り手の背筋は凍りつく。
 質量保存の法則というものがあるが、それに従えば狼男は粉微塵になってもおかしくはなかった。
 ではそのエネルギーはどこに消えたのか。
 今質量保存と言ったばかりだ、消えるはずもないだろう。
 受け止めるという事は、内部に衝撃を蓄積してしまうという事。狼男、到底耐えられる器ではない。
 ならば止めずに流せばよい。

 しろがねの鎧盛り上がり、隙間から流れる赤黒い体毛が逆立ったのは、拳受けた直前の事。
 今はというとまるで前方向からの衝撃を跳び箱でも跳ぶかのように後方へ押しやり、その勢いをもってしてミノタウルスへ向かっているではないか。

 月をバックにムーンサルトという演出的ともとれる行為を目に、二つ目のQ。
 何故攻撃を行わないのか。
 その答えは相手の力をも取り込んだこの必殺を叩き込むため。

 複合金属をものともせず、指先から伸びる四枚刃がミノタウルスを裂いた。



 間抜けに飛んでいく脱出装置に目もくれず、狼男、敗者の亡骸に歩み寄る。
 そして決まり手となった爪を以って唐突にミノタウルスの胸部を開く。
 機械が肝でもすするのか。いや違う――

 ――なんという事でしょう。
 あなたは今までの意味不明な戦闘がどういうものか覚えていたか?
 そう、今日はハロウィーン。
 勝利の咆哮をあげる狼男の手が、下手糞に握りしめているのは菓子ではないか。
 機械の怪物等が、自らの肉体で菓子を守り、相手の菓子を奪い取る。
 それが少なくともこの視界に映る地平線までを支配する、この世界におけるハロウィーンであった。

「そいやさーッ!!」

 驚き桃の木息継ぎの暇もなく、威勢の良い掛け声と同時に飛来するドロップキック。
 対象は当然狼男であろうが、空気の振動を読み取る体毛により察知したそれは、素早く跳躍。
 結果的に破壊されたミノタウルスの残骸が威力を語る。

 斜面を蹴り蹴り、狼男高台へと登りつめると、新たな敵対者を紅い四つ目で確認する。
 相手はミノタウルスよりさらに巨大、有翼のドラゴニュート。しかし。

「ちょっとなにはずしてんのさ!」
「そうは言ってもアイツ糞速ぇーんだよ!」
「まあま、落ち着けよ」
「……止まっている余裕はないぞ」

 翼はお決まりのプテラノドンやらコウモリのような膜を持つタイプではなく、金属であるが羽毛。
 四つん這いから起き上がる巨体を支える二本脚は食肉目のものに近い。
 まさに今騒ぎ立てる四人の意思と同じちぐはぐごった煮のものであり、キマイラをはじめとする合成生物を連想させる。

「わかってるぜっ!」


 翼を開き、飛翔するドラゴニュート。風が巻き起こると次の瞬間には、高台にぶちかましを喰らわせている。
 無論狼男、それをただ受けるような事はないと今までの戦いを見れば分かる。
 派手に砕かれた砂岩を時に避け、時に一瞬の足場とし、切り抜ける。
 ドラゴニュートはというと高台の上部を削りとるだけの勢いあってか、跳ね返りの空中でバランスを崩している。

「凄まじい反応速度だな」「おうっぷ」などと口走っている間にも、狼男は急所を探り当て攻撃の位置取りを済ませていた。
 しかしドラゴニュート操る主導権を握っている少年とて、攻撃後の隙だけを見せに突っ込んだわけではない。
 羽ばたきによって僅かながらに巨体をずらしこむと――

「ファングウィップ!」

 音声プラスのレバー操作を受け、腰のサイドから二本の鞭が伸びる。
 和訳でそのまま鞭としたものの、極太のそれは先端で開く牙とあわせ大蛇と呼ぶのがふさわしい。
 一本は回避されたものの、空中でそう自在に動けるものではない。もう一本が肩に喰らい付いた。

 人語を発することのない狼男、このままやらせるかと考えるのか相手まで伸びる大蛇の胴を掴み背負いこむ。
 ドラゴニュートを放るような怪力など持たないが、この動作により自らの肉体を回転させ、大蛇の長い腹を蹴り振りほどく。

「あら?」
 両者バランスを崩したままに斜面へと落下。 だが両者同じように受身を取ることでダメージを最小限に抑え即座に復帰。
 ドラゴニュートの側が先と同じく四速歩行を模した体勢を介してから起き上がると、身体のねじりにそれ自身の動力、さらに掴む腕の力によってファングウィップを振る。
 後手に回った狼男側は、両腕で地を叩いて跳ね上がり、這うよう迫る攻撃を回避する。
 さらに着地に重ねるように反対方向からの二本目をもスレスレで回避し、勢いを付け突進。
 すぐさま大蛇を引き戻し、受ける手を考えるドラゴニュートだが、気圧され回避を選択したことが相手の思うツボ。
 直接ぶつかれば攻撃側も只ではすまない速度であっても、見事に刃先だけを掠めさせ、続けての一撃で崩れる体勢の上に全重量を乗せる。

「いいようにやらせるかァ!」
 ここでドラゴニュート隠し玉、龍の頭部から光のブレスを放つ。
 体勢の都合で直撃させることは不可能だが、追撃のポジションを取らせず、こちらは反動で軌道を曲げる隙を作ると見事に効果を発揮。
 そして両者が離れ、仕切りなおしとなる直前、損傷を庇うためか着地に生じた隙を少年見出し。

「ブレス・ブラスターを使う!!」
「待ってました!」「だろうと思った!」「既にロック済みだ」
 胸部から展開される可視のフィールドの後ろで、龍と大蛇の口内が輝く。
「いけええ!!!!」
 三本の光が収束し、回避不能なほどの極太レーザービームが完成――するはずであったが。

「退けッッ!!」



 横殴りの突進が発射を妨げた。
 土に塗れた第三者は、頭部を吹き飛ばされてなお、戦い続ける鎧騎士。
 おもわぬチャンス、この時間を利用し狼男は二者が重なることで生まれる死角へと周り込むと、攻撃を仕掛ける。
 首なし騎士、戦い続けているからにはそれなりの感覚を頭部以外に持っているのだろう、右腕と一体化した刀剣によって爪を受け止める。

「だぁー!なんだよ畜生」
「周囲の警戒を怠りすぎたな……」
「あれ、でもあっちが引き受けてくれてるじゃん」
「じゃあ漁夫の利を貰っちまおうぜ」

 片膝をつくドラゴニュート、多少の困惑の末に巨体で二者を押しつぶそうとするが。
「おっと、飛んでったと思ったらこっちでドンパチかあ?」

 地を鳴らしさらに登場の第四者は、ドラゴニュートと同等の巨体。
 はじめのミノタウルスより遥に巨大な腕と、それを支える太い脚を持つ。

 入り込んだこの機体――背後から突き出すパイプやらを考慮し、多少強引な比喩をするならフランケンシュタインの怪物――に対し、ドラゴニュートが取っ組み合う。
 これにより奇しくも大小二組の同サイズ対決が発生した。

 因みにフランケンシュタインの怪物はフランケンシュタインの怪物であって、決して「フランケンシュタイン」という名前ではない。
 怪物を創った人物の名前がフランケンシュタインであり、彼が名前を付けなかったのが原因なのか、日本では怪物の名前として定着している節がある。
 誤用といえば誤用だが、役不足ぐらいにもう通ってしまうのではという諦めと記述の長ったらしさから、いっそフランケンシュタインでも構わないのではと考える。
 ついでにフランケンシュタインの怪物は文学作品から生まれたものなのだから、ハロウィーン本来の目的とかけ離れているようにも思えるのだが、 と言ってもマンガやらのキャラクターの仮装をしちゃうような国の人間なので、これもどうでもよいといえばどうでもよい。

 ……などとスレの利用者層を考えれば誰でも知っているようなつまらない話を私情にまみれさせて語っている内にも、四機は激しい菓子争奪戦を繰り広げていた。

 狼男が剣先を踏みつけて回避するという軽業を披露したかと思えば、

「その隙逃さん!」

 首なし騎士が盾に備わる回転鋸様の機能を車輪に利用し、地を滑るという荒業を。

 フランケンシュタインの怪物が、荷電リサイクル砲などという不可解な武器を持ち出したかと思えば、

「サンダースマッシュ!」

 ドラゴニュートが素早く距離を詰め強襲する。


「肩を借りる」
「ぬおっ!」

「あいつこっちにも攻めるかあ!?」
「協定があるわけでもなし、周り全部敵だろうに」


 時に背を合わせ時に利用し。全員の力が拮抗しているのか、情け無用の乱戦が延々と続く。
 と、突如。それに見かねた者による計らいであるかのように、気流に乗って滞空しアドバンテージを得たばかりのドラゴニュートのさらに上空より落下物。
 玉突きで下に位置するフランケンが倒れかかる所には残り二機。
 いずれも減速または回避によって、脱落者はゼロ。
 いやむしろ、今しがた降りてきた機体を含めれば、フィールドに立つ怪物は増えている。

「お取り込み中申し訳ないな……」
 天よりの来訪者はむしろ地獄を想起させる禍々しさをもった奇異な体型、悪魔もしくは魔神。
 一方でそこから放たれる女性の声はどこか疲弊しきっており、邪悪さとは無縁に思える。

「よく言う……システムに異常は」
「問題ない、ターゲットの再設定を提案」
 もう一機は鎧に身を包みながらも、むき出しとなったフレームが骸骨のようである。
 返答を返す機械音声はそこに宿る魂、操るのはさしずめシャーマンか。

「痛え死ぬ、マジで死ぬ」
 ついでに情けない声をあげているロボットらしからぬロボットはゴブリン……というには他と比較して大きさがあるが、この際構わないだろう。

「オイオイちょいと賑やかすぎやしねえか」
「…………」
「生き延びてみせるッ!」
「やるしかないなァ。それじゃ――――


「トリック・オア・トリートォ!!!!」


こうしてどことも知れぬ世界、まったく意味を理解していないであろう決まり文句と共に、怪物たちによる菓子を求めた壮絶な「いたずら」が繰り広げられているのであった。

≪おしり≫

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