創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

地球防衛戦線ダイガスト 第九話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
第九話 弱小国の宇宙戦争

 4月も半ばに近づく頃。
 富士山麓の東側に広がる東富士演習場は、春の恒例行事である野焼きを終え、一面が黒々とした焼け野原に変わっていた。灰の中からは早くも草が芽を出したところもあり、初夏に向けての陣取り合戦も始まっているようだ。
 うららかな春の日差しのもと、青空の中に黒々と浮かび上がる富士の近影は絶景であるが、演習場に集まっているのは富士見物でも桜の名残りを探す粋者でもない。緑地に茶や黒をまだらに散らした迷彩服2型に身を包む陸上自衛官たちがざっと20名に、白衣の研究者数名と、背広がやはり数名。
 彼らは一様に固唾を呑んで、1000メートルほど離れた場所に立てられた、薄汚れた鋼板を見守っている。
 と、何かが影も残さぬほどの速度で宙を裂いたかと思うと、甲高い音をさせた後、鋼板の後方に盛られた盛土から盛大な土煙があがった。
 自衛官の列に混じっていた東和樹三佐は、私物の双眼鏡を覗き込んで思わずガッツポーズをとった。
 鋼板には真円の孔が穿たれ、そこから盛り土が崩れた様が確認できた。
 続いてブザーが鳴り、技官のアナウンスが入る。
「次は6の台手前の目標に発射します。距離は3000」
 3キロ離れた6番の目標という意味だ。富士の裾野の緩やかな丘に盛土の台が幾つか作られ、その手前に一つ、先程と同じように鋼板が立っていた。
 技官のカウントが始まると歓声に沸く自衛官たちが静まり返る。
 カウントゼロとともに、号砲も無く、また何かが高速で空を裂いた。
 再び金属質の甲高い音がして、盛り土が黒い柱となって吹き上がる。
 拍手と歓声。
 二度にわたり発射された物体はそれぞれ鋼板を貫き、その後ろの盛土を穿ったのだ。
 鋼板の正体は戦場から持ち帰ったツルギスタン儀仗兵の装甲材だった。つまり自衛官たちの喜び様は、彼らがついにあの『首なし鎧』を撃破できる手段を得た事に寄るわけだ。
 過熱する興奮の中、東は待望の撃破できる手段に目をやり、ちょっと顔をしかめた。
 そこにあったのは74式戦車のシャーシの上に、角張ったデザインの砲だけ乗っけた代物だった。はっきり言って自走砲だって今日日、もっとましなデザインをしている。だいたいあれではターレットが無いので砲が旋回できず、車体の向いている方向にしか撃てない事になる。
 つまり完全に足を止め、真正面を予測位置として発射するのが一番安定するという事だ。そして足を止めるという行為は被弾の危険をいや増す。異星の無体なロボット兵器の前に装甲防御が役に立たないのなら、絶えず動き続けて狙われないようにするのが残された僅かな選択肢のはずだのに。
 実際の運用はどう行われるべきか。だが熟慮の時間は無い、来週にはまたツルギスタンが攻めてくる。
 この前のように『獣型』だけなら、ダイガストを先陣にして良い勝負が出来るだろう。しかし『大剣』…ブレーディアンが出てきたらどうか。青森の失落時と同じように、ダイガストはそっちに掛りきりになるだろう。そうなったら『首なし鎧』や『獣型』の相手は自衛隊(うち)が受け持つ事になる。
 あの戦車もどき以外にも敵に通用する武器が必要だ。空自で調達を始めているという新型弾頭ミサイルのように、こっちの対戦車ミサイルもアップデートできないのか。いやあの首なし鎧の前じゃ対戦車兵は上から丸見えだ。弾頭を変えたくらいの携行ミサイルだったら肉薄兵器と変わらないか。
 まとまらない思考をどう連隊長に伝えたものかと悩む東を、背広のひとりが目敏く見つけていた。
 内閣総理大臣 国場道昭である。
「やはり浮かれていない者がいるな」
 総理はダイガストが始めて投入された折、短い会話を交わした臨時の指揮官が彼であった事を知る由も無い。
 国場の斜め後ろに控えた筆頭書記官は、ここまでに突貫で詰め込んだ情報を掘り返して答えた。
「戦車としては使えない代物ですからね、プロの目は誤魔化せないでしょう。車体に至っては解体予定の74式戦車ですし」
「74式電磁投射砲。急造のレールガンを延命措置した退役戦車の車体に乗っけたもの。ずいぶん乱暴だな」
「アメリカさんはM1エイブラムス戦車を、M1A4として電磁投射砲型に変え始めているようですが…」
「EU内で使いまわしているドイツのレオパルド2もだな。大々的な生産ラインを持っているプロジェクトなら戦況に応じて大胆かつ早急な変更もできようが、わが国の戦闘車両は年次調達数が片手で足りるからな…1台づつ台座に乗せてこしらえている状況では、せっかく『地球防衛戦線』からもたらされたレールガンの基本図面も、宝の持ち腐れだよ」
 レールガン…電磁投射砲とは二本の通電したレールの間に、伝導体となる物体を挟み込み、その相互干渉によって物体を押し出す仕組みである。必要になる電力量は言うに及ばず、予期せぬ伝導体のプラズマ化による熱や圧力に耐える構造材が必要である等、実現の上での問題は多かった。
 が、ダイガストを筆頭に、異星より解決策を『移植』する事によって、技術に関わるハードルは見る間に低くなっていった。それに加えてここでも『地球防衛戦線』である。
 彼らによる技術の流布がどれ程広範囲にわたっているのか?これだけでは判然としないが、首相達の言葉から解釈するのなら、各国の装甲戦闘車両は続々と電磁投射砲化を始めていることになる。
「だが、これでは子供だましなのだ。一点豪華主義――豪華ですらないが――でなく、このふざけた宇宙時代に見合うドクトリンの構築と、それに沿った新たな自衛隊の実現…長期不敗の備えが必要なのだ」
 国場は言うは易いが、形にするには難しい問題に閉口した。
 自分を含め、軍事を知る政治家が不在だった。『平和国家』や『憲法九条』という教条は近代国家に不可欠な国際政治学といったマクロな視点での軍事学の成長をも妨げ、国家と国民の存続を希求する思考をただの神学論争に摩り替えていた。
 神学者が政治をすればどうなるか。極端な話、タリバンを見ればその末路が知れるだろう。清教徒革命も示唆に富んでいる。
 軍事費も足りない。『国防費はGDP比1パーセント以内』という枠組みに拘泥し、ソ連のアフガニスタン侵攻にも時宜に合った戦力増強を行えなかったのが戦後日本の国防の現実だ。
 だが、いざとんでもない敵を前に国防費の増額を企図したとて、その出所は赤字国債だった。戦時国債との揶揄や九条信者の罵声をうけつつ、四月末には大幅に水増しされた特例公債法が可決される見通しである。
 マスコミは相も変わらず意図的に借金の部分を強調していたが、これは『政府』の『国民』に対する債務であり、表現としてはセンセーショナルを狙いすぎてイメージだけが先行している。決して『日本国』が『国民』に無断で『諸外国』に対して借金をしている訳では無いのだが、お茶の間で受け売りの情報のみを信じる人々はいつか莫大な借金を誰かが取り立てに来るという妄想に囚われているようだ。
 とどのつまり銀河列強との戦争は、そういった戦後日本という文化が試されているわけだった。
この構図を国民に理解させること。国場道昭にとっての内閣の命題はここにあった。

 平野を流れる木曽川の急なうねりの向こうに市街地が広がっている。その中に唐突に延びる一本の滑走路が航空自衛隊岐阜基地だ。空自で使用する航空機や装備品を開発・試験する飛行開発実験団の拠点でもある。
 いましもその滑走路に1機のF-15が降着装置を出し、速度と高度を下げて着陸シーケンスに入っていた。
 見る者が見ればエンジンの両脇と一体化した膨らみは航空自衛隊の同型にはあるはずの無い機構であり、翼下のパイロンにはミサイルや爆弾と呼ぶには大きく、そして変わった形の機材が吊り下げられている事に気付くだろう。
 翼下の機材はいわゆる偵察ポッドというものであり、軍オタであれば『すわ退役をひかえたF-4の偵察機型に代わるものとして研究が始まっているF-15の偵察機型か』とか夢がひろがりんぐするものだが、実際のところは近くて遠い代物だった。
 それは駐機場の隅でパイプ机の上の計測機械を睨みつけている、総髪を結わずに垂らした四角四面体な顔が何の間違いか白衣の上に乗っている男…まぁつまり日本が胸を張って宇宙に誇れない大江戸多聞博士の存在を見れば、確定的に明らかなのである。
「…いま見せたように、この偵察ポッドと後部座席の情報処理システムでもって戦場全体を把握するのが、このF-15のキモになる」
 博士の解説に、後ろで同じように計測機器を覗き込んでいる鷹介は、素直にへぇと感心した。
富士の裾野くんだりからセスナでもって岐阜まで、この息をする危険物のような男を運んできたのは、ひとえにそのシステム全般に大江戸先進科学研究所の技術――もっと言うのならダイガストの技術が使われているからだ。
 防衛省の技術研究本部からダイガストの索敵方法に関して問い合わせがあったのは、初陣から数えてかなり早い段階からだった。
 技術研究本部――略して技本――との数度の遣り取りの後、F-15への指揮管制能力の付与を打診されたのは青天の霹靂であった。
 銀河列強との限定戦争は戦闘開始位置などという馬鹿正直なものを強要されるうえ、敵情は期日前には数まで公表される有様で、E-767早期警戒管制機のような索敵機の存在価値は著しく低減していた。しかし戦場を俯瞰する目たる管制機としての役目は依然として重要であり、にも関わらず機動力に劣る大型機ではいざ狙われれば生存の確率が低くなる。
 ならば各フライトリーダーにその役目を負わせてはどうか。幸いF-15の偵察機化は従来のF-4の偵察機型の技術をもとに研究を始めていたことだし、その機能をもう少し煮詰めてみれば…とか言っている内にダイガストが初陣を飾り、技本内であのロボットの外部情報の収集・処理方法が役に立つのでは?との意見が出る。
 決してバ○キリーとか夢見てたわけではない。たぶん。
 持参した『とらやの羊羹』が効を奏したのか交渉は円滑に進み、技本はダイガストのメインカメラ機構と一連の情報処理システムのライセンスを得る事に成功する。大盤振る舞いかと言えば、列強のレベルで考えれば所詮は枯れた技術に過ぎないのだが。
 これでバル○リーとか作れるかも、とか夢見たやつはいない。きっと。
 さて肝心の管制能力であるが、飛行隊長やフライトリーダーとて超高速で交錯する空戦で的確な指示を出す事を期待されても困るというもの。実際のところは戦場から一歩退いたところで全体を見渡し、接近しつつある敵機をいち早く見つけ、列機への警戒や場合によっては後方に迫る敵機をカットするくらいが出来れば御の字だろう。
 出来れば一機のレーダーが捉えた敵影を全機が共有し、飛行隊全機が目であり、牙となる状態が好ましいのだが、F-15には未だその機能は無い。
そこで以下のような解決が図られる。
 2機編隊同士で組んだ4機編隊が四つ集まり、そこに飛行隊長と飛行班長が付いて計18機。これが航空自衛隊の従来の飛行隊の定数であるが、この中で4機編隊を指揮するのがフライトリーダーとなる。このフライトリーダー機と飛行隊長・飛行班長機に索敵能力の向上と情報共有能力をあたえ、飛行隊を頭脳と筋肉の最低限二つにまとめ上げる。
 E-767早期警戒管制機の能力を飛行隊内で分散して請け負う形といえばよいか。
 クダクダしくなったが、アニメでは見向きもされないようなプロセスを経て、一つの戦闘単位が完成するのだ。ロボットアニメではおそらく実現されているであろう個々の機体同士の有機的な連携。それは現在においては限られた先進国の、それも新鋭機のみに許された新世代の『強み』なのである。
 これで方向性は定まり、さぁ問題は解決したと言いたい所だが、ところがどっこい話はこれだけでは終われない。次はアップデートの話なのである。
 これまたロボットアニメによくある『○○実験型』等というテスト機であるが、物量チートの異名を持つアメリカじゃあるまいし、特に軍拡競争の世界の中で1人軍縮を強要される日本で、それもこの世界では現在進行形で戦闘で損耗している主力機をどこから充当するのか。
 大体いくら設計に余裕があるのが自慢のF-15でも、突貫で新手の索敵システムと情報処理機能を詰め込むには無理がある。
 結果、復座型の機体の後部座席を潰して処理中枢のコンピューターをねじ込むという力業になった。
 重量増加による燃費の悪化には、F-15の戦闘爆撃機型であるストライク・イーグル――日本は保有していない――を参考に、機体側面と一体型になった燃料増槽…いわゆるコンフォーマルタンクでもって対応する。もちろん燃料増加による更なる燃費と機動性の悪化が懸念されたが、これはもう急造なので目を瞑るより無かった。
 復座型のF-15は新田原の飛行教導隊の機を改造する予定とし、教導隊自体は実戦部隊として新編される。
 飛行教導隊とは空自きっての腕っこき達を集めた空戦訓練の敵役部隊であるが、復座機使用の理由等は今回は割愛としよう。騙し騙しにバルキ○ーとか言い続けても、もうロボットとは直接関係の無い話であるからして。
「まぁしかし、二束三文でダイガストの目と同じものをくれてやるのも業腹だったんでな…」
 大江戸博士は機材の進捗とともに顔パス化が進んで、今や自衛隊員の眼が無い事を良い事に、唐突にとんでもない事を出だした。
「ダイガストとのデータリンクも付けておいた」
「おいぃっ!」
 防衛機密に抵触するだろうことは想像に易く、鷹介はおもわず突っ込まずにはいられない。
「いいだろうが、べつに」大江戸博士、悪びれる素振りも無し。「『たまたま』情報処理の方式が同じだったから混線し易いだけだって。こっちが見てるものも反映されるし、さらに大鳳ともデフォルトでデータリンクしているぞ」
「勝手につなげちゃらめぇとか言いますよ、仕舞いにゃ」
「まぁぶっちゃけ、大鳳のメインコンピューターを介せば脅威度の振り分けをより早く、正確にできるわけだ。それにダイガストにとっても外部からの取得情報が増えるのは有益だろ。ほら、俺によし、お前によし、皆によしだ」
「納得ゆかん…博士、あんたダイガストを介して戦場自体を私物か何かと勘違いしてやいませんか?」
「当たり前だ!戦場一つ把握できずに何が天才か!!」
「言っちゃったよ、この人…」
「だいたい国防や安全保障は本来は敵地攻撃を肯定するものだ。地球に群がるシロアリみたいな連中を相手に守ってるだけじゃ、いつまでも戦争は終わらんではないか!良いか鷹介、俺達はいつか宇宙に討て出るんだぞ、そこんとこをミジンコ並みの脳みそでも理解しとけよ」
「はいはい、博士が『天災』だってのは俺も存じあげていますって。でも流石に航宙艦…いや宇宙船だって準備するのはキツイでしょ。物も、金も、なにより技術も、無い無い尽くしなんですから」
「できるさ」
 大江戸博士は不敵に口元を歪めて青空を見上げた。
「この空は地球のどこにだって続いてる。俺たちは1人じゃない。それを考えている人間もいる」
 そういう約束なのさ。
 博士の笑みが瞬時、淡いものになったが、臭い台詞に若干引いている鷹介が気付く前には、どちらかと言えば邪悪さを想起する類のものに戻っていた。
 鷹介にしてみれば、このおっさんが観念的な事を口にするなんざ悔し紛れのハッタリだろうと、その程度にしか考えていなかった。
 現に大江戸博士は思い出したように話題を変えると、
「ところで鷹介よ、折角だからこの機にダイガストにも追加武装を着けようと思うんだが」
「もう取り敢えず威力は足りてますから、使い勝手の良い頑丈なやつを着けてくださいよ」
「うむ、ギャラクシー・クィジナート社の巨大生物用フードプロセッサーが良い塩梅に安くてだな――」
「スタァァァァップ!まだ信じてる人もいるんだから、そのネタは止めてー!」
 こうして今日も日本はギリギリの独立を守り、鷹介は突っ込みに慣れてゆくのであった。
 めでたし、めでたくもなし。

つづく

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー