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Diver's shell another 『primal Diver's』 第十話

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匿名ユーザー

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 誤解を恐れず言うならば、ミヤタという男は決して正義でも悪でも無いと説明せざるを得ない。
 彼の仕事は何か。
 それは、自らが率いる艦隊で、ドーヴ3というスターシップを護衛する事。ただそれのみである。その為ならば、どんな手段も厭わない。
 たとえそれが、将来、悲劇を産む結果になろうとも、だ。




 Diver's shell another 『primal Diver's』
 第十回:【腐乱】




「遅くなって済まない。海賊対策で忙しくてね」
『気になさらず。連絡を感謝します。ミヤタ提督』
「こちらこそ。貴重な資料をありがとう。ミゲーラ提督」

 秘密の回線だった。
 本来、軍部の通信は厳格な規定の元に定められ、どのチャンネルもすぐにどこの誰か解るようになっている。それでいて、すべてのチャンネルは最重要軍事機密として公開されていない。
 その情報が漏れれば、それはシギントによってあらゆる行動が筒抜けになる可能性を秘めている。つまり、危機的状況を招く。
 それ故に、チャンネル情報はもっとも重要な機密事項なのだ。

 そしてミヤタが今使っている回線は、さらに秘密の回線だ。
 軍部でも一部。政府首脳陣でもほんの一握り。実質的な政治的決定権を持つ議会のメンバーでも、その回線を知る者は殆ど居ない。

「やはり例のガードロボは相当な代物のようだ」
『そうですか。送り込んだ工作員は大丈夫なのですか?』
「つい先程まで、海底での行動は監視していた。例の遺跡に侵入した所で、残念ながら追跡不可能に……」
『わかりました』

 電話の相手、ドーヴ1艦隊提督、クリストファー・ミゲーラは、抑揚の無い声で言った。

『例の宝石の威力は想像を超えます。非常に危険で、今の人類では扱い切れない物ですが、研究が進めば必ず人類の役に立つ』
「分かっている。おそらくあのガードロボはそれを動力にしているはずだ。海賊程度では相手にならなかった。一個艦隊を超える程の攻撃力は予想しておいたほうがいいだろう」
『妥当だと思います。我々が発見した小さな宝石だけで、核出力は戦略核兵器に匹敵します。ただの核融合炉ではない。重い物質を融合させている上に、出力を高める工夫がしてある』


「それが設計段階で、それも戦闘を目的としたロボットに搭載されていたら……」
『戦争になったら、人類は最悪あの一体に絶滅に追い込まれる。数千年単位で活動し、おまけに対抗手段が無い』
「攻撃手段さえあればな……」
『その為の工作員でしょう? 彼女が例の宝石を持ち帰れば、さらにサンプルが増える。つまり、兵器転用分の余裕が出来る』
「完成しそうなのか?」
『……臨界実験は成功しました。約五グラムで、0.05キロトンの爆発を起こしました。核爆弾への転用は、時間の問題です』
「宝石同士を衝突させたのだな。お互いのエネルギーが干渉しあって、抑制が効かなくなる」
『ガンバレル方式で十分な衝突を起こせました。対ガードロボ用としては、多段階式の設計を構想しています』
「どんな物だ?」
『弾頭を二つに分けます。最初の爆発干渉で、ガードロボの装甲を無力化する。そして、今度はこっちのバリアに守られた衝突体が、ガードロボの宝石を貫く』
「宝石で宝石を狙い撃つ訳か」
『爆発半径は想像を絶するでしょう。地表でも、陸地とははるか離れた場所でなければ使用は出来ない』
「推定破壊力は?」
『衝突体だけで約百メガトンから、三百メガトン以上。ネオアースに大穴が出来る』
「人類史上最大の火力だな」
『これは最低数値です。宝石の反応効率は異常なので、もっと威力が出てもおかしくはない』

 ミゲーラは淡々と説明した。抑揚のない、まるでロボットのような声。
 それは彼の感情が希薄のが理由ではない。むしろ、己の役目をよく理解し、その為には、いつ、いかなる時でも冷静に行動出来るよう、常に自分を戒めているからだ。
 彼もミヤタ同様、熱い思いは胸に秘めている。
 人類生存を何よりも優先する事だ。

「そういえば、宝石をガードしていたロボット、あれの情報はもっと無いのか?」
『ありません。遭遇した隊員の殆どが死亡してしまったので……。姿形くらいしか解りませんし、それもギリギリで撤退した兵士の証言のみです。信憑性は……』

 宝石をガードする「本当のガードロボ」
 ミゲーラはそれを他とは一線を画する特別な物として、スーパーガードロボと呼んでいた。コードネームは、「ピュア」

 目撃証言をまとめた物には、それは非常に鋭角なフォルムを持ち、人型のモデルをしていると書かれている。
 両腕はナイフのように尖り、両足はその機体を支えるには余りに貧弱に見える程に細く、そして鋭い。
 全長は目算で約五メートルから七メートル。
 全体が紫から赤に近い、血管のような模様で覆われていた。

『信憑性こそ無いですが、貴重な目撃証言ではあります。それに、観測された事実はさらに厄介だ』

 ピュアには弾薬は一切通用しなかった。
 少なくとも、個人で携行出来る火力では相手にならない。
 大口径の機関砲でもあれば対抗出来るかも知れないが、確証は無い。

『戦車と戦うと思ってもまだ足りないでしょう。事実、成形炸薬弾でも効果は無かった』
「頑丈なだけか?」
『攻撃手段はシンプルです。その両腕で隊員達を斬り殺していった』
「なるほど……」
『送り込んだ工作員が宝石を手に入れるとしたら、遭遇する確率は高いでしょう。それに、ピュアが護る物は宝石だけとは限らない』
「遺跡の、奥の奥か……」
『宝石は終着点では無い。まだまだ、秘密はあるはずです』
「同感だ」
『我々は、それを暴かねばならない。責任がある』

 ミゲーラは責任と言った。それはつまり、支配者としての責任だ。
 直接的に人類を率いている訳ではないが、立場はその区分である。人類を護り、導かねばならない。
 ミヤタも同様だった。そして、そう思う者はまだまだ他にも居る。
 彼等が結成した秘密の集団は、あくまで人類の生存を考え、未来を誰よりも憂慮している。
 たとえ将来、誰かの悲劇の引き金になろうとも、だ。




※ ※ ※




 驚く事に、その道は単純な一本道であった。複雑な迷路を想像していたので逆に困惑した程だった。
 内部は整然とした構造であり、迷いにくいように、速やかに内部を移動出来るよう配慮がなされている。

「単純だけど、無駄も一切ない造りね」
「楽でいーじゃん」

 フランとマーレは、先程発見し、唐突に起動した謎のインターフェイスロボット、マーレが呼ぶ所のガイドロボに先導され、遺跡内部の探索を開始していた。

 ガイドロボはすらすらと音も無く移動し、その速度は二人の歩行に合わせた速度だった。
 度々立ち止まっては、二人の様子を伺うようにして、くるりと振り返る。

「急かしてるの?」

 フランが言うと、それは頭部をチカチカ光らせて、左右へ小刻みに揺れる。だだをこねる子供のような仕種だ。

「なんだろ。すごいかわいい……」
「本能的にそう思わせる動作ね。……これは凄いわよ」
「何が凄いのよ。単純にかわいいでいいじゃない」
「あのね。その『かわいい』がすんごい重要なの」
「何がどう重要だってのさ」
「猫とか好き?」
「は?」
「子猫や子犬、勿論、人間の子供もそう。大人でも、目がぱっちりした童顔の顔はかわいいと評される。それは本能からくる自然な感情よね」
「だから、何が言いたいのよ。あんた回りくどいのよ」
「順を追って説明してるのよ。つまり、子供や、それに似た造りの物や仕種をする物。懐いてきた猫とかね。そういうのは、本能的に人間は『かわいい』と思うようになってるの」
「それで?」
「それは種の生存本能なの。子供はかわいい。だから、守らなくちゃならない。大切な子孫をね。
 子供からすれば、かわいければ大人が守ってくれる。そういう関係になる。
 結果として、大人は子供を守り、育て、一人前になると一人立ちする。つまり、愛情という本能よ」
「へぇ」
「重要なのはここから。ガイドロボを見て、フランは『かわいい』と思った。でも、製造したのは明らかに非人類。
 おかしいと思わない? なんで人間じゃないのに、人間がかわいいと思ってしまうロボットを造ったか?」
「さぁ? そのエイリアン達も私達とおんなじ姿形なんじゃないの? 知らないけど」
「正解なのよそれ」
「……は?」
「明らかにエイリアンによってここは造られた。あのガードロボ達も、そこのガイドロボも。
 きっと彼等は、私達と同じか、非常に近い姿をしていた」
「おかしくない? 偶然だとしても出来すぎじゃ……」


「出来すぎなんかじゃないの。偶然でもない。これは必然よ。
 恐らく、他の星に発生した知的生命体も、私達や彼等と同じ姿に進化していくはず」
「なんで?」
「進化なのよ。生命発生はこの宇宙で同時多発した。生命の進化は何者かによってコントロールされている可能性があるって、前言ったの覚えてる?」
「……何となく」
「あら、聞き流されてたのね。お姉さん悲しい。
 ま、いいわ。
 その何者かが、知的生命体の進化は、私達人類や、遺跡を残した彼等と似た姿や思考を持つよう方向を定めた。
 私達人類は母星を離れ、宇宙へ進出した。もしその時に、姿形がそっくりな異星人と出会ったらどうする?」
「多分、ビビる」
「真面目に聞きなさいよ。まぁビビるのも無理ないけど。妄想でもいいから、いろいろ言ってみて」
「え? あ……挨拶する」
「それもあるわ」
「お話する」
「当然よね」
「色んな事を教え合う」
「それ楽しいわ」
「あとは……えーっと……」
「あんまり難しく考え無くていいのよ。簡単な事なんだから」
「あんたはどうなのよ。何が起きると思うの?」
「恋をする」
「はぁ?」
「異星の恋人。そうなればどうなる? 二人は愛し合う。姿形が同じで、思考も似てる。当然、愛し合った末にはセックスだってする」
「いきなり変な話しないでよ!」
「大まじめな話よ。人間同士でも普通の事でしょ? じゃあ問題。何の為にセックスするのか?」
「それは……その……」
「別に気持ちいいからとか、パートナーを愛しているからでも正解よ。むしろその為にする。でも、それは目的ではなく理由でもないの。
 答は一つ。子孫を残す為にセックスをする」
「愛もへったくれも無いじゃん……」
「それは後付けの理由。愛するパートナーと子孫を残したい。そう思うようにプログラムされているの。ほぼ全ての生命はね。最終的な目的は、子供を作る事。種の生存のために」
「そうですか」
「真面目な話よ? で、最初に戻るけど、人間が異星人と愛し合い、セックスをして、子供が生まれたとする。じゃ、その子供は何者?」
「ハーフじゃない」
「そう。でも、それ以上の意味もある。確実にそのハーフは増えて行く。人類と異星人も発展し、やがてさらなる出会いだって起こり得る」
「つまり?」


「だからさ、人間と異星人との間に起きた事が、また別の種族の間でも起きる。ハーフ同士でもね」
「はっきり言いなさいよ。結局なにが言いたいの?」
「進化よ。人類という枠を超えた、宇宙規模での生命の進化。行き着く先は予想も付かないけど、十分起こり得る。いいえ。起きないと私達の血脈は途絶えるかもしれない」
「でもそれ想像でしょ? 実際に起きるとは……」
「わからないわ。でも、フランの『かわいい』って感情はその可能性を示したの」

 二人はいつの間にか立ち止まっていた。話し込む二人に気づき、「かわいい」ガイドロボは音も無くフランのすぐ横まで。

「見てフラン。偶然でそのロボットが造られたとは思えない。明らかに狙って『かわいく』造られた。
 種の生存本能の根底にある感情は、私達も彼等も同じなの」





※ ※ ※





「ご高説どうも」
「どういたしまして」

 マーレのぶち上げた説は、フランには少々ぶっ飛び過ぎた内容に思えていた。実際、普通の人の反応はその程度だろう事はマーレも十分心得ている。
 二人を急かすような仕種のガイドロボに導かれ、二人はまた歩き出した。

「あんたいつもそんな事ばかり考えてるの?」
「ロマンに満ちた女なのよ」
「なんだかなぁ。変な話、事の最中でもそんな事考えてそう」
「そりゃ認めるけどさ。でも純粋に燃え上がった事だって一度や二度じゃねーぜ?」

 ついついお喋りに興じ始める。歩きながらでも一度そうなれば止まらない。
 緊張感溢れるはずの遺跡探索ではあったが、ただの一本道な上にガイド付き。おまけにその緩い挙動は空気まで緩くしてしまった。
 ちなみに女性とはコミュニティを構築しようとする本能が男性よりも強いという。そのもっとも有用な手段として、お喋りを利用した。
 女性のお喋り好きは進化の過程でそうなったのだ。例外はあれど、だいたいはそう遺伝子に刻まれている。

「だいたいあんた、普段からずっとこの調子なの?」
「そりゃちゃんと仕事する時はちゃんとやるわよ」


「ウソくさいなぁ。あんた結構いい年だろ?」
「地球の暦で行けば……。二十八?」
「数えてんの? 暇人じゃん!」
「勘違いすんじゃねーよ。地球の暦計算したら自然に解っただけの話でしょ」
「なんかサシャの苦労人っぷりが目に浮かぶな」
「アイツ? 若いのに対したモンだぜ。私の我が儘にとことん付き合ってもへこたれないタフガイね」
「我が儘なのは自覚してるんだ」
「海賊は自己チューくらいが丁度いいんです。そういうフランは、普段何してんのさ?」
「え……?」
「だからさ。軍役でも休みくらいあるでしょ。そういう時は何してんの?」
「それは……」
「うん? 悪い事でもしてんのか?」
「その……趣味に没頭してると言いますか……」
「へぇ。その趣味ってなに?」
「ちょっと言いづらいんだけど……」
「何が? おかしな事してるの? 一人でお人形遊びとかなら笑うどころか哀しいけど……」
「違うわよ!」
「じゃあ何?」
「えっと……その……。読書を少々……」
「読書? あら意外。でも別に隠す事でもないじゃない」
「そうなんだけど……」
「何読んでるの?」
「! それは……!」
「なんだなんだ。漫画でも官能小説でも驚かないわよ。私もたまにエロいの読むし」
「だ……だよね。みんな一度や二度は目を通した事くらいは……」
「で、何を好んで読んでるの?」

 フランは俯いていた。口をもごもごさせて、言いたいけど言えない。そんな感じで居た。
 マーレはきょとんと見ていただけで気付かなかったが、この時、フランの顔は真っ赤っか。過去の経験から、この告白をすれば相手がどうリアクションするかは想像がついていた。
 しかしながら、人におおっぴらに言えぬ事だからこそ、理解者が欲しいのは人の性か。

「笑わない?」
「何よ。まさか絵本とか読んでるの? ぶっちゃけ悪くない趣味だぜ」
「いや……むしろ反対方向というか……」
「どうしたどうした? さっと言っちゃえばいいじゃん」
「……うん。解った。勇気を出して言う」
「よし。何を読んでいる?」


「ビ……」
「び?」
「つまりその……」
「声ちっちゃいな。いつものツッコミくらいの声で言ってよ」
「B……L……系」
「ほう。BL本。やおい系ね。……何?」
「そ……そーだよ! そっち系だよ! ああ、言っちゃった!」
「あんた腐女子なのね?」
「ああそーだよ!」
「フランは腐ってた? レズビアンでBL好きってこれまたなんて狙い澄ました趣味なの……?
 な……なんて事! フランは腐ってた!? 腐女子なのね!? 腐ランね!? 腐ランなのね!?」
「そーだよ! だから言いたくなかったの! なんだよチクショー! みんなして腐乱とか呼びやがって! どいつもこいつもおんなじ事ばっかり言いやがって!」
「落ち着きなさいよ腐ラン」
「うっせーよバカ! 名前の字が違うだろ! 漢字取れ!」
「フラン腐乱?」
「んだよチクショー! いつもこうだよ! なんで皆で虐めるのよ!」
「これはイジらない訳には行かないもの」
「ああやっぱり黙っときゃ良かった!」

 なぜ彼女達が腐女子だなんだの日本語を知っているのかというツッコミをする者はすべからく抹殺されるべきだと言っておこう。
 問題はそこには無い。

「フランてなんか凄いわね」
「何がよ!」
「なんかこう……ベクトルが安定してるっていうか……」
「お互い様だろ!」
「そんな怒んないでよ。なんなら紹介してあげようか?」
「紹介? 何を言ってんのよ」
「いや、多いんだぜ海の男には。基本的に野郎ばっかりの世界だし」

 何が多いのかは察していただく。
 顔が広いマーレにはそういう知り合いもたくさん居るのだ。行き詰まった渇望の果てに新たなステージに立った男が結構居るらしい。しかもなぜか美形が多いとの事。

「なにそのエルドラド……!」

 世間話というより下世話な会話。ここが何処かはすっかり忘れられていた。先導するガイドロボが立ち止まっているのに気付いたのは、ぶつかる直前になってから。
 それはつまり、何かしらの目的地に到達したという事でもある。




続く――





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