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七話:【無価値な者共 2】

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集
 時刻は午後四時半
 暴力が過ぎ去った後。室内はひどい有様となっている。あらゆる物がずたずたに傷付けられ、それを行った者達も破壊され寝転がっている。
 悪意を込められ送り出された者達は、ほとんどが無惨にも目的を果たせずに散った。ただ一人を除いては。




 七話:【無価値な者共 ②】



「スレッジ!」

 ヘンヨは叫んだ。玄関のドアを蹴破り、勢いよく中へ侵入していく。
 そこら中に付けられた弾痕と飛び散ったパーツが見える。それは激しい戦闘があった事を教えてくれた。足元に転がるバラバラになった襲撃者と思われるアンドロイドが歩行を邪魔する。

 それを乗り越えてリビングまで到達し、また叫んだ。スレッジ! KK! ……アリサ……!!
 そしてリビングでは衝撃的な光景が待ち受けていた。
 それは、左肩から下が消滅したボディで天井のパイプにブラブラぶら下がっているKKだった。

「気持ち悪ッ!」
『開口一番でそれ?』
 実際気持ち悪かった。KKはブラブラしていたのを止めて、真下のテーブルの上にぼとっと落下する。

『ごめんなさいねぇ。頑張ったけど負けちゃった』
「それはいい。アリサとスレッジは?」
『ビーンならなんとかソファまで起き上がって行ったけど、また失神しちゃった。まぁでも大丈夫よ。ビーンだから』
「アリサを連れ去った連中は?」
『わかんないわ。この身体じゃ追い掛けようもないし。まぁ強かったわ』

 ボロボロのKKのボディは機能停止寸前だった。
 徹底的な違法改造を繰り返したKKをして強かったと言わせるほどとなると警戒せざるを得ない。しかし、ヘンヨはそれを探し出さなくてはならない。
 アリサはそこに居るはずだから。

『ちょっと首外してくれない?』
 KKが言った。レストア時に利用する代替ボディに換装してくれと言っている。
 言われた通りに首を外し、五十センチ程の大きさの蜘蛛のような物にそれを差し込む。かちゃかちゃと動くそれに生首が乗っかったそれも中々に気持ちが悪い。
 とにかく、限度はあるがKKはこれでようやく自由に動けるようになった。


「映像はあるか?」
『もちろん。モニターに繋いでくれれば見れるわよ。監視カメラの映像も一緒に録画してるわ』
「よし……」
 ヘンヨはテレビの前に移動した。コードをKKの後頭部にあるプラグに繋ぎ、テレビにもそれを繋ぐ。

「よくこんな機能を考えたモンだな……」
『これはありがちだけどね。なんだかんだでビーンって天才だし』
「……そうだな」
 KKの目と監視カメラが録画した映像の時間がテレビに表示されていく。

「襲撃された時間は?」
『二時半くらいだったかしら。よく覚えてないけど』
「そうか。じゃあその少し前から再生してくれ」
『分かったわ』
 テレビの画面が一瞬暗転する。そしてヘンヨが居ない間に何があったのかを映し出した。

 最初に見えたのは、なぜか涙目のスレッジの姿だった――




※ ※ ※


「うわぁあああああん! 人を見た目だけで判断しやがってぇぇえええ!」
『見た目そのものが問題なのよビーン?』

 やけ食いしながらスレッジが愚痴っていた。それをKKが宥めているが、それもかなり適当な物言いだ。
 電話でヘンヨが一言多いのはいつもの事だったが、今回は原因となっているアリサという爆弾が家にいる。あからさまに距離をとられてスレッジは自分の人間性に自分で疑問を抱くほどダメージを負っていた。
 とはいえ、切り替えが早いタイプなので誰も気にしていないのがなんともツラい所。

『調べ物あったんじゃなかったの?』
「グス……。ほとんど終わったよ。やっぱり事故は何にも無いね。あとはアリサの回復過程のカルテだけど……。
 キースの野郎、いくら金積んだのか知らねぇけど入院してた病院のカルテがまったく見れない。ハッキングしようにもプロテクトが頑丈すぎる。……グス」

 テーブルのドーナツがみるみる減って行く。これが見た目を崩す原因そのものなのだが、当のスレッジには自重する気配はない。仲介というストレスが貯まりやすい業種なので食べずには居られないのだ。
 もし依頼人と請負人との間でトラブルが起きれば、仕事内容の性質上一発で胃に穴が空くほどのストレスになる事が多い。
 それをヘンヨが解決していく事が多かった。その姿を目の当たりにしているヘンヨには「食うのを辞めろ」という一言だけはどうにも言えずにいたのだ。


「と、いう訳でKK、頼んだぞ」
『何を?』
「聞き出すんだよ。アリサ本人から。今考えりゃ直接聞いて来ればいいだけだ。だいたいの事は解るだろ」
『ああ~。だから私ね。ビーンが行ったら叫び声上げられて物投げられるのがオチだものね』
「うるせぇよ! うわぁああああん!!」
 またテーブルの上のドーナツが減る。先程よりも速い。

『じゃ、行ってくるけど、いつ退院したとかそんなんでいいの?』
「グス……。うん? ああ。出来れば病院の中の事とかもな」
『分かったわ。じゃ、待っててね』
 KKはテーブルから離れる。そして、アリサが篭っている部屋へ。
 スレッジが自室のパソコンに向かっている間、たまに出て来てキッチンを利用したりリビングでテレビを見ていたりしたが、スレッジがリビングに来ると同時に素早く引きこもってしまったのだ。
 おかげでスレッジはヘンヨが出てからアリサの姿をまったく見ていない。
 KKには心を開いているのか、ドアをノックすると簡単に出て来た。寝ぼけ眼だった。昼寝をしていたようだった。
 話があると言うと生返事を返しながら大きくドアを開けて、KKを中へと通してくれた。

「……眠い」
『さっきお昼食べたわよね? すぐ寝ると太るわよ。ビーンみたいに……』
「……意地でも太らない」
  寝起き故か反応が鈍い。昨日失神させられてからを考えると結構な時間寝ている。よく寝る娘だとKKは思ったが、今考えれば寝るか食うかテレビを見るくらいしかやる事は無い。
 きっと暇を持て余しているだろう。質問ついでにお喋り相手にでもなってやろうと考えた。

 お互いベッドへ腰を降ろして、『あんまり思い出したくないかもしれないけど』と前置きしてから話し出す。入院中の記憶と、いつ退院したのかという事を。ついでに事故前の事も聞き出そうと思っていた。
 が、意外なほど簡単にそれは失敗してしまった。

『覚えてない?』
「うん」
『全然?』
「うん。多分、意識が無い内におじいちゃんが家に連れてったんだと思う。もう意識が戻らないかもって言われてたらしいから……」


『じゃあ目が覚めた時は……』
「そこもよく覚えてないんだけど……。とりあえず事故の直後は覚えてない事が多くって。気が付いたら普通に生活してたし。
 お父さんとお母さんは居なくなっちゃったけど……」
『そう。……ごめんなさいね。つらい事聞いちゃって』
「いいよ別に。四年も前の事だもん。生きてる限りは付き纏う事だし」

 アリサは一旦言葉を切る。父と母の事は悲しげに語ったが、それ以外は割と淡々と言っていた。少なくとも、アリサは「四年も前だ」と割り切っている。肝心の所は結局聞けず終いだった。

「あ、そうだ」
 突然、アリサが何かを思い出したように目を見開いてKKの方を見る。何か思い出したのかと淡い期待を抱いたが、全く別の事をアリサは思い出したようだ。

「ヘンヨってさ、前にどんな事してたの?」
『ヘンヨが? 本人に聞いたほうがいいんじゃない?』
「聞いてたんだけど……。途中で邪魔されちゃったから」
『あらそうなの。……。ん~、でもねぇ。言ったら怒られちゃうかも』
「でも別に隠すつもりもなさそうだったし。いいんんじゃない?」
『いいかしら?』
「いいって」
『じゃ、いいか』

 ほとんど考え無しだった。実際に具体的な事以外は隠している訳でもないので別にいいやという判断だった。スレッジとKKはまだヘンヨが前の仕事をしている時期に出会っている。なのでどんな仕事だったかはよく知っていた。
 そして、それこそアリサが聞きそびれた事。一般人では無い事は解り切っていたが、やはりちゃんと聞いておきたかった。

『最初にあった時は今みたいな感じじゃなかったのよねぇ。とにかくガンコでキレ易くて将校カットの髪型で。
 ホント融通が効かない人だったわ。ビーンも大変だったでしょうね』
「それってどういう仕事なの?」
『うすうす分かってるとは思うけど、バリバリ叩き上げの兵隊さんよ。私達と出会った時はおかしな部隊に居たけど。海外を行ったり来たりして、たまにこっち来ては変な注文して行ったわ』
「注文?」
『ミサイル用意してくれとか、国外の協力者を斡旋しろとか』


「ミサイルなんて買えるの!?」
『買えるわよ。スポンサーが国だったんだもの。いくらでもお金持ってたわ。今はすっかりドケチだけどね』
「でも……。軍隊に居たなら、わざわざ買わなくても……」
『そこなのよね。いつも外国製のばっかり買っていたわ。きっと軍が用意出来なかった物、自国の武器を使えないって場合にこっちに来てたのね』
「?? 一体ヘンヨは何してたの?」
『それはね、ほとんど海外で、時には同盟国相手にでも――』

 そこまで言ってKKの動きが止まった。いきなりピクリとも動かなくなってしまったのだ。
 何事かと静観していたアリサを尻目に、今度は突然立ち上がる。そして……
『ビーン!!』

 叫んだ。その声は内線にアクセスされ、自動でリビングに居るスレッジにも届く。そしてスレッジからも返答が届く。

《分かってる。誰かがレーザー探知に引っ掛かりやがった。侵入者だ。アリサを連れて来い》
『分かったわ。お客さんは七名よ。準備はいい?』
《まさか。お前が頼りだぞ》
『仕方ないわね』

 KKはアリサの手をとる。
『せっかくのお喋りだけど中断ね。接客しなくちゃ』
 そう言って部屋の扉を開ける。アリサは訳も解らずについて行った。ここしばらくこんな事ばかりなので少し慣れてしまっていた。

「また敵!?」
『そうみたいねぇ。外のセンサーに思い切り引っ掛かっちゃって。マヌケな連中ね』
 KKは軽い口調の割には急ぎ足だった。ヘンヨのような余裕はない。そのヘンヨの前職については結局また聞きそびれてしまった。

 リビングに入るとヘンヨの銃より巨大なリボルバーで武装したスレッジが居た。強烈な威力を誇る大口径のモンスターハンドガンだ。
 無意識にしかめ面をしたアリサ。一方のスレッジには余裕の色は無い。緊急事態だとわかる。

『お客さんは入口まで来たわ』
「分かった。……銃なんて久しぶりだよ全く……」

 ハンマーを起こしながらスレッジは言う。巨大なシリンダーが回転する。
「俺達は地下に逃げるぞ。敵は?」
『監視カメラはツブしながら来てる。センサーの反応はさっきまであったけど……』
「バレたか」


 スレッジはアリサを見て目線で合図する。無言で地下へ行けと行っていた。大人しくそれに従うが……。
「KK、足止め頼むぞ。お前ならまず負けないだろ」

 即座にアリサが反論する。
「……ちょっと待って! じゃあ私スレッジと一緒に!?」
『我が儘言ってる場合じゃないわよアリサちゃん』

 思い切り嫌な顔をするアリサ。スレッジがまた涙目になる。
 それを無視して、今度はドアが破られる音。無理矢理にカギを破壊したらしい。そして、複数の足音が聞こえて来る。
 それを聞いたスレッジは有無を言わさずアリサの手を掴んで地下の部屋へと走る。そこに立て篭もればしばらくは耐えられるはずだったからだ。
「頼むぞKK!!」
『任せなさい』

 そして、侵入者が遂にリビングまで侵入してくる。最初に現れた三体のアンドロイドには何となく見覚えがあった。バイクに乗って襲撃してきたのと同じ機種の連中だ。
 そのアンドロイドはKKを確認すると瞬時に発砲する。ところが……。

『なんだと……?』
『……あーあ。皮膚に穴開いちゃった。張替えるのお金かかるのよ?』
 KKは仁王立ちしたまま平然としている。バイオ表皮の下に隠された防弾層が銃弾のエネルギーを見事に吸収してしまっている。

『弁償は要らないわよ。代わりにボコボコにしてやるけど……』
 言い切ると同時に、KKは文字通りに飛び掛かる。アンドロイドの一体の頭部を掴み、そのまま膝蹴りを見舞う。顔面が破壊されアンドロイドは膝を付く。
 膝のバイオ表皮が破れてしまったが気にする事なく、今度は身体を地面近くまで低くし、水面蹴りを繰り出す。それを受けたもう一人の敵は転倒し、天井を拝む。
 直後に首に貫手が放たれる。それによって無造作に首を切断された。
 それを見ていた残る一人は一瞬で行われたそれに対応仕切れずに立ったままだった。ようやく反応し始めた頃、KKの手が自分の頭部を掴んでるのに気付く。反応速度にはケタ違いの性能差があった。
 そして、強烈な放電と共に全身からスパークを起こして倒れていった。KKに仕込まれたスタンガンの威力は電子機器を焼き切る程に強烈だった。


『なによ、弱っちい連中ね。これじゃヘンヨには百年経っても勝てないわよ』
 横たわる三体の敵を見下ろしながら言う。そして、残る敵の内三体がさらに向こうから銃を構えている。KKは身構え、さらなる攻撃に備える。ところが、予想外な事態がさらに起こる。

 敵の頭部が一つ落下したのだ。
 ごとりと音を立てて転がるそれは、KKはもちろん敵のアンドロイドの動きすら止める。何が起きているのかは解らなかった。

『……役立たずめ。いきなり発砲してどうするんです? 聞き出す事もあるでしょう』
『??! お前……一体何を!?』
『見て解りませんか? 役に立たない道具はスクラップです。どうせお前達じゃあれには勝てません』
 首を落とされた一体と、残る二体の背後に立つそれは淡々と言う。いつの間にか現れたそれは躊躇なく残る二体への攻撃を開始した。そしてそれは、たった二回で終わった。
 ただ単に拳を突き出しただけだ。それだけで、機械のパーツが派手に飛び散って行く。KKよりも遥かに威力があるパンチ。
 それは黒いコートで身体を隠してはいたが、隙間から除くそれのおかげで他のアンドロイドとは違う物だと解る。独特の黄金色のボディを持ったアンドロイドはつかつかとKKへと歩み寄り、仁王立ちしたKKと相対する。

『……。随分と酷いんじゃない? 味方でしょ?』
『いいえ? こんな役立たずはあっても無くても同じです。ここを捜すだけに使っていただけですから。
 見つけた以上は用無しです。まぁ多少は期待をしましたが……。やはり役立たずは役立たずでしたね』
『ふーん。目的は?』
『アリサを渡して貰います。二つとも』
『二つ? どういう事?』
『……口を滑らせてしまったようですね。まぁいいでしょう。先程アリサの声を確認しました。何処に行きましたか?』
『私をやっつけたら教えてあげるわ。どっちにしろ隠したって家中捜すでしょ?』
『もうひとつの方はどこですか?』
『それは知らないわね。というより何の事なのそれって?』
『キース様が送り付けたはずです。アリサと、「アリサ」を収めたメモリーを』
『メモリー? もうひとつのアリサって――』


 刹那、KKの腹部に衝撃。CPUが運動エネルギーで攻撃されたと判断し、それの対処を始めようとした。KKの視界は瞬時に流れ、再び安定した映像を捉えた時は壁に減り込んでいた。
 攻撃を行ったと見られるアンドロイドは先程の位置から少しだけ前進していた。右の縦拳を放った体勢で。

『……あらら。随分速いわね』
 壁に減り込んだ身体を引きずりだし、反撃を試みようと体制を整える。
 しかし、反撃へと転ずる前に追撃される。今度は体当たりだった。
 再び壁に打ち付けられ、身体のパーツからの信号が次々と切断されていく。肩から下のボディは大半が破壊された。
 ただの体当たりではあったが、巨大な塊が高速で突進した威力は銃弾よりも大きな威力を見せた。銃弾の様に貫通するような攻撃ではないが、プレス機のようにKKのボディを押し潰す。

『まぁ。これは凄いわね……』
『先程言いましたね? やっつけたら居場所を教えると』

 ガラガラと崩れて行くKKのボディ。それを見下す黄金色のアンドロイド。
 KKの選択肢は一つだった。逆らったところで無意味だと悟っていた。それにKK達にはまだ、切り札がある。

『……アリサちゃんなら地下よ。傷付けちゃダメよ? 女の子なんだから』
『もうひとつは?』
『それはよく解らないけど……。メモリーならヘンヨが持って行ったわ』
『解りました』

 頭部と左腕だけになったKKに既に興味が無くなったのか、それだけ聞いて襲撃者のアンドロイドは地下室へ降りる階段へと向かう。

『ちょっと』
 KKはそれを呼び止める。
『……何ですか?』
『あなたが何者か知らないけど、ヘンヨには勝てないわよ』
『どういう意味です?』
『イレギュラーな人間って事よ。私達は所詮は作った人次第だけど、人間はそうじゃない。ヘンヨみたいなお化けが平気で紛れ込んじゃう。
 もしヘンヨの造り手が居たとしたら、正直何考えてんだって感じね』
『それが何か?』
『だから言ったでしょ? 絶対勝てないから。核爆弾でもあれば別だろうけど』
『……戯れ事です』

 それだけ言って、地下に降りて行った。


 地下では既にスレッジとアリサが立て篭もっていた。
 秘密の地下施設の入口は金庫のようなドアで塞がれていた。僅かな振動が、上の階での激しい戦闘を伝えてくる。

「KK、大丈夫かな……」
「問題無いって。はっきりいってやり過ぎなくらい改造したんだ。負ける事なんてない」
 スレッジが言う言葉はアリサを安心させる為では無く自分へ向けた物だった。それほどの自信作だったのだ。
 それが敗れたとはまだ知らなかった。ドアを破ろうとする音がするまでは。

「!! ちょっとスレッジ! 何か来たけど……」
「ウソだろおい!?」
 ドアは重厚に閉ざされている。破れるはずがない。そのはずだった。ところが、ドアは少しずつ、しかし確実に変形していく。
 ドアが少しずつ赤く変色していくのだ。鋼鉄で守られたそれを熱で破ろうとしている。それを短時間で行うには途方も無い高熱が必要になるはずなのだが。

「マジかよ……。とんでもない化け物だな」
「どうなるの……?」
「下がってろ」

 スレッジはリボルバーを構える。ドアはみるみる赤くなり、その強度を落として行く。そして衝撃。大きくねじ曲がるドアのストッパー。
 二度目の衝撃。皹が入る。ドアの一部が脱落する。

「来るわよ! 来ちゃうわよ!?」
「いいから下がってろ!」
 三度目の衝撃。遂にドアは破られる。ただの重いドアと化したそれはゆっくり開いて行く。うっすら見えてきた敵の姿はドアから放たれる輻射によって蜃気楼の様に歪んで見えた。
 そしてそれが一歩踏み入った時、スレッジのリボルバーが火を噴く。

『!?』
 敵の姿が大きく後方へ吹き飛んて行く。大口径の銃弾はそのエネルギーを敵へと伝え、後ろへと吹き飛ばした。しかしそれは、貫通には至らなかったという事でもある。
 さらに発射する。吹き飛んで寝そべるそれは一発ごとに身体を震えさせ、一時の優位をスレッジに感じさせた。しかし、五発目の発射と同時にそれも終わる。弾切れだ。

「畜生……!」
「どうするのよ……?」
「考えてるよ! 何とか脱出しなきゃ――」

 言葉が途切れた。銃撃を受けていたはずのボディを起こし、それは瞬時にスレッジの意識を絶つ程度の打撃を繰り出していた。


 殺す必要すら無い。そう判断した結果だった。また、それはスレッジに興味も無かった。
 倒れるスレッジを見て、叫び声すら上げられずに立ち尽くすアリサ。身を守る武器さえ持たないアリサはただそれしか出来ない。

『アリサ、探しましたよ。やはりあの時に捕まえておけば楽だったのですが、余計な嫌疑をかけられる訳には行かなかった』
「え?」
『行きましょう。あなたを待っている人が居ます。キース様の事も少しお話するおつもりです』
「私を待っている……? あなた一体……誰なの?」
『あの探偵が持っているメモリーもそのうち回収します。まずはあなたです』「あなたは何!?」

 襲撃してきたその敵はコートを脱ぎすて、隠されたボディをさらけ出す。被った目だし帽をも取り去り、正体をアリサへと見せ付けた。

「そんな……」
『余計な時間をかけたくありません。申し訳ないですが、寝てて貰います』
 それはアリサの首を掴む。そのまま少し力を込めると、アリサはがくっと意識を失った。柔道で言う所の「落とす」と言われる物だ。それを片手で行った。
 そして、アリサを抱え上げ出て行く様子が室内の監視カメラに記録されていく。後に残ったのは、それの爪痕だけだった。




※ ※ ※




『……映像は以上ね。この後に何とかあなたに電話したって訳』
「よく殺されずに済んだモンだな」

 KKが残した映像を見終えたヘンヨ。両手を合わせ、大きくため息をついた。
「スレッジの様子を見てきてくれ。後は任せろ」
『それはいいけど……。どうするの?』
「カメラを全部つぶしたつもりだったんだろうな。着ていたコートが邪魔だったのかは知らないが、途中で正体さらすような失態をしている」
『? どこの誰か分かったの?』
「ああ。何が起きているかはまだよく解らないが、敵が誰かはとりあえず分かった」
『へぇ。知ってる相手だったの?』
「こないだ会ったばかりだよ。チタンコートボディのアンドロイドとはな」



続く――


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