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Episode 13.5:彼女たちの日常~機械のただしい使いかた~

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ParaBellum

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 やおよろずの朝はバラバラだ。学生のまどかを除いて、仕事のあるなし、その日の気分――――様々な理由で起床する時間が変わるからだ。
 もちろん、ある程度の規則性はあるのだが。
 そんなやおよろずの中でも、まどか・ブラウニングの朝は早かった。ベッドから身を起こして、窓の外を見る。今日もブラウニングは平和だ。
 まだ寝ているたまを一瞥すると立ち上がり、寝ぼけ眼でぺたぺたと部屋を出る。
 朝の始まりを告げるが如く、靄の街でニワトリが鳴いた。
 朦朧とした意識でトイレへ向かい、そして――――


パラベラム!
Episode 13.5:彼女たちの日常~機械のただしい使いかた~


「……ふぁ?」
 覚醒。どうやらトイレで寝てしまったようだ。まあ、稀によくある事なので特に動揺は――――
「わああああああああ!?」
 時計を見、我に返って絶叫す。
 もう学校が始まる直前じゃないか! 大体稀によくある事ってどういう意味なんだ一体!
 わたわたと、混乱しながらパジャマのズボンを上げる。そのおり扉が激しく叩かれた。
「どうしたの、まどかちゃん!?」
 一条 遥の声だ。
「す、すみません、ごめんなさい! 何でもありません!」
 まどかがトイレから飛び出し、脱兎の如くその場から消えた。丸めた新聞紙を持った遥だけが、ぽつねんとその場に取り残される。
 しばらく呆然とまどかが消えていった場所を見ていたが、やがて横にいた球体――――リヒターに向かって呟くように言った。
「……何だったんだろう?」
<……私にもわかりません>


 ♪  ♪  ♪


 逃げ込むように部屋に入ると、まどかは急いで服を脱ぎ出した。パジャマをベッドの上に乱暴に投げ捨てる。そのまどからしからぬ行動に、起き上がったたまが細い目を丸くする。
<どうした、まどか?>
「ちっ、ちっちっちっ、ちこ、ちこくっ! 遅刻しそうなんですっ!」
 今にも泣きそうなくらい顔を真っ赤にして、まどか。
「ち、遅刻すると学校辞めさせられるって、お母さまが!」
 ――――遅刻も欠席もした事がないまどかにとって、遅刻とは死よりも恐ろしい事なのだ。
 確かにそれは嘘ではないのだが――――ほのかめ、まどかになんて事を吹き込んだんだ。だが、この泣き顔、
<かわいい……>
 たま、うっとり。
 ヒトガタの擬体さえあれば、泣き止むまで抱きしめてあげたり、こう、色々な事ができるというのに……!
 などとやましい事を考えている内に、まどかの着替えが終わったようだ。だが、やはりそわそわとしていて落ち着きがない。いつまでもその泣き顔を見つめていたかったたまだが、流石にそうもいかない。
 たまも考えを巡らせようとした、その時だった。
「あーっ!」
<ど、どうした!?>
「まだ……まだ私、学校辞めなくて済むかもしれません!」
 いや、一度遅刻したくらいでは別に退学にはならないのだが……そんな考えも、かわいい妹分の妙に自信に満ちた顔を見て吹き飛んだ。
 ――――ああ、かわいいなぁ、もう!


 ♪  ♪  ♪


 リタ・ベレッタの朝は、やおよろずメンバーの中でもズバ抜けて遅い……のだが、今日は違った。オートマタ達の整備のためだ。
 早起きしただけあって、今日のリタは非常に気合いが入っていた。なんせごはんを五杯もおかわりしたくらいだ。
 歩く度に揺れるプラチナブロンドのアホ毛と、ぶかぶかの作業衣、手には工具。
 空を見る、天気は晴れ。陽光眩しく、春風は暖かい。ブラウニングは、今日も平和だ。
 こんな晴れた日には近くの小川でジャブジャブやりたいものだが、とにもかくにも今は仕事だ。水遊びは、また後で。
 スキップしながらガレージへ飛び込む。仕事にせよ遊びにせよ、身体を動かすというのは気持ちがいいものだ。鬱屈した気分を取っ払ってくれる。
 ――――まあ、珍獣ことリタ・ベレッタが鬱屈した気分になる事なんてほとんどないのだが。
 ペネトレイターは整備の必要がないくらいの再生能力を有しているし、ヘーシェンは最近下半身を丸ごと別の物にすげ替えたばかりなので新品同様。まずは手間のかかるヴァルパインタイプから始めよう、と鉄製のデスクの上に工具箱を置く。
 とはいえ、たまはほとんど外に出る事がないため、大体各部のチェックで仕事は終わる。本人にやってもらうのが一番手っ取り早いのだが、リタ・ベレッタは自分で弄りたくて仕方がないのだ。
 機械人形に繋いで情報を得るための小型端末を工具箱から取り出す。初めての誕生日に養祖父から貰ったお気に入りだ。
 さあチェックを始めよう、そう思ってハンガーを見ると、
「あれー?」
 さっきまでそこに眠っていた金色の巨人が、忽然と姿を消していた。


 ♪  ♪  ♪


 ホップ、ステップ、ジャンプ。
 コンクリートやレンガの建物の上、舗装された道、そうでない道。雑多な人込みを避けて、金色の狐が飛び回る。その手に愛しのあの子を抱えて。
<仮にも伝説の大妖狐をタクシー代わりに使うとは、つくづくおまえの家系は……>
 言葉の内容とは裏腹に、たまの口調はとても嬉しそう。しかし、一方のまどかはそれどころではなかった。
 不安定な状態で、たまの手にしがみつきながら、パンを食べつつ、マナの操作の補助をしなければいけないのだ。
 というのも、マナの慣性制御能力をしっかり制御しなければ、民家の屋根を破壊しかねないからだ。
 それもこれもトイレで寝てしまった自分が悪いため、まどかは憤る事もできない。というか、例え違ったとしてもそんな余裕はない。
 たまは四肢と九本の尾――――ナインテール――――に内蔵された補助腕を巧みに使い、順調に学園へと向かっていた。だが、このままではギリギリ間に合うかどうか、といった所だ。正直五分は余裕が欲しい。
「ひゃまひゃん!」
<どうした!? 忘れ物か!?>
 まどかが急いでパンを飲み込む。喉に詰まらせなかったのは僥倖だ。
「つ、追加ブースターを、使います!」
 追加ブースターとは、名前そのまんま、機体に追加するブースターだ。左右四本ずつある小型の尻尾の代わりに装備できる物の他、大型の中央の一本に装備する物もある。
 まどかが杖を振ってたまを叩いた。トライアングルのような澄んだ音色が響き渡り、たまのナインテールの内側二本の補助腕が光と消え、代わりに小型のブースターが現れた。
 たまの身体が加速する。まどかがマナのブーストによって身体能力を高め、彼女の指にしがみついた。
 さっきよりも、もっともっと早いスピードで、九尾の妖狐が空へと舞った。


 ♪  ♪  ♪


 所変わって近所の小川。季節はもう夏が近く、草木が生い茂り、生き物達が生を謳歌していた。
 そんな中、水浴びを堪能する珍獣が一匹。
 たまが消える前は気合いたっぷりだったのだが、気付いたらたまがいなくなっていたので、やる気はどっかに吹き飛んでしまったのだ。
 ……いやむしろ、欲と暑さに負けたと言うべきか。
 さらにご丁寧にスパッツに着替えている。ちなみに上はいつもの黒いタンクトップだ。
 泳ぐ魚を追いかけ回したり、川縁に寝転がったり、通り掛かった野良オートマタと戯れたりもした。
 一口に野良と言っても、その種類は様々だ。毎度おなじみの人に危害を加えるタイプの野良がいれば、非常に友好的な野良もいる。基本的に街や村、人の住んでいる場所の近くにいる野良は後者だ。
 彼らは日雇いの労働者みたいなもので、仕事をして神子からマナを貰ったり、身体を修理してもらったりするのだ。中には許可を得て居を構えている者もいる。
 リタ・ベレッタも“小さなお医者さん”なんてあだ名でこの辺りのオートマタには割と名の知れた人物だったりするのだが、それはまた別の話。
 ひとしきり水遊びを堪能したリタ・ベレッタは、靴を履いてガレージへと駆け戻る。
 さあ着替えよう、とデスクの上に無造作に投げ捨ててあった作業衣を手に取った時、少女は気付く。
「あれー?」
 さっきまで忽然と姿を消していた金色の巨人が、元の場所に戻っていた事に。


 ♪  ♪  ♪


 一方その頃、一条 遥は。
「いいお湯だー」
 朝っぱらからレイチェル郊外の銭湯でひとっ風呂浴びていた。
 意外とここは観光の名所になっているようで、昼から夜にかけてそれなりに人が来る。
 だが今は午前中なので誰もいないため、人がいたらできないようなあんな事やこんな事が平然とできる。例えば湯舟で泳いだりとか、飛び込んだりとか。
 危険なのはわかっていても、子供心が騒ぐのだ。別にこういう時くらいやんちゃになったっていいじゃない、うん。
 白く濁った温泉が、疲れた身体を芯まで温めてくれる。いい湯だ、本当にいい湯だ。さらにお風呂上がりの一杯も完備。極東の人間が多いだけあってよくわかっている、まさに至れり尽くせりだ。
 呑気に鼻歌を歌いながらくつろいで、しばらくしてから湯舟から上がるとマッハで着替える。
 そして財布を取り出すと、番台に座っている妙齢の女性に話し掛けた。
「マル、いつもの!」
「はいはい、いつものね」
 彼女はマルチナ・コルツァーニ、あだ名はマル。この銭湯を経営しているコルツァーニ夫妻の長女で、年齢は遥と同じ、今年で一九歳だ。
 歳が近いので知り合ってすぐに仲良くなり、一ヶ月と少し経った今ではマルチナはお代を若干まけてくれるようになり、遥は銭湯の常連になっていた。
 白い肌に赤い瞳、尖った耳と緑の髪。彼女はエルフの血を引く亜人だ。
 エルフや獣人は遥か古代に生み出された遺伝子改造人間だとかそういう話を聞くが、多くの人間は特に気にしていない。過去は過去、今は今。
 冷蔵庫から極限まで冷えた牛乳を取り出す。瓶が白い煙を纏っていて、いかにも冷たそう。いいなぁ、冷蔵庫欲しいなぁ。そんな事を考えつつ、マルチナにお代を渡す。
 キャップを開けると腰に手を当て、グイっと一気に牛乳を煽る。これぞ極東のトラディショナルスタイルだ。
 牛乳の強烈な冷たさが火照った身体を駆け抜ける。この心地よさ、まさに天下一品。
「ぷはぁーっ! うまいっ! やっぱりお風呂上がりの一杯はまた格別だね!」
 ごとん。からっぽになった瓶が番台に叩きつけられた。
「ハルカぁ、アンタ本当にあたしと同い年?」
 ジト目のマルチナ。
「ひっどいなぁ、こんな見た目だけど――――」
「中味はまるでおっさんじゃない?」
「えー、ひっどいなぁ!」
 ずいっ、とカウンターから身を乗り出した遥に、マルチナが引き気味の笑いを浮かべる。
「あ、あっははははは……しかも聞くところによると、なんかモヒカンのチンピラ複数を瞬殺したとか」
「えー、あれくらい普通だよー」
 笑いながら手をひらひらさせる。しかしどう考えても普通じゃない。
「もうアンタ何者よ」
 苦笑いはそのままに、マルチナは呟く。
「そういえば遥、今日は休み?」
「うん、お休み」
「へー」
 だるそうにカウンターに頬杖をつく。緑のポニーテールが肩からするりと流れ落ちた。
「いいなー。あたし今日も仕事だわ」
「お疲れ様ー」
「ちょっと何よ他人事みたいにー!」
 そこから本格的に雑談が始まる。内容は主に妹の事、家族の事、仕事の愚痴――――
「でさぁ、マルタが最近生意気になってきたわけよ」
「ウチの彼方なんて生意気じゃなかった事なんかないってー」
 共通の話題である妹については特に盛り上がる。最初は愚痴に始まるが、気付けばベタ褒めに変わっているのがいつもの流れだ。なんやかんや言って妹というのは可愛いものなのだ。
 ちなみにマルチナの妹、マルタ・コルツァーニは今年で一三歳。生徒会のメンバーであり、まどかの後輩でもある。
 二人の談笑は、まだまだ続く。気付けば太陽は遥か頭上に昇っていた。


 ♪  ♪  ♪


 各機の修理、点検は予想通りあっさり終わり、暇になったリタ・ベレッタは自室でもぞもぞと作業中。
 部屋の中はお世辞にも綺麗とは言えず、むしろカオスの権化と形容すべき状態になっていた。
 プラスチックや金属のパーツ類が散乱し、クリップに固定されたパーツ類が机上にずらり並んでいる。幸い窓は開け放たれているので、悪臭が篭る事はなかったが。
 そして当のリタ・ベレッタはというと、クリップに固定されていたパーツを丁寧に組み立てている。加工し、塗装したパーツを組み立てる……この時間は、まさに至福の時だ。
 さて、彼女は一体何を作っているのか? 答えは彼女の部屋の棚にある。
 ベッドを除いて唯一片付いているその棚には、オートマタのプラモデルが綺麗に並べられていた。
 その内のふたつ、白いヘーシェン型と金色のヴァルパイン型はご丁寧にシロとたまとまったく同じ改造がなされている。
 そう、彼女はリヒター・ペネトレイターのプラモデルを作っていたのだ。
 割と他のオートマタから流用できるパーツが多かったのでそこまで手間がかからなかったが、やはり自分で作ったオリジナルのキット程愛しいものはない。胴体のパーツを組み立てて、額の汗を拭う。
 そういえば、以前リヒターが一度だけ見せた形態――――あれもその内作らなきゃなぁ……。そんな事を考えつつ、次は手、その次は足の組み立てを開始する。
 頭はもちろん、最後の最後だ。


 ♪  ♪  ♪


 屋敷の裏庭で、一羽のうさぎが跳びはねた。上下左右、前に後ろに縦横無尽。ある時はキックを繰り出し、ある時はパンチを放つ。
 ヴァイス・ヘーシェン――――シロは、珍しく一人で訓練中だった。いや、これは訓練というよりも、ストレス発散のための運動と言った方が正しいかもしれない。
 数日前のブラウニング・バビロンでの一戦で、シロはフォルツァ・レオーネという獅子型のオートマタに大敗を喫した。
 いくらその時本調子でなかったとしても、必殺技が破られたのだ。表に出す事はないが、やはり悔しいものは悔しい。
 もしもシロに涙腺があったなら、悔し涙をはらはらと流していたことだろう――――まあ実際に、あの後リヒトに泣き付いたのだが。
 負けた事は悔しいし、その後泣いてしまった事も恥ずかしい。もう負けない、負けたくない。一心不乱に拳を突き出し、蹴撃が風を切る。
 ――――仲間達に守られていた、かつての自分とは違うんだ。
 昔々の自分の姿を思い出し、彼女の闘争心はさらに昂揚した。
 オートマタとは機械的な外見の割に、中身は意外と生物に近い。鍛えれば強くなるし、ちゃんと応急処置をすれば、軽い傷も治る。ただし子孫は残せないが。
 だから、頑張ればもっともっと強くなれる。そしていつか、大好きな主の手を煩わせないくらい……いや、むしろ守ってあげられるくらい強くなりたい。シロはそう考えていた。
 だってうさぎは、献身の象徴なんだから。


 ♪  ♪  ♪


「起立! 礼!」
 今日は学校はお昼で終わりだ。眼鏡の委員長の号令で、全員が頭を下げた。そして蜘蛛の子を散らすように生徒達が教室を出て行く。もちろんその中にはまどかの姿もあった。
 学園の敷地から出ると同時に、手の平サイズの小さな狐が、鞄の中からぴょこりと顔を出してまどかの肩へと駆け上がった。九本の尻尾が好き勝手な方向に揺れる。
「たまちゃん、今日はありがとうございました。あと、遅刻一回くらいじゃ退学にならないんですね、友達に笑われちゃいました」
 あはは、とはにかむまどか。
<まったく……おっちょこちょいなのはいつまで経っても健在だな。仏の顔も三度までだぞ>
「じゃあ、あと二回はいいんですね」
 そして今度は悪戯っぽく笑ってみせる。それを見たたまの尻尾がちぎれんばかりの勢いで動きまくる。ちなみにたま本人はそれに気付いていない。
<だ、駄目に決まってるだろう!>
「でも、戦いよりも正しい身体の使い方だと思いますよ」
 たまの身体を優しく撫でる。
<ふむ……>
 尻尾をバタバタさせつつ、たまは今の言葉を反芻した。戦いよりも正しい使い方――――
<機械のただしい使いかた、か>
 かつてのたま――――いや、大妖狐 玉藻前ならば真っ先に否定していたであろう言葉だ。でも、今はそうじゃない。
<確かに、そうかもしれないな>
 こんな日常の方が、戦う事よりもよっぽど楽しい。
「じゃあ、早く帰りましょうか」
<……そうだな>
 早く帰ろう、みんなが待ってる。
 時刻は昼。太陽はさんさんと照り、暖かい風が早くも夏の到来を予感させた。
 ――――この世界は、今日も平和だ。


 ビューティフル・ワールドに続くかもね!


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