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グラウンド・ゼロ プロローグ

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匿名ユーザー

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ライフルの攻撃を避け、右へと肩に装着されたブースターを吹かす。
 軽い着地の振動を感じながら右腕を動かし、持ったマシンガンを乱射する。
 しかし敵はその段幕を、機体を屈めさせて避け、こちらの機体の腕を払い、そして反対側の腕に装着された格納式の超振動剣を展開。
 その動きを見てこちらも直ぐ様緊急後退用のスラスターを吹かすが、間に合わない。
 俺は成す術もなく、巨大な剣に貫かれた。

「だーっ!リョウゴお前強すぎだよ!」
 カプセルから出てきた俺は膝に手をつきながら、同じく隣のカプセルから出てきた友人にわめく。
 彼はポケットに手を突っ込んだまま笑った。
「お前回避が下手なんだよ。もっとこうバーニアを有効にだな」
「俺はアクションゲーよりRPG派なんだよ。」
 そう反論して、傍らを一瞥。
 そこには『超本格的リアルロボットアクションゲーム』を謳う、『グラウンド・ゼロ』の丸く白いカプセルがあった。
 『グラウンド・ゼロ』は二十年以上前からシリーズが続いている、人型戦闘ロボット『AACV(次世代装甲戦闘車両の略)』を操る人気ロボットアクションゲームで、
プレイヤーは『AACV』の操縦席をイメージしたカプセルの中で与えられる様々な任務を遂行したり、ネット回線を通して世界中のプレイヤーと対戦したりして楽しむのだ。
「ま、向き不向きはあるわな。」
 そして今俺の目の前で鼻の頭を掻きながらそう言った、赤みがかった髪の青年は『グラウンド・ゼロ』のAクラスプレイヤー――相当に上手い人たちが集まるクラスだ――であるリョウゴ・ナカムラだ。背も高く、運動も勉強も出来る。
「だけどそれでも俺の勝ちー。」
 おまけに調子に乗りやすい。
「たはー。」

 息を吐いて、まっすぐ立ち、頭をかいた。学校の制服のネクタイを緩める。
「なぁ、もいっかいやんね?」
「また対戦?」
「いや、今度は協力任務で。」
「オッケー。んじゃあやるか。」
 そうしてリョウゴは嬉しそうにカプセルへと戻っていった。
 自分も財布からコインを一枚取り出してからカプセルの中へと戻る。
 中に入ってドアを閉めると、ゲームセンター独特の騒音はほとんど聞こえなくなった。
 シートに座る。
 コインとICカードを入れ、スタートボタンを押す。
 途端に目の前にパノラマ状に設置されている画面が真っ白になり、メニュー画面が映し出された。
 頭部側面のスピーカーから、女性の声のアナウンスが聞こえてくる。
「『グラウンド・ゼロ』へようこそ。ICカードの認証を行います。パスワードをお手元のテンキーで入力してください。」
 入力する。
「パスワード確認。プレイヤー名『シンヤ・クロミネ』で登録。あなたは現在Cクラスです。」
 シンヤはこのアナウンスを聞く度に少し恥ずかしい気持ちになる。
 初めてICカードを作るときに、誤って本名を入力してしまったのだ。
 時々そのことをリョウゴにからかわれる他には不都合は無いのでそのままにしているが、やはり少し後悔もしている。
 だけどもう一度作り直すのはメンドクサイ。
「プレイヤー名『メテオ』から協力任務の要請がきています。受諾しますか?」
 「はい。」と答える。メテオはリョウゴのプレイヤー名だ。
「確認。協力任務モードでプレイを開始します。では、無事生還されることを祈っております。」
 アナウンスが切れ、画面が格納庫に変わった。
「よーうシンヤ。」
 今度はリョウゴの声がスピーカーから飛び出してきた。
「聞こえてんなら返事しろー。」
「はいはい聞こえてますよ。」
 そう返事をすると、リョウゴが笑った声がした。
「マイクの感度もいい感じだな。このゲーセンのマイク時々いかれるからなー。」
「んなことより、お前装備何にすんの?」
 手元のレバーを動かして自分の『AACV』の武装を選択しつつ訊ねる。時間は無限ではない。
「俺か?んーそうだな。今度はバズーカで行くか。」
「マジで?任務に向かなくないか?」
「お前が先に出て、俺が後から従う感じで良くない?」
「そうか、わかった。」


 自分の方が上手いことをわかっているから、俺が活躍できるようにしてくれてるんだな。そう直感した。
 その配慮に甘えて、こちらの武装はさっきのプレイと同じ、近接戦闘用のマシンガンを選んだ。
「こっちはオーケーだぜ。」
「おっし、じゃあ任務は俺が選ぶわ。」
 リョウゴのカーソルが切り替わった任務選択画面を横切る。
「これなんかどうよ?」
 カーソルが指したのはBクラス任務『ゲリラ掃討』だった。ステージは木々が生い茂るジャングル。
視界が悪く、機体の機動性も落ちる。が、正面から撃ち合うのが苦手なシンヤには向いている任務だった。
「ん、いいんじゃね。」
「じゃあ、これだな。」
 『任務開始』のボタンが押される。すると、画面がロード画面へと切り替わった。
 ロード画面にはシンヤが操作するAACVが大写しになっている。
 シンヤの機体は全高約6メートル、最大時速約700キロメートルの高機動型だ。空気を割く鋭角的なデザインは細身の体に鉄板を無理矢理に打ち付けたようで、見るからに脆そうだ。
 シンヤはオレンジと白のカラーリングが気に入ったのでこの機体を選んだのだが、扱うに必要なテクニックはまだまだ身に付いていなかった。
 それに対してリョウゴの機体は敵の攻撃をものともせず、とにかく大火力の武器を当てることに重点を置いた重装型だ。黒く分厚い装甲が、はち切れそうな中身を押さえ込んでいる。
 全高は8メートル程度で、シンヤの機体より二まわりほど大きい。その姿は正に黒い隕石だ。機動力は低く、最大時速も500キロメートル程。
 しかしリョウゴはそれでも高機動型のシンヤの攻撃を確実に避け、暴力的なデザインの、右腕の大型超振動剣でシンヤを貫けるほどの腕の持ち主だった。
 ロードが完了し、再び画面が切り替わる。
 画面が騒音に満ちた大型輸送機の内部へと変わった。
 シンヤたちの視点はAACVのコックピット位置に固定されているので、床からはかなり高い。
 眼下ではCGの整備兵たちが走りまわり、シンヤたちの出撃のサポートをしてくれている。
 アナウンスが流れた。
「振動によるケガ等を防ぐためにシートベルトを着用してください。」
 そういえばしていなかったことに気づいて、慌ててシートベルトをする。
『気圧調整、終わりー!作業員、撤収ー!後部ハッチ、開けー!』


 作業員の呼び掛けが聞こえる。
 顔を上げて前を向くと、目の前のハッチが左右に開いていくところだった。その向こうには雲海が広がっている。
「カタパルトオーケー。『シンヤ・クロミネ』射出、どうぞ!」
 女性オペレーターの声と共にカプセル全体が振動。周りの風景が高速で後ろに吹き飛び、機体は輸送機から投下され、下降していく。パラシュートを開いた。
 地面はあっという間に迫り、カプセルに大きな衝撃を下から加える。
 ゲームなのに、本当に着地したかのようなリアリティ。ゾクゾクする。
 少し遅れて後方でリョウゴの機体が着地する音がして、『作戦開始』の文字が表示された。
「さて、どうする?」
 訊きながら周囲を見渡す。
 辺りのジャングルにはシンヤたちの機体よりも背の高い木々が多く生えている。高機動のシンヤには辛い地形だ。
植物の葉のせいで視界も悪い。しかし、上手く立ち回ればこちらの姿を視認されないまま相手を倒すことも可能だ。上級者に限るが。
 天候が曇りなので画面全体が灰色がかっている。機体をもっと地味な色に変更すれば良かった。
「まずはお前が先行するんだろ?」
 リョウゴの返事。ああそうだった。
 マシンガンを構える。
「じゃ、行こう。」
 スティックを倒して背面のメインスラスターをオン。軽い振動と共に機体が滑り出す。
 木々に阻まれて行動不可になるのを避けるためにシンヤは跳んだ。そのまま腰と胸のスラスターを吹かし続け、高度15メートル程度まで一気に上昇する。
 画面に敵に捕捉されたことを示す警告が表示される。しかしそれこそシンヤの狙いだ。
 素早い操作で敵のセンサーを逆探知し、自機のレーダーに結果を反映させる。
 レーダーの情報はリョウゴと共有しているので、必然的にリョウゴのレーダーにも敵機の位置が表示されるはず。
 ならば。
 視点を下方へ。密林に適した迷彩柄の、シンヤの機体と同型のマシンがこちらにライフルを構えていた。
 肩のブースターを僅かに点火し、その射線上から外れつつマシンガンを乱射。
 相手もスラスターで軽く横に跳びつつ攻撃を避けようとしたが、出力全開で高速接近していたリョウゴの機体に行く手を阻まれた。

 無反動バズーカを一発、至近距離から撃ち込まれた敵機はのけ反りながら空中でコントロールを失い、そのまま側面からシンヤのマシンガンで腕を吹き飛ばされ、
装甲を剥がされ、大きな音をたてて爆発した。
「ナイスキル!」
 リョウゴの声。
「ナイスサポート!」
 少し開けたところに着地し、返す。しかし――
「油断すんな、後ろ!」
 レーダーを見る。すぐ後方に敵の反応!
 慌ててスラスターを吹かすが、間に合わない。衝撃!
「くそっ!」
 急速旋回して、マシンガンを敵に向ける。だが無意味だった。
 敵機はすでにリョウゴの剣によって真っ二つにされていたのだった。
「あぶねー。サンキュー、リョウゴ。」
「いやいいよ。それより、どんだけ喰らった?」
「ちょっと待って。」
 機体ステータスを確認。
「大丈夫、いける。」
「当たりどころが良かったみたいだな。」
 リョウゴが笑う。
「ああ、だな。」
 機体をひねり、辺りを見渡す。更なる敵機の姿は見えなかった。
 ふと、気にかかる。
「なぁ、地上ってどこもこんな感じなのかな。」
「あ?」
「いや、ちょっと気になったんだけどさ、人間が地下に移住してからもう一世紀位経ってるだろ?」
 マイクに問う。
「地上がこんな風に回復してるかって?ハハッまだまだ、後数世紀は待たなきゃならないって。」
「そうか……。」
「何?お前地上に出たいわけ?」
「いや……」
「小惑星の衝突で、地表は全部荒野になったって習ったじゃん。そんなとこより、地下都市に引きこもってた方が楽だよ。」
「……だな。」
「ところで」
 リョウゴの機体が目の前を横切る。木々がへし折れた。
「向こうに敵機見つけたんだけど。」
 レーダーを見ると確かに反応がある。
「わかった。」
 リョウゴの指す方向に機体を向け、跳躍準備の体制をとる。
「今度は油断すんなよ。」
「わかってるって。でもゲームなんだから、楽しくやれればなんでも良くね?」
「いやまあ、そうなんだけどさ。」
「……んじゃ、行くわ。」
 シンヤは再び跳んだ。
 CGのジャングルを飛び回り、CGの弾丸を撃ち込み、CGの敵を撃破していく。
 全てが嘘っぱち。その中で、小さくリョウゴの呟きが聞こえた。
「次はどうやって殺そうか……。」
 それはスピーカー越しの何気ない一言だったが、強烈にシンヤの耳にこびりついた。

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