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最終話 グッドバイ 前

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匿名ユーザー

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……何も、見えない。周囲を見渡せど、真っ暗闇だ。右を向いても左を向いても何も見えない。俺、死んでないよな……多分。
平衡感覚はある。妙に体が重いけど。取りあえず一歩踏み出す。しっかりと地に足が付いてる。
歩ける……みたいだな。それにしても何だ? この肩に圧し掛かる不快な感じは……。体が沈んでいきそうなほど、重い。

歩いている内に、次第に目が慣れてきたのだろう。ぼんやりと何かが浮かんでいるのに気付く。真っ白くぼんやりと浮かんだ影だ。
俺が近づくと、だんだん白い影が明確な形に見えてきた。……人、か? 誰かが、俺に背を向けている。どこか見覚えがある。俺は、その人に話しかけた。

「……メルフィー?」
「どうして……私を助けてくれなかったのですか?」

そう言いながら振り向いたメルフィーには――――顔が、無かった。一瞬息が詰まる。
恐怖のせいか、足が自然に後ろに下がる。背中に何かがぶつかり、振り向くと――――顔が無い、会長がいた。

「貴方のせいよ。貴方が何も守れなかったから、皆死んだの。分かる?」
「会長……何を言って……」

気付くと、俺の周りを顔の無い人達が囲んでいる事に気付く。皆……俺の見覚えのある……。……当り前だ。
俺を囲っているのは――――俺が守りたくても、守りたかった人達だから。そうか……俺が、俺が力を持っていながら、誰も守れなかったから、皆……。

「鈴木君は私達を見殺しにしたんですね」
「ひでぇよ、隆昭……俺、死にたくなかったのに……」
「何故助けてくれなかったんだ! 隆昭!」
「死にたくない……死にたくないよ……隆昭、助けて……」

違う……俺は……俺は皆を救いたかったんだ。でも……俺はヴィルティックを……。

「お兄ちゃん」
小さい女の子の声がして、視線を下に向ける。俺の服の裾を引っ張る君は――――俺がヴィルティックで……。

「お兄ちゃんは、ヒトゴロシなの? 人を殺す為に、そのロボットに乗ってるの?」
「……違う」
「嘘。お兄ちゃんは人を殺す為に乗ってるんだよ」
「違う! 俺は……」

「じゃあ、なんで私を殺したんですか?」

正面に、メルフィーが立っていた。俺を見ているその目から、涙が伝っていた。
やめてくれ……そんな目で、俺を……見ないでくれ……。俺は……俺は皆を守りたかったんだ……だから……。

「貴方が殺したんです。何も守れなかったんじゃない。何も守る気が無かったんですよね」

「そう、鈴木隆昭。君は力を好き勝手に使いたいだけなんだよ。私も君も同じ、人殺しで人類にとっての死神なんだ」
オルトロック……やめろ。メルフィーの肩から……手をどけろ。メルフィーに……アレ、何で、俺声が出ないんだ? このままじゃ、メルフィーが……。

「いい加減自覚したまえ。君は私の同じ種。人殺しなんだ」
「止めろ……俺はお前とは違う……違うんだ」
「違う? 冗談はよしてくれ。私を殺した時の君の顔、実に快楽に満ちていたよ。最高なんだろ? 力を振り回せる事が」
「俺は……」

「さぁ、次は誰を殺すのかな。いっそ――――この町を焦土にしよう。ヴィルティックで」

やめろ……やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


                             ヴィルティック・シャッフル

                                最終回  前編


「うわぁぁぁぁぁ!」
叫び声を上げながら、俺は飛び起きた。心臓が半端無くドキドキしている。両手で額を触ると、滝の様な汗が噴き出ている事に気付いた。両手が汗でべとべとだ。
……酷い。酷く怖い夢だった。夢なのにこう……変にリアルで。もう見たくないな……あんな夢。けど、絶対にもう一度見る気がする。
というかいつの間にベッドの上で寝かされてたんだろう。何か妙な感じだな……病院って気がしない。

いや、ちょっと待て。どこだ、ここ。俺は寝ぼけている目をこすって、周りに目を移す。
病院……じゃない事は分かる。病院特有の、薬とかの匂いはしないし、何より壁の色がクリーム色とか明らかに病院じゃないだろ。
それによく分からない絵画やら、デカいTVやら、如何にも外国製って感じのインテリア群とか、何というか……ホテル?

まさか……だとしても、誰が俺をここまで運んできたんだろう。怪我をしてるなら普通病院だろ。ホテルとか怪我人を運ぶ場所には明らかに不適合だよな?
理由が分からない……。とは言え、怪我の手当てはしてくれたみたいだ。髪の毛で隠れた額に、包帯が巻かれている事に気付く。止血されてなかったら危なかったな。
奇跡的に怪我をした部分は頭だけみたいだ。他の部分は普通に動く。……恐らくというか、ここまで俺を運んできてくれた人が手当てしてくれたんだろう。
感謝したいけど、人影が見えない。取りあえず、俺は俺をここまで運んでくれた人が来るまで、待つ事にする。その人がきたら事情を聞き……ん?

「隆昭……起きて……隆昭……」
何故かメルフィーが傍らで、椅子に座っていた。疲れているのか分からないが、寝言で俺の名前を言いながらこっくりこっくりしている。
俺が起きるのをずっと待っていたのかな。そしたら悪い事をした。直ぐに俺と交代でベッドで寝ても……と言いたい所だが、喉が枯れている為か声が出ない。
馬鹿みたいに叫んでたもんな……。あんなに大声出したのは何年振りだろう。とにかくオルトロックに勝つ為に、俺は必死になってた。……周りも顧みず。
……けど、守れなかったな。もっと早く、ヴィルティックの事を自覚してれば、俺は皆を……救えたのかな。

<体の具合はどうかしら?>
その時、俺の頭に聞いた事の無い声が響いた。――――この感覚、メルフィーが初めて俺には通信機で話しかけてきた時の感覚と同じだ。
メルフィー以外に未来人が? なら何の目的で俺に話しかけてきた? というかどこに――――と周囲を警戒していると、誰かがこちらを見ている事に気付いた。

その人物に目を向ける。バスローブを着た……妙に妖艶な雰囲気の美人の女性が、腕を組み壁に寄り掛かって、俺の方をニヤニヤしながら見つめている。
……凄い胸だ。メルフィー並み、いや、もっとあるかも知れ……いや、今はそんな事はどうでもいい。安直な考えだと思うが、この人が俺をホテルまで運んできたのだろう。
俺は唾を飲み込んで出ない声を出そうとした。が、女性は人差し指を形の良い唇にあてると、指を右耳まで移して、耳たぶを二回叩いた。
すると、女性の小さな耳を覆うほどに大きなヘッドホンが、少しづつ浮き出てると実体化した。恐らく……メルフィーの狐耳と同じく通信機の類だろう。
<会話の方法はメルフィーから教わってるよね?>

<……これであってますか?>

<うん、上出来上出来。で、怪我の具合はどう? まだ痛みとかあるかしら?>

包帯が巻かれている部位を再び触ってみる。血は止まっているだろう。妙にズキズキするのは、寝起きしてすぐだからかな?
ガキの頃から体が妙に頑丈なせいか、頭以外に怪我らしい怪我はしてない。俺は女性に頷いて返答する。

<頭がまだ冴えていませんが……特に怪我はありません>

<そう。それなら良かったわ。お腹も空いてる事でしょうし、下にご飯、食べに行きましょうか>

下という事はやはりホテルなのか、ここは。おそらくレストラン……って変に考え過ぎか。
女性の言葉に反応してか、俺の腹の音が豪快に鳴った。顔から火が出るくらい恥ずかしい。女性を見ると苦笑していた。二度恥ずかしい。
そうだ、俺だけじゃ悪い。俺は女性に、メルフィーも一緒に連れて行くよう提案する。

<えっと……良ければメルフィーも連れて……あ、メルフィーってのはそこの椅子に座って寝ている女の子で……>

<メルフィーならさっき食べたから心配しないで。着替えるからちょっと待っててくれる?>

そう言って女性は指を鳴らしてヘッドホンを消し、手をひらひらさせてバスルームらしき場所へと向かった。状況が全く飲み込めない……。
けど食事を頂けるのならありがたい。素直にお世話になろう。それにしても妙だな。あの女性、初対面の筈なのに全くそんな感じがしない。何だろう、この感覚……。
数分後、カジュアルなジーンズとジャケットを着た女性がバスルームから出てきた。結構厚い服なのにスタイルがハッキリと見て取れ……俺は頬を軽く叩いて自制する。

……見惚れてる場合じゃない。そういや俺の服とかどこ行ったんだろう。だいぶ気付くのが遅れたが、このホテル名であろう刺繍が入った、寝間着を着せられているみたいだ。

<貴方の服ならベッドの端に置いてあるわ。外で待ってるから、着替えたらノックしてくれる? そうそう>

そこで女性は言葉を切ると、メルフィーを一瞥して、俺にウインクした。

<貴方を運んできた時、メルフィーが三日三晩、貴方の為に付き添ってあげたのよ。だから起こさないように静かに……ね>

メルフィー……ごめんな、余計な心配を掛けさせて。俺は黙って女性に頷く。女性は微笑みを浮かべたまま背を向けると、ドアを開けて外に出た。
ベッドから起きあがり、ベッドの左端に置かれた、丁寧に畳まれている服に着替える。メルフィーの寝顔を見ると、不思議に安心感が沸く。……行こう。
静かに服を着替え終えて、抜き足でドアまで近づき、ノックして外のお姉さんに知らせる。ドアが開く音がして、俺は外で待つ女性と共に、下に向かう。

部屋の外に出ると、ずっと先まで続く廊下が見え、黄金色のルームナンバーが高級感を漂わせるドアがズラリと並んでいる。
状況が全くと言っていいほど把握出来ていないが、ここが高級なホテルだって事は分かる。そんなホテルに俺とメルフィーを運び込めるなんて何者なんだ、この女性は。
並んで歩いているが、如何すればいいのか分からん。会話を切り出そうにも、今の俺じゃ質問ばかりが出てきて会話にならなそうだ。
とは言え、このまま黙っている訳にもいかない。俺は意を決し、女性に話しかける。

<……このホテルに俺とメルフィーを運んでくれて有難うございました>

<正確には私のアストライル・ギアね。彼が貴方をここまで転送してあげたから、感謝ならあとで彼にして。で、何か聞きたい事ある?>

アストライル・ギア……? 通信機……アストライル・ギア……転送……。停滞していた、俺の頭の歯車が鈍いながらも動き出す。
間違いない。俺とメルフィーをこのホテルまで運んでくれたのはこの人だ。アストライル・ギアを使っての意味がちょっと分かりかねるが。
この人のお陰で、俺もメルフィーも生き永らえた。だが……信用に値するのか? 命を救って貰って難だが、俺はこの人を味方とは断定できない。
立ち止まって俺は女性に視線を向ける。俺に気付いたのか、女性が振り返った。その顔にはどこか掴み所の無い、ふわふわした笑顔が浮かんでいる。

<どうしたの? 何か質問でも浮かんだ?>

<怪我の手当てをしてくれて、なおかつメルフィーを救ってくれた事に関しては感謝します。だけど……俺はまだ貴方についての素性を知りません>

<俺は……俺は貴方に素性を教えて貰えない限り、共に行動する気にはなれません。
 命の恩人に対して、失礼千万な事だとは思います。ですが、オルトロックと対面した時の事を考えると……どうしても、貴方の事が信用できないんです>

俺の視線と、女性の視線がぶつかる。女性の目は笑っているものの、その目には言いしれぬ力を感じる。やはり……か?
と、彼女が俺から目を離し、後ろを振り返る。……戦闘でも仕掛けてくるのか? いや、それは幾らなんでも早計過ぎるか。だけど油断はできない。
再び彼女が俺の方へと目を移す。もしもそうだとしたら……と、女性が右手を上げた。俺の体は自然に身構える。――――が、女性が取った行動に、俺は意表を突かれる。

女性は左肩を二回叩いた。すると、女性の服装が……何で遥ノ川高校の制服に? それにあれほど膨らんでいた胸も、制服に合わせてか幾分小さくなる。
呆然とする俺の目の前で、彼女は制服の胸ポケットから何かを取り出して、それを目に掛けた。眼鏡だ。……そこには、ありえない人物が立っていた。

「あんまりサボってると、また氷室さんに怒られますよ! 鈴木君!」

……木原さん? 木原さんですよね? なんで君がここにいるんだ?
そこに立っているのは、今の時代に珍しい黒髪に黒ブチ眼鏡の奇跡なほどに地味な少女、木原町子さんだ。
木原さんはビシッと、俺に対して人差し指を立てて叱る様にそう言った。

何が何だか理解できない。俺とメルフィーを助けたのは木原さんだってのか? 木原さんが未来人? アストライル・ギアの適合者?
おい……ちょっと待て。何から突っ込めば、というか頭の中の情報が整理できない。もしかしたら死んでいて、ある種の地獄に落ちているんじゃないか、俺。

「ふぅ……この声を出すのも楽じゃないのよね」
一転、木原さん……らしき女性は、艶のある大人な声で眼鏡をしまい、左肩を再び二度叩くと元のカジュアルな服装に戻った。

<あら? どうしたの、まるで豆鉄砲を至近距離で食らった鳩みたいな顔だけど?>
<どういう意味ですか……。というか……驚くなという方が無理だと思います>
<そりゃそうね。ま、色々聞きたい事があるんだろうけど、取りあえずレストランに行きましょうよ。
 貴方が私に聞きたい事が沢山あるだろうし、私も貴方も伝えたい事があるしね>

ひとまずこの件は保留しておこう……。エレベーターに乗り一階に降りると、レストランに続くエントランス・ロビーが俺達を出迎えた。
天井を飾るシャンデリアが実に眩しい。中央で獅子の姿を象った豪勢に流れる噴水にしろ、そこらじゅうに見える金色の装飾品と大理石の床にしろ……。
とんでもなくグレードが高いホテルみたいだな。俺は生涯、こんなホテルに入った事は勿論泊まった事も無い。TVの中の世界だと思っていたよ。

<言っておくけど、ここは遥ノ市じゃないから。東京のちょっとした良いホテル。このホテルの屋上で、貴方とオルトロックの戦い、見せて貰ったわ>

見せて貰った……? どういう意味だ? この人はずっと……俺とオルトロックの戦いを見ていたというのか?

<……全部見ていたんですか? 俺とオルトロックの戦いも、オルトロックが……オルトロックが、街の一部を消した事も>

女性は、俺の質問に対して何も答えない。ただ黙って、レストランへと足を進めている。……俺は心の奥でもやもやしたモノを感じながらも、黙ってついていく。
それにしても不思議な人だ……。今の横顔も、さっき木原さんに変身した時の顔も、全部別人に見える。表情が全て違うのだ。今の女性が木原さんと同一人物とは思えない。
……底知れない。この人の雰囲気を表すとすれば、この一言に尽きる。好奇心と警戒心が半々、俺の中で膨らんでいる。

<このレストランよ。結構良い所だけど、気遅れしないでね>

女性がそう言って、レストランに入っていく。気後れって……普通のレストラン見えるけど……。まぁ良い。俺も続いて、レストランに入る。


<遠慮しないで。食べたい物を好きに注文して良いから。お金なら全て私が出すからね。あ、でもちゃんと食べ切れる料理にして欲しいな。残されたらお金が勿体無いから>

……なんかこういう店に来た時のお袋みたいな事言うな、この人。つっても寝起きだし、そんなにボリュームのある飯は食べらんないと思う。
結構内装がおしゃれというか、このホテルらしい高級志向だけど、値段とか普通だろう。そう思いながらメニューを開ける。

……何……だと? サラダ一品が2000円? スープが2500円? それにステーキが……6000円? 何だ、このあからさまな値段詐称は。東京という土地柄ゆえか?
遥ノ市じゃ一番高いステーキでも2500円なのに……。これは確かに残したらとても勿体無い。凄く勿体無い。
どれも目玉が飛び出て飛んでいきそうな価格設定だが、俺はその中で安くも高くも……いや、普通の飲食店に比べたらべらぼうに高いが、3500円のコロッケの何たらかんたらを頼む。

「あ、私はこのヴィラ・コンテを一つ」
彼女がウェイターに飲み物を頼んだようだ。ワインだったかな。俺はウェイターにメニューを渡す前に、そのヴィラ・コンテという銘柄を見てみる。
一十……5万3000円。俺はリアクションも忘れて棒で叩かれて驚いている犬の様に口を開けた。普段彼女というか……あれ、誰か思い出そうとしてたけど、何故か思い出せない。
多分疲れのせいだろうな。それより今は彼女に聞かねばならない事が沢山あるんだ。俺は彼女を正面から見据えて、質問を切り出す。

<まず……貴方の本当の名前を教えて頂けますか? えっと……き……き……>
<木原町子>
<そうそう、木原さんだ。木原町子というのは、偽名なんですか?>

彼女は水を飲み干すと、口元を指でなぞった。一々動作が妖艶で目のやり場に困る。俺はなるべく視線を落とさない様、女性を見据え続ける。

<えぇ。私の本当の名前は、マチコ・パラディス・フレイリック・ローティニア・スネイル。
 ……冗談抜かすなって目してるけど、一字一句本名よ。ついでに、名前はマチコで名字はスネイル。どっちで呼んで貰っても構わないわ>

……はい? 偽名だと思ってたけど、本名の方がずっと偽名に感じるんですが……。てかミドルネーム凄すぎますよ! 何人ですか、貴方は!
容姿というか全てが変わってる気がする……。真面目に何者なんだろう、この人。まさか中学二年生時に卒業するべきあれじゃないよなぁ……。
それにしても、何かどっちも呼びにくい……。姿が変わったというかほぼ別人だけど、俺が思うに偽名が一番しっくりくる。一応聞いてみよう。

<……木原さんじゃ駄目ですか?>
<駄目。偽名はあくまで偽名よ。それに……木原町子という人間はこの世界にはいないもの>

<……どういう意味です?>

いない……とはどういう意味何だろう。 確かに木原町……あれ? おかしいな、木原町子って誰だっけ……?
必死に頭の中の記憶という記憶を探し出すが、木原町子という名前は知っていても、誰であるかが明確に思い出せない。さっきまで思い出せたのに……。
……俺と女性の間に長い沈黙が、流れる。女性、いや、スネイルさんが静かに口を開いた。実際には開いてないけど。

<……オルトロックが最初、学校を襲撃したのを覚えてる? 貴方がヴィルティックを起動させる前に>

<はい……思い出したくもないですが>

<あの時を見計らって、私は「木原町子」ではなくマチコ・スネイルとしてこの世界から本来、私がいるべき世界――――つまり未来へと戻ったの。

 「木原町子」という存在はその瞬間、この世界からは消えたわ。跡形も無く、ね>

……ごめんなさい、言っている意味が良く分からないです。だって木原町子ならさっき、俺の目の前で……。
けど俺はその木原町子という人の事が、全く思い出せない。どんな声だったか、どんな性格だったか、ましてや……どんな容姿だったのかさえ。
上手く言えないけど、怖いな……。何か大事なモノが、頭の中からすっぽりと抜けているみたいな、そんな感じだ。

<三日間寝ていたから、その影響が遅れてやって来たのよ。不安に思う事は無いわ>

<けど……駄目だ、思い出せない……>

こんな事って……。けれど幾ら思い出そうとしても、俺の頭に木原町子という人は浮かんでこない。悔しいけど思い出すのを止める。
それにしても……これじゃあまるで、木原町子って人間が最初からこの世界にいなかったって事になるんじゃないか?
それって凄く寂しいというか、虚しいというか……。だってそうじゃないか。自分自身の証明が、何もかも無くなっちゃうんだから。

<……良いんですか?>

<……何が?>

<木原町子として、この世界から居なくなるって事が。だって……だって誰にも、覚えて貰えないんですよ?>

俺がそう言うけど、スネイルさんは微笑みを浮かべているだけだ。……寂しくないんですか?
俺なら、自分の存在がこの世界から居なくなるなんて思うと、情けないが泣き出したくなる。だってそうじゃないか。誰も自分の事を、思い出してくれないなんて。

<あくまで木原町子って存在は、貴方の監視を隠す為のフェイクみたいなもんだったからね。別に何とも感じないわ。
 それに、氷室さんは見てて飽きなかったし、貴方の振り回される様子には何時も和ませて貰ってたし>

……良く分からないけど、俺、軽く小馬鹿にされている気がする。ってちょっと待ってくれ。今さっき監視ってはっきり聞こえたんだが……。
それにフェイクって……。木原町子って人に変装してたのは、俺を監視する為の仮の姿だったって事か? というかそもそもスネイルさん、貴方は一体何者なんだ?
頭の中でマグマの様に、疑問が沸き出てくる。そんな俺を察したのか、スネイルさんは水面の様に落ちついた声で、ゆっくりと説明しだした。

<貴方を監視し出したのは、二年前に転校生として遥ノ市高校に来てからよ。ある人に頼まれてね。学生生活は昔を思い出させてくれて、実に楽しかったわ。
 そうそう……言いそびれてたけど、私は未来ではブレイブグレイブの開発者の一人として働いていたのよ。大勢の仲間と共にね。
 それと、プレイヤーとして、数多の大会にも参加してきたわ。その時の通称……聞きたい?>

<い、いえ、別に>

<魔女。まるで魔女の様に妖艶なプレイスタイルと、特殊カード使用時の鮮やかさは右に出る者はいないって言われてたのよ。どう? 凄いでしょ?>

誰も聞いてないのに……凄く目が輝いてるし。さっきのまでのクールで底知れない雰囲気の女性は何処に。というかナルシストなんですか?
取りあえず突っ込みはそれぐらいにして……。やっぱりそういう事か。アストライル・ギアを所持してるから、ブレイブグレイブに関わりがあると思ったけどまさか開発者なんてね。
もしかしたら、ヴィルティックに開発にも一枚噛んでいるのかもしれない。それに……いや、今聞くべきなのは、そういう事じゃない。
俺はじっと女性の目を見ながら、俺自身の中で一番答えが聞きたい質問をぶつける。

<監視を……>

<俺の監視を貴方に頼んだ人は……どんな人なんですか?>

どこまでも迂闊で馬鹿な質問だと思う。それに、こんな質問で素直に教えて貰えるとは絶対に思わない。
けど、ここで黙っていたら、俺は一生後悔すると思う。もしもスネイルさんが俺に対して、何かしら措置を取ろうとしたとしても、俺は答えを聞きたい。
スネイルさんと俺の間で、またも重い沈黙が流れる。と、スネイルさんが何故かクスクスと笑いだした。

<……そんなストレートに聞かれて、はい教えますと言う人がいると思う? もし居たとしたら、三下の悪党くらいよ。何時でも切り捨てられるポジションのね>

やっぱりそうなるか……。いや、これで良かったのかもしれない。必要以上に秘密を知ろうとして、大火傷しないとも限らないし。

<けど……その勇気に免じてヒントをあげる。私に貴方の監視を依頼したのは、貴方に一番近い人よ。……殆ど言っちゃった様なものね、これじゃあ>

……え? スネイルさんはそう言って、自嘲的に笑った。その笑いには、何処か一抹の寂しさみたいなのを感じる。……ヒントとはいえ、手がかりを貰えた。
けど、俺に一番近い人……? どういう意味なんだろう。俺に関わっている人は皆、未来の事なんて何も知らない筈だ。
未来を知っているとすれば……いや、馬鹿な。メルフィーがそんな依頼を出す訳無いだろ。大体メルフィーだって……。
待て、何かが引っ掛かる。メルフィーは俺にヴィルティックを渡す為に、未来からやってきた。それにスネイルさんも……。駄目だ、上手く言葉が見つからない。

こんがらがった俺の頭を解す様に、丁度良いタイミングで料理がやってくる。
……すげぇ。値段のせいか、皿の上がキラキラ光っている様に見える。この高級料理って感じの匂いもたまらんね。空腹の為か、マジで料理が輝いて見える。

<一先ずご飯を済ませて。私が話す話は、ご飯を食べながら聞ける様な軽い内容じゃないから>

同じく運ばれてきたワインを一口飲んで、スネイルさんが俺にそう言った。食べながら聞けないほど重い話……何か聞く前に気が滅入ってくるなぁ。
けどま、出来たての料理を待たせて話を続けるのは失礼だと思う故、俺は目の前の料理に専念する事にする。
うおぉ、フォークを少し入れただけですんなり入る……。フォークを刺して切り取った料理を口に入れる。一口、二口。

――――その瞬間、俺の頭に電流が走った。何だ、この美味さは!? こんなに美味い食い物食った事ねぇ!
空腹との相乗効果だとしても、美味い、美味すぎるぞ! コロッケの中の野菜と肉が織りなす絶妙のハーモニーに、掛けられたソースが三位一体となって俺を包む。
最早言葉はいらない。美味い。この三文字しか、俺の頭には浮かばない。気付けば皿は真っ白になっていた。三分も掛からず俺はコロッケ何たらかんたらを食べ終えてしまった。
ボリュームが凄く足りない気がするが、それさえ美味さにカバーされて俺はもう満足。これだけ美味い飯を食わせてくれたスネイルさんにはホントに感謝しなきゃな。

<凄い食欲ね……ま、三日も寝てたんじゃ当り前か>

三日? 俺って三日もベッドで寝てたのか……。
それほどあの戦いの後に疲れ切っていたのかもしれない。ホントに全身の神経を集中させて、オルトロックと戦ったからなぁ……。それに柄にも無く叫んだり、
にしてもメルフィーには悪い事したな……。余計な心配を掛けさせた上に、ずっと俺に付きっきりだったなんて。相当精神的に疲労してそうだ。
謝るだけじゃ何か悪いな。何か気の利いた物でも……そうか……もう家、ないんだっけ……。

<食べ終わったみたいね。それじゃあ本題に入りましょうか?>

<……スネイルさんは食べてて平気なんですか?>

<私の事は気にしないで。それより悪い方と凄く悪い方、どっちを先に聞きたい?>

どっちを選んでも俺にとって悪い方みたいだ……。どっちも聞きたくないけど、それは出来ないし、したくない。
だけど本能では、どっちも拒否している自分がいる。何を言われるかは大体予想は付く。それでも……キツイモノは、キツイ。
もし聞いた後、俺は平然としていられるかと思えば、多分していられないだろう。それなら凄く悪い方を先に聞いた方が……。

<……自分で決められないなら、悪い方から言ってあげようか?>

スネイルさんの声にハッとする。どこか奴の――――オルトロックの言葉と重ねって、俺の中での忌まわしい記憶が蘇る。
そうだ……俺には、未来を救うって目的があるんだ。頭を横に振って、気を取り直す。ヴィルティックに乗った時から覚悟は決めていたんだ。……ここで折れてどうする。
一度息を吐き、俺は呼吸を整えて、スネイルさんに返事をする。

<……悪い方からお願いします>

<分かった。それじゃあ話すけど、耳を塞がない様にね。私、口下手だから物事をオブラートに包んで話せないんだ。だからしっかりと聞いて、理解してね>

分かっています。僕も真実から逃げ……と思って唐突に思い出す。確かあの日、弁当を忘れる以外に何かあったんだ。とても重要な事が。
ぼんやりとその日が何かを、記憶の底から引きずり出す。あの日……そうだ、あの日は……。

<……オルトロックが、貴方の目の前でエルシュトリームクラッシュを撃ったでしょう? その範囲内に、貴方の住んでいるマンションがあった。で……>

今頃思い出すなんて、何やってんだ、俺は……! あんな日に誰も守れないなんて、俺は……俺は……。
どこまで……愚かなんだ……。俺の中で次にスネイルさんが何を言うか、既に分かっている。聞きたくない。だけど――――。

<……三人とも亡くなったわ。貴方のお父さんとお姉さんは、その日偶然、何時もより早く家に帰って来てたみたい>

<……偶然、じゃないです>

<え?>

<……忘れてました。あの日は姉貴の、姉貴の誕生日だったんだんです。あの日は……>

思い出した……あの日は……姉貴の、誕生日だった。メルフィーの事で頭が一杯で、俺は……忘れてたんだ……。
お袋が朝、俺に話しかけたのは弁当を忘れてるってだけじゃなくて、姉貴の、誕生日って事だったんだ……。
俺は……よりによって最高の記念日に、最低な間違いを犯してしまった。ごめん、姉貴……ごめん……ごめん……。謝ってもしょうが……しょうがないって……。
途端に視界が歪む。あの酷い夢がフラッシュバックして、俺は両手で顔を覆った。スネイルさんの言葉を、頭で理解しても心が理解を拒む。

<……泣いてるの?>

<泣いて……ません……>

俺……どこまで駄目だろう。守りたい人の記念日も忘れて、しかも守れないなんて……何なんだよ、俺って。
誰に……謝ればいいんだ。謝った所で、誰も……帰ってきやしない。……悔やんでも、何も、戻っちゃ来ない。
何のために俺は……ヴィルティックに乗ったんだろう。誰も守れず、今さえ守れず……俺は……俺の存在は……無意味、じゃないか?
抑えようとしても、涙が止まらない。分からない……俺がヴィルティックで戦う意味が……。

<自問自答なら、部屋に帰ってから好きなだけやりなさい。でも、時間は貴方の為に待ってはくれないわよ>

……スネイルさんの声のトーンが、今までと違う。俺の心を抉るような、鋭い声だ。確かに泣いていた所は、時間は流れてしまう……。
俺は弱くなっている心を無理やり奮いただせて、スネイルさんの話を聞く体勢を取り、しっかりと耳を傾ける。
……どうしたんだろう。スネイルさんは何故か俯いている。何か考えているみたいだ。俺は泣いていた眼をこすって、じっとスネイルさんが話しだすのを待つ。
どれくらい時間が経っただろう、スネイルさんが顔を上げ、俺に聞いてきた。

<一つ、先に聞いておくわ。貴方はこの後……いや、この先、どうするつもり?>

<……俺は>

<俺はこの先……メルフィーと一緒に未来に行くつもりです。この世界にいても、未来を変え――――>

その瞬間、俺は気付いてしまう。凄く悪い方という、言葉の意味が。

――――「木原町子」という存在はその瞬間、この世界からは消えたわ。跡形も無く、ね――――

そして……スネイルさんが、俺に何を言いたいかを。俺の意思を察したか分からないが、スネイルさんは俺の目をじっと見ながら、言った。

<本気でその決意を固める覚悟があるなら――――貴方に教えるわ。未来に於ける全てをね>

「今日はメルフィーと一種にゆっくり休みなさい。遥ノ市に行く時間は……10時で良いのね?」
「はい。宜しくお願いします」
「任しといて。それじゃ、メルフィーに宜しくね」

スネイルさんを部屋まで送って、俺はメルフィーが待つ、あの部屋まで歩く。にしてもスネイルさんのルームナンバーが666なのは偶然なのか否か。
ついでに遥ノ市に戻りたいとスネイルさんに頼んだ。あの戦いの後、街がどうなったか知りたいのと――――会長と草川に会いたいからだ。あの二人が無事なのか、それを知りたい。
それにしても妙に頭がふらふらする。現実感に欠けているというか。今更現実感に欠けるとか何言ってんだろうな、俺。
結局、俺はスネイルさんに自分がどうするかを答える事が出来なかった。怒られると思ったけど、スネイルさんは優しい声で仕方ないわねと言ってくれると、こう続けた。

<明日は一日、貴方の自由に過ごしなさい。それでじっくり、自分がどうするべきか、何をするべきかを考えてね。
 けど忘れないで。決断を早めに出さないと、全ての未来が閉じられてしまうから。今の貴方には酷な事だとは分かってる。でも覚えておいて>

<半端な希望を持って生きていく事は、絶望よりもずっと辛いわよ。例え何も見えない暗闇でも、泳ぎなさい。絶望の海を。

 けど、貴方にはその先の未来という光を掴む資格がある。必死にもがいて、苦しんで、その光を奪い取るの。貴方が守りたい全ての人と――――貴方自身の為に>

                        ・・・
<それと、確定された未来は変えられない。だけど、確定前の未来は変えられる。貴方自身の行動でね>


……こんな事を言いたくは無いけど、訳が分からない。絶望の海だの、光を掴む資格だの……。本気であの人の事が良く分からなくなってきた。
……ナルシストでポエマーなのか? いけない。命の恩人に失礼だ。それにしても良かった。あそこですぐに決断しろと言われなくて。
この期に及んで、俺はまだ悩んでいる。分かってるんだ。悩んでる時間さえ勿体無い事くらい。けど……踏み出せないよ。まだ。
カードキーを通して、ドアを開ける。結構時間経っちゃったな。すまない、メルフィー。

ベッドの所まで行くと、メルフィーは椅子にすわってまだ寝ていた。今気付いたけどツインベッド……当り前か。
にしても良く寝てるな。ここまですやすや寝てると、起こすのが悪い気がする。このままにしておこうか……けど駄目だろ、それじゃ。
俺はメルフィーの両肩を掴んで優しく揺らしながら言う。

「メルフィー、起きてくれ、メルフィー」

メルフィーは強く目を瞑ると、少しづつ閉じていた眼を開けた。まだ寝ぼけ眼みたいだ……。

「……隆昭……さん?」
「ごめんな、メルフィー。ちょっと飯食いに行ってて……」

俺の事が分かったのか、次第にメルフィーの目が開いていく。そしてその目からじわっと大粒の涙が――――え?
ちょ、メ、メルフィー! む、胸! 胸が当たっ、当たってるって! いきなり抱きついてくるとかこ、心の準備が……。
真っ白くなった頭を喚起させて状況を判断する。メルフィーは起きるなり、俺に抱きついてきた。勢い余って、二人一緒に後ろのベッドに倒れる。

「良かった……」

メルフィーはそう言いながら、目からぽろぽろと涙を流した。落ちてきた涙が、俺の頬を濡らす。
趣味が悪いと思うが……泣いているメルフィーの顔は、結構可愛い。……てかこのままの体勢だと、理性が色々ヤバい。

「隆昭さんが……隆昭さんが生きてて……本当に良かった……」
「いや、うん……それは良いんだ。あのさ、ちょっと離れてくれるかな……」

俺がそう言うと、メルフィーの顔がポカンとして、次第に顔が赤くなってきた。そして慌てて俺の上から退くと、何故かベッドの上で正座した。
頬を赤く染めて、メルフィーは俺と目を合わせない様に俯いた。……可愛いなぁ。言葉が浮かばないほど。

「ご、ごめんなさい! つい気持ちが舞い上がっちゃって……ごめんなさい!」
照れているのか、メルフィーは早口でそう謝った。気持ちが舞い上がったなら仕方ないね。
しかしさっきは別の意味で頭が真っ白になったよ。てか抱きついてくるなんて思いもしなかった……。こんな経験初めてだよ。
俺はベッドに腰掛けて、メルフィーの方を向き、さっき言えなかった事を伝える。

「……さっき起こせば良かったな。ごめんな、変な心配掛けさせて」
「いえ、私こそいきなり抱きついて、ごめんなさい……でも隆昭さんが生きててくれて、本当に嬉しかったんです」

そう言ってメルフィーは微笑んだ。アレ……メルフィーってこんなに可愛かったっけ……。湯気が出てるみたいに、頭がポーっとなる。
思えば真正面からこうやって、メルフィーと話すのは初めてな気がする。こうして見ると……あぁ、可愛いしか言葉が出てこないよ。
未来の世界について話してた時も、サンドイッチを一緒に食べてた時も、俺はメルフィーは正面から見てはいなかった。
俺は……ヴィルティックの事も、メルフィーの事も理解しようとしなかったんだな。

「あのさ……。ありがとな、メルフィー。俺、メルフィーが居なかったらオルトロックに負けてたと思う」
「……私の方こそ、有難うございました。マチコさんから聞いたんです。隆昭さんが、私を寸での所で転送してくれたって。もし少しでも遅かったら、私……」

そう言うとメルフィーの目からまた涙がこぼれてきた。ホント、変に涙脆いんだよな、この子。
俺はポケットから何故か入っていたハンカチを取り出し、メルフィーの涙を拭う。拭いた涙から、温かい感覚を感じる。

「なぁ、メルフィー。あんま泣かないでくれ。なんかさ、悲しくなるんだ。メルフィーが泣いてると」

俺がそう言うと、メルフィーは流れていた涙を手で拭って、大きく頷き、笑顔を見せてくれた。

「……はい。出来るだけ……泣かない様にします。隆昭さんを、悲ませたくないですから」

メルフィー……? メルフィーはそう言って目を瞑ると、自分の頬に俺の手を当てた。
白くて、綺麗で、柔らかいメルフィーの頬に触れる。何か頭の中がグルグルしてきた……ヤバい、俺の理性が……。

「とっても……温かいです。隆昭さんの手って」

考えてみればこれ何てゲームのシチュエーション……。美少女とベッドの上で二人とか……こんなシチュエーション、数十年生きてて初めてだよ。
ど、どうしよう……。こういう時に男ならその……。あぁもう、色んな意味で未経験な俺じゃどう行動するべきかなんて分かる筈ないだろ!
ひ、一先ずメルフィーから離れよう。それで風呂入って寝よう。そうすれば今凝り固まっている脳みそも少しは軽くなるだろう。

「あ、あの、あのさ、メルフィー。ちょっと俺、風呂入るから、後でメルフィーも入りなよ。うん」

必要以上にキョドりながら、俺はメルフィーから手を離して風呂に入る為に……。

その時、メルフィーが俺の服の裾を掴んで、言った。

「もう少し……」

「もう少しだけ……一緒に居て下さい」




                                予 告

            未だに傷跡を残す遥ノ市で、俺は二人と再開する。草川も会長も、あの事件で前の二人とは変化していた。
        二人と話していくうちに、俺は俺の存在意義について模索する。俺が生きている意味、俺が――――ヴィルティックで戦う意味を探して。
            俺の存在自体が、争いを生むのなら、俺の存在そのものが悪とするならば――――俺は、決断する。未来を、救う為に。

                                次 回
                          『ヴィルティック・シャッフル』

                             グッドバイ 後篇

                   最後に引くカードが何であろうと、俺は戦う。光を――――掴む為に


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