創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<ep.4>

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sousakurobo

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各国の豪華な料理を、煌びやかなシャンデリアが彩る。フォーマルなタキシードやドレスで身を包む紳士淑女達が、ワイン片手に談笑する。
ここはとある高級ホテルの大きなパーティーホール。紳士淑女の職業は各国のプレジデントや元軍人、また政治家等。
一貫しているのは皆何かしら、国に対して影響を与えている大物という事だ。

と、場内の空気のざわめきが収まる。皆の視線が、場内に入って来た白スーツの一人の男に注がれている。
オールバックの黒髪に、理知的な切れた瞳、白スーツの男は優しげな笑みを浮かべ、悠々と真正面のステージまで歩く。

白スーツの男がステージに立ち、紳士淑女達を真正面に見据える。司会の男が襟を正し、マイクのスイッチを入れた。
「それではこれより、我がアールスティック社の新型自動人形完成を祝っての祝賀パーティーを開催いたします。
 その前に、社長のタカダ・コウイチロウより祝杯の辞を述べさせていただきます」

司会の男が言い終わると共に、白スーツの男――――タカダが紳士織女達を一瞥し、高らかに声を張る。
「皆さま、この度は我が社の祝賀パーティーに集まっていただき、誠に有難うございます。
 此処までの道のりは決して平坦な物ではありませんでしたが、皆様の助力もあり無事に、完成に漕ぎ付く事が出来ました。
 この場を借りて、皆様に多大なる感謝の意を示すと共に、この功績が我が社、ひいては自動人形の歴史の発展に貢献する事を願って」 

白スーツの男が持ったワインを掲げる。正面の紳士淑女達も持っているワインを掲げた。白スーツの男が冷静なトーンで言った。

「乾杯」

再び談笑が始まる。ステージから降りたタカダに、早速紳士淑女達が話しかける。と、その時。
タカダのスーツの胸ポケットに入った小型のデータフォンが震えた。タカダは紳士淑女達にに失礼と言いながら会釈し、場内から速やかに出ていく。
データフォンのボタンを押し、口元を押さえる。先程の声とは一転、タカダはドスの利いた低い声でデータフォンの向こうの相手に応じた。

「俺だ。奴の居所は掴めたか? ……いい加減俺をイラつかせるのはよせ。奴を見つけるのにいくらかかっていると思う?
 良いか? 何のために警察共を買収してるのかをよく考えろ。調べられる所は徹底的に探せ。お前の首を叩き斬られたくなきゃな」

タカダは通話を終え、データフォンをしまう。再び優しげな表情を作る間際、タカダは思う。
――――早く奴を捕まえろ。アレを完成させるには奴と、奴が開発した……データチップが必要なんだ。


<ROST GORL ep.4>

午前中の仕事が終わり、軽食を取り私はティマを動物園に連れていく為、服を着替えている。
しかし動物園に行くなんて何年振りだろう……近くにあるとは聞いてたが、興味も無ければ行く理由も無いからな。
ティマは静かに図書館から借りた本を私の着替えが済むまで読んでいる。彼女の読む本は何というか、外見年齢からは到底思いつかない様な本ばかりだ。
何処の世界にニーチェとアインシュタインとアリストテレスに関する本を一緒に読む少女がいるだろうか。いや、世界は広いからいるとは思うが。

「待たせたね、ティマ。それじゃあ行こうか」
着替え終わりティマに声を掛けた。ティマは本を閉じ、小さく頷いてソファーから降りる。
気のせいだろうか、ティマが成長しているように感じる。全く背丈も顔立ちも変わらないが、妙に心構えというか精神的な部分が初めて会った時に比べて。
早速外に出てティマと共に愛車に乗る。勿論目的地はこの近くの動物園だ。時間にして30分程度。平日な為渋滞の心配は無し。良いねぇ。

「ティマ、最初にどんな動物が見たい? 君の見たい動物から順に回ろう」
愛車を出発させ、私はティマに質問する。ティマは考える素振りをするとハッと思いついた様に答えた。
「……マキ、私、犬見たい。それか猫」
「……ティマ、犬や猫は動物園じゃなくても見れるんだよ。むしろ動物園じゃ見れ……いや、一部を除いて見れないと思う」

苦笑しながら私がそう答えると、ティマが首を傾げた。
「マキ……動物園ってどんな動物でも見れるんじゃないの……?」
「ティマ?」
「私、柴犬やペルシャ猫やニホンオオカミやニッポ二アニッポンが見られると思ってたんだけど……」

ティマ……ここ数日たくさん本を読んでた様だけど、動物園に関する本は読んで無かったのかい?
後半に至っちゃ色々と訳ありだし……けれど彼女の期待を裏切ってしまった事には素直に申し訳ないと思う。
前もって説明しておくべきだったな。私は俯くティマの髪の毛を優しく撫でてあげる。ティマが私に顔を向けた。

「すまないな、ティマ。君の期待に答える事が出来なくて」
私がそう言うと、ティマは目を閉じて首を振った。……初めて見る動作だ。ティマが私を見上げて、囁くようにしゃべる。
「ううん。マキ、私こそごめんね。ちゃんと調べるべきだった……変な事言ってごめんなさい」

そう言ってまたティマは俯く。前から疑問に思っていたがどうしてティマはすぐに謝ろうとするのだろう。
かつての持ち主にそう行動するようにプログラムされたのか? 私は憤りを感じる。前の持ち主に対して何故ティマをこんな目にあわすのか問いたい。あくまで仮定だが。
静かにティマから手を離し、彼女の頬に触れる。眉を下げて目を伏せるティマを見て、無性に悲しい気分になる。

「ティマ、今度からごめんなさいはなるべく言わないようにしよう。その代わり、ありがとう、だ。」

私の言葉にティマが顔を上げた。興味を持ったようだ。
「ありがとう?」
「そう。何か人に良い事をされたら、その度にありがとうと返すんだ。そうするとな、皆笑顔になる。感謝されて嬉しくない人なんていないからな」
いや、感謝されて突っぱねる奴もいる事に入るが、そういう事をティマに教えるのはまだ早い。今この子に必要なのは……。

「分かった。私、ごめんなさいじゃなくてありがとうって言える様に努力する。えっと……」
ティマはそう言って、私に小指を付きだした。あーあれか……私も小指を突き出し、ティマの小指に絡ませる。どこか用途が間違っている気がしないでもない。
まぁ良い。ティマは真面目な顔で例の呪文を唱える。それにしても細くて白い指だ……。
「嘘付いたら針千本のーます」

タイミング良く愛車が動物園の駐車場に着いた。私はティマと同時に、最後の呪文を唱える。
「指切った」

愛車から降り、動物園の入場口を通り動物園に入る。独特の匂いが鼻をくすぐるが、ティマは特に気にならない様だ。まぁアンドロイドだしな。
しかしこんな未来になっても動物園はずっと昔に見たまんまなんだな。檻の中に動物がいて、その周りを入園客が眺める。
何だか無機質な機械に慣れた体には妙に新鮮だ。この動物園の光景が。檻というアナログな物体も、その中の動物も。
そうだ、カメラを持ってきてたんだった。動物と触れ合ってるティマを撮りたくてね。

カメラを通してティマを探す。ティマは……おっと、虎のいる檻に行っているのか。ぽーっとティマは虎を見つめている。
虎はというと、ティマの事などお構い無しに、あくびをしてねぐらを掻いている。まぁ今日は陽気が良いからな……。
取りあえず一枚。にしてもティマは動かない虎を見て面白いのかな? こっそりと近づいてみる。

「ティマ?」
「マキ……虎って実際見てみるとぐうたらな動物なんだね。図鑑だと凶暴って書いてあったけど」

……私は頭を抱えた。そうか、ティマは図鑑とホログラムTVでしか虎を見た事が無かった。
ここ数日を思い出すと、野生で生きる虎を見た事はあっても、動物園に居る方の虎の事をティマは何も知らないのだ。

ティマはきっと、そういう資料で見た凶暴な虎が見たかった筈。決して動物園で職務怠慢なグータラとしてる虎を見たいとは思わないだろう。
二重の意味で私はティマを失望させてしまった。とはいえ、ティマはアンドロイドだ。普通の子供の様に食べ物やおもちゃで懐柔出来ない。
何だか無駄に悲観的な気がするが、とにかく申し訳ない気分だ。ティマ……。

「……可愛い」
「え?」
「マキ、虎ってかわいいね。凶暴そうに見えて、普段は寝ぼけてるなんて。これが俗に言う……癒し、なのかな」

何だかよく分からんが、ティマはこのグータラ虎に意を示したらしい。いやぁ良かった。虎君……ありがとう。
虎から離れると、どの動物も平日で働くのが嫌なのかどいつもこいつもグータラしきっていた。だが逆にそれがティマの目には斬新に映ったようだ。
ティマは動物達を見ると私に嬉しそうに語る。その時の目が輝いている事。

「マキ、サルって手足を伸ばして活発に動くと思ったんだけど、疲れるからじっと座ってるんだね。意外となまけ者なんだぁ」
「ワニって何時も獲物を探して動いてるってイメージだったけど、実際は水の中でぷかぷかしてるだけなんだね。……可愛い」
「見て見てマキ―。オウムオウム。何も言わないね。喋ると疲れるから体力を温存してるんだね。賢いなぁ」

色々と間違っていると思うが、ティマが楽しそうなので問題ない。
実際、動物達を見ている時のティマの表情は、今までで一番明るかった。私はその表情を逃さぬよう、カメラで撮る。
彼女の表情にはアンドロイド特有の固さはあるが、動物達を見つめる目には興味がある物に対して純粋な輝きが見える。
それにしても思う。今私の目の前に居るのはロボットじゃない。少女、だ。好奇心旺盛な、一人の。

大方の動物は見て回り、ティマの表情を満足なくらいに撮れた。そろそろ帰ろうかとティマに声を掛ける。
ティマは頷いた。ティマの要望で、手を繋ぎながら入場口から出て駐車場に向かう。
その間際、今回の動物園についての感想をティマに聞いてみる。結構楽しんでいたと思うが、どうかな。

「楽しめたかな、ティマ」
「うん。マキ、私、分かった事がある。やっぱり実際に見てみるのと本で読むとじゃ全然違うんだね。感動したよ」
「感動……か」

ロボットが感動と口にするのは妙な感覚に陥る。まるでそう、心を宿している様な。
今までお前はティマの何を見てきたのかと自分自身を問うが、いまだにティマの存在に対して距離を取っている自分がいる。
上手く言えないが、まだどこかでティマに対してボーダーラインを引いているのだ。……厭らしい。私は厭らしい人間だ。
ティマの為だと言っても所詮自分の為なのかもしれない。自分の中にある空箱を、ティマで埋めようとしているだけで。

愛車に乗り込み、自宅へと設定する。帰ったらシャワーしてひと眠りでもしよう。
いや……自宅に帰る前に、図書館に寄ろう。ティマは既に借りた本を読みきったから、新しい本を読みたいと言ってたしな。

「マキ?」
ふと、ティマが私に対して心配そうな表情を浮かべるのに気付く。
「ん? どうした、ティマ」

「何か難しそうな顔してたから、何か心配ごとでもあるのかなって……」
ティマの表情に、私は苦笑してしてしまった。私がティマの心配をするならともかく、ティマが私の心配をするとは。
「いや。……ちょっと物思いに耽っていてね。ティマ、私は嬉しいんだ。ティマの喜んでる姿が見れて」

その感情だけは嘘じゃない。ティマの喜ぶ姿を見るのは嬉しい。
普段の彼女が物静かなだけに、感情を露わにしている時のティマは私にとって新鮮であり、俗的に言えば可愛らしいのだ。
だが、それ故にカメラを撮りながら私はふっと困惑する。私の目の前に居るのは、アンドロイドなのか、人間なのかが分からなくて。
これだ。私がボーダーラインを、引いている理由は。……ティマの両手を優しく握る。不思議に冷たさを感じない。そういう気がするだけだが。

「ティマ、ありがとう。久々に仕事の疲れが取れるほど楽しめたよ」
「ううん。私こそマキにありがとうって言いたい。動物の可愛らしさについて知る事が出来て良かった」
「……何か照れくさいな、ありがとうって」

私がそう言うとティマは、笑った。私ははっとする。笑った……ティマが?
ここ数日過ごしていて、ティマが微笑みでは無く笑顔を見せるのは初めてだ。気づけばティマの笑顔に釘付けになっている自分がいた。
そっちの気は無い、そっちの気は無いが……。……ティマの中で知識だけでなく、感情も成長しているのだろうか?
とにかくこのままだと色々とまずい気がするので、さっとティマから正面に視線を逸らし、話題を変える。

「……図書館に寄ろうか。読みたい本があるだろ?」
「あ、待ってマキ。私……私、公園にも行ってみたい。確か近くに合ったよね?」
ティマが自分から行きたい所を頼むなんて初めてだ。公園か……ナビゲーションを見ると確かに示している。
どうせ近くだしいいか。天気も悪くないしな。

図書館の駐車場に愛車を停め、ティマとその公園まで歩いていく。日差しが眩しいが不愉快ってほどでもない。
公園は小さくて、遊具といれば錆びれていて痛々しい滑り台とブランコ、それに何時頃からか設置されたか分からない程、古びたベンチだ。
なんだか動物園といい、こういう所は時代から取り残されているのかと思う。あるいはシステム化する必要が無いのだろうなと。

と、ティマが私の服の袖を引っ張る。ティマに目を向けると、妙にもじもじしている。何か言いたそうだ。
その様子がおかしくて、私は無言でティマを見つめる。と、ティマは私の事を察したのか、無言でブランコを指差した。

「それじゃあ押すぞ。心配するな、ティマ。馴れると面白いぞ」
「う、うん。お願い、マキ」

ブランコに乗ったティマを、私は押す。ティマは最初は目を瞑って体を強張らしていたが、次第に慣れてきたのか、足をぶらぶらして楽しんでいる。
にしても結構体力使うんだな、ブランコって。最近酷い運動不足なせいで、腕を押すだけで偉く疲れる。
しかしティマの笑顔を見ると、何か止める気にならない。いや、だが体は素直だ。関節がボキボキとなっている。いや、疲れるな、これ……

そういや外見だと分からないが、ティマはアンドロイドだった……そりゃあ重い筈だ。
「ティマ、ブランコの漕ぎ方は分かったかな?」
「うん。結構楽しい……」
「そうか、良かった。私はちょっとベンチで休むから、自分で漕いでくれてるかな。ティマ」

私がそう言うと、ティマは頷いた。物分かりがいい子で助かる。私はふらふらとベンチに寝そべった。
しかし何だろう、この感覚。不思議な気分だ。体は疲れ切っているが、心は疲れていない。むしろ清々しい気分だ。
人の為に自分の休日を使うのも何年振りだろう。今はただ、ティマと一緒に居る時間を噛みしめていたい。そんな、気分だ。

……どれほど寝たのだろうか。体中の疲れがすっかり取れている……様な気がする。
そう言えばティマはまだブランコに乗っているのな? まだ寝ぼけている眼を少し開いて、ブランコを見る。
……ん? ティマの前に、知らない人が立っている。茶色いコートの……確かこの前近くのゴミ捨て場で見かけた……。

……何だ? そいつはティマに対して、無遠慮に右腕を伸ばすと、ティマのおでこに触れた。
おい、やめろ! 私は反射的に立ち上がり、そいつがティマに触れるのを止める様に叫んで走りだす。
間に合ってくれ、ティマ!



続く

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