創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<ep.2>

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sousakurobo

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そろそろ雨が止んできたようだ。家に着いた頃に止むとはタイミングが良いというか何というか。
折りたたみ傘を閉めて、トランクケースにしまう。懐からカードキーを取り出して照合させる。。
カードを認識し、玄関のドアが開く。この時代では家のカギは家主、基その家に住む人間の指紋認証が一般的だが、私はあえてカードキーを使用している。
昔の様な鍵らしいカギはもう殆どその姿を消した。それこそ老人達が古き良き時代の名残として持っているくらい。私がカードキーを使用しているのは理由がある。
私は形ある物が無いと安心できないのだ。指紋認証とかいう、どこかふわふわした確証が取れない物より、無くす危険性があろうと確固とした形のある物の方が好きだ。

作業の自動化を憂いた学者を笑っておきながら、私もアナログな人間だな。と苦笑しながら家に入る。パタパタと音を立てて、彼女がこちらに走ってくる。
私が帰って来た事を察したティマが迎えに来てくれた。相変わらず表情は乏しいが、それが彼女の特徴でもある。
「只今、ティマ。TVは飽きたのか?」
「うん。欲しい知識が無かったし。ご飯出来てる」

靴を脱ぎ、私を見上げるティマの頭を撫でる。リビングから既に出上がった料理の香りが鼻をくすぐる。
ふとティマが不思議そうな表情を浮かべている事に気付いた。
「どうした? ティマ」
「前から不思議だと思う。人は食事を何故取るのかが。私の様にエネルギーを充填すれば時間を節約できるのに」

私はティマの疑問に視線を宙に向けて考える素振りを見せる。困る疑問だ。根本的に説明するのは簡単だが、それでは味気が無い。
私を見上げるティマの姿は、まるで本物の子供の様だ。それも知識を得ようと目を輝かせる。
彼女とはかれこれ二週間ほど(厳密に一週間ほどだが)過ごしているが、アンドロイド、いやロボットに入れ込む人の気持ちが何となく分かった気がする。
「ティマ。人には二つ、エネルギーを必要とする部分があるんだ。
 胃と心っていうね。人は胃だけでなく、心も満たさないと生きていけない不自由な生物でね。食事はその二つを満たしてくれる、重要な行為なんだ」
「胃と心……? 私にはその部分は無いからどれだけ不自由なのかが分からない。羨ましい」
「あっても嬉しい物ではないさ。人生における負担になるだけでね。……さ、あっちで一緒にニュースでも見よう」

時折、ティマの疑問に私は心が痛くなる。それが何故だかは分からないが、私の心境が何らかの変化を萌している事は分かる。
そして思い出す。ティマがあの日――――起動した日から、着実に成長している事にも。

ROST GORL ep2

例のアンドロイドをティマと名付けた翌日、私はティマを本来の姿に戻す為、欠損した部分の修復を行っている。
破壊されたマニュピレーターとショートした電子回路を馴染みの業者に頼んだパーツが来るまで修復しているのだ。
いざパーツが来た所で、スグに接合出来る筈がない。マニュピレーター……いわゆる人間の骨の部分を直さなければ、正常にパーツ同士を組み合わせる事が出来ない。
また筋肉の部分、つまり電子回路も直しておかなくてはならない。例え骨同士がくっついたとしても、それを動かす為の筋肉が無ければ何の意味も無い。

この作業には丸二日程掛かった。仕事が終わった後に取り掛かる為、毎日睡魔との闘いだった。
しかし不思議とこの作業には疲れを感じる事はない。初めて他人……というより仕事ではなく、自分自身の為にロボットを修理しているからだろう。
そう言えば電子回路がショートしていたとはいえ、完全に破壊されていた訳ではないのが助かった。手間と費用が馬鹿にならないからな。
熱中していると忘れそうになるが、ティマの修理費は私自身のポケットマネーで行っている。自分の為とは言え、懐を痛めたくないのでね。

ふと気になったが、欠損部分の痛ましい傷跡が、妙に生易しい様に感じる。いや、生易しいと言うと可笑しいのだが、どこか妙なのだ。
まるでティマを壊す事にどこか躊躇して、迷っている様な。だが堂々とゴミ捨て場に捨てるような輩がそんな事を考えるのだろうか。
そう言えば、何故その輩はティマの頭と左腕を、いやむしろ胴体部分を破壊しなかったのだろう。邪魔になって破壊するならそういった部分を率先して壊すはずだ。
修復作業をしている間、私の頭の中にそんな疑問が幾度となく過っていた。

ティマを私の家で修理して三日後。遂に馴染みである業者が、パーツを届けに来た。中型のトラックに乗って来たその男は、玄関前で待つ私に運転席から手を振った。
男はトラックを玄関前に止め、コンテナを開くと素早くキャスターに乗せた積み荷を下ろす。
トラックの荷台にいた武骨なフォルムのアンドロイドがコンテナから降りると、キャスターに置かれた両足のパーツを持ち、男が右腕のパーツを担ぐ。
男が私に向き合い、ニッと笑う。
「予定より遅れて悪かったなぁ、マキ。で、今回の修理ってのはそんなに大変なのか?」
「他人の用件じゃなくて私用なんだ。ま、立ち話も何だ。運んでくれるか、ゲンブ」

立派な口髭を蓄え、オレンジ色の丸いサングラスを掛けたその男――――ゲンブは私が唯一、お得意としている同業者だ。
親の代からロボットのスペアパーツを扱っており、家族とともに会社を切磋琢磨営業している。規模は大きくないが、それゆえに対応が丁寧でアフターケアも充実している。
彼とは若い頃に様々な苦楽を共にしている為、ビジネス上の関係を超えて心を許しあえる友人だと、私は思っている。
彼と彼の助手であるアンドロイドにパーツを運んでもらう為、ティマが眠るガレージへと足を早める。

「確か私用といったな。初めてじゃないか、仕事以外で俺の所にパーツを取り寄せるなんて」
「ちょっと色々あってな。今説明するよ」
ガレージに着き、私はティマに被せたシートを取る。ティマの姿に、ゲンブは感嘆の息を漏らした。

「ほぉ、少女型か。傷が酷いな……どれだけ酷い扱いを受けたんだか。で、これが?」
「ちょっと拾って来たんだ。酷い状態で放棄されてるのを見て、居た堪れなくなってね」
私の言葉にゲンブが眉をしかめた。理由は言わずとも分かるが、拾ってきた以上しょうがない。

「本気か、マキ? 放棄されているからといって勝手に持って帰っちゃ……」
「何、問題無いさ。それよりもこれを見てくれるか?」
私はそう言いながら、ゲンブにティマのデータチップを渡した。ゲンブは怪訝な表情を浮かべながらも、データフォンを取り出し挿入する。
数秒後、ゲンブはデータフォンのモニター画面を驚きの表情で見つめると、私に顔を向けた。

「これは……どういう事だ?」
驚嘆するゲンブからデータフォンを受け取る。モニター画面を見、私も驚いて目を丸くした。
モニター画面には、昨日のTeimaの様に、不思議な文字が群がって言葉を成型していた。その言葉はWho are you?
つまり、我々は誰かと問いていたのだ。データチップが意思を持っている? そんな馬鹿な話があるか。しばらくすると、文字が散り、言葉が消えた。
ゲンブから断り、ティマのデータチップを取り出す。ゲンブは俯き難しい顔をすると、私に言った。

「マキ、このアンドロイドにはもう関わるな。これは明らかに普通じゃない。遅かれ早かれ、厄介事になるぞ」
「既にそういった覚悟は出来てるよ。だが何とかなるさ。私は見たいんだ。このアンドロイドが立つ姿を」
ゲンブの目を見据え、しっかりとした声で答える。今の私の言葉に嘘偽りはない。
ティマの正体が何であろうと、私は彼女の本来の姿を見てみたい。それが馬鹿げた好奇心であり、危険に足を突っ込む事になろうと。

私の態度に、ゲンブはしばらく目を合わせると、ふっと俯き、天を仰いで苦笑した。
「俺はこの件にはノータッチだ、マキ。取りあえず仕事だけはこなすがな」
「悪いな、ゲンブ」

その後、ゲンブは私が取り寄せたパーツの説明を簡単に行い、自店へと帰っていった。改めて取り寄せたパーツを観察する。
これで接合し、後は細かい部分を補修すれば取りあえずティマは元のアンドロイドとしての形を取り戻す事が出来る。
しかし……私は掌のティマのデータチップを見つめる。これがティマを、いやアンドロイドの命といっても過言ではない。

データチップはアンドロイドのライセンス情報を刻んでいるだけではなく、アンドロイドを起動させる為のキーとなる。
というのも、データチップとはライセンス情報とは別に、アンドロイドがどう行動するかを定められた情報がセットで刻まれているのだ。
これを入れる事で、アンドロイドが指示された命令……つまりプログラムを理解し動く事が出来る。
ゲンブの助手であるアンドロイドは、ゲンブの手伝いをする様プログラムされている。それが普通なのだ。普通なのだが……。

ティマのデータチップには、そんなプログラムが組み込まれているかが分からない。
私の記憶上、ライセンス名が登録されてないデータチップでも、プログラムの詳細を知る事が出来る。
だがティマのデータチップは幾らやってもライセンス情報もプラグラムの詳細も知る事が出来なかった。
代わりにデータチップが映したのは不気味な文字と言葉。厳密に言えばこんなデータチップ、否、もはやデータチップと呼べるかどうかも疑問だ。

……面白い。面白いじゃないか。得体の知れない謎のアンドロイド。誰が作り、誰が捨てたかも分からない。
まるでSF映画の世界にでも入り込んだようだ。生憎私は秘密探偵でも、世界の命運を握る科学者でもないただの修理士だが。
今まで両親を気遣う為に仕事にめり込んできたが、その両親は今、私の稼ぎの甲斐もあり遠方で元気に畑を耕している。
そろそろ私自身の人生を私が決めても良いのではないだろうか。そう思うと、何故だか無性に興奮してくる。

一先ず取り寄せたパーツをティマに接合しよう。全てはそれからだ。私は早速作業に取り掛かる。
あらかじめ処理を終えていた為、何の苦労も無く欠損した部分にパーツを取り付ける事が出来た。
後は二~三日かけて接合した部分を滑らかに施す。そう、人間の手足と見分けがつかない程に。この作業をするかしないかで全く完成度が違うのだ。

仕事が終わる深夜、私は一心不乱にティマの接合部分の粗を削り、滑らかにしていく。次第にティマの手足が人間の少女のように美しくなっていく。
傍から見るとアンドロイドに夢中な気持ちの悪い男に見られるだろうが、今の私はそんな客観性を放棄する程、ティマに入れ込んでいた。
普通の食事を取らなくなり、簡素な固形栄養食品をほおばりながら作業に打ち込む。もっと、もっと人間らしくする事だけを頭に入れて。

ティマが来て5日が経った。気づけば風呂に4日も入っていない。今日は遠方からの依頼は日日を見送ってもらい、当日の仕事はすべてキャンセルした。
久々に洗面台を覗くと、目の下に濃いクマを創った実に不健康な男の顔が映った。私だ。認めたくないが、私だ。
上部に手をかざし、数回回して勢い良く水道を出して顔を洗う。クマは取れないが、幾分気分はすっきりした。ガレージに戻る。
朝日が照らし出す埃が、ティマが被ったシートを照らしている。何故だかとても誇らしい気分だ。只の自己満足だが。

ゆっくりとシートを取ると、そこには裸体で仰向けになった一人の少女がいた。朝日が照らしているからか、その肢体は美しく浮かび上がっている。
後は……私は握っているティマのデータチップを広げた。これを入れれば、ティマは起動する。
何故だか掌が軽く震えていた。仕事の時には全くそんな事無かったのに、何故かは自分自身分からない。
額の凹凸部分に触れ、挿入口にデータチップを軽く差し込む。

「起きてくれ、ティマ」

私はそう言って、データチップを強く差し込んだ。するすると、データチップがティマの中へと入っていく。
しばらくの静寂。現在ティマの中でデータチップに備われた命令(……あるのか?)が全身の電子回路に行き渡っているのだろう。
数分後、ティマの体から駆動音が鳴りだす。よし、順調だ。このまま行けばティマは目を覚ます……筈だ。

……何故だ? ティマ、何故目覚めない? 私の動悸が自然と速くなる。嘘だ。
私の行為が、全て無駄だとでも言うのか? 頼む、ティマ。少しでも、少しでも私に夢を……夢を、見せてくれ。

瞬間、ティマの体を幾つもの鮮やかな青いラインが奔った。その眩しさに私は思わず両腕で目を覆う。
そのラインは静かに消えていく。ゆっくりと私は両腕を離し、ティマの姿を見る。……ん?
ティマは……ティマは上半身を起こし、無表情で私を見つめていた。私の目とティマの目が合う。西洋人形の様に静謐な、吸い込まれそう程透き通った青い目だ。
初めて見た時には汚れていた事と目を瞑っていた事もあり、ティマに対するイメージが湧かなかった。今は違う。

私は茫然と、ティマを見つめていた。今、目の前にいるのはアンドロイドとは思えないほどに美しく、そして儚げな一人の少女だ。
今の状況は冷静に考えると非常にアンモラルな気がする。今、私が見惚れているのは少女型の、それも裸体のアンドロイドだ。世間体は真っ先に否定するであろう状況。
しかし、だ。それでも私の目は、ティマから逸らす事が出来ない。それほどティマの姿に私は釘づけになっている。

「ティ……ティマ、大丈夫か?」
我ながら自分の頭に大丈夫かと問いたい。何か言おうとしたが、そういうふざけた台詞から出なかったのだ。
ティマはしばらく私の目を見つめると、ボソッと言葉を発した。

「名前」
「……ん?」
「名前、教えて」

ティマの言葉の意味が分からず、私はきょとんとしてしまった。
名前……そうか、名前か。そうだ、名前を教えないとな、うむ。

「マキ。マキ・シゲルだ。君は、ティマで良いんだよな?」
「服」
「え?」
「服が欲しい。服」

ええっと……私は独身だから、その手の服は持っていないんだが。どう答えればいいのだろう。

「すまない、今は持ち合わせていないんだ。少し待ってくれないか?」

私の返答に、ティマは何か思い出す様に、視線を宙に向けると私に再び顔を向け、言った。

「そういう、趣味なの?」

この時点で私は何も知らなかった。彼女に潜む能力に。そして、彼女の抱える秘密に。


続く

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