創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

二話:【豚と美女とメタルボディ】

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集
 金髪の髪が輝く。豊満な胸と括れた腰、形のいいヒップは無駄にセックスアピールをしている。
 くねくねと歩く姿はいちいちセクシーさを強調し、着ているワンピースはボディラインをこれでもかと見せ付ける。
 口元の取って付けたようなホクロと、ふくよかでピンク色の唇はうっすらと笑みを浮かべていた。
 それはゆっくり歩いて、リクライニングソファに座る男になまめかしいが、どこか機械的な声で語りかける。その話し方すら造り込まれた物だった。

『ねぇビーン? お客様よ?』
「客う? 帰って貰えよ忙しいんだ」
『でもぉ、尋ねて来たのはヘンヨよ? ここに来るなんて珍しいんじゃない?』
「!! ヘンヨ!?」

 その名前を聞いてソファから飛び起きた男は、髭面を歪ませて焦っている。
 不摂生を絵に描いたような腹は着ていたTシャツの裾から見えている。ボロボロのカーゴパンツはボタンが留められず、チャックが半分開いている。ベルトで何とか吊り上げているだけだ。

「俺は隠れるぞ! うまくごまかしてくれ!」

 男は焦っていたが、いつの間にか後ろまで来ていた男に胸倉を捕まれ壁に叩き付けられる。そのままギロチンチョークを極められて、裕に百キロは超えているであろう身体は爪先立ちを強いられる程度に宙に浮く。
 こめかみには巨大なピストルが突き付けられる。

「ヘヘヘヘ、ヘンヨ!!」
「随分と適当な仕事をしてくれたなスレッジ」
『ごめんなさいビーン。珍しいから通しちゃったわ』

 ヘンヨはビーン・スレッジを解放する。どさっと床に転げたスレッジを見下ろしながら、ヘンヨはイライラした様子で銃のセーフティをかけ、ホルスターにしまい込む。ナイロンのホルスターにずっしりと重みが乗る。
 そして、なまめかしいアンドロイドがヘンヨに話し掛ける。

『いきなりハデねぇ。コーヒーはいかが?』
「俺は要らない。入口にいるお嬢さんに振る舞ってくれ」

 ヘンヨは床でげほげほ言っているスレッジを引っ張り上げ、ソファへと座らせる。どこからか引きずってきたワークチェアーをその前に起き、背もたれを前にしてどかっと座り込む。
 焦っているスレッジを睨み、静かだが威圧感たっぷりの声で事情の説明をし、スレッジに解答を求めた。
 最初の問題はずばり、失踪した依頼人のキースの事だ。

「どこにいる?」
「こ……こっちも探してんだ。いきなり消えちまってな。じゃないと俺がアンタに報酬を支払うハメになっちまう。あんな大金はムリだ」
「お前とキースの関係は?」
「仕事で知り合っただけだよ! 最初はアンドロイドの皮膚の売り込みに協力してやった時だ。いくら特許持ちでも売れなきゃ意味がねぇからな」
「無個性遺伝子か。キースの発明らしいな。なぜ俺を紹介した?」


「とにかく強くて頼りになる奴を紹介してくれって言われたんだ。それならアンタ以外思いつかねぇ。アリサには会ったんだろ!?」
「ああ。ここに来ているぞ」
「とにかくアンタへの依頼はアリサの保護だ。それ以上は何も言わなかった」
「その依頼人が行方不明じゃ仕事は受けられないんだ。何か知らないか?」
「だから知らねぇんだよ!いきなり消えちまってそれきりだ」
「やれやれだな……」

 スレッジとキースの関係は分かった。だが肝心のキースの行方については何も知らないらしい。
 もしこのままキースが失踪したままなら代金は仲介したスレッジが持つ事になる。それを防ぐ為に、まだ正式に依頼を受けた訳では無いのだが。

「キースは他に何か仕事をしているか?」
「確か……。どっかの研究室の顧問してたな。と言っても大した仕事じゃない。若い研究者と何やらネチネチ研究してた。
 特許のロイヤリティが主な収入源だ」
「アリサの証言と一致するな。」
「アリサはどこだ」
「入口まで来ていたが。よほどお前に会いたくないらしいな。キッチンでKKと話してるんじゃないか」

 KKとはスレッジが所有している金髪セクシーボディのアンドロイドだ。バイオマテリアルの表皮は生身の人間のように精巧で、プログラムは完全に所有者の好みに設定されている。
 馴れると見分けが付くが、バイオ表皮の登場は当初はかなりセンセーショナルだった。おかげで妙な使い道をする輩が大量に表れたが、医療関係や、客商売では大歓迎された。
 技術者だったキースの「個性無き遺伝子」が生み出しだそれは、アンドロイドに一大革命をもたらし、それの特許はキースに多額の財産を与える結果となる。

「狙われるような事は無かったのか?」
「わからん。仮に誘拐されたり脅されたりならこんな依頼出すか? 普通は助けてくれだろう」

 ごもっともな意見だ。どうやら本当に行方は知らないらしい。
 ならばもうひとつの事を聞いてみる。あの戦闘アンドロイドを呼び寄せた、大容量メモリーカードの事だ。
 それを取り出し見せた所で、スレッジは目の色を変えてメモリーカードに興味を示す。「どこで手に入れた」とか、「とんでもない代物だ」とかを連呼し、ついにはヘンヨからそれを奪い取ってしまった。

「どうしたんだこんな物!?」
「キースの封筒に入っていた。開こうとしたら武装したアンドロイドが尋ねて来てな」
「……だろうな。多分、ナノサイズの発信装置が混じってるんだ。フォルダを開こうとすると自動で作動する。ハードウェアを仲介せずに作動するから気付かれない」
「中身は分かるか?」
「これのか? 軍用のスーパーメモリーだぞ。巡航ミサイルの航路プログラムとか戦闘機の電子装備とか……」
「キースは一般人だ。そんな物を持ってるか?」
「じゃあなんだと思うんだ」
「見られるとマズイ物。それこそ武装した連中を呼び寄せる程の。特許が取れそうな新技術とか」
「新技術……?」
「キースはどこかの研究室の顧問をしていたんだな?」
「そうだが……。そうか。そこで開発された何かか。キースはそれを奪ってお前に寄越したのか」
「まだ分からん。キースが開発してそれを奪われそうになったのかも。
 特許は早い者勝ちだ。先に認められると後は法律がガッチリ守ってくれる」
 スレッジは立ち上がり、不細工な腹を出しながらもじゃもじゃ頭をボリボリかく。ヘンヨが次に言う言葉を予想していた。面倒な事になると確信している。

「……俺に中身を確かめろってか」
「お前にメモリーを預ける。頼んだぞ」

 スレッジなら発信プログラムを回避出来る。
 その為に必要な道具も揃っているのだ。

「俺が特許を奪ったらどうすんだい?」
「俺を敵に回すような事はしないと信じてるよ」
「……脅しだぜそれ」

 ヘンヨはアリサを呼ぶ。セクシーなKKと一緒に表れたアリサはスレッジを見るなりあからさまに嫌そうな顔をして、KKの影に隠れてしまった。
 ヘンヨはスレッジから聞いた事を説明し、依頼人キースが行方不明である事、仲介人スレッジのルール違反、危険なメモリーカードを説明も無しに送り付けた事から判断し、「依頼は受けられない」と伝える。
 アリサはがっくりしてしまう。

「だが」

 ヘンヨは言葉を続ける。キースの依頼は受けられない。だが、それ以外の人間ならば話は別である。

「アリサ、君が俺を雇うなら問題無い。条件にお互い納得したらな」

 すぐさまスレッジが口を挟む。

「なんでそこまで。キースは居ないんだぞ?」
「簡単だ。俺に銃を向けた連中に礼をする」
「ウソつけ。お人善しが」

 アリサは考えているが、答は決まっている。頼れる人間は他には居ないのだから。
 祖父の友人である不細工で小汚いオヤジと、グラマーなアンドロイド。そして、その友人が紹介した武装アンドロイドを一瞬で倒す赤い髪の男。
 頼れるのは、これだけしか居なかった。





※ ※ ※





 道路の脇には芝生が生い茂っている。一本道の先にあるシンプルな正方形の建物は、小さいがなかなかの存在感を誇っている。中小企業の割には稼いでいるようだ。

「なかなかいい所じゃないか」
「おじいちゃん、こんな所で働いてたんだ……」
「初めて来たのか?」
「うん……」

 アリサとヘンヨはキースが顧問をしていたという研究室を抱える企業に訪れていた。
 ヘンヨのスポーツクーペは大排気を吐き出しながら、その狂暴なエンジン性能とは反して企業の敷地の一本道を徐行している。可変式に改造された車高は一番低い位置にされ、地面を滑っているような感覚すらある。
 カーステレオはオールドスクールなスラッシュメタルを貧弱なスピーカーから流している。貧弱ながらも位置を考えて配置してあるので、スラッシュ特有のザクザクしたリフレインが車内に心地よく響く。驚くべきはスラッシュを好むのはアリサの方だった事だ。ヘンヨはハードトランスしか興味は無い。

 アリサは、結局はヘンヨと契約した。依頼内容はキースの捜索。
 そして支払う報酬は――。

「本当にいいのか?」
「何が?」
「あのナノメモリーだ。あれを報酬にしてしまっていいのか?」
「中身わかんないもん。もしかしたら役に立たない物かもしれないし……。
 あなただってそれ解ってていいって言ったじゃない」
「まぁそうだが……」

 もしかしたら膨大な金を産むかもしれないメモリー。
 だが、ヘンヨが気にしているのはその中身ではない。キースはヘンヨへとそれを預けたが、実際はアリサへと送った可能性もあるのだ。それを簡単に報酬にしてしまっていいのか。その事が気になっている。
 スレッジの「お人善し」という言葉がヘンヨの頭の中に響いていた。

「見てヘンヨ」

 アリサが言う。建物の入口に立つアンドロイドが気になったようだ。

「出迎えか。随分と丁寧な事だな」

 ヘンヨは建物の正面横の駐車場に車を停める。降りると出迎えのアンドロイドがヘンヨへ近付いて来る。
 アリサが気になるのも仕方がない。それは今では珍しい、バイオ表皮を持たない金属的なボディが向きだしのタイプだった。

『……ヘンヨ様ですね? お待ちしておりました』
「珍しいな。今時メタルボディか」
『私共はバイオ素材のみならずシリコンやアルミコーティングも扱っております。私のチタンコートボディは社長の趣味です』
「自由な会社だな」
『小さい会社ですので。そこが強味でもあるのです』

 ヘンヨとアリサはチタンの塊に導かれ建物へと入って行く。
 エントランスは至って普通の会社といった様子だ。受付は人間の女性が勤めている。普通ならば面倒な受付を通さなければならないが、アポを取っていたお陰かチタンの塊の誘導でそこをスルーしてエレベーターに乗る。
 行方不明のキースの捜索だと伝えるとすぐにアポは取れた。ここでも気に病んでいるらしい。表の顔である探偵業の肩書も役に立っただろう。
 目的の階は地下の培養施設。そこが、キースが顧問を勤めた研究室だ。

『キース様はここでバイオ表皮の新たな可能性を模索しておりました。新しいコーティング技術や、無個性遺伝子に方向性を付け、ある程度の差異を作り出す事に』
「問題にはならないのか? 無個性だからこそ流通している訳だ。個性を付けたらそれはクローン技術になる。法に触れてしまう」
『だからこそ苦悩されていたのです』

 エレベーターは地下三階で止まる。扉が開くと、ガラス張りの向こうに見えたのはシリンダーが立ち並ぶ培養施設。人間一人入れそうな程に巨大な物から、小さなフラスコに至るまでだ。
 アリサは初めて見る光景だけに口を半開きでそれを眺めている。チタンの塊はそれを見て動きの無い顔でアリサに話す。表情こそないが、笑っているのだろう。

『珍しいですか?』
「工場とか初めて見ました……」
『見学はいつでも受け付けております。興味があったらいつでもどうぞ。……正直、人気が無いので案内業務は暇なのです。今なら貸し切り状態ですよ』

「おじいちゃんはこんな仕事してたんだ……」

 アリサは培養装置を見ながらそう漏らす。正確にはキースは研究者であり工場とは関係ないのだが、アリサには同じに見えた。バイオ素材を扱うので一緒くたに考えていた。

『こちらです』

 チタンの塊が案内した先の小さな部屋。そこに目的の人物がいる
 ドアをノックすると、金属と金属がぶつかる音がする。その後に聞こえるのは人間離れした電子的な声。

『アンダース主任、ヘンヨ様をお連れしました』
「……開いてる。通してくれ」

 チタンの塊がドアを開ける。中で書類の山のデスクに座っていた白衣を着た男は立ち上がり、笑顔でヘンヨとアリサを迎え入れる。

「ようこそ。アンダースです。よろしく。ミスターシュレー」
「ヘンヨでいい。こっちはキースの孫のアリサ。電話で言ったな」

 アンダースはアリサを見る。すっきりした黒い短髪とさわやかな笑顔は、先程のスレッジとも横にいる赤い髪のバトル系も違う、一見「普通の人」という印象だ。
 だが、アリサはどこか冷たい印象を受ける。アンドロイドのような機械的な感じに似ていた。アリサの直感が危険だと言っている。自分自身にとっては有害な人物だと。
 実際、アンダースはジロジロと興味深げにアリサを見ていた。爽やかな見た目に反して、気持ち悪いというのがアリサの印象だった。

「さっそくだが」

 ヘンヨが切り出す。

「キースはここで何を作っていた?」
「もちろんバイオマテリアルの研究だ。クローン法に抵触せず、いかに人種の特徴をだすか……。その事に心血を注いでいたよ」
「それだけか?」
「それだけとは心外だな。今の表皮は真っ白なアルビノ表皮だけだ。後から色素を入れなければならない。だが、最初から色素を持っていればその手間が省けるし、紫外線に弱いという弱点も克服出来る。一石二鳥だ」

 アンダースは資料を持ち出してヘンヨに差し出す。キースのレポートだ。内容は「色素遺伝子の発現とクローン法の解釈」。
 ヘンヨにはとても興味が無い事柄だ。クローン法は人間の定義を決める法律である。この法律では、既に市民権を得ているアンドロイド達ですら人間ではない。彼らを殺しても、器物破損で終わる。
 今更人間扱いしろとは言わないが、少し彼らに対して敬意に欠けるとヘンヨは思っている。

「キースはクローン開発をしていたのか? 法に触れない程度に」
「いいや。クローンなんて興味は無かったよ。あくまでも無個性遺伝子だけだ。法律が少しジャマだっただけでね」
「なるほどね……」
「キースはクローンよりもオリジナルの表皮を作ろうとしていたんだ。アルビノ表皮の無個性遺伝子から。それなら元になる遺伝子は無い」
「それならクローン法には触れないって訳か。予防線として、このレポートを書いた」
「恐らくね。……この話でキースの行方の手掛かりは何かあったかい?」
「いいや。消えた理由はいくらでも推測出来るがな。ライバル企業とか人権団体に拉致されたとかね」
「穏やかじゃないな」
「実際その通りだ」

 アリサは二人の話に置き去りされていた。理解出来たのは、祖父の行方は今だ知れないという事だけ
 アリサを見るアンダースの目は、まだ気持ち悪いままだった。





※ ※ ※





『よっ………こいしょっと!!』
「よーしよし。よく出来たKK」
『ドアを開けただけよぉビーン?』

 スレッジの家の地下室。鋼鉄と緩衝材とステルス塗料に囲まれた部屋がそこにある。一度入ったら最後、一切の通信を拒否してしまう部屋。
 部屋の外にはジャムが囲むように配置され、物理的にも電子的にも通信システムは機能しなくなる。スカラー磁場通信でも出来れば話は別だが、アンドロイドが闊歩し、戦闘機がビーム兵器を搭載する現在でもそこはSFの領域を出ていなかった。

『何するのぉ?』
「当然メモリーの中身を見るんだよ。万が一に備えて地下でやるのさ」
『閉じ込められちゃったらどうするのぉ~?』
「まさか。メモリー開いた事すらばれないさ。それに一応、プログラムを回避するように起動させるよ。それに……」
『それに?』
「ここなら閉じ込められても二人きりになれるだろぉ~」
『アンドロイドに溺れてるから結婚出来ないのよビーン?』
「……」


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