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ビューティフル・ワールド 第七.五話 冷鉄」(2010/03/06 (土) 00:06:33) の最新版変更点

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燻っている様な灰色の雲が覆う空の下で、ある実験が極秘下の元、行われようとしている。 見渡す限りの雪原風景。気象の影響で少しづつ溶け始めているものの、未だに雪は厚い。その白き地面に三角州の形で下部が埋め込まれた、三つのカプセル。 そしてカプセルの前面に配置された、巨大な鉄の塊。この奇妙な光景を遠くから双眼鏡で、防寒服を着た二人の男が覗いている。 一人はこの前のある実験で、狂気の片鱗を見せた老科学者、レファロ・グレイ。これから行われる実験が待ちきれないのか、右足が若干貧乏揺すりをしている。 もう一人はレファロに最も近い黒服である、ノイル・エスクード。電子機器のパネルとカプセルを、交互に何度も見直す。 彼は実験のサポートを担っており、手元には様々な情報が入っているであろう電子機器と、部下に指示を出す為、トランシーバーが掛けられている。 「それで何時になったら実験体は来るんだ? そろそろ待ちくたびれた所だ」 イラつきを押えながらも険しい口調でレファロがそうノイルに聞いた。 ノイルはお待ち下さいと返事し、トランシーバーを作動させて部下と一言二言交わす。レファロに顔を向け、ノイルは報告した。 「申し訳ありません、只今到着したとの事です。カプセルは取り外しますか?」 「構わん。やれ」 ノイルは深く頷くと。再びトランシーバーで部下に指示を出す。すると防寒服を着た者達がそそくさとカプセルに駆け寄った。 慎重にカプセルの蓋を取り外す作業を行い、全てのカプセルの蓋が開かれ、円形ブロックが露になった。蓋を持ってすぐさま者達が退却する。 円形ブロックからわらわらと黒く小さき物体が出てきて、目の前の鉄の塊へと群を作ってまっすぐに向かっていく。 三方向より来たる物体によって白い雪原が黒く染められていく様子は、どこか気味が悪い。 同じ頃、向こう側から、5機のオートマタが雪原に深い足跡を作りながら、ゆっくりと歩いてくる。 そのオートマタは5機とも同じ形状をしている。その形状は腕部、脚部、全ての部分が直線で構成されており、オートマタというより、重機の様だ。 頭部のみが曲線でヘルメットを思わせる形状をしており、バイザー奥から緑色のモノアイが淡い光を発する。隊長機であろうか、一番先頭を歩く機体には角が付いている。 他の機体にはそれぞれ数字がペイントされ、2・3・4・5となっている。形状にしろ、雰囲気にしろ、どこか軍隊を彷彿とさせる。 「あれは新型か。名前は?」 レファロの質問にノイルが手元の電子機器でデータを引き出し、説明する。 「現在試作段階中である、ジャーヘッドシリーズです。群れを成して行動する野良オートマタの習性を研究して作られたオートマタで、6機を1小隊としてカウント。  角が付いている機体を隊長として、神子が隊長に対して命令を下し、神子の命令を考慮した作戦を隊長が組み立て他の機体に指示を出し、自分達だけで作戦を遂行させます。  ただ、マナの配分率は6機に拡散するので、3分間程度しか活動できず奇襲用にしか今の所使えないのが難点ですが」 「……5機しかいないが、残りの1機はどうした?」 ノイルが向こう側へと指を差した。レファロがカプセルから、ノイルが指を差した方へと双眼鏡を移す。 双眼鏡の先には、4m以上もある身の丈以上に長い、巨大なスナイパーライフルを構えて膝を下ろすジャーヘッド、もとい6が見えた。 「6機全てが闘う必要はないと思われますが、不慮の事態に備え、遠くから6が狙撃の準備を行っております」 「これはお前が考えた作戦か?」 「いえ、隊長が自ら考案した作戦です。私はただ、指定された目標を駆逐しろと」 「ほぉ……」 レファロは続けて、鉄の塊を食らっているレギアスの前へと揃い踏みしたジャーヘッド部隊へと双眼鏡を移す。 隊長は背部のマウントラッチに積まれた、巨大な二つのタンクより弾丸が装填される、二門のガトリング砲を両腕に装備している 2と3は、速射性と連射性に優れた特性のアサルトライフルを装備し、4は肩に弾数は少ないながら、強力な火力を持つバズーカ砲を肩に担ぐ。 5はレギアスの動きを捉えられる様にトリモチ弾が入った特性ライフルを装備。どの武装も抜かりはない。 隊長が考案した作戦はこうだ。 まず、5が先頭に立ち、ライフルを撃って目標、つまりレギアスを捉える。動けなくなったレギアスを、隊長と2・3が一斉射撃でダメージを与える。 最後に4がバズーカを撃ち、止めを刺す。もし逃した場合でも、6が狙撃。最初の段階で5が失敗しても、あくまでそれは保険だ。 隊長と2・3・4による熾烈な攻撃に、試作テストの段階とはいえ、抵抗できたオートマタはいない。今回も必ず成功する筈だ。 <お前達、フォーメーションイーグルだ!> 隊長が他のジャーヘッド達に声を上げた。まず5が隊長の前に出て、その後ろに隊長が移動し、左右に2・3。止めを差す4が一番後ろに行く。 「始めろ」 ノイルが隊長に向かって通信を入れる。隊長は頷き、前に居る5に知らせるべく右腕を上げると、勢い良く振り下ろした。風を豪快に切る音がした。 目の前に敵がいるにも関わらず、レギアスは未だに鉄の塊を喰らっている。しかし次第に鉄の塊が消えていくと共に、その姿を現し始める。 膨張している部分が締まって、それは腕となり、足となっていく。荒く成型された部分が滑らかな曲線を描いていき、一つの形となる。 数分後、そこには巨大な黒き巨人が片膝を下ろし、ジャーヘッド達の前に姿を表した。 その姿形は殆ど人間を模しているといっても良い。しかし人間とは決定的に違う。だがオートマタとも全く違うと言える。 黒き巨人は立ち上がると、ジャーヘッド達の方へと少しづつ体を向ける。表情以前に顔が無い為、異様に不気味な感覚を覚える。 <撃てぇ――――!> 隊長が叫ぶと同時に、5がライフルの引き金を引いた。ライフルより発射された白くネバついた液体が、レギアスの足元目掛けて落ちる。 レギアスは動きだそうとするが、トリモチ弾が地面ごとレギアスを押えこんでおり、一歩も足を動かせない。 隊長と2・3がレギアスに向かって砲口と銃口を向けた。再び隊長が叫ぶ。 <続けぇ!> 隊長と2・3が引き金を引き、レギアスに向かって容赦の無い弾丸の雨を降らせる。凄ましい銃声音と焼けつく様な火薬の匂い。 辺り一面を大量の硝煙が浮かんで、レギアスの姿が見えなくなる。隊長と5・2・3がその場から退き、4がレギアスに向かってバズーカを構える。 バズーカから放たれる弾頭。その弾頭は正確にレギアスにまで伸びていき―――――数秒後、爆発。地面が揺れる程の衝撃と、業火が風船のように膨らんだ。 空中へと昇っていく業火が空気にかき消されていく。壮絶な連続攻撃により、レギアスが居た場所には、数メートルの範囲にも及ぶ、深いクレーターが出来ていた。 レギアスの姿は、ない。 衝撃から身を守るため、しゃがんでいたレファロとノイルが体を起こす。双眼鏡でノイルが現況を見、レファロに言った。 「……博士、レギアスですが」 ノイルと同じく、双眼鏡で覗いているレファロが、冷淡な声で答えた。 「心配ない。実験は続行させろ」 <……隊長、これで目標は> <おそらく沈んだ筈だ。それにしても……> 隊長は思う。完全にガトリング砲とアサルトライフルは当たっていた。当たっていた筈だが、奴はまるで……。 <何にせよ、これで我々の任務は完遂した。帰還するぞ> <了解!> その時、隊長は何故か5が返事をしない事に気付く。何故かクレーターの方を見て、じっと動かない。 隊長は近づいて、5に声を掛けた。5は隊長が近づいても、何の反応も見せない。 <どうした? 帰還するぞ> 次の瞬間、5の胴体や各部の隙間から、黒い液体がダラダラと大量に零れだした。驚き、隊長が瞬時に後退する。 5を侵食するかの如く、その液体が5の足元から胴体へと昇っていき、装甲を黒くしていく。 やがて上から下まで黒く染まった時、5の姿が、倒した筈の――――レギアスへと変化した。 だいぶサイズが縮んだものの、その姿は間違いなくレギアスその物だ。準備運動する様に、レギアスが軽く首を回す。 レギアスはそのまま、呆然としている隊長の頭部へと貫手を伸ばした。貫手が非常に先端の尖った針へと変化すると、隊長の頭部へと突き刺さった。 <隊長!> 2が叫ぶ間もなく、隊長に突き刺さった針が薄くなり、円形の巨大な刃となって隊長を左右に切断した。 <隊長をよくも!> すぐさま4がレギアスに向けてバズーカを構えた。が、時すでに遅し。 片方の貫手を鋭利な両刃に変え、レギアスは4の頭部を貫いた。両手がダランと下りて、4が両膝を付き、沈む。 アサルトライフルを投げ捨て、3が膝元に収納されたダガーナイフを取り出して、レギアスに向かって走り出す。 レギアスは気付いているのか、いないのか、3の方を向く気配はない。3が肩を振り回して、ダガーナイフを持ちかえる。 <沈め……化物が!> 3がレギアスの頭部をダガーナイフで斬り落とした。完全に堂が入ったその攻撃に、ボトッと、鈍い音を立てて、レギアスの頭部が落ちる。 頭部を失い、レギアスの体がフラフラしながら、貫手を元の形に変化させると、そのまま仰向けに倒れた。 転がった頭部にも、頭部を無くした本体にも、動く様子は見られない。ダガーナイフを収納し、3が隊長と4の元へと駆けよる。 <駄目だ……どっちも完全に破壊されてる……> 2が悲痛な声でそう言った。分からなくもない。 胴体を左右に切断された隊長は、綺麗に内部の機械部分まで斬られており、元の姿に戻す事は出来ないだろう。 頭部を貫かれた4も、顔全体に長い亀裂が入っていて修理不可能だろう。あの一瞬で、2機のオートマタをレギアスは破壊したのだ。 <……だが目標は沈黙した。我々は勝ったのだ。……払ってならない、犠牲を払ったが> 機械とはいえ、ジャーヘッド達には感情がある。涙は流せぬが、同じ闘いを経験した仲間を思う、心はある。 2と3は立ち上がり、隊長と4、そして5に向かって敬礼した。 「博士、これでレギアスは」 「いや」 ノイルの言葉をすぐさま否定し、レファロは口元に笑みを浮かべると、言葉を続けた。 「まだ、レギアスは沈んではいない」 敬礼する2と3の背後で、レギアスの頭部が転がっている――――が、一切の動きを見せないその頭部が、音を立てずに転がって移動している。 2も3も、自分の後ろで頭部が動いている事に気付いていない。頭部は自らの力で立ちあがると、触手の様な腕を、粘土の様に作りだす。 そして自分に近い3の背後へと、その腕を伸ばしていく。静かに3の背後に手を当てて、水面の様に手を広げて浸透させていき―――――そして。 <ぐわぁぁぁぁぁぁ!> 3が絶叫し、背後を振り向いた。斬り離した筈の頭部が、自分に向かって腕を伸ばしてくっ付いている。 <この野郎まだ!> 2がそう言ってアサルトライフルで頭部を撃とうとした、が、幾ら引き金を引いても、虚しく引き金を引く音だけが宙に響く。どうやら撃ち過ぎたらしい。 2が接近戦に持ち込もうとし顔を上げた。が、目の前で起こっている事に唖然とし、体が動かない。 レギアスは3へと食らいついた腕を伝って頭部を動かすと、布のような形に変化し、3へと覆いかぶさった。 必死に抵抗する3だが、レギアスは3の胴体から頭部までぐにゃぐにゃと浸透していく。段々、3の動きが停止していく。 3の全身が黒くなり――――レギアスは、またも復活を果たした。そして残っている2へと向きあい、両手を変化させる。 2は頭部に手を当てると、待機している6へと通信を入れる。最早それしか、手立ては無い。 <シックス! 撃てぇぇぇぇぇぇ!> 2がそう叫んだ瞬間、数十メートル先からスタンバイしていた6がマナを溜めて、スナイパーライフルで狙いを定める。 だが、6は戸惑った。目標―――――レギアスが二体、2の近くに居るからだ。頭部があるレギアスと、頭部の無い、レギアス。 <待て! どっちが本体だ!?> <ど、どっちもだ! 頼む、早くしてくれ!> 6に気付いたのか、頭部の無いレギアスが体を6に向けた。そして左腕をもぎ取ると、自らの全長ほどある槍へと変化させた。 そして投げ槍の体勢を取ると、方向を変えて、全力で放り投げた。放たれたその槍は、信じられないほどのスピードで6へと飛んでいく。 スコープを覗き、射撃体勢を取っている6は、飛んでくる槍が槍だとは分からず首を捻った。瞬間、ライフルごと6の頭部を、槍が突き刺した。 <おい……おい! まさか……返事をしろ!> 通信が途絶えた6に、2が必死で応答する様に声を荒げる。しかし、聞こえてくるのは雑音だけだ。 <何……何なんだ。お前達は一体……何なんだ!>                             闘う手段を全て失い、2は恐怖のあまり、尻餅を付いて後ずさりする。2の質問に、レギアス二体は、交互に答えた。 <我々は、個> <我々は、全> <我々は個にして、全。如何に我々の個を滅した所で何の意味も持たない> <我々は全であり、個。互いが互いを補完し合い、個として全となり、全という名の個を形成する> <我々の名は、レギアス。オートマタ、ではない。我々の名は――――――――――> 瞬間、2の視界は真っ暗闇に消えた。ジャーヘッド達が全滅させられるのに、5分も掛からなかった。 「……ジャーヘッドは6機全て全滅しました。如何なさいますか」 ノイルの言葉に、レファロは双眼鏡を下ろし、目を輝かせながら、言った。                             ビューティフル・ワールド                         the gun with the knight and the rabbit                                           「レギアスを収容しろ。それとジャーヘッド、あれは企画ごと抹消しておけ」                          「弱いオートマタに、存在価値は無いからな」                                                               7・5話 冷鉄 #back(left,text=一つ前に戻る)  ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) #region #pcomment(reply) #endregion
燻っている様な灰色の雲が覆う空の下で、ある実験が極秘下の元、行われようとしている。 見渡す限りの雪原風景。気象の影響で少しづつ溶け始めているものの、未だに雪は厚い。その白き地面に三角州の形で下部が埋め込まれた、三つのカプセル。 そしてカプセルの前面に配置された、巨大な鉄の塊。この奇妙な光景を遠くから双眼鏡で、防寒服を着た二人の男が覗いている。 一人はこの前のある実験で、狂気の片鱗を見せた老科学者、レファロ・グレイ。これから行われる実験が待ちきれないのか、右足が若干貧乏揺すりをしている。 もう一人はレファロに最も近い黒服である、ノイル・エスクード。電子機器のパネルとカプセルを、交互に何度も見直す。 彼は実験のサポートを担っており、手元には様々な情報が入っているであろう電子機器と、部下に指示を出す為、トランシーバーが掛けられている。 「それで何時になったら実験体は来るんだ? そろそろ待ちくたびれた所だ」 イラつきを押えながらも険しい口調でレファロがそうノイルに聞いた。 ノイルはお待ち下さいと返事し、トランシーバーを作動させて部下と一言二言交わす。レファロに顔を向け、ノイルは報告した。 「申し訳ありません、只今到着したとの事です。カプセルは取り外しますか?」 「構わん。やれ」 ノイルは深く頷くと。再びトランシーバーで部下に指示を出す。すると防寒服を着た者達がそそくさとカプセルに駆け寄った。 慎重にカプセルの蓋を取り外す作業を行い、全てのカプセルの蓋が開かれ、円形ブロックが露になった。蓋を持ってすぐさま者達が退却する。 円形ブロックからわらわらと黒く小さき物体が出てきて、目の前の鉄の塊へと群を作ってまっすぐに向かっていく。 三方向より来たる物体によって白い雪原が黒く染められていく様子は、どこか気味が悪い。 同じ頃、向こう側から、5機のオートマタが雪原に深い足跡を作りながら、ゆっくりと歩いてくる。 そのオートマタは5機とも同じ形状をしている。その形状は腕部、脚部、全ての部分が直線で構成されており、オートマタというより、重機の様だ。 頭部のみが曲線でヘルメットを思わせる形状をしており、バイザー奥から緑色のモノアイが淡い光を発する。隊長機であろうか、一番先頭を歩く機体には角が付いている。 他の機体にはそれぞれ数字がペイントされ、2・3・4・5となっている。形状にしろ、雰囲気にしろ、どこか軍隊を彷彿とさせる。 「あれは新型か。名前は?」 レファロの質問にノイルが手元の電子機器でデータを引き出し、説明する。 「現在試作段階中である、ジャーヘッドシリーズです。群れを成して行動する野良オートマタの習性を研究して作られたオートマタで、6機を1小隊としてカウント。  角が付いている機体を隊長として、神子が隊長に対して命令を下し、神子の命令を考慮した作戦を隊長が組み立て他の機体に指示を出し、自分達だけで作戦を遂行させます。  ただ、マナの配分率は6機に拡散するので、3分間程度しか活動できず奇襲用にしか今の所使えないのが難点ですが」 「……5機しかいないが、残りの1機はどうした?」 ノイルが向こう側へと指を差した。レファロがカプセルから、ノイルが指を差した方へと双眼鏡を移す。 双眼鏡の先には、4m以上もある身の丈以上に長い、巨大なスナイパーライフルを構えて膝を下ろすジャーヘッド、もとい6が見えた。 「6機全てが闘う必要はないと思われますが、不慮の事態に備え、遠くから6が狙撃の準備を行っております」 「これはお前が考えた作戦か?」 「いえ、隊長が自ら考案した作戦です。私はただ、指定された目標を駆逐しろと」 「ほぉ……」 レファロは続けて、鉄の塊を食らっているレギアスの前へと揃い踏みしたジャーヘッド部隊へと双眼鏡を移す。 隊長は背部のマウントラッチに積まれた、巨大な二つのタンクより弾丸が装填される、二門のガトリング砲を両腕に装備している 2と3は、速射性と連射性に優れた特性のアサルトライフルを装備し、4は肩に弾数は少ないながら、強力な火力を持つバズーカ砲を肩に担ぐ。 5はレギアスの動きを捉えられる様にトリモチ弾が入った特性ライフルを装備。どの武装も抜かりはない。 隊長が考案した作戦はこうだ。 まず、5が先頭に立ち、ライフルを撃って目標、つまりレギアスを捉える。動けなくなったレギアスを、隊長と2・3が一斉射撃でダメージを与える。 最後に4がバズーカを撃ち、止めを刺す。もし逃した場合でも、6が狙撃。最初の段階で5が失敗しても、あくまでそれは保険だ。 隊長と2・3・4による熾烈な攻撃に、試作テストの段階とはいえ、抵抗できたオートマタはいない。今回も必ず成功する筈だ。 <お前達、フォーメーションイーグルだ!> 隊長が他のジャーヘッド達に声を上げた。まず5が隊長の前に出て、その後ろに隊長が移動し、左右に2・3。止めを差す4が一番後ろに行く。 「始めろ」 ノイルが隊長に向かって通信を入れる。隊長は頷き、前に居る5に知らせるべく右腕を上げると、勢い良く振り下ろした。風を豪快に切る音がした。 目の前に敵がいるにも関わらず、レギアスは未だに鉄の塊を喰らっている。しかし次第に鉄の塊が消えていくと共に、その姿を現し始める。 膨張している部分が締まって、それは腕となり、足となっていく。荒く成型された部分が滑らかな曲線を描いていき、一つの形となる。 数分後、そこには巨大な黒き巨人が片膝を下ろし、ジャーヘッド達の前に姿を表した。 その姿形は殆ど人間を模しているといっても良い。しかし人間とは決定的に違う。だがオートマタとも全く違うと言える。 黒き巨人は立ち上がると、ジャーヘッド達の方へと少しづつ体を向ける。表情以前に顔が無い為、異様に不気味な感覚を覚える。 <撃てぇ――――!> 隊長が叫ぶと同時に、5がライフルの引き金を引いた。ライフルより発射された白くネバついた液体が、レギアスの足元目掛けて落ちる。 レギアスは動きだそうとするが、トリモチ弾が地面ごとレギアスを押えこんでおり、一歩も足を動かせない。 隊長と2・3がレギアスに向かって砲口と銃口を向けた。再び隊長が叫ぶ。 <続けぇ!> 隊長と2・3が引き金を引き、レギアスに向かって容赦の無い弾丸の雨を降らせる。凄ましい銃声音と焼けつく様な火薬の匂い。 辺り一面を大量の硝煙が浮かんで、レギアスの姿が見えなくなる。隊長と5・2・3がその場から退き、4がレギアスに向かってバズーカを構える。 バズーカから放たれる弾頭。その弾頭は正確にレギアスにまで伸びていき―――――数秒後、爆発。地面が揺れる程の衝撃と、業火が風船のように膨らんだ。 空中へと昇っていく業火が空気にかき消されていく。壮絶な連続攻撃により、レギアスが居た場所には、数メートルの範囲にも及ぶ、深いクレーターが出来ていた。 レギアスの姿は、ない。 衝撃から身を守るため、しゃがんでいたレファロとノイルが体を起こす。双眼鏡でノイルが現況を見、レファロに言った。 「……博士、レギアスですが」 ノイルと同じく、双眼鏡で覗いているレファロが、冷淡な声で答えた。 「心配ない。実験は続行させろ」 <……隊長、これで目標は> <おそらく沈んだ筈だ。それにしても……> 隊長は思う。完全にガトリング砲とアサルトライフルは当たっていた。当たっていた筈だが、奴はまるで……。 <何にせよ、これで我々の任務は完遂した。帰還するぞ> <了解!> その時、隊長は何故か5が返事をしない事に気付く。何故かクレーターの方を見て、じっと動かない。 隊長は近づいて、5に声を掛けた。5は隊長が近づいても、何の反応も見せない。 <どうした? 帰還するぞ> 次の瞬間、5の胴体や各部の隙間から、黒い液体がダラダラと大量に零れだした。驚き、隊長が瞬時に後退する。 5を侵食するかの如く、その液体が5の足元から胴体へと昇っていき、装甲を黒くしていく。 やがて上から下まで黒く染まった時、5の姿が、倒した筈の――――レギアスへと変化した。 だいぶサイズが縮んだものの、その姿は間違いなくレギアスその物だ。準備運動する様に、レギアスが軽く首を回す。 レギアスはそのまま、呆然としている隊長の頭部へと貫手を伸ばした。貫手が非常に先端の尖った針へと変化すると、隊長の頭部へと突き刺さった。 <隊長!> 2が叫ぶ間もなく、隊長に突き刺さった針が薄くなり、円形の巨大な刃となって隊長を左右に切断した。 <隊長をよくも!> すぐさま4がレギアスに向けてバズーカを構えた。が、時すでに遅し。 片方の貫手を鋭利な両刃に変え、レギアスは4の頭部を貫いた。両手がダランと下りて、4が両膝を付き、沈む。 アサルトライフルを投げ捨て、3が膝元に収納されたダガーナイフを取り出して、レギアスに向かって走り出す。 レギアスは気付いているのか、いないのか、3の方を向く気配はない。3が肩を振り回して、ダガーナイフを持ちかえる。 <沈め……化物が!> 3がレギアスの頭部をダガーナイフで斬り落とした。完全に堂が入ったその攻撃に、ボトッと、鈍い音を立てて、レギアスの頭部が落ちる。 頭部を失い、レギアスの体がフラフラしながら、貫手を元の形に変化させると、そのまま仰向けに倒れた。 転がった頭部にも、頭部を無くした本体にも、動く様子は見られない。ダガーナイフを収納し、3が隊長と4の元へと駆けよる。 <駄目だ……どっちも完全に破壊されてる……> 2が悲痛な声でそう言った。分からなくもない。 胴体を左右に切断された隊長は、綺麗に内部の機械部分まで斬られており、元の姿に戻す事は出来ないだろう。 頭部を貫かれた4も、顔全体に長い亀裂が入っていて修理不可能だろう。あの一瞬で、2機のオートマタをレギアスは破壊したのだ。 <……だが目標は沈黙した。我々は勝ったのだ。……払ってならない、犠牲を払ったが> 機械とはいえ、ジャーヘッド達には感情がある。涙は流せぬが、同じ闘いを経験した仲間を思う、心はある。 2と3は立ち上がり、隊長と4、そして5に向かって敬礼した。 「博士、これでレギアスは」 「いや」 ノイルの言葉をすぐさま否定し、レファロは口元に笑みを浮かべると、言葉を続けた。 「まだ、レギアスは沈んではいない」 敬礼する2と3の背後で、レギアスの頭部が転がっている――――が、一切の動きを見せないその頭部が、音を立てずに転がって移動している。 2も3も、自分の後ろで頭部が動いている事に気付いていない。頭部は自らの力で立ちあがると、触手の様な腕を、粘土の様に作りだす。 そして自分に近い3の背後へと、その腕を伸ばしていく。静かに3の背後に手を当てて、水面の様に手を広げて浸透させていき―――――そして。 <ぐわぁぁぁぁぁぁ!> 3が絶叫し、背後を振り向いた。斬り離した筈の頭部が、自分に向かって腕を伸ばしてくっ付いている。 <この野郎まだ!> 2がそう言ってアサルトライフルで頭部を撃とうとした、が、幾ら引き金を引いても、虚しく引き金を引く音だけが宙に響く。どうやら撃ち過ぎたらしい。 2が接近戦に持ち込もうとし顔を上げた。が、目の前で起こっている事に唖然とし、体が動かない。 レギアスは3へと食らいついた腕を伝って頭部を動かすと、布のような形に変化し、3へと覆いかぶさった。 必死に抵抗する3だが、レギアスは3の胴体から頭部までぐにゃぐにゃと浸透していく。段々、3の動きが停止していく。 3の全身が黒くなり――――レギアスは、またも復活を果たした。そして残っている2へと向きあい、両手を変化させる。 2は頭部に手を当てると、待機している6へと通信を入れる。最早それしか、手立ては無い。 <シックス! 撃てぇぇぇぇぇぇ!> 2がそう叫んだ瞬間、数十メートル先からスタンバイしていた6がマナを溜めて、スナイパーライフルで狙いを定める。 だが、6は戸惑った。目標―――――レギアスが二体、2の近くに居るからだ。頭部があるレギアスと、頭部の無い、レギアス。 <待て! どっちが本体だ!?> <ど、どっちもだ! 頼む、早くしてくれ!> 6に気付いたのか、頭部の無いレギアスが体を6に向けた。そして左腕をもぎ取ると、自らの全長ほどある槍へと変化させた。 そして投げ槍の体勢を取ると、方向を変えて、全力で放り投げた。放たれたその槍は、信じられないほどのスピードで6へと飛んでいく。 スコープを覗き、射撃体勢を取っている6は、飛んでくる槍が槍だとは分からず首を捻った。瞬間、ライフルごと6の頭部を、槍が突き刺した。 <おい……おい! まさか……返事をしろ!> 通信が途絶えた6に、2が必死で応答する様に声を荒げる。しかし、聞こえてくるのは雑音だけだ。 <何……何なんだ。お前達は一体……何なんだ!>                             闘う手段を全て失い、2は恐怖のあまり、尻餅を付いて後ずさりする。2の質問に、レギアス二体は、交互に答えた。 <我々は、個> <我々は、全> <我々は個にして、全。如何に我々の個を滅した所で何の意味も持たない> <我々は全であり、個。互いが互いを補完し合い、個として全となり、全という名の個を形成する> <我々の名は、レギアス。オートマタ、ではない。我々の名は――――――――――> 瞬間、2の視界は真っ暗闇に消えた。ジャーヘッド達が全滅させられるのに、5分も掛からなかった。 「……ジャーヘッドは6機全て全滅しました。如何なさいますか」 ノイルの言葉に、レファロは双眼鏡を下ろし、目を輝かせながら、言った。                             ビューティフル・ワールド                         the gun with the knight and the rabbit                                           「レギアスを収容しろ。それとジャーヘッド、あれは企画ごと抹消しておけ」                          「弱いオートマタに、存在価値は無いからな」                                                               七.五話 冷鉄 #back(left,text=一つ前に戻る)  ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) #region #pcomment(reply) #endregion

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