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リング状の円盤の上。 そこには二機の鋼機が立ち双方が太刀を構え向き合っている。 その片方の鋼機の中に自分はいた。 目の前のモニターには一機の黒い鋼機。 ただ、ただ、ただ、全ての区切りを付けたかった。 相手は祖父を陥れた張本人、そして――に陥れられた被害者。 ジャミング。 決着が付く。 傷ついたものが復讐を傷をつけた者に復讐を行いその結果傷ついた別の人間がまた復讐を行う。 言うなればこれは復讐の連鎖だった。 それを終わらせたかった、それは相手も同じだったのだろう。 だからあの男は最期に言ったのだ「俺にはなるな。」と・・・。 それは善意だったのかもしれない、違う道を行くことで永遠に苦しめという意味だったのかもしれない。 ――おい リプレイ。 映像が巻き戻される。 二体の鋼機の剣戟が始まる。 片方は二刀、もう片方は一刀だった。 二刀を持つ鋼機は次々と攻撃を繰り出す、その一刀の鋼機はその攻撃をなんとか受けるのが精一杯だった。 なんで今こんなモノを見ているんだろうか・・・。 ああ、わかっている、これは夢だ。  ――お~い だが、出来るならばこの時に戻りたい。 そう切に願う。 所詮はそれは適わぬ夢に過ぎないのだとは理解している。 だが、だがそれでも、それでも俺は――   ――起きろ!! バシャーーーーーンと大きな水の音がした。 そうして全身に染み渡る冷水の冷たさと共にクーガ・ラグナグは覚醒した。 「目、覚めた?」 目の前には空のバケツを持った、赤い髪の女がいる・・・。 クーガも昨日、初めて会ったばかりの女だ。 彼女は何か面白いものを見るような目でクーガを見つめている。 名前はミナ、同じシャドウミラージュの部隊員で、クーガと同じ鋼機乗り、つまり騎士だという。 「――冷たい。」 クーガの体はびしょびしょに濡れていた。 体だけでは無い寝ていた寝台までがびしょ濡れだ。 「だってさ、あんたがあんまりに起きないもんだから。」 ミナはニコリと笑う。 「いや、それでもこれは無いだろ!普通はさ、優しく肩をポンポンとか叩いてあげたりして起こすのが基本じゃないのか?それがせめてもの人間としての常識じゃないのか?」 「体揺すって『起きろ』って何度も言ってるのに、あんたまったく目を覚ます気配がないからさ、もう強行手段に出るしかないってね?わざわざ起こしてやってるのに起きないあんたが悪い。」 ミナはむっっとクーガに指をさした。 「いや、それでもな・・・。」 その後に言葉が続かなかった。 実のところ・・・いや、本人にとっては本当に嫌な話ではあるのだけれど、クーガの朝の弱さは知人達には有名な話だ。 ちょっとした馴染みのある人間には朝の弱さを天変地異が起こってもあなたはベッドの上で安らかに寝ているなどと酷く言われた事もあるぐらいだ。 いや、むしろそいつが言いだしっぺか・・・。 「とはいえな・・・」 窓から外を見た、町並みの先にある地平線のさきからうっすら光がこぼれている。 つまりは今、現時点では日の出前という事だ。 昨日は深夜過ぎまで起きていた為、こんな時間に起こされて起きろというのはちょっと酷な話なんじゃないだろうか。 「何の用だ?こんな時間に・・・講話なら昼からの筈だが・・・というかなんで俺の部屋にいる?。」 「んー、暇だからかな。」 「ひ、暇ぁー?」 クーガは間の抜けた声を上げた。 「そ、この世で最もにして最大の敵は暇だと思わない?クーガ・ラグナグ。」 「だからフルネームで呼ぶなって、俺、その字は嫌いなんだから、クーガでいいの!クーガで!!呼び捨てでいい、俺も昨日、あんたが言ってたみたいに他人行儀で話されるのは嫌いだし。  ああ、でも、さんとか君とか呼ばれた事無いから呼ばれてみた事ないからちょっと憧れが…。  ああ、何を言っているんだ、俺は…。大体だな、暇だったらむしろ好き放題できるから楽しいじゃないか。」 「自分でボケたあとツッコミやる奴なんて始めて見た…。」 カタリナは面白いものを見たような目をしながら、少し考えるようにして、続ける。 「ふーん、でも一人で出来る事なんて、やっぱ飽きるっしょ、やっぱり生活には刺激っていうのが大切だと思うんだよね、でも刺激ってものは誰かと作りあげるもんだからさ、あたし一人じゃ出来ないんだよね。」 「んで、なんで俺がその刺激を作る相方に選ばれたんだ?昨日、会ったばっかだし・・・それっておかしくないか。」 ミナはそのクーガの発言を受けて、さも当然のように、 「理由は簡単にして単純明快、他の奴を弄るの飽きたから。」 と即答した。 「あーそうですか・・・。」 他の部隊員も同じ目に合わされていることを知り、クーガは少しシャドウミラージュの仲間に同情した。 「ま、今から緊急会議あるみたいだから、それでってのもあるけどね、さっさと起きなよ、十分後かららしいし。」 「じゅ、十分後だって!!それを先に言えよ!てか、いったいどこが暇なんだ?!んで、どこだそれは?」 クーガは慌ててベッドから飛び起きて着替えを始める。 流石にびしょ濡れの格好で会議になんていくわけにはいかない。 「イアナーラ領主館の会議室、まあ、あんたが昨日長ったらしい講釈を受けてたところね。」 「その長ったらしい講釈を台無しにしたのは誰だよ・・・。」 クーガはミナの発言にボソりと呟いた。 一昨日、このイアナーラに着たばかりのクーガは鋼機技師のカタリナに現状と任務の説明を受けていたのだが、この女が乱入してきた為に中途半端なところで終わってしまった。 正直なところ、まだカタリナに聞きたい事があったがゆえにクーガはミナのこの行動に少々の恨みを持っていた。 さて、ところでだ、一つクーガは気づかないといけない事に気づいていない。 それに気づいているミナは必死に笑いを堪えている。 だが、ミナが何かに対して、笑いを堪えているのはクーガにもわかった。 「何、必死に笑いを堪えてるんだ?」 その発言がさらにミナの笑いのツボを刺激し、ついに我慢が出来なくなったミナはゲラゲラと笑い始める。 「だってさぁ、あたし一応、女なんだぜ、ちょっとは気ィ使えったりしねえよのかよ。 クク、駄目だ、あーもう駄目、プクク、本当に駄目、普通、女の目前で服着替えるか? それも昨日あったばかりのようなやつの前で、クハーもうたまんないな。あんた絶対デリカシー無いとか女に会うたびに言われてるだろ。」 悲しい事に事実である、つい先日もとある少女に面と向ってデリカシー無いですねと笑顔で言われたのだ。 「そう思うなら普通は女から出てくだろ、お前も大概だ、出てけ!!!」 苦し紛れにクーガは大声をあげて言う。 とはいえ既に先手が取られている為、もはや苦しい、非常に苦しい発言だった。 そのクーガの表情をみてミナは、 「いいの、いいの、私は劇団の生まれだから男の裸なんて見慣れてるし、やましい心なんてこれっぽっちも持ち合わせてないんだからさー。」 と笑いながら答える。 クーガはそれはそれで問題だとは思ったが、この手の手合いにそういう事いってもまったく意味を成さないを経験から知っている。 主にとある知人のせいで…。  状況によってはこういう奴にそういう事を言うと、さらに話が伸びるという酷い惨場に発展しかねない。 それで会議に出られなくなったら、幸い自分の寝室は領主館の二階の客室だ。 会議室は1階。 つまりは、今なら急げばまだ間に合う。 ならばこの目の前にいる女をまともに相手にしてはいる暇など無い。 だから― 「だから、さっさと出てけ!」 そういってクーガはミナを無理矢理部屋から追い出した。 クーガが会議室に入ったのは会議の始まる丁度30秒前だった。 「初っ端からこんなギリギリに来るとは関心せんぞ、坊主。」 慌ただしく会議室に入ったクーガを席の最前列にいる白髪の老人が睨むように見てそう言った。 クーガは周りを見渡す。 会議室の中には20人ほどの人間がいた。 「すみませんでした。」 クーガは即座に謝る。 その後ろでセイムとミナがクスクスと笑っていた。 その仕草にクーガは少々むかっ腹が立ったが今はそんな事で文句を言っている場合では無いと思い何も言わずにセイムたちの後ろの席に腰掛けた。 「まあ、ドンマイ。」 セイムはクーガに小声で一言、そう言った。 「どうせ、悪いのは俺ですよー。」 そう一言だけクーガはむくれたように返した。 「さて、話を始めようかと思うがいいかな。」 スクリーンの前にカタリナが立ってそう言った。 それに対して、全員が了承の一声を出す。 「あー、そうそう、話を始める前にいっておくが、今回のこの会議には隊長は不参加だ、なんでも国の式典に呼ばれたらしい。 最近サボりすぎてたせいか、そのツケを返せと国王自ら書状を送ってこられたそうだ。 まあ、そういうわけで隊長はいない、隊長代行としてはホークアイ副隊長に頼む事になった。 まあ、明後日には戻ってくるそうだが・・・その間の臨時というわけだな、さて前座はこんなところだな、それじゃ副隊長、頼む。」 白髪の老人が席を立ち、クーガ達の側を向いた。  「初めて会う者もおるから言っておこう、わしがホークアイ・グロウズだ。」 静かでそして重い、そんな声だった。  手や顔のしわといった容貌からさっするに軽く60はゆうに超えているだろう。 しかし、一番強く印象を与えるのはその非常に鋭い目であり、その眼光からは老いから出るような衰えのようなモノを感じさせない。 会議室全体に息がつまりそうな程の緊張感が充満している。 それを誰が放っているのかをクーガはその時、理解した。 「では各員からの報告に入ってもらおう。まずは、ディールダインの収集状況から・・・。」 そうして、各員が報告を始めた。  物資の補給状況、鋼機の整備状況、人員の補充等様々な報告が終わり、現存する妖魔の数の情報に入った。 報告から妖魔をクロロスペッツゥナから誘いだす作戦は成功しているという、つまりはシャドウミラージュは役目を果たしてるという事なのだろう。 妖魔分布の担当者は報告を続ける。 「現在の妖魔のこの地域一体の分布状況をわかりやすくしたものがあります、モニターを見てみてください。」 モニターに情報が掲示される。 「この辺り一帯の地図に妖魔の分布・動向を現したものです。クロロスペッツゥナのある北東部が3分の1の数の妖魔になっているのがおわかりいただけるでしょうか?」 差し棒で担当者はその該当箇所を指す。 確かに前日受け取った資料と比べると、北東部の紅いマーカーの量が大きく現象しているのがわかる。 その分、色々な箇所に薄く、妖魔が現れていると示唆はされている・・・。 「とりあえず妖魔の誘導には成功しているといったところか・・・。」 ホークアイが顎の髭をなでるようにして言った。 「ええ、これは大きな成果です、次のスライドを見てください。」 モニターに別の映像が表示される。 そして、同じ地図にマーカーで新しい妖魔の分布が表示される。 「これは明後日の妖魔の動きを今までの動きから予想したものです。当初の予定では南部に妖魔を集める予定でしたが北東部にも若干妖魔がいってしまいました。ですが、この程度ならば問題ないでしょうし――」 その時、扉を開けて、一人の男が大きな男が入ってきた。 何か慌てている様子が感じ取れる。 その男はスライドの前で説明している報告者の耳元で、告げる。 報告者の顔が焦りの顔が見えた。 そして2分ほど、二人の間に静かなやりとりがあった。 セイムはそれを気にいらなそうに報告者を見て、 「こういう場所で内緒話をするのは関心しないな・・・。」 そう冷たく言い放った。 「そうよね、あたしたちにも何か教えてほしいよね。」 ミナはセイムのその発言に同調する。 それを聞いてホークアイは少し考えるようにした後、 「まあ、問題は無いだろう、言ってやれ。当事者もここにはいる事だしな。」 報告者に説明を促した。 報告者は少し困った顔をした後、ホークアイの方を見て、ため息をつき、決意を固めた顔をして、 「クーガ・ラグナグ名誉騎士の報告にあった、『名無し』が妖魔の襲撃にあったそうです。」 そう告げた。 クーガは立ち上がった。 「・・・・・・それはどういう意味だ?」 クーガの口調には焦りが含まれているのはその会議室に居た人間全てが感じ取れただろう。 「言葉通りの意味です、クーガ・ラグナグ名誉騎士、あなたが妖魔グラスと戦った際に居たという『名無し』が3時間ほど前に妖魔の襲撃に会ったということです。」 クーガは席から離れようとするが、それをセイムが、 「どこへ行く気だ?」 そういって抑えた。 「どこでもいいだろう。」 クーガはそうぶっきらぼうに答える。 クーガの表情から普段感じられる余裕がまったくない。 唇が震え、顔が真っ青になっている。 誰の目から見てもクーガが正常な判断力を失っているのは明らかだった。 そうしてセイムはその場に立ち会った人間としてクーガが何をしようとしているかは理解している。 クーガは今すぐにでも『名無し』の人々を救いに行こうとしているのだ。 責任感からか、情からか、それともまた他の感情からかはわからない・・・だが、それが彼を急かせているのは事実だった。 だが、そう、まだ席を立つには早い。 「まあ、話は最後まで聞いてからいけよ。」 「そんな暇が――」 反論しようとしたクーガの顔面をセイムは殴りつけた。 その光景に会議室でどよめきが起こる。 「あのな・・・まともに動く機体も無いお前が今、あの集落に向かって行ったところで何が出来るというんだ?何をするとしてもまずは状況確認からだろ・・・少しは落ち着いて人の話を聞け・・・。」 セイムの静かに一喝し、クーガは押し黙った。 「わかったか?」 「わるかったよ・・・。」 セイムが言った事はクーガも頭の中では理解していたのだろう。 だが、クーガは『名無し』の事を考えると、いてもたってもいられなかった、それゆえに急いているのだ。 ミナはその光景を見て、少し呆れた風な素振りを見せた後、 「んで、襲撃って言われてもさー、実際にはどんな事があったわけ?」 そう、報告者に質問した。 その場であった出来事に気を取られていた報告者はミナの言葉に虚を突かれ慌てて答える。 「え、あ、はい、一応、クーガ・ラグナグ名誉騎士殿の送られた増援の鋼騎士二体が迎撃を行い、その場の妖魔は撃退したそうです。」 「ん??なら問題無いんじゃない、被害らしい被害は出なかったんでしょう?対して取り乱すような話でもないじゃないか。」 ミナはあきれたように言った。 しかし、報告者は深刻な表情を変えない。 「他になにか問題があるのか?」 セイムはそう報告者に問う。 「ええ、そうです、確かに撃退には成功したそうです、『名無し』側にもたいした被害はありませんでした、しかし、この際の妖魔の動きが妙だったそうなのです。」 「妙?」 ミナは興味深かそうに聞き返した。 「ええ、そうです、どうも『名無し』には複数、だいたいは4、5体の妖魔が襲ってきたらしいのですが、護衛の鋼機たちが現れた途端に、退却をしたそうなのです。」 セイムは少し思案し、一息ついて、報告者に尋ねた。 「一つ聞きたい、そいつらは護衛の鋼機達と交戦すらしていないのか?」 「ええ、そうです。」 報告者は眼鏡に手を当てながらそう答える。 その回答に対してセイムは腕を組み考え始める。 クーガはそれを訝しげに見て、 「一体なんの問題があるんだ、それは?」 セイムに聞いた。 セイムは腕を組み、少し声のトーンを落として答える。 「ああ、おかしいと思わないか?普通の妖魔ならば例え鋼機がいようとも、村を襲撃してくる筈だ。基本的にはいくら鋼機を使おうと複数の妖魔に対抗するのは人間側にとって分の悪い勝負だからな。」 鋼機一機につき、下級妖魔一匹と戦えるというのが基本的な今の鋼機のステータスだった。 かつては複数がかりでやっと一匹と戦えるというケースだったのだからこれでも人間側は妖魔と闘えるようになってきているという事である。 しかし、妖魔が優位なのは変わらない、『名無し』に送り込まれた鋼機が精鋭だとしてもだ。 「妖魔は馬鹿じゃない、むしろ俺達人間なんかよりずっと賢い奴もいると言われている、知の求道者とかがいい例だ、つまりだな、奴らには戦力的優位性が確実にあるというのにわざわざ鋼機を見るやいなや退却した、クーガ、これの意味するところがわかるか?」 セイムは謎かけのようにクーガに問う。 ミナはセイムのその問いで納得したというように頷いていた。 さて、問題だ。 クーガは考え始める。 まずは要点を並べてみよう。 一つ目は妖魔達は戦力的優位性があるのにもかかわらず戦いもせず退却したという点・ 二つ目はシャドウミラージュ部隊はディールダイン採掘における妖魔の陽動のため、このイアナーラ一帯で妖魔を倒してこの一帯の妖魔の本拠地クロロスペッツゥナから誘いだしているという点。 そして最後は妖魔グラスの件で妖魔達は活発化している、おそらくはグラスの従者、またはそれに類するものが仇を取ろうとしているという点。 こうして並べてみると思考しやすい。 こういう思考に必要なのはこちらからの視点ではなく、妖魔側からの視点で事を考えるということだ。 妖魔達は恐らくはシャドウミラージュの目論見通り自分達に害を成すシャドウミラージュの殲滅を目標としてクロロスペッツゥナから出てきている。 妖魔達はまずどこに自分たちがいるかを探そうとする筈だ。 それゆえに現在広い範囲で妖魔が出現している。 つまり今、各地に妖魔が拡散しているのは自分達の所在を探しているということになる。 無論、シャドウミラージュは各地でまばらに転戦を行った為、この廃街イアナーラに自分たちが潜んでいる事にはまだ気づいていないのは先の報告から明らかだ。 さて、ここで考えることは非常に簡単な話だ。 鋼機が守る人間の集落という存在を妖魔はどのように認識するのか? そしてその思考の末にたどり着いた先にクーガは戦慄する。 簡単な話だ。 誤解……だ。 それも最悪。 つまりは――― 「妖魔たちは『名無し』をシャドウミラージュの本拠地だと認識した――のか?」  【3-4に続く】 #back(left,text=一つ前に戻る)  ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) #region #pcomment(reply) #endregion

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