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第十二話「命というモノ」その6」(2014/04/27 (日) 11:56:49) の最新版変更点

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「大丈夫か?」  アジャムがカミーラに手を差し伸べる。床にへたり込んでいた彼女はその手を受け取るとゆっくりと立ち上がった。  先ほど大きな爆発が起こったのだ。そのせいで雪の結晶が今も縦に、横に、と大きく揺れている。  カミーラが近くのモニターに近寄り、ボタンを押す。すると外の様子が映し出された。  壁にいたる所に穴が開いている。近くにはPMのものと思われる破片が漂っていた。近くの外で戦闘が起こ ったことを彼女はすぐさま理解した。 「にしても誰もいねぇんだな」  アジャムは辺りを見渡してみる。一人もいない通路は鉄の冷たさのみを残すだけであった。腕に付いている 機械を見ると酸素があるらしく、緑色のランプが付いていた。襟元についているボタンを押すと軽い空気が飛び出る。  ヘルメットを右に左にと揺さぶってみると蒸れた空気が勢いよく飛び出した。そして上に押し上げるとフー ドのようにそのまま後ろにくっついた。頬に当たる風を受けながら大きなため息を付く。 「あー、息苦しかった」  カミーラもそれに倣ってヘルメットを外す。額の汗が頬を伝うと彼女は長い髪をかきあげた。宇宙服は構造 上かなり蒸れる為、二人ともよっぽどのことが無い限り長くは着たくなかった。 「空調システムが生きている事から人はいるようですね」 「そうか? もしかしたらもぬけの殻かもしれないぜ」  ここに来るまで人らしい人に出会っていない。警備用の装置があるかと思えばそうでもない。  空調が生きているのはもしかしたらただの切り忘れかも知れないとアジャムは思った。もしくは非常によく ある可能性、基地ごと自爆を考えた。だが、その考えをカミーラは真っ向から否定してきた。 「いえ、あの人はそのような事はしません」 「あの人……お前の親玉か?」  カミーラは小さくうなずいた。壁に手を当てて物思いにふけったかのような暗い顔をした。  そんな時、再び軽い揺れが起こった。壁に手を付いて身体を支えると小さく息をついて再び歩みを進める。 「行きましょう、戦闘はまだ続いてるようですから」  強い口調で言うものの、アジャムにはそれが単なる強がりに見えていた。  罠があるかどうか分からない通路を、二人はゆっくりと奥へと向かっていく。センサーが時折光るが通り抜け ても罠らしい罠は動作せず、せいぜい侵入者を知らせるアラートだけが鳴り響くだけであった。肩からかけて いるアサルトライフルがライトの光を浴びて軽く光るのだが、いまだにこれを使った様子はなく、今の所単 なる重い荷物でしかなかった。  そして、一枚の扉の前まで来るとカミーラは左側についているナンバーロックのボタンを押し始める。その 姿はかなり慣れているのか手際がよく、あっという間に高い電子音が鳴り響いた。 「これでいいはずです」  カミーラが小さくうなずくと二人は扉の前に立つと扉は軽い音を立てて横に移動していく。薄暗い部屋の中 には一人の女性がいた。彼女は背もたれに寄りかかり、頬杖を付きながらこちらを見つめている  カミーラと同じ長い髪。冷たい瞳。宇宙だと言うのに宇宙服を着ておらず、青のマントを羽織っているだけ であり、優雅、とは言えないものの堂々とした態度で椅子に座っている。 「ようこそ、コードナンバー六六六」 「やはり残っていましたか、コードナンバー五七八」   お互いに視線を送る。アジャムのほうはすかさず彼女の方へ自身が持つアサルトライフルを向けた。  安全装置は既に外しており、弾丸も既に装填してある。後はトリガーを引くだけでいい。だが、目の前にい るコードナンバー五七八は青い顔一つせず、二人をじっと見つめていた。 「こう言っちゃなんだが……大人しく投降しろ……つっても無駄か?」 「投降? おい、投降とはどういう意味だ?」  言葉を知らないのか、隣に居るカミーラに”投降”の意味を聞いてきた。 「大人しく捕まりなさい、という意味です」  カミーラの冷たい言葉に彼女は腕を組むと鼻で笑い出した。 「捕まったら終りになってしまうではないか。私はこの戦いはもう少し続けさせたいのだがな」  コードナンバー五七八の言葉がどことなく棘があった。がカミーラは気にせず言葉を続ける。 「残念ですが地球の人々は私たちを歓迎していません。おまけに彼らの種族は七割以上は死亡しました」 「七割……そこまで貧弱なのか?」  バイラムが行った都市攻撃、それに伴う食料と医療品不足、そして今回の作戦。  元々恵まれていた環境を全て失えば人の命は加速度的に減っていく。バイラムの効果は思った以上に発揮し、 今もなお起こる後遺症に地球の人々は悩まされていた。だが、彼女の顔はそんなこと知らんと言わんばかり に眉一つ動かさなかった。 「悪かったな、貧弱でよ。で、どうなの? 投降するの?」  と軽い口調で言っているがアジャムは銃を下ろそうとはしなかった。むしろ部屋の中に注意を張り巡らせて おり、棚から壁までおかしな所が無いかとせわしなく瞳をを動かしていた。特に床や天井と言った部分には細心の注意を 払っており、彼女の動き一つでカミーラを連れて外に出る算段を立てていた。上下に現れた物ほど対処に困る のはアジャムの経験から。横なら物陰に隠れやすいが上下となると足や頭が狙われやすい。ましてや目の前に いるのは敵の親玉だ。策を弄す可能性は否定できなかった。 「ふむ……」  コードナンバー五七八が軽くあごに手を当てて考え始めるとカミーラが口を開いた。 「……警備員やガードツールが存在しませんが……一体何が起こったのです?」 「むっ、なんだ、知らなかったのか? 我々の同胞は既に火星に送ってしまったぞ。残ってるのは私を含め、 三人ぐらいだ」 「さ、三人!? じゃあ、ここにいるのはミソッカスってことか?」  アジャムの言葉にコードナンバー五七八は初めて眉をしかめた。 「ひどい言われ様だな。仮にもここは我々が乗ってきた宇宙船だというのに……」 「では、あなたが指示を送れば……」 「ああ、目覚めた奴らが戦争を始めるだろうな」  胸を張って応える彼女にアジャムの額には汗が浮かんでいた。  もしも全面戦争になれば勝ち目がないことはアジャムは知っている。しかも敵は戦闘民族と言っても過言で はなかった。戦いが無ければ生きられない。言い方を変えれば戦いこそ彼女たちの命なのだ。  それだけではない、ただでさえ地球側は満身創痍であった。  先ほどの会話を聞いた限り、降伏は意味を成さない。地球が滅びるだけなのだ。 「さて、私からも聞きたい」  彼女は仕切りなおしと言わんばかりに静かにカミーラの方へ視線を向けた。 「コードナンバー六六六、お前はあの星で何を見つけた?」 「平和、と言う言葉です」 「ほう、平和か……我々の知らない言葉だな。どういう意味だ?」  ちらりとアジャムの方に視線を向けてしまう。だがアジャムは軽い笑みを浮かべて肩を叩いた。  カミーラは若干のためらいとともに自分の考えをそのまま伝えてみた。 「平和と言うのは……お互いを思いやり、血で血を洗うことをやめられることです」  カミーラの言葉にコードナンバー五七八は不敵な笑みを浮かべる。 「残念だがお前が思っているほど彼らは賢くないぞ。バイラムが地球に降り立ったときのことを思い出せ。みな 手柄を独り占めしようと一斉に向かっていったはずだ。それだけじゃない、バイラムが倒された後の数日間、 見せしめ的な行為を行い精神の安定を図ったはずだ。私たちがいなくとも奴らは奴らで戦争を始めるんじゃないか?」 「分かっています、でもそれでも私はこの星が好きになりました。血だけではなく花も知りうる彼らと共に歩 んで行こうと思っています」  カミーラの済んだ言葉にコードナンバー五七八は穏やかな口調で言葉をつむいだ。 「それがお前の生き方か? コードナンバー六六六」 「……はい」  若干ためらいを受けたがカミーラはまっすぐに言い放った。お互いの瞳には諦めと自身の意思が残っていた。 「ならば……こうなる事も予測済みなのだな!」  彼女が懐から拳銃を取り出すとカミーラもとっさに銃を取り出す。そして同時に乾いた音が響いた。 「ぐぅ……がぁ」  手に持っているものを投げ捨てるとすぐさまコードナンバー五七八に駆け寄る。腹部から止めどなく血が流 れていく。彼女が放った弾丸はカミーラの頬を軽く掠った程度であった。頬に赤い線が走るとそこから封を切っ たかのように血が流れ出していたが気にも留めずに彼女をそっと抱き上げた。 「……負け…か?」 「ええ……停止コードは?」 「…相変わらずだな……変えてないさ」 「変えて……ない?」  この言葉にカミーラは狼狽を隠せなかった。普通なら変えるはずと思っていたが彼女は変えなかったのだ。 「ああ、最近物忘れが激しくてな……」  口ではそうはいっているが彼女の本心とはとても思えなかった。二人の視線が交わる様子を見ていたアジャ ムは心なしだが彼女たちの関係性を理解した。そう二人は――。  カミーラはすぐさま立ち上がるとすぐさま机の上にあるコンソールに手を伸ばすとすばやくキーをたたき始めた。  その様子には何の迷いは無く、無心と言う言葉が彼女の姿を現していた。  そして、キーを叩くのをやめると小さくつぶやいた。 「停止コード入力完了、……各艦の機能停止を確認……」  再びコードナンバー五七八のほうを向くと彼女は完全に事切れていた。  カミーラは呆れ顔とも泣き顔とも区別がつかない複雑な顔で彼女をじっと見つめている。  一方の彼女は満足そうな笑みを浮かべており、その顔からは想像が付かない安らぎを感じ取れた。 「終わったのか?」 「ええ、形式上は……」 「形式上?」 「ええ、動力部を破壊すればこの基地は二度と使われないでしょう。私たちも、そしてあなた方も」  動力部が残っていれば地球側もカミーラたち、異星人側もそれを再利用するだろう。  下手をすればデライトによる地球侵攻が開始される場合もあった。  それを防ぐには動力部を完全に破壊するしかないのだ。 「んじゃ、とっとと行こうぜ。終わったら……な?」  アジャムはちらりとコードナンバー五七八をみる。 「……ありがとうございます」  アジャムは彼女の遺体をそっと抱き上げるとそのまま部屋を後にした。  カミーラも続いて部屋を出ると中は暗い静寂に包まれた。 「これで!」  エグザトリアの刃が大きく振るわれるとデライトは真っ二つに切り裂かれた。  軽い火花が飛び散るとそのまま大きな爆発を引き起こし、破片が宇宙を漂う。祐一はそれを尻目に辺りを見 渡す。デライトはほぼ居なくなった。バイラムも徐々に掃討されている。だが、何かがいることが彼の心に不 安を芽生えさせた。正体は理解している。メアリーが近くにいる、それだけだ。  別にアニメや漫画のようなテレパスではない。だが人が持つ第六感がそれを教えてくれる。  祐一は今までで一番冷たい声でエグザトリアに向かって小さく呟いた。 「……サーチ、現状で一番被害が大きい所」  エグザトリアのディスプレイは軽い沈黙を保ったまま、黙っている。そして暫くすると広い画面にある一点を示した。 「ここか……」  ペダルを踏み込み、エグザトリアを加速させていく。背面のバーニアが輝くと一直線にその場所に向かう。  誰に言われたわけでもないがメアリーはそこに居る、と祐一は確信した。だが距離が縮んでいくたびに手に 汗が滲み始めた。ペダルを踏み込む足が震えだし、喉がやたらと渇いていく。  これから起こることは祐一にも理解できている。メアリーを殺すといういたってシンプルな行動だ。  だが、祐一にとって見ればあまりにも大事過ぎた。  狂っているわけでもないのが辛かった。ニュースのような弾みで人を殺すと言うわけでもない。  明らかな殺意を持って殺す。計画的な殺人である。 「くっ……」  心が痛かった。まだやってもいないのに心が苦しみを訴えてくる。  デライトのような無慈悲な機械でもない。バイラムのように自我を別のものに置き換えられたわけでもない。  本当の意味で人を殺すのだ。彼女をこの手で。  だが、祐一はそれすらも背負わなくてはならないと思っていた。自分が真実を知り、メアリーと袂を分けた瞬間から。  デライトという数の暴力は終りを告げ、戦いも終局を迎えようとしている。爆発はなりを潜め、破壊される 光景はあまり見られなくなっていた。だが、まだ一機、動く物がいた。それは濁流のような圧倒的なパワーと スピードで次々にPMを切り裂いていき、手から放たれた閃光によって宇宙の藻屑と増やしていく。  まだ戦いを続けている物の正体は……ネオ・バイラムであった。 「こ、このやろう!」  一機のネルソンが槍を構えるとネオ・バイラム目掛け向かって来た。だが、それをいなすかのように横にか わすとそのまま腹部を蹴りつけた。ネルソンの腹部が大きく”く”の字に曲がり、跳ね上がるとパイロットは 軽いうめき声を発した。  そして畳み掛けるかのように、掌打、正拳、回し蹴りを叩きこむ。打撃を加えるたびにネルソンは人の形を 失っていく。そして、止めとばかりに掌から小さなビームを一発だけ放った。顔が融解し、PMは花火に成り代わる。  それを見送ると上の方から粘着性の液体が飛びかかった。引き剥がそうとするが液体は徐々に粘度を増して 行き、身動きが取れなくなっていく。そして液体は固まり、ネオ・バイラムはその場に固まってしまった。そ の様子を見ていたポーンが腕を大きく振るうと一斉に突撃を仕掛けてきた。 「でやぁぁぁぁぁぁ!」 「うおぉぉぉぉぉぉ!」  だが……。 「ば、ばかな!」  槍の先端が潰れていた。明らかに狙ったはずの装甲は凹む事も傷が付いた様子もなく、なんとも無かったか のように平然としていた。だが、向こうも悪あがき同然に何度も叩きつける。しかし効果は一向に現れず、た だ機体に負荷をかけるばかりだった。それを見届けた後、力を込めて先ほどの液体を引き剥がすと 「ばいばい!」  ネオ・バイラムの刃がポーンを真っ二つの切り裂いた。そしてそのまま周りにいるPMも切り捨てていく。  無常に、無慈悲に、無感動に。そして刃が止まりその場から大きく飛びのくとポーンたちがいっせいに赤い 火花へと成り代わった。 「バ…バイラムだ…」  誰が呟いた。堅牢な装甲、圧倒的な攻撃力、常識を脱した機動性。それらが今、目の前に存在していた。  あのバイラムが帰ってきたのだ。自分たちを殺しに。そう誰もが思った瞬間――、 「い、一時撤退だ!」  隊長がそう叫ぶが次の瞬間にはスクラップになり変わっていた。ネオ・バイラムのとび膝蹴りが背中に当た ったのだ。バーニアを始め、背面が大きくゆがみスピードは若干落ちた。すぐさま背面のパーツを切り離そう とするがバイラムの前では遅く、今度は顔面を大きく殴られた。そして手刀が動力部を貫いた。  基本的に間接部というのは弱いという印象を持つものが多いがネオ・バイラムは間接部をデライトや普通の バイラムよりかなり強固に作ってあった。その為、肘打ちから締め技など多種多様のサブミッションが行える。 もっとも、それらを扱えるのはメアリーの技量によるものだが。 「ブーストの調子は良さそう!」  だが、そうしている間にも他のPMは後退していく。軽く首を鳴らしながら去っていった方向を見つめる。  残存兵力をまとめて体勢を立て直すつもりなのかな? だったらこのまま奇襲をすればいいんだけど……。 「ううん、こういうのと戦うの、嫌いなんだよね……」  メアリーは遠くにある艦隊へと視線を向けた。艦隊戦に苦手意識があり、率先してやろうという気分にはな れなかった。苦手な理由はなかなか倒れない強固さと後片付けの不便さであった。撃沈した艦が漂流物と化し、 攻撃の際、邪魔になることがあった。だが、そうも言ってられないと思い直すとそのままペダルを踏んで艦隊 へと近づこうとする。 「バイラムを近づけさせるな!」  号令とともに艦砲射撃が開始された。光の雨が向かってくるがすんでの所でそれを避けていく。機銃もネ オ・バイラムに照準を合わせるといっせいに火を噴いた。メアリーはすかさず一番固い物である剣で銃弾を受 けた。跳ね返る弾の中をそのまま一気に突っ込む。だがそのとき、艦の主砲がバイラムに当たった。 「やったか!?」  だが動いていた。艦砲射撃の直撃を受けたのにネオ・バイラムは倒れることは無かった。煙が噴出している がネオ・バイラム自体はそんなにダメージを受けていなかった。その証拠に中のメアリーは怪我を負った様子 も無く、バイラムの駆動部は関節から指まで全て動いていた。 「化け物め……砲撃を続けろ! 奴を逃がすな!」  艦長はその様子を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。火を噴く機銃や主砲は何度もネオ・バイラムへと 飛んでいくがそれよりも早く艦の懐に飛び込んだ。そしてネオ・バイラムはブリッジの前まで来るとその刃を 縦に振るった。百メートルを超えるほど大きな亀裂が入るとそこから炎と煙があたりに拡散し、そして爆発を 引き起こした。 「あーあ、やっぱつまんない」  がっかりをするメアリーであった。だがその背後から一筋の光がバイラムの顔の横を通り抜けていく。  光の方向へ視線を向けるとそこにいたのはエグザトリアであった。ライフルを構えて、ご挨拶といった顔を しているようだった。メアリーは中にいるであろう人物に通信をつなげる。現れたのは――。 「来たんだね、ユウイチ」 「ああ……」 「でも予定の時間よりちょっとオーバーだったかな?」 「……メアリー」  ちょっと拗ねたようなしぐさをする彼女に祐一は言葉を失った。  自分が何をしているのかわかっていないの? と言ってみたかった。メアリー、もうやめよう。と言いたかった。  でも、彼女の声は祐一の記憶の中で一番楽しそうだった。映画や遊園地に行ったときよりも、二人で海岸を 歩いた時よりも今、この瞬間が一番だと言わんばかりに。 「それじゃ、早速デート開始!」  言葉を発すると同時にネオ・バイラムの刃がエグザトリアの喉下に突きつけらそうになる。が、それをすぐ さま自分の剣で防いだ。お互いの震えが刃を通して伝わってくる。だが、パワーはエグザトリアの方が上なの かバイラムの刃は徐々に離れていった。そしてネオ・バイラムの腹部に蹴りを叩き込み距離を取った。すぐに 攻撃を仕掛けてくるかと思っていたがメアリーは距離を保ったままであった。エグザトリアを嘗め回すかのよ うな視線が感じ取れる。こちらを観察しているのだろうか、向かってくる様子は見られなかった。 「各員、エグザトリアの援護を!」  背後から現れたポーンたちがネオ・バイラムを囲む。そして槍を一斉に向けて一気に突っ込んできた。  だが、それはあまりにも迂闊であった。 「え?」  一瞬の出来事だった。捕らえていたはずのネオ・バイラムが消えたのだ。そしてとまることも出来ず、彼ら の槍はネオ・バイラムを貫かず、近くにいた仲間のポーンを貫いていた。そしてそのまま爆発が巻き起こると 祐一の頬に汗が流れた。  最初から狙っていたんだ、この同士討ちを。 「デートの邪魔をする奴は馬に蹴られて死んじゃえ!」  不満そうな軽口を叩くと再び祐一のエグザトリアへと向かってきた。祐一もとっさに防御をする  だが、先ほどとは違い、エグザトリアの踵落としが奇麗に決まった。胃の中を全て吐き出しそうな衝撃がコ ックピットを襲う。操縦桿をすかさず右に左にと倒しバランスを整えるとメアリーは嬉しそうに笑った。 「ついて来て!」  突如、エグザトリアに背を向けると雪の結晶へと向かっていく。祐一が今まで対峙したPMとは違い、想像 以上のスピードで飛んでいった。だが祐一はそれを好機と捉える。ロックサイトを雪の結晶に向かっているネ オ・バイラムに合わせるとそのままライフルのトリガーを引いた。光の矢がまっすぐ飛んでいくがメアリーは それを軽くステップを踏むかのようにかわしていった。まるでこちらのことはお見通しといわんばかりに。  祐一は軽く舌打ちをするとメアリーの後を追いかけていった。その間でもライフルのトリガーから指が離れ ることはなく、何度も火を噴くがネオ・バイラムには一度もあたらなかった。時折、こちらをけん制するかの ように手のひらから光弾が発射されるがエグザトリアがそれを察して自動的に避けてくれている。  メアリーは追いかけてくるエグザトリアを尻目に暗礁空間へと入り込んだ。祐一もまた、メアリーを追いか けて、暗礁空間へと入っていく。隕石が障害物として立ちはだかるがこの二機には関係なかった。もっとも進 み方は対照的と言っていいほどに違っていた。メアリーが機体の頑丈性に頼って岩を突き抜けるのに対し、 祐一はルートを組んでぶつからないように進んでいく。  ネオ・バイラムは岩とのすれ違いざまに小さな機械を設置する。  エグザトリアが機械の近くを通り過ぎようとすると爆発を起こった。赤外線の宇宙機雷だった。 「ふふーん、どうかな?」  だが、エグザトリアは思ったほどダメージを受けていなかった。煙をかき分け、さらに飛んでいく。 「危なかった……」  エグザトリアの機動性に助けられたのだ。それだけじゃない。わざわざコンピュータが分析をし、率先して 回避を選んだのだ。といっても多少煙を受けてしまい、手足に軽いこげ跡がついてしまったのだが。 「あは、やっぱりすごい!」  そして再び追いかけっこが再開した。メアリーが雪の結晶のハッチへと入ると。祐一もそれに続いて奥へと入っていく。  通路は横や奥だけではなく、縦や斜めといった通路が入り組んでいた。それだけではない、リーシェンたち が通ったように広くは無く、PM一機が何とか動けるといったスペースしかなかった。  狭い通路ではお互いに機動性を生かすことが出来ない……と思いきやお互いに通常のPMとは思えない速度 で戦闘をしていた。狭い通路を衝突ぎりぎりのスピードで急旋回し、壁を足場にさらに加速をしていく。祐一 はライフルを手にメアリーを照準内に納めようとするがネオ・バイラムのスピードは思っていた以上に速く、 捕らえきれない。攻撃の際にはこちらも飛んでくる破片などで攻撃をやり過ごし、猛スピードで離脱を繰り返す。 逆に遮蔽物にぶつかりそうになった場合は剣を突き立てて、無理やりブレーキにしたり、それを足場にしてネ オ・バイラムへと突っ込んでいった。  短い通路の先を抜けると開けた場所に出た。 「うっ……」  そこはかなり広く多くのカプセルがおいてあった。その数は千や万を軽く超えており、まるで無限回廊のよ うにいくつも連なっていた。カプセルは全て空だったがその一つ一つが祐一を観察するかのような視線を送ってくる。 「なんだ、ここ…」 「私が生まれた場所だよ」  その口調は先ほどとは違い、感傷が若干混じったような雰囲気であった。 「……これが……」  いったいどれだけあるんだろう? と、思うのとどうやってメアリーが生まれたかは理解した。  試験管ベビー。メアリーだけではない、恐らくメアリー以外の人間もまたここから生まれたことが想像できた。  ただし、祐一はメアリー以外の異星人の存在を知らなかったが。 「ねえ、ユウイチ。ここからもっと遠くにいってみたいって思ったことある?」 「うん」  突然の質問にユウイチは思わず本心を応えてしまった。  別に何かを捨ててどこかへ行ってみたいというわけではない。だが、ここより彼方にある星々。見たことの 無いものに触れてみたいと祐一は心から思っていた。父と同じ、とまで行かなくとも自分が知らないものが この世界にはありすぎることを知っている。 「宇宙はね、祐一が思っている以上に広くて……冷たいんだよ」  メアリーの声に背筋が凍りついた。脅してるわけでもないことは理解できた。それが経験をしてきた人間と しての意見らしく聞こえたからだ。でも――。 「でも、それでいいんだ。そういう場所だから行ってみたんだと思う」  自分の父のように。  その言葉を聞いたメアリーはほんの少しだけ、はにかんだ様な顔をする。  そんな中エグザトリアに通信が入ってきた。相手が誰だかわからない上にノイズがひどかった。が何かを言 っているようだった。 「動力室……破壊……停止」  わずかなキーワードを繋げる。動力室、破壊、停止。  祐一はエグザトリアの内部データを調べてみるが動力炉への通路は分かってもそれが何なのかは分からなかった。  こうなったら動力室に行くしかない。そう思うとペダルを踏み込み、一目散に向かっていく。 「もう、女の子を置いていくなんて!」  メアリーもまたエグザトリアの後を追いかけていった。先ほどとは違い、今度は祐一が逃げていく。  後ろからネオ・バイラムがエグザトリアに照準を合わせようとする。だが、すぐさま遮蔽物を射線に引き入 れ、それを阻止する。   構わずビームを放とうとするがその間に一気に加速をし、ネオ・バイラムから距離を取った。  だがメアリーは決して遅れることなく自分の後ろについてくる。まるで影か何かのようにひっそりと。  そして先ほどよりさらに開けた場所に出た。 「ここが、動力部……」  巨大な太陽が目の前にあるようだった。その大きさは全高一万メートルを超えており、二十メートルサイズ のPMが小人のように感じられた。宇宙を旅する船の心臓は今も熱い鼓動をあたりに伝えている。もっとも、 リーシェンたちによる爆破、アトとの戦闘により熱が漏れ出し、あたりは融解を始めていた。  もしかして、まだ動いてるんじゃないか? そうなら敵もまた”作られる”んじゃ……。  「どーん!」  呆気に取られた隙をつかれ、そのまま背後から体当たりをされた。いつものじゃれあいの様にそのまま後 ろに放り投げられた。機体が激しく回転する中、操縦桿を動かし体勢を立て直す。ネオ・バイラムがビームを 何度も撃ってくるがそのままバーニアを一旦切り、そのまま落下するかのように下へと飛んでいく。床の近く まで来ると這うかのような低空飛行をすると、メアリーに向かってライフルを向ける。だが、照準が捉える前 にネオ・バイラムの姿が消えた。  いったいどこに……そう思った矢先、目の前に現れた。コックピット全体にネオ・バイラムの顔が広がる。 「うっ……」  叫ぶ前に刃が振り下ろされた。が、腹部を思い切り蹴り飛ばすとそこから一気に距離をとろうとする。  ネオ・バイラムが軽くスピンをするが――。 「すごいよ、でも……そういうところが甘いよね!」  逆に回りこまれ、一気に懐に飛び込むとそのまま踵落しを叩き込む。 「うわぁぁぁぁぁぁ!」  操縦桿につかまり、無理やり機体を起こす。軋んだ音がコックピットへ伝わって来た。  背面のブースターから軽く火花を放っていたが祐一は気にする様子なく目の前のメアリーをにらみつけた。  だが、視線を向けた先には――。 「ほら!じっとしてると当たっちゃうよ!」  続けざまに手のひらからいくつもの光弾が飛んでくる。小さな雨のように次々にエグザトリアへ向かってきた。  舌打ちをしながら素早く操縦桿を倒す。エグザトリアは右に移動しながら高速ローリングをしてかわした。  その拍子に先ほどいた場所に穴が開けられる。 「おお! すっごい! 本当に初心者なの!?」 「はぁ…はぁ……うああああああ」  ペダルを踏み込み、再びネオ・バイラムへと向かっていく。剣を構えると大きく腕を振り上げ、そのまま――。 「一つ覚えは良くないよ! ユウイチ!」  だが、今度はエグザトリアの姿が直前で消えた。突然のことに息を呑むメアリー。  左を向くとエグザトリアがこちらに向かってきていた。無理やり方向転換をして真横につけたのだ。 「ここだぁぁぁぁぁぁぁ!」  自身の剣を大きく真横に振るうがそのまま刃が胸の前を通り過ぎた。わずか数センチ。もう少し早く剣を振っ ていれば実に胴体は飛んでいただろう。その証拠にネオ・バイラムの胴体には真一文字の傷が大きくついていた。  そしてすばやくお互いに銃を向け合い、間合いを取り直す二機。  コックピットのメアリーの顔は真っ赤に染まっている。興奮と感動が止まらないらしく瞳が輝いていた。 「すごい……本気なんだね!」  身体をもじもじさせて地団太を踏む。口元からはだらしないよだれが垂れかけた。  まるで美味しいものを食べたかのようにいつまでも微笑を浮かべている。  コックピットにいる祐一に通信を送ると彼の口からは荒い息遣いのみ聞こえてきた。 「はぁ…はぁ……」  アラートが聞こえてくる。息が苦しい。それだけじゃない、このままじゃ負ける!   だが、そう考えているのに芯の部分は冷静だった。恐怖は感じているがそれ以上に推理が頭の中に思い浮かぶ。  メアリーの予測、ネオ・バイラムの性能と対策。それらが全て形となって自分の前におかれている。  だが、ここで大きく息を吸って吐き出した。考えろ、どうすればメアリーに勝てる?  その疑問に答えを出そうとする前にネオ・バイラムが突っ込んできた。 「くっ!」  今はチャンスを待つしかない! そう思い操縦桿を倒して大きく距離を取る。 「むっ、様子見? うんうん、勝つためには相手を知る事だよね」  そう言いながら振るう刃は我武者羅さは身を潜め繊細さが顕著に現れてきた。こちらの攻撃を予測するかの ように、一手一手がPMの急所である、センサーやエンジンを狙ってきた。  あの時と一緒だ! メアリーが僕と別れたあの日みたいだ!  確実にこちらの急所を狙ってくるような戦い方だった。いや、ようなではない。実際に狙っているのだろう。  懸命に避けるものの一瞬、ネオ・バイラムの刃がコックピットに触れた。一歩踏み込んでいれば祐一の命は 無いだろう。熾烈な攻撃に思わず息が止まる。目の前を刃が通り過ぎる。コックピットの中では風が感じない が明らかに切られている。一つ動くたびに心臓の鼓動が聞こえてきた。 「弱点を早く見つけないと終わっちゃうよ!」  そうは言われても今の自分にはこの攻撃を捌くだけしか出来なかった。技術は完全にメアリーのほうが上で あり、祐一はただかわすことに精一杯だった。 「うわ!」  蹴りが目の前を通り過ぎた。こちらは限界だと言うのに……。  多少だが体力には自信があったが戦いが始まって早くも十二時間以上が経過していた。十八歳の少年の身体 は完全に悲鳴を上げており、意識が朦朧とし始めていた。  疲労のせいか目の前に居る赤がいくつも見えた。そしてその赤から刃がいくつも飛んでくる。  だが、エグザトリアはそれを小手先でかわした。身を小さく、小刻みに動かすとその刃をセンチの単位で避けていく。  体力を消費しないようにと考えているうちに操縦桿を動かすのが細かくなっていった。エグザトリアのサポ ートも手伝って超人的な動きを表現している。 「おお! ユウイチって天才だね!」  まだ終わらない戦いにメアリーは狂喜乱舞した。そして加速度的に技術が上がっていく祐一に対してさらに 気分が気分が高揚していく。それと同時に刃のスピードも上がっていく。風の音が多くなり、エグザトリアの 顔が残像を作り出すぐらい早く動いた。 「しまった!」  操縦桿を倒すのを忘れ、ネオ・バイラムの刃がエグザトリアの顔を切り裂いた。目の部分が壊れ、カメラが 映像を送らなくなる。すぐさまサブカメラに切り替える。だがネオ・バイラムのほうは待つことなく、そのま ま止めとばかりに再び刃を縦に振るっていくる。 「あははははははははははははは!」  だが、それを先を読んでいたのか、エグザトリアは両の手でそれを正面から受け止めた。 「真剣白刃取り!?」  お返しとばかりに手の甲にけりを叩き込み、そしてそのまま壁を飛ぶかのように剣をひねって胸部を思い切 り蹴り飛ばすとネオ・バイラムから剣が離れていた。エグザトリアは剣を後ろに投げ捨てるとそのまま拳を ネオ・バイラムに叩き込んだ。一発入るたびにネオ・バイラムの顔がゆがむがこちらもお返しとばかりに拳が 飛んでくる。コックピットにきしんだ音が聞こえてくる。メーターが振り切れ、ディスプレイの映像がゆがむ。 装甲がゆがみ、背面のバーニアが光を失っていく。だが、お互いに拳を止めることはしなかった。止まったら やられる、ということをお互い理解していたからだ。  そして、変化が起こったのは祐一のほうだった。ネオ・バイラムの手首を掴むとそのまま後ろに体重をかけ た。 「あっ!」  ネオバイラムはバランスを崩したのを確認するとそのまま背面で体当たりをし、床に叩き付けた。その衝撃 でネオ・バイラムの顔やにもひびが入り、床には大きなクレーターが作れられた。当然、エグザトリアのコッ クピットにも伝わり、祐一の身体は操縦桿に叩きつけられた。  やったか? 叩きつけられた痛みを堪えつつ、倒した相手を見る。動きが無いことを確認すると手を離した。  だが、コレはあまりにも早計だった。メアリーもまたコレで終わらなかったのだ。 「あはははははあは!! 捕まえた!」  突如ネオ・バイラムは起き上がると素早く、エグザトリアを羽交い絞めにしたのだ。祐一はペダルを踏み込 みパワーを挙げようとするが振りほどけない。殴り合いや床に叩き付けたことによってダメージを受けすぎた 結果であった。  ネオ・バイラムはそのままエグザトリアを締めて壊そうとする。力を入れるたび何かが壊れた音が聞こえてきた。 「くっ……」  このままじゃやられる……。脱出しようにも身動きが取れない。操縦桿を動かしてみるがパワーが足りない。  EX1を使えとエグザトリアが言って来るが使ったとしてもとてもじゃないが勝てるとは思えない。  どうする? どうすればいい? 「ユウイチィ……すきぃ……だいすきぃ! あはははは!」  声の感じからしてメアリーは狂っていると祐一は思っていた。だが一瞬だが祐一にはメアリーの顔が見えた。  彼女は、メアリーは涙を流していた。本当に嬉しいと心の底から思っていたのだ。  異星人については良く分からないけどメアリーについては何となくだが分かっていた。  コレが彼女の愛情表現……。ならば自分はどうすべきなのだろう?  答えは簡単、こちらも同じようにすればいい、同じように相手を愛せればいい。  でも、このままにしておくわけにはいかない。生かしておけば彼女はまた戦いに行くのだろう。だから――。  祐一はエグザトリアのエネルギーを全てバーニアに回すとペダルを思い切り踏み込んだ。  エグザトリアはネオ・バイラムに掴まれたまま飛んでいく。 「え! 何をするつもりなの?」  突然のことにメアリーも目を白黒させている。新しい手段だと思っているようだ。  祐一にとって同じ手段とは――。   「ごめん」  祐一は小さく呟くとネオ・バイラムごと動力炉へ突っ込んだ。  衝撃でガラスが割れると中の閃光が二人を包み込んだ。 「なにあれ!?」  突如として起こった爆発を見たマールが思わず叫んだ。艦のメインモニターに爆発の様子が映し出されている。  オペレーターはすばやくキーを叩くと結果を艦長に伝えた。 「敵基地動力部の破壊を確認!」  そして、それに伴う変化もまた入ってきた。青の鬼、バイラムⅡから通信が送られてきた。 「聞こえますか? 地球の皆さん、私たちの声が聞こえますか?」 「カミーラさん!」  カミーラの存在を確認するとマールはバイラムⅡへ通信を送る。  マールの顔を確認するとカミーラは小さなため息をつくと口早に報告を始めた。 「動力部の停止を確認しました。それに伴い停止コードをバイラムとデライトに送信。各PMの停止を完了しました」  レーダーの点滅が徐々に減っていく。そしてついには何も無くなった。残ったのは味方の反応だけだった。 「じゃ、じゃあ」 「ハイ、戦いは終わりました」 「……司令部に通信! 本戦闘を終了したことを報告!! 我々の勝利です!」  この言葉にフリューゲルスのクルーはいっせいに喚起の声をあげた。  漂う無数の破片もまた星の光を受け、彼らを祝福するかのように輝いていた。  巻き起こる煙が徐々に晴れていく。いたる所に瓦礫の山が積まれている。  動力炉が破壊された衝撃により壁は完全に熱で黒く染まり、飛んでいった無数の破片が穴を開けていた。  全てが沈黙に包まれる中、ひとつだけ動くものがあった。それは左手と右足がもがれ、駆動部と呼ばれた場 所は完全にひしゃげており、武器も全て使用不可能となった。唯一動くものといえばせいぜいカメラのレンズのみ。  そんなメアリーのネオ・バイラムが祐一のエグザトリアを押し退けるとそのまま宙を漂い、壁に軽く当たった。 「プハー! 流石だね、ユウイチ! もうちょっとでやられる所だった! 」  エグザトリアの方に視線を向けるがエグザトリアは反応する事もなく浮いたままであった。  メアリーはネオ・バイラムをエグザトリアのそばに近づける。  再びエグザトリアを見てみるが瞳からは光が消え、外れた装甲からは配線が剥き出し、火花が飛び散っていた。  純白だった装甲は動力部に叩きつけた衝撃で真っ黒に変わり果てており、手も足もその形を成していなかった。  ネオ・バイラムのコックピットから降りるとエグザトリアのそばへ向かっていく。  そしてコックピット近くにある手動開閉のハンドルに手を伸ばすとゆっくりと回し始めた。  重い手応えと共にハッチが開いていくとそこには祐一が横たわっていた。 「ユウイチ?」  呼びかけてみるが彼は目を見開いたまま力なくうなだれていた。口からは血が流れていることから、恐らく 内臓が破裂したのだろう。呼吸もしていない。スーツには無数の破片が飛び散っており、身体を貫いていた。  祐一をヘルメットを外すと見開いたままの苦悶なのか、懺悔なのか分からない複雑な表情をしていた。  メアリーは祐一の目を閉じさせるとそのままそっと頬をなでた。 「これで……一緒だね」  そのまま祐一の隣に座るとメアリーは静かに瞳を閉じた。その顔は誰にも見せたことが無いほど穏やかであった。

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