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【A.C:1】 「お届け物です!」 「あら、いつもご苦労様」  アルマから配達物を受け取り、それぞれに分ける。  沙鳥宛の物は、差出人が誰であれ藤司朗と鈴臣と幸成の目を通してから。  藤司朗への物はプレゼントなのか罠なのか分かりにくいものが多いから、本人の判断に任せる。  幸成宛にきた催促の手紙はきっとまた読まれずに積まれるのだろう。  レイヴンズワンダーから来た鈴臣への書類は、渡したところでまとめてシュレッダー行きか。 「あ……」 『覇月 丈之助様』  真っ白で上質な封筒に、端正な字で書かれた名前。  一文字一文字丁寧に心を込めて……  差出人の名前を見なくても、誰からかすぐに分かる。 「丈ちゃん、お手紙よ」  受け取った丈之助は、封筒を裏返して名前を確認し、首を傾げる。 「……知らない人?」 「知ってる人よ。私たちのお母様」 「けど、知らない……」  丈之助は途方に暮れて、手紙を持て余す。  何度も繰り返されてきた反応。  多分、丈之助にとっては初めての事なのだろうけど。 「ダメよ。ちゃんと読んであげなくちゃ……」 「……知らない人から物を貰ってはいけません」  何度も言い聞かせてきた事が仇になる。  終わりの見えないやり取りを繰り返していると、横から伸びてきた手があっさりと手紙を奪い取る。 「また? 懲りないな」  藤司朗は笑みを浮かべたまま、容赦なく裂いていく。 「ごめんね、つい手が滑っちゃった」 「嘘ばっかり……」  苦笑して、細かく破られた手紙を受け取る。  その白い山を見て、母の事を思い出した。  とても美しく、可哀想な人。  ――知らない。  丈之助に母はいない。  丈之助は一番最初に実母を忘れ、次に養母を忘れてしまったから。  丈之助が自分のために存在を抹消したのは、あの二人だけかもしれない。  ――……誰?  真っ直ぐに見つめ、残酷な一言を口にする。  本人に悪意や自覚はなく、だからこそ報われない。  ――知らない。  あの日、消された母は、また今日も消えてしまう。  僅かな爪痕も残せずに。  可哀想な人。  この感情は、本当に憐憫からなのか、それとも――?
【A.C:0】 「お届け物です!」 「あら、いつもご苦労様」  アルマから配達物を受け取り、それぞれに分ける。  沙鳥宛の物は、差出人が誰であれ藤司朗と鈴臣と幸成の目を通してから。  藤司朗への物はプレゼントなのか罠なのか分かりにくいものが多いから、本人の判断に任せる。  幸成宛にきた催促の手紙はきっとまた読まれずに積まれるのだろう。  レイヴンズワンダーから来た鈴臣への書類は、渡したところでまとめてシュレッダー行きか。 「あ……」 『覇月 丈之助様』  真っ白で上質な封筒に、端正な字で書かれた名前。  一文字一文字丁寧に心を込めて……  差出人の名前を見なくても、誰からかすぐに分かる。 「丈ちゃん、お手紙よ」  受け取った丈之助は、封筒を裏返して名前を確認し、首を傾げる。 「……知らない人?」 「知ってる人よ。私たちのお母様」 「けど、知らない……」  丈之助は途方に暮れて、手紙を持て余す。  何度も繰り返されてきた反応。  多分、丈之助にとっては初めての事なのだろうけど。 「ダメよ。ちゃんと読んであげなくちゃ……」 「……知らない人から物を貰ってはいけません」  何度も言い聞かせてきた事が仇になる。  終わりの見えないやり取りを繰り返していると、横から伸びてきた手があっさりと手紙を奪い取る。 「また? 懲りないな」  藤司朗は笑みを浮かべたまま、容赦なく裂いていく。 「ごめんね、つい手が滑っちゃった」 「嘘ばっかり……」  苦笑して、細かく破られた手紙を受け取る。  その白い山を見て、母の事を思い出した。  とても美しく、可哀想な人。  ――知らない。  丈之助に母はいない。  丈之助は一番最初に実母を忘れ、次に養母を忘れてしまったから。  丈之助が自分のために存在を抹消したのは、あの二人だけかもしれない。  ――……誰?  真っ直ぐに見つめ、残酷な一言を口にする。  本人に悪意や自覚はなく、だからこそ報われない。  ――知らない。  あの日、消された母は、また今日も消えてしまう。  僅かな爪痕も残せずに。  可哀想な人。  この感情は、本当に憐憫からなのか、それとも――?

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