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【Cavalleria(騎士道精神)】


「……何それ」
 珠月は眉間に皺を寄せ、おぞましい物を見たかのように唸る。
 対して藤司朗はいつも通り満面の笑みを浮かべながら。
「いらっしゃいませにゃ、ご主人様」
 滅多に感情を見せない珠月でも、こればっかりはと額を抑える。
 本気で頭が痛い。
「あぁ、間違えたにゃ。こういう場合は、おかえりにゃさいませ、お嬢様だったにゃ」
 平然と口にする藤司朗の頭には、本物かと思うほど精巧な金色の猫耳。
「……何、罰ゲーム?」
 期待を込めて問うが、あっさりと首を振られる。
「猫耳期間中なんだよね、今。猫語とご主人様云々は篭森さん限定のサービス」
「……そんなので喜ぶ趣味はない」
「だろうね。喜ばれたら、ビックリして過剰にご奉仕しちゃったかも」
 本気かどうか判断しにくい笑みを浮かべ、後ろを指差す。
 そこには、一枚のポスターが。
 『渡り鳥さんは猫耳しないとダメだぞ★』
 明らかに沙鳥の直筆で。
「万具堂だけじゃないの!?」
「今ごろ、うちのお偉いさんたちが猫耳付けて会議してるんだよ。ホントにバカだよねぇ」
 自らも猫耳を付けているというのに、他人事のようにクツクツと笑う。
 が、幹部達の猫耳を想像すると、同感としか言えない。
「何でそんな事を……」
「原因は沙鳥で、元凶は女切で、ユキの作戦勝ちってところかな」
 曰く、霞から「女王騎士団は好かれてない」的な事を言われ、ショックを受けた沙鳥が「女王騎士団をより可愛くしよう」と思い立ち、提案した「猫耳」 メイドイン幸成。沙鳥の指示により、一晩で全員分を作り上げた本人は、現在お休み中。勿論、猫耳付きで。
 当初は騎士団だけの予定だったが、想像以上に精巧な作りと「他の人の分も作ってあげたけど、何か文句ある?」と言わんばかりに押し付けられた大量の「猫耳」を見た沙鳥の「折角だからw」の一言で、レイヴンズワンダー全員が巻き込まれる結果となった。
「それで拒否もせず付けてるのか……」
「俺らが好かれてないのなんて当たり前なのにね」
 何せ、沙鳥以外に好かれる気がないのだから。
 それでも、沙鳥からの指示であれば「人気者になろう!」というモノでも二つ返事で従う。間違った方向であると気付いていても、一切訂正せずに。
「プライドとかは?」
「ないよ」
 はっきりとした即答。本心からなのは、今までの付き合いからよく分かる。
「ユキはちょっと嫌そうだったけど、沙鳥と俺ら以外見ないだろうって事で承諾してくれたし、マサ姉は照れてたけど、満更でもない感じ。スズと丈は当然。俺もこの通り、似合ってるでしょ?」
 確かに、無駄に整っているせいか違和感がない。
「何でも似合っちゃうのも罪だよね。この間なんか……十二単だっけ? 昔の日本女性の格好をしたんだけど、異様に美人で自分でもビックリしちゃった」
 そうカウンターの奥にあるコルクボードを指差す。そこには童話のヒロインの格好をした女王騎士団の写真が。
「それ売れば? 高値付くんじゃない?」
「猫耳姿も込みでうちの店長が検討中。さっきも弓納持さんが大量に写真撮って行ったから、結構な儲けになりそうかなって」
「あー……」
 その光景が目に浮かぶ。
「とんでもない使い方されるかもよ?」
「それはそれで面白いよね。彼女の作品は嫌いじゃないし。不死川と不死原なんて、本人見る度に笑いそうで困っちゃうんだよね」
 藤司朗はハルの蔵書読破を目指すほどの読書家である。おまけに雑食なので、読む本の種類に拘りは無い。
「俺としては眼福なんだけど、酷い目に遭ったーって思ってる人は多いかもね」
「嫌なら断れば良いのに」
「女王陛下のお言葉は絶対ですから」
 その言葉に嫌がっている気配は無く、むしろ至上の幸福を自慢するように。
「どんな小さなワガママでも応えられるだけで嬉しいから。俺はね」
「騎士の鑑ってヤツ?」
 からかうような声色に、苦笑いを浮かべて首を振る。
「俺らは騎士にとって当たり前の事が出来ない」
「当たり前の事?」
「君主のために命を懸ける」
 溜め息と共に吐き出された言葉。
「俺らは沙鳥を弔うまで死ねないからね。沙鳥に自らの命と血を捧げる事は許されない。一分一秒程度の長生きでもダメ。きちんと弔わなければ」
 彼らしくない本気の憂い顔。
「猫耳さえなければ絵になるのにね」
「……ダメ?」
 小首を傾げる仕草に、思わず小さく吹き出す。
「酷いなぁ。そんな篭森さんに幸せお裾分け」
 そう強引に何かを被せられる。
「ちょっと……」
「うん。可愛いよ。よく似合ってる」
 そのまま撫ぜられた頭には黒い猫耳が。
「余り物なんだけどね、ちょうど黒だったから。篭森さんが来てくれるの期待してたんだ」
 そっと触れると、流石としか言いようのない手触り。一度触れたら、止まらなくなるほどの――。
「……貰っても良いの?」
「気に入ると思った。篭森さんなら沙鳥も喜んであげると思うよ」