奪われた平穏3

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ギュウッ・・・!
「ウガッ・・・グ・・・グアァッ・・・!」
やがて必死に快楽に耐えようと歪めていたワシの顔をうっとりと眺めながら、突然雌竜がそのドロドロに蕩けた火所に呑み込んでいる無力な贄を思い切り押し潰す。
そして堪えようもなく迸ったその雄の悲鳴を堪能すると、雌竜が肉欲に火照った艶のある声を漏らしていた。
「おやおや・・・この様子だと、今夜もたっぷりと快楽に泣き叫ぶ声を聞かせてくれそうだねぇ・・・」
「ア・・・ガゥ・・・こ、これ程までにワシを弄んで・・・い、一体お前は何が望みなのだ・・・?」
「お前はあの村の人間どもを守りたいんだろう?だから、あたしがその望みを叶えさせてやってるのさ」
望みを叶えさせてやっているだと・・・?
ワシの望みは、あの村の人間達とともに平和に暮らすことだけだ。
なのにこ奴は村人の1人を無残に食い殺したばかりか、彼らが神と崇める存在を自らの手で貶めさせたのだぞ。
それの・・・それの一体どこがワシの望みだというのだ!

だがそんな轟々と胸の内に湧き上がる怒りの炎へ、雌竜が更に油を注いでいく。
「お前が生きている間は、もうあの人間どもに手を出しやしないさ。でもお前が力尽きたらその時は・・・」
こ奴・・・ワシが力尽きた時はあの村を滅ぼすとでも言うつもりか?ふざけるな!
「グ・・・か、彼らがお前に逆らわぬ限りは手を出さぬという約束だったであろうが・・・!」
そしてそう言いながらあっさりと約束を反故にしようとする雌竜に鋭い視線を突き刺した次の瞬間、いかにも意地悪げな表情を形作るその巨大な口から思いもかけない言葉が発せられた。
「フフフ・・・もしお前が死んだら、あの人間どもがただ黙ってあたしに従うとでも思うのかい・・・?」

「なっ・・・!?」
まるで雷に撃たれたかのような激しい衝撃が、ワシの脳天を一直線に刺し貫いていった。
そうだ・・・もしワシが死んだということが村の者達に伝わったとしたら、いくら恐ろしいとはいえ彼らがこの雌竜の言うことにおとなしく従っているはずがないではないか。
雌竜の命令でワシをここに縛り付けようとしていた時の彼らの顔には、こ奴に逆らいたくても逆らえぬことに対する深い無念の表情がありありと浮かんでいた。
だがそれでも何とかそれを表に出さずに堪え切れていたのは、自分の命が惜しいからということ以上にこのワシの無事を心の底から願ってくれていたからに違いない。
ワシが彼らの命を守るべくして屈辱的な無抵抗を押し通したのと同じように、彼らもまたワシのために耐え難きを耐えて仮初めの従順を装っていたのだ。

「フフフフ・・・約束は守ってやるよ。でもあの人間どもの命も、結局のところはお前と一蓮托生なのさ!」
ゴシュッ、グシュッ・・・!
「ウアッ!アアッ!」
その途端、忘れかけていた強烈な圧搾が再びワシの肉棒に襲いかかってきた。
きつい締め付けがまるで肉棒を扱き上げるかのように根元からゆっくりと駆け上がり、次々と溢れ出す沸騰した愛液がワシの理性をジワジワ焼き尽くしていく。
そしていよいよワシの忍耐力に致命的な亀裂が走ったのを見届けたのか、がっしりと地面を踏み締めた雌竜が肉棒を咥え込んだまま腰を左右に激しく振り回した。
「ほぉら、遠慮せずに泣き叫ぶんだよ!」
ズリュッゴシャッグリュグリュッ・・・ジュルルッ!
ブシャッドブッドブドブッ・・・
「グ、グワアアア~~~!」
勢いよく吐き出された白濁が一瞬にして雌竜の膣を満たし、射精中の肉棒がグチャグチャと乱暴に揉み潰される。
長時間に亘る生殺しのような甘い責めに最早悲鳴を押し留める気力は跡形もなく崩れ去り、煮立った蜜壷の妖しい蠢きに滅茶苦茶に嬲り回された雄槍がその主の口から甲高い嬌声を吐き出させていった。

ドスッ・・・ドスッ・・・
「ん・・・お、おい、起きろ。あいつが出てくるぞ」
朝露にしっとりと湿った地面を伝わる断続的な微振動で目を覚ますと、俺はサッと地面に身を伏せて背後で眠っている2人の仲間をそっと揺り起こした。
欝蒼と茂った厚い梢に隠れて朝日は見えなかったものの、明るい森の中を冷たい朝風が通り抜けていく。
そして洞窟から姿を現した雌竜に見つからぬように茂みの陰でじっと息を潜めていると、やがて大地を揺らす大きな足音が次第に木々の向こうへと遠ざかっていった。
「よし・・・もういいだろう。さあ、竜神様を助けに行くぞ」
その声に大きく頷いた2人の男が、やはり心のどこかではあの雌竜の存在に怯えているのか静かに足音を殺しながら俺の後ろにぴったりとついてくる。
だがいよいよ巨大な洞窟の前へとやってくると、彼らは竜神様の安否を確かめるべく薄暗い穴倉のなかへ我先にと駆け込んで行った。

「こ、これは・・・」
ふとした拍子にうっかり先を越されてしまった2人の男を追い掛けるようにして巨洞の奥へと入っていくと、やがてその先に地面に縫い付けられた竜神様の姿が見えてくる。
そして竜神様の傍に駆け寄ったその瞬間、俺は思わずゴクリと息を呑んでいた。
グッタリと地面の上に力無く投げ出された太い両腕。
前に見た時よりも更にズタボロに破られている痛々しい翼膜。
辺りに立ち込める濃い精と愛液の臭いの中で、虚空を仰ぐ竜神様が今にも消え入りそうな細い息を漏らしている。

「なんて無残な・・・」
一切の抵抗を封じられたまま夜通しあの雌竜に心身を弄ばれ続けた1匹の雄の末路が、そこに転がっていた。
丸2日間飲まず食わずでこんな洞窟に拘束されているだけでも苦しいだろうに、あの性悪な雌竜にきっと俺達には想像もつかないような激しい責苦を味わわされたのだろう。
それもこれも全部、俺達の命を守るために竜神様が甘んじて受け入れた選択なのだ。
「竜神様・・・竜神様・・・!」
耳も聞こえていないのか、焦点の定まらぬ竜神様の目がフラフラと辺りを泳ぐ。
だがしばらくして俺達の必死の呼びかけに多少は正気を取り戻したのか、竜神様がきょとんとした顔をこちらへと向けていた。

「お、お主達・・・どうしてここへ・・・?」
遠い意識の奥から何者かに語り掛けられるような感覚に、ワシは靄のかかった頭を振って辺りを見回した。
その眼前に、心配そうにワシを覗き込む3人の男達の顔が飛び込んでくる。
「ああ、よかった・・・竜神様、今助けます」
「ま、待て・・・今更ワシを解き放ったところで、あ奴には太刀打ちできぬ。無駄なことは止めるのだ」
「そんな・・・たとえ力では敵わなくたって、俺達は竜神様なら何とかしてくれると思ってここにきたんですよ」
確かに敵対的な巨竜に支配されるという未曾有の脅威に曝された彼らにとって、曲がりなりにも竜族であるワシの他に誰も頼れる者がいないというのは紛れも無い事実だろう。
だがそこらの森を闊歩しているような猛獣や野蛮な人間が相手というのならともかく、強大な力を持つ同族が相手ではいくらこのワシでも流石に勝ち目がないのだ。

「それじゃあ竜神様は、俺達にこのままあの雌竜の言いなりになれと言うんですか?」
「そうは言っておらぬ・・・だが、もうあ奴はこのワシの手にも負えぬのだ・・・」
それを聞くと、男達の顔に深い悲しみの表情が浮かんでいた。
きっとここに来るまでの間、彼らは一心にワシを信じながら冷え込む森の中で夜風を凌いでいたのに違いない。
そんな村人達の期待を裏切るのはあんな雌竜から受ける仕打ちなどより何倍も辛いものの、力の無き者が気ままに生きていけるほどこの世は甘くはできていない。
「さあ・・・お主達も早く村に戻るといい。こんなところをあ奴に見つかったら、確実に命はないのだぞ」
だがそう言って勇気ある村人達を追い返そうとしたその刹那、ワシの脳裏にある光明がキラリと閃いていた。
そうだ・・・この弱肉強食の厳しい自然界においても、力の弱き物が強者を捻じ伏せる方法があるではないか。
「わかりました・・・でも竜神様、俺達はまた・・・」
「いや、待つのだ・・・ワシに1つ考えがある。いくつか頼みがあるのだが、聞いてくれるか?」
やがて唐突に卑屈な態度を改めたワシの様子に、男達が微かな希望の表情を浮かべながらゆっくりと頷いていた。

サク・・・サク・・・
高く昇った真昼の太陽が照らす森の中へ、乾いた草を踏む軽快な音が響き渡る。
竜神様の頼みを聞いて山から下りるその途中、俺達は手分けして森に住む野兎を捕らえていた。
とは言っても、山奥の洞窟に縛り付けられた竜神様への供え物というわけではない。
あっという間に手慣れた様子で1人で数匹ずつ捕らえたその獲物は、村の洞穴に棲み付いたあの憎たらしい雌竜へ捧げるためのものだ。
「あんまり気乗りはしないけど・・・こんなのでいいのかな・・・?」
そう言いながら、男の1人が手にした小さな野兎の耳を掴んで吊り下げる。
「竜神様の言ったことだ。それに、気の立っているあの雌竜を少しでも油断させるためには必要なんだろう」
「とにかく、問題は今夜だ。あいつには絶対に勘付かれないように、村の皆へ話すのは夜になってからにしよう」
そんな風にして2人の男達を纏め上げると、俺は獲物を手にしたまま何食わぬ顔で村へと戻っていった。

全く・・・なんてつまらない暮らしなのだろうか。
不気味なまでの静寂に包まれた村の洞穴の中で、あたしは地面の上に蹲ったままフンと大きく鼻息をついていた。
村の人間どもはどいつもこいつもこのあたしを恐れて捧げ物の1つも持ってこないばかりか、じっと家に閉じ籠もったまま外に出てくる気配すらない。
ひ弱な人間どもなんてほんの少しばかり脅してやるだけで簡単に操れる連中だと思っていたものの、どうやらこの村にはまだあの老いぼれの影響が色濃く残っているらしかった。
昼は黙っていても人間どもから獲物を捧げられ、夜は夜であたしに楯突いたあの雄竜を思う存分いたぶって楽しく暮らそうと考えていたというのに、これでは全く当てが外れたというものだ。
こんなことならとっととこの村も滅ぼしちまって、あの老いぼれの嘆く顔でも見た方がずっと楽しいに違いない。

だがそんな物騒な物思いに耽っていた正にその時、あたしは不意に数人の村人達が洞穴の中に入ってきた気配を感じ取っていた。
「・・・?」
まさかこのあたしに、あの人間どもが何か美味そうな捧げ物を持ってきたとでも言うのだろうか?
いや・・・つい昨日まであたしに姿も見せようとしなかった程の臆病な連中が、急にあの老いぼれへの信仰を捨ててこのあたしに忠誠を誓いに来るなどとはとても考えられない。
そして洞穴に入ってきた者達の真意が読めぬままじっとその場で待っていると、程なくして両手に小さな野兎を持った3人の男達があたしの前に姿を現していた。

やがていつもとは違う禍々しい気配に怯えながらも洞穴の最奥にまで辿り着くと、そこへ蹲っていた山のように巨大な雌竜がその大きな頭をゆっくりと持ち上げる。
そして次の瞬間、空気の震えるような重々しい声が辺りに響き渡っていた。
「何だい、お前達は・・・?まさか、あたしに供え物を持ってきたなんて言うんじゃないだろうねぇ・・・?」
まるで心の奥底まで見透かされてしまいそうな鋭い深みのある視線が、俺の目を真っ直ぐに覗き込んでくる。
その迫力に一瞬気圧されてしまいそうになったものの、俺は心中に湧き上がる恐怖をグッと押さえ付けると竜神様から言われた通りに雌竜に向かって挑発的な言葉を投げつけていた。

「ああ、その通りだ。でも俺達は、まだお前を本当にこの村の竜神様だなんて認めたわけじゃないからな!」
「何だって・・・?」
それを聞いた途端雌竜の顔に微かな怒りを孕んだ危険な表情が浮かび上がったものの、不思議なことにその殺気立った不穏な空気もものの数秒で完全に消え去ってしまう。
「フン・・・まあいいさ・・・今日のところは特別に聞き流してやるよ。とっととそいつを置いて出ていきな」
そして再び地面に顎を擦り付けながら小声で呟かれた雌竜のその言葉に、内心本当に殺されやしないかとビクついていた俺はほっと胸を撫で下ろしていた。
この雌竜にしてみればたとえそれがいかに反抗的な物言いだったとしても、今後のことを考えれば初めて食い物を持ってきた人間を無碍に扱うわけにはいかなかったのに違いない。

やがて雌竜への供え物をその場に置いて無事に洞穴から生還すると、俺達は各々の家で静かに夜の訪れを待つことにした。
経緯はどうあれ俺達の持っていった供え物を受け取ったことで、取り敢えず今日に限ってはこれ以上あいつが他の村人達に干渉する心配はないだろう。
どうして竜神様がわざわざ俺達の命を危険に晒してまで雌竜を挑発させたのかはわからなかったが、きっと竜神様には竜神様なりに何かしらの作戦があるのだ。
ここまできたら後はもう、竜神様があの雌竜を何とかしてくれるのをひたすらに信じるしかない。
そしてそんな若干の不安が拭えぬ未来に思案を巡らせながら家に戻ると、俺は森での夜明かしで冷えた体を温めるように熱い風呂を沸かし始めていた。

時の経過とともに洞窟へと差し込んでくる光が少しずつ弱まっていくのを見つめながら、ワシはあの村の人間達のことを一心に気にかけていた。
縄張りを奪われた上に村を襲ってきたあの雌竜に手も足も出せずに敗れたワシを、彼らはまだ村の守り神として慕ってくれている。
そして今頃あの3人の男達が、村を救うために決意を固めているのに違いない。
だがもし今夜ワシが失敗すれば・・・ワシはもちろんあの村の者達も決して無事には済まぬことだろう。
彼らのささやかな平和をあんな粗暴な雌竜に奪わせぬためにも、ワシは奮い立たねばならんのだ。
チャラ・・・チャララ・・・
そうして腕に巻き付けられた鎖の鳴る音に覚悟を決めると、すっかり漆黒に染まった外の景色がいよいよ村の運命を決める夜の訪れを告げていた。

ドス・・・ドス・・・
やがて朱色の絵具で空を塗り潰していた夕日が山の稜線の向こうへ静かに消えていくと、真っ暗な闇に包まれた村の中に再び重々しい足音が鳴り響いた。
まだ事情を知らぬ他の村人達はその災厄の気配が村から遠ざかっていく様子に安堵しているのかも知れないが、俺達が明日の朝を無事に迎えることができるかどうかは全て今夜の竜神様にかかっている。
しばらくして村から雌竜の気配が消えてなくなると、俺は家の外に出て他の村人達を静かに集め始めていた。
昨夜俺とともに山へ入った他の2人も、いつの間にか辺りの家々へと声を掛けている。
そして村中の男達が不安げな面持ちを浮かべたまま家の外へと出てきたのを確認すると、俺は彼らに向けて今朝竜神様から言われたことを話し始めていた。

「そろそろか・・・」
しばらくすると、長い間地面に押し付けられている背中から雌竜が地面を踏み締める微かな震動が伝わってきた。
刻一刻と決戦の瞬間が近づいてくるその気配に、生まれて初めて緊張の染み込んだ冷や汗をかいてしまう。
そして次第に大きくなっていく足音が洞窟の中にも響き始めると、ややあって目の前に悠然と姿を現した雌竜が妖しげな笑みを浮かべながらワシを見下ろしていた。
「フフフフ・・・ほぉら、お楽しみの時間だよ・・・寂しかっただろう・・・?」
「む、村の者達は・・・無事なのであろうな・・・?」
「あの村はいたって平和さ・・・今日なんか、このあたしに供え物を持ってきた奴らまでいたくらいだよ」
勝ち誇ったかのような優越感に満ちたその雌竜の声が、静かな洞窟の中にそっと尾を引いていく。
わざわざワシにそんなことを教えるということは、さぞかしワシの驚く顔を期待しているのに違いない。
ここは1つ、その思惑にまんまと乗ってやるとしよう。

「な、何だと・・・!?でたらめを言うでない!彼らがお前などに与するはずがないであろうが!」
そんなワシの様子を目にして、雌竜が愉快そうに眼を細めていた。
「でたらめなものかい。生意気な態度だったけど、人間どもからもらった兎の味はまた格別だったよぉ・・・」
ふむ・・・どうやらあの者達は、上手くこ奴を調子付かせることに成功したらしい。
これならば、万が一ワシがしくじったとしてもあの村にはさして被害は及ばぬかも知れぬ。
「この様子じゃあ、お前があの村の連中に忘れ去られるのも時間の問題なんじゃないのかい?フフフ・・・」
「グ、グウゥ・・・」
その仮初めの悔しさを滲ませた苦悩の表情が余程気に入ったのか、雌竜がワシの顔を間近で覗き込もうと大きな顎を近づけてきた。
そして完全な勝利を確信したかのように輝くその視線が、微かに潤んだワシの双眸へと真っ直ぐに注がれる。

今だ・・・!
次の瞬間ワシは両手の内に隠し持っていた数個の小さな木の実を握り潰すと、ドロリと溢れ出した透明な果汁を指先の爪に塗しながら思い切り腕を振り上げていた。
ジャッジャララッズボッ!
その勢いで予め緩められていた数本の鉄杭が地面から引き抜かれ、一瞬にして両腕の肩から先が自由になる。
「なっ・・・!」
そして反射的に身を引こうとした雌竜の頭を素早く片手で掴むと、ワシはもう一方の手の爪を驚きに見開かれたその眼へと躊躇うことなく突き刺していた。

ドスッ・・・!
「ガッ・・・グアアアアアッ!」
雌竜の眼に突き刺した右手の指先に残る、何とも言えぬ柔らかな感触。
次の瞬間、凄まじい咆哮にも似た雌竜の悲鳴が広い洞窟内をビリビリと震わせた。
そして苦痛に任せてワシの腕を振り払った雌竜が、ゴロンと地面の上に引っくり返って小刻みな痙攣を始める。
その痛々しい顔の傷口から引き抜かれたワシの手の先には、真っ赤な雌竜の血に混じって小さな黒い木の実の殻ととろみのある透明な液体がべったりと纏わりついていた。
猛毒の果汁を湛えた黒い鈴のような実を付ける毒樹・・・スズヒノキ。
そのスズヒノキの毒を眼に受けて、今やあ奴は全身に跳ね回る激しい痛みと倦怠感に苛まれていることだろう。
「ウ・・・ガフッ・・・」
やがて血を吐くような雌竜の苦悶の声を聞きながら久方ぶりに自由になった両腕で残りの鎖も体から取り外すと、ワシはドタドタと洞窟の中に駆け込んでくる人間達の気配に顔を上げていた。

「竜神様!」
雌竜が洞窟の中に入ってから数分後、静寂に包まれた森の中に突然悲痛な叫び声が響き渡ると、俺達は松明に火を灯しながら一斉に闇に沈んだ洞窟の中へと駆け込んで行った。
その深い暗闇の奥底で、全身に絡み付く鎖を取り外していた竜神様の前にあの雌竜がグッタリと仰向けに転がって荒い息をついている。
竜神様から外の大木の傍に落ちている木の実を取ってくるように言われた時は一体何に使うのかと思ったものの、今思えばあれが先日村に咳と熱の病を蔓延させた危険な毒樹の実だったのだろう。
そして状況を見る限り、きっとこの雌竜はその強力な毒を塗った竜神様の爪で眼を貫かれたのに違いない。
「さぁお主達・・・今の内に、そ奴をこの鎖で縛っておくのだ」
やがてその場にいた誰もが既に無力となった村の仇敵に黒々とした怒りを燃やしていると、すっかり全身の自由を取り戻した竜神様がその身を縛めていた幾本もの鎖の束を俺達の前に差し出していた。

「この雌竜・・・生かしておくんですか?」
しばらくすると、ワシの手から鎖と鉄杭を受け取っていた男達の中から不意にそんな声が聞こえてきた。
確かに彼らにとっては、村の若者を食い殺した上にワシを手酷く痛めつけたこの雌竜は到底憎んでも憎み切れない不倶戴天の敵に見えていることだろう。
恐らくはワシが制止しなければ、彼らは今にも手にした鉄杭を雌竜の体に突き刺し、煌々と燃え上がる松明の炎でその身を焼き焦がしてしまうに違いない。
だがいかにこの雌竜が様々な許し難い悪行の限りを尽したとはいえ、ワシもほんの20年前にはこ奴と同じようにあの村の平和をを脅かそうとしたことがあるのだ。
それを考えれば、たとえ村の人間達を護るためとはいえこの仕打ちは少々やり過ぎてしまったようにも思える。
ならば、せめて命だけは取らずにおいてやるのが同族のよしみというものだろう。
「そ奴は最早毒に冒されて動くことも出来ず、両眼の光も失っておる。もう、十分に罰は受けておるであろう?」
「そうですか・・・竜神様がそう言うのなら・・・」

ガッガッ・・・ジャララ・・・
やがてワシにそうした時よりも抜群に精力的な働きで雌竜の全身に鎖を巻き付け終わると、村人達の顔にようやくかつての明るい表情が戻ってきていた。
「ア・・・ウゥ・・・」
そんな緩んだ空気の中に、苦しげな雌竜の呻き声が空しくこだまする。
これでもう、こ奴があの村を脅かすことはないだろう。
そして鎖に繋がれたまま苦悶に喘いでいる雌竜をその場に残すと、ワシは大勢の村人達を引き連れて洞窟を後にしていた。

それから5日後・・・
人々の記憶からようやくあの雌竜の恐怖が薄れてきたのか、村は再び元の平穏を取り戻していた。
ボロボロに破かれてしまったワシの翼膜も少しずつだが回復の兆しを見せ始めていて、時折供え物を持ってくる者達もそんなワシの様子に皆安堵の息をついている。
1度折れてしまった自慢の角だけはもう元には戻らないだろうが、これは村に降り掛かった脅威に対して力及ばなかったことへの戒めとして胸に留めておくとしよう。
だがこれから先も今回と同じようなことが決して無いとは言い切れぬだけに、ワシはもちろん村人達の中にもまだ内なる不安を抱えている者がいるに違いない。

「竜神様・・・具合はどうですか?」
とその時、ぼんやりと考え事をしていたワシの目の前に突然2人の人影が立っていた。
「む・・・お主達は・・・」
2人とも、よく見覚えのある顔だ。
数日前にあのスズヒノキの花粉で苦しむ息子を救うべくここへ相談に訪れた娘と、もう片方は山中の洞窟で磔にされていたワシを助けに来てくれた男達の1人だろう。
そう言えば、彼らは村でも評判の随分と仲の良い夫婦だったな。
「今日は先日のお礼に上がりました。竜神様のお陰で、息子も随分と元気になりましたわ」
「それはよかったのぉ・・・だがこれしきの事、そう改まって礼を言いにくる程のことではなかろうに」
だがワシがそう言うと、娘の隣にいた夫がおずおずと話を切り出し始めた。
「俺達・・・竜神様にはとっても感謝してます。でもあの雌竜の1件で、村の皆も少し考えを改めたんです」
「考えを改めたとは・・・?」
「今まで俺達は、困ったことがあれば何でもかんでも事あるごとに竜神様に頼ってきました。だから・・・」

そこまで言うと、俺は少し言葉を切って心を落ち着かせていた。
「竜神様がいなかった数日間、この村は酷い状態でした。雌竜の存在とは関係なしに、皆不安だったんです」
「それは・・・村を纏め上げている者が誰もいなかったからじゃな・・・?」
「ええ・・・この村には村長もいないし、もしまた竜神様がいなくなったりしたらと思うと・・・」
それを聞いて、竜神様がほんの少しだけその顔に悲しげな表情を浮かべる。
きっと竜神様は、村人達の心を弱らせてしまった自分に幾許かの責任と後悔を感じているのだろう。
でもこれは、決して竜神様を悲しませるための話ではないのだ。

「だから他の皆と話し合って、俺・・・この村の村長を務めることにしたんです」
「ほう・・・」
眼前の若者が放った意外な一言に、ワシは思わず目を見開いていた。
だが確かに、この男なら村の者達を立派に纏め上げてくれることだろう。
恐らくはあの雌竜に捧げ物を持っていったときも、危険を承知で挑発的な啖呵を切ったのは彼なのに違いない。
「成る程・・・それは良い考えだ。ワシも、できる限りお主の力になることを約束しようぞ」
「はい、ありがとうございます!」
そしてそんな元気のいい村長夫婦の声が周囲に響き渡ると、ワシは洞穴から出ていく彼らを見送って遅い昼寝についていた。


その日の深夜、ワシは昼間村人達からもらったお供え物の野兎を2匹ばかり手の中に隠し持つと、村の者達が皆寝静まった頃を見計らって静かに洞穴から出て行った。
そして努めて足音を立てぬよう慎重に歩きながら、村外れの森の中へと足を踏み入れていく。
山奥の洞窟に残してきたあの雌竜は、今もまだスズヒノキの毒に酷く苦しみ続けているに違いない。
だが村人達が雌竜の恐怖を克服し始めた今となっては、これ以上あ奴を苦しめておく必要はないだろう。
たとえワシらのような老齢の竜族といえども、飢えと猛毒に長らく耐え続けるのは至難の業なのだ。
やがて真っ暗な森の中を歩くこと十数分、果たして夜の帳の向こうにあの洞窟が見えてきていた。
その洞窟の手前に、先日ワシが樹皮を引き剥がした跡のあるスズヒノキの木がそっと佇んでいる。

「フン・・・このワシも、随分と情に脆くなってしまったものだな・・・」
そうして誰に言うとでもなくポツリと一言呟くと、ワシはおもむろに尖った爪を立ててスズヒノキの樹皮を剥ぎ取り始めていた。
大木の幹を引っ掻くガリガリという音が静まり返った森の中へと響き渡り、あっという間に妖しい艶のある数枚の黒い樹皮が手の内へと溜まっていく。
そして首尾よく手に入れた解毒薬と僅かばかりの食料をチラリと一瞥すると、ワシは一握りの憐れみを胸に秘めたまま漆黒の闇に沈んだ洞窟の中へと静かに体を滑り込ませていった。



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