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未来系!魔法少女 ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 結 第一部後

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irisjoker

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「インテンツシャフト!」
『トランスインポート・インテンツシャフト』

左手に、インテンツシャフトが召喚される。ぐるりと一回転させて感覚を覚える。

『残り3』
『2』

オルトロックが大剣を突き刺そうと腕を引く。そして―――――――来る。

『1』

『解除』

「オラァァァァァァァァァァァ!」

――――――――遅い。

シャフトを逆手に持ち、オルトロックの手首目掛け、思いっきり振り上げる。シャフトによって手首ごと弾かれて、大剣が、宙を舞った。
体を左方向へと回転させながら、シャフトを両手持ちする。オルトロックの目は私を見ておらず、落ちていく大剣へと向いている。

「今までの……お返し!」

回転しながら遠心力を利用して、オルトロックの頭部へとシャフトを叩き込む。それも1撃じゃない。頭部と腹部を交互に攻撃を加える。
大剣を失ったオルトロックは私が繰り出す攻撃の全てを喰らう。その度にオルトロックの顔が歪んでいく。だが、私の怒りはこれでは収まらない。
一回転させて、見据える。……しまった。攻撃に夢中で、知らず知らずにオルトロックに距離を取らせてしまった。

それに思ったほど、大してダメージが与えられていない事も痛い。オルトロックは私を睨みつけたまま、ホルダーからカードを二枚引き出した。
あの目……多分次で決めてくる。両手に力に込めて、距離を取りつつ、踏みこむタイミングを図る。

『トランスインポート・ソーンフープ 残りカウント30』
『トランスインポート・ダブルウィップ』

カードが発動した途端、オルトロックの半径2メートルくらいから広がる様に、黒い光のリングが伸縮しながら召喚される。
そのリングは高速で回っていて、あからさまに危険な印象を抱く。アレに触れたくは無いな。絶対。
続けて、オルトロックの両腕から薔薇の蔦を思わせる長い鞭が巻き付く。また面倒くさい武器が出てきた……。
体を捻りながら上からリングを飛び出して、オルトロックが私に向かって指を指し、言った。

「飛ん……でけ!」

リングが凄まじい速さで、私に向かって飛んでくる。恐らく当たるまで追尾してくるタイプ……。なら……!
が、思考を繰り広げようと思った瞬間に、リングが迫ってきてしまった。シャフトを縦に立てて、リングを防ぐ。
流石にいきなりは斬られないが、徐々に徐々に、リングはシャフトに斬り込んでくる。このまま制限時間まで持つの……か?

「耐え続けなよ! その間にじっくり……殺してやるから!」

オルトロックがそう言いながら両腕の鞭を打ちつける。地味でヒリヒリする、イライラする様な痛み。けど、今まで受けた痛みに比べりゃ比較にもならない。
手加減しているだろう、どうせほっといても、このままこのリングに切断されるから。そう考えるとまた、怒りがふつふつと湧いてくる。
次第にリングはシャフトの半分まで到達する。何度目だ窮地と自分自身に呆れていると、ヴィルが話しかけてきた。

『メルフィーさん、一つ、プランがあります』

なるべくあいつに決定打を与えられるようなプランをお願い。これだけ長く戦ってても、まだ傷一つ付けられない……。

『インテンツシャフトが折れた瞬間を見計らい、オルトロックの真上を体を捻りながら飛んで下さい。有利なカードは僕が選定しておきます。だから……』

……大したプランだわ。そんな曲芸めいた真似、出来る……かもしれない。今までだって十分、無茶を通り越してきた。
戦っている時に朧げながら分かってきたが、私自身がこうやりたい、こう動きたいと思った動きを、ヴィルは殆ど叶えてくれる。
なら……なら、今ヴィルが提案した事も、決して……無茶な事じゃない。シャフトへの到達率、4分の3。

「上の空なんて余裕あるね!」

っつ! 油断した……。私の首をオルトロックが伸ばした鞭が絡みついて締める。

頭の中にだんだん白い靄が掛かってくる。呼吸が出来なくなり、見たくも無いのに、目が上を向く。
歯を食いしばりながら意識が飛ばない様にするけど。力を入れれば入れる程、首が締まっていく。

出来る。私なら今の私なら、なんだって……出来る出来る出来る出来る出来る……信じろ、私自身を!

シャフトが斬れ――――――――――――――た。瞬間を捉え、鞭を両手で掴む。

「今度こそ終わりー! 死ね!」


「死んで……たまるか!」


限界な位に両手に力を入れて、全力で鞭を引きちぎる。引きちぎりながら、後方へとのけ反る。制限時間達成。リングが消滅する。
首に纏わりついた鬱陶しくてうざったい鞭を放り投げ、カードを三枚、ホルダーから引き出す。
引き当てた三枚のカードはそれぞれ趣向が違っており、一つは光り輝く剣の絵、一つはオレンジ色に光る足で敵を蹴っている人間の絵、最後は良く分からない。
白一色に赤いラインが走っているだけのカードだ。……まぁ良い。一先ず赤いラインのカードと、足で敵を蹴る人間のカードを忍ばせ、剣のカードを使う。

「ソード!」
『トランスインポート・ヴィルティックソード』

私の掌に蛍みたいな淡い光が集まりだして、強く瞬く蒼い光となると、スーっと伸びて剣へと形を変える。余計な装飾が無い、正に剣って感じの至極シンプルなデザイン。
だけどオルトロックの持っている大剣より、ずっと強そう。私はそれを両手持ちにして構える。なるたけ、これで終わりにしたい。

「……その渋とさ、ゴキブリ以上ね。そこだけは褒めてあげる。けどねー」

……驚いた。弾き飛ばした筈の大剣が、何時の間にかオルトロックの掌にしっかりと握られている。
あれはカードとは別の武器なのだろうか。ここからもうハンデ差があるのか。あぁ、腹が煮えくり立つ。

「どーしても貴方と私じゃ埋められないモノがあるんだよ? そのモノがある限り、貴方はぜぇ―ったいに私には勝てない」

「上……等!」

もう下らない挑発にはうんざりだ。大きく踏みこみながら、オルトロックへと斬りかかる。本気だろうが手加減だろうが関係無い。
目的はただ一つ、こいつに二度と立ち上がれなくなるほどの攻撃を叩き込む。ただ、それだけだ。その為なら、私自身がどんな目に会っても構わない。
オルトロックが2枚、カードを引き出した。どんなカードだろうが、そのカードごと、ぶった斬る!

「そのモノってのは―……」


『トランスインポート・フェイク』


「メルフィー……」

「え……?」

――――――――何で、ルナがここに? 

目の前でルナが、私に対して泣きそうな顔を浮かべている。斬りかかった手が止まって、時間が止まった錯覚を覚える。

「その剣で、私を殺すの? 親友……なのに……」

私、ルナに何て事を……。

―――――――――ちょっと、待って。何で、ルナがこんな―――――――――――。
違う! これはルナじゃない、オルト―――――――。


『トランスインポート・アームズキャンセラー』

「狡猾さと……残忍さ!」

ほぼ一瞬、私の手からヴィルティック・ソードが消失する。得物を無くし、私の頭はパニックに陥る――――――間も、無く。
見上げると、嬉しそうに破顔したオルトロックが、私に向かって思いっきり、大剣を振り下ろした。両腕を伸ばして防ごうとしても、間に合わ――――――――――。


バイザーごと粉砕されて、噴水みたいに血が噴き出る。トンデモ無い事になっているのに、何故だか私は酷く落ち着いていた。むしろ何か凄いなとしみじみと思う。
ヘルメットをかち割られ、破片と共に真っ逆さまに落ちる。流石にもう、駄目かもしれない。血、止まんないし。
両手で押えても、指の隙間から血がドポドポと零れる。あぁ……暗い……視界が……暗……。

まだ、まだ。体を回転させながら、体勢を取りつつ、状況を確認する。まずった。もう何度武器を失ってるんだ、私は。
冷静になると転げ回りたくなるほど頭が痛い、痛いけど、今までオルトロックに滅茶苦茶痛めつけられたから、この程度普通に慣れてしまった。
そういやヘルメットが壊れたからヴィル……ヴィル、大丈夫? まさか……。

『メルフィーさん!? 大丈夫ですか!?』

あぁ、良かった。けど声が外に聞こえる様になっちゃったね。やっぱヘルメットが壊れたからか。

「私の事は気にしないで良いよ。それよりヘルメットが……ね」

『それなら大丈夫です。ただ、ヘルメットの破損で脳波を傍受する装置が壊れ……というかメルフィーさん……血が凄いんですけど……』
「これくらい、唾付けときゃ大丈夫よ。にしても結構蒸れるんだね、これ……」

どうせこのまま付けてても仕方ないし、私はヘルメットを外した。蒼い空と太陽が見える筈も無く。気分が沈む様な灰色の雲が、空を支配する様に覆っている。
これで雨降るんなら更に嫌な気分になるな―。せめて戦いの後くらい、青空でも罰当たんないと思うな、神様。

……呑気にしてる場合じゃない。ルナや町子、草川君、それに……鈴木君は大丈夫なのだろうか。なるべくなら誰にも、死んでほしくない。                              
これは私自身の闘いなんだから。誰にも被害は与えたくないし、誰にも傷ついて欲しくない。……鈴木君の安否が、凄く気になる。

―――――――――今は戦いに集中する方が先だ。あの空の向こうで待ち構えている、オルトロックを睨む。

「ヴィル、それよりも」

『何です?』

「次でこの戦いを――――――――終わらせるわ」


真下に広がっている、灰色の雲の上を巡回しながら、オルトロックは標的であるメルフィー・ストレイン、もといヴィル・フェアリスを詮索する。
さっきの攻撃で頭部を切断できると思ったが、意外とヘルメットの強度が高く、寸での所で逃がしてしまった。と、言っても所詮の雲の下だ。探そうと思えばすぐ……。
それにヘルメットをも粉砕した破壊力だ。只では済む訳があるまい。きっと出血を抑える為に止まっているか、ふらついているかのどっちか。

残りカード枚数は7枚。内、1枚は……いや、恐らくこれは使わないし、使う時があれば、その時は……いや、無い。オルトロックはその考えをすぐさま打ち消す。
本当ならもっとカードを収納する事が出来たが、すぐに殺せると思い20枚程度しか持って来なかった。これは最大にして最悪の誤算だと思う。

「……いい加減、ケリ付けちゃうか」

『トランスインポート・ターゲットサーチ』

カードを使用した途端、オルトロックの周辺に敵の位置を知らせる為の矢印の付いたリングが複数、現われる
このカードの特性は、戦っている相手の位置を様々なデータから探り当て、特定するカードだ。位置を掴んだ場合、全ての矢印がその方向を向く。便利だが難点は1対1の戦いに飲み、有効な事。

同時にカードを引き出す。無表情のまま、カードを宙へと放り投げる。

『トランスインポート・エルシュトリームクラッシュ』

グラン・ファードを消して、代わりにオルトロックの左肩に、剥き出しのエネルギーチューブや華の様に開いている砲口が禍々しいデザインの、巨大な銃火器が召喚される。
エルシュトリーム・クラッシュ、オルトロックが所有する武器の中では、最も威力が高い武器だ。この武器を召喚するという事は、オルトロックは半ば本気である。
合わせる様に、ターゲットサーチの矢印が一点へと重なる。遂に見つけた……。エネルギーを充填して、スコープを作動。狙いを付……。

肌に突き刺さる様に、ゾクリとする感覚。強烈な不安を感じて、オルトロックはエルシュトリームクラッシュから顔を離し、キョロキョロと周りを伺う。

何を恐れている……? サーチの指す方向へ撃てば良いだけの話だ。どうせ力量差は埋められない。あっちは変身して間もないのだ。
少しくらい手古摺ったが、あれは素人ゆえに何をしでかすか分からなかったという事。所詮遊びだ。砲口にエネルギーが集束されていく。チャージ完了まで残り1分。
矢印が動いているという事は、逃げようとしているか自分を探ろうとしているのだろうが……無駄無駄。
狙いを定めたまま、オルトロックはその時を待つ。次第に雲の中から、何かの姿が朧げに見えてくる。来た!

『チャージ完了』

「今度こそ本当に……終わり!」

遂にそれが姿をとらえ……が、オルトロックの目に映ったのは、ヴィル・フェアリスでは、無い。
飛びこんできたのは、自分が粉砕した、あの――――――――ヘル、メット。

振り向くと、闘志に溢れる赤い粒子を放出しながら、拳を振り上げる――――――――――――ヴィル・フェアリスが、居た。

「これで……決める!」

『終わらせる……ですか?』
「そう。このまま戦ってても埒が明かないわ。それに……」

ヘルメットを腕に挟んで、左手で額を触る。血は止まっていない。正直に言えば、かなり頭がくらくらする。
もしこのまま戦い続ければ、今は興奮してて痛みとかが鈍く感じるが、ふっと我に帰った時に絶対ぶっ倒れると思う。
今はまだこうして普通に立っていられるけど、血は止まっちゃいない。何時、気を失うかが分からない。

だから、私は決めたい。このまま、この戦いを。

「もう……このまま戦った所で勝ち目は無いよ。だから例え、確率が低くても一気に攻めて、勝つ。それしかないと思う」
『……分かりました。しかしカード枚数が少ない為……成功率は非常に低いです。それでも』

「それでも」

にしてもオルトロックの動きが見えないのが不気味だ。恐らく私の事を探っているんだろう。
その隙に乗じて反撃に乗り出せれば……。我がまま言ってごめんね、ヴィル。心配してくれてるのは分かる。

だけど、もうこれしかないの。本当に。

『……了解しました。では、これよりプランを提案します』

『メルフィーさん、貴方が先程引き出した、二枚のカードを出して下さい』
「これ?」
『はい。その赤いラインが入っているカードはヴァーストと言って、三分間だけ、全ての性能を底上げする事が出来ます。
 二枚目のカードはヴァーストと併用するグレイブ。足元にエネルギーを集中させる事で爆発的な破壊力を生み出せます』

……よく分からないけど、ヴァーストを使う事でパワーアップする事が出来るって事ね。で、グレイブは必殺技と。

『この二つ以外に、残りカードは後4枚しかありません。武器となるカードが二枚、身体を強化するのが1枚、防御系が1枚。
 武器は射撃兵器であるヴィルティック・ライフルと殴突兵器のグレイブナックル、一定時間姿を消せるインビジブル、そして物理攻撃を防げるプレイスフィールドです』

インビジブル……と聞いて、ずっと前のあの苦い苦い恥ずかしい、恥辱の思い出が蘇る。
あの時に散々掻かされた恥も入れて、私はあいつを全力で倒さなきゃいけない。さっきの100倍くらい気持ちが引き締まる。
それに……あーいう、平凡だけど、穏やかで優しい日々に早く戻りたい。ヴィルには悪いけど、こんな事、二度とごめんだ。

『まず、ヴァーストとインビジブルを同時に発動し、姿を消して下さい。そして悟られない様に、オルトロックの近くまで近づいたら……』
「ヴィル」

「それ以上は大丈夫。私自身の手で決着、付けたいから」

『……分かりました。では、宜しくお願いします』

目を閉じて精神を一点集中――――――――オルトロックを倒す事だけに集中する。
そしてホルダーからインビジブルと、忍ばせてヴァーストを取り出す。
これ以上出来ないって位、神経を研ぎ澄まして―――――――――目あけて、唱える。

「ヴァースト」
『トランスインポート・ヴァースト 残りカウント180』

私の体を包んでいるスーツの蒼い光が、少しづつ淡く、やがて強く鮮明な赤色に変わっていく。綺麗……それに不思議なくらい、力がみなぎって来る。
肩の部分が上斜めにガチャンと音を立てて立ち上がる。背中の翼が、燃える炎の様に情熱的な色に変わっていく。
これから最後の戦いなのに、全然怖い感じがしない。むしろ、凄く落ち着いてくる。これで――――――――全て、終わる。

朧げながら、オルトロックの気配がを感じる。やはりというか、何か武器を構えて、私が来るのを待ち構えているみたいだ。続けて。

「インビジブル」
『トランスインポート・インビジブル 残りカウント30』

発動すると私の体が透明に透けていく。両手を見ると、私の手がクリアになっていき、雲しか見えなくなった。
とは言えちゃんと感覚はあるから不安にはならない。さて……。

『ではメルフィーさん』
「待って」

私は抱えているヘルメットを右手に持ちかえた。どうしてもあいつに一泡吹かせたい。そうしないと、最低な方法で騙された分の怒りが収まらない。
オルトロックがいるであろう砲口に向かって大きく振りかぶる。そして持っている手に全力で―――――――――ぶん、投げる。
ヴァーストの効果かヴィルのお陰か、破損したヘルメットはオルトロックが居る方向へとまっすぐ飛んでいって、豆粒ほどの小ささになると、すぐに見えなくなった。

「じゃあ行くよ、ヴィル」
『了解です!』

飛びながら少しづつ、少しづつ、オルトロックの近くへと寄っていく。
姿は勿論、存在自体も消して。少し、づつ。

『残り20』

手に凄く汗が滲む。心は落ち着いてても、体は素直なんだな。

『残り10』

オルトロックの気配が、ハッキリと認識出き、掴みとれる。もうすぐ……。

『5』

「グレイブナックル」
『トランスインポート・グレイブナックル』

『3』

静かに灰色の雲の空を突き抜けて、私は遂に、あの男の姿を眼下に捉える。
物々しい武装を肩に担ぎ、私を待ち構えている―――――――――――オルトロック・ベイスンの、姿を。
グレイブナックルを構える。

『解除』

オルトロックが振りむいた。―――――――――――――――ぶち込む。ありったけの、全てを。

「これで……決める!」

ヴァーストによって赤いオーラに包まれたヴィル、もといメルフィーが、オルトロックに向かって拳を叩き付けるが如く、飛び込んで行きながら拳を伸ばす。
完全に不意を突かれたオルトロックは一瞬呆気に取られたが、舌打ちをしながらホルダーからカードを引き出し、発動させる。

「二度も同じ手、喰らうかバーカ!」
『トランスインポート・アンチフィールド 残りカウント30』

オルトロックの周囲を黒い半透明の、円形上の物体が包みこむ。
メルフィーは両手に装備されたグレイブナックルを乱打するが、一向にその物体に傷が入る様子は無い。それもその筈、アンチフィールドは30秒間、全ての攻撃を防ぐからだ。
一瞬焦ったものの、勝利は揺るぎない。口元を歪めてオルトロックは担いでいるエルシュトリームクラッシュをメルフィーに向ける。

「外は駄目でも……内側からなら攻撃できるんだよね。って訳で残念でした!」

アンチフィールドの残り時間、約10秒。その間にエルシュトリームクラッシュの砲口から全てを消滅させる粒子砲が発射されるまで、あと10秒。
オルトロックはエルシュトリームクラッシュの引き金を、引いた。砲口の光によって、アンチフィールド内が赤く輝きだす。

―――――――――だが、メルフィーに慌てる様子も、恐怖を感じる様子も無い。
今のメルフィーの脳裏に浮かぶのは只、回避する事だけ。頭の中でオルトロックのダブルウィップを退けた時の、あのイメージを蘇らせる。
カードを引き出し、メルフィーはカード名を唱えた。

「プレイスフィールド」
『トランスインポート・プレイスフィールド』

『残りカウント120』

アンチフィールドが消失すると同時に、エルシュトリームクラッシュから赤黒く極太で、空気を震わす様な低い重低音を響かせながら、ビームが発射された。

メルフィーはプレイスフィールドをビームが放たれるのを見図らいながら、踏み台の様にして飛び上がる。
足元でプレイスフィールドが、エルシュトリームクラッシュのビームによって跡形も無く消し去る。その上でメルフィーは綺麗にオルトロックの上で宙返りしながら体を捻る。
解除される、アンチフィールド。カードを引き出し、ヴィルティック・ライフルを召喚して、落ちながら狙いを定める。

ビームが収束していき、エルシュトリームクラッシュが役目を終えて消えていく。そこにメルフィーはおらず、オルトロックは振り向いた――――――瞬間。

ヴィルの補佐もあり、正確に放たれたヴィルティック・ライフルのエネルギー弾が、正確にオルトロックの額を撃ち抜く。

「……驚いた」

オルトロックの頭から出てきたのは真っ赤な血ではなく、真っ黒な形容出来ない物体。その物体がとめどなく溢れて来て、オルトロックの端正な顔を汚す。

「ふ、ふふ……」

何が可笑しいのか、オルトロックの口元から笑いが零れる。その笑いはささやかな笑いだったが、次第にオルトロックは腹を抱えて、爆笑し始めた。
爆笑しながら、ホルダーからカードを一枚取り出し、発動させる。

『トランスインポート・リペア』

「……人間じゃないのか」

額に刻まれた大きな黒点が、巻き戻しするように塞がっていく。額から口元に流れている液体に指を付けて、舌で舐めながら、オルトロックはポツリと、呟いた。

「……それもこれも、鈴木隆昭の所業だ。恨むなら鈴木隆昭を恨め」

『トランスインポート・テレポート』

油断。不意を突かれて、メルフィーは腹部を蹴られ、ヴィルティック・ライフルを、手放してしまう。
オルトロックは手に再びグラン・ファードを呼び寄せると、刃が分離させて、メルフィーの両腕へと絡めつかせ、拘束する。
空いた手で、最後のカードを引き出し、発動する。

『トランスインポート・リターン』

メルフィーが所有する最後の武器、ヴィルティック・ライフルが、オルトロックの手に渡る。
右手にはグラン・ファード、左手にはヴィルティック・ライフル。一方、メルフィーに武器は無い。ただ、両腕を縛られ、身動きを封じられただけだ。

「流石あの男の女だけあると思ったよ。大した度胸と頭の回転の速さ。心の底から腹が立つ。お前達夫婦はな」

明らかにオルトロックの口調が変わっているが、今のメルフィーにはそんな事を気にする余裕はない。動こうとするが、装甲に刃が食い込んで、尚更動きが封じられる。

「止めとけ。グラン・ファードは抵抗すればするほど、深く突き刺さる。メルフィー・ストレイン。お前の辿る運命は一つ」

ヴィルティック・ライフルの砲口が、メルフィーの頭部へと狙いを定める。何も言わず、オルトロックを見据える、メルフィー。

「……最後に言いたい事、言わせてやる」

引き金に指を掛け、オルトロックがそう、メルフィーに言った。

『残りカウント60』

「……言いたい事なんて、無い。けど」

――――――――――――――――――その目は、負けもしなければ、諦めも、しない。静謐な蒼い瞳が見つめるのは、ただ一つ。

「―――――――――正義は、勝つ」


瞬間、赤い粒子がグラン・ファードの刃へと渦を巻く様に集まりだす。粒子は刃へと浸食していくと、赤く染め上げていく。
両腕に込められるだけの、ありったけの力を込めて、メルフィーはグラン・ファードを、一気に跳ねのけ、粉砕した。

「何!? だが!」

例えグラン・ファードが無くなっても、こちらにはヴィルティック・ライフルがある。あくまで笑みを崩さず、オルトロックはメルフィーへと射撃する。
が、メルフィーはオルトロックの正確無比な射撃を、全て粒子によって作られた残像によって回避する。周囲一帯を赤い粒子が巻き上がる。
残り時間30秒。メルフィーは最後のカードを引き出し、最後の言葉を、叫んだ。

『残りカウント30』

「グレイブ!」
『トランスインポート・グレイヴ』

メルフィーの足元に宿る、烈火の様に形成される粒子の結晶体。きりもみ回転しながら、オルトロックの、頭上へと飛ぶ、メルフィー。
全身から粒子を放出しながら、メルフィーがオルトロックへと加速を付けながら、落ちていく。
引き金を引くものの、既に弾が切れている。オルトロックの両目に、彼女の姿が、映った。

「ヴァースト……グレイヴ!」

ヴィルティック・ライフルごと破壊しながら、メルフィーの右足が、オルトロックの胴体へと叩き込まれた。
時が止まったかのように、オルトロックの動きが止まる。背中の黒い翼が蝋燭の火の様に消滅していく。

そのまま、オルトロックの体が重力に身を任せるかの様に、落下していく。


『解除』

同じ様にヴィルを紅くしていたヴァーストが消えて、元の蒼色へと戻る。
背中の翼は激しく小さくなり、至る所の装甲がボロボロとなり、メルフィーの体に複数の痛々しい痣が見える。
だが、不思議な事にメルフィーの顔に苦悶の表情は無い。むしろ、満ち足りた様に穏やかな顔だ。



全部……終わったんだ……よね……。

凄く……疲れちゃ……た……。

瞼が自然に閉じていき、私の意識、も。

完全に、閉じた。

「ふぅ……」

体育館裏の屋根の下、一行に止む気配の無いどしゃぶりの雨を、遠い目で見つめながらその男、草川大輔は一息吐いた。
自らの首筋に指を当てた瞬間、草川の姿が一寸の光と共に消失すると、本来の姿となって戻って来る。

「もうこの生活も終わりか……まぁ、学生時代のルナを堪能できたし、悔いは無いか」

苦笑を浮かべながらその男は、後ろのポケットからはみ出ている湿気た煙草の箱を取り出して底を揺らし、一本、口に咥える。
男は全身を黒色でフォーマルなスーツに身を包み、軽い雰囲気がありながらも、落ち着いていて酸いも甘いも噛みしめた、老獪な雰囲気を感じる。
顔は随分大人びて美形ではあるが、その男は間違いなく、草川大輔本人である。―――――――――数十年未来の、ではあるが。

「悪いな、大輔。余計な任務を負わせちまって」

何時の間にか、草川の隣で腕を組み、同じく雨を見上げる、スーツ姿の男が声を掛ける。

「良いんだよ、別に。それよりお前、あの野郎から受けた傷はもう大丈夫なのか?」

草川の問いに、額に包帯を巻いた、スーツ姿の男―――――――――本来の姿となって戻ってきた鈴木隆昭は、額を摩りながら答える。

「まぁ、明後日には治ってるよ。思ったより深くなかったからな」
「……ホント、無駄に体が丈夫だよな、お前」
「無駄にな」

二人の男の乾いた笑いが、空中で響く。しばらく雨を眺めていると、草川が俯きながら、言った。

「……本当にこれで良かったのか? メルフィーちゃんをいきなりあいつと戦わせて」
「これで良い。あいつが来た時点で、もう戦い方を教えている様な時間も余裕も無いからな。現に俺らの未来は、もうどうしようもない所まで来ちまった」

隆昭の言葉に、草川は複雑な面持ちとなる。そんな草川の変化を知ってか知らずか、隆昭は言葉を続けた。

「……只、これはあくまで可能性の話だ。もしメルフィー自身が望まなければ、そこで未来は分岐する」
「分岐……なぁ。だが分岐させても大丈夫なのか? ある種のパラドックスが」
「パラドックスが起こっているなら、俺もお前も存在出来てないぜ。未来は変える事が出来る。だから、俺達はここに居るんだろう?」

壁際から離れ、隆昭はスーツの胸ポケットから何かを取り出す。そして草川に振り向いて、告げる。

「それじゃあちょっくら、嫁を救いに行ってくるわ。多分酷い事になるから大輔、あっちに戻ってとびっきりの医療設備を用意しといてくれ」

「……なぁ、隆昭。もし、もしもメルフィーちゃんが……メルフィーちゃんが死んだら、この世界はどうなる?」


「そんときゃ、この世界の終わりさ」

「じゃ、頼んだぜ、大輔」


                            第 二 部 

                             に

                             続く



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