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影を、掴んで 前編

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匿名ユーザー

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――――――――西暦、2307年。僕がまだ、世界について何も知らなかった、あの頃の話をしよう。


遥か昔――――2000年代から今に至るまで、人類の文化は格段に進歩と発展を遂げ、そして飛躍した。
人類が一重に飛躍した理由は、長い年月を共に歩んできた、テクノロジーという存在だ。テクノロジーの進化は人類を進化させ、人類の進化と共にテクノロジーは進化する。
そのテクノロジーから生まれた、軌道エレベーターとコロニ―という偉大なる産物は、地球と宇宙の遠い距離を目と鼻の先くらいにまで近づけた。

だけどテクノロジーが運んでくれたのはそういった産業技術の発展だけじゃない。テクノロジーは同時に、従来の戦争の――――いや、兵器の形を変化させた。
その兵器の名前はモビルスーツ――――通称MSと呼ばれる、人間が乗りこんで動かす巨大なロボット。その特徴は一言では言い表せない程、魅力に満ちていた。
人間と同じく二足歩行で動き、かつ人間を模している形状で様々な武器を扱え、様々な状況下で運用でき、発展性と量産性に優れる。そんな革新的な兵器。それが、MSだ。
このMSという存在によって、戦争はその形を急速に変化させていった。それほどMSのパワーバランスは、従来の兵器を遥に凌駕していたんだ。

MSの開発、及び発展に世界中の軍人や科学者が躍起になったのは言うまでも無い。次第にMSを巡る力関係は、世界に三つの勢力を創り出した。
アメリカが中心となって成形されたUNION、ヨーロッパが群を成し、結成されたAEU、そして―――――今僕が住んでいる、中国が中心となった人類革新連盟、通称人革。
この三つの勢力は互いに睨みあい、ギリギリのバランスを保っていて、一種の冷戦状態となっている。

ここまで語っておいて何だが、僕、いや、僕達の生活に、上記の戦争だの兵器だのは全く縁の無い話だ。
世界で何が起こっていようが、何処が戦場だろうが、僕達はその何かが起こっているという事実をモニターの前ぐらい、ただのニュースとでしか実感できない。
こう言うと対岸の火事だとか、無責任だとか批判されるけど、ニュースはニュースだ。実感し様が無い。僕達の住んでいるは何時までも平凡で、平和で――――。
そう、僕達―――――いや、僕は思っていた。



                   ソレスタルビーイング。もしあの組織が現われなければ―――――――
             「俺」は、あの日の、世界について何も知らない甘い「僕」のままでいられたのかもしれない。




―――――――2312年。あの日から4年の月日が経った。時間と言うのは早いもので、尚且つ残酷なモノだと、痛いほど痛感している。

俺は気を鎮める為に閉じていた目を開き、全方位モニターを作動させる。静寂に満ちた暗いコックピットに、淡い光が満ちていき、やがて眩しいほどに明るくなる。
前面には赤色と緑色に分かれている、円形のロックオンセンサーを筆頭に、様々なデータを数値化・データ化した計器が立体映像として浮かび上がった。
順序良くスイッチを入れていき、各部機構を作動させていく。スラスターをはじめ、各部に異常が無いかを細部に渡って確認する。

視界を外に移すと、慌ただしく動く整備兵やパイロット達の姿が見える。どこか一か所でも異常が見えればモニター上に黒い正方形が見えるが、異常は無い様だな。
操縦桿を弄り、正常にマニピュレーターが動くかを再確認し、ハンガーからGNビームライフルを取り外して装備させる。
右に目を向けると、俺と同じく出撃を待っているアヘッドの部隊が見えた。息を吐きながら操縦桿を強く握り、この感触を確固たる物にする。
そろそろ通信が入ってくる頃だろう。今回の任務は少々厄介だ。軌道エレベーターを占拠した反逆者のクーデター鎮圧、もとい、首謀者の逮捕。

そしてあわよくば、この事態に武力介入してくるであろう、ソレスタルビーイングの―――――討伐。俺の手が自然に力み、汗が滲む。

『ブルース少尉、発進を許可する』

俺は正面を見据え、雑念を払い、気を集中させる。ハッチが開きはじめ、白き雲と海原の様に広がった蒼い空が見えた。あの空の向こうに、任務がある。

『セレウェイ・ブルース、出撃する』

オペレーターに返答し、射出用のレールに機体を移動させる。レールが動き出し前から来る重力で俺の体が軋む。だが、この軋む感覚は妙に心地が良い。
機体が高速で空中へと投げだされ、俺は一瞬、全方位に広がる空のせいか自分が空を飛んでいる様な感覚に陥る。しかしそんなふざけた感覚はすぐさま、重力に剥ぎ取られた。
スラスターを作動させて、体勢を立て直し件のエレベーターへと機体を急加速させる。ふと、上空で俺より早く飛んでいくアヘッドが見えた。

確か……アンドレイと言ったか、あのアヘッドのパイロットは。やけに張りきっている様に見えるが……まぁ、俺には関係の無い話だ。


―――――――この戦いで俺は払拭する。過去も、しがらみも、そして……彼女の、事も。


                         原作:機動戦士ガンダム00/セカンドシーズン


                             影を、掴んで   前編                      

――――――2307年。

「それでは今日の授業はここまで。ちゃんと予習復習する様に。では、また来週」

ようやく長く暗くてつまらない授業が全て終わった……。僕は解放感から握っていたシャーペンを放り投げ、思いっきり背を伸ばした。
後ろで皆がガヤガヤと騒いでいる声が聞こえる。僕と同じ様に窮屈感から解放され、部活やらなんやらに没頭できるからだろう。
でも、僕が嬉しいのは部活が出来るからじゃない。というか部活には入っていない。部活よりずっと楽しい事があるから。

皆がぞろぞろと教室から出ていく中、僕は奴が声を掛けてくるのを待つ。ちらりと後ろを覗くと、奴は女子と取りとめの無い(けど女子は楽しそうな)会話をしている。
その会話も終わり、教師は勿論生徒の皆も居なくなった教室で、奴が席を立つ音が聞こえた。僕も合わせて席から立つと、奴が親指をサムズアップさせて出口に向けると、僕に言った。

「行こうぜ、あいつが待ってる」

無駄に長くて退屈な学校を出て、学校沿いのフェンスを歩きながら、僕は奴と共に、あいつが待つあの場所へと向かう。
早い所あの場所へと行って、あいつに会いたい。本当は1日中修理に没頭したいけど、まだ学生と言う身分、放課後と長期の休みでしか付き合えないのだ。
ふと、奴が曇った眼鏡を拭きながら僕に話しかけてきた。僕はそれに応じる。

「早く卒業したいぜ。というか社会人になって仕事したい。お前もそう思うだろ? セレウェイ」
「うーん……僕はこのまま学生で良いかなぁ。退屈だけど毎日同じ事してれば良いからさ。それに勉強だけしてれば苦労しないし」

僕がそう言うと、奴―――――拓馬・フォレイリは掛けているメガネを掛け直し、ワザとらしく大きなため息を吐いた。

「お前なぁ……なんか夢とかやりたい事とか無いのか? そんな調子じゃ食えなくなるぞ、将来」
「大丈夫だよ。もしそうなったらヴェントさんの所で働かして貰うよ。いやでも腕は付いたし」
「アルバイトでもアレなのにお前じゃ三日も持たないと思う。俺は真剣に心配してやってるんだけどな……」

そう言って二ヤリと笑う拓馬。けど、正直拓馬はずるいと思う。だって拓馬はMSの技術者って夢を持っているから。僕は違う。
正直僕には、拓馬の様な何になりたいとか、そういう夢は無い。MSが好きだし、MSを動かすメカニックな部分も好きだ。
だけど技術者とか開発者になりたいかと言われれば、ちょっと違う。僕は今、自分が何をやりたくて、どんな将来を迎えたいのかが全く分からない。

目的の場所につくまで、僕はしばし、親友である拓馬の事について思う。

拓馬・フォレイリ。学校では常に上位成績を維持している、担任はもちろん全ての先生からお墨付きの優等生。そして技術者という夢に向かって一直線な、羨ましい奴。
おまけにスッと通った目鼻立ちと、クールな雰囲気漂う銀縁眼鏡で女子からも人気が高く、運動神経も良い……と、全く穴が無い完璧超人だ。
何もかも普通というか、何時も中途半端にこなす僕とは明らかに釣り合わない気がする。とはいえ、そんな僕と拓馬がこうして仲が良いのは単純な理由。
小さい事からの幼馴染だからだ。生まれた時から家が隣同士で、尚且つ通う幼稚園から小学校まで同じだった。

それから今の高校に到るまで色々あったけど、面と向かって悪口を言い合えるし、思いっきり破目を外せる。拓馬とは照れ臭い言葉だけど、親友みたいな関係を築いている。
だけど拓馬と仲が良いのは、別に幼馴染ってだけじゃない。僕も拓馬も、同じ共通点があったから。

それは、僕も拓馬も、MSが好き、いや、大好きという点だ。幼少時から僕達は同じ様にMSについての素晴らしさを語り合っていた。
あんな巨大なロボットが人の手で動かされて、地上や宇宙で戦っているなんて思うと、心の底からワクワクする。小さい頃から今まで僕のそのワクワク感は衰えていない。
家に帰ると自室は、なけなしのバイト代や小遣いで買ったミニチュアサイズのMSのプラモデルやらポスターやら雑誌やらで溢れかえっており、絶対に女の子を呼べない部屋となっている。

一方、拓馬も僕と同じくMSに関して度が入る程のオタクだが、僕とは微妙にスタンス違う。
単純にMSのカッコよさに惚れこんでいる僕と違って、拓馬はMSについて昔からこう言っている。

「あのさ、セレウェイ。俺はさ、何時か大人になったら、MSを通じて世界へと関わりたいんだ。
 俺の手で、MSを作って、設計して……それで俺が携わったMSが少しでも世界が動かしたら、すげーと思わないか?」
「……ごめん、拓馬の言ってる事が良く分からない」

僕がそう言うと、拓馬は髪をぼりぼりと掻いて小声で困った奴らだと言うと、決まって笑顔を浮かべ、こう言う。

「ま、期待してろよセレウェイ。いつか俺が作ったMSが、世界中で運用される日をさ」

高校生になった今でも、正直僕には、拓馬の言っている事が深く理解できない。理解はできるが、深くは分からない。
MSが単純にカッコ良くて、ファン……と言ったら良いかは分からないけど、そんな僕に比べて拓馬の視点はあまりにも高尚過ぎて。

拓馬がこんな感じなのは理由がある。拓馬のお父さんは有名なMSのメカニックで、拓馬はそんなお父さんの背中を見て育ってきたという。
そんな訳で、拓馬は小学校の頃から学校の勉強とは別に、機械工学についての自ら進んで勉強している。
一度、その機械工学についての教本を読んだ事があるけどすぐさま頭痛がするくらい、難しい奴だった。難しい用語やら、図解やらで。

お父さんの近くで仕事を見てきた拓馬にとって、機械弄りは玩具で遊ぶのと変わらないらしい。暇な時は時計を分解して元の姿に戻すとか、色々やってたと聞く。
拓馬が語るに、学校の勉強より機械工学の方がずっと難しいらしい。学校の勉強について何時もどこか抜けてて、テストになると必死になる僕にとっては羨ましい。
だけどそれ以上に羨ましいのは、拓馬にはMSの技術者っていうハッキリとした夢がある事だ。未だに将来、何をすべきか定まっていない僕には……それが、一番羨ましい。

数十分歩くと、遂に目的の場所へと着いた。僕の目と拓馬の目が自然に合う。拓馬の目に笑い皺が寄っていた。多分僕の目にも寄っていると思う。

もう外は薄暗いのにその場所はまだまだ明るく照らされおり、中では朝から晩まで作業が行われている。
独特の鼻をくすぐる鉄の匂い、広いスペースに所狭しと並ぶ大きなハンガー等の大型機材、高く積み上げられた修復用の資材。
そして横3つに並べられた、修理中のMS。ここは僕達の住んでいる地区で唯一の町工場にして――――MSの修理工場だ。

僕達が中に入ると、作業している工員の人が気付いて、頭部を溶接しているおやっさんへと声を掛けた。おやっさんがヘルメットを外して、ロープを伝い下りてくる。
この町工場の工場長にして、僕達に取って学校の先生以上に先生と仰ぐその人の名は、ヴェント・ローファスさん。通称、おやっさんだ。
スキンヘッドと強面フェイスに、逞しく盛り上がっている筋肉、それに工場内に響く大きな声は、おやっさんを知らない人から見るとかなり怖いと思う。
けど、僕達はそんなおやっさんが凄く良い人で、かつ優しい人である事を分かっている。人は見かけによらないという言葉は、この人そのモノだと思う。

「おうお前ら! 今日もやってくのか!」

白い歯を見せて豪快な笑い顔を見せながら、おやっさんがそう聞いてきた。答える答えは勿論決まっている。拓馬がおやっさんにハッキリとした口調で答える。

「はい! 勿論です!」

拓馬がそう返すと、おやっさんは作業服のポケットから何かを取りだした。丸まった神が、輪ゴムで締めてある。
僕は受け取って輪ゴムを取り、その紙を拓馬と一緒に読んでみる。何かのリスト……もしやこれって。

「おやっさん、もしかしてこれってティエレンの……」
「あぁ、足りない部分のリストだ。お前らちょっと手こずってたみたいだから、揃えておいたんだよ。ほれ、早く行け行け」

そう言っておやっさんはしっしっと手で僕達を追い払うジェスチャーを取る。僕達はおやっさんに深く礼をして、あいつの元へと走り出す。

「明日明後日はちゃんとバイトに来いよ―! じゃねーと弄らせねえぞ!」
「分かってまーす!」

と、僕と拓馬は同時に調子の良い返事をして、、一番奥で僕達を待っているあいつの元へと辿りつく。
立っているMSに混じって、トレーラーに寝かせられている一体のMSがある。掛けられている布を全て取り外すと、僕達の前にあいつ――――修理中のティエレンが露になった。

僕達が住んでいる人革において、正式採用されており、常備配備されているMS。そのMSの名は、ティエレンという。

剥き出しの如何にも機械的なモノアイに、ドラム缶の様に弧を描いている、悪く言えばずんぐり、良く言えば兵器然とした素敵すぎるフォルム。
そして巧みに曲線と直線を織り込んだ手足と、右足の武骨なシールドと、全身を纏う重装甲。正に戦車をそのままMSにした様なMS、それが、ティエレンだ。
正直に言えばUNIONのフラッグの様なスマートさも、AEUのヘリオンの美しさも無いけど逆にそれが良い。MSでは一番兵器らしいと、僕は本当にそう思う。

そんな僕達が、只の学生である身分なのにティエレンの修理をする事になった経緯は、かなり遡って小学生の時にまで戻る。



ある日の事、僕達はこの地区でMSを修理している町工場がある事を知った。ちょうど夏休みである事も重なって、僕達はその町工場に行こうと決心した。
実際に行ってみると、僕達は目の前で修理されているMSの迫力にただただ、飲まれるしかなかった。入り口でポカンと、あほみたいにその現場を覗いていた。
と、そんな僕達に気付いた当時のおやっさん……いや、ヴェントさんが、僕達の元へと歩いてきた。

ヴェントさんの形相にビビった僕達は、逃げる事も出来ずガタガタと震えて、キョドりまくった。

「ど、どうしよう拓馬。あの人こっち来るよ」
「早く逃げなきゃ……」

「おい! お前ら!」

野太く、地が震える様な大きな声で、ヴェントさんが声を上げた。

僕達は蛇に睨まれた蛙の如く、その場から動けずただ、怒られるのを覚悟してじっと目を閉じた。                      
歩く音が止まり、僕達の前に立ったであろうヴェントさんがしゃがんで、僕達の顔をギロリと覗いている……と思う。
謝ろうかと思ったけど、目を開けようと細目になると、ヴェントさんの強面が全開に映ってすぐさま肝が冷えた。
もう駄目だ……何故か両親に対して懺悔しながら、その時を待つと、ヴェントさんの口から全く予想だにしなかった台詞が飛び出した。

「モビルスーツ、好きか?」

僕は驚いて目を開けた。拓馬も驚いたらしく、僕達は顔を見合わせた。どう答えれば良いのか迷ったけど……好きかと聞かれて、答える答えは一つだ。

「はい、好きです!」

僕達が素直にそう答えると、ヴェントさんは二カっと笑って嬉しそうに言った。

「そうか! それじゃあ何時でも見学しに来いよ! お茶もお菓子も無いが、見るだけならタダだからな!」



その日を境に、僕達は学校が終わるとまっすぐに、町工場へと向かった。予定が無い日は決まって見学しに行くのが、僕達の日課となった。
友達付き合いとかが無かった訳じゃない。それなりに付き合いがあったし、受験の時とか運動会とか、学業や学校行事に専念しなきゃならない時には、そっちに集中する。
一度勉強が嫌になって見学しに行ったら、ヴェントさんが凄い剣幕を張って帰らされたし。

あの日を境に、僕達とヴェントさんは仲が良く……と言うと変だけど、僕達にとって頼れる大人となった。ある意味、両親以上に。
僕達が見学に来ると、いつでも気さくな笑顔で迎えてくれて、MSについて色々教えてくれたり、MSを触らせてくれたりする。
それに、学校の事とかでちょっと悩み事があるとすぐに見抜いてくれて、凄く豪快で大雑把な口調だけど、親身になって相談に乗ってくれたりする。
何時しか僕達は、ヴェントさんの事をおやっさんと呼ぶようになっていた。そう呼ばれる度、ヴェントさんは嬉しそうに笑う。

高校生になると、僕達は両親から(拓馬の方はノリノリで許可してくれ、僕は結構手こずった。それというのも……)の承諾の元、アルバイトとしてヴェントさんの手伝いをする事になった。
無論、無償で。アルバイトなら別に入れてあるし、僕達はお金を貰いたくてやるんじゃなくて、MSが好きでこの手で触りたいから、働きたいと思ったのだ。
最初、おやっさんはお前ら本当に良いのか? と心配そうに言ったけど、僕達の熱意に押されて、苦笑いを浮かべながらも認めてくれた。

仕事の事になると、アルバイト風情である、僕達にさえ当り前とは言えおやっさんは凄く厳しくなった。手は出ないけど、少しでもミスがあると激しい怒号と罵声が飛ぶ。
何度かくじけて辞めたくなるときもあったけど、拓馬に叱咤されたのと、やっぱりMSが好きだって事で、僕は必死になってアルバイトに励んだ。
それに仕事が終わった後におやっさんと工員さん達と食べる飯も凄く旨いから。それともう一つ。

一つ一つが、全く別のパーツが細かく入り混じり形成されて、こんな人が乗って操る様な大きなロボットになる。
そう考えると、僕は自分がとてつもなく自分が凄い事をしている様な気がしてドキドキした。けど。

けど、ふと冷静になると、どこか冷めている自分に気付く。僕は確かにMSは好きだけど、開発者になるでも、技術者にでもなる訳でもない。
なのに何でこんなに必死になってんだろうと。ただ僕は……。この感情は、今でもたまに頭の中に浮かんでくる。

拓馬を見ると、いくらヴェントさんに怒られようと、楽しそうに修理したり、整備している。本当に自分の好きな事をやってるって感じで。
僕はそんな拓馬の様子を見る度、時折酷く不安な気分になる。いつか僕は……僕は拓馬に、置いていかれるんじゃないかって。
でも作業に集中すると、そんな考えは霧の様にサーッと消えていく。

1高二の夏、僕達は何時もの様に、アルバイトの為に町工場へとやって来た。
と、入るなり何故かおやっさんが、ついて来いと一言だけ言って、工場の奥へと僕達を先導する。
僕と拓馬は何だろう? と思って疑問符を浮かべながら、おやっさんへとついていく。次第に、何かが見えてきた。

「お前らも相当技術を学んだだろ? でだ、長期間、頑張って働いたお前らへの給料代わりに……」

そう言っておやっさんが指を鳴らすと、工員の人達が、虎ーらーの上にかぶさった布を取り外した。

そこには、右足と両腕、それにモノアイを失ったティエレンが横たわっていた。

「このティエレン、お前らが修理しろ。道具もスペアも好きに使って良い。このティエレンは、お前らのティエレンだ」


おやっさんの手伝いをしながら、ティエレンの修復を引き継いで幾分時が経ち過ぎ、右腕まで修復する事が出来た。
思った以上に僕達は早いスピードでティ連を修復していく。おやっさんに散々怒られ、鍛えられた分、体にMSを直す為の技術が染み込んでいるみたいだ。
形を失ったティエレンが、次第に元の形を取り戻っていく様は、滅茶苦茶苦労しながらも、今まで経験した事の無い充実感と達成感を感じる。
僕も拓馬も作業中はあまり言葉を交わさないけど、同じ時間を共有し、この、瞬間を楽しんでいる。

―――――そんな日、世界を揺るがす事件が起きる。忘れもしない、あの事件。
AEUでの新型機の実験中に、今まで見た事の無い機体が乱入し、ほぼ一瞬で新型機を破壊してしまったというニュースだ。
そのニュースを見て、僕達は凄い衝撃を受けた。

白と蒼が入り混じった綺麗な機体色に、二つの目、尖った角に、蒼い粒子。全ての要素が、僕達が全く見た事の無いMSと言っても、過言じゃなかった。
ネットではその機体名の名前が噂話として流れていた。――――――ガンダム。そのMS……いや、MSじゃないかもしれないけど、それの名前だ。

同じ時期、イオリアと名乗る変なおっさんが全世界のTVというTVを乗っ取って、とんでもない声明を発表した。

ソレスタル、ビーイング。

おっさんはそう名乗って、世界中の紛争へと介入し、根絶するだなんてとんでもない事を言いのけたのだ。
この二つの事件をきっかけに、世界はとんでもない事になった。あの乱入してきた機体―――――ガンダムが、世界の至る所で動きだしたからだ。
オレンジ色のガンダムが麻薬を栽培していた地区を焼きはらったり、モラリアの紛争地帯であの初めて姿を現したガンダムが、アンフを残らず殲滅したり。

だけど僕はそれ以上、ソレスタルビーイングに興味は持たなかった。時折、ネットに流れてくる機体のスクープ映像とかは保存したりしたけど。
世界で何が起ころうと、僕達の生活に変化が起きる訳でも無ければ、大変な事になる訳でもない、所詮、モニターの向こうの出来事に過ぎない。
けど、拓馬はソレスタルビーイングに対して興味深々といった感じになっていた。拓馬に言わすと、ソレスタルビーイングは世界に対しての革命を起こす存在らしい

「だって考えてみろ、セレフェイ。あいつらが何で各国を襲うのかをさ。あんな軍事力を個人で保有してるって事は、それなりの理由があるんだよ」
「理由って……紛争を根絶だっけ? どう考えたって無理でしょ。あの人達はただのテロだよ。それ以上でもそれ以下でも無い」
「ただのテロリストがあんな機体を持ってる訳無いだろ。俺はソレスタルビーイングには、もっと別の目的があると思うね。そう、何か大きな目的がさ」
「……あほらし。おい、そっちの回線、つないでくれ

僕が軽くあしらうと、拓馬は軽く笑うと、遠くを見る様な表情になって、言った。

「まぁそれは冗談で。俺さ……あいつらの乗ってる機体をこの目で見てみたいんだよ。それでどんな技術を使われているかを知りたい。お前もそう思うだろ?」

そう言われると……と言うか最初からそう言えよと思わない事も無い。僕は軽く頷き、作業に集中する。

興味が無いと言えば嘘になる。僕も拓馬と同じく、目の前でガンダムを見てみたいと思う。
けど、蒼い粒子や面構え、そして武器は、僕達が知っているMSとは根本から違うモノを感じる。まるで異星から来た様な。
それと同時に、何とも云いしれない不気味さも秘めていると思う。一度秘密を知ろうとしたら、ただじゃ済まない……そんな、不気味さを。

しかしそんなソレスタルビーイングの活動も、静かになりを潜めてきた。理由は勿論分からないし、メディアが隠しているのかもしれない。
次第に僕も、拓馬もソレスタルビーイングの事に触れなくなっていき、ティエレンの修理へと、心身を注ぐ様になっていき―――――。


今に、戻る。


「……出来たな」
「あぁ、出来た」

今日、最後の修理が終わった。モノアイ、及び頭部の修理が終わったのだ。モノアイを守る透明で巨大なレンズを接合する。
ここまで偉く時間がかかったが、今僕達の目の前には、僕達自身の手で修復したティエレンが目の前にある。
色々と苦労した。二、三度、ガチで喧嘩して、おやっさんに怒鳴られる事もあった。
だけど、僕は拓馬と共にこのティエレン一機を完全とは言わないけど、元の姿までに修復したのだ。そう思うと、僕は心の中で激しくガッツポーズを決めた。

拓馬と目が合う。疲れから言葉が何も出ないけど、僕も拓馬も同じ事を感じてると思う。自然に、僕も隆昭も笑みがこぼれた。
もう外は真っ暗闇で、掛け時計を見ると午後10時を指していた
帰る頃には疲れて風呂にも入らず寝てしまうと思うし、翌朝母さんにこっぴどく怒られると思う。けど、今はそんな事がどうでも良いくらい、嬉しい。

……そうだ、拓馬みたいに明確な目標がなれなくても、メカニックとして生きていけばいいんじゃないか?
別に目標も何も無いなら、ここでおやっさんから学んだ事を生かした方が良いんじゃないか。

「おぉ! やったなお前ら! 遂に完成させたのか!」

後ろから声が聞こえて振り向くと、腕を組んだおやっさんが喜々とした様子でそう言った。拓馬が自虐気味に言う。

「偉く、時間が掛かっちゃいましたが……」
「阿呆、時間なんか気にすんな。それよりお前らが二人だけでティエレンを修理した。その事実が凄いんじゃねえか」

「で、これ何時試用する? 俺の古い友達に、ちょっとばかしお偉い軍人さんが居るからよ。お前らだって自分達が直したティエレンが動くの、見たいだろ?」

おやっさんの発言に、僕と拓馬は顔を見合わせた。試用……試用って、つまり……僕達が修理したコイツが、動くって事か!


おやっさんが口元をニヤニヤとしながら、僕達の返事を待つ。僕と拓馬は顔を見合わせ――――とっ。

「す、すみません……ちょっと、トイレ行ってきます!」

瞬間、強烈な尿意を感じて、僕は入口の方へと駆けた。後ろで拓馬とおやっさんが呆れている様子が浮かぶ。
とはいえ作業に集中していると、時間も尿意もどっかに吹っ飛んでしまうのだ。これはしょうがない。

町工場から少し離れた所にトイレはある。僕は一通り済ませて、至極爽やかな様子でトイレから出てきた。
にしても僕達が修理したティエレンが動く……考えただけで、何とも言えないワクワク感が、体の中を駆け巡る。

何にせよ、早く戻らなきゃ。そう思って走ろうとした―――――その時。

妙な気配を感じて、振り向いた。霊感とかそういう類のモノは何も無いけど、何か感じたからだ。
じっと目を細めると、誰かがこちらに歩いてくるのが見える。……妙だ。フラフラしてて、まともに歩けなてない。
と、その人が何かに躓いたのか、道路に倒れた。いけない! 僕はすぐさま、その人へと駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

僕がそう言うと、その人は何も答えない。段々目が暗闇に慣れてくる。
僕はしゃがんで、その人を抱えた。やけに体が細く感じる。体に見合ってない、だぶだぶな服を着てるみたいだ……。
それに帽子……もサイズが合ってない。顔を隠すみたいに、やけに大きい、と、帽子が道路に転がって、その人の顔が見えた。

僕の掌に、何かの感触が乗っかる。長くてサラサラして――――――髪、の毛?

おぼろげながらも、その人の顔が見えてくる。――――――――――僕は、驚く。


女……の子?







                                    中編に続く


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