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未来系!魔法少女 ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 結 第一部前

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irisjoker

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                      この作品はパラレルワールドで本編とは関係ありません。多分





ぽつり、ぽつりと水滴が屋根に落ちてきては、グラウンドを濡らす。やがてその水滴は大量に降り始め、雨となる。
空を覆っていく灰色の雲と共に雨は強くなり始めて、窓ガラスやコンクリートに当たっては共鳴する様に独特の音を鳴らす。

雨はグラウンドだけでなく、その上で横たわっている生徒達の頬を濡らす。雨の音と、頬を濡らす冷たい感触に一人、また一人とゆっくり閉じている瞼を開けていく。
目を覚まし起き上がった生徒達は、何があったのかが把握できておらず、不安で友人に泣き付く者、近くに居る者を気遣う者、首を捻る者と様々な反応を見せる。
その中の一人である生徒会長、氷室ルナが、浅い眠りから目を覚まし、のっそりと体を起こした。

「ん……? 私……」

寝起きのせいなのか、それともあまりにも非現実的な事態に出くわしたからか、頭にジンジンと鈍い痛みを感じる。
歯を食いしばりながらルナは思い出す。さっき何が起こって、そして何故、自分はこんな目に会っているのか。
確かメルフィーが不自然なくらいにドジをかましていた。で、そのドジが乱入……乱入者?
ぐちゃぐちゃとなっていた頭の中が、乱入者というキーワードのお陰か一気に整理される。そうだ……オルトロック、オルトロックだ!

オルトロックと名乗る、奇妙で性根の悪い少年に、私達……そう、メルフィー。あの少年は執拗にメルフィーに対して敵意を露にしていた。
それで……駄目だ、それ以上の記憶が飛んでいる。一先ず渦中の人物であるメルフィーを探す為、ルナは立ち上がって歩き出す。

「メルフィー! 返事して―! メルフィー!」
しかしいくら探しても、メルフィーの姿は影も形も見えない。まさか……と凄く悪い予感が、頭の中を過ぎる。

「ルナ―!」

名前を呼ばれて振り向くと、町子が駆けてきた。正直今の事態に対してかなり混乱していたから、町子が近くにいてくれてかなり安堵する。
だがメルフィーは何処にも居ない。もしかしたら町子が何か知っているかもしれない。もしくは知らなくても、一緒に探すだけだ。

「大丈夫? ルナ。怪我とか……」
「私は大丈夫よ。それより町子こそ……」
「心配無いよ、ありがと。……メルフィーの事だよね」

図星。それほど私の表情と言うか感情って分かりやすいだろうかと思っていると、町子が微かに微笑みながら言う。

「言わなくたって分かるよ。長い付き合いなんだし。……ルナ、これは冗談じゃなくて本気で言うけど」

「多分……メルフィーはあのオルトロックって奴と戦ってると思う。ここじゃない、どこかで」
「……やっぱり、そう……だよね」

町子もやはりというか、同じ事を考えていた。今、メルフィーはどう戦っているかは知る由も無いが、オルトロックと戦っていると。
だけど……とルナは思う。あのオルトロックという少年は只者じゃない。あの雰囲気は明らかに異常だ。常人とは思えない。
メルフィーが敵いそうな部分が何一つ見つからない。私が知っているメルフィーは気弱でドジっ子で、本当にどこにでもいる、普通の女の子だからだ。
次第に雨が強くなってきた。既にジャージはびしゃびしゃになっていて、中の体操服もずぶ濡れだ。これは確実に風邪を引く。間違いない。

「一先ず……どうする? ルナ」

軽い口調ながらも、町子の目は普段と打って変わって非常に真剣だ。その目はルナに、生徒会長としての的確な決断と指示を仰いでいる様に感じる。
町子の眼差しに、ルナはぐっと目を強く閉じてパッと開くと、まっすぐと前を見て、我に帰る。そして掌でメガホンを作って、生徒達へと声を張り上げる。

「皆ー! こっち向いて―!」

ざわついていた生徒達の動きが止まり、自然にルナの方へと視線を向ける。

「落雷の危険があるから、今すぐダッシュで学校なり体育館なりに避難してー! 出来るだけ早くね!」

ルナの指示に、生徒達はすぐさま学校へと走り出した。軽くパニックに陥っていた生徒達だったが、ルナの言葉で大分目が覚めた様だ。

しかし、そんな生徒達の中で一人だけ、ルナの指示に従わず、驚異的な神経の図太さで、どしゃぶりの雨もなんのそので爆睡している男がいた。
さっきまでとんでもない事になっていたというのに、幸せそうな笑みを浮かべて大の字となって寝ている草川大輔、その人である。
ルナはそんな草川に燃えたぎる怒りを秘めながら一歩二歩と歩んでいく。草川の足元で、ルナは見下しながら仁王立ちする。

「あぁルナ……そんな駄目だって……今日は……」

何で自分の名前が出ているのかが不思議だが、そんな事はどうでも良い。今はコイツを叩き起こすのが先だ。

「随分良い夢を見てるみたいね」

「あれ……何でルナ……制服なんて着て……あぁ、そういうプレイか」

「学生だからに決まってるでしょ、この馬鹿!」

草川の股間に、ルナのかかと落としが綺麗に叩き込まれる。きゅーん! という奇声を上げながら、草川が股間を押さえてエビ反りになった。
あまりの激痛にゴロゴロと右往左往に転がりながら草川は涙目を浮かべた顔をルナに向ける。ストレスでも発散したのか、清々しい笑顔のルナ。

「マジで股間は駄目だって……雷落ちなくても死ぬって……」
「ごめんなさいね、これ以外起こす方法が無かったもんで」

と、棒読みで弁解しつつ、ルナはしゃがんで懇願する様に上目遣いで、草川に言う。

「ここにいたら落雷するかもしれないから、学校に避難してくれる? それに雨も強くなってきてるから、風邪引くかもしれないし」
「あ、あぁ……けどメルフィーちゃんは? さっきまで居た気がするけど……」

メルフィーの事を聞かれ、一瞬ルナの顔が強張る。その変化に、草川の目が一寸鋭くなるが、ルナも町子も気付いていない。

「メル……メルフィーの事なら心配しないで。貴方は早く避難して。……お願い、だから」
「……分かった。けど二人も早く避難した方が良いぞ」

そう言って草川は立ちあがり、ルナに背を向けて学校へと走っていく。草川が正面玄関口に入ったのを確認して、ルナは小声で呟いた。

「……後で謝らなきゃね。色々と」

これで自分を除いた体育に出ていた生徒が全員避難した。私も……。

……駄目だ。メルフィーの事が気になって、避難する気になれない。あの子がどこで戦っているのかが、凄く知りたい。
そして出来る事なら応援なり協力してあげたい。理由は至極単純。メルフィーが親友であり、大事な人であるから。それ以外の理由なんて無い。
けれど……探せる場所は全て探したつもりだけど、メルフィーはどこにも居ない。諦めるしか……無いの? どうしようもない苛立ちと悔しさから、ルナは顔を俯かせた。

「流石生徒会長さん。実に的確な指示でした」

声がして顔を上げると、町子がニコッと笑って、二人分の傘をルナに差し出していた。

「あんた……早く避難しなきゃ」
「親友があんな奴と戦ってて居ても立っても居られない……のは、私も同じだよ。ルナ」

ルナの視線と、町子の視線が合う。それ以上の言葉は、いらない。ルナはフフっと苦笑しながら町子から傘を受け取る。

「……私達って、ホントに馬鹿かもね。大変な事になりそうなのに、あの子の事で頭がいっぱいなんて」
「お互い様」

もう手遅れではあるが傘を開いて雨を防ぐ。それにしても本当に強い雨だ。傘を打ちつける雨音が、不規則なリズムを奏でる。

「……ルナ、あれ」

町子が遥か空を指差した。ルナは町子が指を指した場所へと目を向けて、じっと目を凝らす。
……黒いと白い何か……人? 人の様に見える何かが、地上へと落ちていくのが見える。即座に距離と方向を計算して、何処に落ちるかを考える。
恐らくアレが……けど確定は出来ない。だけど動かなきゃいけない。ルナと町子は顔を見合わせると、互いに頷いた。
多分、いや、絶対同じ事を考えている。ルナも、町子も、そう考えている。

「あれが何か分からないけど、追うわよ、町子」
「がってんだ」




                                 未来形!
                                 魔法少女

                             ヴィ・ヴィっとメルちゃん!


                                  結


                                第 一 部


鉄拳制裁をモロに受けて、オルトロックが地上目掛けてまっすぐに落ちていく。不思議な事に手に痛みは感じない。
多分この……バトルスーツとやらが私の身体機能を何倍にも上昇させてるんだと思う。でも無きゃ私があんな威力のパンチを撃てるわけがない。
両頬を叩いて気合いを入れ直し、オルトロックに次に攻撃を加えるべく、ヴィルに言う。

「ヴィル! 次は武器を召喚するわよ!」
『はい! メルフィーさん!』

落ちていくオルトロックの姿を両目でしっかりと捉えたまま、右腕のホルダーをスライドさせてカードを一枚引き出す。
カードの絵柄を見ると……大きな長方形の箱に取っ手が付いていて、上にスコープみたいなのがくっ付いている……何とも物々しくてゴツい武器が描かれている。
名前はガントレット……こんなの、私が扱えるの? とは言え迷っている暇なんて一切無い。カードの名前を叫んだ。

「ガントレット!」
『トランスインポート・ガントレット』

瞬間、右肩にガントレット……うわわ、お、重い! 何て重量なの……。バトルスーツって痛さとか軽減してくれるとか、重さには適応されないんだ……。
って愚痴ってる暇は無い。危うく落としかけたけど、どうにか両手で抱えながら右手を移動させて取っ手を握る。
下部を左手で支えながら構えると、上部のスコープみたいな部分が目元までスライドしてきて、狙いを付ける為のセンサーみたいなのが三方向に展開する。
幾層もの赤いマーカーが、オルトロックをロックオンする。後は引き金を引くだけ……と思ったけど、アレ? 何で撃てないの?

「ヴィル……これ……撃てないんだけど……」
『ガントレットはエネルギー指向の武器な為、1分間のチャージが入ります。ですがそのまま狙い続けていて下さい。充填完了時に知らせます』
「わ、分かったわ」

とヴィルに答えたものの、右肩は既に悲鳴を上げている。早い所ぶっ放して楽になりたい。それに風が吹いてきて狙いがブレてくる……。
ふと、オルトロックの腰から何かが伸びているのが見える。何だろう、アレ……と思ったが何だろうも何も考えられるのは一つしかない。
オルトロックがそこからカードを引き出した途端、オルトロックの姿がモヤモヤとした黒い煙に包まれた。煙が晴れていくと……。

『メルフィーさん! 後ろです!』

やっ……ぱり! 体を回転させると背後に、般若みたいな不気味な笑みを浮かべたオルトロックが、あの大剣を天高く私に向かって掲げていた。
避けられ……ない! 咄嗟にガントレットを両手持ちにして掲げる。いとも簡単に大剣はガントレットを切断してしまった。その威力にゾッとして思わず鳥肌が立つ。
瞬時にガントレットを手放し、宙返りしながらその場から離れる。エネルギーが充填し終わったのか凄い爆発が起きて、私は爆風で吹き飛ばされない様に両腕で体を護った。
爆発音のせいで耳がキンキンする……。徐々にそのキンキンが収まってきて、正面に目を向けると、オルトロックが大剣を肩に担いで、舌舐めずりをした。

「……一気にぶっ殺せると思ったけど、少しはやるじゃないの。この泥棒雌豚!」

泥棒猫か雌豚かはっきりしなさいよ。と冷静に突っ込んでる場合じゃない。まさかいきなり武器を失うとは思わなかった……。
やはり私とオルトロックには、決定的な実力差が存在する。歯痒いけど、その差はどうしても埋めようが無い。なら、どうするべきか……決まってる。
まぐれでも何でもいいから、オルトロックの隙を狙って急所なりに一気に攻撃を仕掛ける。手数というか、普通に戦って勝てないなら、一発大きく……!

『メルフィーさん、僕に戦闘プランが一つ、あります』

ヴィル? 話しかけるのは良いけどオルトロックに聞かれ……違う。何故かは分からないけど、ヴィルの声が直接頭の中に響く。これは……。

『詳しく説明すると長くなるのですが……脳内トランシーバーみたいなのが僕には積まれておりまして、直接話さずともメルフィーさんの脳波を読みとって会話が出来るんです』

良く分からないけど、直接口に出さなくても思うだけで会話できるって事ね? 中々便利な機能……。

『はい、そういう事です。で……プランなのですが、遠隔兵器による攻撃は如何でしょうか。そこでオルトロックを攪乱しつつ、懐に入り込み急所を突く、といったプランです』

遠隔兵器……? 上手くイメージできないけど、その言葉のイメージからすると、私自身が手を出さずとも攻撃してくれるって捉え方でいいのかな。
何にせよ仕掛けてみない事にはどうしようもない。私はヴィルの提案を飲むというサインで深く頷いて、ホルスターからカードを引き出す。
カードには瓢箪みたいな珍妙なデザインの……武器? 多分武器から、ビームが出ている……そんな絵が描かれている。
にしてもオルトロックが動かずに私をニヤつきながら見ているのが不安だ。……構わない、先手必勝!

「ウェスパー!」
『トランスインポート・ウェスパー』

カードを読み上げた瞬間、背後からカードに書かれた武器――――ウェスパーが勢い良く飛んでいった。
数十機のウェスパーは、空中を上下左右関係無く、縦横無人にオルトロックの周辺を高速で飛びまわる。アレだけ囲まれたら、オルトロックも迂闊に動けまい。
出来るであろう隙を突く為に、ウイングを羽ばたかせながらカードを引き出し、カード名を叫ぶ。

「ランサー!」
『トランスインポート・ヴィルティックランサー』

途端、右手に刃が蒼白い光を放つ、鋭角的で刺々しいデザインの槍が召喚された。凄い……。デザインに反して意外と重量は軽い。
こんなモノを振り回していいのか大丈夫なのかと心配になりながらも、オルトロックへと接近する。
同時に、ウェスパーの動きが止まって砲口が発光する。一斉にビームを打ち込むつもりだろう。良し……これなら!

「小手先中の小手先……呆れた!」

オルトロックがニタァと笑いながらそう言った途端、腰の……ホルダーが伸縮して、カードが勝手に一枚飛びだした。
そのカードを指に挟んで、オルトロックは私に対して高らかに、カード名を読み上げた。

「ジャック!」
『トランスインポート・ジャック 残りカウント60』

え……? 何でウェスパーが全部、私の方を向いて……って、こっちに向かってビームが飛んでくる!? 驚いて私はその場で急停止した。
嘘、ウェスパーが全部……あいつの手玉になったの? どうす……もう目前にビームが飛んで……。

『メルフィーさん! カードを!』

ヴィルの言葉に、すぐさま我に帰る。ほぼ反射的に私はカードを引き出して、カード名を絶叫した。

「ス、スススフィア!」
『トランスインポート・スフィア残りカウント30』

次の瞬間、周囲360度を、半透明の蒼色な大きくて薄い球体が包んだ。向かってくるウェスパーのビームが、全て弾かれてはジグザグに反射されていく。
ほっと胸を撫で下ろすが、どうやらこの球体から外へは動けないみたいだ。それに残り……ヴィル、残りカウントって何?

『残りカウントは言うなれば制限時間です。一部のカードにはその効果故、使用できる時間が限られております。例えるならスフィアの場合、残りカウント30ですから』

30秒……ね。それでヴィル、後……何秒?

『残り10』

じゅ……10!? そんな、外じゃこっちに飛んできたウェスパーが絶え間なくビームを撃ってきてるのに!
もしこれが解除されたら、私はウェスパーのビームで……。しかもオルトロックの姿が見えない。段々、スフィアが小さくなっていくのを感じる。

『残り5』

「ぶった……斬る!」
『トランスインポート・リフレクト』

突如として薄暗くなって見上げると、オルトロックが元より何倍も刃が大きくなった大剣を振り上げていた。
あんなのに斬られたら……ランサーで防げるの? いや、これじゃ無理だ。絶対に、無理だ。ランサーごとまとめて叩き斬られる。

『残り3』

どんなカードでも構わない、只今だけでも、場を変えられるカードを! 私は目を瞑ってカードを引き出した。

『残り1』

『解除』

そのカードは天から眩い光が差し込んでいるカードだ。名前はフ……ラッシュ。
目前に降りかかって来る大剣が見え、ウェスパーが私の方を一斉に向く。そして、解ける、スフィア。
私は無我夢中で、カード名を声を枯れる程の声で叫んだ。お願い……通って!

「フラッシュ!」
『トランスインポート・フラッシュ』

その瞬間、目が潰れるかと思う位眩しい光が、雷みたいな音を出して空を照らした。周りを囲っていたウェスパーが一瞬で蒸発する。
オルトロックさえ怯んで、遠ざかった。同時に大剣が元のサイズに戻る。安心はできないけど、ひとまず危機は去ったみたいだ。
次の攻撃に移らなきゃ……と思った矢先、既に遅かった。白い歯を剥き出しにして、オルトロックが言う。

「次は私の番!」

オルトロックがそう言った途端、腰のホルダーが伸縮して、勝手に二枚のカードが飛び……二、枚? 使えるのって、1枚づつじゃないの……?
後退しながらオルトロックから距離を取る。何をされるかが分からない。あの時自分から行くんじゃ無くて待ち構えて……どちらにしろ同じか。
ランサーを持つ手に力が入る。次こそは、何が何でも攻撃しなきゃ……!

「まずはこーれっ!」
『トランスインポート・ゴースト 残りカウント60』

オルトロックが挟んだカードを発動すると、オルトロックの体から霧が出てきては辺り1面を覆っていく。
その霧が晴れ―――――――肝が急速に冷えていく。霧の中から現れたのは、6人のオルト……ロック。
一人だけでもこれだけ苦労してるのに、あと5人と戦わなきゃいけないの……?

『メルフィーさん、恐れる事はありません。あれはゴーストと言って、戦闘力が半減した言わばダミーです。一太刀を浴びせれば消滅させる事が出来ます』

とヴィルは言うものの、こっちを向いてニタニタ笑うオルトロック×6人を相手に出来る余裕が今の私には無い。

「ヴィル、少し距離を取って良い? ちょっと考えたいの」
『分かりました』

反転して出せるだけの猛スピードでオルトロックを振り切る。振り切ると言っても、オルトロックは余裕綽々のか、全く追って来ないけど。
雲の隙間を縫いながら急上昇。相当高い高度だと思うけど、寒さとかは全く感じない。防寒機能……が無きゃとっくに寒さで凍え死んでる。
ココまで昇ってくる過程で通り過ぎた雲は、灰色でジメジメしていた。もうすぐ雨が振りそう……今はそんなことどうでも良いか。

「そうだ、ヴィル。ちょっと気になったんだけど……私もオルトロックみたいに、カードを2枚ないし3枚引き出して、同時に発動って出来る?」
『はい、出来ます。ただしその分、メルフィーさんの疲労が溜まりますが……』
「あいつを倒せりゃなんでもいいわ。それじゃあ引き出すわね」

ヴィルにそう答えながら、ホルダーからカードを2枚取り出す。何々……。
1枚目のカードは灰色の雲から分かりやすく、雷が落ちている絵。多分これの効果……かな。もう一つは……時計? 時計ってどういう事だろう……。

『メルフィーさん! 来ました!』

ヴィルの声で顔を上げると、雲の隙間から、私を追ってくる、分身したオルトロックの姿が見えた。
6……ちょっと待って。6……10……20……30、40、5……60!? ちょっ……ちょっと! 隙間という隙間から大量に出てくるんだけど!
あんな軽く見積もって60人以上もいるオルトロックを一人で倒せる訳無いじゃない!

『恐らく……プラナリアのカードを使用したのかと思います。分身を分裂させて……』
「あんな数どうやって倒せばいいのよ! それに本物がどこにいるかが……」

――――――――――そうか、だからこの2枚、か。これであの大量に沸いたオルトロックを全員倒せって訳ね。
……良いじゃない。あんまりにも状況が絶望的すぎて、逆にやる気になってきたわ。良いわ。全員纏めてかかってきなさいよ!
取り出した2枚のカードを指に挟み、私は声を張り上げて、カード名を読み上げた。

「エレキバスター! スロウタイム!」
『トランスインポート・エレキバスター』
『トランスインポート・スロウタイム。残りカウント30』

カードを同時に発動した瞬間、目の前の世界が一変する。私の目の前を覆い隠す、大量のオルトロックの姿がスローに見える。
どれが本物なのかは分からないけど、これでオルトロックの攻撃は容易に避けられる、筈だ。
間髪入れず、ランサーを大振りして、寄ってきたオルトロックを薙ぎ払った。ヴィルの言う通り、ゴーストであるオルトロックは切り裂くと煙のように消える。

『残り20』

縦に斬り開いたり絡みついてくる奴を回転しながら斬り裂く。どれだけ斬りかかってこようと、動きが全て、読める。
けれど幾ら斬っても斬ってもキリが無い。だから……! ランサーの刃に白い電撃が、バチバチと溜まっては弾ける。これが、エレキバスター……!
ランサーを頭上高く掲げた。無限に感じるほどに湧いたオルトロックが、私に向かって大剣を構えて全方位から襲ってくる。

『残り10』

刃に溜まったエレキバスターが威力を増しているのか、轟音を出しながら生き物みたいに弾ける。
けどまだ……まだ、その攻撃の時期じゃない。スロウタイムが切れる、その、瞬間……!

『残り3』

『2』

「行けぇ――――――――!」

『1』

叫ぶと同時に、私は目を瞑った。瞼の裏が一瞬白くなるほどの強い電撃が、私の周囲に放たれ、オルトロック達に直撃して、無に帰す。
数秒程してゆっくりと目を開けると、あれほどいた大量のオルトロックの姿が全員、消えていた。威力が高すぎてランサーの刃が焦げ付いているけど、まだ戦える。
……気づく。本物のオルトロックの姿が、見えない。首を動かして気配を探……い、た。

『解除』

「存在もろとも死ね!」
『トランスインポート・バスタードライズ』

何時の間にか数10メートル程距離を置いていたオルトロックが、こっちに向けて掌を広げた。
掌から渦を巻きながらツイスター状の、凄く太い赤と黒のビームがこっちに向かって高速で伸びてくる。
回避できない。が、慌てる事も無い。私はカードを1枚引き出して、唱える。

「ディフェンス」
『トランスインポート・ディフェンス』

前面にスフィアと同じ感じなバリアが、そのビームを寸での所で防ぐ。二又に分かれたビームは後ろへと直進していき、途切れる。
これで防いだ……訳じゃない? 振り向くと、別れたビームが一つとなって、再び突っ込んでくる。何て厄介なの……!
カードを引き出して発動する。私の意思どおりのカード……だ!

「ミラージュ!」
『トランスインポート・ミラージュ』

瞬間、私の姿を象った残像が出来て、私はその下へと移動する。ビームは私の真上スレスレを通って、残像を撃ち抜くと明後日の方へと消えていった。
良かっ……。

懐に、オルトロックが迫っていた。この距離じゃ、抵抗……。

「よそ見……しちゃったね!」

―――――――激痛のあまり、意識が一瞬途切れる。回復した視界には、オルトロックの握り拳が、私のお腹を抉る様にぶん殴られていた。

「う…ぁぁぁぁあ!」

ランサーを大仰なくらい大きく振り回すが、オルトロックは余裕たっぷりに体を逸らして避けると、あろう事にランサーを左手で受け止めた。
動かそうとしても異常な程の怪力で、オルトロックは私の動きをランサーごと封じる。動こうにも、この距離じゃ蹴りも出来ないし、殴れもしない。
そうだ、手を離せば……そう思って手を離そうとした、けど……何、これ……。

気づけば私の手首には、私の手首を固く締めつける、黒い手錠が嵌められていた。手錠の間は太い楔型のチェーンで繋がれてて、壊せそうにない。

「じゃじゃーん。驚いた? これ、デスロックって言うんだよ」

オルトロックが私に見せつける様に、1枚のカードを見せつける。そのカードには、手錠を嵌められて今にも死にそうな、囚人服を着た男の人の絵が描かれている。
悪趣味……なんて思ってる場合じゃない。早くこの手錠を解かない事には、攻撃はおろか回避すら出来ない。私は必死になってその手錠を壊そうと引っ張る。
けれど私の事を馬鹿にするように手錠はうんともすんともしない。焦りが汗となって私の額から流れ落ちる。どうする……!

「結構楽しめたけど……やっぱ私の方が強かったね」
『トランスインポート・エンポイント・ナックル』

『メルフィーさん避けて!』

ヴィルの言葉が聞こえてきた―――――――――――――時にはもう、遅かった。

世界が、逆さまになる。痛さは感じない。感じない代わりに、私は頬を膨らませて、思いっきり血を吐いた。糸が切れた操り人形みたいに、私の体は全く動けず、落ちていく。
頭が働かない。体中の内臓という内臓が飛び出そうなくらい、言葉にならない、痛み。口から零れる血が、私の額に流れては、ヘルメットを赤く染める。
僅かに首を曲げると、オルトロックが掌を広げているのが見えた。もしまた、あのビームを撃たれたら今度こそ終わりだ。
足りない頭をフル回転させて手を動かそうにも、手錠はびくともしない。最悪。頭の中に何度も過ぎる、無残な死に様。

「バ~イバ~イ!」
『トランスインポート・ニードルレイン』

オルトロックの掌から放たれた、先端が研ぎ澄まされた大量の針が私に向かって落ちてくる。凄く細く、尚且つ尖ったその針は、まるで雨みたいに見える。
あんなの殺されるのってどんだけ痛いんだろう。私……何、考えてるの?

いけない。下唇を噛んで、無理やりにでも自分を奮い立出せる。目を覚ませ、感覚を取り戻せ。このまま死ねば、私だけじゃない。
私の大切な人が、コイツに成す術も無く殺される。目前まで迫ってくる針の雨。小さくて気持ち悪くて、でも目が覚める痛み。
ぷちり、と下唇が切れて生温かい血の味を感じる。―――――――――死んで、たまるか。

「私は……」

「私はまだ……死ねない!」

体を丸めて落下していきながら、タイミングを図る。もう少し、もう少し引き付けるんだ。
――――――――――今! 宙返りをしながら体勢を整え、背中の翼を大きくするイメージを浮かべる。もっと、もっと、もっと、大きく!

私のイメージが通じたのか、私の体を遥かに超えるほどに大きくなった光の翼を、針に向かって羽ばたかせた。
落下してくる大量の針は、翼によって派手に吹っ飛ばされて防がれていくと、周りで砂のようにサーッと消えていく。無効化……したのだろうか。
次に私の予想通りなら、次は間違いなく……。

「へぇー……翼で防ぐなんてやるじゃん! でーもー……これでおーわりっ!」

予想的中。大剣を両手持ちして両腕を振り上げながら、オルトロックが仕掛けてきた。無論、私を真っ二つにするつもりだろう。
ならその攻撃……甘んじて受け入れる。オルトロックを睨みながら体勢を低く取って踏みこむ。

「諦めたの? まぁいいや! めんどいから死んじゃえ!」

案の定、オルトロックは大剣を振り上げて、私へと振り下ろす。その顔はこれで勝てるって言う確信に満ちている。でも……。

「誰が……終わらせるか!」

心の底から私はそう叫びながら、手錠を振り上げた。ガントレットを叩き斬れる程の威力を持つ大剣は簡単に、手錠のチェーンを斬り落とした。

当たらない様に一歩下がって、大剣を回避する。これで、両手は完全に自由になった。斬られたせいか、私の手首から手錠が透けていって消えていく。
何で私が自由になったのかが分からないのか、それとも自分のミスで私を殺せなかったのがショックなのか、オルトロックが驚嘆した表情で私を見つめる。

呆けている場合じゃない。今すぐホルダーからカードを取り出す。恐らく、オルトロックに大きなダメージを叩きつけられるのは、今だけ。
カードの絵柄は銀色一色の……人間? いや、銀って事から連想するに……鉄? 
まぁこの際何であろうと構わない。私はカード名を力強く読み上げた。気合いを入れ直す為に。

「アイアン……メタル!」
『トランスインポート・アイアンメタル 残りカウント30』

「馬鹿にすんな!」

呆然としていたオルトロックがハッとすると、悔しさからか歯軋りしながら大剣を右方から振り回してくる。
間に合わないが、もう良い、右腕一本くらい無くしてもコイツを、倒せれば……!
充分痛い思いはして来たが、右腕を斬られるってどれだけ痛いんだろう。気絶しない事を祈りながら、右腕を曲げて大剣を防ぐ。

水面の波紋の様に、鈍い金属音が空中で響く。再び、オルトロックの表情が驚きに満ちる。私の右腕は大剣を、完全に弾き返していた。

「なっ……え?」

私の右腕全てが、銀色一色に変わっていた。触ってみるとひんやりとした、冷たくて無機質な感触を受ける。鉄、か。
右腕だけじゃない。左手も両足も、手足全てが銀色となっている。これがアイアンメタル……。大剣を軽々と防げるなんて、凄い強度。
これならもしかしたら……いける! 翼を瞬かせながら、私はオルトロックへと急接近して、殴りかかる。

「コケにしやがってぇ!!」

伸ばした右腕を、オルトロックは易々と掴んで防ぐ。そう、それでいい。
そのまま私はカードを1枚引き出す。カードに書かれている絵は、アイアンメタルと同じく銀色で、如意棒みたいな……如意棒か。が、描かれている。
ここでダメージを与えられ……違う、与えるんだ!


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