本当に、これでいいの?
このまま何も出来ないまま消えていって、それで良いの?
―――――――――――――――――――――――――――――――違う。
違う。このままじゃ私は……逃げているだけだ。これじゃ駄目だ。
私には……私にはまだ、会いたい人がいる。守ってあげたい人達が、沢山いる。
閉じていた目を開けて、私は力一杯に泳ぐ。どれだけ無様でも良い。もがいて、もがいて、ここから抜け出すんだ!
だけどどれだけもがいても、私の足は引きずり込まれる様に海に飲み込まれていく。嫌だ……嫌!
何も出来ないまま消えていくなんて……絶対に、嫌だ!
閉じていた目を開けて、私は力一杯に泳ぐ。どれだけ無様でも良い。もがいて、もがいて、ここから抜け出すんだ!
だけどどれだけもがいても、私の足は引きずり込まれる様に海に飲み込まれていく。嫌だ……嫌!
何も出来ないまま消えていくなんて……絶対に、嫌だ!
諦めない……諦めたく、無い!
「メルフィー、こっちだ」
途端、私の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。この声……。
遠くから私を迎えてくる様に、光が広がっていく。あの光だ……!
私は必死にもがいて、その光の元へと泳ぐ。体は重いけど、抗えない程じゃない。光が次第に強くなっていき、誰かが私へと手を指し伸ばす。
私は必死にもがいて、その光の元へと泳ぐ。体は重いけど、抗えない程じゃない。光が次第に強くなっていき、誰かが私へと手を指し伸ばす。
「まだ……終わりじゃない!
心から、叫ぶ。私はその掌をぐっと掴んだ、瞬間。
私の頭に雪崩れこんでくる、膨大な情報の激流。
その情報量に気圧されそうになるけど、私は目を逸らさず真正面から、その情報を理解する。理解し、覚える。
ヴィルや鈴木君がやってきた世界の事。
大事な人を守る為に必要な、戦う、術。
そして、私が辿る――――――――――いや、辿ったかもしれない未来の事。
その情報のどれにも、私は驚きを禁じ得ない。根っから信じられるかと言われれば、現実味が無さすぎてイエスとは答えられない。
けど、今は―――――――――――――全てを、信じる。それが皆を――――――――――――――。
けど、今は―――――――――――――全てを、信じる。それが皆を――――――――――――――。
全てを、救えるなら。
『やはり来たか、鈴木隆昭』
鈴木隆昭の背後で、何時の間にか戻ってきているオルトロックが、鋭利な輝きを秘めた左右5枚の刃を、両手から熊手の如く、手の甲に召喚する。
メルフィーはまだ目を覚まさない。立ちあがって振り向き、隆昭はじっとオルトロックを睨みつけながら小刀を構えた。
メルフィーはまだ目を覚まさない。立ちあがって振り向き、隆昭はじっとオルトロックを睨みつけながら小刀を構えた。
『何をしようが最早無意味だ。貴様もろとも、全てを破壊してやる』
瞬時、オルトロックの姿が消えた。無音。聞こえるのは、止む事の無い、雨の音だけ。
邪悪な気配を感じた瞬間、助走から一気に飛び上がったオルトロックが、刃を隆昭とメルフィーに目掛けて振り下ろしながら落ちてくる。
邪悪な気配を感じた瞬間、助走から一気に飛び上がったオルトロックが、刃を隆昭とメルフィーに目掛けて振り下ろしながら落ちてくる。
「それ以上……俺の嫁に踏みこむな!」
逆手持ちした小刀を掲げながら体を捻らせ、隆昭はオルトロックの刃を受け止める。重量と共に振り落とされた刃が、小刀を叩き付ける。
炎の様に飛び散っては眩く、攻撃的な火花の閃光が部屋を照らす。二人の男の意地を体現しているのか、ぶつかり合う刃と刃が叫ぶような共鳴音を出す。
瞬間的に小刀を持ち変えて、オルトロックへと斬りかかる。図体に似合わず身軽な動作で、オルトロックは後方へとバックステップした。
炎の様に飛び散っては眩く、攻撃的な火花の閃光が部屋を照らす。二人の男の意地を体現しているのか、ぶつかり合う刃と刃が叫ぶような共鳴音を出す。
瞬間的に小刀を持ち変えて、オルトロックへと斬りかかる。図体に似合わず身軽な動作で、オルトロックは後方へとバックステップした。
「ちっ!」
積極的に踏み込みながら斬り込んでいくが、オルトロックは巧みに、隆昭の攻撃を受け流す。
振り下ろせば弾かれ、突けば避けられ、逆手持ちしながら振り上げるものの、寸でで後方へと下がられる。
舌打ちをして隆昭は小刀をブーメランの要領でぶん投げた。回転しながら向かってる小刀は容易に弾き飛ばされ、た。
振り下ろせば弾かれ、突けば避けられ、逆手持ちしながら振り上げるものの、寸でで後方へと下がられる。
舌打ちをして隆昭は小刀をブーメランの要領でぶん投げた。回転しながら向かってる小刀は容易に弾き飛ばされ、た。
「こいつは……どうだ!」
左袖からもう片方の小刀を取り出して鞘を叩き落とし、隆昭はオルトロックの頭上へと飛び跳ねた。
『無駄だ』
上からの奇襲にも反応を見せず、オルトロックは左手の刃を伸縮させた。高速で伸びる刃が、小刀を持つ左腕へと迫る。
突貫。5つの刃が、隆昭の右腕に突き刺さって貫通した。一瞬苦痛に顔を歪ませながらも、隆昭は持っている小刀を放り、右手で受け止めた。
そして頭部目掛けて、小刀を全力でナイフ投げの要領でぶん投げた。オルトロックの頭部に、隆昭が投げた小刀が突き刺さる。
突貫。5つの刃が、隆昭の右腕に突き刺さって貫通した。一瞬苦痛に顔を歪ませながらも、隆昭は持っている小刀を放り、右手で受け止めた。
そして頭部目掛けて、小刀を全力でナイフ投げの要領でぶん投げた。オルトロックの頭部に、隆昭が投げた小刀が突き刺さる。
が、オルトロックは痛くも痒くも無いのか、右手で小刀を引きずりだすと、乱暴に叩き落とす。
伸縮させた刃を戻すと、隆昭はその場にうつ伏せになって突っ伏した。激痛ではあるが、アドレナリンの異常分泌で鈍く感じている。
勝者の余裕か、一歩一歩踏みしめる様に、オルトロックが隆昭の元へと話しながら歩いてくる。
伸縮させた刃を戻すと、隆昭はその場にうつ伏せになって突っ伏した。激痛ではあるが、アドレナリンの異常分泌で鈍く感じている。
勝者の余裕か、一歩一歩踏みしめる様に、オルトロックが隆昭の元へと話しながら歩いてくる。
『抗うな。自らの弱さを認め、私に屈服しろ、鈴木隆昭。どちらにしろ、私の手でこの世界は終焉を迎える』
「……馬鹿じゃねえか、お前。諦めなきゃ負けじゃねえんだよ。手前如きに支配される程、この世界は弱くねえ」
『……悲しき男だ。だが』
歩みを止め、隆昭に十刃を向ける。これを伸縮させ胸元に掛けて突き刺せば、確実に鈴木隆昭は。死ぬ。
『何にせよ手間が省けた。貴様の命運も人生も、そして運命もここで潰える』
「……そして手前が思うほど、メルフィーは弱くねえよ」
『せめてもの慈悲だ。楽に……殺してやる!』
十刃全てが隆昭に向かって最高速で伸びていく。最早希望は――――――――――――――。
「俺の、嫁だからな」
<Transformation EXSEED>
十刃が空中でふわりと浮かんでは、床面に突き刺さっていく。十刃全て、根元から綺麗に切断されている。
美しき軌道を描きながらオルトロックの攻撃を防いだ、蒼く静謐な光を宿した銀色に光る日本刀―――――――――天照を、それは静かに振り下ろす。
美しき軌道を描きながらオルトロックの攻撃を防いだ、蒼く静謐な光を宿した銀色に光る日本刀―――――――――天照を、それは静かに振り下ろす。
『貴……様』
隙を与えず、それは床面を蹴り上げて短い間隔で助走を付けると、オルトロックへと両足を使った飛び蹴りを放つ。
その威力はそれの姿とは想像できないほど凄まじく、オルトロックは両腕で防ぐ間も無く壁面を巻き込みながら吹っ飛ばされていく。
左腕を押えながら立ち上がった隆昭は口元に笑みを浮かべながら、晴れてきた硝煙から姿を現したそれに、声を掛けた。
その威力はそれの姿とは想像できないほど凄まじく、オルトロックは両腕で防ぐ間も無く壁面を巻き込みながら吹っ飛ばされていく。
左腕を押えながら立ち上がった隆昭は口元に笑みを浮かべながら、晴れてきた硝煙から姿を現したそれに、声を掛けた。
「最高の……タイミングだよ、メルフィー」
深く蒼いラインが織り込まれた、女性的なラインながらも、男性的な強さを感じさせるフォルム。そして頭部を覆う、白いヘルメット。
バイザー奥から見える、全てを見据える美麗な蒼色の光を放ちながら、それは隆昭へと首を動かし、背中の鞘に天照を納める。
姿見は細いものの、全身から感じるオーラは逞しく、また神聖さを感じさせる。隆昭が変身したハクタカと似て非なる。
バイザー奥から見える、全てを見据える美麗な蒼色の光を放ちながら、それは隆昭へと首を動かし、背中の鞘に天照を納める。
姿見は細いものの、全身から感じるオーラは逞しく、また神聖さを感じさせる。隆昭が変身したハクタカと似て非なる。
それの名はヴィル・フェアリスを超えしヴィル・フェアリス―――――――――――ヴィル・フェアリス・エクシードライヴ。
全ての機能がヴィル・フェアリスを遥かに凌駕し、尚且つCASであるヴィルも最新型にアップデートされている。
全ての機能がヴィル・フェアリスを遥かに凌駕し、尚且つCASであるヴィルも最新型にアップデートされている。
『ヴィル、オルトロックは?』
<目標との距離、750。遠距離砲撃による追撃を提案>
『分かった』
<目標との距離、750。遠距離砲撃による追撃を提案>
『分かった』
「メルフィー……」
近づこうとする隆昭をメルフィーは一瞥すると、敢えてだろう冷淡な声で伝える。
『下がっていて下さい。ここは危険です。それに……邪魔になります』
邪魔と言われて多少なりショックを受けるものの、至極的確で冷静な判断だ。隆昭は満足げに微笑むと、メルフィーに、伝える。
「……頼んだぜ、メルフィー」
瞬間、隆昭の姿がその場から煙の様に消える。メルフィーは何も言わず、ただ深く、頷いた。
『今更覚醒した所で……無駄な足掻きだ!』
エネルギーを充填させながら、オルトロックは立ち上がり遠方に見えるメルフィーに向かって両手を向ける。
充填されるエネルギーによって赤く発光しながら掌に備われている砲口から、巨大な光の渦を巻きながら真紅のビームが発射された。
立ち阻む壁面を容赦無く蒸発させながら向かってくるビームに、メルフィーは再び天照を鞘から抜くと、逆手持ちした。そして。
充填されるエネルギーによって赤く発光しながら掌に備われている砲口から、巨大な光の渦を巻きながら真紅のビームが発射された。
立ち阻む壁面を容赦無く蒸発させながら向かってくるビームに、メルフィーは再び天照を鞘から抜くと、逆手持ちした。そして。
<反ビーム属性フィールド発動>
『はぁっ!』
『はぁっ!』
天照を突き刺した途端、向かってきたビームが二又に切断され、メルフィーの左右を通り過ぎていく。
直撃している筈だが、天照はオルトロックの放ったビームに傷つく様子も無く、折れる様子も無い。
追尾機能を要するそのビームは雨の降る外へと飛んでいくと、当然ながら、曲がって一つとなり、メルフィーの背後へと一直線に伸びていく。
直撃している筈だが、天照はオルトロックの放ったビームに傷つく様子も無く、折れる様子も無い。
追尾機能を要するそのビームは雨の降る外へと飛んでいくと、当然ながら、曲がって一つとなり、メルフィーの背後へと一直線に伸びていく。
『消えろ!』
再び放たれる、真紅のビーム。前と後ろから迫って来るオルトロックの魔手に、メルフィーは静かに目を閉じ、唱えた。
『――――――――――――水月』
<ミラージュテレポ―ション発動>
<ミラージュテレポ―ション発動>
陽炎の様にメルフィーの姿が揺らいだ瞬間、メルフィーはその場から姿を消した。
目標が消えた事により、二つのビームはぶつかり合い相殺される。混ざり合ったビームは球体となって膨らむと、部屋どころか階自体を眩く光らせて―――――爆発した。
目標が消えた事により、二つのビームはぶつかり合い相殺される。混ざり合ったビームは球体となって膨らむと、部屋どころか階自体を眩く光らせて―――――爆発した。
爆発によって柱が割れ、床面が抜け、廃墟が崩落していく。ドミノ倒しの様に薙ぎ倒れていく、壁面。床面を破壊していく、コンクリートの鉄塊。
膨大な被害にオルトロックは少々やりすぎたとはいえ、メルフィーを倒せたと……。
膨大な被害にオルトロックは少々やりすぎたとはいえ、メルフィーを倒せたと……。
『捉えた』
反応、出来ない。目の前には、拳を握ったメルフィーの姿が、見えた。
『馬……鹿な』
頭部に叩き込まれる、メルフィーの踵落とし。頭部の装甲ににひびが入る音がし、オルトロックの額からブシュっと音を立てて黒い液体が噴出する。
続けて腹部に次々と乱打乱打乱打。装甲をデコボコに凹ませながら、重く強く、魂の籠ったメルフィーの鉄拳が、オルトロックを打ちのめす。
想像だにしなかった高いダメージに、オルトロックは思わず片膝を付いた。流れる様に華麗な動作で鞘から天照を抜き、メルフィーが決着を付ける為に、斬りかかる。
続けて腹部に次々と乱打乱打乱打。装甲をデコボコに凹ませながら、重く強く、魂の籠ったメルフィーの鉄拳が、オルトロックを打ちのめす。
想像だにしなかった高いダメージに、オルトロックは思わず片膝を付いた。流れる様に華麗な動作で鞘から天照を抜き、メルフィーが決着を付ける為に、斬りかかる。
『女狐が……図に乗るな!』
右手にグラン・ファードを召喚し、オルトロックは振り下ろされたメルフィーの天照を防ぎながら、右方からメルフィーを斬ろうとグラン・ファードを振り回す。
が、メルフィーは先を読んでいたのか、グラン・ファードが視界に入った瞬間、右足で地面を蹴り上げて飛ぶと、グラン・ファードの両刃に、軽々と左足で乗った。
が、メルフィーは先を読んでいたのか、グラン・ファードが視界に入った瞬間、右足で地面を蹴り上げて飛ぶと、グラン・ファードの両刃に、軽々と左足で乗った。
『踏み台にしただと!?』
グラン・ファードを思いっきり蹴り上げると、両刃を真っ二つに割れて粉砕される。グラン・ファードを粉砕しながら、メルフィーは空中へと飛翔し、宙返りをする。
そして――――――――――回転による遠心力を加えた後ろ回し蹴りを、頭部目掛けて叩き込んだ。
その威力の高さに、ディスの頭部がパズルの様に剥がれ落ちていき、オルトロックの驚嘆した口が見えた。
重い。全ての攻撃が、重すぎる。体格差も性能も、全て此方が勝っている筈なのに何だ? 何だ……あの戦闘能力の高さは……!?
そして――――――――――回転による遠心力を加えた後ろ回し蹴りを、頭部目掛けて叩き込んだ。
その威力の高さに、ディスの頭部がパズルの様に剥がれ落ちていき、オルトロックの驚嘆した口が見えた。
重い。全ての攻撃が、重すぎる。体格差も性能も、全て此方が勝っている筈なのに何だ? 何だ……あの戦闘能力の高さは……!?
『これで決める!』
呆けていた瞬間、メルフィーが背中に鷹の翼を彷彿とさせる、蒼く発光しながら成形された光の翼を瞬かせながら天照を突きだして突っ込んでくる。
『うおぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
抵抗する暇など与えない。腹部を貫通させて突き刺したまま、メルフィーはオルトロックをそのまま外に向かって最高速で飛んでいく。
凄まじい勢いで床面を抉りだしながらメルフィーは更に、天照を突き刺していく。オルトロックの口から液体がドボドボと零れだし、天照の刃先を黒く濡らす。
これで決着が付く……筈が無い。オルトロックの両目は執念を感じさせるが如く、毒々しい赤色を取り戻す。
凄まじい勢いで床面を抉りだしながらメルフィーは更に、天照を突き刺していく。オルトロックの口から液体がドボドボと零れだし、天照の刃先を黒く濡らす。
これで決着が付く……筈が無い。オルトロックの両目は執念を感じさせるが如く、毒々しい赤色を取り戻す。
『私が……負ける……? ふざ……けるなぁぁぁぁぁぁ!』
両手で天照を掴みながら踏ん張り、オルトロックは天照を叩き折った。メルフィーの勢いが収まり、ギリギリの所で止まった。
恐るべき事に腹部のみなならず、背部の飛翔ユニットごと天照は貫通されており、機能を停止させていたのだ。
もしこのままメルフィーを止めなければ、飛ぶ事が出来ずにどちらにしろ……。
恐るべき事に腹部のみなならず、背部の飛翔ユニットごと天照は貫通されており、機能を停止させていたのだ。
もしこのままメルフィーを止めなければ、飛ぶ事が出来ずにどちらにしろ……。
何にせよメルフィーの猛攻を食いとめた。このまま圧されている訳に……は?
オルトロックが思考する事を一旦止めて前を向くと、メルフィーが自分に向かって、頭部を振り下ろした。これは……頭突―――――――――――――――。
メルフィーの渾身の頭突きを食らった瞬間、頭部を守っていたヘルメットに、蜘蛛の巣の様なひびが入り、やがて大きな音を立てながら完全に剥がれ落ちていく。
曝け出される、液体塗れのオルトロックの、顔、天照を投げ捨て、メルフィーは左足を踏みこんで右腕を引くと、ヴィルに叫んだ。
メルフィーの渾身の頭突きを食らった瞬間、頭部を守っていたヘルメットに、蜘蛛の巣の様なひびが入り、やがて大きな音を立てながら完全に剥がれ落ちていく。
曝け出される、液体塗れのオルトロックの、顔、天照を投げ捨て、メルフィーは左足を踏みこんで右腕を引くと、ヴィルに叫んだ。
『ヴァリスタス・エンゲージ!』
<ターゲット認識。アイルニトル直接接続開始。発動まで30>
<ターゲット認識。アイルニトル直接接続開始。発動まで30>
「この……クソったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
歯を剥き出しながら激しい怒気を絡ませた目を浮かべ、端正な顔立ちを歪めながらオルトロックがメルフィーに向かって握った右手を振り下ろした。
歯を剥き出しながら激しい怒気を絡ませた目を浮かべ、端正な顔立ちを歪めながらオルトロックがメルフィーに向かって握った右手を振り下ろした。
<アンカーポイント射出。バーストトライアル三点、ロック。発動まで20>
『エクシードグレイヴ……』
「死ねぇ!」
「死ねぇ!」
メルフィー、もといヴィルのヘルメットがオルトロックの拳を食らい、二つに割れる。
その中から額に血を流しながら露わになる、メルフィーの顔。しかし、オルトロックを見上げるメルフィーの目に、淀みも、迷いも、無い。
その中から額に血を流しながら露わになる、メルフィーの顔。しかし、オルトロックを見上げるメルフィーの目に、淀みも、迷いも、無い。
<アイルニトル正常起動、及び充填率100パーセント。攻撃可能>
『ヴァーストォォォォォォォォ!!』
瞬間、メルフィーの右手から放たれた、蒼い神龍を象ったエネルギーの衝撃波が、オルトロックを飲みこんだ。
神龍に飲みこまれた瞬間、オルトロックを保護していたディスの装甲が光に包みこまれる様にゆっくりと蒸発していく。
オルトロックを飲み込んだまま、神龍は天に向かって伸びていく。その勢いは止まる事無く、オルトロックの視界は次々と閉じていく。
神龍に飲みこまれた瞬間、オルトロックを保護していたディスの装甲が光に包みこまれる様にゆっくりと蒸発していく。
オルトロックを飲み込んだまま、神龍は天に向かって伸びていく。その勢いは止まる事無く、オルトロックの視界は次々と閉じていく。
『また……負けるのか……?』
成層圏を抜け、大気圏を突破して神龍は地球を脱した。消えていく、機械のパーツ。オルトロックの顔は、もう、人ではなかった。
『過去を……変えれば……全てを……支配……出来ると……』
最後の一点を残して、視界が消える。その一点が消えた瞬間、オルトロックは、絶叫した。
『ち……くしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!』
天空を一片の隙間も無く覆っていた暗雲が、少しづつ晴れていく。永遠に続きそうな激しい雨の勢いも穏やかに弱まって行き、やがて、止む。
代わりにオレンジ色の水彩画の様にぼんやりと歪んだ、しかし美しい夕日が、倒壊していく廃墟の背景でゆったりと沈んでいく。
下では廃墟が倒壊している爆音に驚嘆した野次馬達が、一人、二人と増えていく。
代わりにオレンジ色の水彩画の様にぼんやりと歪んだ、しかし美しい夕日が、倒壊していく廃墟の背景でゆったりと沈んでいく。
下では廃墟が倒壊している爆音に驚嘆した野次馬達が、一人、二人と増えていく。
そんな一部始終を、メルフィーを両腕で抱きながら、一人のスーツを着た女性が廃墟より幾分離れたビルの屋上から眺めている。
銀色の長い髪を横に束ねた女性は、抱き抱えているメルフィーの顔を見ると、健闘を称える様にメルフィーの頭を撫でて、言った。
銀色の長い髪を横に束ねた女性は、抱き抱えているメルフィーの顔を見ると、健闘を称える様にメルフィーの頭を撫でて、言った。
「ありがとう。昔の、私」
風が吹いた瞬間、女性の影も形も、屋上から消えた。女性の姿を見た者は、誰も、居ない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
白い天井に眩しいほどに明るい蛍光灯の下の元、白衣を着た人々が慌ただしく動いている。
蛍光灯の下には半透明の大きなカプセル状のベットが横4列縦8列になって並んでおり、傍らでは様々な人が、カプセル内で眠っている人に心配や不安の目を向けている。
人々が行来きして狭苦しい通路を、白衣のポケットに両手を突っ込んで胸元のポケットにペンライトを入れた女性が悠然と歩く。
女性は相当の権威を持っているのか、白衣の人々が通るたびに一礼していく。女性はそれに軽く会釈を返す。
蛍光灯の下には半透明の大きなカプセル状のベットが横4列縦8列になって並んでおり、傍らでは様々な人が、カプセル内で眠っている人に心配や不安の目を向けている。
人々が行来きして狭苦しい通路を、白衣のポケットに両手を突っ込んで胸元のポケットにペンライトを入れた女性が悠然と歩く。
女性は相当の権威を持っているのか、白衣の人々が通るたびに一礼していく。女性はそれに軽く会釈を返す。
大部屋を出てしばらく歩き、緊急救命室と銘打ってある部屋へと指紋を照合する。自動ドアが開いて、女性はその中に入って行く。
「調子はどう? 草川君」
4基のカプセルベットの内の3基で目を閉じたまま安静状態となっているルナ、町子、そしてメルフィー。
3人をガラス窓越しから見ている草川に、未来世界での町子・スネイルがペンライトをクルクルと回しながら、声を掛けた。
3人をガラス窓越しから見ている草川に、未来世界での町子・スネイルがペンライトをクルクルと回しながら、声を掛けた。
「まだまだ絶対安静……。だが三日もあれば治るんだろう?」
「三日ないし二日ね。多分。ルナはもう少しで危ない所だったけど、鈴木君がナイスタイミングで助けてくれたから助かりそうよ」
「そうか……良かった」
「三日ないし二日ね。多分。ルナはもう少しで危ない所だったけど、鈴木君がナイスタイミングで助けてくれたから助かりそうよ」
「そうか……良かった」
ほっと胸を撫で下ろし、草川は再び三人に向き直る。そして煙草を一本取り出し咥えると、ポツリと、呟いた。
「これで……良かったんだよな。これでルナ……いや、この3人の未来は、俺達の未来から分岐したんだよな」
草川の言葉に、町子はペンを回し続けたまま、天井の蛍光灯を見上げながら答えた。
「さぁ……?」
「さぁ……ってお前」
「でもこれで、少なくともオルトロックという要素が関わる未来は無くなった。つ、ま、りあの世界……ううん、もうその時点で、未来は変わったって言っても良いと思う」
「さぁ……ってお前」
「でもこれで、少なくともオルトロックという要素が関わる未来は無くなった。つ、ま、りあの世界……ううん、もうその時点で、未来は変わったって言っても良いと思う」
回している手を止めて、指を指す様に、町子が草川に言葉を紡ぐ。
・ ・ ・ ・ ・
「私達を裏切ったオリジナルのオルトロックは、私達と提携して作りだした過去へと行けるタイムホールを使って、自らの目的を果たそうとした」
・ ・ ・ ・ ・
「私達を裏切ったオリジナルのオルトロックは、私達と提携して作りだした過去へと行けるタイムホールを使って、自らの目的を果たそうとした」
「だけど寸ででその目的に気付いた鈴木君は、兼ねて開発していたバトルスーツなる兵器を使い、戦いの末にオルトロックを倒した。ま、率直に言えば殺したんだけど」
ペンライトをポケットに仕舞い、自らもガラス窓の前に立つと屈んで3人に目を向ける。
「だけどオルトロックは死ぬ寸前に、自分自身の性格や能力をほぼ完璧に模倣したアンドロイドを創り出してバトルスーツとそれに付加するカードを盗み出し、タイムホールへと突っ込んだ」
振り返ってペンライトを教卓で弁を振るう教師の様に軽く振り回しながら、続ける。
「本当だったらメルフィーが彼女を救えれば良かったんだけど、常に戦線を率いる彼女にそんな余裕はない。だから」
「昔のメルフィーにオルトロックを倒す様に託した……って事だな。……大博打ってレベルじゃねえな」
「博打も博打、というか馬鹿よ、彼。明らかに勝てる要素は何一つ無かったわ。だって本当に彼女、ただの女子高生に過ぎないんだから」
「昔のメルフィーにオルトロックを倒す様に託した……って事だな。……大博打ってレベルじゃねえな」
「博打も博打、というか馬鹿よ、彼。明らかに勝てる要素は何一つ無かったわ。だって本当に彼女、ただの女子高生に過ぎないんだから」
「だが、勝利した。俺の愛する嫁、だからな」
何時の間に入ってきた、左腕に大きな包帯を巻いた隆昭が、自慢げな表情で二人にそう言った。苦笑する町子。
「お前もう戻ってきて大丈夫なのか? まだあっちで寝てた方が」
「バーロー、こんなもん明日になりゃ治る。それより……大丈夫なのか、3人は」
「バーロー、こんなもん明日になりゃ治る。それより……大丈夫なのか、3人は」
町子は答えず、ペンライトをガラス窓に黙って向ける。3人に目を向けながら、隆昭は言う。
「流石に若いだけ合って回復力が速いわ。長くても3日間あれば過去に戻せそうよ。何も無きゃ、だけど」
「そうか……」
「そうか……」
ベッドの上で目を閉じたまま、全てが終わった事に安らいでいるのか幸せそうに笑みを浮かべながら眠っているメルフィーを見、隆昭は呟いた。
「……メルフィー、言ってたよ。過去の私には、こんな世界を送らせたくないって」
「普通に勉強して、普通に恋愛して、普通に……普通に平和な世界で、生き続けて欲しいってさ」
隆昭の言葉に草川も町子も、ただ、俯いた。隆昭は町子に聞く。
「消すんだろ、記憶。流石にぶっ壊れたマンションと学校の屋上は消せないけど」
「可能な限り、携わった人達の記憶は消去するつもり。あっち側に飛んでね。何だったら隠蔽の為に人手を使っても」
「いや、良い」
「可能な限り、携わった人達の記憶は消去するつもり。あっち側に飛んでね。何だったら隠蔽の為に人手を使っても」
「いや、良い」
「記憶を消すだけいいよ。下手な事をして時間軸に影響が出たら厄介な事になる」
「そういや、ルナとメルフィーちゃんは?」
「今日は東北の方に行ってるよ。イルミナスの活動拠点が見つかってな、ぶっ潰してきて今日中にでも帰って来るだろ。あぁそうそう、ルナがお前に伝言だってさ」
「何だよ?」
「戻ってきたら覚悟しとけってよ。過去の私にやってきた事を、きっちり返してやるだと」
「今日は東北の方に行ってるよ。イルミナスの活動拠点が見つかってな、ぶっ潰してきて今日中にでも帰って来るだろ。あぁそうそう、ルナがお前に伝言だってさ」
「何だよ?」
「戻ってきたら覚悟しとけってよ。過去の私にやってきた事を、きっちり返してやるだと」
隆昭の伝言に、草川の顔が青ざめると深くため息を吐いた。そんな草川を笑う、隆昭と町子。
「……じゃあ俺行くわ。新人共がさっきからピンチらしくてな。今すぐ支援が欲しいって」
「鎮痛剤打っとく?」
「いや、直接闘う訳じゃないから良いよ。あー、そうそう、町子、メルフィーが帰ってきたら伝えといてくれ」
「鎮痛剤打っとく?」
「いや、直接闘う訳じゃないから良いよ。あー、そうそう、町子、メルフィーが帰ってきたら伝えといてくれ」
「落ち着いたらサンドイッチ、皆で一緒に食おうってな」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何か、凄く長い夢を見ていた様な気がする。
だけど夢の内容は思いだせないし、別に思い出すような内容じゃないと思う。今日もまた、普通の1日が始まる
だけど夢の内容は思いだせないし、別に思い出すような内容じゃないと思う。今日もまた、普通の1日が始まる
階段を下りて洗面台で、寝ててクシャクシャになった髪を整える。うん……これで大丈夫。
冷たい水で顔を洗いながら、寝ぼけている頭をどうにか目覚めさせて再び二階に上がる。早く着替えて学校に行く準備をしなくては。
冷たい水で顔を洗いながら、寝ぼけている頭をどうにか目覚めさせて再び二階に上がる。早く着替えて学校に行く準備をしなくては。
パジャマから制服に着替える。胸のリボンを結んでっと……これで良し。少しでもズレてると注意されるから、しっかり整えないと。
階段を下りると、リビングからお母さんの作っている朝食の美味しそうな匂いがした。今日はパンと目玉焼き……ううん、スクランブルエッグかもしれない。
ダイニングに着いてテーブルの上を見ると、スクランブルエッグだった。少しだけラッキー。早速席に座る。
階段を下りると、リビングからお母さんの作っている朝食の美味しそうな匂いがした。今日はパンと目玉焼き……ううん、スクランブルエッグかもしれない。
ダイニングに着いてテーブルの上を見ると、スクランブルエッグだった。少しだけラッキー。早速席に座る。
「おっはようメルフィー。飲み物何飲む?」
キッチンで皿を洗いながら、挨拶間際、母さんが何を飲むかを聞いて来た。勿論朝はアレに決まってる。
キッチンで皿を洗いながら、挨拶間際、母さんが何を飲むかを聞いて来た。勿論朝はアレに決まってる。
「おはよー、母さん。んーと……牛乳入れてくれる? ありがとね」
「良いの良いの。しっかり食べて、授業に備えてね」
「良いの良いの。しっかり食べて、授業に備えてね」
母さんが自分の珈琲と、私が飲む牛乳を入れた二人分のマグカップをテーブルに置き、向かい側の席に座った。
喉に牛乳を流し込むと、その冷たさから頭が冴えてきた気がする。焼きたてのパンもカリッとした後、フワッとした甘みがあっておいしい。
そう言えば……何時もは……って珍しくお父さんが居る。ご飯の前に新聞を広げて……。今日は研究所がそんな忙しくないんだ。
喉に牛乳を流し込むと、その冷たさから頭が冴えてきた気がする。焼きたてのパンもカリッとした後、フワッとした甘みがあっておいしい。
そう言えば……何時もは……って珍しくお父さんが居る。ご飯の前に新聞を広げて……。今日は研究所がそんな忙しくないんだ。
「おはよう、お父さん」
私の声にお父さんは新聞紙から少しだけ顔を出して、ボソッと言う。
「おはよう」
テレビを見ると、突如として建設を放棄していたマンションが倒壊したというニュースが流れていた。
別に大きな地震があった訳でもないのに不思議な事件だなーと寝ぼけた頭でぼんやりと思う。
次のニュースも月に小さなクレーターが出来たって言うニュース。こっちは別にそんな興味も無い。さっさとご飯を食べて学校に行かなきゃ
別に大きな地震があった訳でもないのに不思議な事件だなーと寝ぼけた頭でぼんやりと思う。
次のニュースも月に小さなクレーターが出来たって言うニュース。こっちは別にそんな興味も無い。さっさとご飯を食べて学校に行かなきゃ
「ごちそうさまー。美味しかったよ、お母さん。レストラン開け……」
私は席から立ち上がって、食器を洗う為にキッチンに向かう。
お世辞を行ってちょっぴりでも小遣いが上がれば良いなと思ったけど、流石に阿呆すぎる。
私は席から立ち上がって、食器を洗う為にキッチンに向かう。
お世辞を行ってちょっぴりでも小遣いが上がれば良いなと思ったけど、流石に阿呆すぎる。
「ん、何? メルフィー」
「ううん、何でもない」
「ううん、何でもない」
母さんと特に意味の無い会話をしながら食器を洗い終わり、用意してくれたお弁当をカバンに詰める。
ついでに必要な物を忘れていないかチェックする。文房具、教科書etc……。バッチリ。これで特に心配事は無い……かな。ちゃんと忘れがちなジャージも入っている。
玄関へと向かい、靴を履く。母さんが玄関で見送ってくれる。これが地味に嬉しい。
ついでに必要な物を忘れていないかチェックする。文房具、教科書etc……。バッチリ。これで特に心配事は無い……かな。ちゃんと忘れがちなジャージも入っている。
玄関へと向かい、靴を履く。母さんが玄関で見送ってくれる。これが地味に嬉しい。
「それじゃ行ってきます」
「はいはい、行ってらっしゃい。ちゃんと定時には帰ってくるのよ。まぁ……遅くなるなら連絡してね」
「はーい。じゃ、改めて行ってきます」
「はいはい、行ってらっしゃい。ちゃんと定時には帰ってくるのよ。まぁ……遅くなるなら連絡してね」
「はーい。じゃ、改めて行ってきます」
母さんに手を振りながら、私はドアを開けて外に出た。気持ちの良い、突き抜けるような青空と、眩しい太陽が見えて清々しい気分になる。
何だか今日は妙な予感がする。妙といっても悪い意味では無く、何かとんでもない事が置きそうな。
けどそんな予感は常に肩すかしだ。それかとっても小さい事。ま、期待しないで今日も一日頑張ろう。そう思って歩き出す。
何だか今日は妙な予感がする。妙といっても悪い意味では無く、何かとんでもない事が置きそうな。
けどそんな予感は常に肩すかしだ。それかとっても小さい事。ま、期待しないで今日も一日頑張ろう。そう思って歩き出す。
何となく空が青くて気持ちが良い。私はグーッと胸を伸ばして、何故だか分からないけどよっしゃ! って気分になって走りだした。
走ると前から来る風が爽やかで、とっても気持ちが良い。そこの角を曲がろうとした、瞬間!
走ると前から来る風が爽やかで、とっても気持ちが良い。そこの角を曲がろうとした、瞬間!
「うわっ!」
「きゃっ!」
「きゃっ!」
いきなり人にぶつかってしまった。私は立ち上がって、慌ててその人に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 私が急いでたせいで……」
「いや、俺もボーっと浮かれてたんだ。そうだ、良かったらちょっと聞きたいんだけど、良いかな?」
「いや、俺もボーっと浮かれてたんだ。そうだ、良かったらちょっと聞きたいんだけど、良いかな?」
未来形!
魔法少女
魔法少女
ヴィヴィっと! メルちゃん
「良いですけど……」
「あ、その前に俺の名前なんだけど……俺、鈴木隆昭って言うんだ。君の名前は?」
「私は……」
The future, it is not one.
「メルフィー、ストレインと言います」
了
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