創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

ニホンアシヒトデモドキ

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ParaBellum

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建物の影に身を屈める様に隠れていたタイプBの複数の目に光が灯り、ゆっくりと上半身を起こす。
身長3mのヒト型の多脚戦闘生物はその鋭敏な感覚器官に複数の敵影を捉えていた。
敵の発する熱量、歩行する時の振動を各種の神経素子が関知し、その種類と数が即座に分析される。

「スクイド・マルヒト(01)よりスクイド・マルマル(00)へ…
軽装タイプ、6 重装タイプ、4 光学信号装置前を通過しコクドウ227号線を南下中…予定通り集合営巣建築物の火点で迎撃する
マルヒトとマルフタ(02)はこれより誘導を開始、3秒間の射撃の後、後退する」

マルヒトの符丁を与えられたタイプBは10代の少女特有の高いソプラノの、透き通った声を連想させるフェロモン信号で仲間へと通信を行う。
接近してくる敵に体臭通信が傍受される恐れは無いが、奴らはこちらと同様に熱や音には鋭敏な感覚センサーを有している。
目前500mにまで接近してきた敵に気付かれないよう慎重に立ち上がったつもりだったが、しかし気づかれてしまったようだ。
舌打ちをして8肢に回避行動の命令を神経伝達する。
1秒後には隠れていた建物のコンクリ壁に十数発もの小さい椎の実の様な弾丸が打ち込まれていた。

「マルヒト、射撃開始! 撃っ! マルフタ援護っ!」

タイプBの胴体左右に備えられた針弾発射器官がバースト(点射)モードで高圧ガスを吹く。
ボシュボシュボシュ、ボシュボシュボシュ、と2回に分けて三発ずつ打ち込まれた針は敵、軽装タイプの2本足のうち
1本を吹き飛ばし、マルヒトはそのまま背を向けて全力で後退した。
それを援護するマルフタの、同じく針弾のボボボボボボボシュという連続した発射音。
マルフタはどうやらフルオート(連射)で撃ちまくっているらしい。

「マルフタっ! 射撃はバーストでって行ったでしょう!」

後退射撃位置に付いたマルヒトは事前の申し送りをマルフタが無視したのを叱責しながら、マルフタの後退するのを援護するために再度射撃を行う。
マルフタは連射で重装タイプの1体の胴体を蜂の巣にすると、迅速に後退行動に入る。
これを繰り返しながら、じりじりと後退を続けるのがマルヒトとマルフタの任務だ。

「火点に到達するまでに敵の数を減らしておくのも大事だと思うけれど」

「そういことは考えなくていいの! 私達は軽装甲なんだから、まともに敵とやり合おう何て考えない!!」

言葉を交わしながら、後退→射撃・援護を交互に繰り返す。
軽歩兵型であるタイプAやタイプBの装甲防御力は頼りない。 敵の針弾を一発食らっただけでも戦闘不能になることもありえる。
致命部位に損傷を受けたら、それは自身の死を意味するのだ。
だから、マルヒトとマルフタの与えられた任務は偵察と、建物から建物へと退きながら敵をこちらが罠を仕掛けているポイントまで誘導する囮だ。
今のところ、被弾は無い。 あと800m後退すれば、火点に到達できるはずだ。
と、後方から白い煙の尾を弾いて一発の生体ロケットが飛翔してくる。
そのミサイルはおそらく目標にしたであろう軽装タイプと自身の間にある民家に突っ込み、爆発した。

「マルマルっ、今の誰!? まだ攻撃距離じゃないでしょ!? マルナナ(07)!?」 

マルヒトが怒りの声を上げると、雑臭交じりの通信にマルナナが答えた。

「私じゃねーよ、ハツリだよ。 だから言ったじゃん、こっからじゃ当たんないって…」

ハツリ、とはマルハチ(08)の名前だ。
マルナナ・マルハチのタイプDは砲撃・火力支援型の砲兵型と言われるタイプである。
砲やミサイルを装備し、遠距離から装甲目標を精密攻撃したり、小型目標を面制圧したりする。

「…タイプBとタイプDは感覚情報共有があるから、マルヒトかマルフタが照準している目標に誘導が可能だわ」

「何馬鹿なこと言ってんの! 打ち合わせにあったこと以外はしない! それに、生体ロケットの性能じゃ
営巣地戦では建造物が邪魔になって当たらない!! ボケてるの!?」

感覚情報共有は他者の感覚器官で捉えた目標の情報を自分も手に入れることが出来る能力である。
例えば、マルヒトのタイプBが照準に入れた敵はタイプDの探知可能外にいて掴めてなくても、情報共有によって
生体ミサイルを発射すれば敵に命中させる事が可能である。
しかし、今マルハチのタイプDが体内で自己生成できる生体ロケットは障害物を自己判断で回避して目標に命中する機能は持っていない。
そのため開けた場所でしか使えないのだが、マルハチはは何故か発射してしまった。

もっともイチイチそれを責めていてもしょうがない。
マルマルからマルハチまで、若いワームの個体全員が戦闘に関してはほぼ素人なのだ。
それに今は作戦行動中だ。 言い合いやお説教をしている暇は無い。
戦闘が終わって敵のニホンアシヒトデモドキを完全掃討した後にするべき事だ。
マルヒトは小さく舌打ちすると、諦めて任務の続行に専念した。

そして、マルヒトとマルフタが予定のポイントに到達しようとした時だった。

「よし、あと50m…ってちょっとぉぉぉ!?」

「全体、撃てーっ!!」

まだ敵が予定の攻撃圏内に入りきっておらず、マルヒト・マルフタが回避しきっていないのに火点から射撃が開始されてしまったのだ。
仲間たちの放った無数の針弾、砲弾、ミサイルの雨に飲まれ、閃光と爆発に囲まれながらマルヒトの意識はブラックアウトした。

「……全員、そこに正座!!」

戦闘が終了し、タイプAが一つ一つ敵の死骸を丹念に調査して分析した結果が
Bマイナスという厳しい評価だったことよりも何よりも、実戦の様々なことがマルヒトの個体名
レイの怒りを有頂天に到達させていた。
一つ、僚機であるマルフタの個体名であるサクヤは無駄に弾を撃ちまくる。
一つ、砲兵班のマルナナのハツリは攻撃圏外からロケットを撃つ。
一つ、極め付けに、予定のポイントで攻撃するタイミングが早すぎる。 あまつさえ、自分ことマルヒトと、マルフタが
退避を完了してないのに巻き添えにする。
おかげでマルヒトは大破・胴体全損、余命3時間、マルフタは右側第3肢と第4肢大破、移動不可能…

「これが生体ロケットや針弾じゃなくてニホンアシヒトデモドキの焼夷弾だったら、私即死してたのよ? そんなに私を殺したいわけ?
敵じゃなくて味方を撃ちたいわけ? だいたい、事前に作戦内容を3回も念入りに説明したよね?
何聞いてたの? 聞いてなかったの? それとも私の説明が足りなかったの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

一列に並んで正座させられているワーム・第8596A89J01戦闘担当群の面々は、顔を下に向けてシュンとしていたり
頭をポリポリ書いていたり、何を怒られているのか理解してなさそうなキョトンとした表情をしていたり、
私は何もしていないのに…と迷惑そうな顔をしていたりと様々だった。
群といってもレイを含めて14体、せいぜい2個分隊相当の人数しかいない。
そのうち、戦闘可能タイプは8体しかいないので戦闘に出られるのは半分だけで、残りは医療班とか、給餌班の担当だ
戦闘に参加してない(後方から嗅いだり聞いたりしていただけ)のに正座させられた上にお説教もされて不満顔の医療班だがこれも連帯責任という物である。
部隊は規律と結束が必要なのだ。

「えー…でも敵は全滅できたわけだし…ほら、レイとサクヤは尊い犠牲という奴で」

「尊い犠牲だね」

「そうだね、こうしてる間にも体液どんどん出ちゃってるし」

「…ちょっと待て。 あんたらいいのかそれで」

思いもかけない群れの仲間達の冷たい発言に顔を青ざめさせるレイだが、無常にも医療班担当のまとめ役であるユカリは
しごく冷静に宣告を下した。
ちなみに、脚を破壊されて立つこともままならないサクヤはさっきから何も言わない。 あきらめ顔でいる。

「というわけで、戦闘不能になったレイとサクヤを現時点を持って破棄。 見捨てる事にします」

「ちょっ…薄情者!? 私たちいままで一緒に戦ってきた仲間でしょうが!?」

そんな事言われても…と同じく医療担当班のユウリが左第1肢でポリポリと頭を掻く。

「レイはどうやったってもうすぐ死んじゃうし、サクヤは自力で動けないんじゃどうしようもないし。
脚が再生するまで待ってる時間は無いし…
そんなわけで、ここに置いていくしかないでしょ? まあ、後続部隊が「苗」を植えに来るだろうから、頑張って養分になってね。
そして私たちのご飯の一部になってね?」

「じゃあなー、あ、レイにロケット直撃させたの、私かもしれない。 謝っておく」

「レイが死んだから、私が正式に群れの長だね!」

「じゃあね…#$”Gr%‘@+w>psE(翻訳不能)の御許に迎えられるレイとサクヤの魂に安らぎあれ」

「元気でねーって、死んじゃうか、アハハ」

口々に別れを告げてレイとサクヤに脚を振り、去ってゆく群れの仲間たち。

「ちょっと…なんで…!? 置いてかないでよ!! 何であんたらそんな明るいのよ!? 仲間が死ぬのよ!?
しかもあんたらの所為でしょ!? ちょっとは罪悪感とか持ちなさいよ!!」

そう訴えるレイの声に、仲間の一体であるチルノ(バカ・脳みそがあまり入ってない事で定評)が振り向いて言う。

「だってアタシら、高度な感情とか持ってるわけ無いじゃん。 頭足類だし」




ジリリリリリリリリリ!!

けたたましい目覚ましの音に、ベッドの中で毛布に包まれて玲ははっと目を覚ました。
時刻は午前5時。 タイマーの時間を間違えたようだ。
自分に二本の腕があるのを、目で見て確認する。 二本の脚があるのを、触って確認する。
良かった。 自分はタコの化け物ではない。
隣を見ると、由香里が同じく毛布に包まれて寝息を立てていた。
体温も息遣いも感じる。 そう、さっきまでのは夢だった。
本当に酷い、悪夢としか言いようが無い夢。

「…ニホンアシヒトデモドキである事を、こんなに嬉しく思った事は無いわ」

そう呟きながら、何事も無かったかのように安眠を続ける由香里の無防備な寝顔を見つめながら、玲は独り笑った。


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