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廻るセカイ-Die andere Zukunft- Episode7

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ParaBellum

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「「はぁ……」」

我が安田俊明邸のリビングのテーブルに、に深い溜め息と共に突っ伏する少年少女。

ここに帰って来れたことが一つの奇跡。今日はそう言ってもおかしくない出来事だった。

「疲れましたね……心身共に」

「オレなんて、腹に風穴空けられたんだぞ……」

思わず腹部の傷があった場所に手を当ててしまう。そこにはもう凄惨な傷跡など微塵も残っていない。

そう、異常なことなど何も無かったかのかのようにすら思えてくる。

「(いや……、そう思いたいだけ、か)」

現実から目を背けたいだけなのだろう。逃げてしまいたいだけ。

「(イェーガーの言う通りだよな、オレは……)」

シュタムファータァを助けてやりたいという偽善の蓋を、好奇心という器に被せていただけだった。

だからと言って、ここで逃げ出すわけにはいかない。

「(それは、自分の責任だ)」

どうせ放っておいても消えてしまうのだ。なら、少しくらい頑張ってみてもいいだろう。

自分の頬を両手で叩く。乾いた音と痛みで意識を覚醒させる。

「ど、どうしたんですかヤスっちさん、いきなり。頭おかしくなりましたか」

シュタムファータァが心配そうにこちらを見る。というか、最後のは喧嘩売ってるだろ。

「シュタムファータァ、イェーガー……倒すぞ」

本気で倒す。シュタムファータァ一人に任せるなんてことはしない。オレが自分から関わってしまった責任を取る。アイツを、本気で倒す。

「……しかし、私に、それができるんでしょうか……?」

「まずお前が真正面から戦って倒せる確率は0だろ。だから、せめてもの勝率を上げるしかない」

「うっ……、はっきりいいますね……。しかし、固有兵装……ですか」

「そうだ。別に凝った武器じゃなくていい。自分が扱いやすそうだと思ったモノを作ってくれ」

あのときハーゼが言った言葉。情報は全てを制す。

今、オレに与えられている情報からやるべきことを一つずつやっていこうと思う。

まずは、シュタムファータァ自身を戦えるようにしなくちゃいけない。そのためには武器が必要だ。

小学生が殴りかかってきても怖くはないが、小学生がナイフ片手に突っ込んでくるのは怖いものだ。

それは、武器が傷を負わせるものというのがわかっているからだ。つまり明らかに格上の相手でも牽制になるということ。

「扱いやすそうな物、ですか……」

「3日以内に仕上げろ。イェーガーだってそんなのんびりしてるタイプじゃないだろ、あれは」

「3日ですかっ!?無理無理無理っ、無理ですよ!」

シュタムファータァが慌てながら必死にNOサインを出す。だが、残念ながらそれを聞いてる余裕はない。

「ハーゼが数日で生み出せるって言ってただろ。イェーガーがいつ動き出すかわからない緊急事態だ。頑張ってくれ」

「うえええ、わかりました、わかりましたよぉ……」

これで固有兵装の件はクリア。あとは、オレが頑張るだけだ。

「と言ってもヤスっちさん。私、固有兵装作っても勝てる気がしないんですけど……」

「わかってる。だから、別の方法で倒すしかないだろ」

「別の、方法?」

そう。別に強さで勝るだけが戦いというわけじゃない。いくらだってやりようはあるんだ。

「ああ。……確認だが、リーゼンゲシュレヒトに現実兵器ってダメージあるんだよな?」

「もちろんありますよ。ミサイル一発食らっただけで気の抜きようによっては大ダメージです」

「待て、気の抜きようってことは、注意してたら食らっても耐えられるってことか?」

「そうですね。例えるのなら、腹筋に力を入れてると殴られても痛くないのと同じ……と考えてください」

腹筋に力を入れるのと同じでミサイルを耐えられるのか。嫌すぎる。

「つまり意図してないことなら大丈夫ってことか」

「ヤスっちさん、ミサイルでも持ってくるんですか!?」

シュタムファータァがキラキラとした目でこちらを見てくる。だが生憎ここは日本なんだ。

「持ってるわけないだろ。……まぁ、でもミサイル並の威力なら出せる方法がある。というか思いついた」

オレが用意できる最大の威力を秘めた攻撃。トラックを突っ込ませるとかいろいろ考えたが、これがやはり一番威力があるだろう。

「そ、それはなんなんですか?」

「……"粉塵爆発"だ。それもとびっきりのを用意して、な」

「……粉塵爆発、ですか?」

「ああ。ニュースとかで見るだろ。それなら兵器なんて使わなくても威力がある」

思いつきではあるが、悪くはない発想のはず。素人でも簡単に起こそうと思えば起こせる非常に安易な方法だ。

そして、肝心の爆発させる場所も問題はない。

廃墟群。あんだけドンパチやっててもバレなかったんだから爆発くらい大丈夫だろう……多分。

大丈夫じゃなくても、まずはイェーガーを倒すことだけを考えよう。全てはそれからだ。

「それだけの威力を出す粉末の量を、どうやって運び出すんですか……?」

「もちろん、リーゼンゲシュレヒト状態になればかなりの量が運べるだろ。夜だったらまぁ、姿を見られる心配もあんまないだろうしな」

「いえ、姿だけだったら大丈夫ですよ。"認識阻害"がありますから」

また聞きなれないファンタジー用語が出てきた。リーゼにセカイに固有兵装に今度は認識阻害、か。

「で、なんなんだその認識阻害ってヤツは」

「その名の通りリーゼンゲシュレヒトをヒトから認識できなくする能力です。リーゼンゲシュレヒトであれば誰でも使える力ですね。
 と言っても認識できなくするのは視覚だけですし、ヤスっちさんのようなリーゼンゲシュレヒトと契約を交わした人間には意味がありません」

「視覚だけなのか。ま、そんなことができるんだったら余計楽だな」

「というより認識阻害がなかったら公園でも街中でもリーゼンゲシュレヒトになれませんし、なりませんよ」

軽く苦笑しながらシュタムファータァがそう言う。まぁ、たしかに言われてみればその通りだ。

どのくらいの量でどれだけの威力が出せるかはわからないが、まぁ現実工場で使ってるレベルで屋根吹き飛ばせるのだから、
建物一杯くらいの粉を用意すればいくらイェーガーでも耐えれないだろう。多分。

「それをどっからどこに運び出すんですか?」

「製鉄所に行けば金属粉はある。あとは木粉かな。これはリサイクル工場にでもあんだろ。ニュースで見たから確実のはず」

「やたら詳しいですね、ヤスっちさん」

「一般常識の範囲だ。そんじゃ四日後の夜、三時に行くからな。それまでにお前は、武器を頼むぜ」

それまでにオレは工場の場所を把握しなければならない。こういうときにインターネットが本当に役立つ。

「わかりました。なんとかやってみます……」

「オレにはお前しかいないんだ。頼んだぜ」

頭を軽く撫でてやる。……なんとなく、気恥しいな。でもまぁ、子供の頭を撫でるのは普通の行為だと思う。たぶん。

「それじゃあ、私は帰りますね」

「おう。……そういや、お前って生活費とか払ってんのか?」

ふと気になった。まぁ、オレには関係のないことではあるのだが。

「うーんと、私って自分でお金ってあまり管理してないんですよ。"セカイの意志"から振り込まれるお金は全部久遠に預かってもらってましたから」

「子供かよ、お前。いや……子供か」

まじまじとシュタムファータァの外見を見る。顔はたしかに可愛いが、いかんせん子供に対しての可愛いという気持ち以外思えない。

「一応ヤスっちさんより年上ですっ」

「実感ねぇなぁ。……そういや、その久遠ってヤツはリーゼンゲシュレヒトなのか?」

「はい。本名は"時の鍵人"エーヴィヒカイト。革命派と対立する保守派のリーダーでもある、非常に強力なリーゼンゲシュレヒトです」

「そいつに助けを求めることはできないのか?」

オレがそう聞くとシュタムファータァは首を横に振った。

「難しいですね。保守派のリーダーがセカイの意志の任務を放棄している私に味方し、革命派の一人に戦いを仕掛けるなんてことがあったら、
 それこそセカイの意志を二分したリーゼンゲシュレヒト同士の戦いになってしまいます。そしていざ戦いになれば……」

「今のところ戦力の乏しい保守派に勝ち目はない……ってか」

「強力なリーゼンゲシュレヒトの数でだったらそこまで劣ってもいないんですが、戦争は数で全てが決まってしまいますしね」

「……だよな」

まぁ、そもそも誰かの力を借りるのはまだ早い。今はまだ、自分たちで責任を取れる段階だ。

「話が逸れちゃいましたね。一応、私の持ち合わせていたお金は孝明さんに渡してありますよ。なかなか受け取ってはもらえませんでしたけどね」

「孝明さんみたいな大人が、お前みたいな子供からお金をはいありがとう、って簡単に受け取るわけないもんな」

というかそもそもこんな女の子が生活費レベルの金額を持ってるところに驚くのが最初だとは思うが。

「まぁ、固有兵装については全力でなんとかしておきます。粉塵爆発で倒す以上、その場所に誘導できる程度の力は必要ですもんね」

「そういうことだ。んじゃ、よろしくな」

「はい。できたら携帯の方に連絡しますねーっ」

そう言い残し、シュタムファータァは家を後にした。オレは誰もいなくなったリビングを後にし、自室に戻り早々にベッドに身を投げる。

「本当、生きてんのが奇跡だわ……」

腹部の傷。今まで経験してきた中で一番痛かった。ハーゼがいなければ死んでいたかもしれない。

そしてそのハーゼも次からは助けてはもらえない。甘えは許されない。オレとシュタムファータァが、やるしかないんだ。

「とりあえず、今はやることをやんなくちゃな」

ベッドから起き、机の上に設置されているPCの電源を入れる。

そしてPCが起動するまでの時間、リビングに降りて棚から揺籃の地図を引っ張りだす。

パソコンから揺籃に存在するリサイクル工場と製鉄工場の場所を調べ上げる。地図と照らし合わせながら場所をメモっていく。

戦後開発がかなりの勢いで進んでいった揺籃だ。この手の工場が存在しないわけがなかった。むしろありすぎて困るくらいだ。

一つ一つ丁寧にメモしていく。メモが終わる頃には、もう時刻は零時を回っていた。

「……そろそろ寝なくちゃな」

明日は学校をサボってこの工場を下見してみようと思う。さすがに白昼堂々襲われはしないだろう。多分。

風呂に入って心身をリフレッシュさせ、布団に潜りこむ。

色々なことがあった今日。その疲れのおかげで意識が落ちていくのに、さしたる時間はかからなかった。



―――――いたい、あつい。あかい。あかい。いたい、あつい、いたい。

―――――みずのおと?なんのおと?なんのこえ?

―――――これは、ぼくのこえ?だれのからだ?

―――――わからない。わからない。

―――――だれ、だれ、おかあさん、おとうさん。

―――――たすけて、たすけて?

―――――ぼく、ぼくはね―――――

「ッ……!!」

布団から飛び跳ねるように起き上がる。悪夢を見たということを理解するまで、時間はそこまでかからなかった。
手を額に当てると冷や汗で濡れていた。おそらく背中も同じようにびっしょりと濡れているだろう。

「ひっさびさに、あの夢見たな……」
最後に見たのは去年くらいだった。おそらく、昨日の出来事が精神的に負担になっていたのだろう。

「吹っ切れていることとはいえ、朝っぱらからこれだと鬱になるな。幸先悪ぃ……」

別によくある「なんだこの夢は……!?」というものではない、よくある心的外傷の一種だ。
原因も夢の内容もわかりきったことなので、不快感しかない。

とりあえず頭を無理矢理リセットし、寝巻きを脱いでタオルで汗を拭き取る。クローゼットにある制服に手を伸ばしかけるが、学校に行くわけではないので洋服棚の私服に着替える。

「親父たちは大丈夫だろうけど、千尋が問題だよな……」

ウチの両親はそういったことを気にするタイプではないので大丈夫だが、千尋は違う。オレが休むと言ったら自分も休むと言いかねない。
メールで済ませてもいいがそうしたら絶対に家に来る。隣りというのはこういうときに厄介だ。

「前みたいに一度行って早退って手もあるけど、一度やってるから千尋に目付けられてるだろうしな……」

いっそのことインフルエンザで面会謝絶ということにしてやろうか、とも考えたが……。だがなんだかんだで両親の許可を経て朝食を食べ、家を後にする。

「ま、メールが一番無難だろうな」

携帯に今日休むから一人で行ってくれという内容のメールを送り、千尋に追いつかれる前に自転車で自宅を離れる。
同じ生徒に姿を見られるのも厄介なので、通学路を避けながら工業地区へと向かう。

数十分後到着。自転車をとりあえず工業地区の入口付近に自転車を止め、メモしていた地図を開こうとポケットから携帯を取り出す。

「さて、一つ一つ場所だけでも確認しないとな。いざ運び出すときに地図で確認していくのも面倒だし」

一個一個の工場の場所を確認して、頭に摺りこませていく。そうしている内に、携帯に着信が入った。
画面には『守屋千尋』の文字が。内心溜息を吐きながらも通話ボタンを押して電話に出る。

「ヤスっち!?どうしたのさいきなり今日休んで!病気?怪我?」

案の定いきなり早口で話しかけてくる。だが、これは予想済み。

「千尋……いってきマスターアジア」
「え?い、いってらっシャイニングフィンガー……ってかこのやり取りって昨日するはずのじゃないの?しかも相手ヤスっちじゃないよね、たしか」
「気にするな」

そのまま電話を切る。間髪入れず再び電話がかかってくるが、即座に切り地図を再び開く。

「ヤスっちさんって、千尋さんのこと嫌いなんですか?」

「いや、嫌いじゃねぇよ。アイツに余計な心配かけさせたくないだけだ。……って、なんでお前がここにいんの」

いつの間にいたのか。後ろにはシュタムファータァの姿があった。

「はい、実は……」

「どうせ、『ヤスっちさんのセカイを感知しただけですー』とか、そんなんだろ」

「よくわかりましたね!」

いい加減もう慣れた。あそこまでセカイセカイ連呼されているともう何でもありなんだろうと思ってくる。

「えへへ、実はヤスっちさんに報告を、と思いまして」

「なんだよ?」

シュタムファータァが得意気な笑顔で胸を張って口を開く。

「なんと、僅か数時間で!私の固有兵装が完成しましたっ!」

「おう、早かったな随分」

「なんか淡泊な反応ですね!まぁいいです。なんか、作り始めたら頭から勝手にイメージが湧いてきたと思ったら気づいたら完成していました」

理由はどうあれ早く完成するのはいいことだ。なんなら、今日の深夜にでも予定を早めることができる。

「で、なんかお約束通りに名前はあんのか?」

「モチのロンですよ!ふふ、聞いて驚かないでくださいよ……」

ムダに勿体づけるシュタムファータァ。早く言えよ、とは言わずに大人しく待つことにする。

「その名も!シルバアルジェントブラタセリェブローアスィミフェッダインアルゲントゥム銀式です!」

「パクりな上に長ぇよ」

噛まずに、しかも記憶していたことは凄いのだがとりあえず一刀両断する。こいつは固有兵装を使うたびにこの名前を言うつもりか。

「ちなみに冗談です。本当は名前なんてないですよ」

「本当だったら今すぐ作り直させてたわ。……そういや、固有兵装の経常って何にしたんだ?兵装って言ったって色々あるだろ?」
                       ヴゥァージョントゥー
「ふっふっふ。聞いて驚かないでくださいよVer.2。私の固有兵装はですね……」

そして再び無駄に勿体付けたように一呼吸置いて、シュタムファータァは口を開いた。

「トゥインジャプァニーズソード。双刀。日本刀の二本持ちですよ!いいと思わないですか?ヤスっちさん!」

あれか。日本刀って……マジか。日本刀だけだったらまだ良かった。よりにもよって……二刀流、か。

「お前なぁ……。日本刀がどんだけ扱いにくいのか知ってるのか?しかも二刀流も目茶苦茶難しいんだぞ。
 試しに竹刀でもなんでも二本持って体動かしてみろ。生半可な素人ができる戦い方じゃない」

実際にやってみたことのある人間から言うんだ。間違いない。え?子供のときに一度くらい試したことないか?

「で、でもイデアールは、ちゃんとイェーガー相手に善戦してたじゃないですかっ」

「あれは、イデアールが強かっただけだろ」

オレがそう言うと途端にシュタムファータァの顔が落ち込んだような表情になり、オレの心にグサグサと良心という名の刃が刺さっていく。

「ま、まぁお前が闘えるんならいいんだけどさ。でも、こんな短時間にやってくれたことはすげぇ感謝してるし、助かってるからさ、な?」

そう言いながらシュタムファータァの頭に手を乗せ、優しく撫でてやる。子供をあやすにはこれが一番だと聞いたらからじゃないぞ、断じて。

「えへ、大丈夫ですよ。戦ってみせますって……」

途端に喜んだ表情になるシュタムファータァ。よかった、機嫌は即座に治ったようだ。

「やっぱりお前、子供だったんだな……」

「うん?なにか言いましたかヤスっちさん?」

「いいや別に何も言ってない。さて、じゃあお前も来たことだし一緒に工場の場所を把握していくぞ。お前も覚えた方が楽になるしな」

携帯を取り出し、地図情報をシュタムファータァの携帯に送信する。最近の世の中は便利になったもんだ。

「……はい、了解です。じゃあ出発しましょう!」

先導するシュタムファータァを一歩後ろから着いていく。そうして数時間くらいで、工場の場所確認は終わってしまった。


「案外、時間がかかるもんなんですね……。私、一時間くらいで終わるかと思ってました」

工業地区の近くにある公園で自販機で買った飲み物片手にベンチで休憩するオレとシュタムファータァ。その最中の一言だった。

「戦後間もなく揺籃の大開発が進んだからな……。工業地区とかが発展してるのは当然なんだ。ビジネス街なんてもはや同じ街とは思えないぞ」

「なるほど……。それでなんですか。って、担当地区のはずなのに知らないなんて、おかしいですよね私」

「いいんじゃないのか別に歴史なんて知らなくても、さ。……っと、オレちょっとトイレ行ってくる」

「はい、いってらっしゃいです」

いってらっしゃいですって日本語的に変だろ。しかし数時間トイレに行ってなかったから尿意が……。



公園に設置されてあるトイレに入る。すると、思いもがけない先客が居た。そして、それに伴う強烈な臭い。

「お、お前は……!」
「おう、小僧じゃねぇか。こんな場所で会うなんて奇遇だな」

その先客は、オレを半死にまで追いやった『赤銅色の狩人』イェーガー、本人だった。

「っ……!なんつー運の悪さ。しっかしお前、臭ぇ!マジ臭ぇぞ!?」
「仕方ねぇだろ。誰のだってしたばっかってのは臭いもんだ。つか俺自身が臭いみたいな言い方すんじゃねぇぞ」

「いや、これは臭いぞ。つかなんでお前公園なんかでクソしてんだよ。ホテル帰れ」
「馬鹿野郎。公園で充分夜を越せるってのに、なんでわざわざホテルに行かなきゃならねぇんだ」
「それを世間一般じゃホームレスって言うんだよ!」
「ベッドがなきゃお前は寝れねぇのか。傭兵や兵士としちゃあ三流だなぁ、失望したぞ」
「ならねぇから三流で結構だ!」

ぜぇはぁと必死に臭いに耐えながら声を荒げ反抗する。何故だろう。こいつを前にだともの凄く怒鳴りたくなる。

「っ……くそ……マジ臭ぇ……」

「おい、小僧。ここで会ったのも何かの縁だ。今からおっぱじめるか?」

イェーガーが獲物を狙う狩人のような瞳でこちらを真っすぐ見据える。正直怖い。だが、この臭いの方が驚異だ……!

「いや、イェーガー。今からだと時間的に思いっきり戦えない。そうだな、明後日のAM02:00からで、どうだ?」

「それは、あれだな?言い方的には明日の深夜2時から……という解釈でいいんだな?」

よし、乗ってきた……。こいつの好戦的な性格のことだ。絶対に乗ると思っていた……!

「ああ。そういう解釈だ。場所は前回の廃墟群。それで、いいな?」

「オーケー。こっちとしては思いっきり戦えるし仕事も片付けられるしのに二石一鳥だしなぁ。その条件、飲んだ」

了承したことに密かに心の中で安堵の溜息を吐く。正直、冷や汗が止まらなかった。

「じゃあ、ゆっくりクソでもなんでもしていきな。んじゃな」

そう言いながらイェーガーはトイレを出て行った。肝心のトイレも設置されている換気扇によって臭いは緩和されていた。

そして本件だったトイレを済ませ、シュタムファータァの所に戻る。

「ヤ、ヤスっちさん!今、トイレからイェーガーが!」

「ああ。で、ついでに戦いの約束も仕込んできた。いきなり襲いかかってくるヤツじゃなくてよかったよ」

「そうですか……。よかった。ヤスっちさんがイェーガーに襲われてたらと思うと、トイレの中まで駆け込もうかずっと悩んでましたよ……」

シュタムファータァが安心したかのように胸をなでおろす。良かった。トイレに突っ込まれないで本当によかった。

「これで準備は全部整った。あとは、今日の粉の配置を済ませて当日なんとかできるか。それが、問題だな」

「ええ、きっと楽にできることじゃない。むしろ成功率の方が全然低いことだと思います、ですが、それでも」

「「やるしかない」」

お互い言葉が重なり、そしてオレたちは自然と互いの拳を軽く合わせていた……。


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