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未来系!魔法少女 ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 承

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Parabellum

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メルフィーが学校の授業を受けている頃―――――雲一つ無い、遠くまで澄みきった青空の元で、それは飛んでいる。
カブトムシを連想させる大きな角に、クリっとした赤い二つのカメラアイ。曲線を帯びたフォルムに肩に刻まれた複雑な紋章。
機械的ながらも、有機物的な印象を感じるそれは、ヴィル・フェアリスと同じ様で、全く非なる物体である。

ただ、同じ所と言えば背中の排気口より出ている、羽の様に形成されたエネルギーの集合体だろうか。これでヴィルと同じく、空を飛んでいるらしい。

『ホントにどうしよう……早くご主人様を見つけないと……』

絶えまなく地上にカメラアイを向けながら、それはポツリとそう呟いた。
それが発する声は、勝気さを感じさせる少女の声であるものの、台詞は弱気そのものだ。それに酷く焦っているようにも感じる。
地上ばかり見ている為か、それは数メートル先に、同じく空を飛んでこっちに向かってくるヴィルがいる事に気付いていない。

『これからどうしよう……メルフィーさんに何て言えば……』
ヴィルの方も何か心配事があるらしく、前を見ずに俯いてぶつぶつと呟いている。
両者の距離が次第に縮まっていく。3メートル、2メートル、1メートル……衝突。空中に小さく、火花が散った。

ぶつかった衝撃でヴィルとそれが互いに派手に吹っ飛ぶ。相当痛かったのか、それは頭を摩りながら、ヴィルに怒鳴り散らす。

『ちょっと何処見てるのよ! 目ん玉付いてる訳!?』
『ご、ごめんなさ……あれ?』

ヴィルは頭を上げると、数秒程、目の前のそれを見つめた。そして小さく首を傾げて、それに聞いた。

『ちびトラウ……こんな所で何を?』

ちびトラウと呼ばれたそれはヴィルの発言にイラっと来たのか、何処からか刃が蛇腹状となってくっ付いている鞭を取り出すと、ヴィルを叩きはじめた。
伸縮自在のその鞭は、逃げようとするヴィルを追尾して容赦なく叩きまくる。ヴィルはひたすら鞭に打たれて抵抗できず、目が><と不等号になった。

『ご、ごめんディス! いつもの癖で呼んじゃったの!』
『私の事をちびトラウ呼ばわりするのは止めろって言ったでしょーが! それにディス様よ、デ ィ ス 様!』

しばらくディスという名のそれはヴィルを叩き続けた。
手加減しているのだろう、激しい音がするものの、ヴィルの白き装甲に傷が出来る様子はない。とはいえ痛いらしく、ヴィルはのたうち回っているが。
疲れたのか息を荒げたディスは叩くのを止め、鞭をヴィルの足元に絡ませて引きずり込むと、ヴィルに対して押しつける様に指を向けて厳しい声で言った。

『良い!? いまからダッシュでアンタの所のバカ主人に伝えてきなさい! 周りに被害が出ない内にあいつを止めろって!』
『今からって言われても困るよ……もう隆昭さんは学校でメルフィーさんに接触したから』

その言葉を聞いた途端、ディスに電流走る。その衝撃の理由はただ一つ、もう、遅かったという事だ。

まるで放心状態になった様に動きが固まってディスに、ヴィルは疑問符を浮かべながらも心配して、声を掛けようとした。
と、その前にふと気づく。ディスのパートナーであり、ご主人様である……。

『そう言えばオルト……』

言いかけて、ヴィルは気づく。どうしてディスがこうも焦っているのか、そして何故、こうも必死なのかを。

『ま……まさかディス……あの人、もう……』

『そのまさかよ……。早くご主人様を探さないと、とんでもない事になるわ……色んな意味で』


                                    未来系!
                                    魔法少女


                               ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 承


忘れ物を取りに行っていた鈴木君が戻ってきて、何時も通り授業が始まった。
特に変わった事は無く、1時間目、2時間目と時間は刻々と過ぎていく。時折、外を向いて今朝会ったヴィルがいないかと探してみるが、私の目に映るのは二つ。
綺麗に晴れている青い空とだだっ広い陸上用のグラウンドだけだ。やっぱりアレは寝ぼけて見てた夢だったのかもしれない。
何となく鈴木君をチラ見してみると、私と同じ様に空を見ている。彼にも何か思う事があるのだろうか。

そう言えば……陸上用のグラウンドを見て思いだしてしまった。昼食前の4時間目に、問題の体育がある事を。
今日の体育は陸上競技で、各々で競技に参加し、自己ベストを更新するって内容。何時もと変わり映えしない。……私がジャージを忘れた事以外は。
正直、私は走るのも飛ぶのもあまり得意じゃない。胸が痛くなるし……。それに今日嫌なのはそれだけじゃない。

ジャージを忘れたせいで、ハーフパンツで授業を受けなければならない事だ。肌寒い今の季節、冷え性を伴っている私にはただただ辛い。
それに体操服って体のラインが目立って恥ずかしいし……。考えれば考えるだけ、見学したくなる。

……いけない。元を辿れば、私のうっかりが招いた事だ。甘えちゃいけない。
しっかり今日のミスを反省して、体育に参加しなきゃ。とはいえ、たまに聞こえてくる空っ風のせいで体は嫌がってるけど。
けど終わっちゃえば後は昼食に授業で生徒会だ。体育さえ乗り越えられれば、あとは何時も通りの生活……!
私は自分自身に喝を入れ、改めて私は授業に集中する事にした。その時だ。


『ダーリンは貴方なんかに……渡さないから!』


氷の様に冷めきった、だけど滾る様な熱い憎悪を感じる声が聞こえて、私は思わず席ごと振り向いた。
何なの、今の声……! 上手く言えないけど凄く怖い……。驚いたのか、鈴木君が偉く険しい顔つきを浮かべている。
鈴木君だけじゃない。私の行動に、クラスの皆が何事かと、動きを止めて私に視線を向けている。

「あー……ストレイン?」
「ご、ごめんなさい!」

先生に呼ばれたせいか猛烈に恥ずかしくなり、俯いてノートに授業内容を一生懸命書いている振りをする。
でもホントにビックリしたもん……。明らかにこのクラスの、ましてや先生の声じゃなかった、さっきの声は。

それにしてもあの声……ホントに何だったんだろう。思い返してみると女の子……いや、男の子っぽい……? どちらにも捉えられる、そんな中性的な声だった。
でもさっきの言葉は私に対してかは分からないが、ナイフで刺されるような鋭さがあった。今すぐにでも殺してやる……みたいな。
……止めよう。多分まだ寝ぼけてるんだ、私。次は体育だ、気合を入れて挑まねばいけない。何、たったの1時間だ。

丁度3時間目の終了を遂げるチャイムが鳴った。私は両頬を軽く叩いて、気合いを入れ直す。

「更衣室行くわよ―、メルフィー」
ジャージと体操服の入ったバック片手に、ルナと町子が私を呼ぶ。頷いて、机の横に掛けた体操服だけ……のバックを取る。
気のせいだとは思うけど、さっきから誰かが私を見ている気がする。ルナと町子じゃない、全く違う誰かが。


「どうしたのよ? さっきから妙にキョロキョロして」
体操服に着替え、ジャージを着用したルナがそう言った。もしかしたら私はその誰かを気にするあまり、挙動不審になっていたのかもしれない。

「ううん、何でも無い」
出来るだけ明るく振る舞い、二人を心配させないようにする。ありがとね。
にしても朝からヴィルと名乗る変なのに会うわ、奇妙な声を聞くわ、不気味な感じるわ……今日って私、厄日だったかな。

「あ、そうそうそう言えば……」
「何? ルナ」
「アンタ授業中、凄い顔してたけど、どうかしたの?」

あー……三時間目の事だ。アレはどう説明すれば良いんだろう……。

「その……何ていうんだろう……ええっと……」

何となく言えない……ルナが心配してくれてるのは嬉しいし、隠し事なんてしたくない。だけど、だけどだ。
私は正直に答えるのが、妙に嫌な気がした。私を見ているその人が、私の話す事もて全聞いている気がしてならないから。
けれどルナのまっすぐな目を見てると、正直に話さなきゃ凄く悪い気がする。けど……。

そう口元でもごもごしながら言葉に迷っていると、むんずと無遠慮に胸を掴まれた。町子の左手が、私の胸を掴んでいる。

「……町……子?」
「おっきい胸に心配事は似合わないよ、メルメル。胸に詰めるのは夢とロマンで充分さ!」
「ただ触りたいだけでしょ! いい加減にしなさい!」

そこらの漫才師の突っ込みよりずっと手が早い、ルナのツインテール突っ込みが町子に二度目の突っ込みを浴びせた。
町子に説教するルナと、暖簾に腕押しといった感じで受けながす町子を見てると、自然に心が軽くなってきた。
二人のお陰で、沈んでいた気分が、少しづつ上がっていく。……二人が友達で良かった。心からそう思う。

「ありがとう、ルナ、町子。大丈夫だから、私の事は気にしないで。ね」
自然に、感謝の言葉が出てきた。私の言葉に、ルナは太陽みたいな笑顔で軽く私の肩を叩いた。

「たくっ、アンタが悩んでるとこっちの気が沈んじゃうわよ。ま、友達同士だし何かあったら遠慮なく私達に相談しなさいよ」

「そうだよメルメルー。悩んでたらちゃんと言わなきゃ。友達なんだしさ

 ただし相談料として1回1揉み」

三発目のツインテール突っ込みの音が、爽やかに更衣室に響いた。


「う~……寒い寒い……」
自然に口からそんな言葉が出るほど、冬のグラウンドの寒さは堪える。空っ風は何の遠慮も無く、私の体を凍えさせてくれる。
町子もルナもしっかりとジャージを着てて温かそうだ。それに比べて私はこの寒さの中、ハーフパンツに体操服だけでやらなくてはいけない……。
それに嫌なのは寒さだけじゃない。体操服は嫌ってくらい……その……。胸が……。

男子の目が……。本人達は気にしてないふりをしてるんだろうけど凄く……分かるから……。

「こらっ――――! アンタ達、真面目に授業に参加しなさいよ―――――!」
ルナが私をガードする様に、男子達へと向かって手でメガホンを付くって大声を上げる。男子達はそそくさと散っていく。
嬉しいけどルナ……悪いけど正直恥ずかしいよ……。逆に注目されてるみたいで。

「全く男子は何時まで経ってもドスケベですなぁ。おぉ、エロスエロス」
と言いながら、町子が一体何処から取り出したのか、と言うより何時学校に持ち込んできたのか、レンズが大きい1眼レフのカメラを私に向けている。

「アンタ何学校に持ってきてんのよ! うちに写真部は無いでしょ!」
「これからしゃしんぶ! を作るので、その部員募集のポスターに……」
「作らせないし撮らせない!」

そう言ってルナがむんずと、町子の手からカメラを取りあげた。不満げにムムムと言う町子。
と、町子はおもむろに眼鏡を取ると、係員さんが調整中の棒高跳びへと体を向けると、指を差して、私とルナに言った。

「もし私があれを飛んだら、ルナルナ、メルメルと一緒に猫耳ブルマで被写体になって貰うよ」

私とルナは顔を見合せて、慌てて町子を止めようとした。が、時素手の遅し。
町子は眼鏡を忍ばせると、棒高跳びへと全力疾走して行った。あまりに早さに、町子の走った後に凄ましい砂塵が巻き上がる。
係員の人達が走ってくる町子に驚いてその場から離れていく。棒は町子の身長の3倍は高い。町子を知らない人から見たら、どう考えても飛べ無さそうに見える、けど。

町子は高く飛び上がると、体を丸めてくるくると、忍者の様な動きで軽々と飛んで見せた。
クッションの上でポーズを決める程、完璧に、町子は棒高跳びを飛んだ。

そう、町子は外見こそは文学少女というか、運動が苦手そうに見えるけどそれはあくまで外見からのイメージ。
むしろ運動に関して、このクラスで上位に入るほどの、抜群の運動センスを持っている。ちなみに眼鏡は伊達だが、私とルナ以外知らない。

私が町子を侮れない訳は、突拍子もないボケと、この良く分からないけど凄いギャップにある。
町子が眼鏡をかけて、悠々と歩いてくる。そして自信満々な笑みを浮かべて、私達の前に立つと、にやりとして言った。

「それじゃあ二人とも、公約通りに猫耳ブルマで被写体になって貰うよ。ルナルナは赤いブル……」

「やらないわよ!」
「やらないよ……」


「てかメルフィー、次アンタ飛びなよ」
そうだった……今は体育の授業だった。うっかりというか忘れてしまいたいけど、現実はそんな甘くないよね……。
係員さんに言って、棒の位置を調節して貰う。町子が飛んだ位置よりずっと低いけど、これも現実……。

「それじゃあ行ってくるね」
二人に伝えて、飛ぶ為に勢い良く私は走る。走ってると少しだけ温かい気がするけど、風のせいでそれはまやかしと気づく。
ちょっぴり風を恨みながらも、意識を目の前の棒に集中させて……いざっ!

飛ぼうとして踏み出した瞬間、私の膝が何かに当たった。私は飛ぶ間もなく、ずっこけてクッションに顔を沈めた。
何も……無かったよね……? 何で……? 何で私、ずっこけてるの……?  

「メルフィー!? ちょっと大丈夫!?」
大きくずっこけた私に、ルナと町子が慌てて駆けてくる。
一応怪我はしてないけど、体操服とハーフパンツが砂で少し汚れてしまった……。けど、これくらいなら大丈夫。

「ごめんね、二人共。けど怪我して無いから大丈夫だよ」
「なら良いけど……明らかに何かにぶつかってたよね、アンタ……」

……傍目から見てたルナにも、私が変にこけた事が分かったみたい。何だったんだろう、今のは……。
多分気のせい、きっと。地面に大きな石とかあったけど、気付かなかったんだ。悪く考えだすと今日はドつぼに嵌りそうだから、そういう事にしとく。
次は100メートル走か……走るのも苦手なんだけどな……。とはいえ二人と一緒に走れるから、最初からビリって分かってて精神的には幾分マシだけど。

「それでは位置に着いてー」
右にルナ、左に町子、私が真ん中でクラウチングスタートを取って、合図が降りるのを待つ。
ビリなのは分かってるから、少しでも私自身のタイムを縮める為に頑張らなくちゃ。自然に体に力が入る。

「よーい……ドン!」
合図が、降りた。私は立ち上がって走りだ……。


「……え?」


……何でハーフパンツ……ずり下がってる……の? 凄く下が……スースーするんだけ……ど……。

って!

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私はほぼ反射的にハーフパンツを腰の辺りまで上げて、その場にしゃがんだ。
駄目、周りが……周りが恥ずかしくて見れない……! 誰にも、誰にも見られた事なのに……。頭の中が沸騰して、まともに考えられない。
ゴム? ゴムが緩かったの? 何で? 何でハーフパンツが立った瞬間にずり落ちちゃったの? もうやだ……。死にたい、今の私、すっごく死にたい!

「うおぉぉぉぉぉ白! 俺の想像通りメルフィーちゃんは白だ! 純白だ!」
「染まらない可愛さですね、マスター!」
「つまり上の方も……あぁ、考えただけで鼻血が」

遠くで、草川君達が酷い事を話しているのがハッキリと聞こえた。次に聞こえたのは、草川君達のこの世のモノとは思えない断末魔。
何時もは同情してあげるけど、流石に今回ばかりは同情する気はこれっぽっちも起きない。

町子が大丈夫だよと言って、私を気遣ってくれる。少しだけ楽になれるけど、やっぱり前を見れないくらい死ぬほど恥ずかしい。
ルナが走ってきて、心配そうな表情で聞いて来た。

「やっぱメルフィー、今日は体育休む? 私が適当に先生に言っとくからさ。やっぱ今日アンタおかしいよ、色々」

「……ううん、最後までやるよ、ルナ。ありがと」
私は悪いと思いながらも、ルナの申出をやんわりと断る。ルナにはホントに悪いとは思うけど、私は今回のでつくづく思う。
こんな事をするのは、三時間目に聞こえた、あの声の主だ。どんな卑劣な手を使っているかは分からないけど、絶対にそうだと思う。
ここで体育を休んだら、私はその人の思惑通りに負けを認める事になる。だから絶対に、絶対に負ける訳にはいかない。

それから私はやることなす事、理不尽なまでに躓いたり転倒しまくった。何も無い所で、見えない障害物によって。
走れば膝元に何かが当たって躓いた揚句にズッコケ、飛べば膝元に何か当たっては派手に転倒して。
寒空の下、私は馬鹿みたいにその妨害に負けない様に陸上競技に精を出した。私ってこんなに負けず嫌いだったのかと、自分で驚く。

「メルフィー……もう無理しなくて良いよ」
ルナが厳しい顔つきを浮かべて、尚且つ諭す様な口調で、私にそう言った。

「頑張ってるのは凄く分かるけどさ……メルフィー、アンタ女の子だよ? そんなに傷ついてどうすんのよ。それに体操服も……」
言われてみて、改めて気付く。皆綺麗なジャージなのに、私だけそこらじゅうに砂が付いててまるで小学生みたいだ。
それにガンガン転んでる為だろう、両足に擦り傷が沢山出来ている。……ホントに小学生みたい、私。

「というかメルフィー、今日は厄日だと思って見学しようよ。さっきからアンタ、何も無い所でこけたり、パンツ」
「ルナ……」
「ごめんごめん。けどやっぱ可笑しいって、絶対。このまま続けてたらホントに怪我しちゃうよ」

ルナが私の目をじっと見てそう言った。……こう言った時のルナには、逆らえない。
本当に……本当に悔しいけど、ルナに言われた様に見学してよう……大体の競技には参加したしね……。
意地悪な誰かさんに負けたみたいで悔しいけど、ルナの忠告を突っぱねる理由はない。と、何故か町子が、私では無く私の後ろを見ている。
気になって町子に声を掛けてみる。どうしたんだろう。

「……町子?」

「……そこ、隠れてないで、出てきなさい」



『ややっ、ご主人様の反応!』

ディスが何かに気付いたのか、地上へと体を向けると、背部の羽を一気に放出させて猛スピードで下降していく。

『って訳でヴィル! 悪いけど私悪い子だから! アンタの装着者をめちゃくちゃにしてくる!』
『ディス!? っつ!』

『そんな事……させない!』

ディスを追いかけるべく、ヴィルが背面の排気口から青い翼を成形させて飛んでいく。しかしディスは早い。もう豆粒ほどに遠くなってしまった。
ヴィルは必死に翼を大きくするが、ディスにはどう頑張っても追いつけない。次第にディスが向かった場所が見えてきた。
その時、ヴィルの頭部に搭載された通信機に、あの青年の声が入って来た。ヴィルはすぐさま応じる。

『ご主人様!』
『ヴィル、変身するぞ! 屋上で待ってる!』


町子が私の背後に向かって、何時もの町子では見られない真剣な眼差しでそう言った。

「町子、アンタ何を……?」
自然に、私の手がルナの肩を押える。今の町子に委ねてみたい。良く分かんないけど、私はそう思う。
私の行動にルナは怪訝な表情になったが理解してくれたのだろう、一息ついて、私と共にその場から一歩退く。
町子は私達に軽く頷くと、何処からか真っ赤な野球ボール大のボールを取り出した。何のボールだろうと思っていると、すぐさまルナが町子に言った。

「ちょっと町子! あんたそれ、ペイントボールじゃない! カメラに続いて何てモン持ってきてんのよ!」
「良いから見てて」

そう言って町子はペイントボール……? を右手に持つと、野球選手の様に投げる構えをとった。そして……。

「そぉぉぉぉぉぉぉいっ!」

と腹の底から捻りだした様な凄い声を出しながら、大きく振り被った。ボールは豪速球で何も無い所へと……。

「うええっ!?」

当た……当たった!? 変な声がすると同時に、町子が投げたペイントボールが破裂し、水彩画みたいな赤い印が空中で浮かんでいる。
すると赤い印の下から浮き出る様に、黒いローブが上から曲面を描く様に出てきた。バサッと音を立てて、ローブが空中に浮かんで、地上に落ちる。。

……そこには、一人のウェーブかかった栗毛色の髪の毛の女の子が立っていた。
可愛い……。その女の子は蒼くて大きい目に、ふわふわっとした雰囲気で痛かったのか尻餅をついて目元を擦っている。

でも良く見てみると恰好がこう……変だ。膝上の今にも見えちゃいそうな黒いスカートに、上半身はフリフリのゴスロリっぽい服。
そして何より、女の子が持っている長くて細い木の杖。何だろう、魔法少女……? みたいな。
女の子はしりもちを付いたスカートの汚れを叩きながら立ち上がった。町子の剛速球が痛かったのか、目に涙が溜まっている。

「インビジブルを見抜くとか何者よ、貴方……」

女の子は目を何度か擦って涙を拭いながらそう言った。この声……まさか! いや、間違いない。三時間目に聞いたあの声の主は……!
私は確信した。この一見無害そうな女の子が、私に対してえげつない妨害ばかりをしていた事を。多分見えない様に、姿を隠して……。

「おーい君! 部外者は勝手に学校に入っちゃ駄目だよ!」
女の子気づいた体育課の先生が、女の子の元へと走ってくる。しかし女の子には一切、慌てる様子はない。
逆に落ちつき払った動作で腰元のポーチを開けて探ると、何かカードを取り出した。どう考えても、悪い事が起きるに違いない。
私は迷う暇なく、走ってくる先生に対して叫んだ。お願い、こっちに……来ないで!

「先生、駄目! こっちにこないで!」

「邪魔する奴は……バインドっ!」

そう言いながら女の子が杖を先生に向けると、持っているカードを杖の中の溝に通した。
すると先生の背後に魔方陣みたいな物体が浮き出て、先生を掃除機の様に吸い込んだ。先生の体が物体にくっ付いて……。

次の瞬間、先生の体を眩い電撃が覆った。先生の髪の毛と服がチリチリと焦げて、口から煙を出しながら倒れ……た?
先生の変わり果てた姿に、誰かが悲鳴を上げた。私は先生の元に駆け寄ってみるが、息をしているのかどうか分からない。

「バレてしまっちゃ仕方ないわね……私の名はオルトロック・ベイスン!」

「一先ず警察、いえ、救急車を呼んだ方が良いわね」
「下手に動かしては危険かもしれない。ここで一先ず対処を練るべき」
「分かった! それじゃあ私はすぐに先生達に伝えてくれるからメルフィー、町子、アンタ達は皆を先導して!」

「こらぁ! 人の自己紹介はちゃんと聞けオラァァァァ!」

女の子……いや、オルトロックが私達に杖を向けて怒鳴った。今はそれどころじゃないのに……!

「メルフィー・ストレイン! ダーリンを掛けて私と勝負しなさい! 有無は言わせないから!」
オルトロックの言葉が理解できず、私は一瞬フリーズする。だ、ダーリン? 勝負って……一体全体何の話なの!?
私が驚いている間にも、オルトロックはカードを取り出して、杖を立てた。何をするかは分からないけど、絶対に止めなきゃ!

……と、思った矢先にオルトロックはカードを溝に挟んで通してしまった。私……のろい!

「スクワーム!」

オルトロックがそう言った瞬間、杖が突如として肥大化しはじめた。そして杖の下が木の根っこの如く地面に絡みついて変化していく。
みるみる間に杖が……木になった。でも木にしては気持ち悪い。気持ち悪すぎる。何故なら枝であろう部分が、ナマコみたいにグネグネと紫色に照かっているからだ。
違う……アレは枝でも無きゃ木でもない! しょ、触手!? 触手だ! 魔方陣の次は触手って……めちゃくちゃじゃない!

私が驚きのあまりに呆けていると、その触手が軟体動物……タコの足の様に伸びて、次々と皆を捕まえていく。
自在に生えてきて自在に伸びるその触手は、幾ら皆が逃げようと足を掴み、腕を掴み、お腹を掴んで引き寄せていく。現実味が無さすぎて、私にはもう何が何だか……。

「い、いやぁ! 離して! 離してってば!」
「やだ、服が解かされて……!」

驚くべき事に触手は、掴んだ人の服を少しづつ溶かしている。皆のジャージが液体の様にどろどろと、地面に落ちていく。

「って俺達までもか! 誰得なサービスシーンだこれは! おい馬鹿やめろ!俺を襲っても紳士達は喜ばんぞ!」
「マスター目が、目が腐ります! 何でも良いから隠して下さい!」
「地獄絵図だ……俺達は今、性的な意味で地獄絵図に叩きこまれている……」

「きゃあっ!」
「し、しもた!」

「ルナ! 町子!」
触手がルナと町子を掴んで引き寄せようとする。
私は二人の腕を掴んでどうにか引き剥がそうとするが、触手はととんでもない馬鹿力で、あっという間に私の手から二人を奪ってしまった。
しまったと思った瞬間、私自身も腹部を掴まれて持ちあげられた。くっ……お腹が……苦しい……!

オルトロックは幼い顔に似合わない、凄く人相の悪い笑顔を浮かべながら私を見上げて、さぞ楽しそうに言った。

「メルフィー・ストレイン……ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇ~?」

「今すぐ……やめなさい! こんな……馬鹿な事!」

私はなるべく自分の中で怖い顔を作って、オルトロックにそう言い放つ。
何かにつけて駄目駄目な私だけど、こんな事されて何も言えないほど弱虫じゃない。それに単純に悔しい。こんな最低な人に、馬鹿にされた。
オルトロックは私の言葉に悔しいのかきっと私を睨みつけると、口元をニヤニヤさせながら言った。

「あぁそうそう……貴方を掴んでるこの子ね、本気出せば服だけじゃなくて肉まで溶かす事が出来るんだよ。ほら……」
オルトロックが指先を私に向けると、触手が私の胸元にべったりとくっ付いた。すると次第に私の体操服が解けてき……。
……やだ! 私はどうにか宿主をどかそうとするけど、うんともすんともしない。こ、このままじゃ……。

「早く私に謝れば……いや、土下座すれば許してあげるよ。ついでにダーリンを譲ってね。ほら、早く早く!」

……ダーリンって誰の事なのか全然分からないし、というか朝からもう訳分からな過ぎて頭がパンクして何もかも理解できない。

だけど……だけど一つだけ、分かる事がある。何をされても、私はオルトロックに対して頭を下げるなんて、絶対にしない……! 死ん……でも!

「絶対に……謝らない……! 皆を……離せ!」

「ふ~ん……だったら……」

胸が焼ける様な熱さで、私は気を失いそうになる。どうにか気を失わない様に保とうとしても、あまりの暑さに頭の中が白くなる。
私……私、本当に死んじゃうの……かな……。こんな……皆も……誰も……助けられない……で。


「ドロドロに溶けて死んじゃえ!」


お父……さん……お母……さん……ごめん……なさ……。


――――――――――――――――白い、閃光。

気づけば、私の体は誰かの両腕で、お姫様の様に抱えられていた。誰かが……助けてくれた……の?
太陽の逆光で、その人が誰なのかは分からない。けど、ヘルメットを被ったその人の姿は、間違いなく、カッコいい。


『すまない、遅れてしまった。大丈夫か、メルフィー』


この声……何時も夢で聞いた……あの人の……声……。それじゃあ、私に呼びかけてたあの人は……。
男の人は、私を抱きかかえたまま、オルトロックの前に着地した。全く揺れない程、安定した着地。

「ダーリン! やっと出てきてくれたんだね! 私……私寂しかったんだよ!」


『お前を嫁とも妻とも呼ぶ覚えはない。というか根本的に』


『男だろうが、お前』


……え? 

何だろう、今まで夢の中にいたみたいにうっとりしてたのに、あまりの衝撃に私はすぐに現実に叩き戻された。
オルトロックって……男……なんだ……。私より……可愛いし……。

『ちょっと待っててくれ』
私が呆然としている間に、男の人はそう言うと、私をその場に偉く丁寧に置くと、何処からか長くて刃が白い剣を取り出して、私に言った。

次の瞬間、男の人は目にも止まらぬスピードで、剣で触手をズバズバと凄い勢いで切断しまくる。切断する度に皆を抱えて、地面に置く。
最後の触手が切られて、ルナと町子が助かった。私は急いで二人の元に駆け寄る。目を瞑ってる……けど……。

『心配はいらない。皆気絶してるだけだ』


「ダーリン……酷い事……するね……」

「私は……私は貴方の事が大好きなのにっ!」

オルトロックがわなわなと、手を震わせながら男の人へと走ってくる。こ、怖い……

だけど男の人は至極冷静に、剣を背中に掛けている鞘? にしまうと、オルトロックに向かって右腕を上げた。
すると右腕から白い弾丸が飛び出ると、その弾丸は白い網となって広がり、オルトロックを捉えた。網に囚われて、オルトロックはジタバタする。

『すまないが、少し揺れるぞ』
言われるがまま、私は男の人に両足と背中をお姫様だっこされた。何処に連れてかれるんだろう……。
男の人が壁を蹴りながら向かった先は、あろう事か学校の屋上だった。男の人は私を立たせると、静かにヘルメットを取った。

「……嘘」


「す、鈴木……君?」

「すまなかったな、メルフィー。君の友達を危険な目に合わせてしまって」

そこには、今日転校してきた鈴木君が立っていた。あの優しげな笑顔を浮かべながら。
そして鈴木君の近くには……朝出会ったヴィルという名の、あの不思議な子が浮かんでいた。
正直全く理解が出来ない。ヴィルは鈴木君と繋がっていて、それで鈴木君がヒーローで、オルカロックが男……男?

「あの……あのさ、鈴木君、一つ良い?」

「あのオルトロックって子……男の子、なの?」

私の質問に、鈴木君は深く頷いて答えた。
「あぁ。背格好こそは少女だが、奴は間違いなく男、だ。それも相当歪んだ性癖のな」

「早速だが本題に入るが、メルフィー。変身してくれ。コイツを使って」

鈴木君はそう言って、ヴィルを指差した。変身? 変……変身? ちょっと……ちょっと待ってよ、鈴木君!

「そんな事突然言われても理解できないんだけど……。お願い鈴木君、事情を……事情を説明してくれない?」
「悪いがそんな時間は無いんだ。早くしないと、本気でオルトロックは人を殺しかねない」

『お願いします、メルフィーさん! 貴方の力が必要なんです!』
そう言ってヴィルが私に懇願しているのか、頭を下げた。もう……ホントに訳分かんないよ……。
けど鈴木君が言う通り、オルトロックをどうにかしないと大変な事になる事だけは分かる。あんな滅茶苦茶な事をする人だ。ほっておける訳が無い。

「メルフィー」
『メルフィーさん……』

私はグッと目を瞑った。そして―――――開いて、鈴木君に、言う。

「……分かった。どうやって変身するの?」


to be continued...


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