創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

廻るセカイ-Die andere Zukunft- Prologue

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
朝、携帯から流れるアラームで目が覚める。 窓から零れる朝日の光を感じながら、携帯を手に取り騒がしく鳴るアラームを止める。
瞼を完全に開き、大きなあくびをしながらカーテンを開き、窓を開け放つ。
視界に映るのは、いつもと変わることない青い空。
天気は雲一つ浮かんでいない快晴。夏にも間違えるような日差しが暑い。
窓を閉めカーテンを再び閉める。薄暗い部屋の中ベッドを降り、クローゼットに手を伸ばす。
取り出したるはオレこと安田俊明(やすだ としあき)が通う『揺籃二高』の制服。私服登校も許可されているのだが、服を選ぶのは面倒臭い。
さっさと着替え、朝の気だるさから大きなため息を一つ吐く。
「とっとと飯食って、あのバカ迎えにいかねぇと・・・)」
共に登校している幼馴染の存在を頭に浮かべる。学校行く気が失せてくる。
まぁいつまで続くかはわからないが、たぶんこれからもこんな感じなのだろう。
そこら中に溢れている、取るに足らない日常が続いて欲しい。そんな事を考えたりした日に日常が崩壊したりするのが常なのだが。
若干センチメンタリズムになりながらも、いつもの足取りで自室を出て階段を降り、リビングに到着する。
するとキッチンに立っているはずの母親は不在であった。テーブルに置いてあった真新しいメモ書きを手に取る。
「今日は学食か」
今日朝飯作れないごめんね的な内容であったメモ用紙を握りつぶしゴミ箱に捨てる。そしてテーブルに置いてある小銭を手に取りポケットに入れ込む。
誰もいない居間を後にし、玄関の扉を開く。

朝の5月とは思えない暑さの日差しに思わず顔をしかめる。だが学校に行かないわけにもいかない。
自分の自転車を取り出し、カラカラと手押しで走らせる。どうせ隣りの家に行くのだから今乗る必要もない。
鳥居の前に自転車を止める。鳥居を見上げるとそこにはいつもと変わらず『守屋神社』の文字が。
そして鳥居を潜り石畳を歩き境内へ。そして拝殿、本殿と抜け一番奥にある居住スペース、守屋さんの一軒家の前で足を止める。
インターホンを押すと軽快な音が流れ、すぐに「今行くから待っててーっ」と声がするも、オレが返事を返すことなく切れる。
まぁ、いつものことなのでそのまま待つ。
バタバタと外まで聞こえる音と共に玄関の扉が勢いよく開け放たれる。
「やっほーヤスっち、おはよーさん」
「おう、おはよ」
背中にまで届く長い栗色の髪を揺らしながら慌ただしく挨拶する若干小柄気味の少女。
一応、幼馴染。名を守屋千尋(もりや ちひろ)という。
両親の仲が良くて家が隣りまではよかったのだが、毎朝起こしにくるというイベントは待っていると残念ながら学校に間に合わない。
まぁ、例え間に合ったとしても千尋には起こされたくはないが。
「ヘイヤスっち、今日はチャリ?暑いからもうバスで行っちゃおうぜ」
「バスだと人が密集するからもっと暑いぞ。ちなみにタクシーなんて来るのを待ってると遅刻するからな」
オレたちが住んでいるこの住宅地区東部では、一応学校までのスクールバスというのが存在する。
だがこの季節、バスに乗ると学校に着くころには汗だくになってしまう地獄の車内だ。
「カーエアコンくらい搭載しろってーの。んじゃま、行きますかえ」
「おう」
千尋が裏から自転車を出してくる間に、オレは先に神社を出て自分の自転車に跨る。
そして千尋が鳥居を自転車で走りながら潜ると同時に、オレも後に続く。
「いつも思うんだが、お前石段とか鳥居とか自転車で走行していいのかよ」
「大丈夫大丈夫。巫女だから多少の融通効くんじゃん?きっと」
なんというバチあたりな巫女なんだろう。神様もきっと嫌がっている、絶対。

互いに他愛ない世間話を交わしながら学校までの道を走っていく。
髪にかかる風が涼しくて心地良い。やはり自転車にして正解だった。
なんだかんだでだいたいいつも通りの時刻に学校に到着し、そのまま自転車置き場まで走り自転車を止める。
「しっかし、自転車で行ける距離なのにバスで行く人の気がしれないねぇ」
「お前は朝の自分の言動を思い出せ」
くだらない会話を続けながら校舎に入り、教室を目指す。
そこまで広くはない校舎である。教室まで5分もかからず到着した。
「おはよーっ」
千尋が意気揚揚と教室に入っていく。オレはそのまま千尋の後を追うように教室に入り、黙って自分の席に着く。
「よう、安田」
ふと顔を上げると目の前には金髪の長身の男が立っていた。
松尾亮也(まつお りょうや)。所謂アウトロー側だが、腐れ縁で仲が良いと言える数少ない友人の一人だ。
「おう、三枚目」
「朝っぱらからひでぇなぁ。オレほど二枚目の男っていなくねぇ?」
「お前だったら椎名の方がよっぽど二枚目だよ。というか椎名が二枚目だから松尾は三枚目なんじゃないか?」
「人を勝手に二枚目にするな」
そう言いながら松尾の後ろから黒髪の男が話に加わる。椎名俊一(しいな しゅんいち)という名前だ。
長身な松尾の近くに立っているせいもあるが、椎名は平均的に見て身長が低い部類に入るだろう。
だが、そのクールな性格と頭の良さで、ムードメーカーの松尾とは対照的だ。運動神経は二人とも抜群だが。
いつもこの三人でだいたい過ごしている。友人が少ないオレにとっての数少ない親友だった。
「おい椎名・・・俺から二枚目ポジションを奪うとは・・・」
「だから勝手に俺を二枚目にするな。オレが二枚目だったら、十分安田も二枚目だろう」
「オレ?それはねぇよ。・・・とりあえず松尾が三枚目なのはもうキャラ的に決定だな」
そんな馬鹿話を続けていると、始業のチャイムが鳴る。そしてチャイムの音と間髪入れず教室に担任の教師が入ってくる。

相変わらずのくだらないHRを終え、一時限目が始まる。
机の中から置き勉している教科書を数冊引っぱり出し、机の上に頬杖を着く。
「・・・暑い」
正直この気温は参る。オレ自身暑いのが苦手というのもあるが、この気温は誰でも暑いと思うだろう。
壁にかかっている温度計に目をやる。・・・35度。今は5月なのにこの温度はおかしいだろう。
もう全てが億劫に思え、窓の外を見る。
世界はいつもと変わらない。ように見える。変わることのない日常。
だが、今の世界は着実に終わりへと向かっている。ゆっくりと、確実に。
世界の消失。アホみたいな御伽噺のようだが、現実にそれは存在した。世界が少しずつ消えていっているらしい。
この前も中国のどっがが消えただのをニュースで見た。それは何の前触れもなく、突然の出来事だった。
だから学校に来ている人間も少ない。来ているのはバカか真面目なヤツ。
そして、現実を受け入れたくなくて。日常は永遠に続くと信じたくて、日常を続けているヤツ。
そしてオレはどの部類に入るのだろうか。たぶん、バカだからだろう。
「……つまんねぇなあ、オイ」
シャーペンの尻をかじりながら、無意識のうちにそんな事をこぼしていたのだった。
「(くそ、マジで眠くなってきた・・・)」
あくびを噛み殺し、再び窓の外に目をやる。ふと窓から見える隣の校舎の屋上に人影らしきものが見える。
女の子・・・か。スカートとツーサイドアップの髪型からそう断定した。
その女の子は屋上の手すりに手をかけ、その向こう側へと降り立つ。
とっとと手すりからフェンスに変えろっての・・・。だから自殺なんて、するんだろうが。
最近自殺者が全国で急増している。世界の消失による絶望が、人を死へと駆り立てる。
あの子もおそらく消えていく世界に絶望したのだろう。別段珍しい光景でもないが、呆れて驚く気もない。
「(自殺なんて、バカのすることだ)」
そう考えてふと視線を前に戻すと、前の席のバカが席を立ち、教室を飛び出していった。
「(千尋のヤツ、ホントお節介だな。・・・バカなヤツ)」
そして、オレもそのバカの一人らしかった。椅子から体を起こす。
「オイ安田、お前、どうしたんだ」
千尋が教室を抜け出したことに苛ついているのか、青筋を浮かべながらハゲ教師がオレを睨む。
「・・・トイレ、行っていいスか」
オレもそのままにらみ返しそう言う。トイレという建前拒否はできないはずだ。早く許可しろ。
「・・・仕方ない、早く行ってこい」
「・・・どうも」
短くそう言い返し、教室を出ようとすると凛とした声で、教室の中から声が聞こえた。
「すいません、私も行ってきていいですか?」
長い黒髪を僅かに揺らし席を立った少女。宮部都(みやべ みやこ)。
クラス委員長であり、絵に描いたような委員長でもある。真面目に学校に来ているヤツの筆頭みたいな女だ。
「宮部・・・お前もか。もういい、勝手にしろ」
教師が呆れたようにそう言う。宮部は一言礼を言うと、オレの横を通り過ぎて教室を出ていく。

「チッ・・・」
軽く舌打ちしながらも後を追うようにオレも教室を出る。そうして前を走る宮部に向かって話しかけた。
「お前まで来る必要はないんじゃねーの?委員長さん」
オレがそう言うと宮部は足を止め、黒髪をなびかせ振り返る。
「何よ。安田はトイレなんでしょう?早く行ってきなさいよ」
「オレが、本当にトイレに行きたいとでも思ってんのか?」
お互いにらみ合うが、こんなことをしてても時間の無駄にしかならないことをお互い察し、並ぶように走り出す。
「安田も屋上、行くんだ」
「まぁ千尋が行ったからな。アイツ一人だと何するかわからねぇし」
ぶっきらぼうにそう答えると、宮部は呆れたように口を開いた。
「安田って、本当に守屋さんのこと好きよね」
「言ってろ。アイツとはただの腐れ縁だ。恋愛感情なんか一欠片もねぇよ」
アイツとはただの親友であり腐れ縁。恋愛感情なんか一切なかった。
「はいはい、わかったわかった」
絶対わかってないだろう。・・・事情を説明すれば理解できるのだろうが、オレは説明する気もなかった。
千尋のことはただ心配なだけ。心配する理由なんて、オレの場合おいそれと人に話せる理由でもない。
「急ごう安田。もうすぐ授業が終わる」
「そうだな」
そうして互いに無言になりながら懸命に走る。数分もしない内に屋上までたどり着いた。
「千尋ッ!」
そう叫びながら屋上のドアを開け放つ。だが、そこには遥かに予想を裏切る光景が待っていた。
千尋が、さきほどの少女に土下座しているという、意味のわからない状況だった。
「・・・あ?」
思わずそう声が出てしまう。いや本当に、なにこの状況・・・?
「邪魔っ!」
オレそう呆けていると後ろから蹴りが飛んでくる。オレはその衝撃に耐えきれずに屋上の床に放り出されてしまう。
「痛ってぇ・・・、ゲホッ」
軽い呼吸困難に陥りながらも、なんとか起き上がる。
「志帆っ、なにしてんのよ・・・」
「都・・・?なんでここにいるの?もしかして、なんか騒ぎになっちゃった?」
宮部が志保と呼ばれた少女に詰め寄る。そして困惑したような表情を浮かべる少女。
「ってて・・・。で、千尋はなんで土下座してんだよ」
「いや、私の勘違いだったんですぜ。この娘が下を覗き込んでたのをアタシが勘違いしちゃっただけなんでっせ」
千尋が顔を起こしそう言う。だから土下座してたのか?お前の土下座、軽いんだな。
「あはは、なんか本当騒がせてごめんね?大丈夫、自殺とかじゃあないから」
「神崎志帆・・・でよかったよな?なら、なんであんなとこにいたんだ?」
よく見るとこの少女は見覚えがあった。相手にはないだろうが、松尾がたしか可愛いって騒いでた気がする。
「だから下覗きこんでるだけって、アタシ言ったじゃんよヤスっちさんよー」
「その動機を聞いてるんだよ」
まさか何も考えず柵を越えて下を覗きこんだなんてことはないだろう。もしそれだとしたら黄色い救急車を呼びたくなってくる。
「それは・・・ほら、この前ここで自殺した人がいたじゃない?」
三週間前くらいだっただろうか。ここの生徒が屋上から飛び降り自殺をした事件があった。
オレとはまったく接点がないし名前も知らない生徒だったから特に気にとめてはいなかったが、たしかにそんなことはあった。
「ここから落ちたら本当に人って、死んじゃうのかなって思って見てたんだ。そしたら授業が始まっちゃってて」
「そこにアタシが来たってわけでしてよ」
「お前は言葉遣いを一定させろ。・・・ってことは、やっぱり神崎には自殺の意思はなかった、ってことでいいんだな?」
とりあえず千尋に突っ込み、そして確認のためもう一度聞いておく。
「うん。まったくもってないよー」
「なら、万事解決ね。そろそろ教室戻りましょうよ」
宮部がそう場を纏めるかのように言う。宮部はこういう役がやっぱりあっていると思った。
「賛成だ。そろそろ戻らないとあのハゲうるせぇからな。っても、もう手遅れだろうけどな」
「たぶん宮部ちゃんはないぜ、説教。アタシとヤスっちにはあるだろうけど」
千尋がげんなりした様子でそう答える。たしかに、宮部は普段の行いがいいからな。
「あはは、今回は騒がせてごめんね。では、頑張ってくださいなー」
神崎がそうカラカラと笑う。ったく、心配して損だった。
「じゃあ、私たちは戻りましょう」
宮部を先頭にして屋上を後にする。神崎は別の教室なので途中で別れ、オレたちはそのままハゲの待つ教室へ。
案の定怒られ、放課後の説教もプラスされてしまった。

あっという間に放課後になり、ハゲ教師の説教タイムを終えてオレと千尋は帰路に着いていた。
「うへ、慣れたとはいえ最悪なのには変わらないねぇ、あのハゲ」
「たしかにな・・・。でもまぁ、冷房の効いてる職員室で説教だったってだけでもよかったと思おうぜ」
この蒸し暑い気温の中で説教だったと想像すると、ますます気分が滅入ってくる。
「お。お前らまだいたのかよ」
「・・・説教か」
駐輪場を出ると、そこには椎名と松尾の二人が立っていた。オレにとってはなんでお前らがまだいたのかよって感じだが。
「その通りだ。お前らこそ、なんでこんな時間までいるんだよ」
オレがそう尋ねると、松尾はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに誇らしげに語り始めた。
「そう、それは放課後、オレと椎名は来るべき魔の手から勇気と友情を駆使してだな・・・」
「単純に、主将から逃げてただけだ」
椎名が松尾の熱弁をバッサリ斬って説明してくれる。
椎名は弓道部に所属している。おそらく部活をサボろうと逃げるところにはち合わせ、鬼ごっこをしていたというところだろう。
「んじゃ一緒になったのも何かの縁だ、一緒に帰ろうぜ」
松尾が人懐っこそうな笑みを浮かべてそう誘ってくる。特に、断る理由もなかった。
「おっと、私はパスで。今日ちょっと寄るとこあるんだよねー」
「お、なんだよ守屋ー、マジかよー」
「千春さんのお見舞いか」
御守千春・・・いや、伊崎千春か。訳あって入院している彼女への見舞いの日が今日だった。
「ああ、千春ちゃんのお見舞いか。なら俺たちも久々に行っていいか?」
「うん、いいよー。たぶん千春も喜ぶだろうしね」
千尋がそう言い、このまま千春の入院している病院へ向かうことになった。
朱色の空から零れる光が照らす道路を、四人で自転車を走らせながら病院へと向かう。
きっと、あと数時間もしない内に空は真っ暗になってしまうだろう。
そして、他愛ない会話を続けながら、ふと目に気になるものが目に入った。
自転車の向きを曲げ、急旋回して元来た道を引き返す。
「ちょっとちょっと!?どうしたのさヤスっち!?」
「ちょっとな!お前らは先に行ってろ!」
そう言い残し、少し自転車を進め、人気のいない公園の前で自転車を止める。
ちょうど建物の影になり、光が当たらない公園。薄暗い公園。
その雰囲気からか、あまり人がここで遊んでいるところを見たことがない。
そして、そこのブランコに、こんな公園のブランコに座っている一人の人影。
一人誰にも気付かれずに、目を拭っている一人の少女。
それを見ると、ふと胸が痛くなる感覚が襲う。胸に釘を刺したような、心の痛み。
「千尋のこと、言えないよな。本当に」
軽く笑い、オレは公園の中に足を踏み入れた。





このとき、オレが何も見ずにそのまま病院に行っていれば、
何も変わることのない、平和な日々を送れていたのかもしれない。

だが、この頃のオレが、そんなことを思うはずもない。
日常と、非日常。その境界線は、今思えばここが境界線だった。

ここから始まった。オレの非日常。
絶え間なく廻るセカイの中の、ほんの小さな出来事から――――。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー