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グラウンド・ゼロ 第2話

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匿名ユーザー

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ゲームセンターを出た頃には、外は暗くなりかけていた。
 空の太陽の明るさは絞られ、代わりに地上の街灯がポツポツと点きはじめてい
る。
 通勤帰りの人々で人通りも昼間に比べて多くなり始めた駅前広場を二人は歩い
ていた。
「やーしかしお前ってシューティングも上手いんだなー。」
 シンヤが言った。
 結局、今日はグラウンド・ゼロは最初のシンヤの一回しかプレイすることが出
来なかった。
 別に珍しいことでもない。あのゲームの人気、というか中毒性はかなりのもの
で、噂ではグラウンド・ゼロをプレイするためだけにコロニー・ジャパン以外の
コロニーからやってくるプレイヤーも居るそうだ。
 そんな訳で二人はあの後ずっと、近くに設置されている怪物を銃で撃つタイプ
のオーソドックスなガンシューティングゲームに興じていたのだが、そこでもリ
ョウゴはゲーマーっぷりを発揮して、本来2人プレイ用の二挺の拳銃を両手にそ
れぞれ持ってプレイし、しかもノーコンテニュークリアをやってのけたのだった

「後ろにギャラリー出来てたもんな。」
「んな大したことないって。敵の位置を覚えて、頭狙えば誰でも出来るよ。」
「ハイ先生、両手プレイで敵の位置も覚えてますがクリアできませーん。」
 片手を上げながら、大げさな調子で言う。
 リョウゴは眉間に皺を寄せ、長い髭を撫でるジェスチャーをしつつ「では、キ
チンと復習しておきたまえ」と、偉そうな口調で返した。
 軽く笑って、足を止める。
 人の流れの向こうにこの駅の改札が見えた。
「んじゃ、帰るわ。」
「おう、お疲れ。また明日な。」
 爪先を改札に向け、リョウゴと別れた。
 モノレールに乗り、二駅十分。
 いつもの通りイヤホンを耳にしていたらあっという間だった。
 近くの駐輪場で自転車を回収。しばらく走ると、自宅が見えた。
 地下の、広大とはいえ限られた空間を有効利用するための集合住宅。どこか蚕
の繭棚を連想させる巨大な建造物の一角にクロミネ家はあった。
 照明の意味がほとんど無い、狭く暗い階段を上る。錆びかけた扉に手をかけた

「ただいまー。」
 部屋の中へ向かって呼びかけると、「おかえりー」と返事がかえってきた。
 靴を脱いでリビングへ。

 そこではすでに父と母が食卓を囲んでいた。
「お、しょうが焼き?」
「まずは手ぇ洗ってきなさい。」
 テーブルを覗きこむシンヤを母が制す。
 シンヤは自分の部屋に荷物を投げ込み、洗面所で手を軽く水で濡らしてからリ
ビングへ戻った。
 卓につくと、甘辛い匂いが鼻をくすぐった。
「いただきまっす」
 箸をとり、テーブル中央の大皿からしょうが焼きと千切りのキャベツを皿に移
していく。
 口に運ぼうとすると、父がまず言葉を発した。
「学校の方は、どうだ。」
 輝く程白く、柔らかいご飯と一緒に豚肉を飲み込む。
「別に。特に変わったことは無いよ。」
 そう返すと父は何か言いたげな目でこちらを見返した。
 母が笑う。
「お父さんはアンタと何か話したくて仕方ないのよ。」
「そっか、そういや一緒にご飯食べるのも久々だね。」
「ああ。」
 父は頷く。
 シンヤは箸を口にくわえたまま、自分と父の間にこれっぽっちも共通の話題が
無いことに驚いていた。
 悩んだ挙げ句、テレビのリモコンに手を伸ばす。
 チャンネルを回していくと、父の「ニュースにしてくれ」という要望が聞こえ
たので、そうした。
『……では次のニュースです。』
 テレビではニュースキャスターが原稿を読み上げている。
『……所謂“税金のムダ”を無くすため、特別監査委員会が本日発足しました…
…』
「またか」
 口をついて出た。
「いつでも問題になるのはこういったことだよな」
「そんなものだよ。」
 父が味噌汁を啜る。
「政治は少し汚れているほうが上手く回るもんさ。」
「それは公務員としての経験から?」
「俺たちの給料に影響がなけりゃお偉いさん方が何をやってても構わないんだが
ね。」
「ヒュー父さんカッコいいー」
「そうだろうそうだろう。」
「何やってんのアンタたち」 母の目はどうしようもないものを見る目だった。
 父と二人で苦笑しつつ、豚肉をさらに一枚食いちぎって口の中に納める。
 しっかり染み込んだ甘辛いタレが噛むほどに肉の内側から滲む。
 暖かいご飯が何杯あっても足りやしない。自分の胃袋の容量の小ささが恨めし
い。胃の中の水分たっぷりのキャベツが占めるスペースを割いてやりたい。
「ん、美味い。」
「そう、どんどん食べな。アンタ細いんだから、その分人より多く食わなきゃ。

「うるさいな。そこまで細くねーよ。」
 母を見る。

 彼女はわざとらしくため息をついていた。
「アンタも産まれた頃は丸っこくて可愛かったのに……」
「なんだよ。」
「今じゃこんなに生意気になっちゃって。」
「ヘイヘイ悪うござんしたね。」
 麦茶で飯を流し込む。
 ニュースはいつの間にかバラエティー番組に変わっていた。
『……来週末の四連休!テレビの前の皆さんはどう過ごされるおつもりですか…
…』
「ああ、そうだ。来週は四連休があったな。」
 父が思い出したように口にする。
 母もシンヤも、居間の壁のカレンダーを見た。
「そういやそうだね。」
「折角だ。皆でどこか行こうか。」
「どこかって?」
「この前、美味いステーキ屋を教えてもらったんだ。」
「旅行とかじゃないのかよ。」
「そんな金がウチにあるわけないだろう。」
「でもいいじゃない。」
 母が口を挟む。
「皆で外食っていうのも久しぶりだし、私は行きたいなぁ」
「じゃあ決まりだな。」
「オーケー。」
 シンヤは空の椀を置き、口元をぬぐった。
「来週は家族でメシな。」



 風呂に入り、寝間着に着替え終え、ベッドに寝転がり漫画雑誌を読んでいたシ
ンヤはある考えが閃き飛び起きてパソコンのスイッチを入れた。
 立ち上がるとすぐにカーソルを動かし、インターネットに接続する。
 検索窓に言葉を入力して、目的のページを開いた。
 そこは『グラウンド・ゼロ』の公式ページだった。激しい戦闘の末大破したら
しいロボットが背景には描かれている。
 シンヤはクリックを繰り返し、全プレイヤーの成績リストを開いた。
 ICカード登録時に成績開示に同意してれば、ここで別のプレイヤーの成績を
見ることができる上、上位クラスの人間同士の対戦の映像も見ることができる。
 シンヤはここで今日の夕方戦った『テスター』を探していた。
 Aクラス頭文字『て』の条件で一覧を作るが、彼(彼女?)の名前は見つからな
い。成績開示はしていないのだろうか。
 仕方なしにAクラス全体の一覧まで戻る。
 ふとリョウゴの成績が気になって、『メテオ』を探した。
 彼は登録されていた。ページを開く。
 『メテオ』は現在Aクラス。通算成績84勝70敗。通信対戦での勝率66%
……
 『基本は重量型の機体だが、実はさまざまな武装を使いこなす技巧派プレイヤ
ー。状況に応じて柔軟に対応するので、生半可な腕前で挑むと訳のわからない内
に真っ二つにされてしまうだろう。』

 ……この紹介文は誰が書いたのだろうか。リョウゴ自身?まさかね。
 対戦映像もいくつか公開されているようだ。
 ……そういえば、リョウゴのカードで『テスター』と戦った時は映像を保存す
るか訊かれなかった……
 ……嫌な胸騒ぎがする。
 適当な映像を再生してみると、リョウゴが同じAクラスの人と戦っている様子
が流れた。
 相手の銃弾を胸の厚い装甲で受け止めつつ、ややごり押し気味だが右腕の剣で
ズバッと両断。紹介文の通り、か?
 ページを閉じ、パソコンも閉じる。
 ベッドの上の漫画雑誌を拾った。
 漫画の四角い世界の中ではシンヤの不安も知らずに、剣を構えた主人公が悪役
相手に正義を語っている。
 見てたら何だか急に馬鹿らしくなって、シンヤはもう眠ることにした。



 朝食を終え、学校へ行くための準備を整えて玄関へ。
 内容も覚えていないような会話を二三、母として、最後に「いってきます」と
言って家を出た。
 あくびをしながら窮屈な階段を降り、外へ。
 朝独特の気だるいような空気を肺に満たして歩きだす。
 駐輪場の近くで、ポケットの中から鍵を取り出す。
 後は鍵を開けて自転車で駅に向かうだけだった。
 だが自転車を固定具から外そうとして、シンヤはそれに気付いた。
 ハンドルを握る手の甲に何か赤い点がついている。
 いや、それはついているのではなく、スゥと動いてシンヤの腕を上ってくる。
 その赤い点の正体が分かった時には、それは左肩に合わされていた。
 次の瞬間、肩に衝撃。
 自転車が手を離れて、自身の体と共にアスファルトに倒れた。
 混乱に支配された頭をなんとか動かして、肩を見る。
 数センチの円筒形をしたプラスチックのようなものが突き刺さっていた。
 まだ衝撃で痺れてるせいか痛みは無いが、その代わり左腕が全く動かせない。
というか、左半身が動かない。
 声を出そうとする。パクパクと間抜けな音が口腔内に反響した。
 頬に感じるアスファルトは意外に暖かい。
 そこに押し付けられた耳が足音を聞いた。
 高く硬質なこれは革靴の音だ。誰でもいい、助けてくれ。
 無理矢理首を動かし、そっちを見る。
 黒いスーツを着た女性が見えた。
 こちらに近づいてくる。
 くそ、瞼が妙に重い。眠い――

 女性がシンヤのそばに立った頃には、シンヤは既に意識を失っていた。



 女性は足下の少年を見下ろしながら、小型インカムに何やら話しかける。
 すると今朝早くから近くの道路に停めてあったトラックのコンテナの扉が開い
て、数人の作業服の男たちが下りてきた。
 彼らは素早く女性の元へ行き、シンヤの体と自転車を抱えてトラックに運ぶ。
 最後に近くに隠れていた狙撃銃の射手が乗ると、コンテナは閉じられ、トラッ
クは発車した。
 一人駐輪場に残された女性はインカムの通信先を切り替える。
「――任務完了。これより戻ります。」
 そう言った。
 それから偶々自転車をとりにきた近所の男性と笑顔で挨拶を交わし、心地好い
靴音と共に黒の長髪を風になびかせて去っていった。



「キムラ」
「はーい。」
「クロキ」
「ハイっす。」
「クロミネ。」
 教師がもう一度名前を呼んでも返事は無い。
 シンヤ・クロミネの席は空席のままだった。
「なんだ、欠席か。えーと……コイズミ」
 リョウゴは横目で少し離れたところのクロミネの席を見る。
 ポケットから携帯電話を取り出して、メールを送ろうとした時だった。
 校内放送が流れる。
「二年A組のタドコロ先生、タドコロ先生、至急、職員室までお越しください」
 放送を聞いたタドコロは出席簿の読み上げをクラス委員に任せ、教室を出てい
った。
 途端に騒がしくなる教室。
 リョウゴも隣の男子に絡まれたが、適当に流してシンヤへのメールを打ち続け
た。

シンヤ・クロミネが交通事故で死んだという報せがリョウゴの耳に入ったのは
、さらに翌日になってからのことだった。

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