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そんな夜 前編

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匿名ユーザー

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 初冬とは言うもののそれも終わる頃、寒い毎日が続いている。
 夏は相当な暑さであったが、それに続くラニーニャ現象なるものの仕業によってそのまま暖冬とはいかないようである。

「おほっあたたかひ」
 そんな時節の折、かかせないのが暖房器具。
 夏の件に加えて補助金うんぬん、世間ではエアコンが馬鹿売れらしいが、こちらも捨てがたい。
 こたつ。
 熱を、ひいては人をも捕らえて逃さない魔性のアイテムである。
 ここに居る男も然り。猫背がカーペットの上を滑り、みるみるうちに身体の7割が飲み込まれていった。

「ドクター、その姿勢絶対寝ますよ」
 ずびずびと音を立て茶をすするのはもう一人の捕縛者。
 とはいえその佇まい見るに、男と違い心まで囚われてはいないようである。
「望む所だグッナイベイベー!」
「まだ仕事残してるでしょ、年内に終わりませんよ……あ痛!」
「ヴィーンゴールヴよ戦士に一時の安息を!」
 全身シュート・イン。

「……リアルにいっぺん死んでください」
 狭い領域を支配せんとする行為にしびれを切らし正座を解除、もう一人両足蹴りで押し返す。
「ぬう負けるものか、いや負けんよ!」
 はっけよい。布団の中視界の外、今文字通りの熱い戦いが――
「あんたは既に自分に負けてるでしょうが」
――繰り広げられることもなく瞬殺。決まり手押し出し。

「嫌だ、私はコタツと合体するんだ! いやむしろ私がコタツにな……いだだだだ、やめて縮む!
 ただでさえ身長低いのに!」
 仰向けに倒れる敗者をさらに押し出し、頭頂部が壁に押し込まれていく。
 メリメリと音を立てているのは頭蓋ではないと信じたい。

「諦めて仕事してください」
「ちゃんとやるよぉ。だからせめて三十分、昨日借りたDVD一話だけ見させて! 一生のお願い!」
 フットアタック、略してファックから開放された男――ドクターと呼ばれた側が腹筋の力だけで起きようとして、
 やっぱり諦め普通に体を起こす。

「一生のお願いってこの前使いましたよね。だったらやはり一度死んでもらうしか」
「そんなリアル殺生な」
「……冗談です、三十分だけですよ。私だって鬼ではありませんからね。むしろツンデレだと自負しています」
「えぇー……それは……えぇー……まあいいや、とにかく見よ見よ」

 そそくさとセッティングを行い、こたつに避難。
 リモコンを押せば、ブラウン管に起動画面が映る。
 読み込みを待ちながら手先を暖めるついでで転がすのはみかんだ。
 すじが取れるだか甘くなるだか。
 コタツ、ミカン、テレビ。 冬の最強コンボが今ここに完成した。

"デン! デケデケデーン ジャージャジャジャ……"

 機器の問題なのか音が割れ気味であるものの、自動再生によってボロ部屋に壮大なサウンドが響く。
 いい年したおっさんが釘付けになっているのは往年の特撮もの。
 しかしなんだかんだでもう一人もがっつり見ている。


 そして時間は過ぎ去り。
「タイムリミットはち~か~い~♪ ……いやあカッコいいな、私もあんな正義のロボットを作りたいものだ」
「そんなん作ったらドクターが真っ先にやっつけられますよ。怠惰は罪に数えられていますからね」
「君の高慢ちきのほうがよっぽど罪だよ!」
「はいはい、じゃあ一緒に断罪されてあげますから作業に戻って――」

 ピンポンと鳴るチャイム。

「おやこんな時間に珍しいな、誰だろう」
 見上げる時計はおおよそで二十二時を指す。

「きっとJASRACですね、さっき歌ったから」
「ジィザス! そんな都市伝説じゃ」
「かのNHKかもしれませんね。どうせなんで見てきます」
 言い終わらないうちにすっくと立ち上がる。

「むう、あの真弓君が自ら行動を起こすとは何事」
「いいからその間に少しでも進めろ」
 冷えきった板張り、玄関へ続く通路から扉一枚を隔てて、即座に返しがやってきた。


「遅いなー真弓君」
 それから一時のこと、先のDVD鑑賞に比べれば僅かな経過であるはずだが、男の心持ち違えばその体感も然り。
 パソコンのキー叩く手を休めひとりごちる。
 意図的だろう相手にも聞こえるぐらいの声なので、独り言とは言えないか。

「はうあっ! 考えないようにしてたけど本日ってばクリスマスじゃない!」
 ポインタが時刻の上にロールオンされたことで表示される日付を見て。

「まさか恋人がやってきてそのまま二人で街に……いや、そんな馬鹿なことはあるか
 逆に私へのサプライズプレゼントが届いたとかで準備してるに違いない!」
……やはりただの迷惑な独り言のようである。

 そんな折にドン。
 扉に衝撃、驚いたドクター座ったままに少し飛び上がる。
 それから続けてドンのドン。
「あ、それ引くドアです」
 先の声、真弓のそれが聞こえた直後に慌ただしく荒々しく扉が開いた。
 後々聞くと蹴破ろうとしたが無理だったらしい。

 で、部屋に入ってきたのは真弓。

――とその腕を掴む謎の人物。
 NOT 恋人。ニット帽・サングラス・マスク、そして反対の手には刃物がキラリ。
 このテンプレ的条件に一致する訪問者はあれしかない。

「金目のものを出せ! 今すぐにだ!!」


「ドクター、私動けませんのでどうにかしてください」
 傍から見れば至って冷静そのものだが。
「どうしよう、私も怖いのとこたつが気持ちよすぎるのとで動けない」
 こちらもこちら、Wマイペース。

「……掘るぞ」
「ひええ! 嘘です全然動けます!」
 言葉と視線のナイフに刺され、ポンと黒ひげのように飛び出すドクター。

「コラ勝手に動くな!」
「ひええ! 動きません、ゴッドマーズのように直立不動です!」
 既に置いてけぼりを食らいつつある侵入者、刃ちらつかせ一喝。

「ほらドクター、ここは強盗さんに大人しく従ってそこの財布とか書類とか、あれとかそれとか渡しちゃいなさい。」
「全部ピンポイントに私のじゃないか!」

 いらいら。

「私は悪に渡す金など一銭も持たぬ」
「捕まってるの君でしょー!?」

 いらいら。

「そもそもドクターがバイト代払う払う言って先延ばしにするからこうなるんですよ。
 家賃立替でお正月までスッカラカンなんですから」
「ええー私の所為なのー」
「とりあえず誠意を見せれば帰ってくれますからどうに頑張ってください。ハッピーターンでも段ボールで渡せば満足しますよ」

 ぷっつん。
「するかボケェ!! お前らわかってんのか! 強盗だぞ、強盗!」

「Is that pen?(あれはペンですか?)」
「No, it is robber.(いいえ、強盗です)」
「人の話を聞けえええ!! なんなんだお前ら!」

「見ての通りの」「ものですが」
「いや、全然意味分からないから!……しかも何ちょっと決めポーズとってんだ」

 冷静さを失ってしまったら最後、完全に二人のペース。
 それにしても気持ち悪いぐらいに息ぴったりである。

「ふふふ、知らないのかね。私こそ稀代の天才科学者、ドクター目多桐」
 八重歯きらり(黄色い)。
「そして私がドクターの美しき助手、真弓」
 髪ふぁさり(する程長くもない)。

 そして謎のカメラ目線。ただしジャージと半纏のためオサレ指数は0である。

「……へえ、じゃ研究成果のデータとか特殊な機材とかそれなりに値が付くようなものも持ってたりする訳だ」
 こいつらぶん殴ってやろうかと滾る感情を抑え、勝手に動く人質を取り押さえ直す。

「ぎ、ぎくーっ」
「ほらドクターが余計な事言うから」
「君もノってたじゃないか」
「サービスカットです」「誰への!?」

「いいから黙って出せよぉ! こっちはもう形振り構ってられないんだ、本当にやっちまうかもしれないぞ!!」
 これだけ目の前でやられて、手を出してないあんたはむしろ偉い。

「そうは言っても今あるもの掻き集めても大したお金にならないよ」
「あれ造った直後ですからね。ドクターの研究成果なんてせいぜい千二百円ぐらいでしょう」
「なんで君の時給と同等なんだよ!」

 この科学者、助手よりやたら立場が弱いというか、なんというか。
「あんた達の都合はどうでもいい。もう引き返せないんだ、有り金は全部出してもらうぞ!」
 そう放つ強盗、二人はおろか本人さえ気付いていないが、ナイフを持つ手は微かに震えていた。

「そんな、ただでさえピンチなのに……そうだ、この権利書をお譲りしますからこれで勘弁を」
「ローンの請求書じゃねえかドアホウ!」
 ここまで来て一向に金品を渡す素振りを見せない二人も、変に肝が据わっている。
 いや、危機感がないだけなのか。
 一蹴された請求書の束には危機感に満ち溢れた数値が記されているが。

「万事休す。こうなったら私の色仕掛けで突破するほかないですね」
「されねえよ!」即座にツッコミ。

「そんな……この私の魅力が通用しないというのか……」
「なんで逆に通用すると思ったんだよ! 俺はゲイじゃないよ、極めてノーマルだよ!」
「でもほら、私女顔じゃないですか。しかも結構美形」
 振り返りからの流し目。ドクター自分で言うかといった表情。

「うん……まあどちらかと言えば……で?」
「いや、近年の男の娘ブームとかもありますしノーマル相手でもうっかり気付かないとかでワンチャンあるかなと」
「ねえよ! なんだよ男の子って意味わかんねえし!」
「まあ娘って年でもないしねえ」
「だいたいそんな野太い声じゃ万が一ににも間違えないから!!」
「特技は伊武雅刀の声帯模写です」
「今やるな、いい声をやめろ!」
「ほ、ほめられたって嬉しくないんだからね///」
「だからやめろォー!!」

 それ以前に人格の是非のほうが重要ではなかろうか。

「頼むから渡してくれよ……俺だってこんな事本当はしたくない、けどどうしても金が必要なんだ……」
「強盗さん……」
 サングラスをうち捨て目を擦りながらに訴える。あーあ、泣かした。

「娘が……いるんだ。けど……あいつ身体が弱くってよ、それで……難しい病気になっちまって……」
「それで手じゅちゅ、手じゅち、手じ、……手ずつのお金が必要なんですね」
 ドクター諦めた。
「ああ。他に家族もいなくってよ、それなのに俺……仕事に構いっきりで……
 金があれば直ぐにでもできるってのに、このままじゃ年を越すのも難しいって――

――ってなに話の最中にミカン貪ってんだてめえ!!」
「ち、違うよ。これはおたふく風邪だよ」
「きィ!! とさかに来た、もう許さん!」
「あ、そこ気をつけないと」

 勢い付けて飛び掛る強盗、制止しようとする助手、頬にミカン一つ丸ごとを詰め込んだドクター。
 まとめてガシャン。
 大きな音がしたところで天地反転、それからシミだらけの天井を見送りつつ。

「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…………」

 暗がりの中へ滑り落ちていく。
 滑って滑って、最後にお尻から光を感じたかと思えば、1・2・3。
 順番に激突していく。ダイブ・イン・ザ・ダスト。

「ぐおお、なんだこりゃあ!!」
 げほとセキ払いホコリ払い、山からはじめ頭出すのは強盗。
 となりで突き刺さって尻を出すのはドクター。

「まったくSuper dust chuteを起動させるとはどういう了見ですか」
 最後に真弓が頭を出し、無駄にいい発音で事の原因の名を口にする。

「どうしてこんなボロい一軒屋にダストシュートが必要なんだ……」
「もがもがもーがもが、もがもががもが(サンダーバードみたいでカッコいいだろう)」

 ドクターを無視し見渡すと、その考えも変わる。広がる空間は、体育館クラスの面積を持つ。
 外観からはまったく想像できない程の空間、しかし落ちたからには正しくそのボロ家の地下である。
 果たして何故このようなスペースが必要なのか。
 その答えも目前にあった。

 天井よりの照明を受けきらめく金属。
 五メートルを超える装甲板の塊とでもいうべき巨体、支える二本脚が全長をさらに高める。
「ロボット……」

 強盗のポカンと開いた口、いつの間にかマスクは外れている。
 驚嘆。だがその意匠。

「どうだ圧巻だろう私の開発した――」ゴミをひっつけながら得意気にドクター歩み寄る。
「――半二足歩行式装甲車、"NITEL GEAR"は」
「すっごいなんかに似てるーーー!!!」

 声、凄くよく響きます。





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