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「ヒューマン・バトロイド」 第5話 前編

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多目的艦スタークは中国を抜けた。
しかし、それは安全圏に抜けたわけではない。
通った航路はヒマラヤ山脈の南側、つまりロシアとは真逆の道を通っている。
理由は一つ、攻撃が激しすぎた。
四聖獣部隊の移動拠点を制圧して物資を手に入れた所まではよかったのだが、今度はその四聖獣部隊が三個大隊を引き連れて襲ってきた。
北側から攻撃を受けて、スタークは逃げるようにヒマラヤ山脈の南側を通って中東へと進んでいった。
ちなみに、四聖獣部隊は結局一度も名乗れないままリクに負け続けた。
中東、第三次世界大戦前まではゲリラ戦が盛んな地域だったそこも戦争の影響で、今では武器の揃った過激派が巣くっている無法地帯になって
いる。
そんな無法地帯を堂々と通る訳にいかないスタークは海上に出てベンガル海、アラビア海を経由して進んでいた。
その間は戦闘も無く、そして物資もあまり無く、そこそこに平和に航行出来ていた。その指令が入るまでは。


「くそ!なんでこんな指令を出すんでしょうね、上は!」
珍しくハーミストは艦長室で苛立ちを見せていた。
特殊な回線を通じてスタークに告げられた指令。明らかにスタークの全員を遠まわしに殺そうとしているとしか思えない。
「カルラ君、パイロットを全員ミーティングルームに集めてください。それとブリッジクルーに忠告、死機使い(ネクロマンサー)の縄張りに
突っ込みますよ」
[上からの指令ですよね?まさか、そこまでやらされるとは……]
ハーミストはカルラの言葉に少しだけ顔を歪めた。
「すみません、私にもっと権力があれば……」
[権力に頼るのは貴方の嫌いな事でしょう?」
「ですが……クルーを身の危険にさらす事になってしまいました……それは……」
[いいんですよ]
カルラはハーミストに言い聞かせるように言った。
それはカルラ自身の心からの意見だった。
[皆、今の貴方を信頼してるんです。今の貴方だから慕って、ここにいるんです。少なくとも自分はそうです]
迷いなく紡がれる言葉に、ハーミストは何も言えなくなる。
[自分は前大戦の時、貴方がエースとして人々を守っていた時、その時の貴方を見て憧れたんです。自分にもこんな風に人を守る力が欲しいと。
だから自分は貴方の側近になれるくらいに努力して、努力してここまで来たんです。それなのに、ここで貴方に変わられたら自分の努力まで否
定されてしまいます。貴方の信念は、皆にとっての希望の旗なんです。だから、変わらないでください]
「……ありがとう、君は本当に私を助けてくれますね」
ハーミストは自分が戦いに巻き込まれた頃からの仲間であり、親友の言葉に自分に喝を入れる。
[そんな事はありませんよ。僕の方が貴方に助けられています。貴方の後ろで戦っていたから今を生きていられている]
カルラもハーミストに対する態度を少しだけ昔と同じに戻す。
「今から、四十分後にミーティングを始めます。私も少し準備をしてきますから遅れたら先に状況だけ説明していてください」
ハーミストは必要な情報をいくつかカルラに伝えるとどこかへと足を進めた。
今回の作戦には、また自分の力が必要になるかも知れない。
仲間を守るために。その思いを胸に、凍結の解除を行う為に、もう一人の「戦友」と会う為に。


シュミレーターの中ではリクが戦闘訓練を行っている。
戦いを拒んでいた、消極的だったリクが戦闘に前向きになっているのは喜ぶべき事なのか、リリにはわからない。
なぜ、彼に惹かれるのか。
見た目は普通だ。特徴と言える特徴は結構な童顔な事。自分より年下じゃないかとも思える。
さらに言えば目つきが悪い。本人は物腰が低くて丁寧だが、その目は全くそんなそぶりを見せない。
常に睨んでいて、正直怖い。中身とかみ合っていないから余計に恐ろしさを感じるのだと思う。
リリが彼に惹かれた時、リクが復讐について語った時。
その中身の一端を見た気がした。ここには無い何かを見つめて、そしてそれ以外の物は全く興味がないという様な雰囲気。
二日酔いの時はさらに強く感じたその雰囲気に、なぜかリリは惹かれた。
もし、彼の見つめる先にあれたら。自分だけを見てくれるのだろうか?自分の本質を見てくれるのだろうか?
ふと、そんな事を考えついて顔が赤くなる。
だがリクが見つめている物はただ一つ、復讐だ。リリはリクが心配でしょうがない。
リクが復讐を失ってしまった時に、リクはリクでいられるのか。
実は既に酔っぱらっている時にリクに言っているのだが誰も(本人ですら)知らないので、リリは自分の中にどうしてもたまるモヤモヤ感に悩
まされている。
リクがもし、復讐を失った時に隣にいて彼を支える存在になれたら……
「リリちゃん?なぜそんなに表情をぐるぐるさせてんの?」
「のわぁ!?」
突然ゴースに話しかけられた。
「んでもって、どうしてリリちゃんは動いてもいないシュミレーターの前で座ってんの?」
「あれ?リクは?」
「リクならとっくにミーティングルームだぜ?そこまで何を考えて――あ、なるほど、リクの事ぐぁぁぁ!?」
途中で意地の悪い笑みを浮かべ始めたゴースを殴り飛ばすリリ。
「いでぇ…まじでいでぇ……てかリリちゃん、やり過ぎだろ・・・…」
「う、うっせぇ!オレをからかうのがいけないんだ!」
「なるほど、つまりは本当にリクの事を……すいませんでした」
ナチュラルに土下座に移行するゴースに溜息と共に拳を降ろすリリ。
「しかし、リリちゃん。真剣に言うけどもっとアピールしないと駄目だぜ?あれは鈍感ってやつだ。まさかあそこまでの鈍感男がこの世に実在
したとはな……」
「うぅ…これでも、色々やってるつもりなんだけどな……」
顔を真っ赤にしながらリリは普段とは全く違う、恋する乙女のしぐさでそう言った。
実際、リリは色々アプローチしている。
タイミングを合わせて食事を二人っきりでとってみたり、実は得意な料理を振舞ってみたり、休憩の時はリクの訓練を見てアドバイスをしてみ
たり。
そのたびにこの乙女モード(命名ゴース)になるリリに全く戸惑いも見せないリクは、乙女モードを見て急激に増えたリリファンを敵に回して
いる。
もともとリリは人気が高い。
さばさばとした性格とは真逆の小さい身長(148cm、ゴース調べ)に長い髪をポニーテールに纏めていて、さらに身長に比例するように小
さい胸も一部ではポイントが高い。
何よりも一番の人気の理由は無垢な笑顔で、それに胸を撃ち抜かれる男は少なくない。
そこに、最近加わった乙女モードが更なる人気をかき立てた。
なぜリクがなびかないのかが不思議で仕方がない。
「しっかし、リリちゃんがリクに惚れてるのはばればれだが」
「うそだろ!?ばればれなのか!?」
「肝心のリクの気持ちがわからんと来たらな……」
ゴースは情報通である。
艦内の情報に収まらず、連邦の内部事情と裏事情。高官の賄賂や隠し財産などの黒い話から、食堂のおばちゃんの話す噂話レベルまで、全て網
羅している。
そのせいで上司に嫌われて厄介払いされたのだが……
そんなゴースの情報網に全く引っかからない。
「なあ、リクの好みとかそういうホントに小さい話、いや噂でもいい。何か無いのか?」
「と言われてもな…リクについて、パイロット判定が最近AA+からAAA-になったとか?」
「役に立ちそうな奴だ!」
「リリちゃんの胸がAAAから変化がないとぐぁ!?」
「リクの!だ!」
ぼこぼこにされて十数分気を失っていたゴースは目を覚ましてすぐに土下座をして許しを請うと、すぐにリクの情報を思い出していた。
しかしリクの情報で役に立ちそうなものは本当に無い。
最近のリク関連の話題は、
  • 日系が入ってる。
  • 娯楽にあまり興味がない。
  • 戦闘以外だと表情が少ない気がする。
  • リク×リキとリキ×リクはどっちがありか?
……最後の何だ?
「とりあえずリク×リキかリキ×リクの議論はラウルを二人で攻める形で、らしい」
「何の話だよ!?」
「冗談はさておき、次のチャンスは意外とすぐにやってくると思うぞ?」
「へ?すぐに?」
ゴースはそのチャンスをリリに告げる。
この小さな乙女のキューピット役は、意外といい―――暇つぶしになる。


ミーティングルームではハーミスト不在でミーティングが始まっていた。
「今回の任務ですが……まずい事になります」
ウィンスが少し納得したように頷く。他の第一小隊のメンバーも同様に納得する。
「なにがまずくなるんですか?」
リクはカルラに聞いた。その質問にカルラは資料をスクリーンに映して答えた。
「これは…被害報告書か?…こんなに!?」
被害報告書にはかなりの被害額と人的資源の損失が記されていた。
リキの驚きにウィンスが述べた。
「君達も世界の七不思議ぐらいは聞いたことあるだろう?」
「え、ええ。まぁ」
「そのほとんどはよくわかっていない。つまり何も起こらないからわからない、知的好奇心を刺激する様なものだ」
ピラミッド、ストーンヘンジ、ナスカの地上絵。
全ては用途不明。つまり何も無いからこそ不思議だと言われている。
「だが、その一方で被害が多い不可思議さもある」
例えば、バミューダトライアングル。
バミューダ諸島周辺の海域の怪奇現象。中に入り込んだ船や航空機は原因不明の事故に合う。
しかし、現在では既に原因は突き止められている。
何の事はない、アメリカ軍が大量の電子機器を不法投棄していただけだったのだ。
その電子機器の残骸から発生した電磁波が大量に集まって、大きな電磁波領域を作り出した結果、レーダーが誤作動を起こして事故が起こる。
怪奇現象でもなんでもない、ただの迷惑な話だ。
「その被害の多い不可思議さの中で、これから向かうネフド砂漠は原因不明の物だ」
「そんな事、聞いたことありませんけど?」
ネフド砂漠、アラビア半島の大部分を占める広大な砂漠。
そこにそんな怪奇現象が起こるなんて聞いたこと無い。
「軍事機密だからな、軍が死霊にやられたなんて言ったらお笑い草だろう?隠ぺいされていたんだよ」
「し、死霊?」
「死機使い(ネクロマンサー)、その現象の名前です。謎のHBの大隊が攻めてくる。その大隊は仲間の死どころか自分の死すらも恐れない。死
んでいるんじゃないかという思いを抱かせるほどに恐ろしい光景らしいですよ?」
カルラが冗談めいた口調で言ったが、リキは少し震えている。
「ん?リキ、震えてるな?」
「き、気のせいだろ?俺が幽霊が怖い訳―――」
「わっ!!!」
「うのぅわぁぁ!!?」
予想以上のビビりっぷりにリクは満足そうにミーティングに戻る。
「今回の任務はその死機使いの詳細を調査する事。上から押し付けられた無理難題の内の一つですよ」
「一つ?他にもあるんですか?」
「もう一つだけ、真っ直ぐにアメリカ大陸ののパナマ基地まで戻ってこいとの指令です」
「それは本当か?」
ウィンスがカルラに問いかけた時、ドアの開く音がしてハーミストが入ってきた。
「ええ、本当です。上の連中は今すぐにパナマに戻ってこいと」
「それって……いくらなんでも遠すぎる!正気とは思えない!!」
リクは思わず声をあげた。連邦はこの艦のクルーを何とも思っていないのだろうか?
「残念ながら。この艦は厄介払いされた人員で構成されていると言っても過言ではありませんから」
「厄介払いだって?そんなの……」
否定しようと思ったが、よく考えたらこの艦のクルーは全て一癖も二癖もあるかなりの厄介な人たちである為、納得できてしまう。
「……」
「リク君がその事に怒ってくれるのはありがたいんですけどね、実際そういう人材を集めたのも私ですから」
ハーミストは事も無げに言った。
「さて、上層部への文句は後です。今は目先の問題である死機使いの対策です」
ハーミストが仕切りなおすように手をたたいて言った。
「今回は、ひょっとしたら私も出るかもしれません。皆さん、そこのところの覚悟はお願いします。そのために凍結の解除も行いましたから」
「凍結?そんな事をカスタム機とはいえHBに?」
リキの疑問ももっともだ。そんな事をしなくても乗らなければ問題はない筈だ。
「艦長のHB、金若王はかなり特殊なんです。具体的に言えば動力が」
スクリーンに映されたのは発電所のコア部分の設計図。
「現在主流の太陽光発電に使われているこのコア部分。パワー・アンプ・システムですが、これの小型の物を金若王は積んでいます」
恐ろしい話を聞いてしまった。
パワー・アンプ・システムとは、エネルギーの変換効率を高める事で発電量を引き上げる事を可能とした現在の発電の主流のシステムだ。
今まで無駄になっていた余剰エネルギーを無駄なく発電にまわせる為、発電量は格段に上がる。
しかし、それには重大な欠損がある。
施設の巨大化が余儀なくされるのだ。具体的に言えばシステムのコア部分の保護に巨大な施設が必要となる。
下手をすれば太陽光発電で原子力発電以上の発電を可能とするそのシステムコアが暴走すれば、大惨事になりかねない。
なのでコアには厳重な保護措置が取られて、本来のコアのサイズの十五倍以上の大きさの施設がセットで建設されている。
しかし、金若王の動力にはそのパワー・アンプ・システムが使用されている。
本来のサイズはHBに搭載しても全く邪魔にならないレベルなので設計に無理はない。
だが、安全性は別だ。撃墜された時にとてつもない被害を周りに起こす事になる。それこそ、原爆並みの。
そのためHBには搭載される事は殆どなく、試作機が数機作られて開発打ち切りになっている。
そんな、動く天災がこの艦で凍結処分されていた。まさに厄介払いだ。
「その凍結を解いていたので今遅くなったんですよ」
全くのいつも通りのハーミストに、リクは顔をこわばらせずにはいられなかった。
(やっぱり、この人には勝てそうにない……)
ついこの間も思った事をリクは再び思いだした。


『上方への方向転換、進行方向から七十八度です』
「はっ!」
AI、イザナギからの指示でその機体は寸分の狂いも無く、その角度を曲がった。
場所は変わって紅海。一機の黒い新型HBが従来のHBの次元を超える挙動で試験運転を行っていた。
その機体のパイロットの名はミキ・レンストルだ。
ミキは正直この性能を体験して、精神の高揚を抑える事が出来ない。
一瞬で最高速度に達するスピードとそれを続けられる持続力。
そんな中でも殆ど体にGはかからない。
「これが、これなら!」
訓練プログラムに無い鋭角な蛇行飛行を行った。
速度を緩めないでも可能なその挙動にさらに精神がハイになる。
[ミキ、どうだ?大丈夫か?]
「ええ、義兄さん!凄いですよ、この機体!」
まるで、子供のようにはしゃぐミキに心配そうに声をかけるギルバート。
新型の機体の姿と、とてつもないはしゃぎようのミキを見て嫌な予感を捨てきれない。
「いける……いける、この機体なら勝てる!!」
あの、自分に初の敗北を味あわせた男。そして彼の乗っていた機体にも。
[気にいっていただけたようで何よりです。今回はその機体に加えて、あの敵側の新型の情報もお教えしますよ]
そう声をかけてきたのはJTCの技術者だ。確か名前をキセノ・アサギと言った筈だ。
「なぜ貴方が新型の情報を?…と、聞くまでも無いですよね」
[ご察しの通り、あの機体は元々我々の作った機体です。それが結果的に強奪されて今の状態になっています]
キセノの語りには楽しげな雰囲気が混ざっている。恐らくこの機体が向こうの機体を撃墜するのを楽しみにしているのだろうとミキは思った。
しかし、キセノの考えていた事は既にこの場でも地球でもない、宇宙での計画の事だった。
(そのためには、まずは同盟側を立てないといけない。そうでなければ計画はずれるからね)
そんな考えと共に外面を整えた状態で知識を伝えていく。
[あの機体の粒子、フォトン・グラビティと言うんですが、あの機体が出しているのは実はですね―――]
『作戦領域内に機影を確認、選別コード不明、恐らくこの地域のゲリラかと思われます』
キセノの語りを遮るように、凛とした口調の男性型AIのイザナギの警告が入った。
『現状の装備でも十分殲滅可能かと思われますが?』
[あー……話は後にしましょう、お願いしますよ。ミキ・レンストル大尉]
「了解!」
ミキの駆るHBによる殲滅が行われる。


「さて、買い出しだぁぁ!!」
「なんでそんなにテンション高いんですか?」
出会いがしらにゴースにそう言われた。
「なぜなら!久しぶりにプライベートだからだぁ!!」
「はぁ、お疲れ様です。あと、ゆっくり出来るならしっかり休んだ方がいいですよ?」
「……やめろ、憐みの目で俺を見るな」
ゴースのテンションが高いのは作戦の一環だった。

時間は十分ほどさかのぼる。
「つまり、ここらで一度買い出しが行われると?」
「ほぼ確定情報だぜ。これを有効利用だ」
ゴースがリリに告げた作戦、すなわちリリの恋の成就の為の作戦はこうだ。
まず、この先の街でスタークは買い出しを行う。
大規模な補給ではなくてあくまで買い出しで、日用品と最低限必要な物資を買い集める。
その買い出し班にゴースとリリとリクの三人で向かい、途中でゴースが二人と別行動で物資を買い集めると言う。
つまりその間は二人っきり、擬似的にデートになる。
「と言う訳で、リリちゃんのドキドキ擬似デート大作戦!!、の全貌はこんな感じだ」
思いっきり力を込めて言いきったゴース。テンションはチープなアイドル番組のタイトルコールのようだ。
いつもならくだらないボケにはリリの拳か膝が襲いかかるが、当人は……
「で、でーと……ふふっ、でーとかぁ…」
少しばかりあちらの世界へ意識が跳んで、顔も緩みきっている。
「とりあえず、顔は引き締めようぜ?」

―――そんな事も知らないリクは……
「別にいいですけど……副長に許可をもらってきます」
「ふふふ、既に許可はとってあるのだよ!!」
「なぜそこまで準備万端なんですか?」
「気にするな。さぁ!いくぞ!」
ゴースは走り出して既に声をかけられない。
「一体……何が?」


『敵機殲滅確認。お疲れ様です、マスター』
[ええ、補助ありがとう。イザナギ]
ミキが見せた戦闘は無傷で一つのゲリラ部隊を殲滅した所でひと段落ついた。
「お疲れ様です。どうですか、その機体?」
[凄い動きだ。これなら誰にも負ける気がしない!]
「こちらもいい戦闘データが取れました。ありがとうございます」
キセノは、ミキに礼を述べると通信を切った。
「ミキをまだあの機体に乗せようとしているのか?」
ギルバートの非難めいた質問をキセノは受け流す。
「なにか、ご不満でも?」
「まず、機体の姿だ。なぜこんな形にした?」
「この姿が一番使いやすいのが一番の理由です。それに、貴方達もこの機体の性能はわかっているでしょう?」
キセノの話にいまだに納得できていない様子のギルバート。
「……なら次だ。武装が少ない」
ギルバートの言った言葉はすでに彼等の父親のゴースも言った事だった。
「貴方達も似ていますね。さすが親子」
「言うのは当たり前だと思うが……だってこの武装だぞ?」
ミキの乗る新型に装備されている武装は刀と銃の二つしかない。
銃は自動小銃。粒子を使って加速するタイプの物だ。
さらに、刀の方は少し特殊な形をしている。
切っ先の部分が両刃になっていて、完璧に刺突用に特化した刀になっている
「もちろん武装は増やしますよ、今の状態でも戦闘は可能ですがさすがにこれでは駄目でしょう?」
「しかしだがな……」
『マスター、あちらから通信が来ましたよ』
アマテラスが端末から声をかけてきた。
「失礼します、……どうですか?」
一旦ギルバートから離れて端末の向こう側の人物に声をかける。
[えーえー、無茶ぶりに応える為に大変な苦労してますよー。てか、本当に目つきの悪い東洋人なんているの?]
「いますよ。必ず、このあたりを通る筈ですよ」
リクを自分の手の者に探させる為に伝えたリクの特徴。
目つきの悪い、若い男の東洋人。
キセノは彼の見た目にそれぐらいしか特徴が無いと言いきっていた。
同じ東洋人から見ればそれなりに違いはあるが、言葉に出来るのはそれくらいだった。
[大体、その東洋人が何者かも知らないよ?教えてくれてもいいじゃない]
端末から流れている声は少女の声、しかしその調子は既に思考が子供から大人に移りきっている事が分かるほどにはっきりしていた。
「それを貴女が知る必要はないでしょう?それに、その後にも貴女には仕事があるんですよ?早くしてくださいね」
[ちょっと?それが無茶ぶりって言っ――]
通信を切ってキセノは少しだけ考える。
リクはどの程度変わったのだろうか。運命を受け入れるのか、それとも抗うのか。
「その運命からはどうあがいても逃げられないのにね、リクは気付いていてもどうしようも無いんだろうな」
キセノは空を、その向こうの宇宙を見上げて悲しげな表情をした。


「さて、始まりました!リリちゃんのドキドキ擬似デート大作戦!!(ドンドンパフパフ)」
「この模様は我々のブレイン・チップ越しにスターク全艦に生放送中!音声もリリちゃんにつけたゴースさんの盗聴器(不許可)でお楽しみください」
「そんな我々が誰かというとゴースさんから放送、記録係として任命された二人でお送りします!実況のラウル・グリットです!」
「解説のリキ・ガンツです」
既にゴース・リリ・リキは街に出ている。
その少し後ろの物陰からその様子を覗き見ているのはラウルとリキの二人だ。
この様子を放送する事になった理由は、クルーからの強い希望だった。
[さて、俺は別の所で買ってくるわ。お前らも頼んだぞ]
「さて、いきなりゴースさんが別行動に入るようです。おや?リクに動きが……」
[それなら全員別行動の方が早くないですか?]
「ここで空気読めない発言が出たぁぁぁ!!!どうですか、リキさん!!」
「あのアホめ!女の子と二人っきりを拒むか!?さすが超鈍感男!!」
[いや…それはだな……]
「しかもゴースさんは何も理由を考えていないらしい!!」
「あの人もアホかぁぁぁ!!!」
その時、ゴースに通信が入った。
[ゴース君?何をしているんですか?]
[あ、艦長…]
ゴースは実はハーミストに何も言っていない。いきなりの通信に肝を冷やす。
[ごごご、ごめんなさい!これはですね!これは―――]
[リリちゃんを方向音痴という事にしたらいいじゃないですか!]
「艦長もアホ!?」
「この艦もう駄目じゃないか?」
そんなこんなしているうちにリリとリクは二人きりになっている。
[えっと…僕らも行きますか?]
[ぁ…ああ……い、行こうか、な?]
真っ赤なリリと戸惑いながらも役目を果たそうとするリク。
「おぉっと!?これは!?」
[あわわ!?ふぁ!?ななななな、いきなり手っ、手!?]
[あ、方向音痴なんですよね?あまり離れない方がいいかと思って……すいません]
「いきなり手をつなぐだと……!?何たる女殺し!リク、凄いな!?」
[い、いや、その、そのだな?いきなりでびび、ビビっただけで!その…手……]
[え…っと…ど、どうぞ?]
「手をつないだぁぁ!!リリちゃんの顔は真っ赤です!トマトのようです!!」
「なにこの空気!?痒い!滅茶苦茶痒い!!うあぁ!?」
そんな風にラウルとリキが悶えているとリリとリクは買い物を始めた。
[そ、そう言えば何を買うんだっけ?]
[えっと…食料と水をリストにあるだけですね。行きましょうか、リリさん]
[あ、ああ。行くか]
近くの商店に入ってリストにある物を買い始める。
リクは既にリラックスしているが、リリはいまだに顔を真っ赤にして俯いてテンパっている。
「リリちゃん、今までにないくらいおとなしいです!どうですか、解説のリキさん」
「そこまでリリちゃんを見ていた訳ではありませんがが、これはとてつもなくおとなしい。これが恋する乙女パワーか」
「しかし、リクのリラックスぶりはそれはそれでとてつもない!これはどういう事でしょうか?」
「鈍感もここまできたら殺されても文句はないだろうな」
次々と買い物を済ませていくリク。顔が赤いながらもだんだんとリラックスをし始めたリリ。
そして、それを覗き見るラウルとリキ。
[おう兄ちゃん、可愛い彼女を連れてるねぇ]
[う、か、かのじょ……うふふ]
[いや、彼女じゃないですよ。支払いは世界共通通貨でいいですか?]
[珍しいな、兄ちゃん旅の人かい?]
[まぁ、そんな感じです]
[ち、ちがうって……違うって……ぐす]
[あれ!?リリさん!?何で泣いて!?]
[兄ちゃん……気付かないのかい?すぐに分かるだろ……]
リクの否定の所為で少し涙ぐんでしまったリリ。
「り、リリちゃんの泣いてる所なんて初めて見た……」
「とりあえず、リクは帰ると同時にまずい状態になるな」
[嬢ちゃんに免じて少し負けてやるよ……]


「さて、このデートもそろそろ終了かな?」
「あーあ、見てるだけで凄く疲れる……」
既に日は沈み弾めている。
リクとリリのデートは特に何も無いまま終了しそうになっていた。
リリは楽しそうではあったが少し寂しそうでもあった。
「せめて、せめて事故でもピンクなイベントがあれば……それだけが悔やまれる……」
「あ、このデート最後の会話が始まりました」
[なぁ、今日は……その…]
[ええ、楽しかったですね。久しぶりにゆっくり出来ましたし]
[オ、オレも!楽しかった…ぞ?]
さらに照れながらリリは言った。普通の男ならそれだけで落ちるような表情だがリクに効き目がない。
「進展は無いね……」
「全くだな」
リクとリリのデート最後の会話はさらに進む。
[いきなり泣かれた時はビックリしましたけどね]
[うぅぅ、うるさい……]
どうにも照れが抜けないリリ。
「ツンデレの醍醐味と言えばそれまでだけど……そろそろ気付けよリク……」
「ツンデレと鈍感は最悪の組み合わせだからな……」
そして、リクとリリは帰路につく。
[じゃあ、そろそろ帰りますか。リリさん]
[なまえ……]
「お?」
「あ!?」
[どうしましたか?]
[名前、仲間だしさ…さん付けはやめろよ……]
「「きたぁぁぁ!!!」」
リリの勇気のたまもの、これで距離感が変わるかもしれないと思うと実況解説の二人は興奮を隠せない。
「さぁ、リク!さん付けからちゃん付けにバージョンアップだ!」
「やっと、やっと成果が出たよ……」
リクは面喰っていたがすぐに持ち直した。
[じゃ、じゃあ…………リリ]
[ふぇぁ!?]
「「な…!?」」
[いいいい、いま、え?いま!?]
[リ、リリ?大丈夫?]
「よ、呼び捨て!?」
「ランクアップが激しすぎる!」
混乱する三者(二人は隠れているので分からないが)にビビるリク。
[い、いま、りりって……リリって……あ、うぁぁぁぁ!!!!]
[ちょっと!?リリ?リリ!?]
リリは突然走り出して行った。リクはその場に取り残されて呆然としている。
「あれ?こっち来てね?」
「まずっ!?」
「あれ?」
状況は簡潔。
リリと実況解説組がはち合わせた。
「ははは、僕らはこれで――」
「いつから見てた」
「「すいませんでしたぁ!!」」
俯いているリリにきれいな角度で頭を下げる二人。
「み、みられてた……みられ…みら……」
「あ、あの?」
「りりちゃん?」
フルフル震えているリリに罰を待っている二人。
「みられて……ぬゎぁぁ!!!」
ゴボガッ!!という音と共に吹き飛ぶラウルと近くの壁にめり込むリキ。
そして走り出すリリ。スターク艦内は恐ろしい勢いのリリの接近に大騒ぎになっていた。


リリが走り去って行った後のリクは呆然としていた。
「な、何が?」
人の突発的な行動に弱いリクはぼーっとしていると、裾を引っ張られた。
「ちょいちょい、おにーさん。聞いてる?」
「え、あれ?えっと、どうかしましたか?」
女の子に声をかけられた。
「おにーさん、リク・ゼノラスだよね?」
「……あんた何者だ」
一気に雰囲気を変えてリクは問いかける。
殺気にも近いその雰囲気にたじろぐ女の子。
「い、いや、あたしは通りすがりの東洋人に頼まれた事があっただけで……」
「東洋人?何を頼まれた?」
「これを渡せって……渡したからな?」
怪訝な顔のリクに端末を渡して走り出す女の子。
リクはすぐに人目につかない路地に入るとその端末を起動させた。
[やぁ、やっと見つかったか]
「キセノ……何のつもりだ?」
キセノの声がする。
[何か、用事がないと連絡も取れないのかい?]
「気持ち悪い事を言うな!俺はお前を殺したいんだぞ?それにテメェもだろうがっ!!」
声を荒げるリク。
[まったく、お前を弄ったのだって上の指示なんだよ?俺を恨まれても――]
「その上はテメェだ!それくらいも知らないと思っているのか!!」
[なーんだ、ばれてんの?それより声を荒げるなよ、俺が言いたい事があるんだから]
キセノは緩やかな怒りを込めてしゃべり続ける。
「言いたい事だと?」
[とりあえず、感謝と忠告と宣言だよ]
キセノは一気にしゃべり始める。
[まず、感謝。敵側ってのが不満だけどデータが取れたのはありがたかったよ。ありがとう]
「黙れ……」
[次に忠告。君がエース認定されたよ。選別信号は白い魔弾、ホワイトバレットだね。見た事も無いものに魔の存在をあてるのは大昔から変わらないね]
「……………」
[最後に宣言。未知の技術、魔だとそれは再現不可能だが科学なら世界はすぐに追い付いてくるよ]
「何だと?」
[これで俺からは終わりだよ。これで通信は切ってもいいんだけどね]
キセノはそこで一旦言葉を止めると、リクの心をえぐる言葉を放った。
[調子は大丈夫かい?君は――]
ごきり、と音を立ててリクの手の中の強化プラスチック製の端末が潰れた。
「ふざけやがって……ふざけやがってぇぇぇ!!!」
リクは心の底から叫んだ。それしかできない自分がもどかしかった。
自分の運命など知っている。自分に出来ない事が自分の未来を圧迫しているのだ。
それは、リクを、追いつめている。


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