創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<8,思惑>

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sousakurobo

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<8,思惑>

村人達の名前が載ったリストを睨みながら、ギーシュは村人達が炭坑場に集合しているかを確かめる。
多少の誤差はあるものの、全員無事に炭坑場に集まる事が出来そうだ。村人達の避難が終わったら、遂にあの作戦を実行する事になる。
良く良く考えると……いや、考えなくても無謀だ。こっちには重火器があるとしても、あくまで生身の人間であり、もちろん自動人形と戦った事など無い。
それに比べ、シュワルツには凶悪な自動人形がある。それも巨大だと聞く。これほど恐ろしい相手と戦おうなんて、無謀にも程がある。自ら死に行く様なものだ。

だがやらねばならない。村が消えるかもしれないし、何より本当に死んでしまうかもしれない。
それでも、シュワルツを倒されば俺達がぐっすりと眠れる日が来ないのだ。奴には平穏も誇りも、尊厳も何もかも奪われた。
傍から見れば馬鹿げた自殺行為と嘲笑れたとしても、俺達には絶対に引き下がれない理由がある。

「ギーシュ、ほぼ全員揃ったよ。それにそろそろ1時間が経つ」
トニーから呼びかけられ、ギーシュはふっと我に帰る。周囲を見ると、各々の荷物を背負う村人達が見えた。
皆、これからどうなるのか不安で仕方ないという表情で俯いている。ギーシュは村人達の様子に、視線を明日の方向に向けた。

「トニー、俺達……いや、俺は間違ってるのかな」
「……俺は少なくとも、お前の事を間違ってるとは思わないさ」
「……そうか」
「死ぬなよ、ギーシュ。お前にも、待ってる人はいるんだからな」

研究員の説明を聞きながら、シュワルツは恍惚といった表情でダルナスが村を焼き払い、更に戦場を業火に変える未来を想像していた。
二人がいるのはダルナスのコックピット部分。いわゆる「顔」の部分である。「顔」は二つの機構に別れており、どちらもダルナスには欠かす事が出来ない。
下部、言うなれば口には、ブラックキューブを動力源に発射されるレーザー砲が内蔵されており、ダルナスの武装の要となっている。
レーザー砲はコックピット部の背部にあるブラックキューブに直結している為、連続しては撃てないものの、非常に強力な武装と言える。

上部、口から上の鼻と目の部分が、今シュワルツと研究員がいる場所である。
正確には目と鼻の後部、だだっ広い操縦室にだ。前面には全方位を囲む巨大なモニターが設置されており天井から床下までくまなく映している。
モニターに映る映像は目を通して映し出されている。鼻の部分は用途不明。おそらく開発者の悪趣味なオブジェだろう。
シュワルツの前には、緊急時用に取り付けられた操縦桿が備え付けられている。杖を模したそれは非常にシンプルで、杖の先に着いた球体で操作を行う。

「この操縦桿は基本的に使う事はありません。ダルナスが自然に判断し、行動しますので」
研究員がそう説明するが、シュワルツはおそらくこの操縦桿を使う事になるだろうと確信している。
あの緑色の自動人形の実力は、恐らくこちらの想像を超える事になる。シュワルツはそのような時に、機械の考えなど全く当てにならないと思っている。
それは腐ってもシュワルツが元軍人である事と、その頃の長い長い経験からくる一種の矜持の様なものだ。

「それでは予定通り、1時間後に起動を開始します。宜しいですね?」
「構いません」
シュワルツがそう研究員に返答すると、研究員は敬礼をしてダルナスから降りるとハンガーへと向かった。
改めて、シュワルツは必ず使う事になるであろう操縦桿に掌をのせた。冷たい感触にゾクリとする感覚が奔る。

「さぁ、私に禍々しい未来を見せてくれ、ダルナス」
歪んだ微笑を浮かべながら、シュワルツはそう呟く。ダルナスの目が、妖しく紫色に光り出した。

「よし、全員集まったな。これから避難ルートを教える。絶対に聞き逃さない様にしてくれよ」
炭坑場。ギーシュにより集められた村人達は、これから巨大自動人形――――ダルナスによって戦場と化す村から避難する。
ギーシュはそう言いながら、地面を靴で掃いはじめた。大量の土埃が掃けていき、やがて無機質な鉄製の扉が現われた。
巨大な丸型のそれを見て、村人達が驚きの声を上げる。ギーシュはトニーを呼ぶと、一緒に取っ手を引き上げる。するとぽっかりと暗い闇が見えた。

「知ってる人も……いや、皆知ってると思うがこの村は軍の元駐屯地であり、また過疎地でもあった。
 でだ、何が言いたいかと言えば、敵の襲来に備えて、こういう隠し経路が存在する。最近調査して分かったんだが、この隠し経路はそのまま町近くの山まで繋がってる」

説明しながら、ギーシュは仲間達を使って、村人達にマスクを配りはじめる。そのマスクは非常に皮が厚く、口から鼻に掛けて保護する事が出来る。
怪訝そうな顔をしながらも、マスクを付ける村人達に、ギーシュは頷きながら説明を再開する。
「そう、それでいい。これから通ってもらう隠し経路は長年整備……しなかったのは悪い。先に謝る。とにかく空気が悪いからそのマスクで凌いでくれ」
村人達が全員マスクを付けたのを確認して、ギーシュは咳払いをするとここからが大事だと強調して、説明を再開した。

「今から通る経路を30分ほど歩けばその山に辿りつく。いいか、絶対に振り向かないでくれ。
 ダイレクトに言えば、絶対に村には戻ってこないでくれ。正直に言えば、もうこの村でまともに生活できるか……分からない」

ギーシュの言葉に村人達がざわめく。それはそうだ、今まで慣れ親しんできた土地に住めなくなるというのだから。
やがて村人達は堪え切れなくなった為か、ギーシュに対して感情をぶつける。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、幾らなんでもオーバーじゃないか?」
「今までこの村で暮らしてきたんだ、今から他の場所になんて暮らせん……治安も悪いし」
「村を離れたって平穏に生活できる可能性なんて無いじゃない! いったいどうしろっていうのよ!」
「もう畑を耕す気力も無いわい……この村で余生を暮らしたかったのじゃが……」

口々に感情を吐露する村人達に、ギーシュは無言で目を瞑っている。その様子に気づいたトニーが心配そうに駆け寄った。
「ギーシュ……」
ギーシュはトニーに大丈夫だと手をかざして小さくほほ笑むと、一歩出て、村人達に向けて土下座した。

「頼む。俺の話を聞いてくれ。確かに今まで住んできた場所が住めなくなると考えるのは辛い。積み上げてきた思い出を置き去りにするみたいで。
 だがな。俺達には今がある。住む場所は失っても、大事な思い出も、人間としての誇りもまだ失っちゃいないだろ?
 俺達は再びやりなおす事が出来る。今は真っ暗闇でも必ず光を掴む事が出来る。だから今は生きる事を考えてくれ。それが俺達に出来るシュワルツへの反旗となるんだ」

頭を下げながらそう語るギーシュに、ざわめいていた村人達は次第に静まっていく。
トニーがギーシュの肩に手を置くと、ギーシュはその手を握りゆっくりと立ち上がった。村人達の目には先程の様な淀みは見えない、

遠目からその様子を見ながら、ショウイチは傍らで少しでもエネルギーの消耗を防ぐためトラクターに変形しているタウエルンに話しかけた。
「光か……掴もうとすると消えるんだよな、俺達には」
「駄目だよ、そんな事言っちゃ。村の人たちの為にも、必ずシュワルツを倒そう、ショウイチ」
「お前は何年俺と組んでんだ? さっさと終わらして耕すぞ、畑」

ところで、村人達の中で一人、皆とは違う事を考えている少年がいた。彼の名はマイル。今年で16になる少年だ。
彼は日頃物静かな少年として知られているが、実はマイル自身は内心、今の村の状態に怒り心頭だった。
それは無論シュワルツの暴挙でもあり、またそのシュワルツに対して何も出来ない自分自身に腹が立っていた。
だが、そんな彼を奮い立出せた存在が現われた。その存在はショウイチとタウエルンだ。
悪党に屈せず、逆に叩きのめした彼に、マイルは頭を殴られたような衝撃を受けたのだ。だがそれゆえに彼は燻っている。
自分は無力で、ギーシュ達のように立ち向かえる力も頭も無い。だけど……だけどこのままでいいのか? 俺にも……俺にも出来る事が……。

「まずは男が先に入って女子供を先導してくれ。その後に残った男が後ろを固める。トニー、お前が一番先に入って先導してくれ」
トニーは頷いて扉まで駆け寄り中に入る。続くように女性と子供達が。設置された階段を降りていくと、山へと通じる通路が見えた。
ギーシュは環境が悪いと言ったものの、じめじめと暗いだけで閉塞感を感じないほど広々としている。円形に広がっている経路は地下鉄のチューブを連想させた。

ぞろぞろと村人達が避難経路へと入っていくのを一瞥し、ギーシュは遠方で事態を見守っているショウイチに近づき、話しかけた。
「もう一回、君の作戦を聞かせてくれないか? どうもいざって時になって緊張してきてさ」
ショウイチはいいですよと言いながら、タウに触れてタッチパネルを引き出し、ホログラムを作動させた。
大小様々な円柱のオブジェクトが浮き出て、同時に巨大な黒い球体のオブジェクトが、円柱に向かってゆっくりと前進し始める。

「この黒い球体が僕達の敵となる巨大自動人形です」
すると球体から緑色の細い光が出てきて、円柱をなぞる様に消滅させていく。
「これが大型自動人形に標準装備されているレーザー砲です。恐らく、地球上にある武器の中では上位に入るであろう恐ろしい武器ですね」
あくまで例えのレベルだが、ギーシュはその威力を想像して鳥肌が立つのを感じた。こんな物とこれから戦おうというのだ。

「また、大型自動人形には他にも多数の武装が施されていると思います。ですがそんな大型自動人形にも弱点があるんです。いわば人間でいう急所ですね」
ゴクリとギーシュは唾を呑んだ。ショウイチがタッチパネルを操作すると、球体の動きが止まり、中に白く輝く立方体が姿を現した。
ショウイチがその立方体に対して赤いサインを刻む。
「この部分が動力源であり、レーザー砲を撃つ為に必要なブラックキューブです。この部分を破壊する事が出来れば、大型自動人形を倒す事が出来ます」

「そのブラックキューブってのは、大型自動人形の中に入ってるんだよな……? どうやって壊すんだ?」
「そこですよ、僕達の、いや正確にはタウエルンがやるべき事は」
と、球体の外装がブラックキューブに連ねる様に分離していく。同じタイミングで、簡素的な人型のオブジェクトが、ブラックキューブに向かってゆっくりと飛んでいく。
人型は外装を次々と取り払い、最終的にブラックキューブを貫いた。ブラックキューブは弾け飛ぶが、瞬時にも元に戻る。

「この様に、ブラックキューブは厚い装甲に守られていますが、その装甲さえ突破する事で露出されます。そこまでに至る経緯ですが」
次は鎧型のオブジェクトが6体浮かんできた。鎧の腰元には、小さくオレンジ色の円柱がくっついている。

「こいつらはさっき、酒場で鹵獲した黒騎士です。こいつらを使って、大型自動人形の外装を削ります。ちょっと残酷ですがね」
鎧達は何処からか、細長の棒で出来た槍を構えると球体に向かって飛んで行き、球体を突き刺す。
「これだけでは外装を剥がすまでにはいきませんから……えいっ」
ショウイチがパネルを人差し指で押すと、鎧の腰元についている円柱がパチパチと弾け、やがて球体を抉りながら鎧が消滅した。

「この様に、ダイナマイトを黒騎士に巻きつけ、槍で貫くと共に爆破し、巨大自動人形の外壁を弱めてタウエルンで攻撃。
 ブラックキューブまで達したのち、撃破という流れです。それでここからが……」

「……ここからが、俺達がするべき仕事だよな」
どこか心許ない口調でそう聞くギーシュに、ショウイチは笑顔を浮かべながら頷いた。
「はい。ギーシュさん達にしてもらいたい事は……」

「……そして十分なダメージを与えた所を、タウエルンで叩く。これが僕の考えた作戦の全容です。だいぶ早足で説明しちゃいましたが、もう一度説明しますか?」
ショウイチの説明を静かに聞き終えたギーシュは、小さく俯いて何か考えをまとめる様なそぶりを見せると、ゆっくり顔を上げて言った。
「……純粋に教えてくれ。この作戦の成功度は?」
「僕は成功度とか考えないんですよ。一寸先なんて分かりませんから」
極めて明るく、あっけらかんと語るショウイチに、ギーシュは目の前が暗くなっていく様な気がした。だが分からなくはない。
ここで成功率が高いと言われようと低いと言われてようと、勝たねばならないのだ。確率を気にした所でどうにもならない。

「ギーシュさん、経験者として一つだけ教えておきます。もし何か失敗したとしても、必ず成功すると願って諦めないでください。それが奇跡を呼ぶんです」
「何か胡散臭いな……ま、せいぜい頑張ってみるさ。頼んだぜ、ショウイチ君」
苦笑交じりに、ギーシュはショウイチと互いの拳を合わせた。一時的な共闘だが、確かな信頼感がそこにはある。

「村人全員の避難が完了したぞ。そろそろ行くのか?」
仲間の一人が村人達の避難が終わった事をギーシュとショウイチに伝えに来た。二人は互いに頷き合い、ギーシュが返答する。
「あぁ。他の皆にも例の位置に着く様伝えてくれ。俺もすぐ行く」
そう言って、ギーシュは仲間と共にショウイチの作戦を実行する為にその場から離れた。ひらひらと手を振って。

ギーシュが見えなくなった所で、ショウイチは髪の毛を掻くと、タウエルンを変形させた。
ふと、ショウイチは口元に手を当てると、変形が終了し、バッファローモードへの移行を完了させたタウエルンに話しかける。
「なぁ、タウ。お前のあの機能、もしかしたら使えるかもしれん」

「それではご健闘を。と言ってもただの実験ですが」
通信から入ってくる研究員の台詞を無言で受け流し、シュワルツは操縦桿に掌を重ねた。
全方位のモニターが作動し、周囲には数値や方位、ロックオンマーカーが飛び交う。シュワルツは目を数秒閉じると、ゆっくりと開けた。
「……ダルナス、発進」

所変わり、山へと避難中の村人一行。その先頭を歩くトニーは、やはりギーシュとショウイチの事が気掛かりだった。
本当に大型自動人形に、いや、シュワルツに彼らは勝てるのだろうか。アレほど人の命を踏み躙る事に何ら感情も無い男に。
もし勝てたとしてもまた彼らに会えるのか、トニーの心には言いしれぬ感情が渦巻いていた。その時。

「トニーさん! 大変、大変なの!」
息を荒げながら、クレフがそう叫んでトニーの方へと走ってくる。トニーは驚き、クレフの方へ振り向き声をかけた。
「どうした!?」
「マイル君が……マイル君が村に……」

トニーは今、マイルという少年を連れ戻すため、全力疾走で村へと向かっている。まさか誰かが村に戻るとは予想し得なかった。
事情はこうだ。避難している最中、マイルは突如、何を思ったか村へと直行したらしい。突然の事で皆驚き、マイルを止められなかったらしい。
マイルを探しに行くと伝えた時の、今にも泣き出しそうになっていたメルティを思い出すと心が凄く痛む。
だが、ギーシュ、そしてショウイチと約束した手前、全ての村人を無事に避難させねばならない。
なるべく早く見つかってくれよ……とトニーは心の中で強く念じた。今の所、まだ村は静かだ。

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