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captar2 エピローグ

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 ―――――悪夢とは決して当人が望んでいないものだ。



 エピローグ


 戦いの後、辺りの木々が倒れ巨大なクレーターが出来たそこに4人の人物がいる。
 一人は復讐を志す青年、黒峰潤也。
 一人は人の救済を目的とする殺戮者、黒峰咲。
 一人は潤也の従者であり、至宝の所有者、琴峰藍。
 一人は世界最強と他言される老婆、時峰九条。
 これがこの場に揃っている。
 笑って潤也に声をかける咲を藍と交互に眺めて九条は首を傾げて言った。

「あら、お嬢ちゃん達双子だったのかい?」

 そう空気を読まない疑問は黙殺され、潤也と藍は咲を睨む。
 それをどこ吹く風と流して、咲は笑って

「おばあちゃんもそう思う?咲も流石に似てるかなーって思ってはいるのだけど、お兄ちゃんその子だぁれ?」

 そう疑問を問いかける。
 その顔が潤也の知る彼女と変わらず、潤也は手を握りしめた。
 咲は初めて見る自らと同じ顔を持つ少女に複雑な思いを重ねながら見つめ続ける。

「ドッペルゲンガーって見たら死んじゃうんだっけ?うわわ、怖いなぁー。ねぇ、喋ってよ。あなただぁれ?」

 そうして藍に歩みよろうとする咲を遮るようにして潤也は身を前に出して、

「黙れ、咲。何をしにきた。」

 そう冷たく言い放つ潤也に咲は首を傾げて

「ひっどいなぁー妹が兄に会いに来る理由なんて会いたくなったから以上に必要なの?普通いらないと思うんだけどな・・・。でもなんか、お兄ちゃんがお人形趣味があったなんて・・・そんなに咲が好きならいつでも抱きしめていいのに・・・。ほら、そんな私に似た人形なんかじゃなくてさ・・・。」
「わ、わたしは人形なんかじゃない!」

 そう反論する藍。
 それを咲は不思議な面持ちで見つめて、

「えーでもおかしいなぁ・・・あなた命としては色々間違ってる気がするのよね。色んな所が人間と似てるけど、細部が違う。ほら、咲さ人間を調べているからそういうのすぐにわかっちゃうんだよね。だってあなた人間じゃないでしょう?」

 咲は黙りこむ。
 そう琴峰藍は琴峰機関によって作られた人造人間だ。
 世界最強の再現、それを目的として作られた母体から生まれていない生命。
 そういった生命である事は咲は知識的にか、直感的にかはわからないが一瞬にして看破したのである。

「まったくお兄ちゃんもこんな私似の人形さん連れてくぐらいならいつでも咲を呼べばいいのに・・・そうすれば咲はお兄ちゃんの元に行ったんだよ・・・。」
「どこにいるかもわからない奴を呼べる筈も無いだろう?」

 その潤也の声は感情を極力押し殺したような声だった。

「まあ、それもそうか・・・。だから今回は咲から会いに来たんだしね。しかしお兄ちゃんどういうつもりなのかなぁ・・・咲の同胞達を破壊して回るなんて酷いじゃないか。」

 そう言ってむくれたような顔をする咲。
 それに対して潤也は言う。

「当然だ、俺はお前とUHの連中を全て殺すと決めた。」

 それと同時に歩幅を見る。
 黒峰咲の元までおよそ10歩といった所だろうか・・・。
 今かけていけば咲を抑えこんで殺す事もできるかもしれない・・・そう思う。
 何より、今は藍がいる。
 藍と咲は同じ容姿で人間ではあるものの、その身体能力は人の域をはるかに超えている。
 その協力を得られれば殺せるのではないだろうか?

「へ、なんでなんで?」

 そういって咲は潤也に近づき、下から覗き込むようにして見る。

「だって、咲、お兄ちゃんに言ったよね。今たくさん人は殺しているけども咲の目的が遂げられれば、死んだ人間も含めて全て生き返るんだよ?」
「そんな保証がどこにある。そもそもだからといって人を殺していい理由なんてどこにも無い!それにお前はな、父さんと母さんを殺したんだろ?許せる訳がない!」

 そう言って咲を掴もうとする潤也、咲はそれをするりと避ける。
 その後、子供をあやすようにして言う。

「んー、お兄ちゃんもっと大局的に物事を見ようよ。今は確かに咲達は、至宝探しの為に人をたくさん殺して回ってるけどさ、結局それは生き返るんだよ。しかも皆が怯えている死を克服して・・・。だからさ、今はちょっと酷い事ではあるけど、それは次のもっと大きな幸せの為に耐えて欲しいんだ。お母さんとお父さんだって至宝を集めれば生き返るんだよ。」
「その時、お前はDSGCシステムを使うんだろう?」
「もちろん、そうしないと記憶情報を読み取れないからね。」
「ならば、お前の精神がそれに耐えられる保証がどこにある。咲、俺を見ろ、極力心身に起こる影響を少なくしているというのにコノザマだ。もう何度あのシステムに耐えられるかもわからない。お前はそれを世界中の全ての思念に対して行おうとしている。そんな事人間ができる範疇を超えている。前も言ったな咲、それは無理だ!」
「そういうなら、咲も前に言ったことを言うかなぁ・・・咲はできるんだよ。」
「根拠は?」
「黒峰咲が黒峰咲であるがゆえに・・・。」
「話にならないな。」

 そういって潤也はリベジオンの藍を一瞥した後、

「だから、今、お前を殺す。」

 それを見て、少し咲は見開いて、悲しそうに微笑んだ後、

「お兄ちゃん、それは無理だよ。」

 藍が咲の元へと走る。
 それを遮るように現れる一つの影が咲の前に立ち吼える。
 それと同時に咲は空中にその身を空たかくへと飛翔させた。

「なっ・・・。」

 あまりの非現実的な光景を前に驚きの声をあげる潤也。
 人が自らの力で空を飛ぶ、それは人という翼を持たぬ種には絶対に出来得ぬ筈の事。
それが今、黒峰潤也の前で起こっている。
 驚き立ち尽くす藍の後ろで咲が持つ無を有にする至宝『ダグザの大釜』の力である事を潤也はすぐに理解する。

「ご慧眼、これぞダグザの大釜、見えない足場を『創り』あげてそれを飛翔させた。」

 咲と共に飛翔したアイリッシュウルフハウンドが関心したように言う。
 潤也はそれを見上げた後、

「藍、リベジオンを使うぞ・・・。」

 そういって咲に背を向けてリベジオンに向かう。

「だ、だめだよ潤也、もう二度もDSGCシステムを完全駆動させてるんだよ・・・こんな短期間で3度も完全駆動させたら今度こそ潤也の精神が持たないよ・・・。」
「関係ない。あいつを殺す事が俺の目的だ。あいつは俺の両親を殺した。それだけで俺があいつを殺す理由は十分だ。」

 止めようとする藍を潤也は押しのける。
 そんな潤也の前に立ちふさがるは一人の老婆、時峰九条だった。

「婆さん、あんたには関係無い話だと思うんだが・・・。」
「まあね、だが、あたしは自殺しようとしているような奴を止めないでいられる程、お人好しじゃないのさ。」
「自殺なんかじゃない。俺はあいつを殺さなければならない。」
「何故だい?」
「あいつが父と母を殺したからだ。」
「だから復讐かい?」
「そうだ。わかったらどいてくれ。」
「いーや、そこまで聞くとさらに行かせるわけにいかないね。」
「ならば、勝手に―――」

 そういって九条も押しのけようとした時、言いようのない吐き気を感じて膝を付く。
 立とうとするが、体が言うことを効かない。

「ほら、体は正直じゃないか・・・あんたはもうとても戦えるような状態じゃないんだよ・・・一体どれだけの時間寝たきりだったと思ってるんだい・・・。」
「黙れ、それでも俺はあいつを殺さなければ――――」

 そういう潤也の頬を九条が叩く。

「目が覚めたかい、坊や。」
「何を―――」

 そう反論しようとする潤也の頬をもう一度九条は叩く。

「なんで頭に血がのぼっているのかは大体話の流れからは察したけどね、ちょっとは冷静になりな。あんた今の状態で戦って勝てる気でいるのかい?いいかい、あんたの詳しい事情なんて知らないけどね、あんたの目的を果たす為にはあんたの行動は正しくない筈だ、それはわかるだろう?坊や。」
「ぐっ・・・。」

 潤也は口を閉ざし土を握りしめた。

「それに来たみたいだしね。」

 九条が顔を上に向けて空を眺める。
 その視線を応用にして潤也も空を眺めた。
 視界に移るのは白い物体。
 遠くから白い何かがこちらに向けて接近する。
 それを肉眼で明確に判別できるようになり潤也は手を握り締める。
 それは機械仕掛けの天使だった。
 その出で立ちは通常の鋼機のサイズを逸脱する程巨大で重厚な威圧感を放ちながらも、ありとあらゆる穢れを帯びていないかのような清潔さを併せ持つ。
 これこそが黒峰咲の怨念機メタトロニウスである。

「お婆さん、年寄りは大事にってウチのママからね教えられてるんだけどね・・・あんまりお兄ちゃんに手を出すと怒るよ?」
「これはこれは怖いねぇ・・・。」

 そういって苦笑する九条。
 咲はその後、潤也に向けて言う。

「お兄ちゃん1つ言っておくけどね、例えお兄ちゃんが万全の状態で、お兄ちゃんの怨念機が完全な状態でも咲のメタトロニウスには適わないよ。」
「そんな事はやってみなければわからない!」
「わかるよ。お兄ちゃん至宝、手に入れてくれたんだよね。本当は最初咲の為に手に入れてくれたのかなと思って嬉しくなったんだけど・・・それを使って同胞たちを破壊して殺して回ってるって聞いてよくわからなくなったんだ。どうもこれまでのお兄ちゃんの行動を筋道立てて考察していくとお兄ちゃんはUHと敵対しているらしい・・・。なら仕方ないと思って、お兄ちゃんの至宝を図る意味を含めてお兄ちゃんの元へと咲お手製の鋼獣を襲わせたんだ。」

 やはりかと潤也は思う。
 アテルラナから提供されたデータに存在しない鋼獣。
 それはつまり黒峰咲がダグザの大釜で作り上げた鋼獣なのではないか?と潤也は推測していた。
 そしてこの予感が今的中する。
 そしてそれはつまりダグザの大釜さえあればいくらでも先ほど戦ったような鋼獣を鋳造する事が可能であるという事を意味している。

「お兄ちゃんの至宝に刺された鋼獣はすぐに消滅してしまうでしょ?だからさ、大質量でも結果は同じなのか試して見たかったんだ。結果、見て理解した。お兄ちゃんの至宝は因果を操ってるんじゃないかって・・・その存在の内包する因果を歪めているんじゃないかって・・・。」

 潤也は黙りこむ。
 下手な事を言えば、それを事実だという確信を咲に与えてしまう事に他ならないからだ。

「それならね、お兄ちゃんの持ってる至宝は咲の敵じゃないんだよ。いい?お兄ちゃん、根本的に勝ち目が無いんだ。」
「そんな事は――――」
「やってみなくてもわかるよ。」

 反論しようとする潤也を遮るようにして断言する咲。

「だからお兄ちゃん無駄な事はやめて咲と一緒に新世界を作ろう。お兄ちゃんが一緒に来てくれるのならば、咲嬉しいな。」
「断る!」

 眩む目で咲のいる方向を見つめて叫ぶ潤也。
 それに咲は少しため息を吐いて、

「わかった、わかったよ。お兄ちゃん。お兄ちゃんにはまだきっと考える時間が必要なんだね・・・じゃあさ、二週間時間をあげるよ。」

 そういうのと共にメタトロニウスが右手でVの字を作る。
 2を表しているつもりなのだろうか?

「二週間?」
「そう、二週間。それだけ考えてもお兄ちゃんが咲を殺したいと思っているのならば、相手をしてあげる。どうせ死んでも生き返らせる事ができるんだしね・・・本当はお兄ちゃんを殺すなんて事はしたくないけども大局的にしなければならないというのならば仕方ない。お兄ちゃんの持ってる至宝は咲はなんとしても手に入れないといけないしね。」

 そういつもと変わらない口調で言う咲。
 潤也は自分のことを殺すと平然と言い放つ咲に少なからずショックを受けた。

「場所はーどうしようか・・・うーんハナバラなんてどう?パパとママが死んだ場所。あそことかがいいと思うんだ。あそこに最後の答えを聞きに行くよ。」
「ハナバラ・・・だな?」
「うん、約束は守るよ。咲は約束を破った事ない事が誇りだからね・・・。」
「行く、必ず行く、そしてお前を殺してやる。」

 そういう潤也に対して咲は笑って

「ふふ、楽しみにしてるよ、お兄ちゃん。それに咲にそっくりのお人形さん、あなたが至宝の所有者なのかな?」
「―――教えない。」

 敵意の眼差しを持って咲を見つめる藍。

「あらら嫌われたのかなぁー。どうもコミュニケーションをうまくやる事って下手糞で・・・」

 そうやっておどける咲、その後、まあいいやと小声で呟いて

「じゃあ、ばいばーいお兄ちゃん、二週間後にまた会おーう。」

 そういって咲はメタトロニウスに乗り込み、メタトロニウスは飛翔する。
 その時に起こった逆風に吹かれながら、潤也は咲の言葉を噛み締める。
 二週間後。
 そこで全ての決着を付ける。
 ―――――この手で黒峰咲を殺す。


 黒峰潤也の悪夢はまだ続く。


 To be continued capter3

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