創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki GEARS 第零.五話エピローグ

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

術後――鬼塚の健康状態に異常は無く、フォートインの具合も回復に向かっているそうだ。
セシリナはデルモン氏からサーペントに支払われる筈の巨額の報酬をせしめ懐を大いに潤わせた。

矢神はと言うと――

「矢神。矢神ー? 珍しいな。矢神は欠席か?」

午前八時三十分。宋銭高校の教室で担任の教師が出欠確認の為に生徒達の名前を呼ぶが
最後の一人、矢神の返事が無い。教師は首をかしげてボードに欠席のマークを付けようとする。

「は、はい! はいはいはい! います! います! 超います!」

ドタバタと廊下を駆け抜け、ドアを叩き壊しかねない程の勢いで矢神が教室に飛び込んだ。

「す、すんません。お、遅くなりました……ァ!!」

目を血走らせて息を切らしながら謝罪の言葉を述べる矢神に担任は後ずさりをしながら席に着くように促す。

「重役出勤とは大層なご身分じゃねぇか」

「うるっせぇ。引っこ抜くぞネギ野郎」

寝不足で苛付き、据わった目で古坂を黙らせる。
アーチからダイブしたせいで雷光の様なスピードで走り抜けるモンスターマシンは、亀の鈍足染みたスピードしか出せなくなり、寝ずに転がして漸く、学校に到着したのだ。
その上、睡眠不足も祟って、いつもなら笑って流せる古坂の皮肉に構える余裕は無い。
最近、余裕が無い日が続いている気がしなくも無いが。
朝錬には間に合わなかったものの、どうにか一限の授業に間に合いホッとしたのも束の間。
連日連夜の騒動で疲れ切った身体には教師の講義が眠りに誘う念仏の様にも聞こえ、途切れそうになる意識を必死で繋ぎ止める。
意識を繋ぎ止める事に集中し過ぎて肝心な授業内容は頭の中に入っていないが、いつもの事だ。
そして、放課後になれば朝錬を無断欠席した事により部長から鬼の扱きを受け、日が沈んだ頃に漸く解放。これもいつも通り。
色町の明るく賑やかな喧騒を尻目に廃墟と化した病院――自宅へと辿り着く。
彼を出迎える者は誰もいない。彼女と共に過ごした三日間。嵐の様に慌しく彼の前から姿を消した。

(一回か……まだまだ人肌恋しい季節なんだがなぁ)

未練がましく内心でぼやき、頭を掻きながら階段を降りる。響き渡る自分の足音が喧しい。
壁に穿たれた弾痕を尻目に溜息を吐く。嘆きと未練を吐き出し、気を取り直そうとする風情。
突然現れては去っていく。今までにも何度も経験してきた事だ。それに今は何よりも兎に角、眠い。
日が沈みきっているわけでは無いがベッドに飛び込み、朝まで寝こけようと考える。

(二日連続で朝錬サボルわけにもいかねぇしな)

ヒーローデイはこれにて終了。思考を学生モードに切り替え、本日より矢神玲は平常運転を再開します。

「あ! 玲~? 帰って来るのおそーい!」

「昨日も帰って来ないし、何処の女の所に行ってたのよー?」

「ほら、そんな所に突っ立ってないでこっち、こっち~!」

此処で再開させてもらえないのが矢神玲の常である。
最近、めっきり大人しくなっていた色町で働く女達が矢神の家で酒盛りをしている様に矢神はあからさまな溜息を吐く。

「退屈する暇もねぇな……」

そして、矢神は観念したかの様に女達の輪へと加わり、勧められるがまま酒を煽る。

「そう言えば、さっき渋めのおじ様が玲に渡しておいてくれって」

そう言って、女が矢神に手渡したのは地球統合政府の印が押された古臭い一通の手紙。

「銀髪のファンキーなおっさんか?」

「そうそう。逞しくてユーモラスでチャーミングなおじ様!」

「何処から何処までを見通してんだか、あのオッサン」

『やあ! 俺俺! 俺だって! 俺様、剣のおじさんだよ!』

「良い歳こいて、一行目からどんなテンションなんだよ」

結構な年齢で高級官僚を自称するには、あんまりな切口に矢神は呆れ返ったかの様に漏らして読み進める。

『さて、緊張が解れた所で先日の救出劇。まずはご苦労だったと言っておこう。
矢神玲、レコルマン・ハイレック。両名への扱いについてだがお咎め無しという事で処理をしておいた』

「セシリナの本名を知っているのか……? つーか、名乗ってねぇぞ、俺……」

『因みに坊主達の事については色々と調べさせて貰った。随分と面白い事をやっているようで羨ましい限りだ。
此方としては何処の組織にも与しないスーパーヒーローごっこに夢中な坊主に暴れられるのは非常に好都合だ。
なので、好き勝手に暴れられるように手回しをしておいたので今まで通り、程々にヤンチャしてくれて構わない。
その矛先が非合法組織に向けられている内は、政府も坊主達の行動を黙認する事を約束しよう。
情け無い話だが、ガキ同士の喧嘩で潰れてくれた方が何かと好都合なのでな』

「それで良いのかよ、公務員」

『坊主の突っ込みは尤もな事だが、公務員なんて何処の時代でも何処の世界でも似たようなものだ。
まあ、そんな事より、坊主にとってみれば、クローンの娘がどうなかったかという事の方が気になるだろう?』

まるで矢神がどの様な反応をするのか見透かしたかの様な一文に一抹の不気味さを抱きながらも、漸く入った本題に息を呑む。
時は数時間前、朝錬の欠席の罰として、部長からシミュレーターによる地獄のシゴキを受けている頃まで遡る。
意識を取り戻した鬼塚は見慣れない真っ白な病室に戸惑いながらも周囲を見回した。

「誰も……いない?」

自分自身の事をスペアパーツと呼び、商品以上でも商品以下でも無いと言う嫌な猫背の男はいない。
自分自身の事を愛娘と呼び、針金で手足の皮膚が裂ける程に縛り付け、メスで身体を刻んで喜ぶ下種な医師もいない。
そもそも、この病室と嫌な思い出しかない病室とでは清潔さは同じでも広さが違う。

「そう言えば……私……死んだんじゃ……」

意識を失う前の事を思い出した鬼塚は心細げな表情でベッドから飛び降りて視線を彷徨わせる。

「玲……玲? 何処……?」

「あの色男は此処にはいない」

背後から声をかけられ、鬼塚は泣きそうな顔から一変して、警戒心を剥き出しにした表情で壁を背にして振り返る。
此処が鬼塚にとっての死後の世界だとしても染み付いた癖は易々と取れはしない。彼女にとって病室での思い出は苦い物ばかりだ。
せめて、此処が廃墟染みた病室ならば、その警戒心も幾分かは緩んでいたのかも知れないが。

「そう警戒するな。俺は色男――矢神玲の仲間、剣のおじさんだ」

『自分が生きている事に若干戸惑っていたが、事の顛末を教えてやったら納得してくれた。
結論から言えば、坊主が心配するような事は何も無いというわけだ。但し、面倒な生まれである事には変わりが無い。
よって、あの娘の遺伝子を操作し、とある州のデータベースに変わった生まれの人間として戸籍登録しておいた。
これで一先ずは、サーペントの残党や蛇蝎に勘繰られたり、連れ戻される心配も無くなる筈だ。
尤も、あの娘の詳細については、ほとぼりが冷めるまでは答えられん。こっちも何かと抱えている面倒ごとが多いのでな』

「面倒見が良いんだか、適当なんだか……変なおっさんだな」

『それから、最後。色男の坊主にクローンの娘から伝言だ。』

矢神が視線を更に下げると十三歳の少女に相応しい可愛らしい丸文字で、鬼塚らしいそっけない短い言葉が綴られていた。

――ありがとう。大好きだ。

たった一言の感謝の言葉。其処から先は何も書かれていない。
だと言うのにも関わらず、鬼塚がどんな様子で書いていたのかが容易に想像出来てしまうだけに矢神は表情を緩ませ、手紙を懐にしまい込む。

「何? ニヤニヤしてぇ~! 今度は何処のコを誑かしてきたの?」

「別に何でもねぇよ。で? 何だって今日は乾く間無い程集まってるんだ?」

矢神は気を取り直して部屋を見回すと全員が全員、同じ店で働くキャバクラ嬢。
眠りたいのに眠らせてくれない面子に喜びと諦めが混ぜんとした表情を浮かべて嘆息した。

「玲ってば、ソレばっかりぃ!」

「ここ三日間、寝る間も無い程忙しかったんだ。疲れているんだから、そういう気分になって当たり前だろ?」

「玲が底無しなのは今に始まった事じゃないし、ソレは良い事なんだけど、ちょっとお願いがあって」

若いキャバ嬢達が一通り矢神を囃し立てた頃合を見計らって、二十歳になったばかりのリーダー格のキャバ嬢が申し訳なさそうに口を開く。
持ちつ持たれつの関係なのだから、余程の事が無い限り、彼女等のお願いを無碍にする事は無いのだが
申し訳無さそうにしていても唇の艶かしい動きが、矢神のオスの部分を刺激し何でも言え!という気分にさせられるのであった。

「お前等のお願いってぇと……其処のお嬢ちゃんか?」

リーダー格のキャバ嬢の横で居心地悪そうに身を縮める少女に視線を移す。お嬢ちゃんと言っても、年の頃は矢神と同じ十六、七程。
煌びやかな服装に身を包んではいるものの、垢抜けない顔立ちのせいで取り合えず、体裁を保つ為にキャバ嬢の格好をさせているという様子が見て取れた。

「そ。このコが落ち着くまでの間、玲の所で面倒見てくれる? ほら自己紹介。
どうしようも無いくらい腰癖が悪いけど、イヤって言えば止めてくれるし、頼りにはなるから」

「どういう紹介だよ。本……ッ当に退屈する暇もねぇな、この街は!!」

少々、頭の出来が残念な矢神でも、格好や状況、雰囲気からして候補.3――時間制限付の爆弾であろう事は想像に容易い。
きっと明日からも、寝ている暇が無い程に忙しい日々が訪れるであろう事を想像した矢神はヤケクソ気味に叫んで酒を煽るのであった。

因みにこれから暫くの間、矢神は剣おじさんと書面のみでのやり取りを続ける事になるのだがその正体を知るのは約十年後。
数ヵ月後に出会うライバルの結婚式。其処で果たした彼等の再会が感動的であったのか、どのような言葉を交わしたかについては、また別の話である。