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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.10B

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匿名ユーザー

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 幾多の星が瞬く夜空の下、白銀の機影は音も遥かに置き去りにしてただ駆ける。
 “目”に映るのはいつも通りの空。“耳”に聞こえるのはいつも通りの静寂。だが――

「音が、近付いてきている……?」

 あの音が、あの耳障りな、醜悪な音が、“心”に嫌というほど絡み付いて離れない。
 更に進むほどに大きくなるそれは嫌悪感を抱かせるのには十分過ぎた。

<この反応――少なくとも励起獣では無いが、目視するまでは安心出来んな。>

 敵意があるかはさておき、そのまま放って置くことも出来ない。この目で何者かを見極め、どうするか考えるべきだろう。

「……あれか?」

 やがて、その姿は現れた。
 白い綿雲が浮かぶ星空の内、不自然に周囲より浮き出た“何か”が漂う。少なくとも雨雲では無く、遠目に見れば黒い排煙のようにも見える。
だがそれは

「――――!あれは!」

蠢いていた。
聞こえていたのは音の域を超えた音。
見えていたのは黒く、そして酷く小さなモノの群れ。
それが猛然とこちらに向かって真正面から突っ込んできていた。

「ッ!」

 ソートアーマーは意思に応じ機敏に進行方向を変え、“それ”の脇へと何とか逸れる。
 すぐ横を通り過ぎる“それ”。音も次第に遠ざかっていく。

<……ディー、今のは一体?見知ったような言い方だったが。>
「……“サビムシ”ってバリードの一種だ。錆びた鉄くずやらジャンクやらを主食にする奴でな。数十匹ぐらいが群れになってる所なら俺も何度も見た事はあるが……」

 そう、特にアレ自体はそう珍しいモノじゃない。
 人に対しては無害であり、その為自警団の駆逐対象にもなっておらずスカベンジャーを営んでいる者なら極々当たり前に目にする小型バリード。

「こんな空高く、それもあんな量の群れが飛び回るなんて考えられない。それにあの異様な音……」
<人の可聴域を超えた高周波だな。ディーにも分かったという事は、御する者としてイグザゼンとリンクする事で一部の感覚が鋭敏になり聞こえていたのだろう。>
「なるほど……」

 ソートアーマーの巡航速度と比べれば極々遅いものの、一般的な感覚では十分猛スピードと言っていい速度で遠ざかっていくサビムシの群れ。普段はあんな機敏に動く奴でもないというのに。

<――周囲10キロ四方に酷似した反応を多数確認。」
「!?」
<高周波はフィルタしておくが、どうもただ事では無さそうだ。>
「ああ、こいつらがこんな一斉に……?」

 意識の内にイメージとして直接浮かび上がる無数の動体反応。
 ソートアーマーの目を通しても、黒い靄がそこいらに浮かんでいるのが分かるし、目を凝らして見れば地上にはそれ以外の小型、中型のバリードの姿まで見える。
そのどれもが俺達の来た方向へ向かって一目散に駆けている。どう考えてもまともじゃない。

「……アリス、この先には何がある?」

 脳裏を過ぎる嫌な予感。そうであってほしくない予感。
 それらを胸に押し込み、冥い夜空を遥かに望んで小さく呟く。
俺の問いに対し一拍置いた後アリスは

<小規模な居住区域が点々と存在し、その先約300km前方に超大型構造物を内包する大規模な居住区域を確認――ほぼ間違いなく、リョウの言っていた“ペンタピア”だろう。>

 包み隠さず冷酷な事実を知らしてくれた。

「何かあるとすればそこしかねぇな……急ぐぞ!」
<了解した。>

 蒼い一筋の軌跡を残し、巡航速度まで瞬時に加速するイグザゼンソートアーマー。

(ベル、バール……)

 今出来る事は急ぐ事だけ。

(お願いだから、無事でいてくれよ……!)

 白銀の機人は主の思いに応じ、力の限り疾く疾く駆け、白き矢の如く闇夜を貫いていった。


 引き込まれそうなほど透き通るように鮮やかで、艶やかな蒼。
 半透明で、ダガーナイフぐらいの小さな刀身。ただし切っ先は極めて鋭く、触れるモノを皆切り裂いてしまいそうな迫力がある。

「…………」

 お風呂場で見つけたそれは何処からともなく現れて、あたしの足元に転がっていた。
 アリスちゃんのモノの筈のこれが何故こんな所に? ――なんて分かる筈の無い疑問を投げかけるのは早々に切り上げ、あたしはそれをずっと無心で眺めていた。

「…………」

 どうせ誰も来ないのだし服を着るのも億劫だ。
 なのでタオル一枚巻いたまま、ベッドに寝転がり刀身を光に透かしてただ眺める。

「…………」

 不思議だ。
 この蒼の向こうにディーやアリスちゃん達が見えるような気がする。

「…………ッ」

 手放したくない。
 絶対に手放したくない。何故? なんて考えない。だって実際そうなのだから。

「…………」

 あたしは嘘が嫌いだ。
 人につく嘘も、自分につく嘘も嫌いだ。
 だからそう思うままに感じ、感じるままにこう思う。



手放したくない、と。



 ――その想い、忘れないように、ね?

「!?」

 何処から聞こえたか?何処からも聞こえてはいない。
 じゃあ何で聞こえた?聞こえたのだから聞こえた。

 ――……屁理屈ねぇ?

 大きなお世話。
 それにしても、あなたは一体……?

「やっほ。」

 今度は何処から聞こえたのかよーく分かった。
 主に背後から。ツー……と、背中を撫でるように。

「み゙ゃ!?」

 たまらず飛び退き、慌てて振り向く。

「そんなに驚かなくてもいいのにぃ?」

 ベッドの端に腰掛け、足をブラブラさせつつでくすくすと、悪戯な笑みを浮かべる小さな女の子。
 1年ぐらい日の当たる所に出てないんじゃないかと思うぐらい真っ白な肌に、目にも鮮やかな赤いドレスを身に纏う。
小さい頃こんな感じのお人形、バールにせがんだけど買ってくれなかったのよねぇ……懐かしい思ひ出です。
と、それは置いといて……あれ?そういえば、この子そのお人形以外で何処かで見たような……

「あなた何処かで……?」
「アタシは無いねぇ?」

 やっぱり気のせいか。しかし……

「いきなり背後から出てくるなんて非常識ね。ノックぐらいしなさいよ。」
「ん~?以後気をつけまくる?」
「まくらなくて結構。」
「そっか~」

 あははと笑う女の子。
 多分あたしを浚った奴らの一員なんだろうけど、そんな雰囲気がまるで感じられない不具合。

「そうだ、自己紹介がまだだったねぇ?アタシはビュトス。あんたは……えーと。」
「ベル。」
「そーだ、そーだ。ベル……だったねぇ?さっき聞いたのに忘れてたよ。アタシ他人の名前覚えるの苦手でねぇ、よく忘れるんだ。」
「誰から聞いたの?」
「ヌースって言うの。ぬすっとじゃないよ?ヌース。」
「へぇ……その人、あなたの何?」
「奴隷。」
「オウフ」

 ここでまさかの奴隷発言。
 ……多分、この子のお目付け役かお手伝いさんか何かなのだろう……そう考えておこう、うん。

「――で、何であたしの所に?」
「そのナイフ。」
「……これ?」
「そ。それ。変な励起を感じたから何となく来てみたらこんな所にイグザダガーがあるんだからびっくりしたよ。」
「イグザダガー……」
「それ、イグザゼンの武器の1つでね。タダの人が持ってるはずの無いものなのよねぇ。」
「じゃあ何でこれがあたしの所に?」
「さぁ?」
「さぁ……って。」
「ま、多分そうだと思う考えはあるけどねぇ。」
「それは?」
「あんた、イグザゼンかその武器に触った事があるでしょ?」

 間違い無く。
 ナイフ片手に単身突入ポッドに挑もうとしたのは我ながら無謀だったなぁ……

「ええ……あるわ。」
「それね。あんたの内に残ってた“破壊”の式がそれを産んだの。」
「破壊?」

 いきなり物騒な単語が飛び出すが、ビュトスは特に気にする事無く言葉を続ける。

「破壊とは何もモノを壊す事だけじゃないわ。一念発起、現状の打破、自分の殻を破る、えとせとら、えとせとら……何かを変えようとする想いも十分“破壊”の力なのよねぇ。」
「それで……」
「あんたの想いに式は呼応した……うん、そんなところかしらぁね?」
「…………」

 改めてそのナイフを見つめる。
 ただただ深い蒼を湛えるそれは、何処かこの世の物でない様な不可思議な印象が無くも無い。だけどこれが“破壊”の……?

「それ、大事に持ってなさいよぉ?多分役に立つと思うからさぁ!あははは!!」
「……!?」

 目の前から聞こえていた筈の、目の前に座っていた筈のあの子の姿と声は何故か全方位から響くように虚ろに消えて、やがてその全てを失わせた。

「あの子、一体……?」

 再び1人になった部屋で独り呟く。
 赤くて白い女の子“ビュトス”。やっぱり何処かで見たような……

「うーん……」

 いつものようにまぁいいかと片付けられないこの心境。
 歯と歯の隙間に何かが挟まったみたく、どうしても何処か引っかかったその“何か”。
 そう言えば、あの子にはあたしを捕まえてどうするつもりだったのかとか色々聞いた方が良かった気がするがそれはこれに比べるとわりとどうでもいい。
 今はこの気になって仕方ない“何か”についてナイフ片手に頭を捻らす他無かった。

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