我が翼を想いて4

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橙色の夕日が木漏れ日となって降り注ぐ、夕暮れ時の深い森の中。
幾本もの枝を折りながらドオオンという盛大な音を立てて狭い木々の隙間に着地したまではいいものの、僕は眼前に広がっていたその光景に愕然とした思いを抑えることができなかった。
何処までも何処までも続いていくような薄暗い樹木の回廊が、視界の全てを覆い尽くしている。
彼女は一体、この広大な森の何処に落ちてしまったのだろうか?
上手く身動きの取れない首を周囲に巡らせてみても、彼女や蛮族はおろか1匹の獣の姿すら見当たらない。
着地するときに木の幹へとぶつけてしまったのか体のあちこちがジンジンとした鈍い痛みを放っていたものの、僕は不安と焦燥に焼かれ始めた胸に手を当てながら狭い木々の間を縫うようにして歩き始めていた。
一刻も早く彼女を見つけ出したいのはやまやまだが、敵がいるかもしれないこの場所では大声を出すわけにもいかないだろう。
それにもし落下の衝撃で彼女が気を失っていたとしたら、その折角冒した危険も無駄になってしまう。

だが一向に彼女の行方が掴めぬまましばらくの間これといった当てもなく森の中を彷徨っていると、僕はやがて無数の木に囲まれた大きな道らしき場所へと辿り着いていた。
獣道にしては、あまりに広過ぎるだろう。
何しろ、人間にとっては巨大な僕ですらもが立ち並ぶ木々を気にせずに悠々と歩ける程なのだ。
そしてふと前方を見上げると、その道の奥の方から1人の人間が必死にこちらに向かって走ってくるのが見えた。
彼女だろうか・・・?
いや、人間の体に不慣れな彼女なら、あんな風に思い切り走ることはできないはずだ。
それに見たところ、右手に細い手作りの槍を持っている。
年齢も12、3歳くらいの、幼い蛮族の少年のようだ。

それにしても、彼は何故あんなにも必死に走っているのだろうか・・・?
まるで、恐ろしい何者かから逃げようとしているようにも見える。
だがやがて少年の向こう側から近付いてきているそれを見て、僕は彼の必死さの理由を悟っていた。
僕などより更に一回りも大きな雄の巨竜が、こけつまろびつ逃げ惑う少年を追い回していたのだ。
その硬そうな皮膜はくすんだ茶色に染まっていて、ゴツゴツとした背中からはまるで燃えているかのように真っ赤な1対の翼が広げられている。
頭頂から生えた薄紅色の角と金色に輝いた瞳が狂気の気配を感じさせ、堅牢な甲殻に覆われた手足の先から伸びる爪は薄っすらと血に染まっているかのようだった。
僕の他にも、森に入った竜騎士がいたのだろうか?
まあ仮にそうであったとしても、あんな少年を何もあそこまで執拗に追い回さなくてもいいだろうに・・・

ガッ!
「うわっ!」
だがしばらくその様子を眺めていると、ついに恐怖に耐え切れなくなったのかフラリとよろめいた少年が足を縺れさせて地面の上へと倒れ込んでいた。
そしてその場に尻もちをつくと、少年がにじり寄ってくる巨竜をガタガタと震えながら振り仰ぐ。
「う、うあ・・・た、助けて・・・ひ・・・ひぃぃ・・・!」
せめてもの抵抗なのか少年が手にした小振りの槍を眼前の竜に思い切り投げ付けたものの、その粗削りな刃はカンという空しい音とともに硬い外皮に弾き返されて竜の足元に転がった。

これ以上はやり過ぎだ。
いくら敵である蛮族とは言え、あの怯え切った少年をあれ以上追い詰める必要が何処にあるというのだろうか。
そう思って仲間の凶行を止めようとした次の瞬間、雄竜が何の躊躇いもなく巨大な手でその少年を踏み付ける。
ドシャッ!
「ぎゃっ・・・!」
更には激しく踏み潰されて息も絶え絶えな少年の体を持ち上げると、雄竜がガバッという音とともに人間をも丸呑みにできそうな顎を大きく開けていた。
「ぅ・・・ぅぁ・・・」
やがて朦朧とした意識の中でこれから自分が辿るであろう末路を悟ったのか、少年が小さく呻きながら雄竜に持ち上げられたまま微かに身を捩る。
馬鹿な・・・竜騎士の竜達は蛮族達を殺すことはあっても、人間を捕食したりすることはないはずだ。
だが現実に今、僕の目の前で瀕死の少年が巨大な竜に食い殺されようとしている。
そして高々と持ち上げられた少年が足元に開けられた巨口に向かって投げ落されるその様子を、僕はまるで石のように固まったまま唖然とした表情で見つめ続けていた。

ロクに動かぬ体での必死の抵抗も空しく、僕はドチャッという音とともに大きな竜の口へと放り込まれていた。
「わあぁっ!」
その口腔に溜まったまるで熱湯のように熱い唾液の海に体が浸されたと思った次の瞬間、バクンという絶望的な響きとともに開いていた竜の口が勢いよく閉じられてしまう。
一瞬にして真っ暗な闇に包まれた恐ろしい巨竜の口内から逃げ出そうにも、もう僕には竜を怯ませるための武器もなければこの死の肉洞から這い出す体力すらも残されてはいなかった。
僕の父さんと母さんを食い殺したこの悪竜の腹の中に、僕もまた成す術もなく引きずり込まれる運命なのだろう。
ニュル・・・ジュルル・・・
やがて捕らえた獲物がすっかり万策尽きたことを確信したのか、煮え滾る唾液を纏った竜の長い舌が僕の服の中へジワジワと侵入してくる。
「うあっ・・・あ、熱・・・やめて・・・やめてよぉ・・・」
そんな僕の狼狽を楽しむように、肌の上を這い回る舌の動きが少しずついやらしくなっていった。
胴体に巻き付けられた舌先が僕の乳首をチロチロと舐め回し、もがこうとする両腕をギュッと締め付けてくる。

ペロ・・・ペロ、ペロペロ・・・
「ああん・・・い、いやだ・・・だ、誰か・・・助けてぇ・・・」
だがいくら必死に泣き叫ぼうとも、この竜がそんな命乞いを聞き入れてくれるような相手でないことは既に十分過ぎるほど思い知らされている。
何しろこいつは数日前に突然この森へと姿を現し、僕達の村を襲って大勢の人々をその手に掛けたのだ。
だから村人総出でこいつを退治しようと、生き残った皆で協議を纏めていたところだったというのに・・・
ジョリッ
「はぁっ!あ・・・はぅ・・・」
不意に股間を舐め上げられた想像以上の快感に、僕は舌のとぐろの中で仰け反っていた。
こいつはこうやって、じわじわと僕を嬲り尽くすつもりなのだ。
そして小さな声も上げられぬ程に弱らせてから、満足げに僕をその腹の底へ呑み込んでしまおうというのだろう。
ショリ・・・ショリショリ・・・
「ふぁ・・・あぐ・・・ふぐぅ~・・・」
僕はなおも強制的に与えられるその快楽に身を捩じらせながら、ボロボロと悔し涙を流していた。
せめてサルナークの連中さえ攻めてこなければ、こいつを打ち倒すことが出来たかも知れないというのに・・・
やがて酸欠にゆっくりと遠のいていく意識が、僕を深い冥府の世界へと誘っていった。

ゴクリ・・・というくぐもった音とともに、天を仰いだ雄竜の喉の膨らみが腹の方へと消えていく。
その恐ろしい光景の一部始終を凝視しながら、僕はようやくこの雄竜の正体に思い当っていた。
こいつは竜騎士の竜ではなく、この森に棲んでいる野生の雄竜なのだ。
ということはもしかしたら武装した蛮族達が森を賑わせていたのは、サルナークを侵略するためではなくこの雄竜を退治するためだったのかも知れない。
もしそうだとすれば、僕たちはとんでもない早とちりをしてしまったことになるだろう。
そして早めの夕食を終えた雄竜の視線が、今度は少し離れて彼を見つめていた僕へと真っ直ぐに向けられていた。
まずい・・・僕の予想が正しければ、あの雄竜にとって僕は縄張りを侵す同族の侵入者と看做されるに違いない。
話し合いなどという生易しい手段が通用しないことは、今の残酷な光景を目の当たりにした僕にも理解できる。
早く逃げなければ・・・!
だが頭の中ではそう思っていても、体は言うことを聞いてくれなかった。
いかに自分の見た目が巨大で逞しい雌竜であるとはいえ、その正体はつい昨日まで平和で満ち溢れた世界に暮らしていた、何処にでもいるごくごく普通の人間なのだ。
そんな僕の頭が、その四肢が、そしてその心が、強大過ぎる敵を目の前にして恐怖の金縛りにかかっている。
やがてジリジリと肉薄してきた雄竜がおもむろにその鋭い爪の生えた腕を振り上げると、僕は恐ろしさのあまり思わず情けない悲鳴を上げてしまっていた。

「う、うわあああああ!」
「グオアアァッ!」
ガッ!ザクッ!
次の瞬間、額の辺りに激しい痛みと衝撃が弾け飛ぶ。
鼻の上から何かドロリとしたものが流れ落ち、口の中にあっという間に苦い血の味が広がっていった。
自分では怪我の様子を確認することはできなかったものの、流血の様子から察するにかなり深い傷を負ってしまったのは明らかだ。


くそ・・・僕も・・・こいつに殺されてしまうのだろうか・・・?
まだ、彼女も見つけられていないっていうのに・・・
「やめろ!私が相手だ!」
だが相変わらず殺意を滾らせた眼で僕を見下ろす雄竜を悔しげに睨み返したその瞬間、突然何処からともなく聞き覚えのある声が周囲に響き渡っていた。

反射的に声のした方向へと顔を振り向けてみると、そこでは僕が・・・
いや彼女が、森に落ちた時に怪我をしたのかあちこち傷だらけの姿でキッと巨大な雄竜を睨み付けていた。
その手には何時の間に拾い上げたのかあの蛮族の少年が持っていた小さな槍が握られていたものの、巨竜を相手にする恐ろしさ故かその膝が強気な言葉とは裏腹にガクガクと笑っている。
「グルルル・・・」
そんな自らに楯突く卑小な人間を嘲笑うかのように、雄竜が微かな唸り声を上げながら彼女へと牙を剥いていた。
「だ、だめだ・・・とても敵いっこないよ・・・早く逃げて・・・!」
「な、何を言う。こんな雄竜など、さっさと蹴散らしてやるのだ」
だがそう言いながらも明らかな引け腰で繰り出した彼女の槍が、堅い竜の胸郭に突き当ってポキリと折れてしまう。
「ああっ!」
「グオアッ!」
そして槍が折れた拍子にバランスを崩した彼女目掛けて、屈強な竜の尾がブォンという音とともに振り回された。

ドッ・・・ズガッ!
「が・・・あ・・・」
無防備な隙を晒してしまった腹に激しい尾撃の衝撃を感じた次の瞬間、私は勢いよく吹き飛ばされて背後にあった大木の幹に背を強か打ち付けていた。
その拍子に前後から立て続けに揺さ振られた肺が息を詰まらせ、光の弾けた目の前が真っ白に染まってしまう。
そしてその場へドサリと崩れ落ちた私に、間髪入れずに雄竜がとどめの尾を振り下ろした。
ズドォッ!ベキ・・・ベキバキ・・・
「・・・・・・!」
全身の骨が砕けた音か、それとも背後の木が圧し折れた音なのか、鋭くも耳障りな破壊音が周囲に響き渡る。
その強烈な一撃で竜の尾と木の幹の間に激しく挟み潰されて、私は一瞬にして意識を断ち切られてしまっていた。

ああ・・・か、彼女が・・・
それは僕の眼前で繰り広げられた、目を覆いたくなるような束の間の惨劇。
雄竜の2度に亘る容赦のない尾撃に打ちのめされて、僕の姿をした彼女がぐったりとひしゃげた大木に寄り掛かったまま意識を失ってしまう。
早く助けなければ・・・彼女が・・・彼女が殺されてしまう・・・!
「うう・・・うわあああああっ!」
そんな本能的な危機感に焚き付けられて、僕は大声を上げながら彼女に迫る雄竜へと飛び掛かっていった。
更には飛び掛かった勢いに任せて雄竜の体を仰向けに地面の上へ押し倒すと、以前に訓練所で彼女がそうしたように曝け出された雄竜の股間へと柔らかな毛尾を思い切り擦り付けてやる。
ジョリッジョリジョリッ
「グ・・・ガッ・・・!」
恐らくは生まれて初めて感じたのであろうその未知の快感に、雄竜が思い切り体を仰け反らせた。
だが、もちろんこの程度で済ますつもりなど毛頭ない。
彼女の身を、そして僕自身の身を護るためにも、今は勇気を振り絞らなければならないのだ。
そして尻尾で擦り上げられた雄竜の股間で首をもたげた太い肉棒を目にすると、僕はほとんど無意識の内にそれを自らの熱い膣の中へと呑み込んでいた。

グシャッ!グシャッ!グシャァッ!
「この!この!このぉ!よくも彼女を・・・!絶対に許さないぞ!」
「ガァウッ!ウアッ!ガアァッ!」
黄昏時の静寂に包まれた森中に、次々と凄まじい圧搾音が響き渡る。
大切な彼女を傷付けられたことに対する激しい怒りが、そのまま湧き上がる衝動となって僕の腰を突き動かしているかのようだ。
魔性の膣に捕らえた肉棒から大量の飛沫が噴き出しても、雄竜の顔に例えようもない苦悶の表情が浮かんでも、僕はただただひたすらにその敏感な雄の弱点目掛けて拷問にも似た快楽の嵐を叩き込み続けていた。
「ウガ・・・ア・・・グ・・・ゥ・・・」
そんな一方的な責め苦が、たっぷり10分以上も続いた頃だろうか・・・
やがて屈強な雄竜が漏らしたとは到底思えぬか細い断末魔の声とともに、それまで多少なりとも力無い抵抗を示していた巨竜の体がグッタリと弛緩する。
そして激しすぎる行為に耐え切れなかった雄竜が力尽きて完全に動かなくなったことを確認すると、僕はグボッという音とともに大量の白濁を溢れさせながら搾り尽くした肉棒を膣から引き抜いていた。

彼女は・・・無事なのだろうか・・・?
やがて無我夢中で殺してしまった足元の雄竜から無理矢理に視線を引き剥がすと、僕は相変わらずさっき見た時と全く同じ姿勢で木に寄り掛かっている彼女の安否を確かめにいった。
無残に拉げてしまったその大木の様子から、彼女が受けた尾撃の威力が窺い知れるというものだろう。
「ねぇ・・・大丈夫・・・?」
そしてできるだけ怪我に障らぬようにそっと彼女の体を揺すってみると、苦しげに歪められていた彼女の目が薄っすらと開けられる。
「う・・・うぅ・・・ぐふっ・・・」
だが小さな唸り声が聞こえてきたかと思った次の瞬間、彼女がその口から真っ赤な鮮血を吐き出していた。

「ああっ・・・どうしよう・・・」
吐血したということは、彼女はきっとあの尾を打ち付けられたせいで酷く内臓を痛めてしまったのだろう。
それはつまり、もう彼女が助からないということを暗に示していた。
「ぐ・・・うっ・・・に、人間の体とは・・・何とも脆いものなのだな・・・」
「どうして・・・?どうしてあんな無茶を・・・」
「あ、あんな雄竜に怖気付いていたお前を見るに見かねて・・・つい、飛び出してしまったのだ・・・」
何処かが痛むのだろうか、ゆっくりと言葉を紡ぐ間にも彼女が痛みを堪えるかのように幾度となく顔を顰める。
「ご、ごめん・・・僕のせいで・・・あなたをこんな目に・・・」
「フ、フフ・・・だが・・・強くなったではないか・・・お前はもう、私がおらずとも・・・」
「嫌だ!嫌だよ・・・お願いだから・・・そんなこと言わないで・・・」
彼女の口から今にも聞こえてきてしまいそうな別れの言葉を、僕はブンブンと頭を振って遮っていた。

僕のそばから、彼女がいなくなってしまう・・・
ともに過ごしていれば何時かは起こり得るその瞬間を、僕は今の今まで考えもしていなかったのだ。
そしてそんな思考を停止してしまった頭の中に、遠い過去を振り返る彼女の声が沁み渡っていく。
「ああ・・・20年以上前のあの時も・・・きっと私はそんな風に取り乱して泣いていたのだろうな・・・」
「う、うぐ・・・ひぐ・・・僕・・・どうしたらいいの・・・?」
少しずつ、少しずつ・・・彼女の命の輝きが薄れていく確かな実感がある。
にもかかわらず死にゆく彼女に対して何もしてやれないという絶望感に、僕はただただ嗚咽を漏らし続けていた。
「泣くな小僧・・・この私まで・・・お前と別れる悲しみが込み上げてくるではないか・・・」
「だって・・・もうあなたに会えないなんて・・・そんなの・・・そんなのないよぉ・・・うぅ・・・」
「では、私を舐めてくれぬか・・・味も、香りも、声も・・・私の全てを、お前の五感に焼き付けて欲しいのだ」
か細い声でそう言われ、僕はなおもボロボロと大粒の涙を流しながら目を閉じた彼女の顔を無言で舐め上げた。
ペロペロ、ペロペロとざらついた舌がその頬を駆け上がる度に、形容し難い複雑な感情にも似た奔流が舌を伝って僕の中へと流れ込んでくるような気がする。

誰か・・・誰でもいい・・・神様でも悪魔でもいいから・・・彼女を助けて・・・
一心不乱に彼女の顔を舐め続けながら、僕は胸の内で強くそう願っていた。
彼女が助かるというのなら、僕の体なんてどうなろうと構わない。
僕はただ、このとても強くて、優しくて、それでいて美しい雌竜の魂を、どうにかして救ってやりたかったのだ。
涙は今も止まらない。それに僕はもう、彼女のこと以外何も考えることができなかった。
不意に首筋に感じた不思議な熱さも、火照った体が深い意識の奥底へと引きずり込んでいく。
だがやがて聞こえたコトッ・・・という小さな音でふと我に返ると、僕は舌を止めて彼女の顔を覗き込んだ。
地面の上に力無く投げ出されている小さな人間の手が、それを見る者にある尊いものの終焉を告げている。
まるで眠っているかのように穏やかに目を閉じた彼女は・・・もう、息をしていなかった。
「あ・・・ああ・・・そんな・・・うわああああああん・・・・・・」
それまで辛うじて抑えていた感情の箍が外れ、喉の奥で堰き止めていた甲高い慟哭の声が森の中に迸っていく。
彼女の死という到底受け入れ難い現実に打ちのめされて、僕はその場にくず折れたまま激しく泣き続けていた。

「う・・・うっう・・・あうぅ・・・」
もう、どれくらい泣いていただろうか・・・
すっかりと日の暮れた森の中は真っ暗な闇に包まれ、厚い木々の梢が微かに顔を出し始めた三日月の淡い光をも遮っている。
辺り一面を覆った夜の帳と静寂の中に、押し殺した僕の泣き声だけが空しく響いていた。
「うぐ・・・ひっく・・・ううぅ・・・」
「・・・・・・一体・・・いつまでそうして泣いているつもりなのだ・・・?」
「え・・・?」
深い悲しみに暮れていた意識の中に突如として割り込んできた、雌竜である彼女本来のほんのりと艶がかった声。
その決して有り得ない事態に驚いて、僕はゆっくりと地に伏した顔を上げていた。
だが暗闇の中に薄っすらと見える僕の姿をした亡骸は、依然として永遠の沈黙を守り続けている。
「い、今のは・・・?」
「私にもよくわからぬ・・・だが奇跡というものは、時に2度3度と立て続けに起こるものらしい」
そしてその声とともに、僕の手がゴシゴシと独りでに僕の涙を拭っていた。

「も、もしかして・・・あなたの魂が僕の体に・・・?」
「そういうことだ。お前の体が死を迎えて元の鞘に収まったのか、あの石の力なのかはわからぬがな・・・」
そう言いながら僕が、いや彼女が、鬣に縫い付けてあったあの白い石をブチリという音を立てて毟り取る。
「痛っ!」
「ああ、済まぬ。お前の痛みも、私と共有しているのだったな」
だが自らの手に握られていた石を目にすると、僕はその痛みも忘れて思わず大きく目を見開いていた。
「あれ?この石・・・真っ黒になってる・・・」
「これが、この石の本来の姿なのだろう。そして誰かの願いを宿し叶える時に、その身を白く染め上げるのだ」
そんな彼女の回想が、僕の脳裏にも20余年前の人間との別れの光景を自分のことのように再生する。
"あれ・・・?おかしいな・・・見つけた時は綺麗な黒曜石だと思ったのに・・・白くなっちまったよ"
そうか・・・彼はこの時、自らの伴侶である彼女と1つになりたいと強く願っていたのだろう。
そしてその願いが、僕と彼女の体を入れ替えるという奇跡を起こしたのだ。

「じゃあこの石が、今度はあなたを助けたいっていう僕の願いを叶えてくれたんだね」
「ああ・・・だが、お前の体はもう・・・」
彼女の落胆した声に、僕は眼前で息絶えている自分の抜け殻をチラリと一瞥した。
見るも無残な姿だと言ってもいいだろう。だが不思議と僕に、後悔の念は全く湧いてこなかった。
「気にしないで・・・僕、あなたと一緒になれて嬉しいよ。もう、ずっと離れなくていいんだもの」
「そう言ってもらえると私も気が楽になる。さあ、もう夜も遅い。厩舎に戻って、美味い食事を楽しむとしよう」
「うん!」
やがて森を抜けて夜空に飛び立った僕は、彼女とともにしばらく静かな遊覧飛行を楽しんでいた。

それから数日後、人間と竜という2つの魂を宿した青き雌竜は唯一の主を持たぬ竜として竜騎士の部隊に属しながらも、養成所の厩舎ではなく国の東にある洞窟で暮らすことを選んだ。
彼らに不思議な奇跡をもたらした黒い魔石は過去との決別を誓った雌竜から直接サルナークの王へと献上され、宝飾技師の手によって後に友好の証として隣国に贈与される小さなペンダントへと作り変えられることになる。
そして1匹の竜らしく生きるために大きな洞窟へ移り住んだ彼らはというと・・・

「ねえ、お腹空かない・・・?」
「お前が空腹なら、私も空腹に決まっているだろう?」
「じゃあ、何処かに狩りに行こうよ」
天井から差し込んでくる微かな陽光に身を晒して転寝をしていた彼女が、それを聞いてゴロリと体を転がす。
「それは構わぬが・・・お前は生肉を食べられるのか?」
「食べたことがないからわからないけど・・・あなたが美味しいなら、きっと僕にも美味しく感じられるよ」
「フフ・・・それもそうだな・・・では、出掛けるとしようか」
その言葉で洞窟の外へと首を振り向けた僕の目の前に、彼女の体に負けず劣らずの青く美しい空が広がっていた。



感想

  • 泣ける&いい!! -- パーオリ (2011-04-02 19:07:28)
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