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静寂の夜に2

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匿名ユーザー

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恐らくは9年振りに目にするであろう、浅い海底で蠢く小さな生き物達。
普段暮らしている遥か遠くの海域から夜通し実に500km以上に渡って泳いできたお陰で、俺は朝日に照らし出されているすっかり様変わりした辺りの様子に大きく目を瞠っていた。
あの時作った洞窟は、多分この辺りにあったはずなのだが・・・
そういえば俺が最初に作った大きな住み処には首尾よく随分と綺麗な雌の海竜が住んでいたというのに、何だかその彼女にはかなり酷い目に遭わされて洞窟の外へと放り出されてしまったような記憶がある。
雄の俺が地面に組み敷かれて気を失うまで雌に弄ばれてしまったなどとは他の仲間には口が裂けても言えないが、それでも今考えると随分もったいないことをしてしまったものだ。
まあ前のよりは少し小さくなってしまったとはいえ、別の場所に新しい住み処を作ってからもう既に9年が経つ。
さすがにそれだけの時間があれば、新しい住み処に他の雌海竜が住んでいてもおかしくはないだろう。
「あったぞ・・・あれだな・・・」
やがて1時間程おぼろげな記憶を頼りに陸沿いの海を泳ぎ回って9年前に作った住み処を見つけると、俺は高鳴る胸を押さえながらその暗い洞窟の中へと体を滑り込ませていった。

チャプン・・・
果たして、雌海竜はいるのだろうか・・・
そんな期待と不安を咀嚼しながら、俺はゆっくりと住み処の水面から顔を突き出した。
そして岩床の真ん中で蹲ったまま眠りについている小柄な海竜の姿を目にした途端、あまりの嬉しさに思わず水の中から飛び上がりそうになってしまう。
その薄い紫色の体色と背中に走る甲羅状の文様には何となく見覚えがあるような気がしたものの、見たところまだ3、4歳のかなり若い娘らしい。
俺は音を立てないように静かに水から上がると、うつ伏せに眠っていた彼女の体をヒレの先でゴロンと転がした。
「きゃっ、な、何・・・!?」
そして彼女が驚いて飛び起きたのにも構わず一気に飛びかかってその小さな体を仰向けに腹の下に組敷くと、俺は可愛げなその娘の顔をじっくりと眺め回した。


「ヘヘヘ、何っていうことはないだろ?ここは俺の住み処・・・つまり、お前は俺の妻になる雌だってことさ」
浅い眠りから覚めたあたしの前に突然現れたのは、全身が赤っぽい皮膚に覆われている大きな雄の海竜だった。
実際に雄海竜を目にするのは初めてなものの、手足の代わりに生えた4枚の大判のヒレを見れば大体の想像はつく。
しかも彼はあろうことかあたしの体を固い岩床の上に押し付けると、ウミガメのようにも見えるその巨体で身動きが取れないようにのしかかってきているのだ。
「ば、馬鹿言わないで!何でいきなりあんたなんかと・・・うあ・・・あぁっ・・・!」
ミシッ・・・ミシシッ・・・
そして咄嗟に拒絶の意思を口にした途端、まるであたしの体を押し潰そうとするかのようにズッシリと凶悪な体重が容赦なく預けられてしまう。
必死に胸ビレで不埒な雄海竜の体をパタパタと叩いて抵抗を示してみるが、彼は顔色1つ変えることなくあたしの顔をジロジロと値踏みしていた。

「ほらほら、おとなしくした方がいいぞ。その方が苦しくないだろう?」
「あ、あたしを一体どうするつもりよ!」
「決まってるだろ?お前はこれから俺と一緒に暮らすんだ。まずは、味見しておかないとなぁ・・・」
あ、味見・・・?
その言葉にあたしは一瞬彼に食べられてしまうのかと思ったものの、すぐに彼の意図を察していた。
先程からあたしの下腹部の辺りに押しつけられているゴツゴツとした固い感触・・・
無抵抗な雌海竜を目の前にして興奮する雄の肉棒が、ヒクヒクと期待のこもった戦慄きを伝えてくる。
あたし・・・こんなどこの誰かも分からない雄に強引に犯されるの・・・?
「ちょ、ちょっと・・・やめて・・・いや・・・いやあぁ・・・」
「へへへへ・・・」
あまりの力の差に抵抗しても無駄だと悟った瞬間、じわりと目から熱い涙が溢れてきた。
そんなあたしの弱り切った様子にさらに興奮してしまったのか、彼がずいっという音とともに固くそそり立った怒張をあたしの眼前へと曝け出す。

「助けて・・・パパ・・・ママ・・・リドォ・・・!」
自慢の胸ビレも岩床に押しつけられてしまい、あたしは唯一自由の利く首を精一杯左右に振ってもがいていた。
だがその必死の叫び声も空しく洞窟の中に反響して消えてしまうと、いよいよあたしの中を貫こうと固い肉棒の先端が秘裂へと押し当てられる。
ズッ・・・ズズッ・・・
「あ・・・ああぁん!」
まだ若いリドのモノとは異なる歪に膨れ上がった雄槍が侵入してくる感触に、あたしは大声で泣き叫んでいた。

「あーあ・・・魚獲るのに夢中になって時間がかかっちゃったな・・・早く戻らないと・・・」
魚群を追っていく内に何時の間にか随分と遠くまで来てしまっていたようで、僕は口一杯に捕まえた魚を頬張りながら真昼に向けて空高く昇り始めた太陽の下を住み処に向かって泳いでいた。
出てくる時は姉はまだ眠っていたものの、今頃はお腹を空かせて不機嫌そうに僕の帰りを待っているに違いない。
やがて薄暗い海底にようやく住み処の入口が見えてくると、僕は泳いできた勢いのまま洞窟の中へと飛び込んでいった。

ザバッ
「ごめん姉ちゃん!遅くなっちゃっ・・・た・・・」
きっと姉が怒っているだろうという予想の下に、水面から顔を出しながら謝罪の言葉を口にする。
だがそんな僕の目の前にあったのは、見慣れぬ橙色の大きな塊だった。
そしてその正体が何なのかも理解できない内に、微かにくぐもった野太い声が洞窟の中に反響する。
「んん・・・何だお前は・・・?」
その声とともに大きな塊の向こう側からこちらに振り向けられた頭を目にして、僕はようやくそれがどうやら雄の海竜であるらしいことを悟っていた。
確かによく見れば丸い塊に見えた胴体の後ろからは海竜らしい長くて太い尾が伸びていて、四肢に当たる部分からは姉のそれよりも一回り大きな分厚いヒレが生えている。
しかもあろうことかその重たそうな雄海竜の腹下から、姉のものであろう紫色の尾の端がチロチロと覗いていた。

「リ、リド・・・助けてぇ・・・」
「ね、姉ちゃん!」
やがて押し潰されて苦しげな姉の喘ぎ声が聞こえてくると、僕は素早く水から這い上がって魚を吐き出しながら目の前の大きな雄海竜に飛びかかっていた。
「このぉ!姉ちゃんを離せえっ!」
だがもう少しでそのツルツルとした背中に両手の爪が届きそうになった次の瞬間、それまで地面の上でのたくっていた雄海竜の尾がブンという音とともに振り回される。

バシッ・・・ドガッ
「あぐっ!」
そして避けることもままならずに太い尾の先で力一杯頬を叩かれると、僕は洞窟の壁に背を強か打ちつけていた。
「リ、リドッ!」
「フン、今よいところだというのに・・・邪魔をするな小僧が!」
「う、うぐぐ・・・」
尾撃のせいかはたまた岩壁に体を打ったせいなのか、痛みで体に全く力が入らない。
更に憎たらしいことに雄海竜は余裕たっぷりに僕を見下ろしながら、ズン、ズンと重い腰を姉に叩き付けてその中を滅茶苦茶に掻き回しているのだ。
だが自分ではどうすることもできないまま傲慢な雄に犯されている姉の心配そうな表情を目にすると、僕は沸沸と湧き上がった怒りを胸にゆっくりと体を起こしていた。

「さて・・・そろそろ子供達を迎えに行ってやるとするか・・・新しい住み処のことを考えるのはそれからだな」
夫はそう言うと、明り取りのために空いた洞窟の天窓からすっかりと南中した夏の陽光を見上げていた。
子供達が帰ってくるとはいえ、私もそろそろリドやマリンと別れて暮らす覚悟を決めなければならないのだろう。
未練がましいと思われるかもしれないが、私は初めて子供が欲しいと思った時から数十年もの間、無事に深海での過酷な交尾を耐えることのできるアンクルのような夫をずっと待ち続けてきたのだ。
そしてやっとのことで産まれたあの子達をたった3年という短い時間で手放さなければならないというのだから、心の整理などそう簡単にはつくはずもない。
「では、行ってくるぞ・・・」
頭の中でそんな思いを巡らしていた時、私は今にも住み処を出て行こうしている夫の声で我に返った。

「あ・・・ま、待て、アンクル!」
「うぬ・・・どうかしたのか?」
咄嗟に叫んだ私の声に驚いたのか、夫が勢いよく私の方へと首を振り向ける。
「子供達の迎えには、私に行かせてほしいのだが・・・」
「そなたが迎えに・・・?それは構わぬが・・・洞窟の場所は知っているのか?」
そして少し面食らったかのような顔でそう問い返す夫に、私はほんの少しだけ俯きながら返事を返した。
「ああ、知っている・・・お、お前には内緒だったが、夜にこっそり子供達の様子を見に行ったのでな・・・」
「なんということだ全く・・・これは子供達ではなく、そなたの方をあの洞窟へ置いてくるべきだったかのぉ?」
「う・・・と、とにかく、私が行く!」
ザバンッ!
私は夫の皮肉を撥ね付けるようにそれだけ言い置くと、彼の返事も待たずに勢いよく水中へと飛び込んでいた。

バンッ!ビシッ!バチンッ!
「うわぁっ!」
もう何度目になるかもわからないリドの悲鳴に、あたしは思わず彼から目を背けていた。
先程からあたしを助けようとリドが何度も何度も雄の海竜へと飛び掛っていくのだが、その度に長い尾で打ち払われたり分厚いヒレで叩きのめされたりしてはまた壁際へゴロゴロと転がっていく。
あの温厚なリドがこれまでに見せたことのないような闘争心を剥き出しにして襲い掛かっているというのに、雄海竜はなおもあたしの中をその固くて歪な雄槍で突き上げながら片手間にリドをあしらっているのだ。
「く、くそぉ・・・ね、姉ちゃんに・・・あうぅ・・・」
幾度となく尾撃やヒレ打ちを食らって岩壁や岩床に体を打ちつけられたリドは、流石に体力にも限界が近づいてきているようだった。
それでもあの可愛らしかったリドがギラギラと闘志を燃やした眼で敵を睨み付けながら立ち上がる度に、居た堪れない思いがあたしの胸をギュッと締め付けてくる。

バシッ!
「ぎゃっ!」
やがて俯いた視界の外からリドの短い悲鳴が聞こえてくると、あたしは恐る恐るリドの方へと視線を戻していた。
またしても飛びかかっていったところを大きなヒレで叩き落されたのか、リドがあたしのすぐ隣でぐったりと横たわっている。
「全く、しつこい小僧だ・・・もう2度と俺の邪魔ができないようにしてやる・・・」
雄の海竜は不気味な声でそう呟くと、大きく顎を開けてリドの首筋をガブリと口に咥えていた。
そして彼の喉元に鋭い牙の先端を押し当てると、ゆっくりとその顎を閉じ始める。
ミシッ・・・ミキッ・・・
「う・・・ぁっ・・・は・・・」
「や、やめて!リドに何をする気!?」
押さえつけられたまま動けないあたしの目の前で、喉を締め付けられる苦しさに漏れたリドの喘ぎとともに硬い岩盤をも掘り砕く雄海竜の強靭な牙が小さな雄龍の首筋を覆った鱗に少しずつ食い込んでいった。

ミリッ・・・メキキッ・・・
「あ・・・が・・・ね、ねえ・・・ちゃ・・・」
鱗の軋む不気味な音とともに唾液に濡れ光る鋭い尖塔が徐々にリドの首へと消えていく様に、あたしは狂ったように泣き叫んでいた。
「お願いだからやめてっ!リド、リドォ!」
あたしの声に必死で反応しようとしているのか苦しげな顔で息を漏らすリドの手がバタバタと暴れるものの、雄海竜の顎にがっちりと咥え込まれてしまった今となっては自力で抜け出す術などあろうはずもない。
だが既にもうすっかりと巨体の下敷きにされてしまっていたあたしには、眼前でもがき苦しむ弟を救ってやる方法を思いつくことはついにできなかった。

その上強靭な顎で気管を直接圧迫されているせいなのか、リドの顔から少しずつ血の気が引いていく。
このままでは首を噛み砕かれるよりも先に、窒息死してしまうことだろう。
「ねえ・・・お願い・・・あたしは何でもするから・・・弟を放して・・・」
「う・・・ふ・・・ぁ・・・」
ポロポロと涙を零しながらそう懇願するあたしの様子に、リドがまた小さな声を上げる。
だが雄海竜はあろうことかリドの首をさらにきつく噛み締めると、そのままブンブンと彼の体を力任せに大きく振り回し始めた。
固い鱗が密集しているお陰で肉が食い千切れるというようなことはなかったものの、ただでさえ朦朧としていたリドの意識がその追い打ちで更に薄く霞みがかっていく。

ドサッ・・・
やがて目を覆いたくなるような雄海竜の粛清が終わると、すっかり気を失って弛緩したリドの体が鈍い音を立てて岩床の上へと放り投げられていた。
「ああ・・・リド・・・」
見た所首の辺りの鱗に牙が食い込んでできたのであろう小さな穴が空いていたものの血は出ておらず、他には特に大きな怪我もしていないらしい。
だが散々に痛めつけられてぐったりと横たわった弟の痛ましい姿は、あたしから最後の抵抗の気力を殺ぎ落とすのに十分すぎるものだった。
もしこれ以上あたしがこの野蛮な雄に逆らったりすれば、彼は見せしめにリドを殺してしまうつもりなのだろう。
そのために、今は敢えてリドを気絶させるだけに留めたのに違いない。

「これでわかっただろう・・・?あの小僧の命が惜しいのなら、お前ももう俺に逆らおうなどとは思わんことだ」
そんな勝ち誇ったかのような雄海竜の言葉が胸に突き刺さり、やり場のない怒りと悔しさが込み上げてくる。
だが無残な姿で地面に転がっているリドの姿が視界に入る度、あたしは涙を浮かべた目でキッと眼前の雄を睨みつけることしかできなかった。
「さて・・・ようやく邪魔者は消えたわけだ・・・フフ・・・お前の怒った顔も、なかなかに可愛いぞ・・・」
その言葉にあたしはギュッと目を閉じながら顔を俯かせると、胸の内で煮え滾る怒りを必死で堪えながら雄海竜の暴挙に身を任せるべく体の力を抜いていた。
ああ・・・パパ・・・ママ・・・
静かに心の中で両親を呼んでみたものの、パパもママも助けになど来てくれるはずがない。
そんな諦観に沈んだあたしの様子に満足したのか、雄海竜が強引な交尾の続きを再開するべくゆっくりと腰を浮かせ始める。
ザバ・・・
やがて激しい雄の抽送が開始されるのとほぼ同時に、不思議な水音があたしの耳へと届いていた。

「こ、これは・・・」
暗闇の中を縫って聞こえてきた聞き覚えのある声・・・
ゆっくりと目を開けてみると声に気付いて背後を振り返ったのであろう雄海竜の横顔が目に入り、確かに誰かがこの洞窟の中に入ってきたことを裏付けている。
雄海竜に視界を遮られて声の主を見ることはできなかったものの、あたしはその声がママのものであることをすぐに悟っていた。
「き、貴様・・・私の子供達に一体何をしたのだ!」
これまでに聞いたことのない凄まじい怒気を含んだママの声が、洞窟中に甲高く反響していく。
そのあまりの迫力にあたしまでが一瞬ビクッと身を強張らせてしまったものの、新たな侵入者の姿を目にした雄海竜の反応はもっと激しいものだった。

「なっ・・・お、お前はあの時の・・・」
かつて俺の作った住み処にいたにもかかわらず、求愛を迫った俺を酷い目に遭わせて追い出した雌の海竜・・・
そんな怒れる美竜が、洞窟の水辺から恐ろしい形相で俺を睨み付けていた。
私の子供達だって・・・?
そうだ・・・道理でこの若い娘に見覚えがあるはずだ。
深みのある青紫の体色、背に並ぶ甲羅状の透き通った文様・・・
体の大きさなどは比べるベくもないが、姿形は母娘でそっくりではないか。
だがかつての屈辱的で忌まわしい追憶に耽る間もなく、彼女は素早く水から這い上がったかと思うとバッという音とともに一瞬にして背後から俺に飛び掛かってきていた。
あの小柄な小僧とは違って尻尾で叩き落とすことなどできるはずもなく、我が子を傷つけられて激昂した母親が隙を突かれて動きを止めていた俺の首筋へと思い切り牙を突き立てる。

ガブッ
「う、うがぁ・・・!」
やがて雄に比べれば大分小さいとはいえ十分に鋭い彼女の牙が柔らかな首周りの皮膚を断ち割りながら俺の喉元へ深々と食い込むと、その傷口から真っ赤な血が噴き出していた。
更には俺より一回りも大きくて長いその蛇体をグルンと俺の体に巻き付けながら、彼女がゴロンと転がるようにして腹下に組み敷いていた愛娘から俺を無理矢理に引き剥がす。
そして岩床の上に俺をうつ伏せに組敷いたかと思うと、彼女は俺の首筋を力一杯に噛み締めていた。
ギ・・・ギリッ・・・ギリ・・・リ・・・
「かはっ・・・あっ・・・あぅ・・・」
牙が小さいお陰で命に関わるような傷はつかないだろうが、激しい怒りと憎悪のこもった彼女の制裁に少しずつ意識が遠のいていく。
苦しげに声を漏らす度にこれでもか、これでもかと喉を噛み締められては体もギリギリと締め上げられて、俺は涙と涎を流しながら悶え狂っていた。


「マ、ママ・・・?」
赤い髪を振り乱しながら燃えるような怒りを宿した眼で雄海竜を責め詰るママの姿に恐れを成して、あたしはズルズルとその場から後退さると壁際に横たわっていたリドの様子をそっと窺った。
実際のところママがあれだけ激しく怒りを露わにしているのは、犯されようとしていたあたしよりも寧ろ、この無残に痛めつけられたリドの姿を見てしまったからなのだろう。
「リド・・・大丈夫・・・?」
胸ビレの先でリドの頬を優しく擦りながら、あたしは自分のために身を呈してくれた弟の身を一心に案じていた。
やがて粘膜にぬめるあたしのヒレの感触に意識を取り戻したのか、リドが薄っすらと目を開ける。
「ね、姉ちゃん・・・あ、あいつは・・・?」
「う、うああああああっ!」
そしてあたしの無事を不思議に思ったリドがその問を口にした直後、雄海竜の悲痛な叫び声が洞窟中に響き渡っていた。

驚いた姉とともに声のした方へ視線を向けると、そこにあったのは橙と青と白に塗り分けられたカラフルな塊。
ママに巻き付かれて一切の抵抗を封じられた雄海竜が、何時の間にか仰向けに岩床の上へと組敷かれている。
そして僕の姉を強引に犯そうとしたあの憎き雄海竜の肉棒が、今度はママの中へと突き入れられ・・・
いや、一方的に呑み込まれようとしていた。
ママの腹部を覆う真っ白に透き通った皮膜が燃えるように真っ赤な淫唇をパックリと開き、固くしこった雄槍の先端を嬲るように咀嚼している。
クチュ・・・ジュルッ・・・
「ひっひぃぃ・・・」
過去にもママに何か恐ろしい目に遭わされたことがあるのか、雄海竜は肉棒の先端から流し込まれてくるはずの快感にも悲鳴を漏らしながら必死に身を捩っていた。
そんな情けない雄を睨み付けるママの顔には更に激しい憤怒の表情が浮かび上がっていて、端でその光景を見ているだけの僕と姉の体をも冷たく凍り付かせていく。
薄っすらと歪んだ口元や瞳の存在もわからぬ程に鋭く細められたその恐ろしげな眼差しは、とてもあの子供思いで優しいママのものだとは思えなかった。

「ま、待て!やめ・・・むぐっ・・・むぅ、むぅ~!」
必死で助けを求める声を上げようとしたその瞬間、彼女が俺の口を上から閉じるようにきつく咥え込んでくる。
そして俺が低い唸り声しか上げられなくなったのを見計らって、先端を甘噛みされていた肉棒が一気に彼女の中へと吸い込まれていった。
グブッジュブボボッ!
「ぶぐっ!うむぐ~~!」
10年近く前にも1度味わった、絶望的な奈落を思わせる熱い蜜壷。
あの時は彼女の責めのあまりの気持ちよさに思わず気を失ってしまったものだが、今度はそんな甘い結末でなど済まされようはずがない。

ギッ・・・ギリッ・・・ギュゥゥ・・・
やがて根元まで呑み込まれていた俺の肉棒が、少しずつ少しずつ迫り来る肉壁に締め付けられ始める。
ゆっくりと獲物の首を刈り取る柔肉の断頭台に、捕らわれた獲物が成す術もなく捧げられようとしていた。
「ぐ・・・う・・・うぅ・・・」
最大の弱点である肉棒を一方的に弄ばれる・・・それは雄にとって耐え難い恥辱と恐怖であると同時に、小さな牙しか持たぬ雌海竜が雄に対して行使できる唯一にして最大の制裁。
逃げることも、もがくことも、そして声を上げることすらも許されず、俺は徐々に圧迫されていく肉棒の行く末を案じてゴクリと息を呑んだ。

グシャッ!ミシャッ!
「・・・っ!!」
息の詰まるような静寂の後に突如として洞窟内へ響き渡った、数度の凄まじい圧搾音。
その音とともに雄の体がビクッと大きく跳ね上がり、僕は彼が何をされたのかを悟って思わず身を竦めていた。
絡み合った2匹の間からは一瞬にして搾り出されたのであろう精と愛液の混ざり合った粘液が溢れ出し、力無く地面の上に投げ出された雄海竜のヒレがヒクヒクと小刻みな痙攣を繰り返している。
やがてママが雄に噛み付いていた口をそっと離すと、あまりに度を越えた快楽と苦痛に精根尽き果てたのか、彼はまだ意識はあったもののぐったりと地面の上に崩れ落ちたまま動かなくなってしまっていた。

ズッ・・・グボッ・・・
やがてママは力尽きた雄海竜の肉棒をゆっくりと膣から引き抜くと、涙とお互いの唾液でグシャグシャになった彼の顔を間近からじっと覗き込んでいた。
多少は怒りが収まったのか先程までの恐ろしい形相は既にどこかへ鳴りを潜めてはいたものの、見ようによっては制圧した獲物にどうやってとどめを刺そうかと思案する残酷な捕食者のようにも見えてしまう。
ぺしゃんこに押し潰された肉棒をフニャリと垂らしながら焦点の定まらぬ目で虚空を見上げている様子を見ても、彼がママに筆舌に尽くし難い程の強烈なお仕置きを受けたらしいことは明らかだった。

「か・・・あぅ・・・ぁ・・・」
やがて私の耳へと届いてきた、今にも消え入りそうなか細い喘ぎ声。
彼の大きな体が終始ブルブルと小刻みに震え続けているのは、私に対するせめてもの命乞いなのだろう。
もちろん、私には同族である彼を殺すつもりなど毛頭ない。
だがよりによって私の子供達に酷い仕打ちをしたのだから、もう2度と彼らには近づかぬようにするべきだろう。
私は彼の目から視線を外さずに少しだけ体をずらすと、片側の胸ビレを高々と持ち上げていた。
そしてその分厚い肉の凶器を、すっかり萎れてしまっていた彼の肉棒に向かって思い切り振り下ろす。
バンッ!
「あぎゃあっ!」
「さっさとここから失せるのだ・・・今度私の子供達に手を出したら、こんなものでは済まさぬからな!」
それを聞くと彼は肉棒を叩き潰された苦痛にしばらくの間ゴロゴロと岩床の上でのたうち回っていたものの、やがてドボンと水の中に転げ落ちたかと思うとそのまま這う這うの体で洞窟から逃げ出していった。

「大丈夫か、リド・・・?」
同じ雄としては目を覆いたくなるような凄惨な復讐劇が終わりを迎えると、ママが元の優しげな表情を取り戻して僕に声をかけてくる。
だが初めて烈火の如く怒り狂ったママの知られざる一面を目の当たりにして、僕は小さく身を縮込めながら小声で返事をするのがやっとだった。
「う、うん・・・多分・・・大丈夫・・・」
「あ、あたしも平気よ・・・」
姉の方もやはりどこか怯えているのか、心なしか声が震えている気がする。
まあ、あんなものを見せられたらきっとパパだって怖じ気づいてしまうに違いないだろう。
だがそんな僕達の様子にも気が付くことなく、ママがいつもの調子で先を続ける。
「そうか・・・では、一緒に住み処に帰るぞ」
「え?住み処って・・・ママが僕達を迎えに来たの?」

その問に小さく頷いたママの様子を見て、てっきりパパが迎えに来るものだと思っていた僕達は思わずフッと気が抜けてしまっていた。
そうか・・・確かに少し心細かったけど、こんなに自由で楽しかった生活とももうお別れなんだな・・・
その思いは姉も同じだったらしく、ようやく待ち望んでいたはずの迎えが来たのにもかかわらず彼女の表情は手放しでは喜べぬ複雑な感情にほんの少しだけ曇っていた。
「・・・どうかしたのか?」
「う、うん・・・」
「あのね・・・」
怪訝そうに投げかけられたママの言葉に、僕と姉がほぼ同時に声を上げる。
そして意志の疎通を確認するかのように一瞬だけお互いに顔を見合わせると、僕は姉とともにここに残る決意をママに伝えていた。

ザバッ・・・
「む・・・帰って来たか・・・」
住み処の中で蹲ったまま妻が突然子供達を迎えに行く役を買って出た理由を考えていたワシの耳に、やがて大きな水音が聞こえてくる。
だが音がした方へと視線を向けてみると、そこにはどこか寂しげな表情を浮かべた妻だけがポツンと佇んでいた。
「ナギ・・・子供達はどうしたのだ?」
「あの子達は、このままあの洞窟で一緒に暮らしていくそうだ・・・」
俯いたままワシと視線を合わせようともせずに、妻が落ち込んだ声で先を続ける。
「リドも・・・マリンも・・・もう私達の手を借りなくとも自分達だけで生きていけると言ったのだぞ・・・」
それは、本来喜ばしいことであるはずだった。
まあ、親離れの訓練のつもりで彼らを他の洞窟に住まわせたことがそのまま彼らの巣立ちに繋がったのは、流石のワシにも多少予想外のことではあったのだが・・・

だが子供達から直接的に決別を言い渡された妻にしてみれば、それは相当にショックな出来事だったことだろう。
微かに悲壮感さえ漂わせる妻の様子に圧倒されて、ワシは軽軽しい言葉をかける気にもなれずに口を噤んでいた。
「アンクル・・・私は、これから一体どうすればよいのだ?」
「何故そんなことをワシに訊くのだ?」
「私がこれまで生きてきた1番の目的は、子供を無事に産み育てることだった・・・それなのに彼らはもう・・・」
いつになくめそめそとか弱そうな態度を見せる彼女の様子に、何だかとても酷いことをしてしまったかのような罪悪感も似た感情が湧き上がってきてしまう。
子供達を巣立たせることを考えるあまり、ワシは妻の気持ちを蔑ろにしてしまったのではないのだろうか・・・

いや・・・そんなことはない。
ワシはほんの少しだけ折れかけた自分の心に喝を入れると、妻を奮い立たせるべく慎重に声をかけてやった。
「ナギ・・・いつも自信に満ちているそなたが、何故子供達のこととなるとそうも弱々しくなってしまうのだ?」
「そ、それは・・・」
言葉では上手く説明できないのか、ワシの問にナギが思わず黙り込んでしまう。
だが彼女の口から答えを聞くまでもなく、ワシにはもうその理由がわかっていた。
妻は、子供達がいる生活に・・・リドやマリンとともに暮らす生活に慣れ過ぎてしまったのだ。
今までは子供達がやがて帰ってくることを心の支えに何とか耐えていたのだろうが、その芽も潰えてしまった今、ずっと押し隠そうとしていた感情の奔流が彼女自身にも堰き止められなくなりつつあるのだろう。

「なあナギ・・・どうしても子供が欲しいというのなら、また新たな命を育めばよいのではないか?」
ワシがそう言うと、妻はまるで突拍子もない提案を聞かされたかのように驚いた顔でワシを見上げていた。
「し、しかし・・・それではまたお前を危険な目に・・・」
「なぁに、あの美しい深海の景色に囲まれてそなたと交われるのなら、ワシは何度でもそなたに付き合おうぞ」
それを聞いた途端、ずっと俯いていた妻が突然ガバッという音とともにワシに向かって勢いよく飛び掛ってきた。
そしてワシの体を強引に地面の上へと押し倒しながら、甲殻に覆われた胸板にその暖かい頬を擦り付けてくる。
「おのれ・・・お前などに・・・お前などに一体私の何が分かるというのだ・・・」
泣いているのを誤魔化すかのようにワシの体を胸ビレでパタパタと叩きながら、妻が嗚咽にも似た声を漏らす。
「分かるとも・・・ワシらはもう3年以上も連れ添った仲だろう?何時までもいらぬ心配に胸を痛めることはない」
「う・・・ううぅ・・・」

もう子供達の声が響くこともない、しんと静まり返った満月の夜・・・
1匹の雄龍と雌海竜が、いつものように住み処の中で甘い一時に身を委ねていた。
螺旋状に絡み合った尾の先は互いの様子を窺い合うかのように触れたり離れたりを繰り返し、紫翠の束がゴロゴロと転がる度にいつもは一方的だった雌雄の体位が入れ替わる。
遠く離れた別の海中洞窟の中でも、今正に彼らの子供達が同じように身を寄せ合っていることだろう。
「ナギよ・・・また、リドやマリンのような元気な子供達が産まれるとよいのぉ・・・」
「ああ・・・丈夫な子が産まれるように、今度も遠慮なく搾り尽くしてやるからな・・・覚悟するがいい・・・」
「グフフフ・・・しかと心得た」
お互いを艶かしく睨み合うようにして交わした睦言も、やがて辺りに張り詰めた静寂の中へと溶け込んでいく。
近く訪れるであろう暗く美しい深海底での一時を想起しながら、彼らは早くも新たな生命の誕生へと幸福に染まった意識を傾け始めていた。



感想

  • UP TO YOUが頭から離れないよ~ -- Nakachik/UP (2007-10-15 10:19:15)
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