ドラゴンステーキ

    

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もうそろそろ、この商売にも飽きてきた。
初めはスリルと興奮のある職業だと思っていたが、今では事が思い通りに運びすぎる程つまらない事はないって痛感している。
俺の仕事っていうのはそう、ドラゴンの捕獲だ。毎日毎日、依頼がある度に俺は巨大なドラゴンの巣の中に忍び込む。そして予め大量の眠り薬を仕込んだ餌を置いておき、巣に戻ってきたドラゴンに盛って眠らせる。後は急いで依頼者に知らせて一軒落着というわけだ。
まあ、全くスリルがないと言えば嘘になる。
でもそれは凶悪なドラゴンと殺るか殺られるかっていうような殺伐としたスリルなんかじゃなくて、予定通り餌を食ってくれるかどうかってことだ。
人間なんかより何倍も頭の良いドラゴン様のことだ。こんな今時ガキでも引っかからないような単純な罠に、俺はまさかドラゴンが引っかかるはずはないと思ってた。
古参の捕獲者に初めてドラゴンの捕獲方法を聞いた時は呆れ返ったくらいだ。
もっとも、初めての捕獲で予定通りドラゴンが目の前で眠っちまったときにはそれ以上に呆れたもんだが。

そんなわけで、俺は今日もドラゴンの捕獲のために広い草原にやってきた。
何度捕まえても、1週間もすればどこからやってくるのかまた新しいドラゴンが棲んでいる。
この草原で罠を仕掛けるのも、もう数え切れないくらいになっていた。
大きな木の陰に隠れながら、空を飛ぶドラゴンの姿を探す。じっくり時間をかけて辺りを調べるが、真新しいドラゴンの糞がある以外には、特に変わった様子はなかった。
「よし・・・近くにはいないな。餌を仕掛けるなら今のうちか」
背負っていた荷物から大きな牛の肉の塊を取り出すと、それに白い粉末状の眠り薬を振りかける。
そして、ドラゴンが捕らえた獲物をそうするように丸焼きにするのだ。
牛の肉はいつも依頼者から報酬の1つとしてもらっているので原価はほとんどかからない。
忙しさと危険さ(実際はほとんど危険なんてないのだけど)のお陰で稼ぎはいい仕事なんだけどな・・・。

「ん?なんだありゃ?」
こんがり焼き終えた肉を草原の目立つ所へ仕掛けに行こうとすると、草原の真ん中に巨大な肉塊が転がっているのが目に入った。
近寄って見てみると、大人の人間ほどもある大きなドラゴンの肉が、まさに今俺が仕掛けようとしていた肉のように程よくこんがりと焼かれて放置されていた。手で触ってみると、まだほんのりと温かい。
「何で焼かれたドラゴンの肉がこんな所に・・・」
その時、俺はふとドラゴンの肉が世界でも稀少な珍味として扱われていることを思い出した。
ドラゴンの捕獲を依頼してくる人のほとんどは、まさにドラゴンの肉を食いたいがために俺に高額な報酬を払っているのだ。だが、数え切れないほどドラゴンを捕獲してきた俺も、実際にドラゴンの肉を食べてみた事はなかった。
俺にとってはドラゴンの肉など珍しくもなんともなかったからというのがその理由なのだが。
「ちょっと食ってみるか・・・」
俺は香ばしく焼けた肉の一部をちぎり取ると、口の中に放り込んだ。
普段食べている肉とは全く違う、不思議な旨みが口いっぱいに広がる。
「うお、こ、こいつはうめぇ!」
初めて味わう珠玉の美味に、俺はその場に座り込んでドラゴンの肉を貪り始めた。
両手で乱暴に肉を掴み取り、次々と頬張る。いくら食べても全く飽きが来ない。
「こりゃあ、自分で食うためにドラゴンをとっ捕まえるのもいいかもなぁ・・・」
美食の幸せに酔いしれながら、俺はいっぱいになった腹を抱えて後ろに寝転んだ。
そして、いつのまにか俺の背後に佇んでいた赤い色の巨大なドラゴンが、
罠にかかった愚かな人間を眺めながらニヤリと薄ら笑いを浮かべたのが見えた。

「あ・・・」
その瞬間、俺は頭の中が真っ白になった。
自分自身のあまりの間抜けさ加減に、恐怖や絶望よりも先に笑いがこみ上げてくる。
立場が逆だろ?なんで俺がドラゴンに捕まってるんだ?俺が捕まえるはず・・・
パクッ

フラフラと揺れる思考の途中で、俺はドラゴンの巨大な口に咥えられた。
噛み砕くでもなく、優しく大きな舌を這わせながら咥え上げた俺の体を口の中に導いていく。
周囲がむっと蒸し暑くなったかと思うと、俺は湿った真っ暗闇に放り込まれた。
ああ・・・食われた・・・じわじわ溶かされて死んでいくのかな・・・俺・・・
一向に飲み込まれる気配もなく分厚い舌の上でころころと転がされながら、俺はドラゴンが翼を広げて羽ばたいたのを感じていた。
バサッ、バサッという風を叩く音が低く響く中、温かいドラゴンの唾液に塗れながらウネウネと蠢く舌になす術もなく弄ばれる。
「あう・・・助けて・・・」
ザリザリとした舌に体を舐め上げられる度に、快感にも似た不思議な感覚が全身に駆け巡る。
なかなかとどめをさされないことが、逆に俺の不安を増大させていった。

しばらくして、ドラゴンが大きな音とともにどこかへ着地した。
口の中にもその強烈な衝撃が伝わり、柔らかい舌の上で体が跳ね上がる。
ペッ
突然、俺は干草の山のようなものの上にドサッと吐き出された。
た、助かった・・・のか?
辺りを見回すと、ここはどうやら山の中にあるドラゴンの巣のようだ。
状況が飲み込めずにドラゴンの様子をうかがっていると、ドラゴンは草原に放置されていたのと同じような焼いたドラゴンの肉を俺に差し出した。俺に食えということか・・・?
問い掛けるようにドラゴンの顔を見つめ返すと、ドラゴンが頷いた。
なんだかよくわからないが、命が助かった上にこんな美味いものをもっと食えというんだから従う他ないだろう。
これ以上入らないというほどドラゴンの肉を食べ上げると、俺は干草の山の上に寝転がった。
食べ過ぎのせいで腹がぷっくりと膨れている。
そんな俺の様子を確認すると、ドラゴンは再び翼を広げてどこかへ飛んで行ってしまった。
「一体なんだったんだ・・・?」
てっきりドラゴンに食い殺されるかと思えば食事を勧められ、それを食べたら今度は放置ときた。
「まあいいや・・・どうせここからは逃げられそうにないし、なるようになるか」
俺は温かい干草を体にかけると、そのまま眠りについた。
次の日目を覚ますと、ドラゴンはどこから捕まえてきたのか小さなドラゴンを鋭い鉤爪に突き刺し、炎を吐きかけて焼いていた。珍しい光景にじっと見とれていると、ドラゴンはこんがり焼き上げたその小さなドラゴンを再び俺に勧めた。
促されるままにそれを頬張る。丸一日かけてドラゴンを一匹食べ終わると、満腹に腹を膨らませた俺は干草の上で眠り、ドラゴンは新たな獲物を探しに飛び立った。

1ヶ月ほどそんな生活が続くと、俺は連日の食べ過ぎででっぷりと体が太ってしまい、体重が数十キロ単位で増えてしまっていた。
ある日目を覚ますと、ドラゴンがまじまじと俺の顔を覗き込んでいる。
「ん・・・今日は飯はないのか?」
すっかり堕落した生活に慣れてしまい、俺はいつものように無言のドラゴンに問い掛けた。
すると、ドラゴンが大きく口を開けて俺の体をパクッと咥えた。
「わっ!」
そのまま首を上に振るようにして、ポイッと口の中に放り込まれる。
ぷっくりと太った腹を舌の先でスリスリっと撫で上げられた瞬間、俺はドラゴンの目的をようやく悟った。いや、悟ってしまったというべきか。
このドラゴンは、俺を太らせてからじっくり味わうためにこの1ヶ月の間俺に肉を食べさせ続けたのだ。
そして、もう十分に太ったということなのだろう・・・ドラゴンは躊躇うことなく、筋肉質な舌で俺の体を喉の奥にひょいっと放り投げた。
気の長いドラゴンの策略に見事に嵌ってしまった自分を、俺は長く暗い食道を滑り落ちながら笑っていた。



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